●リプレイ本文
●それぞれの『狩り』
「やんごとなきお嬢ちゃんのお遊び・・‥ね。ま、折角の機会だ‥‥存分に狩りをさせてもらうか」
ゼラス(
ga2924)はマフラーをなびかせ、にやりと笑いながら、山道を歩いている。
京都の僻地に依頼主の屋敷があり、近くに高速艇が降りられないとのことで徒歩だった。
「 ♪この世で狩りに優る楽しみなど無い♪ ってことで狩りだね。野生の血が騒ぐよ〜」
山道をピクニックのように楽しそうにしているのはビーストマンのMAKOTO(
ga4693)だ。
歩くたびにぶるんぶるんと揺れるJカップが実に悩ましい。
「この自然多き国を守るためにも、狩れるだけからないといけないわね」
(「そう、自然の法則を本来の姿に戻す為に、私は戦い続ける・・‥そのために強くならなくてはならない」)
ロッテ・ヴァステル(
ga0066)は少し変わった思いでこの依頼に出向いていた。
「とはいっても時間はニ時間。そして、獲物の形は残して献上しなくてはならない・・・・厄介な依頼ではある」
珍しく拳銃を携えたホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は咥えタバコのまま歩いていく。
(「だが、そういう条件付きだからこそ、腕試しにもなる。大切なものを守るために、自分がどこまでできるか見極める」)
それぞれがそれぞれの思いを持って山を登り、武家屋敷が見えるところまでたどり着く。
狩りの時間はすぐそこまで来ていた。
●磨理那様による、傭兵のための鷹狩り講座
「皆様、よくぞこのようなところまで・・・・ささ、磨理那様がお待ちであられます」
門をくぐると、翁が案内をしてくれる。
「武家様かぁ‥‥。ウチの貧乏道場何個分だろ‥‥」
伊佐美 希明(
ga0214)は自らが開いている道場の広さのイメージと、広がる綺麗な庭。
木の香りの漂う廊下を見比べてため息をついた。
途中まで数えていたが、悲しくなったのでやめたともいう。
「こちらの部屋でございます」
逡巡している伊佐美など気にせず、翁が一つの襖を開けた。
そこに広がっていたのは書院造の床の間。
その上座に小さな少女がきらびやかな和装で座っている。
「遅かったの、苦しゅうない。こちらまで来るのじゃ」
扇子でおいでおいでをする姿は小さいながららも優美さを漂わせていた。
「えー、私はファイターを生業としております、蓮沼千影と申します。期待に応えられますよう、精一杯頑張らせていただきます」
蓮沼千影(
ga4090)は少女に近づき、一礼と共に名刺を差し出した。
「うむ、妾は平良(たいら) 磨理那じゃ。下がってよいぞ」
名刺を受け取ると磨理那は微笑む。
「磨理那様とお呼びすればよろしいのですね? 私は鏑木 硯と申します」
うやうやしく礼をしつつも、鏑木 硯(
ga0280)は少女の態度に疑問をもつ。
(「上に立つものになる存在が遊びで傭兵を借り出してもいいものなのでしょうか・・・・」)
「早速ですが、磨理那様。このたびの依頼の話をお聞かせねがえませんか? 異国のものですので、鷹狩りというものがわからないのです」
リディス(
ga0022)は丁寧な言動と薄い笑みを浮かべて磨理那に尋ねた。
「うむ、その呼び方でよいぞ。鷹狩は鷹に指示をあたえ、獲物をとってこさせる。その鷹の教育もするのも一つの鍛錬なのじゃ」
扇子で口元を隠しながら磨理那は語りだした。
「そちら傭兵は戦闘に関しては無作法と聞いておる。このたびの狩りでは獲物は妾に謙譲しつつ戦うのじゃぞ。無残に砕くなど言語道断じゃ」
「しかし、それではキメラの死体がたまってしまわれるのでは? それに生き返る可能性もございます」
リディスは丁寧に聞き出す。
「じいがうるさいので、狩りが終わったあとばらしてもらうのじゃ。あと、妾もそちらの戦いぶりを観察させてもらうぞよ」
最後はとても楽しそうに磨理那は微笑んだ。
「かしこまりました。しかし、私は磨理那様の護衛につきたく思います。これでも弓の道場を開く身。磨理那様のお近くで披露したく思います」
伊佐美が普段使いなれない言葉をつむぎつつ、磨理那に進言をした。
「ほほぅ、それは楽しみじゃ。許可をいたすぞ、では準備が整っておるのならば狩りに参ろうか」
磨理那は立ち上がり、扇子を閉じてパシンと鳴らすのだった。
●いざ、山へ怪(かい)狩りへ
「ここで妾は待つ。道は3本、右は小型のものがいるそうじゃ。真ん中は『はーぴー』なるものが多くいるところにつながっておる。左は猛獣がいると聞いておる」
屋敷の裏山の上、開けた場所へと一同はやってきた。磨理那は馬の上から扇子で道をさして、説明をする。
「どこへ行くかは私達に任せていただけるの?」
説明をじっと聞いていたロッテが磨理那を見上げながら尋ねた。
「その通りじゃ。今回はそちらのやり方を見ておきたいのじゃ。今後の教育方針のためにもの? 時間は妾が伊佐美に1時間ごとで鏑矢を放たせる。それを基準にするのじゃぞ」
ほほほと扇子を広げて口元を隠して磨理那は笑った。
衣装も外出用の動きやすい和装になっている。
「‥‥期待に応えられるよう、頑張るわね」
磨理那の頭をロッテは背伸びをしてそっと撫でると猛獣のいるところへ駆け出した。
ロッテの髪の色と瞳の色が入れ替わっていく。
「私も鷹ならぬ虎の身ですが、お嬢様の期待にこたえてみせましょう!」
MAKOTOは気合を入れて覚醒をする。
まずは虎の耳と尻尾が生え、さらには全身の肌が黄色に変色したかと思うと獣毛に覆われていった。
顔までも虎のものとなり、獣ならでは咆哮をMAKOTOは上げた。
「おぉ、そなたは珍しいのぅ。覚醒というものはそのようなものもあるのかや」
「獣の血を引いているものが故です。狩りに血が滾るのも本能でしょう!」
虎となったMAKOTOは哺乳類のいる道へ駆け出した。
「皆、やる気十分だ‥‥」
次々と己の信じる道へと進む姿をみて、伊佐美は苦笑する。
「伊佐美、時間をみて鏑矢を上空に向けて放つのじゃぞ」
そんな伊佐美に磨理那は鏑矢を2本渡す。
「畏まりました」
伊佐美は普段触らない鏑矢をみて心を躍らせる。
「さて、俺もいくか・・・・まだ出かけるやつのいないハーピーの森から攻めるぜ」
千影はカーキ色のコートをまとい、二本の剣を構えた。
「一人で5体を越えたら褒美をやるのじゃ、期待しておるぞ」
「ノルマを課せられてはやるしかないですね。それが『企業戦士』というものですから」
千影は磨理那に一礼したあと駆け出していった。
●虎にまたたび?
「これで引き寄せられてくれればいんだがな」
ホアキンはもってきたマタタビをたいて、引っかかるのをまつ。
「お前も大物狙いか」
そのホアキンの背後から声が聞こえる。
ホアキンが驚いて振り向くと、そこにはゼラスが赤い髪とマフラーをなびかせていた。
「『も』というのはあなた自身も含まれているということか・・・・」
「そういうことだ、ここは一つ致命打を与えたやつがとるって方向でどうだ?」
ゼラスの顔に浮かぶのは余裕でも、挑発でもない。
純粋な楽しさの追求。
『踊り狂う死神』にふさわしい笑みだった。
「その勝負、乗ろう。横取りはいけないが賭けた上での勝負ならお嬢様も文句はあるまい」
また一つできた障害に対してホアキンも挑戦の意味を込めて了承をする。
そのときだ、草むらの奥から匂いに引きつられてきた虎キメラが姿を表した。
マタタビにじゃれ付くように動くが、体長は2m近い。
可愛らしい中にも凶悪さが見え隠れしていた。
「先にいくぜっ!」
覚醒をして、時間を気にするゼラスが先に動いた。
タンッと地を蹴り、獲物に迫る。
ゼラスのファングが虎を狙う。
虎にファングの一撃が叩き込まれた。
「どうだ!」
その一撃は重く、虎から血があふれ出す。
それはすなわち覚醒を意味した。
「ガァァルゥッ!」
虎キメラが咆哮をあげてゼラスに襲い掛かった。
鋭い爪がゼラスの胴を切り裂く。
「ちっ、こんだけ固めておいて貫通するかよ!」
ケブラージャケットによって大きなダメージは防ぐも、奥までケブラー繊維が切り裂かれているのがみえた。
「こんどは俺がトレオを躍らせてもらおう!」
ホアキンが前にでて、突きを放つが、暴れる猛獣に当てることができない。
「ちっ、今年は大凶だ‥‥」
「じゃあ、俺がもらうぜ!」
ゼラスが動き虎キメラの頭部へファングの手甲部を思い切り叩き込んだ。
虎キメラは気絶するかのようにその場に倒れる。
「じゃあ、賭けは俺の勝ちだな」
「仕方ない、他の獲物を探してこよう」
にやりと笑うゼラスに対してホアキンはため息を返しながらも次の獲物を探しに出かけた。
●森が燃える‥‥
「確か、翁さんがいっていたのはこの辺だったような」
鏑木は先に翁から情報を聞き、凶悪なものを狙っていた。
普段の大和撫子の格好とは違い、ポニーテールな分、彼の男らしい部分が浮かんでいる。
森の奥へ進むと、3mはあろうかという赤い獅子が闊歩しているのが見えた。
「あれだ!」
あえて物音をたて、獅子の注意をひかせる。
獅子は鏑木を細くすると風のように走りだした。
「藪に追い込めば楽になる‥‥」
鏑木は自分の策が進んでいることに内心浮かれ出す。
しかし、その油断が予想外の展開を生み出した。
『ガァボォッ!』
獅子のたてがみが震えたかと思うと、獅子は火炎弾をはき藪を焼き払った。
火の輪をくぐるかのように藪を突き破り、獅子は鏑木に体当たりを仕掛けた。
普段なら避けられる攻撃を、『油断』という心の隙が邪魔をする。
ミシリと嫌な音と共に鏑木は吹き飛ばされた。
ドスンと背中を木に打ちつけ、頭を揺さぶる。
そのため、藪についた炎が力をつけ広がっていくことに鏑木は気づけなかった。
●怪鳥(けちょう)と共に見る。
「厄介だ‥‥獲物のほうに見つけられるとはな」
リディスは舌を打った。
森の中での戦いのため、煙草も吸えずに苛立っていたためか、大物を見つける前にハーピーに見つかってしまった。
上空からの急襲を見計らってカウンターを撃つも中々倒れない。
やっと倒したところで、ロッテと出会った。
「リディス、手を貸して頂戴! 森が燃えているの」
「何? 私に火気厳禁といっておきながら火をつけたのがいるのか?」
「詳細はわからないわ、でも早く駆けつけなければ手遅れになる‥‥」
ロッテが見上げた空をリディスも見る。
黒い煙が上がっていた。
不幸なことに森の奥であり、倒した獲物を磨理那に届けている時間はない。
「この借りは上等な酒と煙草でかえしてもらうぞ」
黒髪の美女は煙のほうへかけていく蒼髪の戦乙女の後ろに言葉を投げかけ、ついていく。
丁度そのとき、一回目の鏑矢の音が辺りに鳴り響いた。
●狩りの終焉
「楽勝、楽勝だね」
MAKOTOが磨理那のいるところに鼠キメラを3匹口に咥えてもっていくも、そこには二人の姿はない。
「磨理那様ノルマを‥‥っていないし」
千影も鼠キメラ3匹とハーピー2匹をもって戻ってきていた。
ファイターらしい、体力を見せ付ける。
「おい、どうやら山火事のようだ」
ゼラスも戻ってきて、大きな虎キメラを転がしながら、黒くあがる煙をみる。
「いそがないと、大きな被害になるよ!」
『あー、みんな。山火事でヤバイ状況だ。私は磨理那様と下の方で消防隊に連絡している。原因はキメラかもしれないから急行よろしく!』
MAKOTOが騒いでいるところに伊佐美から通信が入る。
「了解、今度は火元を狩ってくるさ。獲物はおいておくから後で姫さんに確認してもらってくれ」
ゼラスはソレに返事を返した。
『了解ー』
伊佐美との通信はそこで切れる。
「それじゃあ、火消しといきますか」
千影も、MAKOTOも荷物を置いて一息いれたあと、現場へと駆け出していった。
近づくごとに森が焼ける匂いと、黒い煙が周囲に充満していく。
「けほっ、けほっ。さすがにしんどいよ‥‥」
MAKOTOはむせながら走る。
そして、森の奥では鏑木がやけどを負いつつ赤いたてがみの獅子と戦っていた。
「鏑木! そいつか!」
千影が叫ぶ。
「皆さん‥‥」
鏑木は弱弱しい声で答える。
「話はあとだ、今はこいつを倒して火を少しでも消すぞ!」
ゼラスは再び覚醒し、巨大な獅子へと殴りかかる。
「ええ、自然を壊すもの‥‥私はそれを許しはしない」
ロッテも森から現れ戦闘に加わった。
瞬天足で一気に近づき、ゼラスに気取られる獅子の背にまたがった。
「‥‥ラ・ソメイユ・ペジーブル(安らかな眠りを)」
アーミーナイフを墓標のごとく突き立てると、獅子は息を止める。
ロッテの髪もそれと同時に白く変わっていくのだった。
●宴の場で
能力者が火元を止め、そして藪をなどを切り払って時間を稼いだおかげで火は大事にならずにすんだ。
「皆さん、申し訳ありません」
ゼラスの救急セットで治療を受けた鏑木は服も和装を着て少女のように変わる。
「まぁ、よい。大事にならなかったのは良いことじゃ。そのようなものがおるとは妾も知らなかったのでな。妾こそ、すまぬのじゃ」
磨理那は礼をする。
「磨理那様、私めからこのようなことを申すのもおこがましいのですが、この京の町に恐ろしいモノノケが近づいています。UPCの支援のご協力をお願いします」
鏑木は三つ指をついて深く、深く礼をする。
「大規模な狩りも必要かもしれぬの。考えておくのじゃ‥‥このたびはご苦労であった、皆に褒美をやろう。じい、あれをもってまいれ」
磨理那は扇子を手に数回打ち付けて考えたあと、翁を呼びつける。
褒美という言葉にその場にいた能力者達は期待をした。
「こちらにございます」
お供えの台に白い布がかぶさっていた。
「あけるがよいぞ」
「では、私が‥‥」
千影がそれをめくり上げると、中にあったのは人数分の飴玉。
「え‥‥」
「この飴は妾が注文して京菓子屋につくらせたものじゃ。めったに手に入らぬゆえ、存分に味わうが良い」
磨璃那の顔はまぶしいほど素敵な笑顔だった。
「千影、MAKOTOの両者は『企業戦士』『たいがーれでー』の称号を共に授けよう。良くぞがんばったの」
「あ、ありがたき幸せ‥‥」
飴玉をなめながら、MAKOTOは称号を受け取った。
一番の褒美は彼女の笑顔と自分に言い聞かせて‥‥。