タイトル:V1GPファイナルマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 27 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/25 23:53

●オープニング本文


 ――V1グランプリ――
 それは2007年の年末に行われたKVの実践演習から始まった。
 F1レースを模したKV同士の対戦模様は裏ルートでラスト・ホープ中に出回り、人々に夢や希望を与える。
 そして、第二回はドローム社が主催となり北米アラスカを舞台にしたKVによるトライアスロン競技となった。
 各メガコーポレーションによるKVが多く出始めた時期でもあり、能力者同士の戦いは激しさを増す。
 それは即ち最強のKVを決める戦いにもなっていた。
 さらに第三回はV1グランプリに魅せられた京都の姫君により復興のための催しとしてその活動を収める。
 第四回、五回はドローム社の開発したゲーム『フォーゲルマイスター(VM)』と呼ばれるゲームを使い、一般人と能力者の垣根を越えた対戦を熱く送った。
 そして、第六回はサルベージをベースとしたメルス・メス社の企画として現地TVでも注目され、第七回はアマゾン川流域の戦闘訓練としての模様を再び取り戻す。
 
 多くの記憶に残る戦いが繰り広げれれた。
 幾多のかけがえの無い戦友[とも]との出会いがあった。
 富や名声を手に入れることだってできた。
 
 そうしたV1グランプリにも一つの終わりがくる。
 UPCによる闘技場の建設によりスポンサーがそちらに移ったのが大きな理由だった。
 
 2009年12月‥‥V1グランプリはフィナーレを迎えようとしている。
 
●Hear Come The New Challenger!
『久しぶりね。‥‥とはいっても、依頼を出すのが久しぶりということだけども‥‥』
 UPC本部のディスプレイにレオノーラ・ハンビー(gz0067)が姿をみせる。
『世間話はおいておいて、V1がおしまいらしいという噂が流れているけど、それは本当よ。でも、このまま立ち消えるなんて寂しいでしょう?』
 アーマー姿のままレオノーラは妖しく微笑んだ。
『だから、スポンサーは私個人と、事前に募っておいた有志とで、最後のV1を年末に開催するわ。場所はラストホープにあるUPC軍の地下訓練施設よ。ここを貸切ってバトルを行うわ』
 何でもないことのようにレオノーラは述べると自分の隣に映像を写す。
 全部で5階層になっている立体地下訓練施設の姿が見えた。
『第一回で使っていたのはこの中央のエリアね。ここから上下にもあるけど、今回はそれら全て使っていくわ。ルールの説明をするわね』
 レオノーラの隣の映像が変わり、赤と青の二つの点が幾つも表示される。
『主なルールはチーム戦よ。一番上がレッドチームの本拠地、一番下をブルーチームの本拠地として対戦をしてもらうわ』
 点が一番上のエリアと一番下のエリアに別れて配備され、それらがバラバラながらも動いていく姿が見えた。
『勝利条件は終了時間である10ピリオド‥‥実時間でいえば6時間後までにチームメンバーが過半数生存しているエリアの数が多いことか、本拠地の初期戦力を半分減らすことの二つよ』
『本拠地を守れるのは初期戦力のみとするので、どれだけ本拠地の守りにつかせるかが勝敗の行方を左右するわ。それ以外のメンバーは一つ前のエリアからのスタートとなるわね』
 大筋のルールを説明し終えたレオノーラは映像を消して向きを直す。
『チーム訳は基本的に傭兵の登録IDの下一桁目が偶数か奇数かで分けるわ。人数に大きな差が出た場合はそちらをさらに下二桁目が偶数か奇数かで分けていくからどちらになるか楽しみにしていなさいね』
『そうそう、第一回の参加者でもあるベルディット少尉を呼んでもいるわ。彼女がレッドチームで私がブルーチームという形になるわね。また、活躍によってはMVPとして個人的にご褒美も上げるから楽しみにしていなさい』
『じゃあ、戦場であいましょう』
 レオノーラが軽く敬礼をすると映像が終わった。

●参加者一覧

/ 雪ノ下正和(ga0219) / 須佐 武流(ga1461) / 水理 和奏(ga1500) / 如月・由梨(ga1805) / 麓みゆり(ga2049) / 霧島 亜夜(ga3511) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / 高坂聖(ga4517) / キョーコ・クルック(ga4770) / 鈴葉・シロウ(ga4772) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 月神陽子(ga5549) / カルマ・シュタット(ga6302) / ティーダ(ga7172) / 風羽・シン(ga8190) / 百地・悠季(ga8270) / ヒューイ・焔(ga8434) / レティ・クリムゾン(ga8679) / 白虎(ga9191) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / 最上 憐 (gb0002) / 宮明 梨彩(gb0377) / イスル・イェーガー(gb0925) / 直江 夢理(gb3361) / 鹿島 綾(gb4549) / 胡桃 楓(gb8855) / 桜庭 結希(gb9405

●リプレイ本文

●事情いろいろ
「これで最後か‥‥俺にとっちゃ、負け続けの歴史だなぁ」
 控え室で準備をしていた宗太郎=シルエイト(ga4261)は重体中の体を抑え天井を見る。
 第二回で共に走った一人の男のことを浮かべていた。
 一度も負かすことはできず、勝ち逃げされた風‥‥シルフィードである。
「最後のV1か‥‥一回目から出ているが今回も本格的に勝ちに行くぜ。ついでに”魅せて”やるさ」
 宗太郎の呟きに須佐 武流(ga1461)が同じように感慨にふけるように答えた。
「お互い同じチームだ。悔いの無い試合をしよう」
 宗太郎は須佐に握手を求めると、須佐も握手に答える。
(「あんたが共に走れなくて悔しいって思えるようなそんな走りを見せてやる‥‥今の俺に出来る最高の走りで、この場を飾ってやる!」)
 頭を振って打ち消すと宗太郎は立ち上がった。
 宗太郎が去った後も、静かに考えている男がいる。
「‥‥しかし俺も律儀だねぇ、今回でラストだからって口約束通り参加しようってんだからなー。 多分、姫さんは覚えちゃいねぇだろうが」
 風羽・シン(ga8190)が椅子に深く腰をかけ、頬杖をつきながら呟いた。
 惚れた弱みというわけでもないのだが、シンはこうしてV1に参加している。
「あら、珍しいわね? 最後だから参加したのかしら?」
「風羽さんもこんにちわ。今回が最終戦‥‥派手にいきましょう」
 姫さんこと、レオノーラ・ハンビー(gz0067)が旦那のクラーク・エアハルト(ga4961)と共に控え室へ姿を見せた。
 これから敵チームであるというのに腕を組んでいて見せ付けているようだった。
「ああ、まぁな? クラークはモテモテで大変だろうが、がんばれよ」
 気の無い返事を返したシンはクラークへ意味深な言葉を送ると、控え室を後にする。
 静かな戦いが始まっていた。

●下準備

 ≪このエレベーターを使う者。全ての希望を捨てよ≫

 血のような赤色で描いた文字を見て月神陽子(ga5549)は満足そうに頷く。
「やはり、V1はエンターテイメントですからこういう盛り上げをしませんとね」
 昇降機を使って4階にあがると廃墟のような景色が広がっていた。
 ゆらゆらと揺れる照明はちかちかと光る程度の細工がされている。
『デコイはできましたけれど、発信機は用意できませんでしたね。どこまで騙せるかはわかりませんが立ち居地をかえて動けば多少の効果はあるでしょう』
 カルマ・シュタット(ga6302)は室内の傷害物を使った囮を作っていた。
 4階の防衛は陽子、カルマ、そしてティーダ(ga7172)を含めた3人だけである。
 だからこそ、ここにあるクレーンや的などの設備を有効活用していた。
『敵を恐怖に陥れるくらいのセッティングにするなんて、陽子さんもすごいことを考えますね』
 発光塗料を塗って愛機と同じようにほのかに光るデコイを作るティーダが感心する。
「5階の方には暇にならないようにBGMとかこちらのデコイの操作をしてもらいましょう。最後のV1ですもの楽しまないと損ですわ」
『試合開始前までに済ませましょう。もう時間もありませんからね』
 カルマが一人上の階へと向かった。

 ***

「ふふ〜ん、準備はこんなところかな?」
 陽子達レッドチームとは別に動くブルーチームの一人が2階で準備をしていた。
 少女の格好はゴシックロリータで自称「殺(あや)」というらしい。その正体は、霧島 亜夜(ga3511)である。
 黒くペイントされたウーフーを使い、本拠地へと続く昇降機の周辺へガラクタなどを集めてバリケードを作っていた。
 接着剤をガドリングナックルに仕込むことは未来研究所でなければできないが、トリモチ玉は借りられたのでそれらを使ったバリケードを固定する。
「施設の封鎖、完了〜♪ じゃあ、上に向かって勝負だね♪」
 意気揚々と殺は上の階へと上がる。
 中央の3階ステージ‥‥全ての戦いが始まるその場所へ‥‥。

●激闘!
「これでV1も最後ですか‥‥。いえ、いつかきっと再開の時もあるのでしょう。今は、目の前の対戦に集中しませんと」
 巨大剣「シヴァ」を馬上槍のように構えたディアブロのコックピット内で如月・由梨(ga1805)は敵を待つ。
 敵と味方がぶつかり合う中央エリアは第1回V1グランプリのレースコースがある場所だ。
 さえぎるものは何もなく、高速移動するにも適している。
『いやいや来ましたね。そのでっかい得物で後ろからグサリだけは勘弁して欲しいですね。オカマだけは勘弁ですよ』
「わかっています‥‥なので、先陣をきります」
 昇降機を登ってくる敵機を見た鈴葉・シロウ(ga4772)の雷電『飛熊』が由梨の隣についた。
 撃つべきものは敵とわかっている由梨は昇降機で到着すると共にブーストと共に敵陣へと突っ込む。
 巨大剣シヴァを持ったディアブロが一心同体ならぬ一刃同体となった。
『そちらの動きは見えています。これでもどうですか!』
 <高速二輪モード>になった宮明 梨彩(gb0377)のヘルヘブン750からペイント弾が放たれる。
 直線的な動きになっていた由梨の視界がピンク色に染まった。
「これは、読まれていましたか」
『動きが止まっているぞ、スキありだ』
 乱射されるペイント弾にカメラを塞がれた由梨にレティ・クリムゾン(ga8679)のPixieから機槍「グングニル」による洗礼が捧げられる。
 衝撃がコックピットを揺らし、勢いが止まった。
「確かに油断していました。ですが、メインカメラだけで止まるものではありませんよ」
 由梨はシヴァを投げ捨て、機練刀「月光」を持ち出し、レーダーと直感を信じた接近戦へと持ち込む。
『スキありですよ! 少しでも役に立つためにっ!』
 レティ機に集中しだした由梨へ梨彩機が追い討ちをかけるようにKVライトスピアでチャージを仕掛けた。
『おっと、お嬢さんのピンチを見過ごすわけにはいきませんな』
 そこへシロウ機が割り込んで梨彩機へ試作「スラスターライフル」の一撃を見舞う。
 横っ面に直撃を受けた梨彩機は転げそうになるも<高速二輪モード>を解除し、四本の足で着地した。
『本部へ、結構押されていますがこちらは元気です。こちらの戦いを見ていてくださいよ』
 高坂聖(ga4517)の岩龍が梨彩機の復帰を支援するようにしながらバルカンなどをシロウ機に向かって撃ちだし、本部への連絡を始める。
 激闘はまだ終わらない‥‥。
 
●嵐の前の静けさ
「初めてのゼカリアで防衛線‥‥か。おあつらえ向き、ってことかな‥‥?」
 レッドチームの聖から押されているという報告を受けたイスル・イェーガー(gb0925)は戦車ともいえるコックピットの中で時を待っていた。
 一階層を隔ているとはいえ、静かなのは不安でもある。
『イスルくん、絶対勝とう、だから後ろは任せたよ』
 そんなイスルの不安を悟ってか柿原ミズキ(ga9347)が優しい声をかけてきた。
「ありがとう、ミズキ姉さん」
 姉さんと敬称をつけてはいるもののイスルとミズキは恋人同士であり、互いが傍にいるだけで強くなれる気がしている。
『性能的な戦力差はでかいが。何、ひっくり返してみせるさ。人数はこちらに分がある』
 第7回V1グランプリの覇者でもある鹿島 綾(gb4549)は昇降機の動きに注意しつつ動向を見守った。
『こっちも破曉での戦闘準備はできています。頭からガツンと行きますよ』
 桜庭 結希(gb9405)は駐車場のように柱が幾つも立ったエリアで味方のポジションを指示し敵の存在を待つ。
 呼吸だけが静かに響く場所で、気持ち的に長い時間が流れ出した。

 ***

「‥‥ん。青組。来るまで。腹ごしらえ」
 最上 憐(gb0002)は食料を入れるために改造されたナイチンゲール『オホソラ』内でレトルトカレーをちゅるちゅると飲みつつお菓子をほお張る。
 彼女にとってカレーは飲み物なのだ。
『余裕だねぇ‥‥緊張していても仕方ないからその方が楽だけどね』
 メイド・ゴールドことキョーコ・クルック(ga4770)は漆黒に深紅の縁取りに塗装されたアンジェリカ『修羅皇』を昇降機から50mはなれた壁にもたれかけさせながら、憐の余裕ぶりに安堵する。
『4階へのアクションの準備はできたわよ。抜けてくる人がいればすぐに対応できるわね』
 KVから降りて4階設備の操作室の方へ入っている百地・悠季(ga8270)から憐やメイド・ゴールドへ通信が届いた。
 人手を裂くことになるが、カメラからの情報などをそこから発信できるためブルーチームにとって欠かせない。
「‥‥ん。4階には。鬼とか。悪魔より。怖い。地獄の門番が。居る。とりあえず一安心」
 お菓子を追加しながら憐は出番をじっくり待つのだった。
 
●光の境界
「そこですっ!」
 ブルーチームの面々が数で押し勝とうとレッドチームにぶつかったとき麓みゆり(ga2049)が天井の照明に向かってガトリング砲「嵐」をばら撒く。
 照明が2,3フロア潰れてエリアに明暗が出来た。
 遠近感などに揺らぎができ、幻惑効果を狙った行動である。
「エアハルト機、水理機を私達で食い止めます。下へいける方はとにかく移動してください」
『こちらは白虎さんと共に迎撃します‥‥いきますよ、<ツインブースト・ミサイルアタック>』
 直江 夢理(gb3361)がフェイルノート『ハイレシス』の特殊能力を使いながら正面から来るエアハルト機に向かってC−0200ミサイルポッドを撃ち込んだ。
 アウトレンジからの奇襲に近い攻撃に回避しきれずにエアハルト機は炎に包まれる。
『うりゃりゃりゃー、バカップルには鉄槌なのにゃ♪』
 追い討ちを駆けるように白虎(ga9191)がガドリングナックルに仕込んだペイント弾を叩き込んだ。
『トドメなのにゃ』
「白虎さんは油断をしないで冷静に動いて」
 みゆりは周囲を確認し、ウーフーと岩龍によるレーダー補正をフルに生かして簡単な指示を飛ばす。
『ちょっと待ったーっ!』
 ピンチに陥るエアハルト機を助ける声が3階エリア全てに広がった。
 声の主は全身タイツに黒い面にドクロのような模様が描かれたマスクをつけたヒューイ・焔(ga8434)である。
 マイクを持ちながら一頻り叫ぶとヒューイはハヤブサ『白魔』の中へ乗り込み、ブーストで加速すると白虎のビーストソウル『タイガーヴァリアント』に向かって突撃をしかけた。
 ペイント弾に換装をした20mmバルカンを撃ちながら迫るヒューイ機を白虎機は肩で受けながら間合いを取り直す。
『同志をやらせはしない。この機刀「陽光」の輝きを恐れないのなら相手になる!』
 雪ノ下正和(ga0219)が陽光を盾のように使いながらヒューイ機と白虎機の間に割り込んだ。
『その心意気やよし! いざ、尋常に勝負だ!』
 バルカンから剣翼に切り替え、ヒューイ機は正和のビーストソウル『サムライブルー』とぶつかり合う。
「皆すごい戦いを‥‥私も負けていられないかも?」
『みゆりお姉さん僕と勝負だよっ!』
『そうそう、他に目移りしているとあたいらがやっちまうよ』
 みゆりが激しく戦い合うKV達に圧倒されていると、水理 和奏(ga1500)とベルディット=カミリア(gz0016)が迫ってきた。
「私もV1GPで有終の美を飾れるようにいい試合をしなくちゃね」
 高分子レーザーやヘビーガドリング砲で攻められながらも楽しそうにみゆりは操縦桿を握り締め、シラヌイ『ルキア』と共に戦場を踊る。
 激闘の続く中、一筋の風が抜けていった‥‥。

●ヘルズゲートへようこそ
 風のように駆け抜けた須佐のシラヌイが地下4階へ到着する。
 悠季がホラー映画のようなBGMを流し、雰囲気を盛り上げた。
「悪趣味な作りだな‥‥」
『ここに足を踏み入れたら最後、無事には出られません‥‥』
 わざわざ外部へ声を流し反響させながらティーダが須佐を脅すような言葉をかける。
 薄暗い照明の中に10を越える機影が動き、BGMと合わさって不気味な雰囲気をかもし出した。
「それはどうかな? 俺を甘く見ると痛い目みるぜ」
 須佐は反響する声、10機を越える機影に怯えることなく前を向き、5階へと続く昇降機を目指して駆け出す。
 エース機とやりあうつもりはなく、目指すは5階の本拠地攻略なのだ。
 須佐が走り出すと煙幕弾が物陰から飛び出し煙を上げ、視界を塞ぐ。
『ふふふ‥‥駄目ですわ。この4階に来た以上、貴方は哀れな子羊でしか無いのです』
 陽子の『夜叉姫』が煙の中からぬっと現れ須佐機を迎撃せんと金曜日の悪夢[チェーンソー]を唸らせた。
「あんたと戦っている暇はないっ!」
 脚爪「シリウス」を地面につきたて、急制動をかけた須佐はブレイクダンスのように上体を地面に下ろしながら避け、そのまま急旋回すると共に脚爪「シリウス」とソードウィングによる連続攻撃をカウンターで叩き込む。
 陽子機は装甲が刻まれるも回避され、床を抉った金曜日の悪夢をそのまま振り回して須佐機を狙った。
 回避行動をとりながら、須佐は昇降機へとじっくりと近づく。
 すると、カルマ機かたツングースカやアテナイによる弾幕が飛び始めた。
「エースぞろいか‥‥狙いが正確だ」
 舌打ちしながら須佐は攻撃をしてこない機影の一つを掴んで盾にし、カルマ機からの攻撃を受け流す。
『須佐さ〜ん。実際は3機、ダミーばかりですから利用しちゃいましょう。データー送りま〜す』
 苦戦する須佐の下へアニメ声と共にエリアの情報が届いた。
 ウーフーに乗った殺である。
「誰だか知らないが恩に着る」
『もう一人ふえましたか‥‥ミイラ取りがミイラになるということを教えて差し上げます』
 須佐がウーフーからの情報を元に昇降機を目指す。
 アテナイのリロードのためか弾幕がやんだ隙を狙って動いた。
 陽子機は次に降りてきた殺機の方へと向かっている。
『甘くみていると、痛い目見るよー』
 チェーンソーを唸らせ続け、重厚感のある足取りでやってきた陽子機に対し、殺機は高電磁マニピュレーターを作動させた。
 二機の距離が狭くなり、互いの間合いが取れた瞬間、殺機が動く。
 ブーストを使って急速に距離を詰め、陽子機に組み付いた。
『何をするつもりです。組み技でわたくしを倒せると思ったのですか?』
『倒すことは出来なくても食い止めることはできるってね♪』
 理解できないとばかりに嘲りを持った言葉を放つ陽子に殺は楽しげに笑うと腰のフレームに目掛けて高電磁マニピュレーターを直接叩き込む。
 陽子機に電流が迸り、各部から煙が上がった。
 無論、殺機とて繋がっている分無傷ではすまない捨て身の攻撃である。
『不覚ですわ‥‥カルマさん、ティーダさん、後はお任せします』
 動くことすら間々ならない二機はそのまま4階で鎮座した。
『陽子さん! あっ!』
「よそ見しているからだ、抜けさせてもらう!」
 ティーダが陽子の様子を気にしていると、須佐がすり抜けるように動き昇降機へとたどりつく。
 しかし、ボタンを押すが動かない。
「何! 壊したのか?」
『いいえ、壊してなんかおりませんよ‥‥ふふ』
 須佐のコックピットに陽子の笑い声が響く。
『残念だったな、そこはスイッチの表示を逆にしてあるだけだ。くらえっ!』
 須佐の疑問に答えるようにカルマが答えと共に機槍「ロンゴミニアト」を繰り出した。
 
●対決!
「白虎さん、少しは腕を上げましたね。絡め手がうまくなりましたよ」
 ペイント弾まみれになったメインカメラを見つめながらクラークは強敵に賞賛を送る。
 暗がりを利用した奇襲も受けたため予想以上に被害が大きいのだ。
『姫さんも加わって結構大変だな? おい』
 クラークの目の代わりをしているのはシンだ。
 遮蔽が無いため二人は逃げながら撃つというヒット&アウェイをとっている。
『にゃにゃー、レオノーラママと追い立てるのにゃー』
『逃げるより真っ向からきなさい、腑抜けを旦那に貰ったつもりは無いわよ!』
 白虎機がレオノーラ機と共に照明を銃器で潰しながら言葉をぶつけた。
 レオノーラ機に搭載されているソニック・フォン・ブラスターが拡声器のように響き、厳しい口調がマシンガンのように飛び出し続ける。
「こうしてコケにされるのは精神的に効きますね‥‥」
『照明も落ちているし、狙いをつけていくのも限界だぞ?』
 シンが弱気なクラークの背中を押した。
「行きましょう、乱戦上等で勝負に出ます」
 クラークがシラヌイの各部の被害を確かめ動く。
『話しは聞いたよ。フロントはまかせな!』
 ベルディット機がクラーク機の前に立ち、フォーメーションを整えながら敵陣へ突撃を仕掛けた。
『これを受けるにゃ!』
 迫るベルディット機に向けて白虎機は照明銃を打ち込む。
 暗闇のきつくなっているなか、閃光弾のような効果を生み出した。
『悪いわね、少尉は潰させてもらうわ』
 アームレーザーガンを使ってレオノーラ機がベルディット機を翻弄する。
「本当に腕を上げましたね。ライバルに相応しいですよ」
 強敵[とも]の成長を喜びクラークは白虎機の傍までレーダーと声の位置を頼りに近づいた。
『接近戦はビーストソウルの真骨頂にゃ!』
 クラークがライトディフェンダーを抜き、白虎はバーニングナックルを構え、ペイント弾で視認し辛いクラーク機を真っ向から出迎える。
『姫さんの相手は俺がやるかね‥‥折角約束通りきたんだからな?』
『約束?』
『やっぱり覚えてねぇか‥‥わかっちゃいたが、ダメージでかいわ。吹っ切るためにも遠慮なくやらせてもらうぜ』
 シンとレオノーラはアームレーザーガンとスラスターライフルで互いを撃ち合った。
 宿命ともいえる対決が派手に始まった瞬間である。
 
●起死回生の一手
『見よ、瞬間変形アクションがあると最高な絵になる動き!』
 重機関砲やミサイルによる攻撃を織り交ぜながらシロウ機は派手に戦う。
 現在5ピリオドが経過し、3階だけでの戦いでは厳しくなってきていた。
 それでも、『V1はエンタメだ』と楽しむ能力者は多く、シロウもその一人である。
『こちらも負けてられません。一機でも相打ち覚悟で潰させてもらいますよ』
 梨彩機のヘルヘブンがシロウの攻撃をコースに沿って<高速車輪モード>のままでドリフトで避けた。
 白虎機とクラーク機が相打ち、殺機と陽子機が相打ち、レオノーラ機がシン機によって破壊、須佐機も4階層で負けていると現在分が悪い。
『いいですよ、お嬢さん。お相手仕りますよ』
 回避をしながらもKVライトスピアでチャージを仕掛ける梨彩機をシロウ機は機盾「アイギス」で受け止めた。
 常に紳士として相手をするのがシロウ流である。
『この攻撃はどうですか、名づけて足癖の悪い南国産メイド風攻撃ですよ』
 シロウが機脚「シリウス」を軸にした格闘攻撃をしかけてきた。
『相討ちなら上等です。ギア・エクセリオン!!』
 梨彩機はシリウスで機体が貫かれながらもライトKVスピアを構え、<キャバリーチャージ>と共にブーストで加速する。
 シリウスが減り込むことも気にせず梨彩機はブーストを全開で吹かせた。
 ギギギと装甲の軋む音が響き、シロウ機が一歩脚が下がる。
『何とパワー負け!?』
『これが私とこの子の全力だぁぁっ!』
 重機関砲を零距離で叩き込むが梨彩機の勢いは止まらずそのまま胴体を貫き、同時に爆破した。
『シロウさん! こちらの被害も酷いです‥‥突破をさせてもらいます』
『お前の相手は俺とサムライブルーだぜ!』
 エリアの殆どが暗くなっていることと互いに連携を崩す戦いをしているため、決闘のようになっていることが多数起きていた。
 ペイント弾を受けて視界の狭まっている由梨機が昇降機への突破を目指すと正和機が立ちふさがる。
 疲労も濃く、決着をつけて本拠地攻撃をしたいのはお互い様だ。
 由梨機が月光を取り出すと正和機も月光を抜く。
 しかし、踏み込みと共に撃ちだされたのはG−44グレネードランチャーだった。
 <パニッシュメントフォース>を込めた爆炎が正和機の目の前でふくらみ、包み込む。
『バカップルに天誅を下すまで、やられるわけにはいかないっ!』
 陽光で衝撃を塞ぎなが正和機が由梨機へ一歩を踏み出した。
 青いディアブロが斬りあげるコースで月光を煌かせると赤いディアブロは動きを止める。
『ふふふ、私を倒しても。それも直ぐに分かりますね‥‥』
 その場に崩れながら由梨は正和へ意味深な言葉を残したのだった。
 
●最後の博打開始
「タイミングを任せたクラークが先に沈むとさすがにきついな」
 援護に出回れずに相打ちを見届けてしまったことをヒューイは悔やむ。
 時間は残り少ない‥‥由梨機やシロウ機などの強豪が落ちている中、このまま戦い続けていては推し負けることは必死だ。
「シン、最後の博打をいくぜ」
『仕方ないが派手に飾るには丁度いい』
『僕とベルディットさんはこのまま残るから後はお願いっ!』
 二人が決意をしていると温存していたわかな機が<SESハイエンサー>などで全力の支援を飛ばす。
『ライバルが通してくれないだろうさ。まぁ、愛があるかもしれないがねぇ』
『べ、べるでぃっとさん!?』
 わかなとベルディットが雑談に近い話をしながら、二人の背中を押した。
 ベルディットにいたってはふざけてはいるもののノヴィ・ロジーナからヘビーガドリング砲を放ち二人の花道を作り出す。
 そこへ昇降機を使って4階からティーダ機とカルマ機が現れた。
『最後の博打にきましたよ。中々人が来なくて寂しかったというのもありますが』
「これで派手に乗り込めるってわけだ。じゃあ、遠慮なくいってくるぜ!」
 ヒューイが先行し、弾幕の中を昇降機に向かって走る。
『昇降機の防衛を‥‥きゃっ!』
『油断しているとやっちまうよっ!』
 後退して守りにつこうと思った麓機をベルディット機がセミーアキュアラーを振りまわして阻害した。
『これはこちらも攻勢にでないと厳しいですね。相打ち覚悟で行きますよっ!』
 半ば総力戦ともいえる状況下で聖の岩龍が支援から攻勢にでる。
 正和機らがそれに続いた。
『この烈光を受けたく無くば、道をあけなさい!』
 ティーダ機が練剣「雪村」と機盾「アイギス」を構えて突撃をしてくる。
『エース級ばっかりって、私じゃ勝てない‥‥特攻ー!』
 ティーダ機に向かって聖機が突撃をかけた。
『死ぬ気ですか!? 容赦はしませんよ!』
 雪村のビーム状の刀身が言葉どおり聖機を狙ったが、装甲を斬り裂く前に試作型ピンポイントフィールドが直撃を防ぐ。
 光と光がぶつかり合い、火花が散った。
『ただでは死にませんよ。奉天製好きは伊達ではありません』
 フィールドが押されそうになるとき、ティーダ機のメインカメラに向かって聖機が照明銃を撃ち込む。
 暗いところに慣れていた目にまぶしい光が飛び込み、ティーダ機の動きが鈍った。

●本拠地攻防戦
 昇降機が2階から1階へと動く。
「ようやく出番だ‥‥待ちくたびれたぜ」
 コックピット内で両拳をぶつけ、結希は気合をいれた。
 相手の期待が見え始めたとき、シン機から煙幕銃が飛ばされる。
「スモーク!?」
 サイズ的に大きな破曉を生かしてイニシアチブをとろうと思っていた結希だったが、相手の方が上手だった。
 煙に包まれるなか3機の機影が動く。
『先手貰うぜ! デカイだけはあって当たるだろう!』
 ライト・ディフェンダーを構えたシン機が煙をかき分けて結希の前に飛び出してきた。
「くそっ! 喰らええぇぇっ! 凰!」
 飛び出してきたシン機に向かって結希は肩部の補助翼を兼ねたブレードで斬りかかる。
『やるねっ、だが‥‥こっちもここで潰れるわけにはなっ!』
 ライト・ディフェンダーで凰を受け流しシン機がソードウィングを使って結希を狙った。
「残念、こっちが本命ッ! 唸れ、バニシングゥゥゥナッコォォォオ!」
 ソードウィングが結希に迫る瞬間、結希は有線式バニシングナックルを飛ばしシン機の胴体を叩き吹き飛ばす。

 ***
 
「ちっ、シン! ひゅぅ、危ないな」
 ヒューイがシンの様子を気遣いながらも、柱の影に身を隠していると静かに迫ったミヅキ機に奇襲を受けた。
 だが、ヒューイとて油断していたわけではない。
 アラートサインに瞬時に反応し、避けきったヒューイの後ろの柱がウィガードリルの攻撃で抉れた。
 柱から離れたとき、イスル機からの420mm大口径滑腔砲がヒューイに向かって飛んでくる。
「奇襲とはえげつないな」
 <翼面超伝導流体摩擦装置>とブーストを併用し回避しながらヒューイは一人ごちった。
『えげつないぃ? これもかつためのさくせんなんだよぉ?』
 ヒューイを小ばかにするような幼稚言葉を漏らしながらミヅキとイスルのコンビネーション攻撃が続く。
『例え味方誤射[フレンドリーファイヤー]しかねない状況でも‥‥僕は当てる気はないし、ミズキ姉さんなら避けられる‥‥そう信じてるから』
 飛び交う弾丸とドリルによる攻撃を柱の間を蛇行運動しながらヒューイはかわし、時にはチタンファングとソードウィングによる反撃に転じて戦い続けた。
 
 ***
 
「結希は余裕をみているようだが、敵もそう甘くはないだろう。援護に向かうべきだな」
 破曉でシンと戦う結希の様子を確認した綾は加速する。
『俺もいくぜ、敵の数はこちらより少ないなら共闘するのが早い』
 綾の後に続き、宗太郎が愛機『ストライダー』を走らせた。
 後といっても加速度ははるかに上であり、柱の間を縫ってレースマシンのごとき走りを見せる。
「結希、油断をするな敵がどこから狙ってくるかわからない」
『その通りだっ!』
 カルマ機が綾の言葉を肯定すると共に機槍「ロンゴミニアト」を煙の中から奇襲するように仕掛けてきた。
 <PRMシステム>を攻撃に集中させた必殺の一撃が綾を狙う。
「俺にも、第七回覇者としての矜持があるんでね!」
 機槍「ドミネイター」の緊急回避ブースターを使ってカルマの攻撃を避け、そのまま突きを繰り出した。
『このウシンティの回避性能を舐めてもらっては困ります』
 突きを軽々と回避したカルマ機だったが、その背後を回りこんでいた宗太郎機が追い討ちをかける。
『ロンゴミニアトの使い方を”魅せて”やるぜっ!』
 大きな槍をもった人型のスカイスクレイパーがカルマ機を背後から貫いた。

●試合終了
 大きなディスプレイの中で青いディアブロがアンジェリカによる雪村で斬られるところがハイライトとして流れている。
「ん‥‥負けたけど、面白かった」
「そうね。結局のところ本拠地以外が時間内にほぼ全滅したから人数負けした感じよね。でも、確かに楽しかったわ」
 憐と百地は最後の自分たちの戦いを眺めながらお茶とお菓子を摘んでいる。
 勝者はブルーチームで、今はシンの呼びかけによる祝勝会が控え室で行われていた。
「皆、お疲れね。特にレッドチームの陽子は盛り上げ方がすごいわ。MVPは文句なしに貴女よ」
 控え室に現れたレオノーラは開口一番で陽子を労う。
 ハイライトの試合映像では陽子のチェーンソーさばきがタイミングよく流れていた。
「ありがとうございます。エンターテイメントですもの仕込んで楽しむのが一番だと思っています」
 レオノーラと握手をしながら陽子は僅かに笑う。
「みゆりおねーさーん!」
「わかなちゃん!」
 レオノーラと陽子が握手をしている後ろではダッシュして抱きついてくるわかなをみゆりは優しく抱きとめていた。
「大丈夫? ブランクはきついかもだけど、これから僕ずっと一緒だからね‥‥!」
 善戦をしてはいたが、新型機に慣れていなかったこともあったのか、みゆりはわかなに負けていたのである。
「ありがとう、私は大丈夫よ。いい汗かいちゃったね。怪我はしてない‥‥?」
 自分のことよりもみゆりはわかなの頭を撫でながら心配をしていた。
 そんな優しさにわかなはますますみゆりを強く抱きしめたくなる。
「やれやれ、最後はなんとかいいところ見せれたけれど。これで最後ってのは寂しいねぇ‥‥」
 キョーコが体を抑えながら控え室へとやってきた。
 V1も今回が最後ということで参加したものはキョーコ以外にも多い。
「スポンサーがいないことにはここまで大きな大会は‥‥ね? 」
 キョーコの呟きにレオノーラが苦笑しながら答えた。
 今回とてようやく出来た最後の大会なのだ、これから先ちゃんとできるかは怪しい。
「湿っぽい話は終わりにしようぜ。派手な勝負が終わったんだあとは敵も味方もなく騒ぐのが一番だろう? 姫さんのおごりで」
 シンが飲み物を配りながらレオノーラへ意味深な目を向けた。
「いいわよ、どれだけ飲んでも食べても請求書は全部持つわ。盛大に楽しんで終わりましょう」
「それでは乾杯しましょう。V1グランプリよ、ありがとう‥‥乾杯!」
 アップルジュースのグラスを受け取ったレオノーラの隣にクラークは立って音頭をとる。
「「乾杯!」」
 一斉にグラスが掲げられた瞬間、隙をついたクラークがレオノーラの頬へキスをした。
「最後まで見せ付けてくれるな‥‥やれやれだ」
 いちゃつく二人をシンは肩をすくめながら眺める。
 多くの人を感動させ、多くの傭兵達を魅了したV1グランプリはここに終焉を迎えたのだった。