●リプレイ本文
●事前準備は密やかに〜その1〜
ライディ・王(gz0023)が初詣にでかけた前日。
ガタガタガタと深夜の教会でミシンの音が鳴っていた。
ふぅと、ミシンを動かしていたハンナ・ルーベンス(
ga5138)は手を止める。
ハンナは手元だけを照らしている白熱電球にミシンで織った物をすかした。
「鼻で笑われてしまうかもしれませんけれど、無いよりましですよね」
出来上がったのは、『Redio−Hope』と刺繍のされた腕章である。
手書きの名刺も、自分とライディが配る分の準備はできていた。
時間も無く、枚数は少ないが数ではないとハンナは思っている。
「明日の取材が無事に、実りあるものとなりますように‥‥」
ハンナは窓から外を眺め、祈りをささげるのだった。
●初詣は賑やかに〜その1〜
ライディが神社につくと、そこには人、人、人。
諸国の垣根なく、さまざまな人が初詣に来ていた。
「TVでもみたけど、すごい人だ‥‥」
ライディはさすがにあっけにとられる。
すると、トンと背中を押された。
振り向けばそこにはライディの見知らぬ少女がいる。
その少女は薄紅の地に花びらを散らした柄の着物で、かんざしを差していた。
「えっと、どちら様でしょうか?」
思わず、尋ねてしまったライディの耳には聞き慣れた声が響いてくる。
「はろはろー、あけおめー!」
葵 コハル(
ga3897)は手を振って存在をアピールした。
いつも男の子っぽい格好のためか、新年の変わりようにライディは驚きを隠せない。
「コハルさんでしたか、今年もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、今年もバンバン手伝うからね♪」
姿は女性らしくても、葵はいつもの通り元気一杯だった。
そんな彼女にライディは苦笑をする。
「あ、ライディさんにコハルさん。あけましておめでとうございます」
ハンナはいつもの修道服で神社に来ている。
和風の神社であっても、その服装には違和感よりは神聖さが漂っていた。
「あけましておめでとうございます。昨年から準備に関わっていただいてありがとうございます」
ライディは深く挨拶をする。
そんなライディにハンナは眠い目を少しこすり、仕上げた腕章と名刺をライディに手渡した。
「ありがとうございます! カッコいいですね〜ずっと大切にしますよ」
腕章をつけてライディは微笑んだ。
「いえ、さぁ収録のほうをがんばりましょう」
ハンナも腕章をつけてレコーダー片手に気合をいれる。
「あたしはもうチョット初詣楽しんで、それからスタジオにいくね。二人ともがんばれー!」
葵は気合をいれている二人に対して、精一杯のエールを送るのだった。
●事前準備は密やかに〜その2〜
「飾りつけ‥‥このくらい‥‥かしらね?」
誰もいないRedio−Hopeのスタジオで、リン=アスターナ(
ga4615)は飾りつけ作業をしていた。
正規スタッフとなったリンは合鍵も所持しているので、出入りは自由である。
今は簡単な掃除を終えて、正月飾りも一区切りしたところだ。
リンはスタジオ内に設置されたパソコンを起動し、メールの着信を確認した。
第1回に参加したときは、スタッフが自分達で書いて投稿したものだけだったメールボックスは今日だけで数十件たまっている。
「希望の風‥‥ずいぶんと大きくなっているわね‥‥」
パソコンのメールと、普通の手紙を仕分けながら、リンはそっと微笑んだ。
「さて‥‥もうそろそろ、帰ってくるから‥‥雑煮の準備しなくちゃ‥‥ね」
リンは立ち上がると、キッチンに向かって歩き出した。
●初詣は賑やかに〜その2〜
「今年も、皆に希望の風が吹かせられますように‥‥」
パンパンと手を叩いてライディはお辞儀をした。
作法はよくわからなかったが、周囲にあわせてとにかく流れる。
後ろからはどんどんと人が押し寄せてきていた。
『つぶれる〜』や『くるしい〜』という声も聞こえてくるほどごった返している。
何とか、流れを伝って、社務所の方へいくと見知った人物が甘酒を飲んでいた。
「あけましておめでとうございます。ホアキンさん、風さん」
ライディが声をかけると、二人は気づき挨拶を返してくる。
「あけましておめでとう、今年もよろしく」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は甘酒をカップで飲みつつ軽く会釈をした。
「あけましておめでと〜ホアキン、私からの御守りね」
傍らにいた風は少しオシャレをした程度のいつもの格好で挨拶を返す。
飾らない彼女らしいといえばらしい。
挨拶のあと、風は『相思相愛の御守り』を渡した。
ホアキンからは『縁結びの御守り』が風に渡される。
「二人とも仲がいいですね」
「王のおかげだ感謝する」
ライディがほほえましく見ていると、ホアキンは少し耳を赤くしながら返した。
その一瞬の隙を狙って風が抱きつき気味にホアキンのポケットに何かを入れたが、何だったのかライディにはわからない。
「大丈夫か?」
ホアキンは風を優しく抱きかかえ、顔を覗く。
「う‥‥うん、ちょっと熱くてふらついたの‥‥かも」
「少し休んでからお参りにいこうか」
風の頬が赤かったのは、熱によるものかわからないが、ホアキンは大切な女性の要望にこたえた。
「じゃあ、またのちほどインタビューにいきますから、そのときは抱負を聞かせてくださいね?」
ライディは一礼をして、その場を離れる。
賑やかな神社をふらふらしていると、スーツ姿の蓮沼千影(
ga4090)と深い濃紺に華鳥が飛び立つ模様の晴れ着をきた月森 花(
ga0053)と出会った。
「よう、ライディじゃないか」
千影は手を軽く上げて挨拶をする。
「どうもです。初詣が終わっているようでしたら、ちょっとインタビューいいでしょうか?」
ボイスレコーダーを見せつつ確認を取る。
「ああ、かまわないぜ? 俺を取材? メールなら出したって話はやめたほうがいいよな?」
苦笑する千影の横で花が千影の腕を掴みつつ、ぴょんぴょんと跳ねて意思表示をしている。
「あ、ボクも、インタビュー受けたい〜」
「花ちゃんにも聞くよ。そういえば手に持っている人形は?」
「あ、これはさっき射的屋さんでゲットしたんだ! おみくじも大吉だったし、今年一年いいことがありそうだよっ!」
「そっか、それは良かったね。では、本題に‥‥」
いきなりインタビューでは緊張すると思って、あえて話題を変えてから挑んだ。
「うん、何でも聞いてよ」
元気に答える花は後の質問を聞いて、発言を取り消したい思いに駆り立てられた。
「貴方が神社でお願いしたのはなんですか?」
「えっと、そ‥‥そんな質問きいてないよ〜」
「今言いました。何でも答えてくれるのですよね?」
ライディは微笑みながら聞く。
こういう生の反応を見られるのはとても楽しいと思った。
「えっと‥‥た、大切な人が、これから先も平穏無事に暮らせますようにって‥‥」
花は勇気を出していうと、そのまま小さくなる。
「ありがとうございます。千影さんはどうですか?」
「俺か? 俺は『大好きな人たちが、みんな幸せに』ってお願いしたぜ」
「二人とも、自分よりも人を大事にするのですね。能力者の皆さんがそうであってもらえると、僕たちは安心して生活できますよ」
「そ、そうか?」
ライディの言葉に千影が照れくさそうに頭をかく。
だが、千影の脳裏には別の思いがあった。
(「い、いえん‥‥俺の健康と、素敵な出会いと、その他諸々も願っていたなんて‥‥」)
「それじゃあ、僕はこれで失礼しますね」
ライディは一礼をして、レコーダーを切る。
そして、次なる人の取材へと向かっていった。
「取材がんばってね、ライディさん」
「がんばれよ、応援してるぜ!」
二人の言葉を背に受けると、追い風を受けたかのようにライディの足取りは軽くなった。
●なれない仕事は難しく
「中々、集まらないものですね‥‥」
ハンナはラルス・フェルセン(
ga5133)の露天茶店『招き猫』で一息ついていた。
冷えている体を暖かい紅茶が温めてくれている。
目の前を通り過ぎる人の数は多いが、答えてくれる人は少なかった。
(「主よ、これも‥‥私に対する試練なのでしょうか‥‥」)
ふぅとため息が漏れた。
そんなハンナに鶸色の羽織に着物姿のラルスが紅茶のお代わりを出す。
「何を迷っているかーわかりませんがー。とにかくー、やれることをーやりきればーいいですよー」
にっこりとラルスは笑う。
「そうですね、結果は後からついてきますものね」
ラルスの言葉にハンナは微笑みを返した。
「がんばってーくださいねー」
駆け出すハンナに対して、ラルスは気の抜けそうなエールを送った。
●初詣は賑やかに〜その3〜
「おぉ、さっちんが綺麗なお姉さんと初詣‥‥彼女さんかなぁ」
空閑 ハバキ(
ga5172)は参拝客ウォッチングをしながら的屋をしていた。
「ちっちと、花太郎はこっちに来て飴かってってよ。一個はプレゼントするよ〜」
「わ〜、綺麗〜♪」
そんな感じで知り合い相手に商売をしているハバキの元に、ライディが顔をだす。
「どうも〜、『Redio−Hope』のライディ・王です」
「あ、ライディも取材お疲れ〜。去年はありがとな。あめちゃんをあげよう〜」
ハバキが差し出したのは風のような白い模様が入った青りんご玉。
「あ、ありがとうございます。取材で出歩いていたから口が渇いて‥‥」
飴玉を早速なめだすライディ。
「ははは、それはそれは。そっちのお嬢ちゃんもどう?」
ハバキはライディにエールを送ると、次のお客のゲットにでる。
もっとも、ハバキが声をかけたのは、少女が困っていたからでもあった。
「愛紗のこと?」
パンダのデフォルメされた人形を抱きかかえていたのは愛紗・ブランネル(
ga1001)だった。
「そそ、待ち合わせしてるなら飴でもなめてない? 可愛いから一個はサービスするよ〜」
「うわーい、お兄ちゃんありがとう! よかったね、はっちー」
にぱぁと笑顔を振りまいて、愛紗がはハバキの方へ駆けてきた。
「いろんなのがある〜」
「飴をなめる前に君にも取材していいかな?」
目の前のライディは視線を愛紗に合わせるよう屈んでボイスレコーダーを向けた。
「しゅざい? ‥‥あ! ラジオのお兄ちゃんだね!」
愛紗は少しおびえたが、ライディの二の腕に巻いてある『Redio−Hope』の腕章をみると明るく笑った。
「そうだよ。名前は教えてくれなくていいから、今日お参りしたことを聞かせてくれないかな?」
ライディは照れくさそうに笑って、ボイスレコーダーを愛紗に向けた。
「いいよー。えっとね、愛紗のお願いは『本当のダディと会えますように』と、『ぱんだグッズがたくさん集まりますように☆』だよ」
「愛紗ちゃんはパンダが好きなんだね」
「うん! 愛紗、パンダ大好きだよ〜 あ、お兄ちゃん。愛紗この飴がいい」
愛紗はライディに答えながらもハバキの店で飴を一つもらった。
白と黒のマーブル模様をしたパンダっぽいものだった。
「それじゃあ、僕はこれで失礼しますね」
「あ、お兄ちゃん。楽しそうだから一緒についていってもいい‥‥かな? 愛紗、お仕事の邪魔はしないから〜」
立ち上がったライディに対して、愛紗ははっちーを抱きしめつつ上目遣いで頼み込んだ。
「僕はいいけれど‥‥よろしくね?」
「うん! はっちーもよろしくだって」
手を差し伸べるライディに愛紗ははっちーの右手を差し出して答えた。
握手をしたあと、ライディは愛紗の手を握って次の店へと出歩いていった。
「いいものみたな〜、がんばれよ。ライディ」
ハバキはその光景を暖かく見守る。
冷たいはずの風は、もう感じなかった。
●おなかがすいては仕事にならない
「すごい、いつの間に‥‥」
「すごくきれー!」
年末のクリスマス飾りから、正月飾りに様変わりしたスタジオを見てライディと愛紗は驚いた。
「あ、ライディさん。あけましておめでとうございます」
樹エル(
ga4839)がスタジオで音響装置の準備をしながら出迎える。
「樹さんもあけましておめでとうございます。年初めからありがとうございます」
「私が好きでやっていることですから、レコーダーの編集やりましょうか? ハンナさんのはもう預かっていますから」
「あ、お願いします。ノイズとりとか樹さんのほうが得意そうですし」
ライディは照れながら樹にボイスレコーダーを手渡した。
「ライディ君‥‥お疲れさま。その子は?」
リンが雑煮とお節をテーブルに広げながら、ライディの手を握ってパンダのぬいぐるみを持っている愛紗に視線を向ける。
「見学希望者ですよ‥‥興味を持ってくれた小さなリスナーさんです」
ライディは椅子に座って暖かい雑煮を食べだす。
「愛紗だよー、こっちは『はっちー』っていうの」
愛紗はぺこりとお辞儀をし、起き上がると共にはっちーの手を持って振る。
「そう‥‥私はリンよ。ラジオでは‥‥しゃべってないけど、ここのスタッフをしているの。雑煮と‥‥お節があるから‥‥食べてまっていて」
「うん、リンお姉ちゃんありがとー」
リンからお雑煮の器をもらうとソファーに腰掛けて愛紗は食べだした。
「リンさんって、和食が作れるですね‥‥こういっちゃ何ですけれど、意外です」
ライディは暖かい雑煮を食べつつ、ぽつりと感想を述べた。
「地域ごとに、味が違うらしいけど‥‥これは、母の直伝。不味かったら残しても‥‥かまわないわよ?」
「美味しいですよ。自炊は時間がなくてあまりやれないので、こういうのって本当に嬉しいです」
ライディの言葉を聞くとリンは珍しく満足そうに微笑んだ。
●仕事初めは厳かに〜その1〜
「ライディ・王の『Wind Of Hope!』」
タイトルコールと共に、樹の編曲した新春ミュージックが流れ出す。
「皆さん、あけましておめでとうございます。昨年もラジオを聴いていただきありがとうございます。今年も希望の風を皆さんにお届けできたらと思います」
「あけましておめでとー。葵・コハルです。年初めの臨時スタッフとして今回も参加させていただきまーす♪」
息の合った二人のトークで番組ははじまった。
その様子をみて、ハンナや樹たちは微笑む。
「早速。コハルさんに皆さんからいただいたメールを読んでもらいたいと思います」
「年明けらしく、元気にいくよー」
「投稿テーマは覚えていますか?」
「えっと、『今年の抱負』だよね? 私の豊富は『少しでいいから成長したい』です。何かは乙女の秘密でっ!」
「それはある意味ネタばれなのでは‥‥」
すかさず突っ込みを入れるライディ。
「あはー、細かいことは気にしないでメールにいこう! うん、そうしよう!」
「では、一発目は私からいきますね」
『大きな抱負はゴットハンドと呼ばれる様な整備士になりたい!
いつか『こんなこともあろうかと‥‥』って台詞を言えるような人になりたいよね
小さな抱負は、健康第一かな? 身体あっての職業だしね
RN:ゴットハンドと呼ばれたい』
「『こんなこともあろうかと』って台詞はサイエンティストの人で使う人おおいよね」
「一種の決め台詞なのでしょうかね? 万国共通の標語のようで面白いです」
ライディは苦笑しながら手紙を読み終える。
「じゃあ、次は私が‥‥」
『私は風になりたい
遥かな空で、彼方の地平で、戦い続けるあなたのために
唯一言伝えられればいい。待っていますと
ああ、私は風になりたい
RN:マリア』
「これって、詩?」
「詩ですね。こんなメールは珍しいです」
「でも、純粋な気持ちが伝わってきて、あたしは好きです!」
「そうですね、これを聞いて、思いあたる節のある方。一度、待っている人の下へ帰ってあげてくださいね?」
「次のお便りよみまーす」
『あけましておめでとう、希望の風の諸君!
放送はいつも楽しみに聞いている!
一般人が、能力者が何だというのだ!
知恵こそ我々の最大の武器であり、希望なのだ!
今年こそ、あのブライトンという輩の鼻をへし折ってやろうぞ!
RN:あの鼻くにゃっとまっがーれ↑』
「このRNは発音指定があるっ! あはは、おもしろーい」
「きている本人さんも面白い方なのでしょうね。きっと」
「次の大きな作戦も控えているし、出てきたらへし折りますよ〜。そりゃもう、ばきっと」
「くにゃっとくらいにしてあげましょうね」
コハルの派手な発言にライディはなだめるかのように突っ込みを入れた。
『明けましておめでとうございます!
初物は縁起が良いそうで初メール投稿です♪
私の『今年の抱負』は『勇往邁進』
島へ来て約一月、不安や怖さはたくさんあるけれど、成功も失敗も栄養にして自分らしく頑張りたいと思うのです
そうして皆で笑顔で居られたら良いな
それからこの場を借りて、知り合えた皆さんに届け新年最初のありがとう
特に喧嘩の多いお兄二人には、もっと仲良くなれるよう幸あれ!
それでは、今後も放送応援してます!
RN:六火(りっか)』
「写真の添付がありますが‥‥こ、これは『幻想領域』のため放送できません」
「幻想領域って何? ライディくん」
「それは秘密です〜次のお便りっ!」
ライディは詰め寄るコハルを何とか反らして次へいく。
『今年もマイペースに、小さな幸せをコツコツと積み重ね
小さな喜びが集まって大きな喜びになるよう、地道に頑張ろうと思います
『幸せだ』と思える心が大切だと思いますから♪
ほっと小さな幸せを感じたい方は、神社の露天茶店『招き猫』までどうぞ♪
RN:招き猫の王子様』
「ちゃっかり宣伝してる‥‥」
「こちらのお店にもお邪魔しましたが、いい雰囲気でしたよ。その模様はのちほど収録放送で流しますね」
「どんなものが流れるか楽しみ! じゃあ、前半最後のメール読みます」
『私、蹴り専門グラップラーなの
ショップで売ってる装備って手に装着するものだけでしょ?
それじゃ困るのよね〜
だから、足に装着する武器を開発してもらえるようにする事!
これが今年の目標よ♪
私以外にもそう思っている人いると思うんだけどな〜
RN:どんだけ〜♪』
「あははー、グラップラーさんでそういうこといっている人、多い! 多いよ!」
「そうなんですか?」
「うん、どうしてできないのか謎。ブーツはブーツで売っているからかな?」
「未来科学研究所の皆さんがこれを聞いて開発してもらえると嬉しいですね」
「ジョンさんの胃に穴が空かないうちに早く作って!」
コハルのテンションは絶好調であった。
ライディが不思議に思って顔をみれば赤い。
甘酒を飲んでいて、酔いが回っているようだった。
「えっと、CMを挟んで収録放送を流します。周波数はそのままでよろしくお願いしますね」
『タコヤキといえば、屋台『なんでやねん』
能力者も絶賛の屋台『なんでやねん』をよろしく〜
「そこらの店のタコヤキより、なんでやねんの方がおいしいな」』
●初詣は賑やかに〜その4〜
CMが終わるとざわざわとした声が聞こえだす。
足音も多く、聞き取れる範囲では「あけましておめでとう」という挨拶がそこらじゅうから聞こえてきた。
あえて臨場感を得るために樹は残したのである。
「ただいま現場より中継中です‥‥というとTVみたいですけど。今は初詣のためにある神社に来ています」
ざわざわとした声の中、ライディが中継をしていく。
「早速ですが、インタビューを開始していきますね。そこの方〜」
「あ? 俺? ‥‥あ、いいねぇ」
ほろ酔い気分で歩いている男性にライディは声をかけた。
夏樹の方は周囲の綺麗どころに目を奪われつつ、手持ちの日本酒を飲む。
「了承も得られたところで、インタビューに入ります。『願い事』は何をしましたか?」
「いや、さっきのはそういうのではなくてだな‥‥まぁ、いいか。今年も綺麗な女性たちに囲まれて生活したいなーっと‥‥今現在は募集中だけどな!」
けらけらと笑い、夏樹はライディの肩を叩いてさっていった。
「お正月でノリノリな人がいるようです‥‥あ、あちらでも盛り上がっているようです」
特に喧騒の多い方へライディは進んでいった。
そちらでは、焼きそばを大量に食べている二つの陰。
「グラップラーは、その瞬発力を利用して、重量を攻撃力に転換しなきゃならないからね。ウエイトは必要だよ」
眼鏡をはずして優しい微笑みを浮かべながら焼きそばを食べている男性に声をかけているのは白衣の男性。
「もちろん、体格と攻撃力はなくても、小兵であることを利用して、その素早さで敵を翻弄するグラップラーもいるね」
次に女性の方を向いてサイエンティストらしいデータに基づくアドバイスを白衣の男性は述べていた。
「大食い大会でしょうか? 白衣の方に聞いてみようと思います」
ライディはそういって人並みを押し分け、白衣の男性の元へとたどり着いた。
「どうも、『Redio−Hope』のライディ・王です」
「ああ、ラジオ聞いているよ。僕はウェスト研所属の国谷・真彼だよ。今日は二人の保護者としてこの初詣にきているんだ」
「保護者‥‥見た目ほど年取っているようにはみえませんけれど‥‥」
「そういってくれると嬉しいね」
ふふりと真彼は笑う。
心底二人と共にいるのが楽しいようである。
「初詣の願いごとをしたのならば、聞いてもいいでしょうか?」
「うん、そうだね‥‥」
録音のことなど気にせず、焼きそばを食べ続けている男女を見て真彼は少し考えている。
「さしあたっては、この二人が幸せにかな?」
真彼は微笑みそう答えた。
「ありがとうございます」
ライディがその場を離れていくのか、喧騒が遠ざかった。
「あ、WoHのスタッフさんですか? 既に取材始まってるんですか?」
そんな時、糸目の男性からライディは声をかけられた。
男性の隣には赤を基調とした薔薇模様の着物に白いファーをつけた女性がいる。
「あ、はいライディ・王といいます。今日は取材できています。皆さんから『初詣のお願い』を聞いて回っているところですね」
「ボクのお願いは『怪我の無いようにしぶとく生き残れますように‥‥』ですね。おみくじも大吉だったので、幸先よさそうです」
男性は糸目をさらに細くして答えた。
隣の女性は男性と腕を組みながら、妖艶に微笑んで答える。
「私は『運命の人に出会えますように』かしらね‥‥やだ、自分でいってて熱くなっちゃた」
いい終わったあと、恥ずかしさの余りに女性は頬を染める。
「咲さん、場所かえましょ」
「そうですね。ライディさんもがんばってください」
咲と呼ばれた男性は一礼をして女性と共にライディから離れていった。
●この一年を健やかに
「いろんなコメントがあるね‥‥こういう時間をつくれたライディさんに感謝しないと」
風はイヤホンから聞こえてくる言葉を楽しんでいた。
ハンナが奮闘している様子が特に微笑ましく風には聞こえる。
初詣と共にデートを楽しんでいたホアキンと風。
二人はスタッフ参加できなかった分、ホアキンの持つ携帯ラジオを二人で聴いている。
「ああ、そういえば風の『今年も健やかであります様に』というのは実に風らしい」
「ホアキンさんの『俺は風を幸せにしたいので、俺たち【希望の風】を、リスナーと共に温かく応援して下さい』っていうのは恥ずかしい‥‥よ」
風は頬を染めて、ホアキンの腕を強く抱きしめる。
「おみくじが大凶だった分、みんなの力を借りたくってな」
ホアキンは煙草の紫煙を揺らしながら遠くを見る。
「私の本当のお願いは違うんだよ?」
「どんなお願いをしたのか、聞きたいな」
「チョット屈んでくれるかな?」
風は上目遣いでホアキンにねだった。
その愛しい姿にホアキンの心は揺さぶられる。
そして、ゆっくりと屈む。
「私の本当のお願いは『私達がずっと一緒にいられますように』だよ」
風は少し背伸びをして頬にキスをする。
イヤホンからは、二人を祝福するかのような声が聞こえてくる。
『では、ライディさんのリクエストに答えて、恋する二人へ送る曲を弾きますね。自分じゃないのが少し寂しいけれど』
その声の後に続くは十七絃の音色。
綺麗な音色に誘われるかのように、ホアキンは風を正面から抱きしめ、二人の影が重なった。
●仕事初めは厳かに〜その2〜
「中継は楽しかったみたいだね」
放送が終わり、十七絃による曲が終わった後番組は再開した。
コハルは水を飲んで大分楽になった模様である。
「再び、メールコーナー行きましょう」
「はいはーい、一気に2枚読んじゃいますよ」
『傍にいると、微笑むそよ風に頬をくすぐられ、心の底から穏やかになれます
俺はあなたを本気で幸せにしたいと願い始めました
折を見て、気紛れな風に求婚したいと思います
RN:青空の闘牛士』
『去年、沢山の人に支えられて手にした仲間と幸せを離さない様
毎日を大事に過ごしていきたいです
RN:どら猫』
「特番ごとに進展しているね。青空の闘牛士さん。祈ればきっとご利益があるかも!」
「どうなのでしょう? でも、番組が縁になっていてくれていたなら嬉しい限りです」
「ははは、出会い系番組になっちゃうね。これ」
コハルの妙なテンションがライディやスタッフには不安ではあったが、番組を強行した。
『お仕事を頑張るのは勿論のこと、音楽に恋に頑張るわ!
‥‥まだ恋のお相手はいないけれど
どんなに辛くても負けません――色々な意味で
ライディさんも頑張ってねv
RN:ゆーり』
「恋かぁ、あたしももうチョット成長したらしてみたいかも」
「成長って?」
「ライディさん、それKY〜」
素朴な疑問を呟いたライディはコハルから白い目で見られた。
「KYって何なのですか‥‥」
「最近の流行は自分でチェックしようね♪」
ライディの疑問をスルーしてコハルは進行を進める。
『いつも楽しく拝聴しております
抱負ですが「人に優しく自分に厳しく」と決めました。今決めました
昨年を振り返るとどうもだらけていた感があったので‥‥
この番組の成長と共に、自分も成長していければ、と思います
と、抱負と関係ないけど一言も
「二人とも、末永く仲良くな!」
わかる人がわかればいい
今年も皆様、頑張ってください!
RN:企業戦士チカゲ』
「企業戦士チカゲって、アニメにありそうだよね」
「そうですね、というかこれってRNにしてもばれてしまいそうな気がします」
「新年から恋が多くていいね!」
「そういえば、こんな手紙も来ています」
『一緒に空を飛ぶ相棒を見つけること
今年の目標はこれですね
皆さんは相棒、いますか?
RN:空を飛ぶ狐』
「相棒かぁ、いろんな意味に取れる言葉だよね。傭兵としては武器とかナイトフォーゲルも相棒といえるし」
「そうですね。私も決まった相棒とかいませんが皆さんにできてくれることを祈ります。もうすぐバレンタインですからね」
ライディの笑い声が聞こえ来たが、どこか寂しそうなのは気のせいか。
「バレンタインといえば、予告とかしなくてもいいの?」
コハルがライディに振ってくる。
ライディの視線がリンの方に向くと時間も厳しいようだ。
「そうですね。では告知を! 特別番組が毎月行われるようになりました。これもリスナーの皆さんのおかげです!」
「おめでとー!」
コハルがパチパチと手を叩く。
「来月はバレンタインにあわせた特別番組をやります。ラジオで『告白したい(されたい)シチュエーション』のアンケートを集計して、その舞台を用意させていただきます」
「お金大丈夫なの?」
「何とかします‥‥ためてはいましたから。また、今後はラジオドラマ企画や通常番組の充実なども行っていきます。これからも『Redio−Hope』をよろしくお願いします」
苦笑してライディは答えて、改めてスタッフのリンや樹、ハンナ。
そして、見学に来てくれた愛紗。
最後に目の前にいるコハルを見回して礼をしながら締めくくった。
「私も正規スタッフになってがんばろうと思うので応援よろしくね〜」
コハルもライディともどもにリスナーに向かって挨拶をする。
「今年一年、皆さんに希望の風が吹きますように‥‥それでは、また次回まで See You Again!」