●リプレイ本文
●ドキドキ土木作業
グオングオンと鈍い音を立ててエレベーターは下がる。
ロサンゼルスへ到着した能力者達は現地のUPC北中央軍に地下へと案内されていた。
「初めての依頼ですけれど、上手くできるのでしょうか?」
ヘルヘブン250のコックピットではイーリス・クリスタル(
gb9477)がマニュアルを片手に操作方法を確認している。
軍から支給された大きな玩具[ロボット]はお嬢様育ちのイーリスにはハードルが高かった。
『わくわくで〜す』
ユーフォルビア(
gb9529)が人型形態のシラヌイで準備体操を始める。
シャープなボディラインのシラヌイには機杭「エグツ・タルディ」やウィガードリルなどゴテゴテした装備がなされていた。
『こちらも積荷用に荷台を換装してもらえましたし、砕石運びは任せてください。地下鉄掘りが経験できるなんて嬉しいな!』
アルティ・ノールハイム(
gb9565)はリッジウェイの肩を動かして、依頼前の気合を表す。
『表にバイパーを置いてこなければなりませんでしたが、リッジウェイへハンマー等を装備できましたので削岩作業を勤めさせていただきます』
祝部 流転(
gb9839)も借り受けたリッジウェイの操作具合を確かめていた。
地下へと進むエレベーターの中は多くのKVが入りすし詰め状態である。
『‥‥え、えと‥‥私も機体を貸していただけました‥‥。穴を掘るのは‥‥私の機体は不向きですから‥‥』
結城 有珠(
gb7842)のおどおどとした様子が言葉からでも伝わってきた。
掘削用装備の多いリッジウェイはまさしく今回のような作業にはうってつけである。
『リッジウェイがたくさん並ぶと壮観ねぇ‥‥。私も補給や移動でなくちゃんとしたリッジウェイマスターになるため土木作業を頑張るわ』
カンタレラ(
gb9927)のリッジウェイ改は周りを眺めそして正面の扉へ向いた。
エレベーターが止まり、電子扉が開くと横穴のと真ん中、地下の空洞が目の前に広がっている。
「よいよ、ここからが任務‥‥き、緊張してきます」
静かな世界に緊張してきたイーリスは深呼吸をしてからエレベーターからヘルヘブン250を降ろすのだった。
●眼下の動き
「足元の注意は任せておけ。安心して作業しな」
右肩にSemper fidelis(常に忠誠を)と言う海兵隊のモットーが書き込まれているリンドヴルムが指示をだす。
ACU迷彩塗装がされているそのAU−KVの装着主はアレン・クロフォード(
gb6209)だ。
『は、はいわかりました‥‥』
アンジェリカに乗った星月 歩(
gb9056)は恐る恐る動かし、ヴァイナーシャベルを土壁に突き立てて掘り始める。
大規模作戦や実戦はあるにしてもKVの操縦に自信があるわけではない‥‥ましてや生身の人間との共同作業ともなれば神経を使った。
「そんなに緊張する必要も無いんだが‥‥慣れか」
アレンはぎこちない動きのアンジェリカを見上げながら次に動く。
「あちょーっ! いったぁぁぁいアル!?」
動こうとした先ではトロ(
gb8170)が足を抱えるようにしてごろごろと地面を転がっていた。
ミニなチャイナで行うには少々眼の毒な行動である。
「何をやってんだよ‥‥」
『土壁に思いっきり蹴りを入れて痛がってるってところ。ここの岩盤は固そうだから表面を削っておく』
飽きれるアレンへアクセル(
gc0052)が翔幻に装備されたシールドソードを使い細かく刻み始めた。
アリアンロッドと名づけた愛機に早く慣れようとアクセルも慎重に作業を進める。
「掘り出された石を運ぶぞー! 傭兵に負けちゃあガテンの恥だぜ」
KVによる掘削作業が進む中、逞しい肉体を持った男達は石を集めては運搬用に確保してあるリッジウェイへ積み込み地上へと運びだした。
地下での作業に慣れているいわばベテランの動きにアレンは元いた海兵隊のことを思い出す。
「注意点は岩盤のもろいところを攻めすぎるなだったな。各自気をつけろよ」
地上でのレクチャーを振り返りアレンは仲間へと指示をだした。
「復活したアル! ガンガンいくアルよー!!」
痛みを耐え抜いたトロは立ち上がり、再び<疾風脚>で加速するとKVでは行い辛い人の通る道や空気穴の確保のための穴掘りを両手両足を使って行う。
漫画のような行為だが、能力者がゆえに可能なことだ。
猫眼で、虎のような模様を全身に浮かびあがらせるトロは虎獣人のように見える。
「けほぅけほぅ、煙たいアルー」
しかし、掘り進めることで舞い上がる土煙にむせ、かっこよく決まらないトロであった。
●ブレイクタイム
「‥‥あの‥‥お疲れ様です‥‥。よろしかったら‥‥これ‥‥どうぞ‥‥」
休憩時間。結城は傭兵や共に仕事をするおじさんたちにクッキーや飲み物を渡す。
「手作りクッキーかい? こいつぁありがてぇなぁ!」
「おまえんとこの嫁さんはレンジでチンだもんな」
「うるせぇよ!」
結城は怯えに近いまなざしを緩めてほっとした。
美味しそうにべてくれる人々の顔をみるものは嬉しい。
「お疲れ様〜。どうですか? 作業の進み具合は‥‥」
アルティがひょっこりと顔をだしてきた。
「お前さんらのお陰で半分くらいいったさ。かなり順調だぜ?」
「KVを動かせるやつらが多いと楽だよなぁ‥‥助かってるよ」
ガタイのいい兄さんに肩を叩かれ、アルティは思わず前に倒れ掛かる。
「んなことよりも、こうも綺麗どころばかりを集めて仕事できるってのが一番だな」
「男が3に女が7‥‥確かに華がある」
ガハハと笑うおじさんに同調するかのようにアレンは目を軽く伏せつつ笑った。
「おっちゃんお世辞上手いアルねー。これ僕の作った肉まんアルよ。食べてほしいネ」
和んだところにトロが手作り肉まんを一人一人に配る。
蒸篭ではなくリュックに入っていたのだが、気にしてはいけない。
形はちゃんとしているのだから‥‥。
「これはまた美味そうだなぁ‥‥うん、美味い美味い」
何事にも動じないおっちゃんは美味しそうに肉まんを頬張った。
「‥‥本当に、美味しいです‥‥。私も、こういうの‥‥作って‥‥みようかな?」
肉まんを食べていた結城がぽつりと呟く。
「お料理が上手なんて羨ましいです。あたしの料理は倒れる人が出てしまうくらいで‥‥」
同じく肉まんの味に感動したイーリスは羨ましそうにトロを見た。
「あとでレシピ教えるアルよ。秘伝のタレは秘密アル♪」
ウィンクしながら口元に人差し指を当ててトロがくるりと回る。
「華があっていいですねぇ、親方」
「まったくだぜ」
可愛い女の子達の一挙一動にガテン系の男達はただ涙を流して感動に打ち震えるのだった。
●ここほれわんわん?
「‥‥南西に10メートル動きます、其方の方向の方は退避を御願いします」
流転がディスプレイに写る画像をモノクルに反射させながらリッジウェイを動かす。
メインウェポンとして装備されている機杭「ヴィカラーラ」からレールガンのごとく加速された杭が撃ち出され岩盤を貫いた。
ビキビキとひびが入り、崩れかかっている壁をそのまま流転はKVハンマーで叩いて大きく崩す。
『一気に崩れたわね。歩さんに私の機杭「ヴィカラーラ」貸すわ。掘る場所は流転さんの隣からね‥‥私は採掘された石の運び出しの方へいってくるわ』
流転の様子を見守っていたカンタレラが歩の乗っているアンジェリカへ装備を手渡すと崩れた岩盤を回収し外へと運びだしていった。
土煙が舞い上がるなか、流転の方はそのまま奥へと掘っていく。
『これが私のできること‥‥』
受け取った機杭をアンジェリカは両手で抱える様に持ち、カンタレラに指示されたポイントに向かってドスンと杭を撃ち込む。
ヒビの入った箇所へシャベルを使って広げる。
記憶がなく、流されるままに能力者となって戦ってきたいた歩にとって、自分の出来ることがあるのは助かっているようだ。
「歩さん、ただ真っ直ぐではなく足元とかにも気をつけて。掘ったときにでる土煙入りも大量ですから作業員の方を踏まないようにお願いします」
作業員から借り受けた工程図や地質の資料に目を通しながら流転は探る方向や、一度待って様子を見るなど安全第一に行動をしていった。
『きゃははは♪ 楽しいですね〜。お宝ないかな〜♪ ないかな〜♪ 油田でも温泉でもでろでろん♪』
戦闘に明け暮れていたユーフォルビアはこの地味だが手ごたえの見えやすい作業を心のそこから楽しんでいる。
気楽な呟きが拡声器を通してあたりに響いた。
「ユーフォルビアさん、注意していませんと崩れやすい箇所もあるのですから‥‥」
流転が注意したのもつかの間ガツンと金属音がなる。
訪れる沈黙。
『ガツン?? 何に掘り当てた?? お宝? お宝?』
ヴィガードリルを思い切って引っこ抜くとドバッーと水が噴出した。
「なんだ、配管があるなんて聞いてねぇぞ!」
「使われないところか、空港に繋がっているので抜けがあったんですかね?」
ハプニングに作業員達に動揺が走る。
どれだけの水が流れ込んでくるかわからないが早く処理をしなければ作業どころではないのだ。
『ありゃりゃ、ごめんなさーい』
「謝るのは後にして動きましょう」
慌てふためいたり、修復作業に走るものがいるなか、ユーフォルビアはマイペースである。
大物の片鱗を見せているが、とにかく今は被害の収束が第一だと流転は考え、掘削作業を中断した。
『運びかけの石、まずはここに降ろして借りのダムでも作る? リッジウェイ改もこのまま陣取れば多少は役に立ちそうよ』
戻ってきたカンタレラが歩のほった石材を持ってきてバリケードを用意し始める。
「あ、あの‥‥私にもできることありませんか? 体力には自信ありますから修理の仕方さえ教えてもらえれば何とかできるかもしれません」
歩がアンジェリカから降りてくると作業員に自分から仕事を求めた。
「それじゃあなぁ‥‥」
(「‥‥実際もう少しサポートを主とする職になるのかと思ってましたけど‥‥人は見かけによらないってこうゆう事を言うのかもしれないですね 」)
作業員からの話を聞きながら歩は今、自分がダークファイターというクラスであることを思い返し、苦笑する。
(「でも‥‥体力のあるクラスだからできることもある‥‥がんばろう」)
すぐに真剣な顔に戻り歩は作業員の説明を受けて修理作業の手伝いをはじめるのだった。
●依頼完了!
『おじさん。積み終わったよ』
「おーし、それでラストだ。しっかり運んでくれよ、坊主」
リッジウェイの足を作業員が手の甲でコツンと叩くとアルティの乗っているリッジウェイが出発する。
「かなり広い穴だな‥‥短期間でよくやれたもんだ」
AU−KVで積み込みをしていたアレンが出来上がった穴を眺めてヒュゥーと口笛を鳴らした。
「作業終了か。‥‥案外長いようで短かったな。みんな、お疲れ様」
ローテーションも兼ねてアレンと同じようにAU−KVで作業をしていたアクセルが労いの言葉をかける。
操縦に慣れるためには全身を使った動きはいい経験だった。
「意外と機体コントロールってのは難しいな‥‥。これで戦闘なんていったら頭こんがらがりそうだ」
アクセルはKVに乗りながらの作業を思い返し、宙空の操縦桿を握るしぐさと共に動かしてみる。
激しい戦闘を行うのは大変そうだった。
「ま、人間慣れってものがあるさ‥‥線路を轢いたりとかはやらなくっていいのか?」
「まだ、資材が無いからな。ここまで下地が出来ればレールを轢く何ざ、朝飯前よ」
アレンが作業員に聞くと、作業員はガッツポーズを作って答える。
「それじゃあ、今夜は飲んでも大丈夫なのね?」
リッジウェイ改から降りてきたカンタレラは目を輝かせて作業員と合流を果たした。
楽しい事が根っから好きなようである。
「飲み会ッスか? 綺麗な子達といけるならいいとこ紹介するッスよ!」
カンタレラの提案に男どもが騒ぎ出した。
「未成年が多いってのに飲み会を提案するか? いや、俺も誘うつもりだったんだがな」
アレンはばつが悪そうに頭を掻く。
「打ち上げ楽しみアルよ。今日みたいな困ったことがあればいつでもUPCに連絡してネ。すぐに飛んでくるアルよ♪」
仕事終わりということもあり元気になったトロが泥まみれ、土まみれの姿で名前の焼印がされた肉まんを配りだした。
「こんなに早く仕事が終わるんなら頼りにさせてもらうぜ、傭兵さんよ」
「ありがとうございます。えっと、まだまだ未熟ではありますがこれからもお役にたてますよう頑張ります」
作業員からの褒め言葉にイーリスは嬉しくなって頭を下げる。
人々の役に立てたことが何よりも嬉しかったのだ。
その後、ファミリーレストランでの楽しい打ち上げを終え、傭兵達は帰り支度に入る。
思い出と経験を後に傭兵達は次なる任務へと旅立つのだった。