タイトル:IMP〜小悪魔の休日〜マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/26 07:04

●オープニング本文


「事務整理もようやく終わったがね〜。おかげで9月の展開を逃しとったでよ」
 砕けた名古屋弁を口にしながら米田時雄はネクタイを緩めて椅子に腰をかける。
 メンバーの脱退のことを協力会社などに伝えて、また新体制の連絡をしてとプロデューサーとしてアイドルのためにがんばってきたのだ。
「秋の新企画のオファーが来ていますがいかがされますか?」
 疲れた様子の米田とは裏腹に秘書はいつもと変わらぬスマイルを浮かべながら書類を手渡す。
 米田以上に影にがんばっているのだが、いったいどこにそんな体力があるのか米田にも謎だ。
「『アイドルの秋の過ごし方DVD(仮)』ときたかね」
 企画書のタイトルに米田は目を惹かれる。
「自然な姿をとるプロモーションDVD風のようですね。カメラマンをあえて使わず互いに取り合うほうが自然な感じになるかもしれません」
「そうだね〜。この辺はIMPかALPか‥‥もう一つ、男性ユニットのみでグループ分けしてそっちにしようか迷うところだがね」
 現状男性アイドルは登録をしていても中々活動履歴が少ない。
 彼らのやる気というよりは仕事の種類ではないのかと米田も考えていたのだ。
 独立させてプロデュースする方が効率はいいが、果たしてまだ彼らや他の眠れる男性アイドル達は協力してくれるのか‥‥。
「ともかく、公言どおりDVDになるならIMPという扱いでいくでよ。ALPにはもう一方のゲーム参加の方をやってもらうでよ」
 米田は別の企画書で興味を引いたものを一つ分けて秘書へ返した。
「畏まりました。マネージャーの方にもその旨伝えておきます」
「残り三ヶ月、がんばらなあかんで、よろしくたのむでよ」
 恭しく頭を下げる秘書に軽く手を振り米田は送り出す。
 社長室に一人残った米田は窓から見える町を眺めた。
 IMPやALPの曲がかかる日も増えてきて、一年以上前の苦労が嘘のようである。
「それでも、胡坐をかくわけにはいかんでよ」
 自分に言い聞かせるように呟き、企画書の最終確認へと米田は移るのだった。

●参加者一覧

雪村 風華(ga4900
16歳・♀・GP
Innocence(ga8305
20歳・♀・ER
大和・美月姫(ga8994
18歳・♀・BM
終夜・朔(ga9003
10歳・♀・ER
鷹代 アヤ(gb3437
17歳・♀・PN
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
沖田 神楽(gb4254
16歳・♀・FC
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
フェイト・グラスベル(gb5417
10歳・♀・HD

●リプレイ本文

●旅立ちの秋
「久しぶりの芸能活動ですね‥‥。しっかりこなさなければ‥‥、失礼します」
 風雪 時雨(gb3678)は社長室のドアをノックした後、中へ入る。
 既にInnocence(ga8305)がメイド服姿でお茶を飲んでいた。
「よくきましたね、こちらに座ってください」
 スーツ姿の米田をみて、時雨は重要な話だろうと感じる。
「折角ALPに参加させていただいたのにあまり芸能活動に参加できずにもうしわけありません」
「いえ、気にしていませんよ。それよりも貴方を呼んだのは他でもありません。ローデン事務所の方から移籍届けがありました」
 米田は笑顔のままに分厚い資料を時雨に手渡した。
「移籍‥‥ですか?」
「ええ、あちらからは貴方の希望ということで聞いていますので‥‥手続きは私の方でしておきました。今回がこちらでの最後の仕事ですのでがんばってください」
「あ‥‥はい、この場合何と答えたらいいのかわかりませんが‥‥ありがとうございます」
 時雨は米田に頭を下げ書類を手にすると一足先に撮影に向かう。
「えっと‥‥わたくしはどうして呼ばれたのでしょうか?」
「今回のDVDの趣旨は秋をテーマにした休日といっていたのですが貴女はイメージが違うようですね?」
「賑やかですの、苦手でして‥‥ヒーリングDVDとかではいけませんの?」
「はっきり言いますがいけませんね。今回のクライアントからの要求としてはNGです」
「はぅ〜」
「アイディアとしては面白いですが、これでは単独商品です。貴女もIMPというグループより個人デビューの方が輝きます」
「あぅ〜‥‥」
「『良くわからないから』ということで決めるならソロデビューにしてください。賑やかなのが苦手ならなおさらそちらを薦めます」
 迷っているのかモジモジとしているInnocenceに向けて米田は静かに言葉をかけるのだった。
 
●スポーツで始まる秋
「んしょ、うんしょ‥‥え、こんなところを撮らないでくださいっ!?」
「アングルの撮り方を教えてもらったから実践をしているだけだよ〜☆」
 ジャージ姿でストレッチをしている大和・美月姫(ga8994)を雪村 風華(ga4900)が下から上へと舐めるような動きで撮影する。
 事務所の撮影スタッフからの直伝だった。
「えと、本気で投げていいんですか? では‥‥いきますよ〜」
 水無月 春奈(gb4000)の声にカメラをもっていくとブルマ姿の春奈が足を高く上げたあと、腕を大きく振り下ろす投法をしていた。
 ビュオンという音と共にボールが飛び、バシィンと沖田 神楽(gb4254)のミットに吸い込まれるようにぶつかった。
「年下だから少し加減しようと思ったけど全力でこっちもいくよ」
 神楽はも春奈に負けない速球を投げる。
 もはやキャッチボールには見えなかった。
「後輩の仲良し3人組みはどうなのかなー」
 風華がカメラをDIVAのメンバーに向ける。
 ブルマ姿の舞 冥華(gb4521)とジャージ姿の終夜・朔(ga9003)とネコミミ+メイド服のフェイト・グラスベル(gb5417)が三角形に広がり投げ合っていた。
 フェイトから投げたボールが頭を越えると、ネコのようににゃあと言いながら朔が転がったボールを追いかけだした。
 ズームを変化させたりして一人一人の動きをしっかりと収める。
「風華先輩も撮ってばかりいないで一緒にキャッチボールしましょうよー」
 背中から声をかけられて振り向くと田中 アヤ(gb3437)が手を振っていた。
「はいはい、ベンチにおいてと‥‥」
 ガチャガチャと音を立ててカメラをベンチの上に置くと風華の足から映り、アヤと共にキャッチボールをはじめる。
 その光景をバックに『小悪魔の休日〜秋〜』というタイトルが流れるのだった。

●読書の秋
「久しぶりにのんびりと読書でもしましょうか」
 最後の仕事ということもあるが、休日がテーマでもあるため自然になるように気をつけてテーブルにビデオカメラを置くと読書を始める。
 読んでいる本は分厚く、眠気を誘いそうな書物だった。
「傭兵であっても学生ですからね‥‥秋らしく文学の読書といきましょう」
 静かな図書館にぺらぺらとページをめくる音だけが響く。
 定期的な音はまるで電気羊が柵を飛び越える光景を彷彿させた。
「ふぁ‥‥眠いですね‥‥おやすみなさい‥‥」
 暖かな日差しのあたるテーブルだったのも間違いだったかもしれないが、時雨はそのままうつ伏せになって眠りに入る。
 ビデオカメラを回収にきたライディ・王(gz0023)が起こすまで気持ちのよさそうな寝顔だけが映っていた。

●音楽の秋
「ふ〜ふふ〜ん♪」
 カフェオレを口にする美月姫は思いつくままにメロディーを口ずさみ、メモを走らせる。
 ブレザー姿でカフェオレを飲む姿は周囲の学生達に溶け込み、アイドルのようには見えなかった。
「次の新曲はカフェを楽しむ時に流れるようなものもいいかも」
 ゆったりした時間は考えごとをするには丁度いい。
 学生達も課題の処理やら、雑談で盛り上がっていてほどよい喧騒が心地よかった。
「ねぇ‥‥あそこの人って」
「だよね‥‥でも、変装していないし」
「ビデオカメラ自分に向けているのって普通じゃありえないしさ‥‥」
 ガヤガヤと周りが騒ぎ出し、美月姫の存在に気づきだす。
「お店の迷惑になる前にでましょう」
 カフェオレを飲み終えると美月姫はビデオカメラを持ち支払いを済ませて優雅にカフェテラスを後にしたのだった。

●ダンスの秋
「とりあえず、普段の休日っ感じで撮って行こうと思ってます」
 神楽は自分で自分を撮りながらガラガラと引き戸を開けた。
「まずは道場の方から」
 声と共にカメラは道場の方を向き、正面にある掛け軸やら神棚などを移す。
 ピンと張り詰めた空気が映像からでも伝わってくるようだ。
「そんなに大きくて立派な物じゃないけどね‥‥ここにはいろんな思い出が詰まってる」
 神楽の声に優しさが被さっている。
 ぐるりと一周するカメラには人は映ってないが磨かれた床や名札の掛かっている板などがここでの思い出を物語っていた。
「んじゃ、この頃ダンスの練習とかで使ってる場所に向かって出発」
 神楽がいつもの調子に戻りつつ道場を後にご近所を歩いていく。
 近所のおばちゃん、おじさん達に手を振りながら噴水のある公園にたどり着いた。
「練習する姿を見せるよ」
 カメラを少し高い場所に置くと離れていく。
 ここで、神楽がパーカーに黒いTシャツ、下はデニムのハーフパンツとニーハイソックスでスニーカーという姿であることがわかった。
 手に持ったCDラジカセを石畳の上に置くとボタンを押してアップテンポなダンスミュージックを流す。
 練習しているブレイクダンスを神楽は披露するも、途中でこけて尻餅をついた。
「いたた‥‥あはは、まだ練習が足りないみたいだね。次、披露するときまでには上手くやるよ」
 カメラに向かって頬をかいて神楽は苦笑する。
 立ち上がった神楽はカメラに近づくと撮影を打ち切るのだった。
 
●お散歩の秋
「ふふっ、とってもいい子‥‥。普段は思いっきり遊べないでしょうから、とことん付き合ってあげますよ」
 大型犬と一緒にゴシック調の衣装の春奈は公園を歩く。
 しかし、125cmの春奈と大型犬ではどちらが散歩させてあげているのか判らない光景だ。
 はしゃいで走り回る大型犬に振り回されないように手綱を握る姿は見事だが、『よい子はまねしない』というテロップが入る。
 能力者だからできることであり、一般人にはオススメできないのである。
 公園で走る春奈と大型犬をカメラが追いかけていった。
「さあさあ、こっちですよ‥‥きゃわっ!」
 久しぶりの散歩にクールな姿の多い春奈の顔にも笑顔が浮かぶも大型犬に飛び掛られて倒れこむ。
「とはいいながら‥‥さすがに疲れますね‥‥。木陰でゆっくりしましょうか‥‥」
 しばらく大型犬と揉みくちゃになりながらも戯れると春奈は起き上がり木陰へと大型犬を引っ張っていった。
 再び『よい子は真似しない』というテロップが映る。
 木陰にたどりつくと、春奈は大型犬のお腹を枕にしながらゆっくりと眠りにつくのだった。
 
●お仕事の秋
「今日からIMPに移籍、皆で頑張るの♪」
「おー、きあいはいっている。けど、すぱるたかんべん」
「もはやすっかり、朔さんはリーダーなのですねー」
 公園でランニングを終えた3人は息を少し切らしながら水を飲む。
 三脚で全員の取れる位置でと朔は考えていたが、風華からアドバイスでライディに撮影を頼んでいた。
 一人一人にズームしてもらったりと映像としてメリハリが付くのである。
「うたのれんしゅう冥華はしたい。ふぁんのまえでへまっちゃうと嫌だから」
 ペットボトルの水を飲み終えた冥華は気合を入れて立ち上がった。
「じゃあ、やってみるの♪ 曲は『幸福な日』なの、アカペラで歌うのも練習なの♪」
 笑顔でネコミミを揺らす朔は容赦のない課題を冥華にぶつけて練習させる。
 冥華の歌に二人から意見をだして、次はフェイト、朔と交代しながらのボイストレーニングが始まった。
 ALPからIMPへの移籍ということもあり、歌が主眼となるため気合が入っている様子が見て取れる。
「次はダンスの練習をしましょー。ここからは私達で撮るのでマネージャーカメラ貰いますね〜」
 歌の練習が終わるとフェイトがカメラに近づいてきて受け取り、短時間だけ借りれた貸スタジオへと向かったのだった。

●ショッピングの秋
「う〜ん、アヤはゴスロリっぽい服なんてどうかな?? せっかくだし、神楽は白いロリータファッションとか試してみない?」
 おしゃれなブティックにて、風華は両手に服を持ちながら二人に見せる。
「あ、あたしがそれ着るんですか!? 似合わないとおもうんですけどー。神楽ちゃんにはフリルいっぱいがいい思うんです!」
 大先輩ともいえる風華からの振りに白系のニットワンピースにフリル付スカート、茶系のニーハイブーツ姿のアヤは戸惑い、神楽に注意を向けようと話題をそらした。
「え、えー。似合うかな‥‥」
 いつもは着ないタイプの服を進められてカメラを持っている神楽が戸惑う声をだす。
「いいからいいから、二人ともとりあえず着替えておいでよ。試着だけならタダ、タダ」
 服を渡すと共にカメラを受け取った風華は試着室へ入る二人を追いかけた。
 しばらくして、カーテンがあくと共に着替え終わった二人が出てくる。
「かーぐらちゃーん。いいよーかわええよー」
「アヤはもっとシンプルな方が似合うと思うな」
 神楽がアヤの声に照れるが、それもそのはず白のフリルの多いゴスロリに伊達眼鏡をつけられて別人のようになっていた。
「じゃあ、次は先輩ですよねー。ここはちょっとイメチェンでワイルドにいってみましょうか」
「風華さんはボーイッシュなガーリーも似合いそうだよね」
 アヤはレザージャケットにダメージジーンズ、ブーツのセットを薦め、神楽は裏地がモコモコなパーカーにニット帽といったものを薦める。
「先輩の着せ替えショーを堪能させてもらいましょーか」
 服と交換でカメラを受け取りアヤは試着室に入って着替える風華を撮り続けた。
 その後も3人のプチファッションショーがしばらく繰り広げられる。
「じゃあ、最後にプリクラとっていきましょーか」
 今回はいくつか服をチョイスして購入し、3人はそのまま近くのゲ−ムセンターへと足をむけるのだった。

●食欲の秋
「危険なものが無くて何よりです」
 カメラを持った時雨が集められた食材を一通り移しながら安堵の息をつく。
「じゃあ、早速作っていきましょう。味付けは3つくらい。神楽さんの意見も入れて山形風のとかにしていきましょうか」
 チャイナドレス姿で気合を入れる美月姫が手際よく野菜を刻んでいった。
 場所は夕暮れの河川敷、芋煮会という日本の東北で行われている風物詩をアイドル達は行っている。
「き、今日は、ちょっと、がんばってみよっかな‥‥」
 アヤが震える手で包丁を握り、鬼気迫る表情で豆腐を眺めた。
「力抜いて大丈夫ですよー。大人フェイトにへんしーん」
 フェイトはアヤの肩の力を抜くために覚醒して大人っぽく変身しながら肩を揉む。
 合成でないところが能力者の不思議なところだ。
「サトイモさんサトイモさん‥‥はっ‥‥今のはカットでお願いしますね」
「そのまま歌っていてもいいと思いますの、サトイモさ〜ん、サトイモさ〜ん」
 時雨が料理を始めて空いたカメラをInnocenceが持って春奈が用意している鍋の様子を写す。
「猫はいってませんの?」
「猫なべきんしだから大丈夫」
 別の鍋では自分の持ってきた秋鮭のぶつ切りを入れる朔が猫が入っていないか不安がっていた。
 怯える朔を冥華が宥めるが、猫を入れるかといいだしたのは冥華なので可笑しな話である。
「焼き芋も焼けるよー」
 風華がアルミホイルと新聞紙で包んで落ち葉で焼いた焼き芋を取り出してぱっくりと二つに割った。
 ホクホクな湯気と狐色になった芋が美味しそうである。
「お芋も鍋も美味しそうですの♪」
 揚げだし豆腐や蒟蒻、サトイモなどで煮込まれた鍋を眺め朔は尻尾と耳を動かした。
「お握りもありますから、一緒に食べましょー。同じ釜の飯じゃなくて、同じ鍋の飯ですねー」
「手ごわい相手だった‥‥もうちょっと料理の特訓しなきゃいけないかな‥‥」
 自分で切った屑豆腐をすくい上げたアヤは明後日の方を見たくなる。
 カメラを三脚に全員が映るようにして食べ始めた。
 日が沈み、少し冷え始める中、ここ温まる料理にアイドル達は癒される。
 コロリと三脚が倒れて空を映し、『終わり』のテロップが流れてDVDは終了した。
 
●おまけ
「おかえりなさいませ‥‥ご主人様♪」
 メイド服にヘッドドレスをつけたInnocenceがカメラに向けて出迎えの挨拶を行う。
 カメラが動き、椅子に座ると窓のところにおいてある鉢植えに水を上げたり紅茶を入れたりと甲斐甲斐しく動きまわるInnocenceを追いかけた。
「どういたしましたの?」
 視線に気づき、Innocenceはカメラを見ながら首を傾げる。
 ゆるゆるとしたノリで朝、昼、夜と二時間ほどごとに分けてInnocenceの姿が納められた。
 この映像は小悪魔の休日とは別のDVDで作られているが、販売予定はない。
 アロマポットもつけられたこの商品は日の目を見る日がくるのを待ち続けることになった。