タイトル:第一回V1グランプリマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 23 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/09 01:21

●オープニング本文


 もうすぐ一年が終わる。
 この一年は能力者達、いや世界にとって大きく変わった一年であっただろう。
 その一年を締めくくるためのイベントを画策する男がいた。 
 33歳という若さでありながら、能力者を主体とした特殊作戦軍に籍を置いている、伊井木・文蓮(いいぎ・ぶんれん)中佐だった。
「さて、新米能力者の育ちも良くなってきた。ゲームを始めるには丁度いい時期だな」
 一般人で、知略家であった彼は作戦立案や、補給などの任務を発動させ、能力者を有効につかい、成果をだしてきた。
 自身もエクセレンターとなり、この軍への所属を願った。
「能力者の訓練なども、自由にできるようになった‥‥では、最高の舞台を用意しよう」
 ゆっくりとソファーに身を沈め、ワインを揺らした。

 その後、UPC本部にて、以下の依頼が出された。



●『第一回 V(フォーゲル)1グランプリの開催』

 ナイトフォーゲルの人型戦闘訓練のため、
 12月31日にラストホープ地下訓練施設を借りてレースを行なうものとする。
 本訓練は、自制心を鍛え、また損害を知るために自機を使用する場合は修理費を個人で支払ってもらうものとする。
 なお、どのような機体にも対応できる能力を養うためにも本訓練用KVも用意する。

 いずれかを使用の上、参加するように。
 ゲストとして、F1レーサー能力者・シルフィードと、ベルディット=カミリア少尉(gz0016)を参加させる。

 尚、訓練希望者は12月29日までに登録されたし。

      UPC特殊作戦軍所属 伊井木・文蓮中佐

<本日のコース>
『ラスト・ホープ地下、KV訓練施設特設会場』
1.ストレート、2.ヘアピン、3.高速コーナー、4.中低速コーナー、5.中低速コーナー(登り坂)
6.ストレート、7.中低速コーナー(下り坂)、8.ヘアピン、9.低速コーナー、10.ストレート
※一区で1ラウンドの全10ラウンド計算です。
※プレイングには区画番号で書くと楽でしょう(「1、2、3は余り加速せず〜」など)
※今回に限り、ブースター使用時の練力消費は1ラウンドごとに行われるものとします。

<特別ルール>
※基本として1行動で1スクエアです。それ以上にする場合、『加速』となります。一度『加速』したら、加減速しない限りそのままです。
※コースを走るとき、スピンなどをしないために『前ターンから続く影響判定』のタイミングでコースに応じた難易度による「操縦」判定を行います。
 前のターンで『加速』した分、難易度は上昇します。
※プレイングによって難易度を下げることもできます。(例:ブースターを使って乗り切る、相手に一度体当たりして反動で曲がるなど)

・コース難易度
 ストレート   ‥‥難易度 08
 高速コーナー  ‥‥難易度 10
 中低速コーナー ‥‥難易度 12
 低速コーナー  ‥‥難易度 14
 ヘアピン    ‥‥難易度 16
 
 上り坂     ‥‥移動が−2(1以下にはならない)
 下り坂     ‥‥難易度が+2
 
※普通のスキルは使えませんが、機体練力を消費して、以下のアクションができるものとします。
※1ラウンド1回のみ使用可能。
スタートダッシュ‥‥イニシアチブ判定時に敏捷+20/消費練力5
ドリフト    ‥‥コーナーにおける「操縦」の判定難易度を−3できる/消費練力5
アクセルターン ‥‥機体を高速回転させて、ぶつけることで相手をはじき飛ばすことができる。
          ダメージは(KVの防御力/10)+移動した距離となり、移動距離の半分相手を弾き飛ばす。
          行動力は消費せず、移動して相手のスクエアに入れば全員に当てる事が可能。
          回避する場合は、コースの目標値+移動してきた距離を難易度に「回避」で判定/消費練力10
ダッシュタックル‥‥相手に背後からタックルをかましてスピンさせる。自分が相手の真後ろ(1〜3スクエア以内)にいて
          イニシアチブをとったときに使用可能。仕掛ける側は命中判定を難易度に仕掛けられた側は「操縦」で対抗を行う。
          失敗した場合、差分値をコースの難易度に足すこと。

●謎のメール

少し遅れて、ラスト・ホープの住人すべてに差出人不明のメールが届いた。

『V1グランプリトトカルチョのお知らせ。ゲームをスリリングにするために賭けをしましょう。参加は1000Cより。皆様のご参加をお待ちしております。参加はこのメールへ返信していただければ結構です』

●参加者一覧

/ リズナ・エンフィールド(ga0122) / 雪ノ下正和(ga0219) / 鯨井昼寝(ga0488) / 御山・アキラ(ga0532) / ハルカ(ga0640) / 藤枝 真一(ga0779) / 須佐 武流(ga1461) / ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634) / 沢村 五郎(ga1749) / 大山田 敬(ga1759) / 角田 彩弥子(ga1774) / 篠原 悠(ga1826) / 平坂 桃香(ga1831) / 武田大地(ga2276) / ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416) / リヒト・グラオベン(ga2826) / エマ・フリーデン(ga3078) / シエラ(ga3258) / 霧島 亜夜(ga3511) / 緋霧 絢(ga3668) / 比留間・イド(ga4664) / 風(ga4739) / クラーク・エアハルト(ga4961

●リプレイ本文

●Are You Ready?
 ラスト・ホープ地下訓練場の臨時選手控え室。
 そこには多くの能力者が集まっていた。
 参加選手はゲストとしての能力者も合わせて17人。
 急遽募集された企画ではあるが、それぞれがそれぞれの想いをもってレースに参加していた。
「武田、しっかりやれよ。俺達はチームだからな?」
 沢村 五郎(ga1749)は緊張している武田大地(ga2276)に声をかけた。
「まぁ、なんとかするわ」
「負けたらママが増えっちまうぜ、頼むぞ大地」
 同じチームの大山田 敬(a1759)もセコンドとして大地を鼓舞する。
「俺は金のためやない、ロマンのために走るんや」
 俯いて語る大地の口は重いが、目が一瞬ドルマークになっているように見えたのは気のせいだろう。
「皆さん‥‥がんばって、ください」
 受付に外れてしまった朧 幸乃(ga3078)は選手達に飲み物や食べ物を渡していた。
「とりあえず、景気付けに一杯飲むか? 酒じゃないぞ? 紅茶とコーヒー、どっちが良い?」
 クラーク・エアハルト(ga4961)は須佐 武流(ga1461)に近づき、紅茶かコーヒーを勧める。
「吐くかも知れないから、やめとく」
 須佐は苦笑して、返した。
「まあ、あれだよ。誰がベストかなんて走ってみないと解からないだろう? とりあえず、自分の『カン』って奴をを信じて‥‥お前に賭ける」
 クラークは微笑みながら、須佐の肩を叩いた。
 そんな傭兵達のにぎやかしい雰囲気の中に、コツンコツンというブーツの音が急に響く。
 空気が冷たくなるのを感じ、一瞬にして静まりかえった。
 ブーツの音は大きくなり、奥から来たのはライダースーツにレース用ヘルメットを小脇に抱えたサングラスの男。
 『シルフィード』と呼ばれるF1レーサーだった。
 周囲に人がいるのを感じないのか、コツンコツンと一人で控え室を後にしようとしていた。
 幸乃や、クラークが差し出すものも断り、颯爽と歩く。
「てめぇが、シルフィードか‥‥。なぁ、サインくれよ。一緒に走る記念によ」
 角田 彩弥子(ga1774)が禁煙パイプを揺らしながら、壁にもたれかって腕を組み、シルフィードにねだった。
「俺は‥‥サインを書かない。‥‥レース場では、ピットチーム以外に仲間は必要ない」
 淡々と語り、シルフィードは控え室を後にした。
 その後にベルディット=カミリア(gz0016)が控え室に入ると、重かった空気が晴れる。
「おいおい、暗い気分じゃなくって楽しくいこうさね。今日は盛大なパーティさ!」
「そうだね、だけど後ろを気をつけなよ、ナパームレディ」
 鯨井昼寝(ga0488)は小さくだが、はっきりと宣戦布告をしていた。

 
●Get Set!
 レース本番。
 ラスト・ホープの地上は晴れ渡っていた。
 公園の片隅のバス屋台では、仕込みの終わった篠原 悠(ga1826)が一息いれていた。
「絶好のレース日和やね〜。あ、でも地下でやってるんやったなぁ」
 ふと足元を見ると、蟻が列になって行進していた。
 そんなとき、携帯がメールの着信を知らせた。
「誰やろ? ふむふむ、リンク先で生中継って‥‥犯罪っぽいやね」
 苦笑する悠だが、公には賭けをすることは言い渡されていないのだから仕方ないと思う。
 依頼の後に流れてきた差出人不明のお誘いメール。
 そこからくる来る情報から、ラスト・ホープのトトカルチョ参加者は賭けを楽しんでいた。
 リンク先をみると、動画が現れる。
 カラーの映像が流れ込み、日傘を持ってレースクィーンの格好をしたハルカ(ga0640)が客席に向かって手をふっていた。
 そうして、すぐに参加選手のナイトフォーゲルが入場してくる。
 赤いR−01、フレーム強化により二回りほど大きくなった岩龍、豆腐屋のステッカーが貼られたS−01。
 そして、高級で手に入れているものはごく少数といわれているバイパーなど計17体のKVがコースに並んだ。
「こんだけ並ぶのを見るのは大作戦以来やねぇ‥‥皆、がんばりや」
 動画を眺めながら、悠はにこりと笑う。
「さ、レースはどうなるんやろな♪」
 さまざまな人間が絡み合ったレース。
 プーッとシグナルが赤になる。
 プーッと黄色になると、キュィィィンとKVがホイールを一斉に回転させた。
 ピーッと青にかわると、KVが走り出す。
 全力を出し切る戦いが始まった。
 
 
●First Section
 はじめのストレート。
 そこで、スタートダッシュによってトップを切ったのは、藤枝 真一(ga0779)の岩龍だった。
「これでも、あたってください」
 移動したのち、煙幕銃をスタート地点へ打ち込んだ。
 もわもわっとした煙がコースを覆う。
 しかし、その中からブースターで後続が飛び出してくる。
『コースはすでに頭に叩きこんどる! これくらいで止められると思わないことや!』
『蒼空のサムライを舐めないでください!』
『ナンバーワンの座は渡さないぜ!』
 武田、雪ノ下正和(ga0219)、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)がそれぞれの思いを言葉にしてぶつけてくる。
 3機のKVは真一を追い抜いた。
 もう一体のフレーム強化された岩龍も同じ手を狙っていたのか煙幕銃を構えたが、収め走り出す。
 そして、第二陣が続いていった。
 煙によって、バランスがとれず速度がでない。
 しかし、そんなことをまったく考えずに突っ込んでくるものもいた。
『あたいの前に立つと怪我するよ、あんたらっ!』
 キュィィィンとホイールをフル回転させてのアクセルターンをインコースに当てにくる。
 仕掛けたのは、ゲスト選手の一人。ベルディットだ。
 第二陣のKVたちは何とか避ける。
 レースの始まりから、波乱の予感を選手達は感じていた。
 

●Second Section
 ストレートを抜けたあとは、ヘアピンだった。
 速度を落として入るものが多い中、第二のゲスト選手であるシルフィードは高速でアウト・イン・アウトを仕掛ける。
 KVのアームを地面にこすらせ、火花を散らせながらのドリフト。
 崩れるバランスも内臓されているバルカンで防ぐという荒業を使いトップで抜けていく。
「へっ、やってくれるじゃねぇか。だが、俺様も負けないぜ!」
 シルフィードの動きを見ていた。角田はにやりと笑う。
 同じようにアームをこすらせるが、それでも曲がりきれない。
「んなろぉぉっ!」
 ぐぐぐと吹き飛ばされそうになる遠心力を、持ち前の体力で無理やり乗り切る。
『無茶なことするね〜お先に〜』
 電波ソングと共に通信が角田に聞こえてきた。
 平坂 桃香(ga1831)のKVはドリフトで角田を追い抜く。
「んなくそっ! 俺様以上の無茶は他はやらねぇよ!」
 妙な強気発言を角田は返した。
 後続はドリフトをしてヘアピンを抜けていくもの、ドリフトしてもスピンするものと分かれる。
 だが、もっと無茶するものがいた。
 ジュエルのKVはブースターで須佐の機体にダッシュタックルをして、勢いでV字ターン。
 真っ赤なKVはファングを地面につきたてて、インコースで曲がった。
 武田のバイパーにいたっては、スピンしてもスピアをコースに刺し、一回転した反動でKVを進めるという荒業をする。
「馬鹿ばかりで楽しいぜ! このレース!」
 角田はパイプを咥え直して、再び加速した。
 

●Hear Come The New Charenger
 湧き上がる会場。
 その裏でゲートを潰して、パンクな装飾をしたR−01が一機やってきた。
「くくく、警備もろくにしてねぇなんてなぁ‥‥丁度いいぜぇ。ヒャハハア、こんな楽しいイベントをハブった罪。償ってもらうぜぇ!」
 キュィィィンとホイールを回し、KV搬入ゲートから施設内へ入っていく。
 KVのアームにはスプレー缶で『新藤雪邑、参上』と書かれていた。
 だが、新藤の進路に、一機のレース用S−01が待ち構えていた。
『今回のイベントは、私たち能力者の鍛錬の意味もありますが、一般の方の楽しみでもあります‥‥邪魔はさせません』
 朧はボクシングをするように構える。
「ヒャハハハッ! おもしれぇ、てめぇからスクラップにしてやるぜぇ。カスタマイズした俺のR−01に勝てると思うなよ!」
『こちらも、負けない‥‥』
 朧はホイールを回転させて新藤へ殴りかかった。
 
 
●Third Section
 三番目のポイントであるゆるいカーブに差し掛かったとき、ジュエルが再びスタートダッシュで先に出る。
 続いて、リヒト・グラオベン(ga2826)、リズナ・エンフィールド(ga0122)がドリフトをかけて追いかけた。
「相棒、大丈夫ですか?」
『ええ、大丈夫よ。リヒトさん』
 二人は共にジュエルを追い抜いてインコースに入る。
 事前訓練をしていたためか、二人の息はぴったりだった。
 さらに桃香やシルフィード、さらに一機のKVが二人を追い抜く。
 カーブらしい入れ替わり立ち替わりが起きた。
「皆さん強いですね‥‥」
『まだ序盤よ、マイペースでいきましょう』
 不安になるリヒトをリズナが優しい声でなだめた。
 信頼できるパートナーとレースをできるという心強さをリヒトは感じていた。
『いけー! 真紅の突撃(クリムゾン・ブリッツ)!』
 安心したとき、外部マイクが大きな掛け声を拾う。
 赤いKVの霧島 亜夜(ga3511)が、その言葉の通りの一撃を桃香と並走していたKVにアクセルターンを当てた。
『ほらね?』
「先行していたら、僕らも巻き添えでしたね」
 リヒトはリズナの笑った声に安心を得る。
 彼女と一緒であれば、どんな困難でも立ち向かえると‥‥。
 

●Wind And Blue Sky
「どうやら、しつこい相手のようだ」
 ゆるいカーブを走る第三陣。
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は背後で自分を風除けにしている一機のKVに苦虫を潰した顔になる。
 振り切ろうとしても、ずっとついてくる。
 そのとき、客席に向けられたカメラが、一人の人物を捕らえる。
 客席にいたのは、恋人である風(ga4739)だった。
『ケナー! がんばってー!』
 近くに来たときわかったのか、声をだして風はホアキンに声援を送った。
「このままではいけないな。では、すまないがいいところを見せるための布石となってもらおう」
 ホアキンはディフェンダーを抜き放ち、背後のKVのを一閃した。
 バギャンと金属音が鳴り響き、スピンする。
『くそったれ、これくらい速さと気合でなんとかしてやる! それが昭和生まれのど根性!』
 比留間・イド(ga4664)の声がホアキンのKVに聞こえてきた。
「お嬢さんだったか‥‥これも勝負だ。うらまないでくれ」
『何とか抜いてやるよ、覚悟しろ!』
 イドの捨て台詞を聞きながら、ホアキンは先行しているKVたちを追いかけだした。
 
 
●Forth Section
『武田、出遅れているぞ』
 バイパーの無線から、客席にいる沢村の声が聞こえてきた。
「わぁっとる、ここから逆転するんや」
 武田は返すが、実際装備を軽くして行動力を上げているKVに比べれば出遅れている感は否めない。
 現在は連続カーブの中間点であった。
『あの姐御には勝っているから無茶するなよ』
 沢村の隣にいる大山田も酒を飲みながら、無線で声をかけてくる。
「どあほっ、俺が目指しているのは優勝ただ一つ!」
 発破を受けて加速する武田のバイパーはアウト・イン・アウトのラインで走った。
 ドリフトをかけ、火花を散らす。
 それでも、勢いは止まらないのでスピアを地面に刺して止まろうとした。
 だが‥‥。
『おい、武田! 気をつけろ!』
「あん? ぬおぉあっ!?」
 沢村の怒鳴りに近い声を聞いたのもつかの間、KVスピアが遠心力に耐え切れずへし折れたのだ。
 勢いがより加わり、武田のバイパーはスピンする。
「くそ、こいつとも長い付き合いやったからな‥‥」
 何とか止まるもその間に後続のKVたちに抜かれていく。
『悪いが先にいくよ、ボウヤ!』
 ベルディットのKVが武田のバイパーの前でターンをして駆け抜ける。
『おいおい、ママが増えちまうぞ!』
「俺にいうな!」
 体勢を立て直して、再度走り出すバイパー。
 目の前ではベルディットのKVがペアで走る二機のKVにアクセルターンをかましていた。
 その後、崩れたバランスをスチールファングをコースに突き刺して回る。
「あっちも無茶してんなぁ、おい」
『負けるなよ』
 沢村から声をかけられていると、ベルディットを追うように走る一機のKVが見えた。
「姐御には勝てそうだ。俺ら以外に因縁のあんのがいるようやからな‥‥」
 折れたスピアを捨てて武田は駆け出す。
 まだ、コースは半分もいってはいないのだから‥‥。
 
 
●Fifth Section
 5番目のコースはカーブ状の上り坂だった。
 各自が、各々の方法でこの難所のクリアに挑む。
 ブースターで加速するもの、体勢を低くしていくものもいた。
 しかし、上り坂の上にカーブという難所に苦しめられた選手達はスピンしていく。
「ブースト発動‥‥ジャンプします」
 緋霧 絢(ga3668)はコックピット内で呟き、外装のゴテゴテした岩龍が走り出す。
 レースではなくKV習熟のために参加したが、内心楽しんでいた。
(「同じ手をつかってくる人がいました‥‥カーブでの仕掛け方もさまざま‥‥予想できない戦い」)
 装甲と回避性能を強化した愛機の調子もいい。
 その岩龍が羽ばたいた。
 絢のTACネームでもある「Crow」のように観客に移っただろう。
 おぉという歓声が聞こえた気がした。
 このジャンプで第一陣に追いつく。
「勝てるかも‥‥しれませんね」
 絢は気づかなかったが、ディスプレイに写った絢の顔は微笑んでいた。
 
 
●Accident!
「アヤ姐さんがんばってるな〜」
 ハルカはレースクィーンの格好のまま客席で観戦していた。
 上り坂をクリアしたとき、KV入場ゲートから激しい物音がする。
「何!?」
 ハルカがそちらに目をやれば、一機のKVが吹き飛ばされて出てきた。
 コースの手前に、投げ出されたそれに、ガドリングがズダダダダと当てられる。
「おい! あれ」
 近くに沢村たちもいて、無線機を使い倒れたKVに声をかける。
「おい、乗ってるやつ大丈夫か!」
『だいじょう‥‥ぶ』
 か細い声が聞こえ、KVは立ち上がろうとする。
 それをタックルで床にたたきつけて塞いだのがいた。
『ヒャハハハハィッ! おらおら、楽しめねぇじゃねぇかぁ、あぁん?』
 下衆な声がオープン回線で流れだす。
 人を見下して、弱いものをいたぶって楽しむような人間そのものの声だ。
 そんな声が流れているKVもこれまた悪趣味のきわみといえるほどの外装をしている。
 トゲトゲしいフレームに、スプレー缶のペイントで文字が書かれていた。
 ハルカが沢村たちに近づいて様子をみる。
『まだ‥‥負けたわけじゃない‥‥』
 弱った声はハルカの知り合いである朧だ。
「ちょっと貸して! 知り合いなの!」
「あ、あぁ‥‥」
 ハルカの剣幕に沢村は気おされ無線機を渡す。
「幸乃くん、早く逃げて!」
『ハルカ‥‥さん? ハルカさんこそ‥‥逃げて、危険。レースを邪魔しに‥‥来て、くっ!』
 倒れている朧のKVの腕を踏み潰す悪趣味なKV。
 そして、ボールのように蹴り飛ばす。
 その行為を見て、客席の熱は冷めていく。
「見てられないよ‥‥アヤ姐さんに頼もう‥‥」
 不安な心を抑え、ハルカは無線機の周波数をあわせだした。
 

●Sixth Section
『そぉら、ここらで一発楽しもうじゃないさ!』
 角田の目の前をベルディットが駆け抜けたあと、何を思ったか振り向いてコースに突撃式ガドリングを放って破壊していく。
 ただのストレートだと思って油断していた一同の顔に焦りが浮かんだ。
 それでもリヒト、霧島がベルディットを追いかけていく。
 さらに一機がスピンしそうになるのをガドリングで防いで続いた。
「俺様もおちおちしていられないな‥‥」
 角田がぼやいていると、急に無線が入ってくる。
『アヤ姐さん! 大変、乱入者に幸乃くんがボロボロなのっ!』
 角田が上り坂をクリアして、ストレートで加速しようと思っていたとき、ハルカのそんな声が聞こえてきた。
「なにぃ! そっちで何とかならないのか!」
 勢いあまって口から禁煙パイポが落ちた。
『KVをとりにいってたら、幸乃くん、やられちゃうよっ! お願い! アヤ姐さん!』
 無線機越しではあるが、両手を合わせてお辞儀をしているハルカの姿が角田には見えた。
「ああっ! いってやるぜ、ただし、儲けたら奢ってもらうぞ!」
 悩んだすえ、角田はコースから外れていく。
 朧のKVはドリルの攻撃の餌食になろうとしていた。
『これで穴あけてやるぜ! 新藤雪邑様のスペシャルドリルでよぉっ!』
 キュィィィンというドリル音が朧に迫る。
「んなくそぉっ!」
 その新藤の横っ面に角田がパンチをかました。
『いてぇ! このクソ! いいところで邪魔するんじゃネェよ!』
 殴られ、バランスを崩した雪邑のKVは立ち上がり、角田のほうに体を向けた。
「てめぇこそ、この俺様が教育的指導してやるよ! 俺様をピットインさせた罪は重いぜ!」
 角田はありったけの怒りをこの目の前のKVにぶつけることにした。
(「最後まで勝負は捨てない!」)

●Seventh Section
(「この下り坂、勝負をかけるならここだな‥‥」)
 須佐は今まで抑えつつ様子を見ていた。
 厄介なのは、リズナとリヒトのペアであることを見切る。
 先ほどのコースでも仕掛けたが回避されてしまった。
 もう一人、F1レーサーのシルフィードも潰しておきたい。
「いくぜ! この坂の勢いを込めた一撃、避けれるものなら避けてみやがれ!」
 下り坂でカーブという条件だが、そこでもあえてホイールを回転させてダッシュタックルをかました。
 シルフィードは最小限の動きでそれを避ける。
 だが、陣取っていたインコースからアウトコースに流れた。
 それだけでも、須佐には十分である。
 次に狙った白いリズナのKVは捕らえていた。
「もらった!」
 ガシャァンとユニコーンズホーンがリズナのKVを貫く。
『きゃぁあぁ!?』
 オープン回線でリズナは叫び、キュルルルとスピンをして後ろに下がる。
 だが、不幸なことが続いた。
 KVの足が負荷に耐えられず破損。
 転倒し、KVが横に転がる。
『リズナ!』
 リヒトが思わず叫んだ。
「ありゃ、当たり所がよかったか‥‥恨まないでくれよ、これも勝負だ」
 須佐はチラッと後方を振りかえったあと、レースに戻る。
 そして、もう一方でも勝負が始まろうとしていた。
 タックルをして減速をかけようとしていたベルディットのKVをタックルをされた昼寝のKVが掴む。
『なにぃ!?』
『勝負はここからだよ、ナパームレディ!』
 誰もが最後の勝負に出ていた。
 残り‥‥3コース。
 

●Eighth Section
 最後の難関であるヘアピン内で霧島が驚くべき行動にでる。
 先手を取った赤いKVはヘアピンを曲がりきり、自らの足元に煙幕銃を打ち込み、ドリフトでヘアピンを抜けていった。
 だが、昼寝、リヒトにはそんなことは関係なかった。
『潰させてもうよ!』
 昼寝は叫び掴んだベルディットのKVを前を進むのバイパーたちに向かって投げる。
『うぉぃ!?』
 武田は沢村たちの指示により回避するも、絢の岩龍にぶつかった。
 もっとも、絢の岩龍の改良された装甲を傷つけるまでにはいかず、逆にベルディットのKVのフレームがゆがむ。
『やってくれたもんさね! 手加減しないよ!』
 ベルディットが声をあげて、昼寝にスチールファングで殴りかかった。
 時を同じくして、リヒトは追い上げてきた須佐に攻撃をしかける。
 リズナがクラッシュしたことでリヒトは冷静さをやや失っていた。
『貴方を‥‥許さない』
『勝負事で許すも許さないもないだろうがっ!』
 ヘアピンカーブ内で4機のKVが入り乱れた勝負が行われる。
 リヒトが勝負をしかけるも、須佐がカーブの減速のために打ち込むガドリングでふさがれた。
 その間に、ホアキンが煙に覆われたヘアピンを曲がって霧島を追いかけだす。
 後ろをシルフィード、武田が続いた。
 絢は立ち止まり、シルフィード達に向かって煙幕銃を打ち込んだ。
『使わないのも‥‥勿体ないですからね』
『いちいち使わんでもええわ! コース頭にいれてなかったら、即クラッシュしとるで!』
 武田は煙を抜け出しながら、思いっきり叫んでいた。
 しかし、無茶をしていたためか、バイパーの関節部から煙がでだす。
『なんやと!?』
 修理費はまずいと思い、武田は軟着陸をするかのようにコースアウトした。
 うっすらと煙が晴れたころ、スピンしてリヒトが動けなくなる。
 その隙に須佐は加速してヘアピンを抜けていった。
 勝負はわからない。
 
 
●Ninth Section
 ラストのストレートに続くゆるいカーブ。
 そこに第一陣で到達したのは4機のKV。
 先を走るのはホアキン。続いて、シルフィード、須佐、霧島が続いた。
 カーブの中腹に差し掛かり、順位が入れ替わる。
 霧島が突出し、ホアキンが出遅れた。
 シルフィードは加速しようと思うも、すでに燃料が切れかけていてドリブルが限界になる。
 須佐もコースに最後のガドリングを撃ってターンをした。
 リロードしなければもう撃てないので自らはずして重量を軽く出す。
『ラストは盛大に走りを魅せてやるぜ!』
 須佐は叫んで加速した。
 ゆるいカーブをドリブルで駆け抜ける。
 一進一退の攻防が続いた。
 誰もが、全力を尽くし、ストレートに向かう。
 ここまできたら、小細工は不要だった。
 全力で勝負にでるのみ。
 
 
●Last Section
 カーブをぬけ、スタートにもどるストレートが見えた。
 歓声がひときわ大きくなる。
 そんなとき、シルフィードが一人止まり、逆走をしだした。
「どういうことだ?」
 霧島はKVのコクピットから不思議そうに眺める。
 しかし、それもすぐにやめた。
 今は勝負を決めるしかない。
 残ったのは、須佐とホアキン。
 須佐はスタートダッシュに出遅れた。
 スタートダッシュを踏み切り、ホアキンと霧島がストレートを矢のごとく駆け出した。
 若干ホアキンのほうが先にでる。
「だが、俺には奥の手があるっ!」
 まだ練力を残し、さらに攻めることを決めていた霧島はホアキンの後ろから、ダッシュタックルを仕掛けた。
『くぅ!?』
「あんたにぴったりくっついたら斬られるからな、ワンステップ遅らせてもらったぜ!」
 赤い霧島のKVがホアキンの機体にぶつかりながら、抜いた‥‥。
 
 Winner Is Aya Kirishima!
 
 コースの中央に用意された電光掲示板に霧島の名前が大きく表示される。
「いぃぃぃっよっしゃぁぁぁぁっ!」
 精一杯の声を霧島は叫んでいた。
 2位にホアキン、3位に出遅れた須佐が続いた。
 そして、遅れていたメンバーが続く。
 昼寝とベルディットは共にリタイア。
 最後に、絢とシルフィードに肩借りた角田がラストにゴールした。
 本人の希望だという。
 経験の浅い霧島が1位という事実と共に、最後まで諦めない角田に対して、観客達は歓声と拍手で出迎えた。
 ここに、V1グランプリは幕を閉じたのである。
 
 
●In the Ture Winner‥‥
 角田や朧が医務室へ運ばれていくのを見てハルカは急いでいた。
 そんなとき、携帯にメールの着信が知らされた。
「こんなときに、何なのっ!」
 怒りながらもメールを見る。
 内容はトトカルチョを主催した人物からのもので、すばらしいレースだったため『順位不同で3位以内』を当てた人に賞金をくばるというものであった。
 ハルカの予想は『09−02−05』本来なら、はずれである。
 しかし、05も賞金配布となると‥‥倍率5倍を当てたことになった。
「うそ! 大黒字! 幸乃くんに報告しなきゃっ!」
 医務室へハルカが向かい、中にはいると幸乃と角田がいた。
「アヤ姐さんに幸乃くん、大丈夫?」
「ああ、俺様は大丈夫‥‥っつつ」
 乱入者との戦いは激しかったようである。
「あの人‥‥逃がした‥‥」
 朧の顔は暗い。
 自分の不始末で、角田を半ばリタイヤさせてしまった責任を感じているのだ。
「気にするな、俺様は平気だぜ」
 朧の頭を角田は撫でた。
 そんなとき、意外な来訪者が姿を現す。
 金髪の癖毛にサングラスをつけたライダースーツを着ている男。
「シルフィード‥‥」
 角田の呟きにシルフィードは答えず、コツンコツンとブーツをならし近づいた。
「俺様を笑いにでもきたか?」
「お前の戦いは‥‥レーサーの魂を感じた。修理費の足しにしかならないが、これを渡そう‥‥」
 そういって、シルフィードはサインを書いたヘルメットを角田に手渡す。
「お、おいっ!」
 角田が声をかけるもシルフィードは無視して、部屋を後にする。
 はじめのときのような威圧感はなぜか感じなかった。
 
 
●They Celebrated Their Election Win A Bet
 勝利者の霧島が、KVに乗ったまま挨拶する姿を悠は携帯で見ていた。
 赤いKVがコースを走り、アピールをしている。
『応援してくれたみんなありがとう! いいレースができたと思う。楽しかったぜ! 最後に一言、緋色の閃光の名前覚えてってくれよな』
 そして、2位のホアキンも続いてアピールをする。
 もっとも、声をかけているのは一人の女性に向けてだ。
『この勝利は、青空の闘牛士に風を運んでくれた貴女がやってくれたものだ。ありがとう』
 手を振るKVを見て、悠はにんまりと微笑み、携帯をいじる。
 ホアキンにかけた分は当たっていた。
「よーし、今日はうちのおごりや! みんな好きに飲み食いしていいで!」
 悠の元気な声が夜の公園に響く。
 宴は夜明けまで続いたとか、そうでないとか。
 その事実は当人達だけが知っている。