タイトル:ミサイルパーティマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/18 23:42

●オープニング本文


「ぬわぁぁんとぉっ!?」
 早朝のドローム本社AirCraft研ことAC研に鶏よりも起床ラッパよりも大きな声が響く。
「一体どうしたんですか‥‥徹夜明けなんですからもう少し静かにしてください」
 ソファーから起き上がり目を擦りながらアルパンサ・ロレンタは声の主である八之宮忠次室長を攻めた。
「見たまえロレンタ君、我輩が日夜忙しいというのに社長から辞令が下ったのである! これは由々しき妨害工作で‥‥」
「室長の場合は思いっきり趣味じゃないですか‥‥それに付き合う私も私なんですけど」
 欠伸をかみ殺したロレンタはいつものことと思いながらも忠次の指しているパソコンの画面を眼鏡をかけなおして覗く。
 
 辞令
 
 本日よりAC研にはA−1ロングボウにおける推奨ミサイル兵器及び、付随アクセサリーの開発を命ずる。
 使用者のアイディアを集めて、より需要を押え、更に市販できるものに仕上げることを最優先とする。
 
 ドローム社社長 ミユ・ベルナール
 
「何でうちなのでしょうか‥‥という質問は無駄なのでしょうね。RF−15ドライイーグルの方はデータ集計と補正なので一時取りやめましょう。グライドルの改良計画も棚上げですね」
 驚く忠次とは反対にロレンタの方は現在の仕事を冷静に判断し、振り分けをしだした。
 無茶を言われるのは既に慣れきっている。
 抗議しようと、あきれようと無駄なこともだ。
「強くなったのであるな、ロレンタ君」
「室長のおかげですよ‥‥傭兵の方にまた要請をかけておきますね」
「フハハハ! 我輩の教育のたまものであるな、フハハハ!」
 嫌味など気にした様子もなく豪快に笑い出す忠次に深いため息をロレンタはつく。
(「とりあえず、素案だけでも少し作っておきましょうか」)
 頼りにならない上司の元、健気な助手は頑張るのだった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
憐(gb0172
12歳・♀・DF
白岩 椛(gb3059
13歳・♀・EP
美虎(gb4284
10歳・♀・ST
櫻庭 亮(gb6863
18歳・♂・FT

●リプレイ本文

●開発は現場でやっているんじゃない会議室でやってるんだ
「しかし、実際に性能を数字に表すのは難しいものだな。思い描く所と現実とのギャップや価格との見合わせが中々上手く行かない」
 白鐘剣一郎(ga0184)は依頼で提示されていた案件を自分なりに纏めた資料を持ちながら会議室へのテーブルへつく。
「そこと戦っているのが私たち技術者なのですから‥‥高すぎて売れないものを作っても意味はありませんし、安くするために悪い物を作るわけにもいきませんから」
 ロレンタがコーヒーをそっと置いた。
「イーグルにも転用可能だというのに乗り気じゃありませんね‥‥」
「銃器タイプを主眼においているようですから、転用も難しいといったところなんですよね‥‥何よりKVから逆流用するのが嫌いなようで」
 コーヒーの香りに息をついた守原有希(ga8582)がロレンタの方をちらちら見ると、彼女は苦笑を返す。
「ロングボウかあ。装甲薄いけどあのミサイルの積み具合! 男の浪漫を感じるよねえ」
 主題であるロングボウについて思うことがあるのか少年エンジニアのリチャード・ガーランド(ga1631)は期待に満ちた目をしていた。
「皆さん、余裕そうです‥‥俺も初仕事をがんばりますよ」
 開発から戦闘までこなしている先輩能力者達を見た櫻庭 亮(gb6863)は拳をぐっと握って気合を入れる。
「そろっておるかな、諸君!」
 会議室のドアをあけて、カイゼル髭と整えたエネルギッシュな白髪の老人八之宮忠次が姿をみせた。
 小さな会議室で、今後のミサイル事情を変えるかもしれない会議が始まろうとしている。
 果たしてどのようなアイディアが飛び出すのか期待半分、不安半分でロレンタは会議を見守るのだった。

●案件1:ミサイルデータ調整
「では、初めの案件はロレンタ君の提案しているロングボウ推奨ミサイルへの肉付けであるな」
「ロングボウの改良会議で‥‥ミサイルの開発をお願いした身なので‥‥頑張ります‥‥」
 両脇に抱えていた『ろんぐぼうのぬいぐるみ』を憐(gb0172)はテーブルの上におく。
「ネタが被ってしまったでありますよ‥‥美虎もロングボウ改造計画に続いて姉上の代理参加なのであります」
 同じロングボウのぬいぐるみを持ってきていた美虎(gb4284)は先手を取られたことを悔やみながらも椅子の上にジャンプして座った。
 背が低いといろいろと大変である。
「個人的にはどちらも陸戦でつかえるようにと思っています。
 ロングボウのスキルがミサイルにしか修正かからないので空戦装備だけですと汎用性にかけますから‥‥」
 新居・やすかず(ga1891)が自分の考えを述べながらデータを出した。
「サイドホーミングは命中を高めたものであるからな、通常の銃器とは違った仕上げを目指した形であるか」
 やすかずのデータを眺めて忠次は腕を組む。
「ズーム&ダイブミサイルは使い勝手のよさを踏まえた継続戦闘能力重視といったところでしょうか。ユーザーの意見を聞くのは参考になりますね」
 ロレンタもメモを取りつつ関心した。
「私もやすかずさんのに近いイメージで考えていました。銃器扱いでどちらも欲しいところですね。今のKVミサイル事情には思うところもありますし‥‥」
 白岩 椛(gb3059)が自分なりに考えていたデータを出す。
「命中重視のようですが、値段はこのままでは厳しいでしょうね。性能からすればもっと上乗せもありえます」
 椛のだしたサイドホーミングミサイルのデータをみたロレンタは顔をしかめた。
「私としてはG放電装置くらいのバーンとしたのが欲しいところ。銃器かどうかは拘らないけどね」
 銀河重工謹製ボールペンをワザとらしく見せつつ時枝・悠(ga8810)は怪我をしながらも考えていたデータを提示する。
 サイドホーミングミサイルの案で、椛と近いが命中重視のようだ。
「椛案のズーム&ダイブミサイルはもう少し攻撃力を下げれば価格としてはつりあうかもしれないのであるな。
 値段は上に任せるとして基本データはこれできめるのである」
「サイドホーミングミサイルは悠さんのをベースに射程を落として銃器タイプの値段重視でいきましょうか」
 他にもいくつか出てきたアイディアの中、忠次とロレンタは一応の結論を出し最終調整に向けて動きだす。
 会議時間は既に2時間が経過していた。

●案件2:ぼくのかんがえたすごいみさいる
「次は価格等は置いておきましてグローバルな意見を求めていきたいと思います」
 ロレンタがホワイトボードに議題である「ぼくのかんがえたすごいみさいる」と書き終える。
「そうだな、装弾数6で最大6対象に攻撃できる銃器型ミサイルランチャーとかどうだろうか? 名前はハウンドロック、威力中、命中精度高でなんだが」
「さすがに採算があいそうもないですね‥‥面白いとは思うのですが、恐らくロングボウのレンタル料より高くなるかと」
 剣一郎の希望するスペックを聞きながら電卓を叩くロレンタの顔は渋かった。
「ミサイルランチャーでありましたら、美虎も意見があります。有線誘導式で、命中率を高めたハンディミサイルランチャーであります」
「似たような意見になりますが店売りのロケットランチャーと弾を共用させたり、パーツ流用してみてはどうかと思います」
 美虎とやすかずが次々と意見を重ねる。
「要望としては多そうなもののようであるな‥‥射程の長いランチャーもでているのであるから、そこから応用を考えてみるのである。
 リロードは難しいところであるから弾を多めに重量を増やして対応をせざるを得ないであるか」
 忠次が腕を組み悩みながらも、採用の方向へとハンディランチャーを持っていった。
「俺の考えたジャイロジェットピストル式のスナイパーライフルなどはどうだろうか? 電磁加速が無理ならば射程圏内だと思うのだが」
「ジャイロジェットは命中精度が極端に悪くなる傾向があるのでなロングボウの精度の低さを補えるか微妙なところである」
 剣一郎のスナイパーミサイル案は保留ということになる。
「えっと、俺のアイディアなんですけど‥‥追加装甲一体型ミサイルポッドとかどうでしょうか?」
 白熱する会議の中、静かにしていた櫻庭が申し訳なさそうに手を上げた。
「ミサイルポッドに装甲をつけておくというところでしょうか?」
 ロレンタが促がすように優しく問いかけると櫻庭は自分の持ってきた資料を持って読み出す。
「具体的には具体的には両手足、胸部、両肩、背面バックパックにミサイルポッドを装備。
 射程は6程度で一回で全弾発射でもいいとおもっています。小型のグレネードで面制圧ができればりそうかなと」
「あまりないタイプの意見であるな‥‥グレネードではロングボウの特殊能力修正はかからないのであるが、コンセプトは実に面白いのである」
 話を聞いていた忠次は不敵に笑う。
「誘爆の危険性はありますが、装甲をおいているなら多少生存性は高いでしょうね。
 複数目標は無理だとしても一点集中砲火型であれば検討の余地はあるかもしれません」
 忠次の反応を意外と思いながらもロレンタは採用方向で考えを詰めていった。
「多目的ミサイルコンテナMLRSを俺は提案するぜ」
 話を聞いていたリチャードは満を持してといわんばかりにホワイトボードの前にでてイメージ画を書く。
「ロングボウの特徴であるミサイル、ロケット弾の強化はK−01、K−02の登場で大規模弾幕での制空権確保を可能としたが
 地上でつかえるミサイルは少ない! だったらそこが狙い目! 
 人型限定時に使えるマルチロック可能な地対地ミサイルユニットを売り出せば陸戦での支援火力が大幅に上がる!
 誘導性能を上げるために弾頭をミサイルにするか? それとも榴散弾にしてゼカリアの散弾みたいに防御しにくくするのかは判断しにくいけど
 単純に行けば性能や価格などは地上版K−01ぐらいでいいのではと思うよ。
 これなら雷電などの重装備可能な機体ユーザーでも欲しがるぜ!」
 ホワイトボードに書いたかと思うとマシンガンのように言葉を発して、リチャードはニヤリと笑った。
「実に気合がはいっていますね‥‥ただ、地上のホーミングは中々難しいところではあります」
「ふむ、ではロレンタ君‥‥我がAC研でつくったミサイルポッドCを応用し上空からベアリング弾を撒くというのはどうであろうか?」
 ミサイル案を渋ったロレンタに忠次は榴散弾方式を提示する。
「つまり、こうであるな‥‥ミサイルを背中から上げて、上空のある地点で爆破させて榴弾をこの範囲にばら撒くのである」
 忠次は美虎のもってきたろんぐぼうのぬいぐるみを使って背中から両手を合わせたまま上がり、ばあんと手を開いて机に落とすというジェスチャーをこなした。
「推定される範囲は90度コーンで最長60mといったところですか。射程を下げればコストも落とせそうですけど」
 ロレンタは再び電卓とにらめっこして採算や研究費について考えだす。
「アイディアとしては実に面白いのであるな。採用に向けて尽力させてもらうのである」
 悩むロレンタを他所に忠次はノリノリで答えていた。
「勝手に決めないでくださいよ‥‥調整は全て私がやることになるんですからね。あ、時間ですね。ランチをして少し休みましょうか」
 悪ノリしている忠次を睨みつけたロレンタだったが、ついでに確認した時計で昼の2時を過ぎていたことを見ると態度を変える。
 長きに渡る会議は一端終了の兆しを見せたのだった。

●ブレイクタイムに
「じー‥‥」
「な、何か顔についているとですか?」
 ドローム社の社員食堂でミートスパゲティ食べていた有希が視線の元に尋ねる。
「観察中‥‥」
 視線を送っていた憐はちゅーちゅーとオレンジジュースを飲みつつぷいっと首を動かした。
 彼女としては姉のような人と仲良くしているので守原の人となりを確認したいらしい。
「先ほどは中々いえなかったとですが、ロケットランチャーには連射性がほしいとです。雨のように降らす案はうちも考えていたとですから助かったとです」
 同年代や年上の女性に苦手意識を持っている守原にとってロレンタや悠の存在は緊張の元で会議に思ったように参加できないでいた。
「資料は貰ったのであるが、廉価版K−01のアイディアは実に面白いのであるな。バランス調整はしやすいのである」
 社長ランチと呼ばれるチキンライスとチャーハンがおわん上に二つ盛りつけされたメニューをほうばる忠次が話を持ちかける。
「ドロームなんて嫌いだ‥‥」
 社長ランチを一瞥しながら忠次の隣に座った悠は体に優しいリゾットを食べ始めた。
「それと出せなかった資料」
 疲労が強いのか会議の途中で沈みかけていた悠が纏めたアイディアメモを渡す。
「ご苦労である。なるほど、補助系武装といったところであるな」
 悠が渡したアイディアメモには後方攻撃ミサイルや、連動式ミサイルなどのアイディアがあった。
「ファランクスのテーバイやアテナイもあるとですからあるとロングボウの価値が上がる装備とすな」
 アイディアメモを近づいて眺めた有希はふむふむと頷くが、悠が傍にいることに気づくと急いで自分の席に戻る。
「‥‥」
 そんな有希を『こんな人で大丈夫なのか』といった意志のこもった瞳で憐は眺めているのだった。

●案件3:アクセサリーいろいろ
「最後の案件となりましたが、アクセサリー関係のアイディアを募集します」
「スナイプスコープの強化版みたいなのが欲しいですね。行動値を下げてでもいいので命中修正の高い物を希望したいです」
 会議の議事録を個人的に纏めていた椛が念願ともいえるアクセサリーのアイディアをぶつけだす。
「フェアリングアーマーという空力改善型の追加装甲というのもどうだろうか? 回避と防御の両方上がる贅沢な仕様になるかな?」
 剣一郎も少しでもたしになればと自分のアイディアをだした。
「ふむ‥‥」
 忠次は出されたアイディアを見ながら珍しく深く思案する。
「これだけはいっておきたいのがあるのであります。光学迷彩フレーム! あたらなければどうということはないのです」
「光学迷彩はさすがに技術として不可能に近いですね。ファームライドの技術解析は時間かかるでしょうし、我々の迷彩技術では相手を誤魔化せるかというのもあります」
 唸る忠次を他所に質問をしてきた美虎に対してロレンタが回答を行った。
「では、サイファーによる遠隔サブアイはどうでしょうか? グライドルのステルスを応用すればいけると思うとですが」
「KVの特殊能力はKV一機の出力やシステムがあってこそなのでそのサイズで無人機というのはやはり割に合いません。また、自動制御技術はあちらの方が上ですから有効につかえるとは思えません‥‥」
 アクセサリーに対して理想は高くあるのだが、立ちはだかる壁はかなり高い。
「装弾数に不安があるから‥‥追加弾倉はどうなの? メルス・メスでも開発しているそうですが‥‥」
「その件はタシロから聞いているのであるが、規格がばらばらすぎて使いようが難しいのである。同じ装備を複数持つのが手早いというのが現状であるな」
 悩んでいた忠次が憐の質問にだけは答えた。
「ここが一番難しいかもなぁ〜。だけどアイディアを出すだけはただだからいろいろ足掻いてみようぜ」
 色よい返事の少ない課題に向けてリチャードは技術者らしく皆を鼓舞して話を進める。
 会議は大詰めを向かえつつあった。

●依頼終了
「はぁ、疲れました‥‥」
 初依頼が頭脳労働となった櫻庭は大きな息をついて休憩室にある炭酸飲料を口につける。
 疲れた喉にシュワーとくる泡が心地よかった。
「初仕事だそうですけど、ご苦労様でした。少しでも僕達のアイディアが形になればいいですね」
 隣にすわったやすかずが笑顔を櫻庭に向ける。
「まったくですね。出したアイディアが採用されれば仕事した甲斐があります」
 櫻庭はやずかずに疲れながらも笑顔を返した。
 戦うことだけが仕事ではなく、形になるものを作る仕事‥‥。
 やりがいのある依頼だった。