タイトル:小悪魔らじおふぁいなるマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/12 12:57

●オープニング本文


「はい、次の公開録音の場所はこちらです」
「ラストホープのプールですか‥‥新装オープンセレモニーにあわせてってありますけど、特にしなくても大丈夫じゃないのですか?」
 ライディ・王(gz0023)は事務所の社長秘書から手渡された資料を眺めて聞き返す。
「ラストホープでは四季による環境の変化は大きくありませんが、四季を基準に動く人も多いですから夏も終わりといわれるこの時期は例年厳しいそうです」
 秘書の方はライディの問いかけに臆することなく答えた。
「あの‥‥もう一つ質問があるんですけど」
「どうぞ」
「この『付属企画。どきっ! アイドルだらけの水泳大会、新旧頂上大決戦』ってなんですか?」
 企画書の最後の方に乗っていた一文を見つけたライディは嫌な予感を感じながらも秘書に聞く。
「社長の趣味です‥‥はぁ‥‥時折突拍子もないことを考えるので私も困っているのですが」
「ですよね‥‥ラジオのイベントとして何をやろうとしているんでしょうか」
「なんともいえません‥‥詳細は資料にありますけど、これらもDVDにして売り出すようなので撮影スタッフもつけていきますからまとめを宜しくお願いします」
 嫌な予感が的中し、すでにどっと疲れだすライディだったが、更に疲れる予定が畳かけられた。
「わかりました、何とかしてみます」
 しくしくと心で涙を流しつつ、無茶振りをライディは受領する。
 仕事を断るわけにはいかない、貯金をしなければならない理由があるのだ。

●参加者一覧

/ 葵 コハル(ga3897) / シーヴ・王(ga5638) / 椎野 のぞみ(ga8736) / 加賀 弓(ga8749) / 大和・美月姫(ga8994) / 終夜・朔(ga9003) / 鷹代 アヤ(gb3437) / 沖田 神楽(gb4254) / 舞 冥華(gb4521

●リプレイ本文

●前日の打ち合わせで
「え、『付属企画。どきっ! アイドルだらけの水泳大会、新旧頂上大決戦』? ‥‥どう反応したらいいんでしょうか」
 アイドル陣最年長の加賀 弓(ga8749)は手渡された企画書を眺めては頬に汗をたらせる。
「もー弓さん何いっているんですが今回はラジオの最終回で‥‥え、えぇ!? ちょっと社長ー何で水着企画に!」
 ラジオ番組最後ということもあり感慨にふけようとしていた田中 アヤ(gb3437)も企画書の裏の方にある文字に驚いた。
「夏といえば、プール! 水着! ポロリ! に決まっておるだがね」
 二人の反応を楽しむようににやけていた米田時雄はどうでもいいことに力を入れて断言する。
 これでも多くのアイドルを束ねる名プロデューサーであり、アイドル事務所の社長であるというのだから世の中わからないものだ。
「水泳大会にはびっくりしましたけど、最後の企画ですからしっかりとやりたいですね」
 大和・美月姫(ga8994)はこの手の企画に慣れているのかすんなりと企画を受け入れている。
「えっとー。社長に質問です。肩に傷があるアイドルははやらないですし、ビキニとTシャツでイベント補助として動いていいですか?」
 企画内容の説明が進み、質疑応答時間になると椎野 のぞみ(ga8736)が申し訳なさそうに手を上げて米田に聞いた。
「元々傭兵だから傷があることは避けられないとおもっとるでよ
 傷があるから魅力がないというよりは隠しつづけることがおみゃあさんの負担にならないかが心配だで
 それ以外は気にしてにゃあよ。ALPのメインパーソナリティが決まってにゃあようだから、そっちをやってもらってええかね?」
 以前も聞いていたのぞみのコンプレックスに対して米田は笑顔のままに答える。
「社長、アイドルの人数が若干少なめですのでマネージャーより企画変更の意見がきています」
「ああ、会場の準備にいっているんだったがね‥‥皆がOKなら俺がいうことはにゃーでよ」
 秘書から来た突然の連絡も軽やかに米田は答えつつも会議に参加しているアイドル達の顔をぐるりと見回した。
「冥華、るーるの変更だいじょーぶ。水着もしんちょーしているから楽しみ」
「プールで遊ぶの楽しみなの♪」
 舞 冥華(gb4521)と終夜・朔(ga9003)は用意されていたジュースをストローでちゅるると飲み答える。
「OKのようですね、ではマネージャーにはそう連絡をとっておきます」
 秘書は反論のないところを確認したあと、二コリと笑って部屋を後にした。
「さぁ、今日はお開きだでよ。明日は水着とか用意して遅刻なしでがんばってくりゃぁよ」
 パンと手を叩き米田は会議を締める。
 暑い夏が其処まで迫っていた‥‥。
 
●開幕、小悪魔らじおふぁいなる!
『小悪魔らじお・ふぁいなる。はっじまーるよー』
 葵 コハル(ga3897)がオープンを祝すのと、小悪魔ラジオのスタートを飾る花火の代わりにと飛び込み台から大きく跳んで落下する。
 オレンジ色の紐ビキニ姿のコハルが空で丸くなって回転するとまるで太陽のように見えた。
 そのまま体を捻らせたりして落下の姿を”魅せる”と水面へ体を伸ばして突っ込む。
 ドッパーンと大きな音を立てて水柱が上がり、シャワーのように降り注いだ。
 ガラス張りの天井から差し込んだ日差しが虹を彩る。
「すげぇ、派手なオープニングでやがるです‥‥」
 シャワーのように降り注ぐ水を浴びながらシーヴ・フェルセン(ga5638)は目を丸くする。
「濡れてもいい格好で正解だったかな? 番組もはじまっていくからこれから忙しくなるよ」
 シーヴの隣ではタイムスケジュールを見ながら時計とあわせて進行を確認するライディ・王(gz0023)がいた。
「水着は着ねぇですが、多少は濡れても平気な格好でありやがるです。‥‥普段、短ぇの着ねぇんで、ショートパンツはちと恥ずかしい、ですが」
 防水パーカーにショートパンツビーチサンダルで水際のサポートができるようにしていたシーヴが照れる。
 ライディの方は防水タイプのスタッフジャンパーにトランクスタイプの水着を着ていた。
 仮設スタジオの傍ではあるが、ギャラリーからも見える位置で二人は嬉しはずかしにいちゃついている。
 水しぶきも一通り落ち着いたとき、空から何かが降って来てシーヴの頭にべちゃりと落ちた。
「う、何かのったで‥‥あ‥‥」
 頭の物を降ろすと、それはコハルの紐ビキニの胸の部分である。
「うわ、水着落ちた!? 拾った人は持ち帰らないで届けてねー」
 胸元を押さえながらプールから上がったコハルはファンに手を振りながら控え室の方へと消えていった。
 無論、すぐにシーヴが追いかけて紐ビキニをコハルに渡す。
『ラストホープの小悪魔らじお。皆元気? 今回はプールからの公開録音だぞ』
 トラブルがありつつものオープニングコールを沖田 神楽(gb4254)が飾り、番組は始まるのだった‥‥。
 
●リレースタート
『特設スタジオよりメインパーソナリティを務めさせていただきます加賀弓です』
『えっと、急遽メインパーソナリティをすることになりました椎野のぞみです』
 競技の準備が行われる中、二人のパーソナリティのトークから番組は流れていく。
 弓は白の紐ビキニで身を包み、アイドル最年長といってはいるものの成熟した大人の魅力を漂わせていた。
 一方ののぞみは米田に宣言したとおり水色のビキニの上から水色のTシャツを横に結んだ姿でマイクに向かって話をする。
『今、目の前のプールではアイドル頂上決戦用に第一競技のメドレーリレーの準備が進んでいます。ルールについてはどうでしたか?』
 写真を撮っているファンに優しく微笑みをかけながら弓はゆっくりと状況の説明をしつつ、今回初ラジオとなるのぞみにパスを投げた。
『はいはい! ルール説明をします。ボクは競技にはでないけど、その分わかりやすく説明させていただきます。
 今回は変則的に50mのコースを背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、自由形を往復しながら交代して進みます。体力と技、そして担当する順番が勝負となります。皆さんがんばってくださいね』
 飛び込み台の下にある競泳用プールにコースが引かれ選手がプールに入り、グリップを握った。
『IMPとALPで各2名が競技者として参加しています。IMPからは葵コハルさんと、大和美月姫さんですね』
『ALPでは舞冥華さんと沖田神楽さんとなっています』
 スタジオの二人に紹介されたアイドル達がコースに並ぶ、プールを囲うように集まったギャラリーから歓声や口笛が飛んでくる。
「泳ぐの得意じゃないけど、がんばる」
「ふっふっふっ、後輩だからって手は抜かないよ」
 プールの中に入っている冥華とコハルは互いを見ながら闘志を燃やしている。
「よーい、ドン!」
 審判を担当するシーヴが号砲を鳴らすと両者が背泳ぎでスタートした。
『両者、スタートです。二人とも勢いのある泳ぎをしていますね』
 スタジオの方でカメラに映った二人の泳ぎを見ながら弓が解説をはじめる。
『背泳ぎで進み、今背泳ぎでターンしました。オレンジ色のビキニを着ているコハルさんが有利です。セパレート水着の冥華ちゃんがんばれっ!』
 目の前で繰り広げられる泳ぎにのぞみのナレーションに力がこもりだした。
『こちらは朔なの。待機している二人にインタビューしたいと思うの。今の気持ちはどうなの?』
 ターンして戻ってくる間に朔がプールの方へ足を運び待機している二人へインタビューをはじめる。
「参加するからには、勝ちにいきます。正々堂々勝負しましょうね」
「泳ぎには自信があるから負けないよ」
 コハルが次の平泳ぎにはいるのを見送った美月姫が余裕の微笑みと共に長いブロンドの髪を軽くかきあげた。
 欧州でモデルをやっていた美月姫の体は無駄なく整っている。
 しかし、神楽は臆することなく実家の剣術道場で鍛え上げられた体を黒ビキニに包み美月姫と握手をした。
 一歩遅れて冥華が壁にタッチしようと近づてくる。
「では、お先に‥‥」
 冥華が壁にタッチすると共に神楽が飛び込みコハルを平泳ぎで追いかける。
『IMPチームは前半後半と二回に分けて動き、ALPチームは冥華さんができる背泳ぎと自由形を優先した組み合わせになっています』
 プール上で行われている様子をラジオのリスナーに伝えようとのぞみは頑張っていた。
『コハルさんを神楽さんが追いかけていきます。距離は縮まっていますが、コハルさんの勢いは止まりません。今、ここでバタフライを美月姫さんがスタートです』
 弓ものぞみのように実況を続ける。
 美月姫に変わってから、神楽の追い上げが勢いを増していた。
『ここで神楽さん追い上げます、追い上げ‥‥おいぬいたっ!』
 そして、神楽のバタフライと美月姫のバタフライのターンで二人の位置は逆転し、神楽が先を進む。
『ラストの自由形を今、冥華ちゃんが‥‥犬掻きでスタートです!』
 自由形のルールに犬掻きをしてはいけないとは無いが、意外な種目選択に思わずのぞみが驚いた。
『美月姫さんは王道でクロールです。ここから逆転なるかどうか』
 アップアップしながら犬掻きで泳ぐ冥華をクロールで泳ぐ美月姫が追いかけだす。
 勝敗は美月姫にあがったが、冥華がゴールするまでギャラリーからの応援の声はやまなかった。
 
●ラジオパートとか
「はーい、競技も一端終了。次の競技の準備中はラジオの方をお楽しみくださいなっ!」
 アヤのテンション高めなトークでラジオは続いていく。
「一回戦はIMPチームの方が勝ちましたね。でも、ファンの心を掴んだのはALPの方だったような気がします」
 引き続いてパーソナリティを担当している弓が優しい声色で相槌をうった。
 冥華の頑張りを見せた犬掻きによる100mの泳ぎは心に訴えるものがある。
「本当にそうですよねー。でも、それより神楽ちゃんと水着のセンスが被っている方がびっくりでした。朔ちゃんも黒のフリル付きの水着でしたね」
 感動的な出来事もそうだが、アヤにとってはそちらの方が気になっているようだ。
 当人も言っているように黒のビキニに上からTシャツを着た姿で今はラジオの方を回している。
「水着のセンスは人それぞれですね。ビキニといっても私やアヤさん、コハルさん、神楽さんは紐ビキニのようですし、美月姫さんはタンキニのようですね」
「可愛い水着が似合う女性になりたいですよー。美月姫さんとか弓さんとか似合いすぎです」
 トークの話題は競技のことから水着について掘り進んでいった。
『見せていませんけど、私もビキニですよー。上からシャツを着ていますからわかりづらいかもですけど』
 二人のトークを聞きながら、スタジオを飛び出していたのぞみが答える。
 シーヴやアヤをはじめとしたスタッフらで囲いを作ったポールとロープで区切られた場所に近づいていたのぞみは客へのインタビューを試みた。
 盛り上がる声が入り乱れて音声として入ってくる中、質問を男性にぶつけてみる。
『それではお客様に聞いてみますー! 今度の競技、誰を応援してますか?』
『やっぱり健気な冥華ちゃんを応援したい! 俺の妹になってくれー!』
 ものすごいカミングアウトをするインタビューにスタジオの二人から笑いがこぼれた。
『妹希望とのコメントが来ました。後輩系アイドルとしてアヤさんはどんな感想をえましたでしょうか?』
「ちょ、そこであたしに振るの!? えーと、後輩にならなるよ、先輩♪ ‥‥お、おう、恥ずかしいよ」
 いきなり振られた話題にアヤは答えながら思わず照れる。
『もう一人、女性の方に聞いて見たいと思います‥‥そちらの方は誰を応援してますか?』
『私はぁ〜、ゲームでコハルさんをしったのでぇ〜、コハルさんを応援したいですねぇ〜』
 間延びした女性のコメントにスタジオ裏の控え室にいたコハルは小さくガッツポーズをとった。
「ああ、コハルさんは同人ゲームの方にモデル出演していたとかいっていましたね。他の仕事からもファンが増えてくるのは嬉しいですね」
 弓は思い出したかのように手をぽんと叩きながら微笑みを強くする。
「事務所の仕事も幅が広がってきているようですから、出演がIMPやALPのみのゲームとかできるかもしれないですね。マネージャーそういう仕事もとってきてください」
 ばたばたとスタッフと一緒に雑務をこなすマネージャーに向けてアヤが要望をだすも、善処しますと軽く返された。
「それではここで一曲お送りします。先日のALPオンリーライブで公開されましたALPのイメージソング『―ALPha 夢への翼― 』をどうぞ」
 弓が先導するように締める。
 ALPのメンバーがフレーズを寄せあって作り上げた一曲が屋内プール中に響き渡った。

●競技の合間に
 第二競技である水中に入りながらビーチバレーというルールで行ったウォーターバレーもALP側が勝利となって終わり、一端休憩時間へと入る。
 弓とのぞみがラジオモードで話す中、控え室にいるメンバーにシーヴは飲み物を渡していた。
「コハルお疲れでやがるです。100mリレーの泳ぎはすごかったです」
「にゃはは、ありがとう。引きしまった体がダテでないことを見せれてよかったよ」
「オープニングで水着が取れたのにはビビッたです」
 汗と水をタオルで拭きながらコハルが笑うとシーヴは引き締まった体の一部を隠しているものを見ながら呟く。
「DVDになるんだよね? 秘蔵映像一杯撮れるといいねー」
「カメラはまわしていますし、どこに何がうつっているか楽しみですね」
 控え室のホワイトボードに今後の予定を書き出していたライディがシーヴとコハルの会話に混ざってきた。
「ライディ‥‥エッチです?」
「い、いや、そういう意味でいったわけじゃなくて!?」
 思わぬシーヴのツッコミにライディが慌てはじめる。
「マネージャーさんはどうして顔が赤くなっているのですの?」
「そこは触れてはいけないところですよ」
 慌てるライディを見て首を傾げる朔を美月姫が少し汗を流しながらとめた。
「仕事でいちゃつけるってちょっと羨ましいかも‥‥」
 からかわれているライディを見ながらアヤは小さく息をつく。
「スケジュール通りいっていれば、歌でありやがるですね」
 慌てているライディを見るのも忍びなくなり、話題を変えだした。
『ライブの時のとは違うけど二人で歌うつもりでした』
『バックコーラスでなくてメインで歌うのは初めてだけど、精一杯歌うね!』
 控え室にあるモニターにプールサイドで歌う準備をしている二人の姿が映っている。
『それじゃ『RISE STAR 二つの願い』、どうぞ』

 ♪〜〜
 
 輝いていこうあの星のように
 いつのまに 追いかけた夢がぼやけていく
 変わらない現実 なんとなくの形のない不安
 燻ったままの想いを隠す 見せかけの笑顔
 相手の居ない競争なんて ただ虚しいだけ

 でも、きっと動き出さなきゃ変わらないから
 あの時みたいに夢を信じてみたい初めて見たいに
 例え叶うかなんて分からなくても
 ここにいることに意味はあるはずだから
 燃え尽きるまで輝いて見せたいあの時見た流れ星のように
 これが間違えでも後悔はしない私が選んだ事だから
 迷うことの無いようにこの思いを
 明日を切り開く刃に変えて


 輝こうあのとき見上げた星のように
 あの日の場所は 今は遙かに遠く
 変えることの出来な過去 消えることのない傷
 悲しみを紛らわす 無理をしている笑顔
 取り戻せない 苛立ちを抱えて

 それでも、いつかは必ず取り戻してみせるよ
 あの時の想いを忘れることは出来ないから
 例え自分が傷つくことになったとしても
 生きていることに意味はあるから
 燃え尽きるまで輝いて見せたいあの時見た流れ星のように
 これが間違えでも後悔はしない私が選んだ事だから
 胸にたぎるこの想いを木霊せよう
 闇に光を照らす剣に変えて

 〜〜♪
 
 前半を神楽が、後半をのぞみがメインでパートを務め、デュオを二人は歌いきった。
 歌終わった二人にギャラリーから拍手が贈られる。
『皆、最後まで聞いてくれてありがとう。のぞみん大丈夫だった?』
『うん、大丈夫‥‥こんなに応援してくれて嬉しいよ』
 心配する神楽に支えられたのぞみは声援を受けて思わず涙をこぼしたのだった。
 
●ファイナルステージ
『さぁ、よいよ最後の対決となりました。勝負は1勝1敗となって接戦です。最終ラウンドはウレタンチャンバラ合戦です』
 ミニステージを挟んでの最終ラウンドではプールに浮かんだ大きな浮き輪に乗って相手をウレタン棒で叩き落とすという競技となる。
 予定では騎馬戦だったのだが、人数の都合上急遽仕様変更となったのだ。
『そして、今回に限り総力戦ということで私、加賀弓も参戦します』
 ヘッドホンマイクをつけたまま解説をしていた弓がスタジオを飛び出しプールサイドに立った。
『朔も参戦しますの。ウレタン棒で語る友情があるって聞いているの♪ 皆と仲良くなるんですの』
 インタビュアーを務めていた朔も混ざり波乱の予感が漂う。
『最後のインタビューをするの、今の気持ちを一人一人聞かせて欲しいの♪』
「あたしはお遊びとはいえ勝負は勝負、そこは手を抜かずに勝ちにいくよ?」
「そうですね。大人げないかもしれませんが、子供には負けたくないですね」
「同じになりますけど、正々堂々勝負しましょう」
 IMPの弓、コハル、美月姫がそれぞれ答えた。
「何が来ようとあたしはガンバルだけさねー。さあ来い、ばっち来い!」
「こういうのってやってみたかったんだもちろん勝ってみせる」
「むむ、ちっちゃくてもがんばれるってしょーめいする」
 アヤ、神楽、冥華と流れるように答えが返ってくる。
「朔は、全力で頑張って戦って、対戦相手ともっと仲良くなる事、ですの♪」
 最後にマイクを受け取り直した朔がフリルをふわりとさせながら纏めてマイクをスタッフへと渡した。
「各自、好きな浮き輪に乗りやがるです。乗りやすいのから高いのまでいろいろありやがるんで早い者勝ちです」
 シーヴが指示をだして、総勢7名の選手をワニや牛、大きなドーナツタイプのものまである浮き輪に案内していった。
「冥華はこのいるかのにする」
「私はこの大きな牛にしましょうか‥‥」
「朔はワニさんにするの♪」
 わいわいと騒ぎながら各自が浮き輪にのりウレタン棒を手に持って準備をする。
 水着姿のアイドル達がさまざまな浮き輪に乗っている姿にギャラリーからフラッシュがいくつも点灯した。
『各自、用意できたでありやがるですね? 落ちたら負けでやがるです。水着が落ちても自分が落ちなきゃ負けじゃねぇですが、そこんところは選ぶとこ』
 マイクを持ってシーヴが全員に聞こえるようにルールの再確認をする。
 ハプニングが起きても自分で処理しろと暗にいっているのだ。
「よーい、ドンでやがるです」
 パンと空砲がなると水面を足でけったり、ウレタン棒をオール代わりにして動きながらアイドル達がぶつかり合う。
「えいえいえいっ」
 先手を取ったのはイルカに乗った少女の冥華である。
 犬かきをして頑張ったが惜しくも負けてしまった100mリレーでのことを名誉挽回しようと頑張っていた。
 もっとも、狙っているのか届かないのか狙いどころは十中八九胸なのだが‥‥。
「キャッ!? 見ないで、撮らないでください!」
 狙われた弓の胸元から白い紐ビキニがはらりと落ちた。
 一瞬の出来事だったが、すぐに胸を押さえて弓はプールにダイブする。
 同性と医者以外では婚約者にしか見せたことのない秘めたものが大勢に見られたと思うと恥ずかしくてプールの底に沈みたくなっていた。
「弓さんがやられるとはっ、そりゃ、お返しだぁ!」
 鬼に金棒、コハルにウレタン棒といわんばかりりに筏型の浮き輪にのったコハルは攻防を振り払い、弓の仇である冥華を落とした。
「うぬっ! よくも冥華ちゃんをおりゃー!」
 コハルに向かってタグボートのようになっている浮き輪を動かすアヤが対抗する。
 防御を中心にコハルの動きを受けながらチャンスをうかがった。
 弓のことがあってか、ギャラリーからは何か妙な期待のこもった視線と、歓声が聞こえ始める。
 まったくもって現金なものだ。
 いやらしくフェイントをかけて攻めてくるコハルの攻撃にたじろぐアヤだったが、コハルが浮き輪の上でバランスを崩した一瞬を狙ってウレタン棒で突いた。
「覚悟ー!」
「にゃにをーっ!」
 バランスを崩したまま落ちるコハルだったが、最後の足掻きとアヤの手を掴んでプールの中へ引き込む。
 ざっぱーんと二人がプールの中に沈むとプカっと黒い水着が水面に浮かんだ。
「え、えっと‥‥見た人はALPのCDを買うこと、見れなかった人はDVDを買うこと!」
 恥ずかしげに胸元を押さえて水面に浮かんだアヤは顔を赤くしながらも宣伝を行う。
「二対一で不利になりましたね‥‥どうしましょうか」
 朔と神楽に囲まれた美月姫が大きな牛の形をした浮き輪に跨り流れに任せながらウレタン棒を振って抵抗をしていた。
「勝負ですのー」
「勝ちにいくよ」
 挟み撃ちをされて苦戦する美月姫は抵抗空しく落下してしまうのだった。
「勝負ありでやがるです。ALPの勝利です」
 対決が終わったことをシーヴが高らかに宣言し、新旧アイドルの対決は終わる。
『実況中継を一人頑張っていたのぞみさんありがとうございます。他の方はいろいろと忙しいみたいですので、私美月姫が最後までお付き合いいたします』
『この後は水着撮影会が行われます。リスナーの皆さんにはお見せできないのが実に残念です』
 プールからあがり、スタジオの方へ戻った美月姫がのぞみと共にラジオパートを続けるのだった。

●撮影会と共に
 水着を着なおしたアイドル達は白い衝立の用意された場所へ並び、撮影会へと挑んでいる。
 ギャラリーの囲いにかなり近い位置での撮影タイムであり、人の流れの整理などスタッフ側も大忙しだ。
『撮影の途中ですけど、インタビューしますの。今後の抱負はなんですの?』
 いくつか注文されたポーズで撮影されていた中、休憩代わりにと朔がマイクをもって最後のインタビューを行う。
「ん、DIVAの仲良し三人組で、すごいあいどる目指す」
 浮き輪をもってヒマワリの飾りをつけた冥華が答えた。
「これからもALPでやっていこうと思ってる‥‥歌も出来れば続けていきたいからIMPにもって悩んでるけど
 今はもう少しこのままかなでも挑戦は止める気は無いよ」
 黒いビキニで勝気な印象を漂わせるポーズに拘る神楽も続く。
「うーん、そだね‥‥『田中アヤはこれからも突っ走り続けます!』‥‥どよ?」
 同じ黒いビキニだが、胸を寄せて強調しながらも上目遣いと【後輩系】を売り込んでいたアヤも答えた。
「朔は抱負は、あまり変わらないのかもしれないけど、皆の心に響かせられる歌を歌い続ける事‥‥
 だから、これからも宜しくお願いしますの♪」
 朔は自分にマイクを持ち直しながら答え、次のIMPのメンバーへ近づいていく。
「これからも皆さんを元気付けていける様に日々努力をしていきます」
 ワンピースタイプの水着に着替え直し、モデルの本領発揮をしている美月姫がまず答えた。
「卒業した相方さんに誇れるような。あの人以上のアイドルになりたいと思います」
 ポロリの恥ずかしさがあるのか俯き、胸を押さえる姿で撮影していた弓が力強く決意を語る。
 胸を押さえることで更に強調されているのだが、弓が気づいているかどうかはわからない。
「歌だけじゃなくてもーちょっとカラダ張った仕事をしたいカナ、バラエティでもおっけーだし
 もちろんスタントを使うようなアクションものも楽しそうだよね」
 コハルは隣の弓の胸をチラッと見るも、胸の大きさが魅力の決定的差でないことを示すためにポーズなどに拘りを見せて撮影に戻った。
『皆さんの豊富、確かに聞かせていただきました。余談ですけけど、ボクも『個性的な、でも色んな顔を持つアイドルに!』を目標にこれから頑張りたいかな?』
 一人スタジオでリスナーに向けてトークを続けていたのぞみは自らの豊富を語る。
 ラジオ番組は今回で終了であり、今のALP,IMPの枠での活動もラストだ。
 これから先に待つものはわからない‥‥。
 しかし、業界の波に負けない力を彼女達がもっているのは明らかだった。