●リプレイ本文
●出撃前に‥‥
「大統領自ら出撃とは精がでるね」
景気付けに一杯とばかりにアトモス・ラインハルト(
gb7934)は用意されていたソフトドリンクを口につける。
大統領であるジョナサンの呼びかけに非戦闘員も戦闘員もまとめてごった返し、お祭り騒ぎのような光景が広がっていた。
「アメリカ大統領が能力者でしかも一緒に戦うなんて思わなかったなぁ。
そんな重要人物を失うわけにはいかないもんね。数が多いかもしれないけど、無事切り抜けなきゃねっ!」
アトモスの隣では御崎緋音(
ga8646)が大統領の参戦に驚きながらも守り抜くことに尽力を尽くそうと誓う。
「でも、何でKVなんて乗っているんでしょうね‥‥AU−KVは乗ってないみたいですけど」
井出 一真(
ga6977)にいたっては目の前の光景にただ唖然とするだけだった。
「フヒューゥ。いいねすごいねー。これだからオトコノコはやめられんよ」
高台の上から手を振る大統領を写真に収める人々を目にした鈴葉・シロウ(
ga4772)も心を躍らせ場の空気を楽しむ。
祭り騒ぎのようではあるが、この先に待っているのは大きな戦闘である。
命を落とすかもしれないという恐怖が逆に大きく騒ぎ立てようと人を動かすのかもしれない。
「ラストホープからの傭兵が到着か、負ける気がしなくなるな」
盛り上がるアトモスやシロウにハイタッチをしながらジェイドが傭兵達の傍まできた。
「ジェイド大尉さんですね、お久しぶりですっ! 今回は作戦中にこちらからいろいろと提案があるかもしれませんが宜しくお願いします」
「ヘルメットワームとの戦闘はそちらの方が慣れているんだ。こちらがキッチリあわせるさ‥‥おや、そろそろ出撃の時間だ」
頭を下げる御崎にジェイドは気楽に答えながら時計を見る。
「さぁ、それじゃ勝とうか皆。なに、We Can[我々はできる]らしいから大丈夫さ」
同じく時計を見たシロウは肩にかけたスーツを翻し、愛機へと向かった。
空には雲がかかり、怪しい空気が立ち込める‥‥。
●想いそれぞれ
『<特殊電子波長装置γ>は順調に作動中。ジャミング発生源に大型ヘルメットワームを確認、中型、小型を引きつれてキメラの影も確認中と。キメラの方を大統領と共に迎撃に向かいます』
ミンティア・タブレット(
ga6672)の淡々とした状況報告が飛び立っている能力者達の耳に届く。
先行してくるキメラの大群にジョナサン大統領の乗るフェニックスが先陣を切って突撃し、それをF−15が追いかけて戦闘を繰り広げ始めた。
(「アメリカ生まれでも日本人。日本に住んだこともない‥‥でも、あの人たちのように郷土愛や自由で戦うことも出来ない。考え直してみると中途半端」)
目の前で命を賭けた戦いが行われているにもかかわらず瓜生 巴(
ga5119)は冷静に見据えている。
悪く言えば”醒めている”のだが、そのこと口には出さずに仕事に向かった。
担当は小型のヘルメットワームが10機であり、初乗りのウーフーが相棒という余りいい条件ではない。
巴機から飛び出した先制の試作G型放電装置による攻撃を切り口にマァピアのイビルアイズが先行した。
『先に向かう。オマエはオマエなりに戦えばいい。オマエ、オレと違う』
「心が読まれた? そんなわけないか‥‥」
すれ違いざまに聞こえたマァピアの言葉に巴は一瞬困惑するもすぐに気持ちを切り替える。
『今から”殺虫剤”を撒きますから、”害虫”が弱った所を思い切り叩いちゃって下さいね』
更に乾 幸香(
ga8460)のイビルアイズから<試作型対バグアロックオンキャンセラー>が放たれると新型のRF−15に乗ったイーグルドライバー達が小型ヘルメットワーム達の迎撃に向かった。
戦闘機であっても操縦センスは能力者よりも高く、相手の攻撃があたらなければ牽制から集中砲火による撃墜まで息のあったフォーメーションで解決していく。
「もうすぐ混戦になりそう。流れ弾のないレーザーで攻めるか」
アトモスのディアブロからスナイパーライフルRの援護が飛び出すと巴もマァピア機がブレードウィングで攻めているヘルメットワームに向かって3.2mm高分子レーザー砲を放った。
しかしながら敵の数は多く、また大型ヘルメットワームが指揮官なのか目に見えて動きが違う。
「どうやら敵の頭を落とさないことには苦戦しそうですよ。担当の人は宜しくお願いします」
このとき巴は通信機をオンにして初めて話したのだった。
●ターニングポイント
「各機散開しろ。プロトン砲の一斉発射がくるぞ」
御山・アキラ(
ga0532)が予測していた敵の動きに抑揚のない通信を行う。
『本当に来ましたね。ハリウッド映画さながらの光景ですよっ!』
飛んでくる光の柱を避けながら新居・やすかず(
ga1891)はS−01Hの体勢を整えた。
『何というか熱血大統領とでも言えばいいのかな? 一国のトップがKVに乗って出撃とはね。
まあ、大統領を戦死させる訳にはいかないから、そこの所は気をつけておかないと』
アーク・ウイング(
gb4432)のシュテルンはプテラノドンキメラと獅子奮迅の戦いをする大統領を確認しながらも目の前の脅威と対峙し続ける。
「次の攻撃前にこちらから仕掛けるぞ」
『言うまでも無い』
ブーストを発動させたアキラとシルフィードのシュテルンが空を駆けた。
『先手をしかけますので、確実に落としてくださいよ』
やすかず機から84mm8連装ロケット弾ランチャーが飛び、編隊飛行をしていた中型ヘルメットワームを散らす。
『あーちゃんもやっちゃうぞ!』
アーク機が散らした1機にスナイパーライフルD−02で狙いを定めて撃ちこんだ。
追い討ちを駆けるように、二手に分かれたシュテルンは各々一機の中型ヘルメットワームに向かってスナイパーライフルRを仕掛ける。
「一々構っている暇はない‥‥沈め」
ブーストの勢いをそのままにアキラは<PRMシステム>を使い、M12帯電粒子加速砲を連射して撃ちこみ沈めた。
シルフィ−ドのシュテルンも試作型「スラスターライフル」を一点集中で全弾叩き込み、沈めていく。
しかし、まだ3機の中型ヘルメットワームは拡散する近距離フェザー砲を放って反撃を試みた。
「くっ、回避しきれないか」
強い一撃を与えるために接近していたアキラのシュテルンが粒子に翻弄され機体を大きく揺らす。
『的確に狙ってきますねっ、相打ちになってくると数の差で負けます』
距離を詰めたやすかず機が強化型ショルダーキャノンや試作リニア砲で対抗しながら不安を口にした。
『何とか耐え切るしかないんだよ。<PRMシステム>起動〜』
アークが集中攻撃を受けるとシュテルンの抵抗力を高めて持久戦への体勢を取り、UK−10AAMで攻撃後に間合いを取ろうとする敵機を迎撃する。
だが、落ちついて戦える状況はだんだんと混戦がきつくなってくると減りだした。
「埒が明かない‥‥まずは雑魚を片付けてくる。少しの間耐えろ」
アキラが優勢に傾きだしている小型ヘルメットワーム対応班への応援に向かう。
ターニングポイントが訪れた。
●戦場の風になる
「井出さんが予備機なのが痛いです‥‥しかし、負けるわけにはいきません」
試作型「スラスターライフル」をリロードしながら御崎は呼吸を整える。
大型ヘルメットワームと戦闘をしてからいくらか立つが、一時的に強化されるフォースフィールドに阻まれ攻撃がなかなか通らないのだ。
拡散フェザー砲やミサイル迎撃を兼ねているクリプトンレーザーが飛び交い着実にヘルヴォルを削っていく。
『これほど硬い相手なんて‥‥きついですね』
準備していたアルバトロスを空港に残し、軍から借り受けた岩龍で出撃した井出は、長距離バルカンで援護をし、敵の攻撃方向を伝えながら注意をひきつけようと必死になっていた。
『HO−HO−HO−。ジャパニメーションも驚きの空中戦だね』
窮地でありながらも、どこか楽しげにシロウ機が大型ヘルメットワームへスラスターライフルを叩きこんでいると一機のシュテルンが空域に割り込んでくる。
「あれは‥‥シルフィードさん! 中型ヘルメットワームの方を頼んだはずじゃ」
『時間をかけるほど不利なら‥‥やることは一つだ』
中型ヘルメットワームを片付けたシルフィードがスナイパーライフルRを撃ちながら加速して大型ヘルメットワームへ突進した。
「ありがとうございます、助かりました」
御崎が喜んでいるとシュテルンがソードウィングを持って敵の腹部にぶつかる。
クリプトンレーザーで機体を貫かれながらも一撃を当てたシュテルンは大型ヘルメットワームを傷つけながら距離をあけた。
大きな一撃を受けた大型ヘルメットワームのフォースフィールドが弱まる。
だが、シルフィード機が距離を開ける前に大型ヘルメットワームが加速して体当たりをぶつけてきた。
『ちっ‥‥ここまで‥‥』
クリプトンレーザーの攻撃を受けて弱まっていたシュテルンが大型ヘルメットワームの体当たりを受けて爆発する。
一瞬の出来事に傭兵達の動きが止まった。
『し、シルフィードさん!?』
『他人の心配するより、このチャンスを逃すわけにはね。くらいなさいよっ!』
シュテルンが傷つけた大型ヘルメットワームの亀裂に向けてC−0200ミサイルポッドを放ち、次の二段噴射式ミサイル「ストレイ・キャッツ」による亀裂を直撃させる急加速弾を叩き込む。
フォースフィールドの強化が出来なくなった敵機を40発のミサイルが取り囲み、ストレイ・キャッツがぶつかると誘爆するように爆発音が続いた。
「螺旋弾頭弾全弾いきます!」
爆発が収まる前に御崎がそのまま<超伝導アクチュエータ>を起動させて精度を高めた8式螺旋弾頭ミサイルを4発一気に発射する。
先端がドリルになった空対空ミサイルが切り裂かれた装甲を引き裂き、内部を抉った上で砕け散った。
大型ヘルメットワームの内部から火がところどころ外へと噴出し、煙を上げながら沈んでいったかと思うと眼下で散っていく。
『やっと落とせましたか‥‥けど、シルフィードさんの捜索ができるように他を片付けましょう』
井出がレーダーに張り付いている敵機の数を確認しながら機体を傾け他の班の援軍に動いた。
●ドッグファイター
「もう回避するしかないけど、こっちの武器もドックファイト用だから敵の攻撃も当たり易いんですよね‥‥」
ミンティアはロッタのペイントとファイアーパターンの塗装のされた装甲の薄い骸龍でプテラノドンキメラを狙い攻め続ける。
既に小型ヘルメットワーム達とも遭遇しているため、戦場は乱戦状態でありレーダーと肉眼で動きを見ながら自己判断で何とかしている始末だ。
それでもジャミング中和能力がウーフー、岩龍、骸龍と三種類重なっているためアドバンテージはかなり稼げている。
『敵の大将が落ちたようだ。勝機は我らにあるぞ!』
ジョナサンは戦いながらも味方を鼓舞し、戦闘開始前より数の減っている戦闘機隊を勇気付けた。
だが、その瞬間を狙って小型ヘルメットワームがジョナサンを狙ってくる。
『ゲストをやらせるわけにはいかないんだよね〜』
ジョナサンの様子を見ていたアトモスがラージフレアを撒き、スナイパーライフルRで小型ヘルメットワームを撃ち抜いた。
『援護感謝するぞ、こちらも受け取れぇぃ!』
気合の入った一言共にフェニックスからフェザーミサイルが残っているプテラノドンキメラを一体一体確実に落とす。
『大統領に負けていられませんね。この子だってバリバリ戦えることを証明するんです』
乾もイビルアイズをつかって150mm対戦車砲とMSIバルカンRを組み合わせて小型ヘルメットワームを叩いていった。
『中型ヘルメットワーム全滅できたよ〜』
『今から小型ヘルメットワームの援護に入ります。結構被害ありますけどね』
中型ヘルメットワームの排除に回っていたアーク機とやすかず機がアキラ機に送れて小型ヘルメットワーム迎撃の援護に回る。
機体の装甲の変形具合も激しいがそれで戦える限り戦っていた。
「敵機の消滅を確認。20km範囲に他機影なし‥‥。潮時です」
ラストのプテラノドンキメラにトドメをさしたミンティアは戦況を確かめ、逆探知をし終えて一息つく。
『キメラ総数50体、小型ヘルメットワーム20機、中型ヘルメットワーム5機、大型ヘルメットワーム1機‥‥そして、味方のシュテルン一機がMIA(任務中行方不明)ですか』
一息ついているミンティアの耳に巴の淡々とした報告が聞こえてきた。
●終結
「Mrプレジデント、ロスでの失態は多少は返せた‥‥とはいえないか」
アキラが巡回終了後ジョナサンに声をかける。
撃墜された味方の回収のめぼしをつけるためだったがシルフィードにいたっては巴の報告どおり所在がつかめていない状況だ。
「悲しいが犠牲はいつもつき物だ。今まで払い続けていたからこそ私は前線に立って自らリスクを負うつもりだったのだが‥‥残念だ」
「アイツ生きている。精霊もそういっている」
ジョナサンがアキラに答えると、マァピアが静かに怒りを見せる。
「すまない、そうだったな。諸君達はまた戻ることになるだろうから、ジェイド大尉は捜索を続けて欲しい」
「了解ですよ、大統領」
ジェイド大尉は敬礼をジョナサンに捧げるとヘルメットをかぶり直し再び空へと飛び上がった。
戦争に犠牲はつき物だが、希望を捨ててまで犠牲を決め付けることはない。
今はただ、消えた戦友の無事をただ祈るだけだ‥‥。