●リプレイ本文
●レアモンスター
「マイコーン。分かりやすくて、良い名前だと思うの」
『本部で沖那さんが言ってたよ』
乙(
ga8272)は借り物のナース服に袖を通してガッシャンガッシャンと物音のなる病院へと入る。
手に持っているテディベアの癸もなぜかナース服のコスプレをさせられていた。
『どうして僕もこの格好なの?』
「郷に入れば郷に従えといいますし、お似合いですよ?」
もっともらしい理由をいいながら共に病院の中に入ってきた流離(
gb7501)は癸を撫でた。
『廊下を走らないでください』と書かれた張り紙を無視し、二人は大きな物音の響く方へ走る。
「危ないから、出てきちゃダメなの」
走りながらも乙が廊下で困っている患者に声をかけていった。
音を頼りに進んだ先のナースステーションでは和服模様の肌をして二本の角を生やした奇妙な生き物が鼻息を荒くしてナース達を追い立てている。
『こっちにウサ耳ロリっ子ナースがいるよー、レアだよーレアー』
癸がキメラを煽るとキメラが目を光らせて振り向いた。
『オバンドスゥゥゥ!』
高い声のいななきをあげてキメラが駆け出す。
「こっちにくるの‥‥看護婦さん達は院内放送できるなら病室にいるようにいって欲しいの」
乙は踵を返すようにしながら看護婦達に頼むと一目散にナースステーションから玄関に向かって逃げ出した。
「まずは各病室の状況確認からお願いします‥‥あ、いい遅れましたが今回派遣された能力者の流離です」
流離は現場に残り、散らかったナースステーションの中で看護婦と共に事後処理を始める。
「‥‥バイコーンね。物語でしか見たことはないが‥‥。女を追っかけまわしてるって所を聞くと角一本でも問題なさそうだがね」
病院の玄関口では水無月 湧輝(
gb4056)が和弓「月ノ宮」をひきながら乙が来るのを待ち構えていた。
『オォォバァァンドォォスゥゥ』
甲高い鳴き声を上げながらシャリンシャリンと鈴を鳴らしバイコーンが玄関から外へと乙を追いかけながら飛び出す。
「さぁ、ショータイム‥‥か。波乱は無しで行きたいものだがね」
頭上を越えたマイコーンの尻に向けて湧輝は『速射』『強弾撃』『影撃ち』をあわせ、連続で矢を放った。
●婦警とメイドとお嬢様
「くしゅん!」
「沖那風邪でやがるですか? 夏風邪気をつけるです」
くしゃみをし、鼻を袖で擦る山戸・沖那(gz0217)をシーヴ・フェルセン(
ga5638)が心配そうに声をかける。
「大丈夫だ、お嬢は確かこの辺を逃げているって聞いたけど‥‥」
石畳のある町並みを学生服の少年とメイド服の少女、そしてドレス姿のジュリエット・リーゲン(
ga8384)が共に走っていた。
「そこにいましたわ‥‥大人しくしなさいな」
『強弾撃』『ファング・バックル』『急所突き』を込めた長弓「クロネリア」からの一矢が街中を走るマイコーンの尻に突き刺さる。
『オバンドスゥゥ』
痛がっているのだろうか震える声でマイコーンは鳴いた。
「うわぁ‥‥想像していたのより気持ち悪い‥‥」
沖那がげんなりしながらぼやくと、先にシーヴが動く。
ジュリエットの攻撃で反転したマイコーンはメイド服を着たシーヴ目掛けて走ってきていた。
「沖那、先ずは磨理那から‥‥マイコーンを引離しやがるですよ」
敵の名前を言うときシーヴは沖那から一瞬目を逸らすが何事もなかったかのように『豪破斬撃』を纏わせたコンユンクシオで角を叩き斬る。
「何で聞いてるんだよ、それっ!」
沖那は挟み撃ちが出来るように回り込み、『先手必勝』で動きを先読みしながら夕凪で横に凪いだ。
いくつもの戦闘をこなして来た二人の息は合い、連携が生まれている。
「この時期に少々苦しいとは思いますが、しばらく我慢して頂けますか?」
マイコーンを釘付けにしている二人を他所にジュリエットは追い立てられていた婦警姿の平良・磨理那(gz0056)に駆け寄ってエマージェンシーキットの中にあるシートをかけた。
制服姿であることを隠せばマイコーンの気がそれると思っての策である。
「じゅりえっともすまぬのじゃ。早くあやつを何とかするのじゃ、舞妓のような姿をしていてもあれは京の景観の妨げじゃ!」
夏の暑さなど気にもせずぎゅっと防寒シートで身を包んで座り込む磨理那はジュリエットを見上げて頼んだ。
「わかっておりますわ、今シーヴさんと沖那さんが引き寄せていますから磨理那様はここで大人しくしてくださいな」
ジュリエットは磨理那をガードするようにマイコーンの方へと向き直り、再び弓を構える。
狙うは胴か足、動きを阻害できれば磨理那への被害を抑えることはできるとの考えだ。
『オバンドス!』
カンラカラと下駄のような音の蹄を鳴らすマイコーンが沖那とシーヴの攻撃に上体を持ち上げて暴れだす。
「何の目的かは分かりませんし、そもそもバグアの思考をトレースしようと言うのは恐らくムダでしょうから、考える前に行動して状況の収拾を図るとしましょう」
見れば見るほどバグアの”嗜好”がわからなくなる存在に向けてジュリエットは矢を放つのだった。
●セーラー戦士達
「マイコーン‥‥バグアって何を考えてるかホント分からないですよね」
「本当にな‥‥この時間に言う挨拶なら、普通は『おばんどす』じゃねぇだろ?」
夕風悠(
ga3948)の素朴な疑問に朔月(
gb1440)が答えるが悠の聞きたいこととは違っている。
「20歳過ぎでセーラー服‥‥しかも、半年しか通ったことのないお嬢様高校のだけど大丈夫かな? いや、気にしたら負けだよね」
ぼそぼそと悠が自分の格好を省みて路地を走っていき、角を曲がるとマイコーンが飛び出してきた。
「パンを咥えているわけでもないのに、なんでっ!?」
急に飛び出してきたマイコーンに突き飛ばされる形で悠が倒れる。
『オバンドスゥゥ!』
そのまま文字通り馬乗りになったマイコーンが鼻息を荒くして唸った。
「ぶぶづけでも食べていきなはれ」
ストレガ(
gb4457)が京都弁で突っ込みをいいれながら悠に圧し掛かるマイコーンを雲隠で『流し斬り』を仕掛ける。
狙いは足であり、斬りおとせれば機動力を大きくそげるはずだった。
『オバンドォォス』
しかし、危険を察知したマイコーンは悠の上から飛び降り、逃げるように駆け出し、路地を出た通りの近くにある公園に向かっていく。
そこにはお弁当を食べている女子高生の姿があった。
「会っていきなり『こんばんわ』って、どないやねん!?」
鳴き声が気に入らない朔月が『瞬速縮地』でマイコーンを追いかけ足をエクリュの爪で払う。
バランスを崩したマイコーンが角についた鈴を鳴らして倒れこんだ。
「いきなり押し倒すなんてやってくれるね」
埃まみれにされたセーラー服の汚れを払うとコメカミをひくひくとさせて悠が立つ。
「そこの女子高生は早く逃げて! こんな変態キメラに狙われてもいいことないよ!」
倒れこんだマイコーンと呆然と見ている女子高生の間に悠が割り込み怒りに任せて叫んだ。
「私が誘導しますからこっちに来てください、あのコスプレお姉さんの怒りも受けてしまいますよ」
昼食中の女子高生をストレガが誘導し、公園をマイコーンとの戦闘の場へと変えていく。
『オバンドォス!』
目の前に現れた悠に再び鼻息を荒げてマイコーンは起き上がり悠を睨んだ。
「こんな奴に好かれても全然嬉しくなーい! あとコスプレとか言うなー!」
ストレガの一言に忘れずに突っ込みを入れた悠は長弓「クロネリア」を『強弾撃』で放つ。
「俺の方も無視するなよ、馬公っ!」
逃げようとするマイコーンを朔月は脚甲「ペルシュロン」で押さえるのだった。
●馬ウマ?
「中々体力あるの‥‥」
『服を汚さないように戦っているから余計大変かもねー』
乙は血のついたイアリスを振るい、目の前で暴れるマイコーンを見据える。
「ナース服に鼻息を荒くする気分もわからなくはないが、そろそろスタミナを切らしてほしいものだ」
湧輝も乙と同じようにげんなりしながらマイコーンに向かって矢を放ち続けた。
しかし、小さな病院の入り口で、ナース服でウサ耳をつけた少女と黒いスーツの男が『オバンドスゥゥ』と鳴き声を上げる化け物と戦っている光景は実にシュールである。
「遅くなりました。ごめんなさい‥‥では、いきますよ?」
その玄関口から患者や医者の指示を終えた流離が現れ、湧輝に『練成強化』をかけた。
「いよいよ、大人しくしてもらおうか‥‥もっとも、死にたくないのは分かるがね」
「押さえるから‥‥やるの」
湧輝による矢がいくつも刺さり弱ってきているマイコーンを乙は『両断剣』で斬りつけ返り血を浴びる前に後ろに飛び去る。
その隙を突いた湧輝の矢がマイコーンの額を貫き沈黙させた。
「矢の射すぎで指がおかしくなりそうだ‥‥」
「手当てを受けていかれたらいかがですか? 練力の消費も大変でしょう?」
湧輝が腕を軽く振るっていると流離が軽く肩を叩く。
「ナイスなの‥‥でも、これ馬なの?」
動かなくなったマイコーンに近寄った乙はジーット姿形を見てポツリと呟いた。
「馬の分類ではあると思いますけれど、何か?」
「馬刺し‥‥」
『え、ちょっとこれ食べるの?』
「さすがに食べるのは問題だろ? 死体を処分しなければならないだろうがな」
「処分‥‥やっぱり食べるの」
癸と湧輝のツッコミを他所に乙がイリアスを振り上げる。
「おい、ここは病院だよな? なんでキメラの解体ショーやろうとしてるんだよ」
病院前で残虐シーンが今まさに起ころうとしたとき、磨理那を救助してきた3人が姿を見せた。
「頭とか打っていたら困りますから連れて来ましたが‥‥何なのでしょう、この光景は」
矢が刺さりまくったマイコーンにメスならぬイアリスで刺身にしようとしているウサ耳ナース少女をみてジュリエットは言葉を失う。
「キワモノキメラが京都に多いのは今更じゃねぇですが‥‥食べようとするのがいるのは何でですかね?」
メイド服のままに磨理那を背負ったシーヴもまた光景をみて目をあさっての方向へ向けた。
「このまいこ‥‥じゃない、キメラはどうにかするにして、残りのメンバーの応援にいかなくていいのか? あと3人いるんだろ?」
「そうだな、女子高生が襲われたと聞いているし、負傷者がでているかもしれない‥‥受け入れをここでやるように頼んでみるか?」
湧輝は沖那の突っ込みに今後の動きを計画しはじめる。
「そうですね、練成治療もありますが限度の問題もでるでしょうから看護婦さんやお医者様に聞いてみましょう」
流離は湧輝の計画に頷いて同意するとすぐさま中に戻っていくのだった。
●ローカルニュース
『オバンドスゥゥゥ』
ズシャァとストレガの『両断剣』で斬り裂かれたマイコーンは断末魔まで気持ちの悪い声をあげて倒れる。
避難誘導をさせていて時間がかかってしまったが、悠と朔月が押さえていてくれたために公園から移動させることなく対処ができた。
夕方の公園は憩いの場であるだろうが、今は気持ちの悪い死体と赤い血で彩られている。
「ようやく終わりました‥‥私たちには脅威でないにしろ、これは普通の人では恐ろしいですよね?」
ストレガは大きく息をつくと残りの二人に顔を向けた。
「いろんな意味で恐ろしい相手だと思うぜ‥‥他の班は無事なのかどうかだな」
朔月が無線機で仲間と連絡をしようとしたとき、パシャッとフラッシュが光る。
「なんだっ! まだ敵がいたのか?」
フラッシュに眩む目であたりを探るとカメラを持った男と隣にボイスレコーダーを持った女性がいた。
「すみません! 取材をお願いします。女子高生を襲う謎のキメラを倒した美少女セーラー戦士が現れたとの情報を聞いて取材にやってきました」
女性の方はずかずかと公園に入ってきた悠にボイスレコーダーを向ける。
「え、私?」
思わぬ状況に悠は対処できずにストレガと朔月を見るが、二人はそっぽを向いてマイコーンの死体処理をはじめていた。
「見たところ20歳くらいと思われますが、セーラー服を着て戦うことに何か意味があったりすのでしょうか?」
核心を突いた質問に悠の心が折れそうになった。
「えっと、それはですね‥‥キメラの特性といいますか‥‥えーとぉ‥‥にこっ」
言葉につまり考えに考え抜いた結果、悠はスカートをツマミ、お嬢様スマイルを浮かべると一目散に公園から逃げ出す。
ストレガと朔月も悠を追うようにして消えていった。
翌日の朝刊の地方欄には、悠の写真と共に「こすぷれあーちゃーby磨理那」と命名された記事が載ることになる。
ラストホープに戻った彼女達が知ったかどうかはわからない‥‥。