●リプレイ本文
●開場までは何時間?
「はいよはいよ、頼まれていた物を持ってきましたよと‥‥ふくぅ‥‥」
リカルド・マトゥラーナ(gz0274)が欠伸を噛み締めダンボール箱をいくつもカートに載せてもってくる。
「ポスターをありがとう。いつもディスタンにはお世話になっているよ」
カリカリと机の上で原稿である四コマ漫画を書いていた水円・一(
gb0495)はリカルドを労った。
一の書いている四コマはSDのディスタンとアルバトロスが会話しあうものである。
「考えるネタ一緒だっ。じゃ、ボクの方はマテリアルとクローラーを擬人化したのをメインにしよっかな」
クリア・サーレク(
ga4864)は一の書いている原稿を横から覗いて眉間に皺を寄せた。
しかし、すぐにクリアはいつもの笑顔に戻して気合を入れなおす。
「言い出したからにはがんばるよっ。さあ、冊子作りにれっつごーー」
リカルドが運んできたダンボールの一つから貼り付けるための写真を取り出してレイアウトなどを検討しはじめた。
『開発にかかわりましたが高速巡航、簡易変形、高水準の性能で支援から一番槍まで千変万化の頼れる中堅、それがアルバトロスです by守原有希(
ga8582)』
『深深度・浅深度の切り替えがビーストソウル以上に利用しやすく、深度を利用した攻撃が可能なことですね byレイン・シュトラウド(
ga9279)』
など、能力者による評価文などが写真と共に掲載された蛇腹式の小冊子の骨子ができていく。
印刷してアルバトロスフィギュア購入者にのみ配る限定冊子とするのだ‥‥もっともリカルドがこれから急いで印刷所を探し午後に間に合うように動かなければならないのだ。
ヲタクというものは『限定』という言葉に弱いのである。
「こちらはこちらで進めますです。フィギュアの配置はこんなとこですかね?」
彩倉 能主(
gb3618)が運び込まれた透明ディスプレイケースにフィギュアのいくつかを並べてポージングと配置の相談を守原に持ちかけた。
「今、スチロール材をきって土台つくるとですから、待ってほしいとす」
守原の方はケースの採寸をすると、手際よく即興でスチロール材を加工してジオラマの用意をしていく。
通りがかった他の企業の人間やコミックレザレクションのスタッフも思わず足を止めていた。
「大掛かりでごくろうさん‥‥あれ、そういえば君達KV同士で争わせるのかい?」
「そこはゴーレムやメガロワー‥‥はっ!」
言いかけてから守原はフィギュアはKVしかないことに気づく。
「は、廃材で何とかするしかなかとです‥‥」
「塗装とかなら手伝えるからとにかくやるです」
心の涙を流す守原だったが、想い人の前で無様な姿は見せられぬと必死になってジオラマと敵の製作にかかるのだった。
●いざ、戦場へ
「何だか、凄い空気ですね‥‥。皆さん、目が血走ってるような気がします」
コミック・レザレクションの開催アナウンスと共に流れ出した人波を眺め、レインは予想以上の空気に圧倒される。
専属スタッフの指示に従い、足早に歩く集団はザワザワと声をだし近づいてきた。
「昔、お兄様に連れて行ってもらったことあるんですよ。イベントに‥‥人ばかりで迷子になりそうでした。後、間違って18歳以上お断りなブースに迷い込んだこともありましたね、看板できましたよ」
完成した看板を緑川 めぐみ(
ga8223)は肩に担いでレインの横に立つ。
これから二人はあの人波にもまれることになるのだ。
「こういってはなんですが、レインさんって本当に男性ですか?」
戦闘前の緊張を解すような一言が不意にめぐみからレインにかけられる。
それもそのはず、へそだしノースリーブのメルス・メス社のコンパニオン制服の上に動きを阻害しないようにアルバトロスのパーツが要所要所につけられた『KV少女「あるばとろす」』といえるような姿なのだ。
方やめぐみは恥ずかしさからなのか同じコンパニオン制服の上から『男ならメルス・メス』と黒い生地に白い文字の入ったTシャツを羽織っている。
「男ですよ‥‥あ、人がこちらに来ましたね。がんばりましょう」
流れていた人が方々に散らばり、各ブースの前や離れた屋外へと列を作り出した。
無論、メルス・メス社ブースの方へと人は来る。
「KVコンペにおいて、MSI社のゼカリアと最後まで接戦を演じたメルス・メス社の自信作、アルバトロスのフィギュアが発売となりました。興味のある方は、メルス・メス社のブースまでお越しください」
当日印刷されてきたビラをレインは配り人波の方へを向かった。
一方、ブースの方では着替えの完了したミリー(
gb4427)と二条 更紗(
gb1862)がブースの角にたち、呼び込みを開始する。
「ちょっとちょっと、そこのお兄さん。いい子がいるんだけど買っていかない?」
ミリーがその豊満な胸を押し付けながら上目遣いと猫なで声をだした。
正直なところ、呼び込みではなく客引きのようである。
「みなさん、こんにちわ。こちらのメルス・メス社ブースの商品の紹介をさせてもらいます‥‥」
一方、露出が高いコンパニオン衣装を更にアレンジを加え、胸元をチューブトップにしノースリーブのジャケットにショートパンツを合わせた更紗はアトラクションのお姉さんよろしく説明をはじめた。
事前準備の際に衣装をつくりながらも資料を読み込み、カンニングペーパーなしに説明できるようになった更紗がジオラマやレインが編集した映像を時折使ったりしてPRを行う。
「変形の実演をしますと、ほらこんなに簡単に変形できます。私自身原理は良くわかっていないのですがよく出来ていると思いませんか?」
ピントのずれた実演に笑いがおき、そしてその人だかりは次々とフィギュアの購入に足を向けるのだった。
●ブレイクタイムで昼食を
「デザインがいいのか銀河のKVフィギュアが先に売れているようだね」
『愛羅武 弟棲丹』と筆字フォントで力強く描かれた文字の目立つTシャツを着た一は減っていくフィギュアボックスの山を見ながら汗を拭う。
アルバトロスのフィギュアも売れてはいるが、それ以上に他のKVを客は買っていった。
更紗とミリーによる客引き‥‥もとい、呼び込みの結果はでているができればメルス・メス社製KVを押したいところではある。
「小冊子の印刷物が届いたよ。午後からのサービスってことでこれをつけてアルバトロスを売っちゃおっか」
一が作を考えていると、クリアがコンパニオン制服に身を包みダンボール箱を抱えて販売エリアへと戻ってきた。
「いいタイミングだ。ちょうどメルス・メス社KVをもっと売ろうかと思っていたところだよ」
「クリアさんおかえりな‥‥お、おおぅ」
らしくないデニムにTシャツ、アルバトロスのワッペンをつけた守原が大胆なクリアの姿に言葉を失う。
言葉を失っただけでは終わらず、顔を赤くして湯気までだすしだいだ。
平常心を保とうと心に決めていたはずだが、精神鍛錬がまだ足りないらしい。
「も、守原さん‥‥その、似合ってる?」
だが、戸惑っているのは見られているクリアの方も同じでありスポーツで均整の取れた体を惜しげもなくさらけ出していることが急に恥ずかしくなった。
「そのわすばいうことだなかとかと思うこっとすが、似合っとるとす」
「そ、そう‥‥ならよかった、かな?」
『二人ともお客が待っているです。早く仕事するです』
クリアと守原が顔を赤くしてまごまごしていると、AU−KVで外回りをしていた能主が中へ入ってくる。
言葉通り一が一人で客の対応をしているが、列が団々とたまっていくのが見えた。
ガションガションと動く『ただのコスプレではない』能主の姿に並んでいる客は注目し、携帯カメラの写真機能を使って撮影まではじめている。
「すぐに調子が戻らないようなら昼食を済ませてきてくれ。ただ、いるだけならスペースがもったいない‥‥あ、撮影はほどほどにお願いしますよ」
「そうそう、撮るなら私を撮りなさいよ。パッツンパッツン衣装でギリギリまでサービスするわよ」
一が後ろの二人が落ち着けるようにと一度席をはずさせ、ミリーが売り子ついでにセックスアピールをして場を持たせるのだった。
●To乱舞る?
「申し訳ございませんが、撮影は遠慮していただけると嬉しいのですが‥‥」
レインは困っていた。
企業ブース内をチラシを配って売り子をしていたのが、いつの間にやら隣接しているコスプレ広場にまぎれてしまったのかカメラ小僧に囲まれていたのである。
顔が中性的であり、また衣装が萌えと燃えを融合したものであるのもあってか遠目や近くで撮影してくる人は多かった。
ただし、被写体に許可を求めないのはコミレザのマナー違反であり取り囲むのもいいことではない。
「レインさん〜。こんなところにいましたか‥‥皆さん、かっこ悪いですよー」
交代で休憩を取りに向かうめぐみが人だかりの中のレインを見つけて笛を吹きながら駆け寄ってきた。
「すみません、レインさんがコスプレ広場のほうにまぎれてしまったようで‥‥」
レインを取り囲むカメラ小僧にどいてもらうようにコミックレザレクションスタッフの方に頼むとめぐみは無線機を使って仲間と連絡を取りだす。
『わかりましたわたくしが対応に出向きます』
更紗が無線に答えるのを確認しためぐみはレインの手を引っ張り人垣を越えて企業ブースの方へと足を向けた。
まもなくして、髪形をストレートロングからサイドポニーへと変えた更紗がコスプレ広場に姿を見せる。
「皆様、お待たせしました。レインさんの代わりになるかわかりませんが私を撮ってください」
入れ替わるようにレインからチラシを受け取った更紗はくるりと回り微笑んだ。
スレンダーな体ではあるが、西洋人のように白い肌とくりっとした瞳が愛らしさを見せる更紗にファインダーが向けられシャッターが押される。
チラシを持ちながらカメラ小僧の注文に答えながらポーズを変えて被写体を更紗は演じた。
フラッシュがたかれ、視線が集まっていることを感じて高揚しているのか更紗の表情は艶やかになり、笑顔に大人の色気のようなものが見え出す。
途中で髪形をツーサイドに変えたりしてコスプレ広場の人気を集めていた。
一通り撮影が終わると、更紗は笑顔のままに続ける。
「土産やコレクションに一品如何ですか? 限定ものでけど、お値段は3000C位となります。今なら能力者のコメント付き冊子がついてきて実にお得ですよ」
スマイルと共にチラシを手渡す更紗はコンパニオンの鏡のようだった。
●祭りの終わり
「はい、此処まで進んで止まって横4人一組で!」
「申し訳ありませんが割り込みはご遠慮ください」
昼からというものレインのトラブルや更紗の体を張った宣伝もあり客足が増え、混雑しだした。
出遅れた売り上げをしていたアルバトロスも順調にはけてきて、次々とフィギュアの山が減って『完売』の札がかざされていく。
「メルス・メス製アクションフィギア、コンペで一躍脚光を浴びたアルバトロスだよー。今なら、限定小冊子もついてくるよ♪ 今日の分は残りわずか! 最後のチャンスを逃しちゃだめだよ♪」
衣装の恥ずかしさから落ち着いたクリアも有希の隣で元気に声をだして商品の受け渡しや売り子を続けた。
人がごった返しだしてきたため、狭いフロアの中に能主やレインもハイって次々に梱包をはじめ、めぐみと更紗が外の列整理に尽力を尽くす。
『ただいまを持ちまして、コミックレザレクション、初日の終了をお知らせします』
人ごみが薄れてきたころ、場内アナウンスが流れ参加していた企業のスタッフやコミックレザレクションスタッフが拍手をして互いの健闘を労った。
彼らの顔は皆戦場を生き延びた戦士の顔をしている。
「全部完売したです。皆さん、お疲れ様です」
拍手を終えた能主が労いの言葉をかけていると視線の端にパイプ椅子に座って眠っているリカルドの姿が入った。
「寝ているようです‥‥なら、これを張るのがラスト・ホープ流なのです」
おもむろに能主はポケットを探り、寝オチシールを取り出すとリカルドの頬に貼り付ける。
「うわぁ、マジでやってるし‥‥ねーねー、誰か肩揉んでくれない?」
何かが大きいと肩がこるといわれるが、ミリーはまさにそれで着替え終えて着たミリーはコンパニオン制服では収まりきらなかったそれを盛大に揺らした。
「お疲れ様でした。本当に凝っていますね」
普段の格好に戻ったレインがミリーの肩を揉む。
企業ブース全体でも撤収の動きが起きているが、肝心のリカルドが眠っているのでどうしたものかと一同は悩んだ。
「すっちぃぃむそぉぉぉんっ!」
がばっと大声を上げてリカルドが突如目を覚ます。
「ここは‥‥そうか、あれは夢だったのか」
どんな夢を見たのか興味はあるが、何か聞いてはいけないような気がして誰もたずねはしない。
「おはよう、リカルド。撤収について何か抑えるべきところがあれば聞いておきたいのだが?」
終始張り付き、司令塔のように指示を出していた一も最後の仕事のために気を引き締めていた。
「いやいや、よく売ってくださいまいしたと感謝するよ。全て完売のオマケに報酬の上乗せとジオラマのディスプレイに使ったフィギュアもプレゼントするよ」
「え、ほんと? やったー! 私、アルバトロスもーらいっ!」
リカルドの一言に先ほどまで疲れていたミリーがぴょいと起き上がりディスプレイされているフィギュアの中からアルバトロスを手に取る。
玩具を買ってもらった子供のような笑顔を浮かべている。
「どうせならこのスタッフTシャツもサービスしてもらえないか? その分後片付けまで手伝うよ」
「最後までやっていくつもりでしたから、皆で一気にやってしまいましょう」
一の言葉にレインも頷き、撤収作業に向けて動き出したのだった。