●リプレイ本文
●Hunter
「強化人間程度は想定していたが、よりによって魚座とはな」
社長室へ通じる赤い染みのある通路で御山・アキラ(
ga0532)はエネルギーガンを構える。
「ネズミが他にもいたとはなぁ? 少しは楽しませてくれるんだろう、あぁん?」
足元に転がる動かない肉の塊をけって血染めのアスレード(gz0165)はアキラの方へと向き直った。
「ここには何しに? ビジネス‥‥といった話なら聞いてみたいけれど」
遠石 一千風(
ga3970)が鎌切と呼ばれるカマキリの腕のような爪を装備し、一歩一歩近づく。
目標となる社長室へ続く通路はアスレード1人によって塞がれている‥‥天井に空いた穴を覗けばだ。
アスレードの足元や壁には傷つき横たわる軍人や、すでに人とすら判断できない塊となったものが転がっている。
その中で辛うじてたっているのはベルディット=カミリア(gz0016)とヤクザのような男が1人だけだ。
「ネズミ狩りを楽しんでいるってところでどうだぁ? 多少は楽しませてくれなきゃ困るぜ、ネズミども」
「ネズミじゃねぇ‥‥ヒューイ・焔(
ga8434)、通りすがりの能力者さ」
ヒューイが盾を目の前に構えつつ、カミツレを握り踏み込む。
口と口との読みあいから攻撃を持ってしての語り合いへと入るのだった。
●Seacher
「バグアの新型機か‥‥大規模な作戦中に、幸の無い話だ。何所の会社が肩入れをしているのか。まぁ、道徳ではなく経済の話においてなら、何かの利があればバグアに付く者が居ても不思議ではないしな」
コンピュータルーム手前で科学者を拘束したクリス・フレイシア(
gb2547)は淡々と持論を語りはじめる。
拘束したまま指紋照合によりコンピュータルームへ正面から入り、中を同伴した能力者が制圧した。
「ねぇ、ちょーっとパスワードを教えてもらえればいいの。難しいことじゃないでしょぉ?」
藤田あやこ(
ga0204)がいつになく艶っぽく職員に詰め寄るも職員達は口を継ぐむ。
命を賭けて守るというよりは、恐怖を天秤にかけてどちらがより負担が少ないかを必死に模索しているようだった。
『突入時の戦闘はそれほど時間はかかりませんでしたけど、ここで時間を潰していちゃ結果は同じになりますよ』
通路を確認し、伏兵や次なる襲撃を警戒する日野 竜彦(
gb6596)はAU−KVのゴーグルに表示されている時間を確認し、若干焦りを見せる。
「仕方ないわね、自力で解除といきましょう」
あやこは見切りをつけて立ち上がり、パソコンへ向かいパスワードの解除を試す。
「『沈黙は愚者の知恵であり、賢者の美徳』という偉人の格言がある。けなげで美しい行為に見えなくもない‥‥だが、僕達は金で雇われる傭兵だ。少なくとも正義の名の下で働いていない為に慈悲の期待はするなよ」
ライフルを一発、顔の横に撃ちこみクリスは冷ややかな視線を科学者に与えた。
科学者の方は見に迫る恐怖からか、パスワードを話しあやこがそれをすぐさま打ち込んで情報の引き出しにかかる。
「アドレス帳の確保‥‥と、エルドラドとも昔はやり取りしていたみたいだけれど、最近はさっぱりか。石油王との交流もあるようだけれど新型SESエンジンに関してはここにはないみたいね。社長が直接持っているかどうか」
解析をしながら読み上げ、さらにUSB記憶媒体に次々に格納していった。
「今のうちにベルさんかバーサーカーさんに連絡しておきましょう。この人たちを安全な場所へ避難させたいですしね」
日野が無線を開き通信を試みると一言だけ返ってくる。
『クソッタレ‥‥精製施設を吹き飛ばすつもりかい』
「時間が無さそうな様子だな‥‥僕達だけでやれることはしよう。あとは運を天に任せるしかない」
クリスは短い通信の中、銃声と叫びが流れてきた事に対し静かに思いを馳せた。
●Stopper
「ヘリポートに偉そうな人と兵隊っぽいのがヘリにはいっていくね。護衛は3人、武装しているけど普通かどうかはわからないと」
「このまま物陰に隠れているから攻めの一手はよろしく頼むわ‥‥危険なニオイがプンプンするわね」
蒼河 拓人(
gb2873)と冴城 アスカ(
gb4188)はヘリポートへでるための扉の前で静かな声で打ち合わせをする。
ここまで来るまでに『隠密潜行』などを使い極力静かにすませているため、警戒はそれほど強くないようだ。
「じゃあ、目をやられないようにだけ気をつけてっ!」
拓人がドアを開けて『鋭角狙撃』『影撃ち』を使った射撃で護衛を撃つ。
そのまま閃光手榴弾を投げ込むと眩い光りがヘリポートを包んだ。
「な、何だ!?」
突然の出来事に偉そうな男―ルイス・モントーヤ―の驚きはその後『瞬天速』で近づいてきたアスカに腕を捻られたことで苦痛へと変る。
「ぐぅ、私を助け‥‥」
ヘリの方へ手を伸ばすルイスだったが、ヘリはその行動も空しく飛び立っていく。
「捨てられたようだね‥‥ともかく大人しくしてもらうよ、聞きたい話もあるからね」
ルイスの顔にペイント弾を拓人は叩き込みヘリポートを後にしたのだった。
●Battler
「あんた達は逃げな、ここは年功序列で対処するもんさ!」
覚醒で真っ赤になった髪を振り乱しベルディットがアスレードへと『ソニックブーム』を放つ。
衝撃波が床を抉るがアスレードは疾走しながら交し壁をけりながら跳躍すると共に横にベルディットを蹴った。
「はんっ、てめぇ1人で止めようってのが無駄なんだよ」
「ならば、あと3人追加でどうだ」
アスレードが詰まらなそうに吐き捨てるとアキラが貫通弾を込めたフォルトゥナ・マヨールーで額を『急所狙い』で撃つ。
「止められはしねぇだろうが楽しませてもらうぜぇ?」
放たれた弾丸を口で受け止めアスレードが軽く指を動かすと衝撃がアキラを襲い床に吹き飛ばされた。
「くそっ!」
ヒューイが後ろのアキラの様子を確認する前に畳かけるように『両断剣』でアスレードへと斬りかかる。
アスレードは動かずにその攻撃を指二本で受け止めた。
体重も勢いも乗せての一撃を軽くとめられ、ヒューイの頬を汗がたれる。
「俺を傷つけたくばロシアの奴らのように死ぬ気できやがれ!」
アスレードの左拳がフリッカージャブを描くとヒューイの構えた盾を抜けて脇腹を叩き、壁にヒューイの体を減り込ませた。
「上等だ!」
アスレードに背後から掴みかかるようにヤクザのような男―バーサーカー―が動く。
一瞥もくれずに抜き手をアスレードは放ち肉を貫いた。
「これで‥‥動きは封じれるだろう」
血を吐きながらバーサーカーはアスレードの腕を自らの体に埋め込んで止める。
「今‥‥だ、一発くらい返すぞ」
アキラが震えながら立ち上がり、ぜぇはぁと息をつくとミラージュブレイドとアンバーシールドを構えて突撃した。
「こいつも‥‥ついでに、持っていけ‥‥あんたは覚えてない‥‥だろうが、あんたと‥‥やりあったうちの部隊の子の礼‥‥だ」
痛覚すら麻痺をしている体に鞭うって番天印に持ち替えたヒューイが『貫通弾』をアスレードに向けて撃つ。
遠石が合わせて『瞬天速』で間合いを詰めてカマキリで付いた。
「ちっ、うざってぇことを‥‥。ん、”グリフォンライダー”か脱出は完了した? じゃあ、ここでネズミを相手するのもこの辺でいいな」
ハンズフリーの無線機を持っているのかアスレードは独り言でもするかのように話すと手にしがみ付いていたバーサーカーを遠石の方へ勢いよく投げ捨てる。
受け止めた遠石だったが、加速された重量に耐え切れずにその場に崩れた。
「次ぎあうときはもっと楽しませてくれよ、傭へえぇっっ!」
右拳を床に叩き込み周囲を破壊させるような衝撃波を生み出すとアスレードはその場から姿を消す。
傷ついた能力者達はその後応急手当を済ませ、下水道への撤退に動き出したのだった。
●Cleaner
「えーっと‥‥あーっ! こういうのは苦手なんだけどねぇ!」
精製施設で爆弾を見つけたアスカが苛立ちながらも事前にあやこから受けたレクチャー通りに解除を始める。
配線を一本ずつ順番に切っていくだけの作業に神経をすり減らしていた。
『キメラの数が多いですねっ! 証拠隠滅のつもりでしょうか』
アスカが集中できるようにDN−01「リンドヴルム」を纏う日野は刀でもってヘドロのようなキメラを刀で斬る。
ドロドロとしたボディが刻まれ床に散らばっていくが蠢くヘドロはじりじりと日野に近づいてきた。
「助っ人参上、爆弾解除に協力するわ」
二階のドアから姿を見せたあやこが洋弓「ルーネ」でキメラをいると高らかに宣言する。
「こっちは一つ解除できたわ。残り三つで一つはこっちでなんとかするから、残り2つからお願い」
『場所は俺の背中です。キメラは押さえるんで何とかしてください』
一階のパイプがいくつもはしっている方へ敵が近づかないようにしている日野の姿を見て、あやこはすぐさま階段を駆け下りた。
「残り時間は40分弱か‥‥なんとかするしかないわね」
一呼吸おいたあやこは爆弾の解除に向かった。
『時間稼ぎも1人だけだと辛いけど、生憎と死にたくない理由は山ほどありますからね』
二人を信じて日野は1人『竜の鱗』を使って防戦態勢にはいる。
ヘドロ型のキメラは纏わりつきだしリンドヴルムの装甲の上から日野を圧迫させた。
「解除完了! 援護するわよ、竜彦くん」
爆弾を解除し終えたアスカが『瞬天速』で駆けてヘドロキメラをタクティカルボディースーツに仕込ませた蛇剋を抜いて斬る。
『ありがとうございます。これで希望が少しは見えました』
張り付くヘドロキメラを引き剥がして斬り裂いた日野は力強くアスカの好意に答えた。
●Returner
「魚座と遭遇した一般兵士は全滅か‥‥合ったら一言いいたかったんだけど、そうしていたら自分も重体だったかもね」
暗がりの中ランタンで明かりをつけ、先行しながら脱出口を確保している拓人は呟く。
ウェストバックの中にあるショコラタルトをちらりと眺めて前を向きなおした。
下水道を進む水音がジャボジャボとなり、自分たちの影以外動くものは見当たらない。
「油断はするな‥‥まだここは敵のテリトリーなのだからな」
ライフルを構えランタンの明かりを頼りに敵の気配を探った。
薄暗く臭いのこもる下水道に水が滴り落ちたとき、足元の淀んだ水から蛇キメラが飛び出す。
「でたか‥‥」
予想通りといわんばかりのクリスがライフルの引き金をひき、蛇キメラへ鉛弾を食わせた。
「部下も失い‥‥脱出すらできない‥‥とはな」
傷口を押さえ、ベルディットに肩を借りたバーサーカーが苦々しく吐き捨てる。
「脱出するんです。何がなんでも‥‥」
遠石が連れ出した社長や研究員達を守るように飛び掛ってくる蛇キメラの首を落とし、盾となって護った。
残ったメンバーも仕事を終えて下水道へと降りてくる。
「もちろん、社長にもゆっくり聞きたいこともあるからね」
拓人が遠石の言葉に答えながら先行して突破口を作り出した。
暗い下水道の奥、蛇キメラを倒して言った先で一筋の光りを能力者たちは見つける。
地上の光りであったが、今回の依頼で持ち帰ったものが示す希望のようにも見えたのだった。
●Angler
「精製施設の爆破も失敗、ルイスは拉致か‥‥まぁ、余計な事を話そうとすれば吹き飛ぶだけだ。そいつぁ奴もわかってるだろう」
パンデミヤ・マテリアル社の製油所から飛び上がったヘリの中に瞬間移動で乗り込んだアスレードは手に付いた血を舐める。
「あの施設から情報もいくつかリークされたようですがその件については?」
「元々、この手ごまを回収しに来ただけだからなぁ‥‥後はヤツが責任を取ることだ、命をもってなぁ‥‥ククク」
運転席に座るグリフォンライダーからの投げかけにサメのように笑ってアスレードは答えた。
ヘリは北米の戦場へと向かっていく‥‥。
一つの終わりは一つの始まりへと変っていくのだった。