タイトル:おやっさん北米に発つマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/04 03:47

●オープニング本文


 名古屋の大規模作戦。
 それにより、世界経済は大きく動くことになったのはいうまでもない。
 幾多の銃器が流れ、兵器が買われ投入されていった。
 兵器開発により、利益を得ているメガコーポレーションなどは死の商人と揶揄されながらも『生きる』ために『殺す』ものを作り続ける‥‥。

●メルス・メス社、本社修理工場にて
 ピピピピという携帯電話の音に、事務所のソファーの上で新聞紙を毛布代わりにしてに寝ていた中年太りの男が重い腰を上げた。
 ぼりぼりと頭をかき、ひしゃげたカップで、薄いコーヒーを飲む。
 電話の音は鳴りやまないが、慌てる様子は一切ない。
 その男――ゴンザレス・タシロ――は常にマイペースだった。
「あいよ、ゴンザレス・タシロ‥‥」
 送信先も気にせず携帯に出た。
 相手はメルス・メス社の社長からだった。
「社長‥‥何のようです? 潰れたナイトフォーゲルの修理なら終わらせましたぜ、徹夜でしたがね」
 ふわぁと、欠伸をし、携帯を肩と耳ではさみながら、もう一杯の薄いコーヒーを入れだした。
 時計とふと見ればもう昼だ。
「はぁ、バイパーの規格外品をドローム社から安く買い上げることができたんですか!」
 タシロの頭が覚醒した。
 バイパーの性能は高い上に社外秘ということで、メルス・メス社のいち社員にいじれる機会などなかった。
 だが、より高性能さを求めるために自社の各部署で競わせてパーツを作らせ、厳しい審査を行うので、高性能な規格外品が生まれる状況でもあったのだ。
 それを上手く買い付けたようだ。
「その工場は北米‥‥。はい、え? 取りにいってこい!?」
 電話の相手の無茶な注文にタシロは昼間から大きな声を上げた。
 すぐさまカレンダーを見る。
 命よりも上で、メカの次に大事な娘の誕生日が明日だった。
「社長、出発は‥‥明日ぁ!?」
 電話の相手から最悪の返答がかえってきた。
 これすら、予想通りなのが余計に腹が立つ。 
「トラックも護衛の能力者も手配ずみぃ!? あいあい、すぐに行きますよ、いきゃぁいいんでしょっ! 社長!」
 後半はやけっぱちな口調になり、携帯電話をきった。
「おやっさん、どうしたんです?」
 その様子が気になったのか、工場で働いている若い整備員が声をかけてきた。
「シャチョーさんのありがたい手配で、明日から北米旅行だよっ」
 旅支度をしながら、タシロはぼやく。
「明日、娘さんの誕生日でしたよね! ‥‥よっしっ!」
 小さくガッツポーズをとる若い整備員をみつけると、タシロはその整備員の胸倉を掴みあげた。
「娘に手をだしたら、命はないと思えよ!」
 タシロの目は本気だった。

●参加者一覧

江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
内藤新(ga3460
20歳・♂・ST
建宮 風音(ga4149
19歳・♀・ST
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
槇島 レイナ(ga5162
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

●中年のお使い
「お、来たか」
 タシロは吸っていた煙草をもみ消して、着陸した高速艇へ向かう。
「パーツと貴方を無事届けるためにやってきました、オリガといいます」
 オリガ(ga4562)が優美に礼をした。
「有能な技術は共有されるべきです。私達人類が戦う相手は一緒なのですから」
 瓜生 巴(ga5119)は音読ソフトで、兵器資料を聞きながら挨拶をする。
「なんだか、すごいメンバーだな‥‥」
 タシロはぞろぞろと集まったメンバーを眺めて何ともいえない顔をした。
「瓜生のいうように、独占はいけないからな。俺も協力するぜ」
 ザン・エフティング(ga5141)がカウボーイハットをくいっと上げながら挨拶を締めた。
「俺はゴンザレス・タシロだ。呼び方は任せる、とりあえずお前らにゃ社長が大金はたいてんだ。しっかり仕事してもらうぜ」
 そういって、タシロは用意していたツナギを渡す。
「これは?」
 オリガが不思議そうな目でタシロに問いかける。
「仕事着だ。俺達がやるのはドローム社のお上にはあまりいい話じゃないからな。運送業者を偽装する。この手の根回しはうちの社長とかが得意なんだよな」
 はぁとため息をついて、タシロはトラックへ能力者がもってきたKVを積み込ませる。
 そのトラックには『Skip Out Transporter』と書かれていた。
「Skip Outと書かれたトラックにKnightと、そのパーツを積み込む‥‥しゃれたことをするな」
 ザンがニヤリと笑いながら、その光景を眺めていた。
 どういうことかわからないメンバーにタシロは説明をする。
「『Skip Out By Night』とかけているのさ。日本の言葉で言い直せば『夜逃げ』だ」
 語るタシロの笑顔は中年というよりも、少年のよう輝いていた。
 
●パーツ泥棒参上
「ちーっす、お届けものです」
 ドローム社のとある部署へタシロ達能力者一考は運送業者を装ってやってきた。
 常にツナギのタシロは中年太りの体形や、無精ひげとあわせて違和感はない。
 建宮 風音(ga4149)は『空箱』を重そうに運びつつ、ドローム社のその部署を眺めていた。
(「すごい施設だ、アレとかアレがあればいいパーツ作れそう♪」)
 空箱を運び終える間に、タシロはパーツのチェックを進めだす。
 隣にはツナギを来た内藤新(ga3460)の姿もあった。
「結構、多くパーツが、あるんだべな」
 独特のイントネーションで聞いてきた。
「まぁ、ここのはその中のごく一部にすぎねぇがな」
 ざっくばらんと答えて、一つ一つ目で見て、素手でそっとなでたりして確認するタシロ。
 その後に、ため息が漏れる。
「不良品なの?」
 興味ありげに内藤とタシロの間から、風音が顔を出して聞いてきた。
「どっから、顔をだしてるんだ、嬢ちゃん」
「えへへ‥‥で、なんでため息をついたの?」
「いや、パーツの精度がうちの会社で使っているのより数段いいのがちょっと泣けてきてなぁ」
 目頭を押さえてタシロは泣く真似をした。
「おっちゃんから見てバイパーってどうなの?」
 風音は率直な疑問をぶつけた。
 いつの間にか顔だけでなく、体も割り込ませている。
「そうさな、俺から言わせりゃ『高性能な美術品』だ。性能は高いが、こうもパーツに頼って作っちゃ戦争の道具としては向いちゃねぇなぁ。整備士泣かせだとも思うぜ」
 パーツを見ながらリストにチェックを入れながらタシロは答えた。
「おっちゃん、人間の筋肉に当たるパーツってどうなんだべ? 油圧アクチュエーターとか、サーボモーターたべか?」
「メカトロの大学じゃ、そんなことも教えねぇのか? 嘆かわしいねぇ‥‥。一度、KVの教本を読み直すか、外装だけでも自分で取り替えてみな」
 内藤の質問にそう答えて、パーツのチェックを済ませドローム社の研究員に渡す。
「2,3点ダメなのがあるな。そいつはさすがにハネさせてもらうぜ? その他は十分だよ。厳しい目で見なけりゃ使えるってのにもったいねぇ話だ」
 タシロの言葉に研究員は苦笑して、カードによる買取の処理を済ませた。
「よし、運び出すぞ。さっきの空箱に全部詰めろ。あんまり長居すると怪しまれるからな」
 能力者達は頷き、梱包を作業を進め運びだしていった。
 その中の一人、御山・アキラ(ga0532)は大きな箱を担いで運ぶときにぼやく。
「バイパーは拠点防衛には悪くなさそうだが、格闘戦に使い易いR−01の方が性にあっている‥‥」
「ねぇちゃん。その考え持っているのなら、今日の仕事はいい仕事になるぜ? 理由は無事到着したら話してやるよ」
 タシロは煙草に火をつけて、一服しながらにやりと笑った。
 
●ロード・オン・バトル
「キメラの影‥‥発見」
 江崎里香(ga0315)はトラックの荷台で風を受けつつ、双眼鏡で警戒をしていた。
 そして、道路以外に荒野しかない視界にキメラの姿が出てきた。
 擬態していたのか、隠れていたのか突発的な登場ではあったが、常の警戒が功をそうした。
『了解、こちらとオリガさんが運転しているほうは速度を落として道を塞ぎましょう』
 巴は無線機で答えてハンドルを切る。
 タシロが運転しているパーツトラックが先行して、キメラとの距離をあける。
 続いて、その後ろに2台のトラックが並走しだした。
 巴が荷台のウィングをあける。
 ウィングの隙間から、江崎は荷台の中へ入っていった。
 そこには大きな巨人が横たわっている。
『槇島 レイナ、出撃するよ〜』
 光を反射しながら巨人は立ち上がり、高速で走るトラックから槇島 レイナ(ga5162)のKVがジャンプして降りたつ。
 キュィィィンとホイールが回転し、剣と槍を持った二刀流の騎士がキメラに向かって走り出した。
 キメラはその間にも荒野から次々と現れる。
『レイナ、敵は3体よ。蜘蛛のようなタイプだから、機動力に気をつけて戦って頂戴。援護はするから』
 江崎はそういってシエルクラインを構えた。
『了解、そんなもの要らないくらい一気にやっちゃうよ』
 カサカサカサと蜘蛛のように動くキメラに対して、レイナはガトリングで牽制しながら近づく。
 そして、ユニコーンズホーンがキメラをなぎ払うも、甲殻に覆われたキメラはまだ生きていた。
『嘘でしょっ!』
 声を上げるもキメラが反撃に出た。
 攻撃を受けた一体が、レイナのKVに体当たりを仕掛けるも、ディフェンダーにはじかれた。
『へへんっ、どんなもの!』
 余裕を見せるレイナに続けざまにキメラから白煙を上げる液体が放たれた。
 防御したディフェンダーから、ジュゥという嫌な音と白煙がでる。
「酸攻撃‥‥トラックに近づかれたらアウトね」
 双眼鏡で覗いていた江崎は呟き、他のメンバーに連絡を取る。
 トラックにあれを打たれたら終わりだ。
 残り2体のキメラはトラックのほうへ近づいてくる。
「やりたくないけど、硬い相手なら覚醒しなければならないわね」
 シエルクラインを構え、江崎は一度目を閉じ、開いた。
「目標補足。距離、角度、目測完了。射角調整‥‥」
 無機質なコンピューター音声のような言葉を呟きながら、江崎は甲殻の隙間を狙った強撃を打ち込んだ。
 ザンのKVも降りだし、レーザーで敵を焼く、レーザーに対しては甲殻などまったく意味もなくすぐさまにキメラは焼き払われた。
 だが、一体はKVのトラックまで詰め寄り、酸攻撃を放つ。
 タイヤがとけ、バランスが崩れた。
「なんのっ!」
 オリガがハンドルを回して横転を何とか防ぐ。
 その後、キメラは集中攻撃を受け片付けられた。
 戦闘終了後、江崎は呟く。
「脅威なし、戦闘行動‥‥終了」

●おやっさんの受難
 一度、修理のためにトラックを止め、風音がタイヤをとりかえていると、タシロの携帯がなった。
「あー、タシロだが‥‥」
 いつものように無造作にとって電話にでる。
 しかし、これをタシロは一生後悔することになった。
『パパ! 今どこなのよ!』
「え、エミリィ〜」
 急に猫背になり、弱弱しく話し出すタシロ。
『誕生日祝ってくれるって約束したじゃない! クリスマスも来なかったし!』
 電話越しではあるが、相手の声は大きく、能力者の耳にも響く。
 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)はそれを聞いてニヤついた。
「や、パパもな、イロイロがんばってるんだよぉ」
『その台詞も聞き飽きたぁ! もう、パパなんてしらないっ!』
「ちょ、ちょっと、待ってくれ! エミリー! エミリィィィ!」
 タシロの叫びもむなしく、電話は切られていた。
「いいねぇ、たまらいねー獄門は好きだよ」
「嬢ちゃんに気に入られても嬉かねぇよ‥‥」
 落ち込むタシロの背中は酷く暗い。
 その背を獄門は叩き、質問をしだす。
「規格外といっていたが、何が規格外なのだねェー?」
「ああ、これらのパーツは精度が公差範囲を外れているってことだ。もちろん、ドローム社のお上の言うだけどな」
 トラックの荷台をボンボンと叩いてタシロは答えた。
「タシロ氏の目で見れば十分使えるというわけだねェー」
 獄門は伊達眼鏡をくいっとさせながら、納得する。
「まぁ、娘にいわせりゃ俺も規格外らしいけどな‥‥パンツで家んなか出歩いてどらなれるしよぉ」
 しみじみと語りだすタシロ。
 その話を頷きながら、獄門は聞いていた。
 そして、話が終わると獄門はタシロに手をだしながらにんまりと笑う。
「嬢ちゃん、その手はなんだ?」
「悩みを聞いてあげたお駄賃なんだねェー。パーツをおくれよ」
「買取なら、考えてやる。ちなみに値段は‥‥」
 ごにょごにょと獄門にタシロは耳打ちをした。
 値段を聞かされていくうちに獄門の顔が青くなる。
「そ、それは遠慮しておくんだねェー」
 獄門は『密輸』ということを思い知らされたのであった。
「おっちゃん、修理できたよ」
 風音がタイヤの交換を済ませ、合図をだす。
「おし、お前ら、出発するぞ!」
 タシロはトラックの運転席に乗り出す。
「ま、待つんだねェー」
 絶望に打ちひしがれていた獄門はおいてかれないようにトラックへ走りこむのだった。
 
●南米に向かってどんぶらこ
 トラック3台がひしめくように詰まれた船は夜、港を出発した。
 タシロが警戒網を潜り抜けつつ進む。
 船の操縦もお手のものといった具合だ。
 沖もすぎたころ、内藤が目を覚ましてタシロのいる操舵輪のある部屋にやってくる。
「坊主、眠れねぇのか?」
「タシロのおっちゃん‥‥おら、確かに知識だけで話しとった。それは反省しとるだべ」
 煙草を吸いながら操舵するタシロに内藤はすまなそうに声をかけた。
 甲板では巴とアキラが周囲を警戒している。
 船の操縦をオートパイロットに切り替え、タシロは煙草に火をつけた。
「わかりゃいい。整備の仕事ってのは知識も重要だが、やはり経験と腕がモノをいう仕事だ」
「おっちゃんも苦労してきただべか?」
 内藤はタシロの隣にたって、興味深げに聞いてきた。
「バグアとの戦いで主力になったKVだが、ぶち壊れたのを修理しなきゃならねぇ。南米じゃS01の上半身とR01の下半身をくっつけたものだって動いている」
 ふぅーと遠くを眺めながら、煙草を吐き出した。
「うちの会社じゃ0からKVを作るのは財政的にも技術的にも厳しい。だが、いいパーツがあれば修理からもう一歩上。フレームの開発とかまではこぎつけれるってもんだ」
「なるほどなぁ‥‥KVを重機のように扱うならどの程度までもてるだべか?」
「お前らがいつも使っている『銃器』とかの重量を支えれるんだから、ソレを基準にすりゃいいぜ。もうちょっと頭を柔軟にしろよ、坊主」
 タシロは笑いながら内藤の頭をわしゃわしゃっと乱暴に撫でた。
「おっちゃん、い、いたいだべっ!」
 少し照れながらもがく内藤。
「お、悪りぃ、悪りぃ。坊主のような息子がいたら、良かったんだが娘一人だからなぁ」
 豪快に笑い、内藤を解放するタシロの目はどこか寂しそうである。
「おっちゃんの娘さんはめんこいだろうなぁ」
「写真みるか?」
「見せて欲しいべ」
 タシロが胸元から手帳を出したとき、甲板のアキラから無線が届いた。
『光る何かを発見‥‥くる』
 シュルルルと回転する小さい物が飛んできた。
 それは流れ星のようであるが、凶悪なキメラであることに代わりはない。
 アキラは無事キメラを氷雨で受け止め、返す刃で切り伏せた。
 ギュショッと嫌な音を立てるキメラだが、勢いは弱まってもアキラに飛び掛る。
 一方、巴は飛来するキメラを受け止めようとするも、高速で体当たりを仕掛けてくるキメラを受け止めることはできなかった。
 ドスっと鈍い一撃を受け、巴は膝をついた。
 実力が足りていれば可能だったかもしないが、受け止めるにしても素手では分が悪かった。
『夜襲とはやってくれるじないか!』
 いざというときのために待機していたがザンのKVが荷台のウィングを壊して立ち上がる。
「照明弾を打つ、それで目印にしろ!」
 タシロが照明弾を前方に打って明かりを確保した。
 飛んでくるものは淡く光るヒトデ。
 ヒュンヒュンと海面から飛びだし、船のあらゆるところに突き刺さっていく。
『くたばれ! ガァァァドリングファイアッ!』
 覚醒し、気合の入ったザンの突撃仕様ガドリングが唸りを上げる。
 数十発にわたる弾丸の雨が、迫るホシを撃ち落した。
「面倒なものですね‥‥」
「眠いんだよねェー」
 オリガや、獄門も起きだし、船内に入ったキメラを倒していく。
 ホシは瞬くように消えていった。
 
●タシロの野望
 無事、夜が明けた。
 潮風が心地よく、ザンは甲板に立って海の先を眺めている。
「おう、早いな」
 タシロが眠そうな目をこすり、やってくる。
「ああ、もう危険地帯はすぎたか?」
「まぁ、大丈夫だろう‥‥まだ、何か会ったときは頼むさ」
 ザンの問いかけにタシロはウィスキーを飲みつつ答える。
「いい機体、これでつくれるのか?」
 守りきったパーツの荷台を眺めてザンは呟く。
「機体は無理だが、こいつで格闘強化フレームを作る。男は黙って拳で勝負ってな‥‥可能性はかなり大きいぜ」
 タシロも眺めて返した。
 メルス・メス社のKVの歴史に新たな一ページがここに刻まれた。