●リプレイ本文
●キメラ襲撃1時間前
「今日は僕がクラークさんの代わりだ」
ショットガンを持った上に軍服で身を包んでいる白虎(
ga9191)がレオノーラ・ハンビー(gz0067)に向かって台詞を決める。
「貴方が新郎‥‥なの? 代役といっても身長差が‥‥ねぇ?」
眼鏡をかけ、バンダナを頭に付け、中分けの髪形とレオノーラの恋人に姿を似せてはいるが見下げる位置にある顔にレオノーラは思わず苦笑した。
「それを言ってはダメー!」
レオノーラの突っ込みに白虎はいつもらしく駄々をこねるようにぽかぽかとレオノーラの足元をグーで叩く。
「ごめんなさいね、思わずね‥‥折角の代役さんなのだから立てなくちゃいけないかしら?」
拗ねる白虎の頭をしゃがみ込みながらレオノーラは撫でた。
「教会に中華は――浮くな。だが民族衣装も正装の一種‥‥と思いたい」
宵藍(
gb4961)はレオノーラのAラインウエディングドレスと自分の中華衣装を見比べながら参列席の下に月詠と小銃「S−01」を隠す。
キメラがいるという地区の教会でもあるため、念を押しての作業なのだ。
「式は形式も重要ですが、やはり気持ちあってのものですよ。式の最中に武器を持っていなければ贅沢は望みません」
傭兵達で行われる教会最後の挙式を前に壮年の神父も優しく微笑みを浮かべて様子を見守っている。
「準備はもうすぐ終わるんかい?」
九頭龍 剛蔵(
gb6650)と共に教会の外周を見回っていた荒神 桜花(
gb6569)は暇を持て余したのか戻ってきた。
「教会の椅子って結構大きいんだね。俺ならすぐ隠れられそう」
背もたれの付いている長椅子を確認し、剛蔵は自分の位置を確認しはじめる。
「ようけ走っとると転ぶで? 古い建物やからな」
パタパタと子供らしく走る剛蔵を桜花は目を細めながら見守っていた。
「大丈夫だよ、俺はこんなところじゃこけないよ!」
桜花の方に顔だけ向けて剛蔵が反論していると、床の出っ張りに足を躓かせてこける。
しかし、剛蔵の体は地面にはぶつからず、白い服をきた男の腕の中に納まった。
「気をつけなくてはいけませんよ?」
剛蔵を立ち上がらせて、眼鏡を整えると百合のエンブレムが刺繍された白い軍服を整えクラーク・エアハルト(
ga4961)が微笑む。
「レオノーラさん、遅れてすみません‥‥話は聞いていましたから、予行練習をしませんか?」
「ふふ、折角の代役さんがいたけれど‥‥やっぱり、彼にするわね?」
クラークからの誘いにレオノーラも笑顔で答えて立ち上がり、近づいていった。
「もー、仕事でこれないっていったじゃない!」
突然の本命登場に白虎は思わずハンカチを噛んで悔しがる。
「では、新郎新婦がそろったところで流れの再確認をいたしましょうか」
悔しがる白虎を宥めるように神父は頭をなで、自分の願いでもある挙式の準備へと段取りを進めだすのだった。
●白の悪夢
「これまたずいぶんな飛び入り参加客が来たな」
氷室 昴(
gb6282)は誓いのキスの手前という空気を読んでいるのかいないのかわからないタイミングで襲ってきたバッファローキメラを壁側に避けて一人ごちる。
何処からともかく出したキャスケットを被り喪服を思わせるような【Steishia】ダークスーツの内側からクルメタルP−38を抜いて撃ち始めた。
キメラの足元に銃弾による穴があき、それを恐れるかのように動きがとまる。
それを押さえ込むように新郎新婦をはじめとした能力者が畳み掛けた。
「バッファローがいるなんて、さすがアメリカ? いや、そんなこと言ってる場合じゃないよネ」
突然入ってきた珍客にラウル・カミーユ(
ga7242)が一人ボケ突込みを入れていると、飛び立ったはずのハトが戻ってくる。
「ん? 飛び立ったハトが戻ってきた? フツーに考えたらオカシイヨネ‥‥」
バッファローキメラが突進したときにできた破片を掴みあげてラウルは戻ってくるハトに向かって投げた。
動物愛護団体からは怒られそうな状況だが、破片はハトにぶつかる前に赤い壁のようなものに阻まれ別方向にそれる。
「気をつけて! このハトもキメラだヨ!」
「ハトがキメラ? 『私の』神父様があぶないっ!」
セーラー服で参列し、神父を潤んだ瞳でいた熊谷真帆(
ga3826)は覚醒して教会の中を駆けた。
覚醒により筋肉がまし、セーラー服をびりびりと破って下にはいていた水着だけの姿となる。
「懺悔室よりも外へ逃げましょう。倒壊とかあったらさすがに困りますぅ」
「わかりました。案内を頼みます」
懺悔室へと隠れようとしていた神父を真帆はスコーピオンでハトキメラを近づけさせないよう追い立てて避難誘導を行った。
「ハトまで来るなんて今日のアンラッキーカラーは白で決まりだな」
壁に身を隠し、自動小銃のリロードを済ませた昴は背後に回られないようにバサバサと白い羽を撒き散らすハトを撃つ。
静かに挙式を行っていた教会は破片と木屑と落ちた羽根が足元に散らばる戦場となった。
「未練だってのは分かってんだけどねぇ‥‥ったく、全然ガラじゃねぇってのによ‥‥と、待て。この状況は何だ」
そんな教会に遅れて一人の男がやってくる。
手に花束を持ち、スーツを来た風羽・シン(
ga8190)は荒れた教会の中を眺めてしばし固まった。
だが、いくつもの修羅場をくぐってきた傭兵であり目の前で戦闘をしているのであれば理解するのにさほど時間はいらない。
「‥‥馬でも呼んで蹴り飛ばさせるか? いや、この状況だと俺が当て馬だよな‥‥」
自嘲するように笑ったシンは白い薔薇の花束をバッファローキメラに向けた。
バァンと銃声が響き散弾がバッファローキメラへ喰らいつく。
「シン! 格好をつけていないで貴方もさっさと戦いなさい! ドレスが汚れる!」
「はいはい、姫さんの仰せのままに」
覚醒中で性格のキツくなったレオノーラに叱咤され、ショットガン20が仕込まれた花束を捨てるとシンはバッファローキメラに向かっていくのだった。
●新郎、吼える
「畜生! 良い所で邪魔しやがって! 惚れた女を護れなければ、男として面子が立たないだろうが!」
いつもの冷静な態度ではなく、怒りを露にしたクラークがバックサイドホルスターに収めていた小銃「S−01」を抜き放ち、バッファローキメラに鉛弾を叩き込む。
支援を受けて、動きの止まったバッファローキメラの側面に銃弾が減り込み痛みにキメラがもだえた。
痛みを受けたことに目を血走らせたキメラはクラークに向かって突撃を始める。
「何だ? やけに花嫁と新郎に向かっていくな‥‥」
クラークと同じく小銃「S−01」でもって攻撃をしていた宵藍は動きの不自然さを感じ理由が何かを探り出した。
新郎、神父に共通しているものは白い衣装に白い髪‥‥。
「そうか‥‥白だ。奴は白いものを追いかけている‥‥ならば、俺はそう狙われないはずだ」
レオノーラやクラークを追い立てるバッファローキメラに向かって宵藍が月詠を翻しながら近づき、側面より『スマッシュ』と『円閃』をあわせた鋭い斬撃を当てにでた。
「なるほど、覚醒で髪の色が変って助かったぜ」
普段は白に近い髪色をしているシンだが、今は金髪へと変化し腰まで届くウェーブロングをなびかせながら二刀小太刀「花鳥風月」でもってクラークなどが傷を負わせた部位を攻撃する。
肉を斬る音が鳴り、血が噴出す。
フォースフィールドと硬い皮膚を持ったキメラも強い意志をもった男の攻撃を阻むことはできなかった。
「早く死んだら駄目よ。死の恐怖を味わいながら死ぬのよ。くーくっくっく」
宵藍とシンの攻撃を受けて、よろけだしたバッファローキメラの傷を更に抉ろうと桜花がハンドアックスを振る。
『ぶおぉぉっ!』
だが、窮地に追い込まれてかキメラの暴れる様が酷くなり近づいてきた桜花を角でもって貫いた。
「荒神の姉貴! 姉貴から離れろっ! よーく狙って、撃つっ!」
ハトと戦っていた剛蔵が桜花の負傷をみて援護に入りだす。
「姉貴は少し下がって‥‥俺が守る」
剛蔵が離れた分をラウルや昴がハトを相手に攻撃範囲を重ね合わせ、無駄を減らせるようなフォーメーションを組んで戦った。
「白虎さん! フォローを!」
「うにゃ、任せるにゃ!」
ホワイトタイガーの尻尾と耳を生やした白虎が小さな体を生かしキメラの下へスライディングをして潜り込む。
土煙を上げてバッファローキメラの胴体が目の前に来るような位置までいくと、白虎はショットガン20を突きつけて至近距離で引き金を引いた。
ドスンと重い音が響くとバッファローキメラの体がゆっくりと横に倒れ動かなくなった。
「後はハトだよネ! 平和の象徴が人を攻撃しちゃいけないヨー」
『鋭角狙撃』や『影撃ち』を駆使してラウルが教会内を飛び回るハトキメラを確実に狙い撃つ。
「桜花さんの手当てはあたしが行います。あなたはハトキメラを倒してほしいですぅ」
神父を逃がし終えた真帆が教会内へ戻ってくるとすぐさま負傷した桜花を手当てしだした。
「わかりました‥‥お願いします」
剛蔵は真帆に任せるとスコーピオンからハンドガンに持ち替え、一呼吸置いて狙い撃つ。
一匹、また一匹とハトが落ち白や赤などで教会の床は染められていった。
「これで全部か?」
昴がコートに付いた埃を払いながら周囲の警戒を強める。
「そのようね‥‥やだぁ、折角のウェディングドレスが埃まみれよ」
レオノーラも倒れたバッファローキメラが動かないことを確認すると覚醒をといてウェディングドレスのことを気にかけだした。
「怪我がなくて何よりです‥‥それは置いておいて、例の無人島で正式に結婚式を行いませんか? 必ず幸せにしてみせます」
「この状況でそんなこというなんて‥‥もうちょっと空気読まなきゃだめよ」
互いに埃まみれで椅子や床が砕けた雰囲気は確かに色気もないもない。
しかし、レオノーラはクラークの鼻を軽く指でついたあと、返事とばかりに首に手を回して唇にキスをした。
『ぶもぉぉぉ!』
「あんたも空気読みなはれや」
キスした瞬間に倒れていたはずのバッファローキメラが起き上がるも真帆に手当てを受け終えた桜花が突っ込みとばかりにハンドアクスで頭部を砕く。
グシャッといやな音が響き、返り血が桜花を染めた。
「なぁ‥‥この状態で挙式を行うのか?」
「本人達がしたいようならそれでいいかと‥‥ところで、さっきまで被っていたキャスケットはどうした?」
昴が死体の転がる周囲を改めて見回し呟くと宵藍が昴の頭にあったものがないことに気づく。
「キャスケット? さて、何の事やら‥‥軽くでいいから死体を片付けるか」
宵藍からのつっこみをのらりくらりとかわし、昴は死体処理に向かうのだった。
●お・ね・が・い
「神父様、私をお嫁さんにして下さぃ」
式の再会をしようとした神父の前に真帆が恋人を見るような目で詰め寄る。
「私は結婚することはできません。神の子を導く定めを持っているからで‥‥」
「な、何を勘違いしているのですか。べ、別に年増スキーじゃないですよっ、神様と結婚させて欲しいのです」
神父が真面目に答えようとすると、頬を染めてもじもじしとしながら真帆は訂正した。
紛らわしいことこの上ない。
「洗礼をしたいのですね? わかりました略式ではありますが行いましょう‥‥貴方の名は『メルキセデク』といたします」
勘違いした神父も自分に非があることを認め、咳払い一つして真帆を優しく見つめ返した。
「結婚か‥‥俺は当分先だろうな相手がいない的な意味で‥‥」
教会内の片付けをしていた宵藍は真帆の言葉を聴いてぼそりと呟く。
「元気出してにゃーボクがお嫁さんになってあげるにゃー」
そんな宵藍の袖をウェディングドレスに着替えた白虎が引っ張った。
眩しいくらいの笑顔を振りまいてである。
「‥‥断る。俺よりもあっちにいってやれ」
水をつかった洗礼の儀が行われているなか、レオノーラの方をボーっと見ているシンの方を宵藍は指差した。
「にゃー、シンさんはどうかにゃ? きっと二人の子供は僕みたいになるから代役になると思うにゃー」
「余計な気を使うなよ‥‥姫さんの代わりはいねぇんだよ。本番には呼ばないようにあとでいっておかなきゃな」
近寄ってきた白虎の頭をぐりぐりとしながらシンはもってきたショットガン入り花束を拾い上げる。
「ショットガンなんかもってきて私を強奪するつもりだったの?」
「なっ‥‥いつの間に‥‥目ざといな姫さんもよ」
いつから聞いていたのかショットガンを拾い上げたシンの目の前にレオノーラが立っていた。
「そんなに未練があるなら、以前聞いたときにいってくれればよかったのに‥‥ごめんなさいね?」
「だな。今更どうこうしたってこっちに傾くような人じゃないもんな? 本番には呼ばなくていいぞ」
少し寂しそうな瞳でレオノーラはシンを見上げると、シンはその視線から逃れるように顔を背け、一歩離れる。
「レオノーラさん、真帆さんの洗礼も終わりましたから式を再会しましょう」
「ええ、やりましょうか」
クラークが入れ替わるようにレオノーラに近づくと手を握った。
その手を握り返すレオノーラを見るとシンは静かに離れた席へと付く。
「うにゃ、振られちゃったにゃー。折角着替えたんだから誰か僕と結婚してー」
「僕はダメだからネ。心に決めた人がもういるんだから‥‥何はともあれ、二人ともおめでとーだよ」
一連の様子を眺めていた白虎がラウルにアタックを仕掛けるも笑顔で断られた。
古びた教会で最後の挙式が始まる。
そして、新たな教会で祝福するために神父は無人島へと案内されるのだった。