タイトル:【庶事】メカ中将現るマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/29 01:47

●オープニング本文


●取材の束
 バグアが跳梁しはじめて20年。とかく、表面に出るのは、派手な大規模作戦や、大掛かりなキメラやワームとの『軍事的な』ことばかり。だが、世の中には、それ以上にぶっとんだキメラだってたくさんいる。ある日突然、隣の住民がバグア派だったなんて事も、今や珍しくはなくなってしまったのだ。
 そんな人目につきにくい事件でも、救援を要する事は多発する。そんな日々の『隣村の大事件』を担当するUPCオペレーター本部に、1人の若者が足を踏み入れていた。受付で彼はこう事情を話す。
「まいどっ! 突撃取材班ですっ! 何か面白そうなネタありませんか!?」
「は!?」
 よくみりゃカンパネラの制服だ。おまけに腕章に『報道部』と書いてある。なんでガッコを飛び出してこんなところにいるんだと、受付の人は思ったが、口には出さずに、オペレーター達の事務室へと案内してくれる。そこにうずたかく積み上げられた報告書から、ネタになりそうなものを捜せと言う事らしい。
「アリガトウございます。じゃ、これ借りて行きますねっ」
 閲覧可と印字されたその束には、こう書かれていた【庶務雑事】と。
 これは、そんな日々起こっている事件をまとめた報告書の束である。
 
●数週間前・アメリカ
「こちら‥‥キメラを発見! あ、あれは中将!?」
「そんなはずはない。偽者に決まっている!」
「だけど、あの‥‥白い顔に浮かぶ二つの目は‥‥あのお方のものでしかない」
 駐留に当たっていた前線の兵士達は現れた10mくらいのメカのようなキメラに対して怯えを浮かべたまま呆然と立ち尽くす。
 市街地を動く、メカメカしい女性の姿をしたキメラは鋭い爪でガラスを砕き、青い目からビームを出しては立ちすくんだ兵士を焼いた。
「ブラット准将、傭兵を呼んでください‥‥我々の手に余ります」
 銃を撃つにもフォースフィールドに阻まれてキメラには傷一つ付かない。
『すぐに呼びつける、だから今一度。戦線の拡大をさせないために動いてくれ‥‥事後処理も極秘裏に行うものとする』
「了解しました。この命を賭けて任務を真っ当させていただきます」
 ハインリッヒ・ブラット准将(gz0100)より通信を送った現地の軍人は援軍を頼りに動きだした。
『ヴォリィィィムッ!』
 なんともいえない低音ボイスと共に吐き出される怪音波に兵士達がやられていく。
 傭兵達はこの悪夢にも思える光景を手早く収束し、オリム中将に知られ内容に処理しなければならなかった。

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
マーガレット・ラランド(ga6439
20歳・♀・ST
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
彩倉 能主(gb3618
16歳・♀・DG
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
正木・らいむ(gb6252
12歳・♀・FC

●リプレイ本文

●プロローグ
 【サイクラノーシュ記】
 2009年5月12日。
 カンパネラ学園には無数の団体がある。
 その中でさらに無数にある報道部の一つから、『あの』事件についてインタビューしたいと、私‥‥彩倉 能主(gb3618)に連絡があった。
 問題が問題だけに、ハインリッヒ・ブラット(gz0100)准将‥‥いや、現少将に連絡をとる事にする。

 2009年5月17日
 報道部員と面会。
 いかにも自分は自由の代表だといわんばかりの軽薄な男だ。
 そして、男は『あの』事件の記録を持っている。
「巨大なキメラと戦ったとありますが、UPC軍の方ではそのような記録が無いと聞いています。一体どういうことなのでしょうか?」
 知らない方がいい事実に興味を持った男はそう聞いてきた。
「10メートルほどの巨人型キメラだったです。特徴ですか? レトロな女性型ロボット風だったです。このキメラの写真が誰かに似ていないかって? ジャパニメーションの見すぎでしょう」
 私は答えると共にあの忌まわしい事件について思い出し始める。

●メカキメラ、北米に現る!
「‥‥なるほど、悪い夢だな」
「何と言うか‥‥扱いに困るキメラだな。毎回の事だが、バグアが何を考えているのか分からん」
「俺、アレ見たことあるぜ‥‥たしかバレンタインのときあのおぞましい姿をチョコレートで、うっうぉぉぉっ!」
 時枝・悠(ga8810)、宵藍(gb4961)、ロジャー・藤原(ga8212)はビルの立ち並ぶオフィス街をややガニ股であるく巨大なキメラの姿に戦慄を覚えている。
 ロジャーにいたっては、何かトラウマに引っかかったようでその場で頭を抱えてもがく始末だ。
「手配された耳栓です。ヴォリムアローと我々は呼んでいますが、あの歌には気をつけてください」
 傷を負った兵士が能力者達に耳栓を渡す。
 キメラの口からでる謎の歌はビルのガラスを割るほどのオンチらしかった。
「わかった‥‥しかし、そうなると元の『アノ』人もオンチなのか?」
「言う事は無い。何も無い。無いとも。沈黙は金、良い言葉だ‥‥」
 ロジャーに視線を向けられた悠は視線をあさってのほうに向けてぼそぼそと呟く。
 このときの悠の脳裏には「私はオ●ム 御(おん)大将」とマイクで歌っているとある人物が浮かんでいたのはいうまでもなかった。
「のうのう、あれは一体誰ににているのじゃ? 」
 ピッピッと宵藍の袖を引っ張りながら正木・らいむ(gb6252)がUPC軍と戦う巨大キメラを指差す。
「あー、その‥‥なんだ‥‥」
 本当に気がついていないのかと突っ込みを入れたい宵藍だが、当人の名前を出すことははばかれていた。
 いえないわけではないのだが、言ってはいけない雰囲気があたりに充満している。
「あれはですね‥‥幻覚なんですよ。自分にとってもっとも美しいと思えるものが見える幻覚を使うキメラの効果なのです」
 翠の肥満(ga2348)はヘルメットについていたビデオカメラをOFFにして静かに語りだした。
「皆さんの心にうつる邪なものがあのキメラの顔に表れているのです‥‥あれこそが、邪心像ヴォリム!」
 翠が指をびしさしながら格好をつけるが、微妙な空気が流れる。
 あるものは潔いと思い、またあるものはやり過ぎだと思っていたのだ。
「そうだ、被害を減らすコースはとっておいてくれているんだよな?」
 話を戻そうとロジャーが耳栓をもらえた兵士に聞くと兵士はすぐに答える。
「今、先行している能力者さんが誘導している最中なのですが‥‥」
「「なん‥‥だとっ!」」
 兵士の一言に、その場にいた一同は一斉に突っ込みをいれたのだった。

●誘導? You DO!
「ビールの様でビールで無い、それは何かと尋ねたら? ルートビアという小噺がありましてな。昔の似非麦酒は出来が悪く湿布薬臭かったです」
 酔っ払っているのか何の脈絡もないことをマーガレット・ラランド(ga6439)はボヤキながらビール瓶片手に千鳥足でメカ邪心像キメラ『ヴォリム』(命名:翠の肥満)の前をうろつく。
 大通りで酔っ払いが歩く姿は普通でもいやなものだ。
 足元でちょろちょろするマーガレットの姿に嫌気が差したのか、ヴォリムは青い両目から直線するビームを放つ。
 青白い光りが道路や車を一閃の元に砕いていった。
「知られちゃいけない、メカ中将(のモデル)が誰なのか♪」
 一方、マーガレット程には酔ってはいない森里・氷雨(ga8490)の精神も他から見ればかなり危ない。
「こっちを向いてよ中j‥‥だってだってなんだもん」
 古いアニメソングをごちゃ混ぜにしながら氷雨は歌い続け、邪神像のフィギュアと称されるものを上へと掲げた。
『ヴォォォリィィィム!』
 氷雨の手に持つフィギュアに目をつけたのか、ヴォリムはマーガレットへの攻撃をやめて氷雨の方へと足を進める。
「いよっ! 象が踏んでも壊れない厚顔無恥」
「さぁ、こっちだ! そのスカートの中へ私をいざなってくれ」
 マーガレットと氷雨がいるのは道路であり、走りながらも呼び込むように声をかけていた。
 UFOなどを呼ぶチャネラーにみえなくもない。
 ズシン、ズシンと大きな足音と共に近づく巨体が氷雨の後ろにまで近づいてきていた。
『ヴォォォリィィィム』 
 ビルをも砕くヴォリムパンチを繰り出そうとしたとき、氷雨はジャンプして脹脛につかまりヨジヨジと太ももまで登りだす
「はぁ‥‥太もも‥‥むふぅん‥‥」
 恍惚とした顔で登りだす氷雨の姿はどこか素敵だった。
「厄払い痴漢避けに最高‥‥ではないけど、一家に一台、いや個人所有の時代だ。どうですか奥さん?」
 二人の行動は結果としてオフィス街から郊外へと切り離し、底なし沼へ向かうコースが取られている。
 UPC軍のジ−プにのった一同が援軍にくると、戦闘モードへと作戦は移行し始めた。
 
●スーパーお化粧タイム
「なんて醜さだ! 牛乳も吹き出す醜さだ、やめろーッ!」
 ペイント弾でヴォリムの上半身及び顔に向けて翠はペイント弾を叩き込む。
 しかし、ヴォリムの髪の一部がペイント弾をふき取るように動いた。
「ワイパーだと?」
 メカだということを改めてしった能主は目の前の行為に恐怖しだす。
 郊外ではあるが、無人というわけではなく突如現れた10mサイズのキメラと能力者達の戦闘に遠巻きではあるが人が寄りだし、中には写真をとるものさえいた。
「あれは幻覚を見せるキメラだ。心の中の美しい顔がキメラの顔になっている! 認めたくないのなら逃げろ!」
 呼笛をピーッと吹いて野次馬を追い払いつつロジャーは射程内ギリギリでペイント弾をとにかくぶつける。
 ワイパーが動きペイント弾をふき取り続けた。
「おお、面白そうなのじゃ! 妾も協力するのじゃ! お化粧なのじゃな?」
 敵が何なのかわからないが、とりあえず楽しそうという理由だけでらいむも白色のペイント弾で髪を塗りだす。
 茶けた色の髪がらいむの放つペイント弾により白いメッシュが入りだした。
 ロジャーの呼びかけもあり、野次馬は退散し郊外から森の方へと移動は完了しだす。
『ヴォリィィィィ!』
 口が開き、ガラスを爪で引っかくような音が響きだした。
 オンチとかオンチじゃないとか、そんなレベルではない。
「何と言う攻撃、耳栓をしなければ即死だった‥‥芸術だ、醜悪は芸術だーッ!」
 ダメージを与えるまでにはいかなかったが、能主の芸術センスにはクリティカルな影響をヴォリムアローは与えていた。
「よし、目撃者はなし。ココで倒して処分しましょう!」
 翠が周囲を確認すると、作戦は次のフェイズへと移行する。
 
●全力突破!
「暴きたい暴きたい、ううっ」
「悶絶していないで戦えっ!」
 サイエンティストの性(さが)かメカを分解した衝動に駆られるマーガレットを悠は鼓舞をして獲物を竜斬斧「ベオウルフ」に持ちかえる。
「ビームはどうしようもないですが、きっと隠されているだろうおっぱいミサイルは俺が塞ぎます‥‥さぁ、構わず倒してください!」
 足からのぼり、お尻から腰を回りながら登ってきた氷雨が胸の位置で大の字になりながら鼻血を流していた。
「‥‥デカいと届かん。膝をついて貰おうか」
 ペイント弾による攻撃も流れ弾による氷雨への被害を考えるとするわけにもいかず、宵藍は『円閃』を使いヴォリムのアキレス腱を月詠で狙いだす。。
「アキレス腱とはアキレスという英雄が‥‥」
 ぶつぶつと何かを呟きながら、マーガレットは『練成弱体』をヴォリムにかけて攻撃を当てやすいようにした。
 月詠がきらめきと共にフォースフィールドを破ってアキレス腱を斬り、ヴォリムの体勢を崩させる。
「こんな物を残しておくと、何か色々と良くないだろう」
 悠の持つ『両断剣』を込めたベオウルフがブオゥと空を唸り声のように切ってヴォリムの腕を切り落とした。
『ヴォリィィィィム!』
 腕が血か油かわからない黒いものを撒き散らしながら飛び、痛みに苦しむヴォリムの目からビームが飛ぶ。
「貴方の瞳は100万ボルトっと。さすがに痺れるけどそうはなりたくないよね」
 ビームを避けながら翠は『強弾撃』で片膝を突いて立っている足を狙い体を倒れさせた。
 軽口をいくら叩こうとも歴戦の傭兵である。
「よーし、妾はちくちくと痛い攻撃をするのじゃ! そなたの小指にハミングバードじゃ」
 何かの決め台詞をようなことをいいながら、らいむが倒れたヴォリムの足の小指に『円閃』と『スマッシュ』を付け加えた攻撃で攻めた。
 ちくちくどころか強い一撃でもって指がもげる。
「うおぉぉ!? 潰れる潰れる!」
 見ているだけで痛そうな攻撃にヴォリムが地面に倒れようとすると氷雨はヴォリムの頭部へと逃げ体を張って逃げた。
 ずしんと大きな音を立ててヴォリムはうつ伏せになった。
 顔が見えなくてある意味何よりである。
「このまま顔も残すわけにはいかないな。こんなアレなものは処分する」
 悠がぐっとベオウルフを握り締めると『両断剣』で頭部をグシャッと潰した。
「怪我が無くてなによりだったが‥‥ビームは熱光線だろうに‥‥空気を読めないから潰されたんだ」
 ほっとした様子のロジャーが一仕事後の一服と言わんばかりに煙草に火をつけ、吹かす。
「メカメカしい外見だったが中身は肉っぽいな」
 砕けた頭部を眺め、宵藍は月詠を鞘に収めた。
「UPC軍のご到着だ」
 一時的に避難をさせていたUPC軍が傭兵達の所へ戻ってくると、敬礼と共にメカ神像キメラ『ヴォリム』を沼へと落としだす。
 ずぶずぶと音を立てながら顔を潰されたヴォリムは底なし沼へと沈んでいった。
「ああっ! ヴォリム様〜。そのお体をばらせずにゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
 沈みゆくメカキメラに対してマーガレットは土下座をしながら謝り続ける。
 その姿は神を崇める信徒そのものであり、様子をみていたUPC軍人はヴォリム教なる新たな宗教が生まれたのではないかと口々に話していた。

●エピローグ
 2009年5月22日。
 あの報道部員がの新聞部に所属を変えた。
 黒服に連行されて洗脳されたという噂は、ほぼ真実を言い当てている。
「あの拉げた顔は美しかったのだが‥‥静かに閉まっておくとしよう」
 能主は日記を閉じながら一息ついた。
 インタビューの後に書いた日記だがもしかしたら彼は覚えていないのかもしれない。
 いや、その方がいいのだろう。
「今回のような敵が次に現れなければいいな」
 日記を持ち、能主は学生寮の自室から外へとでた。
「ととと、すみません」
 ドンと人にぶつかると、その人物のもっている資料の中から一枚の写真が落ちる。
 上空からの写真だろうか、タートルワームの甲羅に人の顔のような模様が描かれていた。
「報道部かです‥‥いえ、気にするなです」
 腕章をちらりと確認すると、能主はなんともいえない顔になる。
「それではレポートがありますので失礼します」
 ぺこりとお辞儀をすると報道部の男はそのまま走りさった。
 一枚の奇妙な写真が廊下に落ちていたが、能主が拾う前に写真は風に吹かれ窓から外へと飛んでいく。
 
 教訓『何があっても気にするな』