●リプレイ本文
●キメラの癖に生意気なっ!
「あー、何かしら。この気持ち‥‥」
前情報はもらっていた。
ある程度のイメージもしていた。
そして、『覚悟』もしていた。
だが、目の前をチャリオットで通りすぎようとしている女王様キメラは、想像以上のモデル体形で『ばんきゅばん』だった。
「はっきり言ってしまえば、キメラのくせに生意気な体してんじゃないわよー!」
ありったけの怒りと嫉妬と諦めをこめて、皇 千糸(
ga0843)は叫んでいた。
「悲しみと怒りを込めた一撃、コレを受けて朽ちろっ!」
バリケードで速度を落とした女王様キメラのチャリオットの車輪に向かって千糸のドローム社製SMGが唸りをあげた。
車輪は砕け、今バトルが始まる‥‥。
●ブラッディバトル
作戦通り、コの字型のバリケードにチャリオットを追い込み、速度を落とさせる。
そして、千糸のSMG攻撃を受けた片方の車輪が砕け、チャリオットのバランスが崩れた。
チャリオットを牽いていた男達が倒れ、女王様キメラも衝撃に揺さぶられる。
「今だ!」
瞬天足で建宮 潤信(
ga0981)は駆けつける。
その潤信目の前に人形の顔が急に飛んできて、ぶつかった。
『ブラッディークリスマース!』
カラカラカラと笑うその顔は不気味だった。
「くっ‥‥!」
出先を止められ、踏み込みが止まった。
カラカラと笑うグッド・バイの頭はバウンドして胴体に戻る。
その間に、チャリオットの後部座席に座っていたホッケーマスクがズシンズシンと潤信の目の前にたち、女王様キメラを覆い隠した。
「だがっ、俺を止められると思うな!」
ぐっと踏み込み、勢いを無理に移動をとめる。
止まらない力を拳へと乗せて、強化されたファングで大男を殴った。
ドスゥンとエアインティークの放出のある一撃が唸った。
しかし、大男は少し揺らいだ程度で止まる。
「ちっ、図体のでかさは伊達じゃないか‥‥」
潤信が舌をうつ。
「今は引き付けるだけでいい、逃がすまでの時間を稼げればな」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)がグッド・バイに切りかかりながら叫んだ。
「わかっちゃいるが、結構ハードだ」
潤信がホアキンに返事を返すも、ホッケーマスクのチェーンソー攻撃に苦戦する。
回転するノコギリ刃をファングで受け止めようとするも、抑えきれずに肩口を切られた。
「ちぃっ‥‥防御はやはり無理か」
傷口から血があふれ、黒いシャツに赤いしみが加わった。
「おいおい、頼むから倒れないでくれよ‥‥」
ホアキンは潤信の動きに不安を考えつつも、目の前の人形と剣舞を踊っていた。
『ブラァァァディィィッ!』
40cmくらいの人形は見た目とは裏腹に低いドスのきいた鳴き声でアーミーナイフを振り回していた。
「キメラ相手にトレオを踊るとはな」
小さい人形のアーミーナイフをヴィアで、キンキンとリズミカルにはじく。
「Ole!」
そして、隙を見てヴィアで突いた。
だが、手ごたえは緩い。
人形らしく、ゴム製のボディをしているらしい。
「こちらも、長丁場になりそうだ‥‥」
突き刺さった人形を振りほどき、ホアキンは闘牛士のように構えた。
「試合をしようじゃないか、Bicho」
ホアキンはグッド・バイに微笑みかけた。
●魔法少女現る
「ったく、いくら女性型キメラといえど‥‥喜ぶヤツがいるのがわからん」
蓮沼千影(
ga4090)は男達を解放しつつぼやいた。
「人にはさまざまな嗜好があるものだ」
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(
ga4859)は割り切って斧を使って男達の解放作業をしている。
手下二人はホアキンと潤信が引き付けてはいる。
しかし、どちらも余裕というわけではないので千影は手早くヴィアを使って鎖を断ち斬っていった。
「正直、今のあんたホラー映画にでれるぜ?」
「ほめ言葉として受け取っておこう」
ザクッと斧で鎖を全部断ち切り、冥姫は口元をうすく緩めた。
『おーほっほっほっ!』
全員、開放したとき、女王キメラの高笑い(のような鳴き声)が千影の耳に聞こえてきた。
シュルルルッと鞭のようなものが伸び、ヴィアをしばる。
「次は俺ってか? もてる男はつらいねぇ‥‥」
軽口を叩くと、千影の髪が紫色に染まっていく。隠し持っていたソードを抜いて切り裂く。
「どうした、あんたの手は終わりかい? クィーン」
千影の雰囲気から粗暴さが薄くなり、クールで色気を持ち出す。
「千影、男達はどうする?」
「あんたに任すぜ、俺はクィーンのご指名がかかった」
二本のソードを構え、千影は女王キメラをにらむ。
『やぁぁぁっておしまいっ!』
先ほどとは違う鳴き声が女王様キメラから発せられた。
すぐに(喜んでいた)男達が立ち上がり、千影を捕らえようと動き出す。
相手は一般人。
手を出すわけには行かない。
「あんたら、そこまで腐っていたか‥‥」
「仏作って魂入れず‥‥それに惹かれる人間は、傀儡か」
千影が苦い顔をし、冥姫は嘆息をつく。
「にゅふふふふ〜♪ そこまでなのにゃ!」
突如、場に広がったのは子供らしい明るい声。
しかし、よく響き澄み渡る力があった。
一同、あたりを見回して声の元をたどりだす。
そこは、大通りの横、千糸が潜んでいた建物の屋上の小さな人影がいた。
「正義の魔法少女まじかる・チカ参上にゃ♪ 聖なるクリスマスを汚す悪いキメラにお仕置きなのにゃー♪」
びしぃっという効果音がつきそうなポーズを西村・千佳(
ga4714)はとる。
ウィンクまで飛ばして気合十分だった。
その光景に、千影を捕らえようとしていた男の動きが止まる。
「退いていろ、ここから先は邪魔だ。伴侶の元へと帰って再開でも喜ぶのだな」
ぽいぽいっとゴミでも捨てるかのように冥姫が男達をバリケードの外へ追いやる。
千佳は覚醒し、瞬速縮地で女王キメラのほうへ駆ける。
魔法のステッキとファングを入れ替えファングにより引っ掻く。
「悪い人にはまじかるファングのお仕置きニャっ♪」
可愛らしい外見とは裏腹の強烈な攻撃を放つ千佳。
だが、女王キメラはソレを軽々と避けた。
『おーほっほっほっ!』
両手を羽根のように広げ、女王キメラは飛び立つ鳥のようなポーズを取る。
「うにゃっ!?」
その動きに唖然となる千佳。
そのまま女王キメラは縦ロール状の髪の毛を伸ばして千佳と冥姫を同時に狙う。
「にゃんっ!」
ごろりんと千佳は避けるが、冥姫は女王キメラの髪に体を絡めとられる。
「ちっ‥‥なれない戦いするものじゃなかったか」
ミシミシっと嫌な音があたりに響いた。
●女神様のご光臨
嫌な音をさえぎるように、カツカツというハイヒールの音が2人分響く。
二人の共通点は、深いサイドスリット入り真紅のロングドレスにハイヒール。
そして、背中には一対の羽根が映えていた。
その一人、智久 百合歌(
ga4980)は『きよしこの夜』を口ずさみ、冥姫を締め付ける女王の前に立つ。
「女王様などとはなんと小さい。地を這う下僕もかわらないわ」
その神々しさ、口調の厳しさにチャリオットを牽かされていた男達はひれ伏した。
「女 神 様 と お よ び な さ い」
イアリスでポーズをきめると、逃げていた街の人たち(※男限定)もでてきて歓声を上げた。
「「女神さまぁぁぁ!」」
なにやら、怪しい光景が広がりはじめる。
「叩かれて喜んでいるようじゃまだまだね‥‥ほぉら、どきなさい。天使と女神様のお通りよっ! 下僕ども!」
天使こと、緋室 神音(
ga3576)はサイドスリットから見えそうで見えない程度に足を上げて、ヒールの先で男達をバリケードの外へけりだす。
その隙に、冥姫は自らの捕縛をといた。
「ここは、私達に任せて援軍にいきなさい」
緋室に言われて冥姫はホアキンの援護、千影は潤信のほうに回る。
魔法少女と、天使と女神。
そして敵は女王様。
誰もが予想しなかった、究極の対決がはじまろうとしている。
「聖夜にふさわしい舞台にしてあげるわ、格の違いというものをその身で味わいなさい」
にこりと笑う百合歌の目は笑ってはいなかった。
●企業戦士・蓮沼千影
「そこのでかいの。こっちにも相手はいるぜ」
千影は飛び掛るように動き、攻撃にでる。
両手に持った剣は宙を流れ、煌いた。
ザシュザシュとヴィアとソードがホッケーマスクを切り裂く。
しかし、まだまだホッケーマスクは倒れない。
「しぶといな‥‥」
「強度だけでなく、攻撃も強いぞ気をつけろ!」
舌打つ千影に潤信は注意を呼びかける。
「わかってる‥‥ふぅ、あぶねぇ」
チェーンソーが千影を横なぎに払うホッケーマスク。
すんでのところで避けたが、ネクタイが切られる。
「スーツにネクタイはビジネスマンの戦闘服だというのに、やってくれるな‥‥」
千影の瞳に冷たさが増した。
続いて攻撃してくるホッケーマスクの攻撃をかわす。
「ほら、俺もまだ健在だぞ!」
潤信が声をかけるとそっちにもチェーンソーを向ける。
グラップラー独特の足裁きで、攻撃をかわす。
「二度目はないぞ!」
そして、潤信は低姿勢で突撃をし軽い一撃を繰り出す。
そのまま、懐へもぐりこんでボディを穿ち、押し上げるアッパーを見舞った。
「この距離、もらったッ!」
ドスンと重い一撃があたり、ホッケーマスクが大きくのけぞる。
「おっと、まだお寝んねには早いぜ」
それを逃すまいと千影がホッケーマスク首を両手の剣で切り落とした。
「ノルマ達成‥‥」
着地を決めると千影はニヒルに笑った。
●傀儡(くぐつ)と人形(ひとがた)の狂宴
間合いを取りながら、牽制をしていると、ホアキンの視線の隅で男達が開放されるのが見えた。
「では、こちらも本気といこう」
今まで後手に回っていたホアキンが先手を取ってグッド・バイを押していく。
キンキンという剣とナイフのはじきあう音が響き、ついにはグッド・バイのアーミーナイフはホアキンの流れる刃にはじかれた。
「終わりだなっ‥‥」
しゅっと引き、そして牽制をしつつ見切った急所へ最大の突きを放った。
『ヒギャァァァァ!』
見た目とは裏腹な醜い断末魔がグッド・バイから溢れ出す。
「静かに眠れ‥‥」
ホアキンがヴィアを引き抜こうとしたとき、グッド・バイの頭が飛んできた。
潤信が食らった技を忘れていた。
「ちっ」
かろうじて受け止めるも、ヴィアを手放してしまう。
『ヒャハハハ! ブラァァァディ!』
くるくると宙を回転しながら笑うグッド・バイの頭は胴体に戻らず、冥姫の手に収まる。
「小賢しい人形が‥‥耳障りだ」
収縮した冥姫の瞳孔がグッド・バイの頭を冷ややかに一瞥する。
包帯に巻かれた一見華奢な腕がギリギリと頭部を締め付け出した。
ゴムのような弾力をもってしてしても防ぎきれず、フォースフィールドが発生し、ダメージを抑えようと赤い光が強くなる。
包帯に巻かれた手がこげるのも気にせず、冥姫は地面にすさまじい力で頭部を叩きつけた。
「痛いか? 痛みを身を持って知るのだな‥‥。そして、生を受けたことを後悔しろ」
そして、バトルアックスがグッド・バイの頭をかち割った。
「お嬢さん。貴方のほうがキメラより怖いと俺は感じてしまったよ」
ホアキンはグッド・バイからヴィアを抜き取ると微笑みながらそう呟いた。
●三種の神姫(じんき)
女王様と改めて対峙した3人に対して、女王様キメラの髪の鞭攻撃が唸る。
『おーほっほっほっほっ!』
蜘蛛の巣のように広がる髪が、3人を攻撃してきた。
「にゃにゃっ!」
「同時攻撃はやっかいね」
回避をなんとかするも、中々距離を詰められない。
地面に鋭い髪がドリルのように刺さり抉った。
「こうなったら、女神様と魔法少女にがんばってもらうしかないわね」
緋室はそういい二人を見る。
コンビネーション攻撃を仕掛けようというのだ。
「いいわ、私達の攻撃をタップリあじあわせてあげるわ」
百合歌は妖しく微笑む。
「魔法少女チカ、突撃にゃ〜」
ビーストマンである、百合歌と千佳がすばやく挟み込むように回った。
その間に緋室は飛び上がる。
「タイミングを合わせなさい!」
「はいにゃ〜、必殺! まじかる☆スマーッシュ!」」
二人が同時に流し斬りをあて、女王様キメラを空中へ打上げた。
空中を大きく跳ぶ女王キメラ。
その女王キメラよりさらに上に上がっていた緋室は剣を居合いで斬り裂く。
「抜く前に斬ると知れ――剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】」
緋室の一撃により、胴体から両断される女王キメラ。
ドシャッと落ちた女王様キメラに対し、百合歌はトドメをさす。
ハイヒールで女王様キメラの顔を踏みつけ、見下しながらこういった。
「Kyrie eleison――憐れんであげる」
微笑む彼女は、冷たいほど美しかったと街の男達は口々にいっていたという。
●馬に蹴られてしまえっ!
戦いは終わり、後処理に来たUPCの所員がチャリオットを回収していた。
「ん? 未来研究所の人間じゃない?」
「ですが、UPC所属ですのでご安心を」
潤信が怪しむと、サングラスを掛けた男はUPCの階級章を見せる。確かにUPCの服は着ているが‥‥。
(「なにやら、UPCの中にも色んな部門があるのか‥‥」)
潤信が心の中でそう思っていると、開放された男達は、本来の相方に縛られていた。
開放されて喜び合うカップルより、女性からビンタを食らう男達が多いような気がしたが、気のせいだろう。
「にゅふふ♪ しゅらばしゅらばしゅしゅらば〜」
意味のわからない歌を口ずさみ、千佳はお仕置きを見学していた。
そのチカの襟首を千糸が掴む。
千佳は借りてきた猫のようにまるくなる。
「その辺にしておきなさい。帰る時間よ」
「うにゃ〜、恋人さんたちよいクリスマスを、なのにゃー」
宙吊りになりながら、千佳は最大のエールを送る。
ふと、千糸が高速艇にはいると、見慣れない赤い靴がおいてあった。
「誰かの忘れ物?」
「さぁ、今宵はクリスマスですから、サンタがプレゼントを届けてくれたんじゃないんですかね?」
高速艇のパイロットはそんな台詞を返す。
「本当のサンタならいいけれど、今回のようなサンタは二度と見たくないわ!」
千糸は怒りを込めて叫んでいた。