●リプレイ本文
●アイドルに立ちはだかる壁
「今回は歌を作ってもらいます」
IMPマネージャーでもあるライディ・王(gz0023)から改めて課題が提示された。
フリップを出すとババンという効果音が入る。
「ん、合宿も2回目。今回はお歌のろくおん。ん? 歌? ‥‥むむ、冥華‥‥お歌作るの初めて。よくわかんない」
「今回も張り切っていくのですよ、おー! しかし問題は歌ですねー‥‥ふ、腹式呼吸位なら得意ですが!」
「サバイバルー、鯖威張るー。前回もやったから楽勝なのです! ん? 今回は曲作り‥‥? ぎょあー、そういうのは苦手なのですよー」
小首をかしげる舞 冥華(
gb4521)、気合を入れつつも誤魔化すフェイト・グラスベル(
gb5417)、そしてオーバーリアクションをとる如月・菫(
gb1886)がはじめにリアクションを返した。
「ALPのメインテーマ曲を一つと他の曲を合わせたCDにしますのでがんばりましょう。次回には売りにいきますので、今回の曲作りはメジャーデビューへの第一歩と思ってください」
苦手と返す3人に対して優しげにライディは話を続ける。
「それと今回新たに参加することになったNoirさんです。ロシアのライブでも作詞を行っていますから皆さんの助けになってくれると思いますよ」
「Noirですの。前回はロシアでの野外ライブのお仕事で参加できなかったけど‥‥一緒に参加できて嬉しいですの」
ネコ耳をピコピコと動かし終夜・朔(
ga9003)は合宿に集まるALPの面々へ挨拶をおこなった。
ぱちぱちと拍手が起こり、合宿の出だしは無事に終わる。
これから一週間の戦いが始まるのだった。
●続・サバイバル
「集まったのは猪キメラ肉と鹿キメラ肉と‥‥野草が少々ですか。ふぅ」
初日に集まった食材を見てファーリア・黒金(
gb4059)が息をつくとエプロンで押さえつけられた胸が窮屈そうに動く。
体操服ブルマの上にエプロン姿というなんともマニアックな姿だが、ファーリアは意識してやっているわけではなかった。
「お肉どうしようか? 煮込んで食べる分と保存用にしたいよね?」
薪を集めてきた田中 アヤ(
gb3437)はユニットの相方である篠原 悠(
ga1826)の顔を覗きながら聞く。
「ビーフジャーキーやと一週間くらいかかるから簡単に干し肉にする方がええかな? チャーシューっぽくなるよ」
悠は燻製用のチップを持ち込みながら干し肉の用意をはじめたとき気づいた。
「あ、燻すための箱がないやん!? チップにばかり気をとられてて忘れとった!」
「私は困った所のお手伝いをさせて頂きたいと思っていましたので‥‥探してきましょうか?」
両手で頭を抱えてオーバーアクションでショックを受けている悠に鬼道・麗那(
gb1939)が顔を覗きこみながら聞く。
「ごめん、お願いっ! 夕方前には燻して陰干しに入りたいからよろしく! ドラム缶じゃなくて一斗缶くらいでええから!」
「お任せください、すぐにいってきます」
麗那は気合を入れるとBM−049「バハムート」に乗り込むと一気に走り出した。
「あっちはお任せして、お昼の用意を私たちはしますか。押さえるべきところは『お腹を壊さない程度の料理』で」
「せやね‥‥練習や収録にひっかかったらあかんもんね」
フォーリアと悠が食材を眺めつつ気合を入れなおす。
腹が減っては戦はできないのだ。
「うぅ‥‥料理のできないあたしが恨めしい‥‥火加減だけはがんばるよ」
涙を流しながらアヤは拳を握る。
殺人料理しか作れない自分がこのときものすごく恨めしく思った。
●ジャケットを作ろう
初日の夜。ドラム缶で作ったお風呂で汗を流し終わった面々が寝ようかというとき、フェイトが声をかけだす。
「ねぇねぇ、ジャケット写真はパジャマ姿でとろうよ。寝転がった姿で‥‥ほら、合宿だからどーかなーって」
「ええんやないの? 合宿でもないとそんな格好で撮影なんかできないし」
手持ちのスペシャルトリートメントセットで髪を手入れし終わった悠が了承した。
「集合写真風なのもいいかなって思っていたけど‥‥落書きはしたいかな?」
「冥華も合宿集合写真がいい‥‥入り口でとったのとか」
アヤと冥華にいたってはもう少し普通の格好がいい様子である。
「それでは表面を集合写真にして見開きの中をパジャマ姿でどうでしょう?」
相談を聞いていたライディが差し入れのお菓子とジュースを振舞った。
先日の合宿の光景を放送で見たファンからの贈り物らしい。
新人ながらも注目されているのだとアイドル達は感じた。
「それならよさそう。じゃあ、マネージャーが撮ってね。真上から全員が入るようにだから天井から吊るせばいいのかな?」
ライディからの意見にアヤは頷くと黒い顔をしながらロープを持ち出してくる。
「え”?」
「うん、それがいい‥‥冥華手伝う」
思わず後ずさりをするライディを後ろから小さな体の冥華が掴んだ。
非覚醒でありながらも能力者であれば一般人ではかなわない。
「ちょうど引っ掛けるような輪がありるし、あそこに吊るそか〜」
悠の指差すところに何に使っていたかわからないが金属の輪が天井から生えていた。
「マネージャーはカメラもってね。そーれ、吊るせ吊るせ〜♪」
「わ、や、やめて〜〜〜!」
胴体をロープで縛られたライディはワイヤーアクションのように引っ張られ天井へと持ち上げられる。
ブラブラ揺れながらの撮影のため、降りれたのは一時間後のことだった。
●結成、カラテガールズ
「発声には肺活量が必要です! さんには揃って稽古して戴きますよ! せいっ! せいっ!」
二日目の朝には麗那が先導して早朝トレーニングが始まる。
着替え用のジャージ姿で正拳突きを繰り出していた。
「せいっ! せいっ! やっぱり体を動かすのはいいですよね」
麗那の隣では代えの体操服ブルマ姿でファーリアが正拳突きを繰り返す。
腕を突き出すたびにやけに胸が大きく揺れた。
「うにゃ‥‥眠い‥‥くぅ‥‥くぅ‥‥」
菫は朝に弱いのか、鼻風船をだしながら脊椎反射で腕を突き出す。
「こらっ! 寝てはいけません! 歌が苦手ならなおさら技術よりハートです! 心のこもっていない歌には誰も感動してくれませんよ」
「うひゃぁ!? ニラではなく菫です!」
寝息をたてる菫を麗那は一喝して起こした。
「ふにゃっ!? びっくりしたですの」
麗那の大きな声に菫の隣で励んでいた朔もびっくりして猫耳や尻尾を立てだす。
寝かけていたのは秘密である。
「そうですね、菫さんにはみっちり個人指導をすることも踏まえて一緒にユニットを組みましょう。名づけてカラテガールズです!」
「え、えぇ、いつのまにそんな話に‥‥えっと、歌は嬉しいですけど。めんどくさいのはちょっと‥‥いえ、なんでもありません」
もじょもじょと反論しようとする菫だったが、麗那がにこりと笑顔で岩を拳で砕くと黙り込むのだった。
●収録〜BreakBit’s+α〜
3日目、4日目と訓練と練習を続けたアイドル達は5日目、ついに収録準備に入る。
「ライディさん、ココ、どうかな? ちょっと演奏変えてみる?」
合宿を行っているALPのメンバーの中では最も音楽経験の豊富な悠が全体曲のリズムを考えだしていた。
「演奏というより‥‥集められたフレーズが少なくて今後歌っていく全体曲としてはちょっと物足りないですね」
「せやね‥‥うちもそれが気になったんよ」
ワンフレーズずつみんなで集めようということだったが、今後とも歌って行くメインテーマとするにはあまりにも纏まりが無い。
ベースの歌詞があり、それにワンフレーズパートを入れるほうが良かったのかもしれないが、今となってはあとの祭りだった。
「今回のCDは全体曲なしで各自の曲だけで販売ということで米田社長には伝えておきます。予定とは違いますが、不完全なもので販売するわけにもいきませんし」
「了解、ソッチの方向で行こっか。じゃあ、うちらの方から収録しよう、アヤちゃん準備できとる?」
「あ、うん。ちょっとは練習して上手くなったかな?」
夜の見張りがてらにギターを練習しているが、まだコードの押さえ方が怪しい。
しかし、音色は良くなってきているので悠はサムズアップで答えた。
「では、他の人は一旦外で。収録開始します」
アコギの軽快なバッキングに乗せたミディアムテンポのHiphopがライディの合図で収録場所に流れ出す。
『Wish』 作詞:悠
♪〜〜
(アヤ)
言葉の雨降り続く毎日
傘も忘れ濡れ歩くこの道
仲間と出会い笑顔を交わすDelight
全力疾走 坂を駆け上がれ
(悠)
その先にある景色はdazzling
手を伸ばせ 遠く見えるそれも
飛び上がればきっと掴めるさ
(二人)
この大空の下 身を寄せ合って
回り逢えた奇跡はきっと素敵
遠く離れた空 星に祈っている
I wish We Wish upon a Star
〜〜♪
ハンドクラップを入れながら曲は2番へと進んでいくのだった。
●収録風景〜カラテガールズ〜
「次は私たちですよ。ほら、いきますよ」
「ふひぃ、折角手が塩濡れになって逃げてきたのにー、つかまってしまうとは不覚」
麗那が菫の襟首をつかんでずりずりと引きずって入ってくる。
歌のフレーズも考えてもでず、ユニットの活動についても麗那にしごかれた程度でしかわからないために珍しく菫の眉間に皺がよっていた。
「悩んでも仕方ない、元気な感じでいこー、おー!」
「その意気です。口うるさい女子生徒みたいな感じのガールズポップユニットでいきますよ」
気合を入れる二人に合わせて、悠がギターで軽快なリズムを刻みだす。
麗那と菫はマイクの前に立ち。カラテの構えのようなポーズをとった。
『恋の正拳突き』作詞:鬼道麗那
♪〜〜
ずっと私を見てたでしょアナタ
ちゃんと全部知ってるわ
草食系って何かしら?
臆病の言い訳ならいらないの
そうよ私は高嶺の花
誰もが振り向く学園アイドル
そうよ私は高嶺の花
ちゃんとハートを見せなさい
恋の正拳突き
セイヤァ!
〜〜♪
カラテの型に似せたダンスを踊りながら、二人は歌を歌いきる。
「はい、オーケーです。お疲れ様でした」
「マネージャーさん。衣装についてアイディアがありました」
麗那がライディに空手着を模した胸元が大きく開いた光沢生地のジャケットに黒のスパッツ、白いショートブーツを履かせたカラテガールズの衣装案を相談しだした。
「ありがとうございます。えっと‥‥内容は問題ないとおもいますので、次回までにCD共々社長に用意してもらいますね」
ライディは受け取りながらざっと確認し、そのままデザインの書かれたスケッチを受け取った。
「はひぃ、やっと解放されました‥‥あとはサボってお昼寝してこようっと」
その二人が相談している間に菫はコッソリと部屋を後にする。
しかし、一部始終は悠がPVの素材用にと回していたカメラに映っていたのだった。
●収録風景〜DIVA〜
「次はDIVAさんですね」
「まねーじゃー、冥華にふれーず教えてくれてありがとう」
「どうぞ宜しくお願いします」
冥華、朔、フェイトによりALPユニットのDIVAがくみ上げられた。
「出だしを冥華さん、真ん中をフェイトさん、ラストが朔さんといった具合ですね?」
ライディが曲を確認し、悠と打ち合わせをつづける。
「ユニット名はDIVAで朔さん以外に芸名がありませんから、冥華さんはMay。フェイトさんはFateという感じでいきましょう」
芸名を受けた冥華とフェイトは芸能人になってきている空気を強く感じた。
「曲調は各パートで代えていくんやね? 中奏でメドレーみたいに変えていくから付いていってきてよ?」
「めいか、がんばる」
「はーい、いきますよー」
「大丈夫なの」
悠の合図と共にヒーリングポップスメロディーから歌が始まる。
『幸福な日』 作詞:DIVA
♪〜〜
(冥華)
おはよーの一言で
おねむの時間はもうおしまい。
私と一緒に遊ぶため
起き上がってね お兄さま?
一緒に仕度を整えて 朝を元気に飛び出そう
(フェイト)
明るい日差しの中 さあ走り出そう
風を切って何処までも 速く速く
アナタと一緒ならずっと遠くまで
きっとあの空の向こうまで行ける筈
だからその手を繋がせていてね?
(朔)
星空を眺め横たわる
聞えるのは世界の鼓動
私は眠るの
開いた扉は夢の世界
其れが私の幸福
〜〜♪
無事にうたが終わり、変った一曲に仕上がった。
「まねーじゃー。歌詞考えてくれてありがとう」
にぱっと笑顔で感謝を示した冥華は採集しているときに集めてきた野苺をライディに渡す。
「ありがとう。冥華ちゃんもお疲れ様だよ」
野いちごを受け取るとライディは笑顔で答えた。
●最後の収録と‥‥
最後はファーリアのソロとなる。
「曲のタイトルが無くて、作詞もテキトー目なんですよね」
ファーリアの要望である曲調のスローテンポ・バラードでリズムを取る悠が頭を捻った。
「『手を差し伸べて』をタイトルにしよか? リズムはうちがとるから練習したとおりに歌ってくれればええから」
「わかりました」
悠の指示にファーリアは答えるとマイクの前に立って歌いだす。
♪〜〜
『手を差し伸べて』作詞:ファーリア
今、あなたには声が感じられますか?
小さく弱く、でも必死に訴える助けを求める声が
空が 大地が 海が
木々が 動物達が 人が
感じられたのなら、小さくても弱くても手を差し伸べて
その手はきっと笑顔を守れるから
その力はきっと心を守れるから
その心はきっと愛を守れるから
小さな小さな力しかなくても
手を繋ぎ、心を繋げば きっと大きな力になるから
だから、キミのその手を差し伸べて
〜〜♪
無事、歌い終わると遅めの昼食へと皆が動き出していた。
「ぎゃーっ! 狼キメラがお肉の匂いに誘われてきた!」
「狼‥‥がどりんぐしーるどではちのす」
ダダダダダンと銃声が響き派手な戦闘が始まる。
「がちばとがちばとー! バハムートには傷一つつけさせないZE!」
収録が終わったばかりだというのにキメラとの戦闘が続きだした。
「やっぱり、能力者なんですね‥‥」
ライディたちスタッフは中から戦闘の様子をカメラで記録していく。
ひとたび戦いがはじまれば、アイドル達は戦士へと瞬く間に姿をかえるのだ。
二回目の合宿はこうして終わり、次回は完成したCDと衣装をもって売り込みに入る。
がんばれ、ALP。
君たちの大きなデビューはそこにかかっているのだ。