●リプレイ本文
●できることできないこと
「ビデオカメラはダメなのですの?」
自分で用意することはできず、支給を頼もうと思っていたソフィリア・エクセル(
gb4220)は首を傾げる。
これない人のためにDVDにすることは悪くないことだとは思ったからだ。
「確かにビジネスを考えるならそうしたでよ。でもよー、スタッフも少にゃあし、勝手に設置したビデオで撮ったもんだら、売り物になりゃあせんて」
スポンサーたる『さる高名な人』への挨拶に来たらしい米田時雄はソフィリアに向かっていつもの砕けた口調で答える。
「今回のはビジネスは考えとりゃぁせんて、純粋に応援とおみゃあさん方の実力をみせてもらうだけだで」
DVDによる販売は一切しないと暗にいい、米田はソフィリアの肩を叩いた。
「てめぇが社長か? 俺様はテトだ。今日はステージで歌わせてもらうから、これからもアイドルとして世話になるぜ」
ふんと胸を張りつつ黒のサラファンを着こんだテト・シュタイナー(
gb5138)が挨拶をする。
とても宜しく頼むという風には見えない。
「ははは、それくらい強気である方が頼もしいがね。期待しとるでよ? おお、おみゃあさんにはスポンサーの方から演出用改良済みの照明銃とか煙幕銃がきとるで今のと交換しといてほしいがね」
それでも米田はケラケラと笑いテトの頭を撫で、コンテナを運ぶトラックを指差した。
「ミールヌイの基地の一角が使えて良かったです。会場の設営も比較的早くできました」
作業を終えたヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)も翔幻より降りて米田の下へとやってくる。
野外ライブとはいえ戦場のど真ん中で護衛も無しで行うことはさすがにまずかった。
そして、披露する相手が軍人ということもあり、格納庫の一つを貸してもらえることになったのである。
「ここに集まっていたんですね。皆さん、多少のミスなどはご愛敬です。そのまま突っ走っちゃって下さいね? 後のフォローは私たちがしっかりとします」
大和・美月姫(
ga8994)がパタパタと駆けてきて集まっている新人アイドル達の手を握り緊張を解すように声をかけた。
「美月姫ちゃんもすっかり先輩アイドルしとるがね。ええことだで、そのままサポート頼むでよ。俺はちょーっとスポンサーに顔みせして、その後ステージを見させてもらうでよ」
米田はアイドル達の成長を微笑ましくみると、その場から離れていった。
「もうすぐリハーサルの時間だ。ステージの準備はできていますし‥‥あっ、パンフの準備がまだだった」
冷静に時間を確認していたヴェロニクだったが、急に仕事を思い出し慌てだす。
「それじゃあ皆さん行きましょう。ヴェロニクさんの仕事も手伝いますからね」
美月姫はその姿に昔の自分を照らし合わせながら新人達をステージへと案内をするのだった。
●ライヴ・オン
『ロシア語出来ないから英語でゴメンねー。日本語よりは通じやすいかな? ってことで』
鷹代 由稀(
ga1601)がマイクを片手に挨拶を行う。
由稀がステージに上がると軍人達からささやかな拍手が送られた。
IMPの人気はロシアではまだまだのようである。
『まだロシア方面じゃ活動してないから、まずは自己紹介。IMPの鷹代由稀でーっす。あたし自身は1年ぐらい活動してるんだけど、今回のメインは‥‥今年に入ってから加入した、まだまだフレッシュなメンバーよ』
英語のままで由稀は手馴れた様子でMCを続けた。
『まず1曲目はNoirちゃんよ』
由稀に紹介され、終夜・朔(
ga9003)がステージにでる。
『Noirですの‥‥新人ですが‥‥どうぞ宜しくお願い致しますの♪』
笑顔で朔がお辞儀をすると緊張か興奮か覚醒をしてネコミミがぴょんと飛び出しピコピコ動いた。
『Noirの決意‥‥其れは‥‥絶対に皆で生きて平和を掴み、待ってる人の下に必ず帰る事‥‥其の為にNoirも戦いますの』
マイクを持って頭を上げ、朔は客席をみる。
軍人だけの小さなステージ‥‥だが、アイドルとして初めての舞台、もう一つの『戦場』だ。
―私の世界― 作詞・作曲:Noir
♪〜〜
貴方が〜護るモノ〜は何?〜
私が〜此処で〜待つ理由(わけ)は〜何なの?〜
世界が闇に閉じられ〜
貴方は今旅立つ〜
私は此処で待つの〜
貴方が帰る日迄〜〜
〜〜♪〜〜
光が〜世界を〜照らす時〜
貴方が〜傍に居ない〜と〜
私の世界は〜闇の〜中〜なの〜
だから〜必ず〜生きて〜
そして〜私の世界を〜
照らして〜〜〜
〜〜♪
黒を基調とした防寒ポンチョがヒラリと舞うとその下にあるフリルの衣装が翻る。
バックに置かれたKV達のソニックフォンブラスターからピアノの音色が流れ、照明銃によるライトアップが時折アクセントを加えた。
スローテンポな曲調から野外ライブは始まった。
●ドラゴンロック!
『続いてはバックで演奏をしていた、カズト! 今回唯一の男子よ。ロックが得意なイケメンを応援してちょうだい!』
バックにいる嵐 一人(
gb1968)のミカガミが由稀の声と共にエアギターで動きだす。
白をベースに赤と黒のラインカラーで彩られたミカガミがイントロにあわせてエアギターを弾く。
『決意表明? そいつはこの曲に叩き込んだ! この曲が、俺の決意表明だ!!』
カズトの声がミカガミがら放たれると、胴体部が開き超機械「ST−505」を持ったAU−KVが飛び出した。
―Get the future!― 作詞・作曲:カズト
♪〜〜
信じる明日があるのなら
躊躇う暇は無いはずさ
どんな壁でも撃ち抜いて駆けろ!
未来 その手で奪い返す 瞬間まで
吹きすさぶ嵐
降り注ぐ悪意
迫り来る脅威の群れ
奴らが哂う「世界は終わりだ」
叩き返せその嘲笑
〜〜♪
さびに入ろうとしたとき、カズトはAU−KVを脱ぎ捨て、生身でスタンドマイクの前に立つ。
二段階におけるパフォーマンスに自然と口笛がと歓声が飛んできた。
♪〜〜
振りかざせ勇気の剣
研ぎ澄ませ希望の弾丸
絆という翼で 空を大地を奔りぬけろ
諦めの影も振り捨てて
信じる限り Get the future!
陽はまた昇るのさ
〜〜♪
ギュィーンとギターをかき鳴らしてカズトがフィニッシュを決めると拍手が送られる。
観客の興奮が冷めやまぬままに、次の曲へとステージは移っていく。
『3曲目はカンパネラの学園アイドルを目指するみちゃんよ。チョコレートのポスターをやったりCDも出したりとがんばってる期待の新人よ』
由稀が天戸 るみ(
gb2004)を紹介すると、バックで照明や煙幕をだしていや翔幻からるみがAU−KVをはずした姿で飛び出してくる。
『はじめまして、天戸るみです。そして、もしアルバム『For You』を聴いてくださった方がいらっしゃったらお久しぶりですっ。ライヴでは生で歌うのは初めてですけれど応援よろしくお願いしま〜す!』
基調に黄色のアクセントを加えたワンピース、ロング手袋とハイソックスにやや厚底のブーツ姿のるみが元気に頭を下げるとイントロが始まる。
カズトのギター演奏によるロックが流れると軍人達が沸いた。
―悠久ノ翼― 作詞・作曲 天戸るみ
♪〜〜
紙に綴ったやさしい願い 飛行機にして飛ばした
風になって飛ぶ言葉は 青に溶けて消えた
私の背には翼なんてついてはいないのだから
ただひたすらに一途に願い 紙飛行機飛ばした
届くかなんて解らない 確率の問題じゃないんだから
だけど100% 描いたこの夢だけはホンモノだから
空遠く羽ばたいて煌く未来を見に行こう
胸に抱くこの想い きっと私の翼になる
太陽目指して飛ぶ鳥は決して愚かな訳じゃない
夢抱いたその想い それは一つの勇気
信じてさあ Fly away.
どこまでだって飛んで行ける Eternal wing
〜〜♪
るみの歌には頑張っている軍人達に少しでも元気を与えたいという思いが詰まっている。
ロシアでは少し寒い格好かもしれないが、それでもるみの気持ちと楽しもうとする軍人達の熱気が寒さを吹き飛ばしているように思えた。
白に近い衣装のるみが一礼して下がるとスモークとなった煙幕銃が撃たれ、煙がはれると対照的な黒い衣装のテトがステージ立っている。
『お次は今回IMPに加入するテトちゃん。勝気でガンガンいく子よ。ちょっと口が悪いかもしれないけど、それも愛嬌ということでよろしく!』
『今、人類は負けられない戦の中にある。しかし、そこに不安などありはしない!』
自己紹介をするかと思いきや、テトはマイクを片手に大きく声を出した。
『何せ、ここにはあんた達がいる。俺達もいる。共に一丸となって戦えば、勝てぬ戦などありはしない!』
演説のように話し出すテトに煽られ、オーという声が一部から帰ってくる。
『いつでも全力だ! 全力で戦い! 全力で楽しめ! いくぜ、皆!』
オーと右手を上げた歓声が上がればそのままカズトのロックテイストの演奏が続いた。
―STORM RIDERS― 作詞・作曲:テト
♪〜〜
曇天満ちる空の下 不安と恐怖が渦巻く中で
風が強く吹き荒ぶ それら全てを消し去る為に
風を呼ぶのは「彼等」の御業
「彼等」は嵐の乗り手だった
「彼等」が腕を一薙ぎすれば
風は忽ち、嵐となった
STORM RIDERS
風花散らし 舞い上がる
高く雄雄しく 自由気侭に
They are soldiers
ノズルという名の蹄を鳴らし
自由たる空を駆けていけ
いつまでも どこまでも!
〜〜♪
テトの小さい体から溢れんばかりの思いが格納庫一帯に広がり、軍人達に興奮と力を与える。
テトはアイドルとしてのデビューを華々しく飾ったのだった。
●裏方業
「完全に全部手作業ってのも大変ね。マネージャーは良くやってるわ」
由稀はリハーサルをしきって、タイムテーブルを決めてMCで紹介してと忙しく立ち回っている。
『もうすぐヴェロニクさんとソフィリアさんなの‥‥』
歌い終わった後はKVに乗り込んで演出に務めている朔から由稀に声がかかった。
「時間がちょっと厳しいですね。由稀さんまでは入らないかもしれません」
ステージのテトを見ながら、美月姫が時間を計りつつ由稀に顔を向ける。
「あたしはいいわよ。それよりも締めは美月姫ちゃんになるんだから、しっかりとね」
由稀は美月姫にサムズアップをした。
ステージ上のテトが歌い終わろうとしているの確認すると、由稀がマイクをもち鏡で笑顔の確認をするとステージへと進む。
ラストスパートに向けて後一踏ん張りだ。
●伝わる思い
『続いてはSOFFY&ViViの美少女デュオの登場よ。二人のロシア語の歌をたっぷり聞いてちょうだい』
由稀の熱いMCにワンピースにマフラーを巻いたソフィリアとドレスにコート姿のヴェロニクがそろってステージに上がる。
『皆様初めまして、愛する人を守るため、そして明るい未来があると信じて歌い、戦いますわ!』
『ソフィリア様に負けないようがんばらさせて頂きます』
和楽器でメロディラインを組んでいるオリエンタルな雰囲気のスローテンポなリズムが流れた。
―戦友〜Товарищи〜― 作詞・作曲:SOFFY
♪〜〜
ヴェロニク『
きっと見つかる未来の道が
苦難の道も乗り越えて
遥か先まで続くとも
諦めずに共に戦おう
』
ソフィリア『
Безусловно найти путь в будущее
Он победил на каменистой дороге
Дальний и будет продолжаться до тех пор пока на
Бой вместе без выезда
』
ヴェロニク『
私とあなたが目指すもの
愛する人の笑顔と幸せ
今は辛くて悲しいけれど
きっと届くこの思い
』
ソフィリア『
Я просто хочу чтобы вы и
Счастливая улыбка близкого человека
Сегодня это печальное и трудно но
Я хотел бы получить эту
』
〜〜♪
二人は交互にパートを歌い分けつつもステージで簡単に振りをつけ、二人が左右対象にポーズを合わせる。
普段は背の低さがコンプレックスを感じているヴェロニクだったが、背丈がほぼ同じソフィリアと共に歌うことで気にならなくなっていた。
スローテンポな間奏を終えるとデュオパートが始まる。
♪〜〜
『
明日があると信じよう
Я куплю завтра
ここにいる戦友と一緒に
Вместе с товарищами которые здесь
』
〜〜♪
ロシア語を織り交ぜた歌詞に、繰り返しパートではいつしか客席からも歌が返ってきた。
一体感を感じた二人はそろってお辞儀をすると、ステージを後にする。
『はーい、ロシア語を良く勉強したと思うわ。あたし自身びっくりよ。ラストはモデルで人と仕事をしていたという美月姫ちゃん。締めはしっとりバラードで決めてもらうわよ』
由稀がラストスパートに向けてのパフォーマンスを織り交ぜると、ソフィリアのスカイスクレイパーのライトをセに受けた美月姫がステージに現れた。
『大和美月姫です。私たちも皆さんと共にいます。些細な事でも皆さんをバックアップします。だから負けないで下さい。そして、次はこれを凱旋ライブにしましょう』
衣装は今回手に入らずブレザーにワッチキャップという姿ではあったが、美月姫は普段どおりに歌い始める。
―思い、抱きしめて― 作詞・作曲:大和・美月姫
♪〜〜
絶望から旅立ちをきめたあの日
私たち前にはただ 永い道が続いていたね
伝えたい気持ち程 言葉にならない
何も言えないまま 本当はいつも不安で
明日がもしも 判ってしまえれば
人は希望を持つ事もなく 生きるのでしょうか
悲しみを抱きしめて
愛しさを抱きしめて
あなたへの思いで 世界を埋め尽くしたい
優しさを抱きしめて
慈しみを抱きしめて
約束の大地で あなたに会いたい
〜〜♪
バラード調の芯の強い曲を歌いぬくと美月姫はマイクを握ったまま軍人達を見渡して微笑んだ。
『私たちは皆さんと同じ戦場にいます。見かけたのならいつでも声を掛けて下さいね』
英語で話される言葉に拍手が送られる。
『ライヴ楽しんでくれた? 今は苦しいけど、ここで勝てれば希望が大きくなるわ。その希望をもっとでかくして‥‥』
由稀が拍手の中、合図をKVにのった仲間に送りながら思いを告げた。
『『最後に勝つのはあたし達!』』
メンバーの出身国の言葉による決意がソニックフォンブラスターを通して響く。
その後、ソフィリアによるボルシチが配られライヴは終わったのだった。