タイトル:【V1GP】サルベージャーマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 22 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/15 00:31

●オープニング本文


「ったく、なんでブッキングしてんだよ‥‥」
 メルス・メス社のメカニック、ゴンザレス・タシロは頭を抱えた。
 V1グランプリの開催権をドロームから奪えたのだが、大規模作戦とかち合っているのである。
 興行としてV1グランプリと呼ばれるKVを使った傭兵達の戦いは人気だった。
 しかし、KVを大規模作戦でなく勝負事でつかうとなるとUPC上層部は許可をださないだろう。
「ドローム社が素直に引き下がったのってこういうわけなんでやんすかね?」
「うるせぇ、何とかごまかしつつ見世物としてV1をやらにゃあ折角の前売り券がパーになる」
 寝癖の付いた頭をぐしぐしとかいたゴンザレスはすでに観客へ売り払ったチケットの半券をみて唸った。
「水中戦でやんしたね。そういや、サルベージするって話どうなったんでやんすか?」
 三下口調の少女、マローネ・ドランツがゴンザレスに食いつく。
「そ れ だ! 公務としてKVのサルベージ、まだ使えるのもあるはずだからやっこさんとしても承認してくれるはずだぜ。場所は‥‥バミューダだな」
「マジでいってるでやんすか? あの辺はアスレードがでてきたりして治安悪いって話でやんすよ?」
「だから、通常ではサルベージできねぇんだろうがよ。軍のものを引き上げて格安でレストアしてやりゃぁ向こうで文句はいわねぇだろうよ実況中継をやって観客はテレビで見てもらう形でやれば問題もねぇだろうよ」
 ニヤリとゴンザレスは笑い、UPC軍に申請するための書類を用意し始めた。
 ワル知恵を働かせているときのゴンザレスは子供のようだとマローネは日々思っている。
「おい、てめぇもぼさっとしていないで傭兵用の案内状を用意しやがれっ!」
「りょ、了解でヤンス!」
 思わず背筋を伸ばして敬礼をすると、マローネはそのまま自分のデスクへと駆け出した。

●お知らせ
 
 〜サルベージ依頼〜
 
 来る3月30日、バミューダ海域西部、イスパニョーラ島周囲において
 沈んだKVや戦闘機、戦艦などのサルベージを行います
 
 水中用KVを使用、無い方でも水中用キットをレンタルいたしますので是非、協力を願います
 作戦コードは『V1GP−6th』です
 
 水中用キメラ、ワームの妨害も考えられますので装備についてはご注意を‥‥

 

●参加者一覧

/ 花=シルエイト(ga0053) / 鏑木 硯(ga0280) / 鯨井昼寝(ga0488) / 水理 和奏(ga1500) / ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634) / 如月・由梨(ga1805) / ゴールドラッシュ(ga3170) / 緋霧 絢(ga3668) / 遠石 一千風(ga3970) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / 高坂聖(ga4517) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 竜王 まり絵(ga5231) / 古河 甚五郎(ga6412) / 百地・悠季(ga8270) / 龍深城・我斬(ga8283) / 白虎(ga9191) / 美環 響(gb2863) / 直江 夢理(gb3361) / ソフィリア・エクセル(gb4220) / 上杉 怜央(gb5468) / 美環 玲(gb5471

●リプレイ本文

●裏方屋
「おい、何だこいつぁ。話に聞いてねぇぞ?」
「特設ステージですわ♪ 表彰式などにステージが必要ですもの」
 海岸を歩いているゴンザレス・タシロのボヤキにソフィリア・エクセル(gb4220)が10秒チャージの笑顔を見せる。
「ばぁろぅ、場所を考えやがれ。あくまでもUPCににゃただのサルベージってことになってんだ。ド派手にステージを開くわけにゃいかんだろうがよ」
 ソフィリアの笑顔を気にせずゴンザレスはスリッパでもってソフィリアの頭を叩いた。
「申し訳ありません。新人で張り切っているようですので‥‥。申し送れましたこの度司会進行をさせていただくIMPのAyaとSOFFYです」
 緋霧 絢(ga3668)はソフィリアを擁護するようにゴンザレスへ挨拶をする。
「ああ、最近ラスト・ホープでも人気らしいな? うちの娘もファンだから良く知ってるぜ」
「これからも宜しくお願いいたします」
 ツナギで拭いた太いゴンザレスの手と白い絢の手が重なった。
「それじゃあ、このステージはそのまま救護班用のものとして流用させてもらっていいでしょうか?」
 そろって現れた古河 甚五郎(ga6412)がソフィリアが用意していたスペースを眺めてはゴンザレスに聞き出す。
『依頼主の方ですね? すみませんが水中用キットのレンタルと取り付けをお願いしたいのですがいいでしょうか?』
 ゴンザレスが答えようとしたとき、傍に逆噴射をしつつウーフーが降り立ち、中から竜王 まり絵(ga5231)の声が聞こえる。
「ああ、そうしてくれ。その方がまだ誤魔化せる。水中用キットを借りたい奴はこっから東の方にある海岸にいってくれぇ。メルスの社章が目印だ」
 古河とまり絵に答え、大声で手を振って指示をだした。
「ちょっと、スケジュールについて聞きたいんだけど‥‥」
 慌しい裏方陣営のやり取り中、ビーチサンダルにセパレートタイプの水着、ココナッツハットで日差しを隠した女性が姿を見せる。
「おいおい、ギャラリーはまだ立ち入り禁止だぜ?」
「やーね、これでも傭兵で裏方希望なのよ。サルベージが円滑に行えるようにキメラやワームを退治にシベリア奥地から来たのよ? もう少し敬ってちょうだいね」
 ココナッツハットを軽くあげ、百地・悠季(ga8270)はゴンザレスに向かって不敵に笑うのだった。
 
●嵐の前の静けさ
『深度Bラインには敵機は見当たりません。そのまま早期確保してください‥‥』
「了解です。一気に深く進んだのは正解かもしれませんね」
 浅瀬にいる【CDL】の上杉 怜央(gb5468)からの通信を受け、クラーク・エアハルト(ga4961)はそれでも警戒を抜かずに深海に沈むコケやフジツボのついたKVを眺める。
 バグアとの戦いの果てに倒され、沈んだ巨人がベッドでゆっくり寝ているようにも見えた。
 クラークのビーストソウルは人型に変形し、肩を貸すようにしてKVを一度持ち上げると抱え込むようにして変形し、運び出す。
『遅れてごめんなさいっ、夢理ちゃんがちょっと出遅れちゃってたから‥‥』
『申し訳ございません。KF−14の対応深度以上なので‥‥』
 クラークが一機目を運び出していると、水理 和奏(ga1500)のビーストソウルと直江 夢理(gb3361)のKF−14改が回収をしに同じ深度へと姿を見せた。
「ライバルもいないようなのでゆっくりでいいですよ。問題は帰り道です。妨害にあわないことを祈りたいところですが‥‥」
 コックピットの中でクラークはセンサーを確認しながら答える。
 だが、何事もないとははっきりといえなかった‥‥これはただのサルベージではなく、勝負なのだ。
 
●三つ巴
「クラークさんとは今日こそ決着をつけるのにゃ〜。がーくんはそのためにもがんばって欲しいにゃ」
『ちゃんと仕事するから、そっちもちゃんと回収してくれ』
 ビーストソウルで悠々自適に動くのは【チーム龍虎】の白虎(ga9191)と龍深城・我斬(ga8283)だ。
 2人が目の前の壊れたKVの腕や足を持ち出していると、【アクアリウム】のジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)のテンタクルスが試作ガウスガンを二人に向けている。
「が、がーくん?」
 不安になった白虎が我斬にアドバイスを求めようとするが、我斬は平然と作業を続けた。
『やる気があったらとっくに撃ちあいになってるさ。後ろを向かずに陸地へいこう』
「そ、そーだね? うん、がんばろう」
 心強い味方がいてくれることに安心した白虎はそのまま空スロットへパーツを減り込ませると水面へと上昇を始める。
『先を越されてしまったようですね』
『しかたありません‥‥余っているパーツを回収しましょう‥‥ビーストソウルがこんなところで役に立つとは思いませんでしたね』
 一足遅れて深度Cラインに到着した【チーム狼さん】の如月・由梨(ga1805)、宗太郎=シルエイト(ga4261)がレーダーに映る反応をみて拾っていった。
 同深度から上昇していくのをジュエルは見送ったあと、通信機をONにする。
『いっちー、手が空いているならこっちにきてくれ。先を越されて全部持ってかれそうだ。あと深度Bラインへ早速沈んでいるヤツラもいたから軍艦の確保が必要かもしれないぜ?』
『‥‥了解。軍艦の確保についても隊長に伝えておく』
 いっちーと呼ばれた遠石 一千風(ga3970)は事務的に答えて通信をきるのだった。

●浅瀬の戦い
「なぱーむバニーは今日もいないかぁ‥‥元気かなぁ‥‥」
『花さん他のチームが回収に動いていますから、こちらも取りましょう』
 ライバルと思っている軍人の姿をぼーっと考えていた【チーム狼さん】の月森 花(ga0053)を同じチームの高坂聖(ga4517)の声が現実へと引き戻す。
「あ、ごめん。戦争やっているのはボク達だから片付けもしないとね」
 ウーフーの機動チェックを確認しなおし、花はレーダーに映る光点を目指して進んだ。
『悪いけど、良いものはこっちが頂くよ』
『せっかく勝ちに行くなら気持ち良く勝ちたいものですからね』
 鯨井昼寝(ga0488)と鏑木 硯(ga0280)のKF−14改が花の横から前へと出て進路を塞いで進んでいく。
 しかし、水中用キットをつけて無理やり対応させているウーフーでは【アクアリウム】の水中機とは機動力に差がでていた。
「うーん、やっぱり水中KVには劣るかぁ‥‥」
 すでに見えなくなった2機をみて花が呟いていると聖から通信が入ってくる。
『追い抜かれてもレーダーを察知しているのはこちらです。最短コースをとっていきましょう』
 チーム戦が初という聖だが、岩龍を扱いなれているだけはあり敵味方の位置確認から残骸の配置や地形などを瞬時に処理してコースを選定し花へと伝えていった。
「戦闘機の残骸確保。あ、そろそろ宗太郎君も戻ってくるね?」
 残骸を拾いあげた花は空きスロットへ詰め込むと仲間の信号が上昇してくるのをレーダーで確認し、護衛に向かう。
 一方、まったりとパーツを拾いだしているのは美環 玲(gb5471)と美環 響(gb2863)の二人だ。
 性別が違う以外は口調から姿までそっくりな二人は息のあった動きで手探りながらもサルベージを続ける。
「今日の占いではラッキーカラーが金ということで、金と銀の刺繍を施したドレスを着用しています」
『実にお似合いですよ。ラッキーからを身に着けているのなら優勝も夢ではないですね』
 一人二役でもしているかのようなやりとりが玲のコックピット内で広がった。
 だが、それもつかの間、レーダーに動くものが映る。
「招かざる客人の登場のようですね。ダンスの準備はいいですか? 響さん」
『もちろんですよ、行きましょうか。Shall we dance?』
 玲のS−01と響のバイパーは海上に背びれを出して迫るものに対してバルカンによる攻撃をしかけるのだった。

●中間報告
『はーい、これより中間報告を行います。ここから先は水中撮影も行っていきますから誤爆したらお仕置きですわよ』
 事前の混乱も何その、用意されたステージでソフィリアがIMPの曲をBGMで流しつつ司会をする。
 IMPの曲は無承諾だったのだが、裏で絢が根回しをしてくれたお陰で表面上はスムーズに進んでいた。
 アイドルという称号は免罪符ではない。
 先輩方が積み上げてきた実績があるからこそ多少の無茶ができるようになってきただけであり、好き勝手やっていいということではないのだ。
 まだまだ新人のソフィリアがそういったことを学ぶのは先であろう。
『現在はシャスール・ド・リスが壊れたKVを4つ回収しているため一歩リードしています。しかし、アクアリウムも沈没船を2つ、戦闘機の残骸を2つ、戦艦の破片を2つと追いかけています』
 ソフィリアの横でホワイトボードに記入をしながら、黒をベースに装飾に赤を施したハイレグワンピースの絢が解説を続けた。
『まだまだ、最深部のパーツは回収されていませんので逆転は可能です。皆さんがんばりましょう』
 絢がハイレグより伸びている生足を軽く組むと太股に印字されたIMPのロゴが目立つ。
『それでは、後半戦に行く前に一曲SOFFYの歌を聞いてくださるとうれしいですわ』
 絢の説明が終わると共にソフィリアがステージの中央に立つとイントロに和楽器を取り入れたメロディが流れ始めた。

 ―祝福― 作詞・作曲 SOFFY

 ♪〜〜

 手と手を結び
 共に歩く幸せな刻

 一人で悩むことはない
 ささえあい
 笑いあい
 ずっと一緒だから

 二人の幸せ
 それはみんなの幸せ

 ここから始まる
 新たな歴史
 そっと届ける I Love You♪

 〜〜♪

●ご退場願いたい
『水中撮影するにしてもある程度排除しないと大変ですよね。一応の最悪を想定した注意はしておきましたけど』
 動けて潜れる深度Cラインに置いて古河は競技海域へ近づけないようマンタワームと戦闘をしながら通信を送る。
「お願いいたしますわ。こちらも散発的ではありますが、野良キメラの数が増えてきていますわ」
 まり絵が答えつつ高分子レーザークローでサメキメラを真っ二つにした。
『キメラじゃなくて大きい獲物いくわよ』
 悠季が試作型水中用ガウスガンにて攻撃を与えつつ、メガロワームを引き寄せてくる。
「本当に大きい獲物ですわね‥‥倒し甲斐があるというものですわ」
 メガロワームと呼ばれる獰猛なサメのようなワームがフォースフィールドを目の前に張り出しつつ突撃をかましてきた。
 まり絵のウーフーは両手で突撃を食い止めると、開いた口の中へ魚雷を二発撃ち込む。
『もう、水中だと移動力が足らなくてこまるわ‥‥水中用機買おうかしら』
 突撃してレーザークローを放とうと思った悠季らしいが、間に合いそうもなくガウスガンで攻撃し続けメガロワームを沈黙させた。
「早く、全部引上げて終われればよいのですけれど‥‥」
『すみません、ちょっとピンチでいやんな感じです。今から浮上しますのでお手伝い頼みます』
 激しい戦闘に少しため息をつくまり絵だったが、休む間もなく古河から冗談地味たヘルプが飛んでくる。
『でも、退屈するよりはいいわ。動くのが大変だから近い場所へ案内してよね』
『ワガママなんですから‥‥でも、そういうところがモテルんでしょうね』
 悠季からの注文をジョークを交えて返すと古河のKVは敵を引き連れながら悠季やまり絵の元へと浮上してくるのだった。
 
●世界の違い
「ちっ、やっぱり慣れないときついぜっ、くそ」
 【チーム龍虎】の山戸・沖那(gz0217)は陸地から近い場所にある壊れたKVを【チーム狼さん】に先をこされて地団太を踏む。
『悔しがっていても仕方ないわよ。ほら、もう一つ壊れたKVはあるんだからそっちを回収しにいくわよ』
 同じチームであり、沖那をV1に借り出した張本人であるレオノーラ・ハンビー(gz0067)のウーフーが沖那のR−01の肩を叩いて促がした。
「わかってるよ。戦闘機の残骸を回収した次は壊れたKVかよ‥‥京都の外じゃこんなに激しい戦闘があったんだな」
 回収した残骸を見て沖那は自分の視野の狭さを感じている。
『黄昏てないで、仕事するわよ。仕事‥‥こういう雑用も傭兵の仕事なのよ』
 【チーム狼さん】から離れるようにしてレオノーラと共に沖那は海中を進んだ。
「了解‥‥。っと、うぉぅ!?」
 ゆっくりと移動していると、まり絵たちの警戒網を抜けてきたのか海蛇のようなキメラが沖那のR−01へ突撃をかけてくる。
 タックルを受けたR−01が海中に倒れこみ、それをウーフーが支えた。
『ちょっと、何やっているのよ!?』
「悪い、動きが鈍くて‥‥」
 レオノーラが沖那をしかっていると、二人まとめて海蛇のようなキメラが締め付けだす。
『ごめ〜ん、わざとじゃないよホントダヨ』
 二人を締め付けている海蛇キメラにフジツボの付いた岩がぶつかり砕け散った。
『動きが止まっていると思ったら、キメラにてこずっていたのか。さっさと潰して大物確保をしよう』
 岩が飛んできた方向を見れば、白虎と我斬が援護に姿を見せる。
「ありがとよ‥‥ここでもまた戦友ができそうだぜ」
 沖那は助けられたことに感謝をしつつも、頼もしい二人の姿を嬉しく思うのだった。

●横取りタンカー
「まぁ、重そうですね? 半分ちょろまか‥‥いえ、運んであげますよ」
 由梨は目の前で半分に割られたタンカーをつかむとずるずると引きずり始める。
『運んでやるから、遠慮するなよ!』
 宗太郎機も由梨が引きずるタンカーをアンカーテイルで固定をすると浮上させようと持ち上げ始めた。
『そんな‥‥これは僕達のものだよ』
『はい、すんなり渡すわけにはいきません‥‥敬愛する伯爵様にかけて!』
 夢理のKVに描かれているKVペイントのカプロイア伯爵の笑顔がかすかな光の反射で動いて見える。
 KF−14の初の航海でもあり、対応深度以上の戦いだが全力をもって夢理は仲間と共に戦うことを決めていた。
 【チーム狼さん】である2機を【CDL】のわかなと夢理がガウスガンにて攻撃し、クラークが割ったタンカーを奪われないようにする。
 クラークと共にわかなと夢理はタンカーを3人で運び上げながらの対処だ。
「こちらは武装がありませんというのにやってくれますね‥‥」
 ガウスガンによる攻撃を受けながらも、ブーストを使い由梨は宗太郎と共に逃げの方向に向かう。
『由梨さん、一旦エンジン停止してください。アレを使います』
「わかりました。すぐに終わらせてくださいね」
 宗太郎からかけられた言葉に由梨は小さく微笑み、一度KVを停止させた。
 深海を照らすための明かりが消えて、由梨の機体が動きを止める。
『やったのかな?』
 攻撃を受けて機能停止したのかと思ったわかなが、攻撃の手を止める。
 夢理もわかなにあわせてガウスガンを下げたとき、潜行形態の宗太郎機か3発ミサイルがわかな達に向けて飛んでくる。
 熱源感知型ホーミングミサイルを撃つために、技と熱を抑えわかな達を狙うようにしたのである。
『今のうちに逃げましょう』
「ええ、それでは‥‥ごきげんよう」
 わかな達がミサイルを避けようと動いている間に由梨はKVを再起動させて上昇していった。
『ああ、半分とられちゃった‥‥』
『わかなさん達が無事であることの方が大事ですよ。半分でもいいですから引上げていきましょう。どうやらワームとかも増えているようです。遭遇しやすいですからその対処をお願いします』
 【チーム狼さん】の行方を見守った【CDL】の3人はなるべく敵チームを避けつつ引上げに入る。
(「何でだろう、クラークさんが一生懸命がんばっているのに悲しい気分になってきちゃう」)
 淡々ともいえる作業の中、わかなは一人コックピットの中で考えた。
 いつもなら元気に振舞えるはずなのに、どうしても元気がでない。
(「もしかしたら、クラークさんの恋が原因なのかな? もし、人生の歯車が少しでも変わったら‥‥僕はクラークさんと恋人になっていたのかな?」)
 静かな海の中で取り留めない考えが浮かびそして消えていった。
『水理さん、動きが止まっていますが何か異常でもありますか?』
 上杉の心配げな声がわかなの耳に届く。
「ううん、大丈夫だよ! ぐずぐずしていられないよね!」
 上杉に向けてわかなは空元気に答えるのだった。

●敵を振り払って
「いっちーに手を出すなっての! なんか敵が増えてきている気がするぜ」
 ジュエルが海蛇キメラを高分子レーザークローで斬り裂くと、後方にいる遠石は戦闘機の残骸を回収する。
『元々ここはそう安全地域でもないようですからね‥‥因果な試合です』
 遠石が遠くに見える陸地に向かって機体を進めると、その様子を絢のKF−14が水中用カメラを向けて撮影をしていた。
 ジュエルがそれを見つけ、遠石の退路を確保するようにやってきた海蛇キメラを攻撃する。
「カメラマンも気をつけないと被害受けるぜ?」
『問題ありません。自衛はできます』
 カメラをジュエル達に向けながらも絢は水中用太刀「氷雨」にてクラゲキメラを一刀両断した。
 陸地付近ではパーツを回収し終えた響と玲が連携訓練のために敵を倒すために再出撃する。
『深いところへいくと二次災害になるそうですし、キメラやワームの退治を進めることにしましょう』
『そうですね、もっとダンスを優雅に踊りたいものですから』
 響に言われ、玲も水中の動きにもっと慣れたいと迎撃に行くことを同意する。
 キメラやワームの数は少しずつ減少方向を見せていた。
『後残すは最深部のパーツ1つだけのようですわ。果たしてどのチームがこれを手に入れるのでしょうか! 直接私がカメラに収めてきますわね』
 陸地でMCをしていたソフィリアが控えさせていたスカイスクレイパーに乗り込み、勢いよく水中へ突撃して深海を目指す。
 しばらくして、ソフィリアが古河に回収されたのは言うまでもなかった。

●ラストスパート
「これで最後よ、こいつをこのまま引上げて見せ付けてやりましょう」
 昼寝の声に応じて、ゴールドラッシュ(ga3170)、鏑木が朽ちた戦艦の端々を持つ。
 ズゴゴゴと地鳴りする音を響かせ、戦艦の主砲や甲板などに堆積していた砂が零れ落ちた。
『ふぅ、上にあった沈没船もそうだけど、こういうのってお宝がありそうでいいわよね』
 ゴールドラッシュから舌なめずりをする音が聞こえる。
「ここまでボロボロだとあまり期待しないほうがいいわよ」
『幽霊とかの方がいそうですけど‥‥怖いんですよね‥‥そういうの』
 ゴールドラッシュとは対照的に鏑木の方から心もとない声が聞こえだした。
「幽霊もいないわよ。漫画とかの見すぎ」
 昼寝はリーダーらしく、鏑木を安心させるように声をかけ上昇と同深度の敵機に注意をする。
 一度浮き上がった戦艦は激しい戦いを乗り越えたのがはっきりわかるほどにボロボロで、張り付いたコケやフジツボが強く歴史を感じさせた。
『遅くなったな、昼寝ちゃんにすずりんにゴールドちゃん。紳士のお迎えだぜ』
 深度が一段階上がったところで、同じ【アクアリウム】の仲間が昼寝達を出迎える。
「待たせたわね。キメラとかの警戒は大丈夫?」
『この深度は大丈夫‥‥また大きなものを持ってきましたね』
 一人が戦艦の端を掴むと上昇速度が上がった。
『このまま一気に上へいきたいものね。何も邪魔がなければだけどさ』
 ゴールドラッシュからじれったいという気持ちのこもった呟きが昼寝の耳に響く。
『邪魔は確かに困りますが、キメラやワームの対応に出払っているようですね』
 鏑木も周囲を確認しているが、あえて奪いに来る敵機の姿は無いようだ。
 昼寝が上方を確認すれば、キラキラと海面が光っている。
 もうすぐ水上へと飛び出すのだ。
『ほーら、見なさい! これがアクアリウムの実力よ!』
 ブーストを一斉にかけて昼寝たちが海面へ浮上すると悠季が照明銃を放つ。
 陸地からは丁度艦橋の真上から上がるように見え、あたかも海面に上がった鯨がしおを拭くように見えるのだった。
 
●優勝‥‥そして‥‥
『優勝はチーム「シャスール・ド・リス」です。皆様拍手と共にお迎えください』
 サルベージが全て終了した後、集計を行った結果が絢から発表され、4人が壇上に上がっていく。
「優勝できるなんて夢のようです。ボクの力が少しでも貢献できていたら嬉しいです」
 サポートに徹していた上杉が思わずこぼれる涙を拭いて共に歩く仲間に笑顔を見せた。
「皆様の力を合わせた結果ですね」
 足をひっぱったと感じている夢理も上杉につられて笑い出す。
「2位のアクアリウムとは僅差だったけどな。壊れたKVを4つさっさと回収したのが功をそうしたってとこだ。盛り上がりもあったし、感謝するぜ。1位と2位には俺からの金一封つきだ」
 ゴンザレスからの拍手と共に水も滴る良い女となったソフィリアからトロフィと金一封を受け取ると、4人に向けてカメラのフラッシュが光った。
『代表より一言お願いします』
 絢がマイクをクラークに向けるとクラークは緊張した面持ちでマイクを受け取る。
『V1にはお手伝いで1回目に参加してからずっと参加していました。今回悲願の優勝を果たせて嬉しく思います‥‥ですが、一つだけ私事ではありますが言っておきたいことがあります』
 ザワザワと空気が動いた。
『自分の方は変わりません、雪山で過去のことも聞きました‥‥いろいろからかわれたりするのはちょっと気になりますが、それでも貴女となら、この先を一緒に歩んで行ってもいいと自分は思いました』
 クラークの言葉に会場が落ち着きを見せる。
 彼の表情が真剣であることと、見つめる瞳の先に一人の女性がいることを見たからだ。
『改めて言います。自分はレオノーラさんのことが好きです。自分と付き合ってこの先を一緒に歩んでくれませんか?』
 ゴクリと会場にいる全員が唾を飲み込んだ気がする。
 視線はいつしか、レオノーラに集中し動くのを待っていた。
 レオノーラの方は視線など気にしないかのように髪を掻き揚げ、一息つく。
「しょうがないわね‥‥付き合ってあげるわ。途中で逃げ出したくなっても知らないわよ?」
 そして、つかつかとステージへ進んで答えると、クラークの頬へキスをしたのだった。
 再びカメラのフラッシュが光り、5人を一つの枠へと収める。
 優勝と恋人の二つを手に入れた男の話は地元新聞をしばらく騒がせた‥‥らしい。