●リプレイ本文
●晴天のスキー教室
「つま先側とかかと側のエッジで交互に滑る‥‥って、無理無理無理無理むーりぃぃぃぃ!」
スノーボードで滑っていたメアリー・エッセンバル(
ga0194)は曲がれずに木へとキスをして倒れた。
雪国生まれだが、ウィンタースポーツはまったく慣れていない。
「頭にばかり集中しているから、動きがぎこちなくなっている。もっと力を抜いて体を動かして覚えるんだ」
講師である天(
ga9852)が綺麗なフォームで滑り降りつつメアリーへ手を貸す。
「でも、自分じゃわからなくて‥‥」
「そういうと思ってこういうものを用意してある」
天が手に持ったデジカメのビデオ機能で再生をするとメアリーの慌てふたいてぶつかるシーンまでが流れた。
「自分で自分を客観的に見るってわかりやすいね。うんうん、なんとなく悪い部分が見えてきたかも」
「後は練習あるのみですよ。がんばりましょう、義姉さん」
映像を見ているメアリーの下へ義理の妹であるハンナ・ルーベンス(
ga5138)がスキーウェアとクロスカントリー用のスキー板という出で立ちで滑り降りてくる。
借り物ではなく、年季の入ったモノだった。
「天ちゃんせんせぇ〜助けてぇ」
「ちょっと!? こっち着たらあぶなっ!?」
「個人指導をする時間も無いか‥‥」
天はメアリーの指導をハンナに預け、助けを求めるナレイン・フェルド(
ga0506)と巻き込まれたルーイ(
gb4716)の救助へと向かう。
「大人気ですね。私も教えてもらるんでしょうか?」
海自出身で水泳などは得意な里見・さやか(
ga0153)だったが、スキーは初めてなので教えてもらおうと参加していた。
「天お父さんほど上手くはないですが、俺も滑れますから教えますよ」
忙しい天を気遣ってか、アーサー・L・ミスリル(
gb4072)や紫藤 文(
ga9763)が指導にも回っている。
「モテスキルのために10代の頃必死になって覚えたスノボ技術がこんなところで役に立つなんて‥‥人生わからないもんだ」
「両足が固定されててちょっと怖いかも‥‥」
文に倒れ方から教わっているのはHERMIT(
gb1725)だ。
来年のために今年しっかり覚えたいとのことである。
「アーサーさん、あたしの滑り方どうかな? 変なとこない?」
「大丈夫、教えなくてもいいくらい決まってるよ」
志烏 都色(
gb2027)がアーサーに向けてザザッと滑りを見せると、アーサーは胸の高鳴りを感じながらも褒めるのだった。
●Wintter Redio
『皆様こんにちわ♪ 本日パーソナリティーを務めさせていただきます、ソフィリア☆です♪ 後から特別ゲストも登場しますのでお楽しみに♪』
ソフィリア・エクセル(
gb4220)は常設されている放送ブースにてラジオ番組のようなノリでマイクに向かって語り始める。
スキーのような運動は苦手なため、インストラクターとして雪崩情報などを放送しようという考えだった。
『本日は晴れ、そのためリフトが混雑しているようですのでお気をつけください。夕方からは天気が悪くなるとの予報もありますのでナイトスキーをされる方はご注意ください』
以前、アイドルイベントにてコーラスを行ってから自信がついたのかマイクに向かって話すテンポは非常に軽い。
『一曲目はIMPの最新曲『Gratitude』からお送りします』
曲が流れ出すとブースの前にはソフィリアの友人でもある朧 幸乃(
ga3078)が丁度スノーボードを置きにきていた。
ガラス窓の向こうから軽く手を振る朧に対して、ソフィリアも手を振りかえす。
「やっほー。なんか聞いた曲を流していたから覗きに着ちゃった」
「途中で見かけたからついでに来て貰ったわよ」
曲を流して一息ついているソフィリアの下に関西圏では有名なアイドルである葵 コハル(
ga3897)と特別ゲストとしてよんでいたレオノーラ・ハンビー(gz0067)がブースの中へとはいってきた。
『静かなバラードがとてもいい曲でしたね。それでは、ゲストの紹介をします。IMPのコハルさんとレオノーラさんです』
ソフィリアが拍手で二人を出迎えていると、ブースのガラス窓の方にはぽつぽつと人だかりができ始めている。
その中にはスキーをひと段落させてきたリリィ・スノー(
gb2996)の姿もあった。
『やっぱり、有名人がくるとすごいですわ。そんな先輩に対してお耳汚しかもしれませんが、私の曲を流させていただきます』
ガラス窓の前に集まり人だかりを見て感動をするソフィリアはここがチャンスと自分の作詞曲をチョイスする。
アップテンポでありながらも和楽器でメロディラインを組んだオリエンタルな雰囲気の強い曲だった。
―HI☆NA― 作詞・作曲 SOFFY
♪〜〜
並べ♪ 着飾れ♪ 舞い踊れ♪
優雅な宴のはじまりよ♪
今日の主役は誰かしら?
あなたのハート☆を射止めます♪
女の子には大切な♪
とってもとっても素敵な日♪
ついでにオシャレもしちゃいましょ♪
気分はこれでMEBINASAMA♪
甘い甘いひなあられ♪
お菓子の細工もOKよ♪
甘酒おひとつどうかしら?
あなたと一緒に過しましょ♪
並べ♪ 着飾れ♪ 舞い踊れ♪
優雅な宴のはじまりよ♪
OBINAの隣は誰のもの?
あなたのハート☆を掴みます♪
〜〜♪
『凝ってる曲だね〜。今のあたし達にはないタイプかも?』
『現役アイドルのお墨付きが取れてよかったわね』
曲の感想をコハルが述べたりしながら、ラジオ放送は続いていく‥‥。
●個人指導ズ
少し上がった斜面ではペアが何組か個人指導で練習をしていた。
「やはり指導者がいいと覚えが早いな。感謝だ、クラリー」
「まさかヒョウエがスキーをやったことがないとは思いませんでしたけど。ハンディを付けますから競争しません?」
婚約者である榊兵衛(
ga0388)からスキー講師への感謝の言葉を受け、クラリッサ・メディスン(
ga0853)は微笑を返す。
ある程度練習すると二人はそのまま競争をしに上へと上がっていった。
「わ、わ、わ‥‥と、止まれません‥‥!」
如月・由梨(
ga1805)が転ぶとと終夜・無月(
ga3084)が手を差し伸べて救いだす。
「大丈夫‥‥ですか? 上手くなってきてますよ」
いろいろな戦いを乗り越えてきた歴戦の傭兵もなれないスポーツは苦手のようだ。それでも好きな人と一緒に過ごせる時間がとても楽しいと由梨は感じていた。
無月のほうは耳あてにサングラスを装備してとてもよく決まっている。
「ご迷惑をおかけしてすみません」
由梨は無月の手を強く握って立ち上がると、再び滑りの練習を続けた。
「年頭の旅行の成果はどう?」
「中々だ‥‥俺も早く追いつかないとな。二人で滑る時間が欲しい」
百地・悠季(
ga8270)は恋人のアルヴァイム(
ga5051)に声をかける。
ここ最近心配をかけていたこともあり、元気な姿を見せたかったのが理由だ。
アルヴァイムの方も青いスキーウェアにサングラスと通り名でもある”黒子”とは結びつかない姿で悠季へと答える。
「早く上達しないと逃げちゃうわよ」
「そうはいかないな、折角つかんだんだから」
白地に桜吹雪模様の替わったスキーウェアを着こんだ悠季は恋人にウィンクを飛ばしつつ下へと滑っていく。
その後ろを文句を言いながらも楽しそうにアルヴァイムは追いかけた。
「雪中行軍はなれているのですが‥‥スポーツというと難しいですね」
「習うより慣れろ。僕の動きを見たりして体で覚えてね?」
一方、クラーク・エアハルト(
ga4961)は一回り近く年の離れた水理 和奏(
ga1500)より個人指導を受けている。
学校で習ったというわかなは転び方から滑りかた止まり方など基礎から自分で再現しつつ教えていた。
熱が入っているのは兄のように慕っているクラークの恋の応援である。
「意外にスパルタですね‥‥教官と呼んだ方がいいですか?」
「そんなことはいいから練習練習! 今夜スキーに誘ってかっこいいところ見せなきゃっ!」
終始仲のいい兄妹のような雰囲気は二人は練習に励んでいた。
●雪山餅つき大会
「うん、いい出来だ」
朝一番からつくり、水で固めた上、墨汁と食紅で色づけした自作の雪像を鬼非鬼 つー(
gb0847)は満足そうに見上げる。
「これは何じゃ? まさか妾というかえ?」
隣には水色を基調としたスキーウェアをまとう平良・磨理那の姿があった。
「その通りだよ。そっくりじゃないか?」
「もっと妾は可愛いのじゃ!」
磨理那の頭を撫でだすつーにぷいと照れ隠しに顔を背けて磨理那は答える。
「お邪魔かもしれませんが、餅つきの準備できましたよ」
蓮角(
ga9810)がロッジの前に杵と臼を用意しながら声をかけてきた。
日も大分高くなり、お昼休憩にあわせて準備をしていたのである。
餅つきをしている間にも楽しんでもらおうとレーゲン・シュナイダー(
ga4458)をはじめにオリガ(
ga4562)や郷田 信一郎(
gb5079)などが雪像や小さな雪うさぎなどを飾っていった。
「ふふ‥‥やっぱり愛が溢れてますわね〜」
鮮やかなシュプールを残しながら滑り降りたロジー・ビィ(
ga1031)は2mに及ぶレグのシュテルン雪像を素直に褒める。
「俺の雪像はどうですか?」
萩野 樹(
gb4907)はレグの雪像に感化されて作り出したミニ翔幻をロジーに見せた。
「いい出来ですわよ。折角ですから、午後は一緒に滑りません? こんなにいいピコハン日和なんですもの」
ピコハンとスキーに何の関係があるだろうと一瞬考えた樹だが、遊びに誘われたことが嬉しくて素直に頷く。
「好きあり‥‥です」
「うわっ!? もう、いきなり何するんだよ。びっくりするじゃないか」
餅が幾分付きあがった頃に降りてきたライディ・王(gz0023)に向かってシーヴ・フェルセン(
ga5638)が雪球を投げつけた。
恋人との何気ないひと時を楽しんでいる様である。
「さっぱり大根おろしが一番ですよねぇ」
雪だるまを作り終えた不知火真琴(
ga7201)が付きたての餅を大根おろしでトッピングして食べだした。
「餅とお汁粉、この前もやったような‥‥」
天による初心者指導を終えた織部 ジェット(
gb3834)はデジャヴを感じながらも希望者へと振舞っていく。
「デジャヴですか? 貴重な体験をされていますね」
「後ろがつかえているから先に進んでくれ」
お汁粉を受け取った美環 響(
gb2863)がジェットと話し込もうとすると榊 紫苑(
ga8258)が後ろから会話に割り込んできた。
紫苑のいうようにいつの間にやらお汁粉待ちが列になっている。
「やっぱり、癸が居ないと落ち着かないの」
ガヤガヤと歓談の雰囲気の中、ロッジにおいてきた熊のぬいぐるみである癸を乙(
ga8272)がとりに来た。
『みんなで遊ぶのって楽しいよね』
雪像が並び、人が餅を食べつつ話し合う姿を見て癸が言葉を漏らす。
「皆で旅行は楽しいの。磨理那ちゃんに挨拶してくるの」
乙も癸の感想に答えるとパタパタと磨理那の方へと駆け出した。
●先駆け、男組
「面白いものを見せてやるよ」
「うわー、アスさんすごいです」
スノーボードでジャンプと共に宙返りをきめるアンドレアス・ラーセン(
ga6523)の姿に柚井 ソラ(
ga0187)は目を輝かせぱちぱちと拍手をして感動を表す。
「午前中に少し教えただけなのにここまで出来るとは‥‥北国生まれというのは油断なりませんね」
感動するソラの隣では叢雲(
ga2494)が悔しそうな顔を浮かべていた。
「さっさと滑りにいこうぜ? 折角ハーフパイプがあるんだからよ。おめーが焦らすのがすきなのはわかってるけどさ」
「おっと、そうでしたね。誘っておいて待たせては申し訳ないですね」
ジングルス・メル(
gb1062)に背中を小突かれ、目的を思い出した叢雲はハーフパイプの方へと向かう。
ゆるい斜面に長く続く両サイドに傾斜のある道ではスノーボーダー達が勢いをつけて傾斜を上り、トリックと呼ばれる回転技を披露しては着地して反対側の傾斜へと向かって滑っていた。
「おっ、下のほうにマコ達を発見! 俄然やる気出てきたぜ、いいぃやっほぅ!」
小さな粒にしか見えない下の方の人ごみから真琴を見つけたジグは我先にと斜面を滑ってトリックを決めて降りていく。
「ジグさんもすごいです! アスさんもできますか?」
「いや‥‥俺は‥‥」
「ダメですよ。アスはスノーボードを習いたてなんですから、小さなジャンプで格好つけるくらいで十分なんですよ? それじゃあ、先にいってますね」
ソラがジグの技に感動して、アンドレアスに純粋な期待のまなざしを向けた。
思わず言いよどむアンドレアスだったが、叢雲の捨て台詞にカチンとなる。
「馬鹿野郎、これくらい屁でもないぜ。北国生まれを舐めん‥‥なぁっ!?」
かっとなってつい叢雲を追いかけるアンドレアスだったがレベルが足らなかったようだ。
「はわゎっ!? アスさん大丈夫ですか?」
ずぼっと雪原に頭から突っ込んだアンドレアスを心配してソラが駆け寄る。
しかし、それは更なる災害への序章へと過ぎなかった。
「あー、ソラくんどいてぇぇぇー!」
「は、わぁ!?」
猛スピードで滑り降りてきたクラウディア・マリウス(
ga6559)がソラに向かってぶつかっていく。
勢いはとまらず、二人はごろごろと雪原を転がりいつしか雪玉へとなっていった。
「漫画のようなことって‥‥おきるんですね」
ソラとの激突を生暖かく見守っていたアグレアーブル(
ga0095)はそのまま転がっていく雪玉をも見守る。
「なんやの!? レティさん、止めにいこう!」
「仕方ないな‥‥まったく」
篠原 悠(
ga1826)とレティ・クリムゾン(
ga8679)は初心者教習も終えて、ひと段落といったところに出てきたトラブルにため息をつきながらも対応に出向いた。
日が傾きだし、夕暮れが訪れる本の少し前の出来事である。
●お土産いろいろ
「勝手が違うと酷く疲れるな‥‥お、誰かさんへのお土産かい?」
カウボーイハットに浴衣という微妙な組み合わせで一風呂浴びてきたザン・エフティング(
ga5141)が手荷物を抱えて宿に入ってくる奉丈・遮那(
ga0352)と風雪 時雨(
gb3678)へと声をかける。
「ええ、まぁ‥‥あの人が京都でお酒を買い込んだのも数ヶ月前でしたのでいろいろと買っていこうかと思いまして」
遮那が掲げた袋には5合瓶が6本入っていた。
リネーアからの注文があった『純米吟醸【百合の華】』と『大吟醸【今日の出会い】』を2本ずつ、そして自分が味わって選んだ『本醸造【雪の雫】』『純米【古都の姫君】』を一本ずつである。
「自分の方はちょっとしたお土産を‥‥」
時雨も少し照れつつザンへ答えた。
「酒か、雪見酒や月見酒もしたいところだな」
「旅館の方が用意してくれると思いますよ。風情のあるいいところですし、雪見酒とか飲む人は一杯いるでしょうから」
ザンが瓶を眺めると遮那はさっと後ろに隠して注意をそらせる。
「それもそうだな、もうそろそろ飯のようだから荷物を置いて汗を流してきたらどうだ? 餅つきの手伝い大変だっただろう?」
「ええ、そうさせてもらいますよ。では」
ザンはカウボーイハットを軽くかぶりなおして会釈をすると宴会場のほうへと足を向け遮那と別れるのだった。
●喧騒と青春の間
「えへへへ〜。まりなたんかわいー」
「は、離れるのじゃ〜」
「いやん、ルーイちゃんだけずるいわよぉ。私もハグするの〜。この間は本当に心配したんだから〜」
宴会が始まるとものの五分とせずウーロン茶と間違えて用意されたウーロンハイで酔っ払ったルーイが磨理那に抱きついて頬刷りをしだす。
「あたしもまぜてまぜて〜」
反対側にいたナレインと後ろに忍び寄っていたコハルも混ざり磨理那の姿が3人によって埋められた。
「お餅を食べ逃した分は鍋を楽しむぞー」
夕方、一人雪山で思いをはせていたメアリーが妙に気合を入れなおして料理に手をつける。
大規模作戦に対する不安、恋人に会えない寂しさ。
このまま何もいわないままで終わりになったらと‥‥雪の白さがメアリーの心を白く洗いざらしたまっていたものを流してくれた。
「もう、義姉さんは本当に元気なんですね。急いで食べると喉をつまらせますよ?」
義理の妹でもあるハンナは涙で腫れた姉の目を心配しながらも言葉には出さす甲斐甲斐しく世話をかってでる。
「幸乃はあまり練習に付き合えなかったな」
「あ‥‥いえ、足が固定されるのが少し怖くて‥‥。また今度教えてもらうことにします」
別のテーブルでは天や幸乃をはじめ【大樹ファミリー】と呼ばれるメンバーが固まって食事をしていた。
「そうだな機会があれば‥‥お、都色。こっちだこっち」
「ん‥‥都色さ‥‥」
初心者が多かったこともあり、個人練習時間が取れなかったことを少し悔やむ天だったが、すぐに話題を変えだす。
天の声に反応して振り向いたアーサーは固まる。
「先にお風呂行ってきちゃった。アーサーさんどうしたの?」
「あ、いや‥‥うん。すごく似合ってるなって‥‥」
「昼間と同じこといってるね? 何か今日は変だよ?」
「そ、そうかな?」
言葉につまるアーサーの隣に浴衣を着て女性らしさが強くでている都色が座り食事を始めた。
「それではここで僕の方から一つ芸を披露いたしましょう」
響が宴席に用意された舞台へと進み、手品を披露しだす。
アーサーは楽しい手品を見ながらも心は都色の浴衣姿から離れることは無かった。
●混浴の攻防
「レティさん、背中流してあげるね」
「そういいながら前に手を伸ばしてくるのはどうしてだ?」
半露天風呂にて悠とレティはスキーの疲れを癒している。
嫌がるような素振りを見せるレティだが、表情はかなり柔らかかった。
今回の旅行の誘いもレティの方からであり、悠にとってこの上ない幸せである。
「温泉温泉♪楽しいおーんせーん♪お肌がツルツールぽっかぽか〜♪」
「ささ、雪見酒ですよー。今日は雪像作りを手伝っていただき本当にありがとうございました。お陰で全機種制覇できましたよ」
「や、これはどうもありがとうございます」
湯船の中ではコハルが新曲『温泉小町(仮)』を歌いだし、レグがオリガに対して熱燗による酌をしていた。
「レグさんもノマノマいぇいですよ〜」
真琴が両手にグラスを持ちつつレグへと近づいてくる。
のぼせているのか酔っているのか真琴の顔はにへらとした笑顔を浮かべ、赤かった。
「梅酒ありがとうございま‥‥あ、じぐさーん」
半露天風呂は女性陣で陣取ることになっている。
しかし、レグが手を振る人物は男湯から衝立を乗り越えてやってきていた。
「むっ‥‥殺気ですわ」
別に殺しに来ているわけではないのだが、何かを感じ取ったロジーがシグナルミラーを輝かせジグを迎撃する。
「う、うぉぉぉーめがーめ‥‥がぁ!?」
眩しさに両手で目を覆うジグの股間へアルティメット御玉が唸りをあげた。
男にしか到底わからないだろう痛みを得たジグはそのまま落下して水しぶきを上げる。
「女の敵め‥‥次がないように今のうちで体を隠しておこうっと」
HEARMITは沈んでいったジグを一瞥すると、覚醒をして霧を発生させて体を包みだした。
「少し騒がしいですけれど、露天風呂ってやっぱりいいですよねー」
多種多様に温泉を楽しむ中、リリィは一人夜空を見上げてしっとりと楽しむ。
見上げた空の向こう、高河原に嫌な雲が見えていたがリリィはこのとき気づかなかった。
●男湯の情景
「特殊浴場全制覇と行きたかったが、隣は後回しにした方がよさそうだな」
ざっぱーんと落ちてきたジグを見ながらジェットは戦慄を覚える。
「のんびり浸かりましょうよー。クスクス」
「雪見酒は実にいいものだな」
カンパネラ学園生でもある時雨と信一郎は共に酒を飲みつつ風呂を楽しんでいた。
片や甘酒、片や日本酒という組み合わせではあるがどちらもほろ酔いでのんびりしている。
最も、信一郎にいたっては更に一回りほど上なのだが‥‥。
「いやー楽しそうですね。いい顔してますよ。ジグさん」
蓮角がジンジャエールを片手に騒動を蚊帳の外から眺めていた。
「ジグさん、大丈夫ですか?」
救急箱を取りにいっていたソラが湯船からジグを引き上げて手当てを施す。
「萩野は来なかったけど‥‥湯上りのあいつって女っぽかったよな‥‥」
ソラをじっと眺めつつアンドレアスは湯船の中から呟いた。
華奢な体、白い肌、小さな背‥‥総合すると守ってあげたい女の子の要素になるが口にはださない。
「雪玉になって転がっていましたが、大丈夫でしたか? 手早く処理できたので他の方への被害は無かったようですが‥‥」
髪を降ろして手入れをしている叢雲がソラを心配して声をかけた。
黒のストレートロングの彼もまた女に見えなくも無い。
「男だけしかいない上に、只ののんびりとした旅行のはずなのに‥‥なぜ、緊張するのだろう‥‥」
ジェットはどこか女っぽく見える男性陣に対して顔を背けながらぶくぶくと沈んでいくのだった。
●遭難レミングス
「夕方はクラークさんの邪魔をしたかな? まぁ、それはそれこれはこれだね。ああいういい女とお近づきになれるチャンスはあまり無いわけだし」
一人夕方レオノーラと共に鍋をつついたことを思い出しながら、ウォッカを片手に文はスキー場へと戻ってきた。
昼間教えてばかりだったので、自分の好きに滑る時間が少なかったからである。
「そこにいるのは紫藤さん? 偶然ですねー。良ければ一緒にすべりませんか?」
同じ考えの人間はいるようで、さやかをはじめ何人もの能力者がナイトスキーを楽しもうと訪れていた。
「ああ、いいですよ。緩やかな方へいきましょうか」
夜の星明りと照明に照らされた雪原は昼間の銀世界とは違う幻想的な雰囲気をかもし出している。
二人はそんな景色に酔いながら滑り出した。
しかし、山の天気は変わりやすく‥‥突発的な気象の変化がスキー客を襲う。
「逃げましょう、丁度あそこに洞窟があります」
突風と雪によって視界も方角もわからなくなったとき、白い景色の中に見える黒い穴を求めるのは本能のようなものだ。
文がさやかの手を引き、洞窟へと入る。
人が2人ほどが入れるくらいの小さなもので、一夜明かすには丁度良かった。
「麓に下りるのは無理ですね‥‥あ、紫藤さんウォッカをもっているじゃありませんか。雪山でお酒は気付けにいいんですよね。アルコール濃度が高いと体を温める効果もありますし」
遭難したというのにどこか楽しそうにするさやかは文からウォッカを奪い一口飲む。
「さやかさん‥‥酒弱くなかったでしたっけ?」
「んふふー、よってないれすよー。今の私は只のさやかさんではなく、抱きつきさやかさんなのれすー」
文がさやかに確認を取ろうとしたが、時すでに遅し‥‥酔っ払ったさやかに押し倒されるように抱きつかれてしまった。
「すみません、昼間のリベンジをしたかったのにこんな目にあわせてしまって‥‥」
「大丈夫‥‥由梨のせいじゃない‥‥」
一方、同じくナイトスキーを楽しんでいた無月と由梨も今は洞窟で身を寄せて吹雪が去るのをまっている。
無月が由梨を後ろから包み込むように抱きしめ、丁度もっていたエマージェンシーキットのアルコールストーブで体を温めだした。
由梨は言葉を返せない。
それは自己嫌悪ではなく、この状況に幸せを感じていたからだった。
「依頼だとライター持ってやがるですが‥‥チョコしかねぇですね。半分個して、食べるです?」
また別の洞窟では別のカップルが避難している。
不思議な偶然は起こるものらしい。
「ありがとう‥‥明日、イベントなんだけれど‥‥間に合うのかな」
シーヴからチョコを受け取り、吹雪を眺めてライディは呟いた。
「大丈夫です。ライディはシーヴが守るです」
不安げな恋人をシーヴは後ろから抱きついて安心させようとする。
「ありがとう、まずは動かずにじっとしていようか」
ライディは一度離れ、洞窟奥へ進むとシーヴを抱きかかえ直した。
ウェアの下に潜り込んでいた手編みのマフラーをシーヴの首に巻き、自分からキスをする。
「バレンタイン以来の二人っきりでやがるですね‥‥キス、今度はチョコの味です」
先ほど食べたチョコレートの味のするキスにシーヴは微笑んだ。
中々同じ時間を過ごせない二人にとって、同じときを過ごせる時間がとても愛しい。
「‥‥見事に、遭難しましたね。すみません、自分が誘わなければレオノーラさんもこんな目には‥‥」
「お決まりの台詞ね。このくらいのことは慣れているわよ‥‥。これでも戦場をいくつも跨いできた傭兵よ? もっとも、今はUPC軍の小間使いな感じね」
別の洞窟ではクラークとレオノーラが遭難にあっていた。
クラークからの告白の答えをレオノーラが保留中という微妙な関係である。
「昔の話ってあまり聞いていませんでしたね‥‥こんな状況でなんですけれど、コーヒーのお供に話し合いませんか?」
自分で用意したコーヒーを注ぎクラークはレオノーラへと手渡した。
「そうね‥‥。さっきも言ったけれど私は生まれも育ちも傭兵なのよ。いくつも戦場を渡り歩いてきたし、昨日の友が今日は敵だったという状況もこなしてきたわ」
レオノーラは黒いコーヒーを眺め、淡々と語りだす。
「ありとあらゆる武器は使ってきたし、汚い仕事もいろいろとね? 今は能力者の適正がでちゃったから昔ほど自由に動いてはいないわね」
「不謹慎かもしれませんが、いろいろと聞けて嬉しいですよ」
「知らない方がいいこともあるわよ? 少し寒いわね。風呂上りにスキーはさすがに堪えるわ」
コーヒーを飲んで微笑み出すクラークだがレオノーラの方は気丈に振舞ってはいるものの両手で体を抱き、震えだしていた。
「毛布や焚き火はないですし‥‥暖める方法は‥‥」
「これしかないわね」
近寄って抱きしめようとしたクラークの口をレオノーラは口付けで塞ぎ、抱きつく。
それぞれがそれぞれの思いで吹雪の一夜を過ごしだしたのだった。
●れっつ、恋バナ
「柚井くんとは、どうなってるの?」
枕に顔を埋めごろごろとしていたアグレアーブルがクラウに期待のまなざしを不意に向ける。
「どうって‥‥大好きなお友達ですよ?」
「なんじゃ、いつも一緒じゃからてっきり恋人かと思ったのじゃ」
浴衣姿の磨理那も布団に包まりながら話題に入り込んでいた。
「そんじゃないですよ‥‥。たぶん‥‥」
「甘酸っぱいわねぇ〜」
否定をするクラウだったが、ナレインに意味深な笑みで見られると恥ずかしくなり、布団の上をごろごろ転がって部屋の隅へと逃げ出す。
「ソフィリアさんも‥‥ザンさんとはどうなのですか?」
「ま、まだそこまでは‥‥って、何をいわせますのっ!」
寝るのは相部屋だが、時間が勿体ないとのことでガールズトークに入った朧は同席しているソフィリアをつついた。
顔を赤くして否定したため気持ちはそこそこあるらしい。
「磨理那ちゃんもつーちゃんと仲がいいわよね?」
「妾にふるでない。あやつの真意が読めぬゆえ妾からはなんともいえんのじゃ」
磨理那の隣の布団へ潜り込み、ナレインが磨理那の頭を撫でながら聖母のような笑みを浮かべだした。
「ナレインさんは素敵なのにそういう噂ないです。美人は目の保養。お嫁に来れば良い、です」
この中では唯一の男性だが、誰一人としてナレインを男性として扱っていないのは彼‥‥いや、彼女の美しさゆえであろう。
「そうねぇ、お嫁にいくならダンディな人でお婿にいくならほんわりな人がいいわね」
夢見る少女のような顔でナレインは語った。
「私は‥‥そういう希望はあまりないです」
朧は話から少しはずれ、窓から曇った夜空を眺めながら楽譜にペンを走らせる。
『みんなの恋愛話って参考になるね』
「乙にはまだ早い気もするの‥‥でも、磨理那ちゃんがしているなら応援したいの」
「ばかものっ! 妾は別に恋などしておらぬわっ!」
布団の中に隠してあったのか巨大ハリセンをだすと、磨理那は乙をスパァーンと叩くのだった。
●二人の時間
「ふぅ、風呂上りの牛乳はたまんないぜ‥‥」
「あら、アンドレアスこれからスキーへ参りませんの?」
仲間達とコーヒー牛乳を腰に手をあてぐびっと飲み終えたアンドレアスへ浴衣姿ででてきたロジーが声をかける。
「スキーはやめたほうがいい。今、旅館の人から聞いたが荒れているそうだ」
通りすがりのアルヴァイムが悠季を連れて二人の会話へ割り込んできた。
「タイミング逃したな。ま、遭難しなくて済んだのは良しとするか」
アンドレアスは露天五右衛門風呂へといく二人を見送り、頭をかく。
「仲良しさんですから、お風呂も二人っきりのようですわ。遭難して私とアンドレアスも二人っきりになったら仲良しさんになれますの?」
「さぁな‥‥けど、俺はお前を信頼しているしあいつのことも大事だ。それだけは変わらずいたいな」
ロジーの純粋な瞳から目をそらしながらも、アンドレアスは一つの答えを出した。
ふと、窓から外を見れば雪が降り始めている。
「‥‥ゆっくりとした時間が何よりの贅沢だな。こういう時間をもっと取りたいが、俺たちの助けを待っている多くの力無き人々が居る以上、甘える訳にはいかない。お互いに因果な運命を選んだものだな」
雪見酒を楽しみながら、相部屋の婚約者へ兵衛は微笑みを向けた。
「わたしにとって、ヒョウエが側に居てくれる、それだけで十分幸せですわ。だから、この時だけは仕事のことは忘れません? こういう機会は滅多に訪れませんもの。今はこの二人きりの時間を大切にしたいですわね」
クラリッサが兵衛へと近づき潤った瞳を見せる。
兵衛は言葉を返すことなくクラリッサと心身ともに繋がりあった。
●細氷の誓い
「ほら、もうすぐ頂上だぞ」
遭難者捜索もかねて、天は日も昇らないうちから雪山登山を【大樹ファミリー】らと希望者でおこなっている。
「うーん、まだ眠いですわ」
「おいおい、お前が希望したんだろうが‥‥世話のやける奴だな」
ふらふらと千鳥足に近い足取りで山を登るソフィリアの手を握ってザンは天の後ろについていった。
ゆっくりと暗い空が青みがかり、雪山の白さが際立ってくる。
「うわ‥‥すごい」
寒がりながらも、普段見れないものだからと参加を決意したアーサーは頂上から眺める景色に言葉を失った。
「ん‥‥ついた‥‥っ」
眠気と戦いながら上ってきた都色は朝焼けと共に輝きだす景色に目を覚ます。
作られた美しさではなく、自然が何気なくだしている一面を見て‥‥これを守りたいという気持ちが高まっていった。
風もなく気温も低かったためかダイヤモンド出すとが太陽の光を浴びてキラキラと輝きだす。
「わ、綺麗‥‥。早起きした甲斐があったね」
HERMITに声をかけられるも、都色はただ頷くことしか出来なかった。
「ほら、ソフィリアも見ろよ。すごく綺麗だぜ?」
ザンが隣にいるソフィリアへ顔を向けると、その頬へ精一杯背伸びをしたソフィリアのキスが捧げられる。
「今日は特別☆ですわ♪」
景色を見て感動する中、天は一人太陽の方角をじっと見つめていた。
恋人と義妹がいなくなった土地‥‥其処から上る太陽に新しい道を進めと言われているような気がしたからである。
「あ、スノーモービルの救助隊が来ているようですね」
一緒に上ってきた朧が下をみると雪原の上をスノーモービルで遭難者を探すアルヴァイムと悠季の姿があった。
「誰かいるか、大人の事情ですからここらで切り上げてくれ」
「はいはい、時間よと」
二人の手により洞窟に避難していた遭難者達が救助されていく。
「俺達も降りるついでに探していくか」
天が登るときと同じように先陣を切って進む。もう立ち止まらないと心に決めて‥‥。
●目撃!
「あれって、ライディさんだよね‥‥照れている姿が可愛いよ」
「美人‥‥のように見えるのがすげぇ複雑です」
「応援してあげませんと‥‥あれもお仕事でしょうから」
晴天の中催されたひなふぇすたにてメアリーとシーヴ、ハンナの3人は丁度街中をアピールしつつ歩くライディともう一人の能力者ペアと遭遇し演技を見ていた。
女装で少し顔を赤くしながら太極拳の演技をしているライディとシーヴの目が合った。
思わずびっくりしたライディが相方に抱きつき、そのままお姫様抱っこで拉致されていく。
「これはライディさんに投票しなきゃだめだよね。ああーでも、時雨さんも出てたらしいね」
一部始終を見ていたメアリーはいっしっしと笑い会場をぶらつきだした。
●屋台めぐりぶらり旅
「空気が澄んでいて美味しいですね」
屋台でフランクフルトを買って食べていると、ジェットがお好み焼き、たこ焼き‥‥そして季節外れのカキ氷を梯子していた。
「屋台の基本は押さえておこう」
「よくそれだけ食べれるね‥‥食べ合わせとか気にならないのかい?」
二日酔いでげっそりしているルーイはジェットの食いっぷりに気持ち悪さがぶり返しているようだった。
手土産にいくつか根付を買ってあとはブラブラしている。
「体が資本だからな、たっぷり食べないと‥‥お、郷田さんも買い物しているのか。おーい」
ジェットが信一郎を見かけて声をかけるも、ジェットの姿に気づくと巨漢らしくないこそこそした動きで信一郎は去った。
「何か見られたくない物でもあったのでしょうか‥‥」
リリィの呟き答えるものはなく、澄んだ空気と眩しい日差しだけが続いていた。
「昨夜はご迷惑をおかけしてすみません。縁日限定の『すないぱーさやちゃん』をお詫びにお見せしますよ」
「自分の方こそ今日が頭痛であまり役に立ちそうもなくてごめん」
また、別の屋台ではさやかと文は射的を中心に回りだす。
かずかずの思い出を多く作った一泊二日の旅行が終わりを告げる。
平和なひと時を過ごし、それを守るために傭兵は戦場へと出向くのだ。
また、この地で生き抜きができることを祈って、傭兵たちは帰路へとつく‥‥。