タイトル:【京都】ひなふぇす09マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/19 21:22

●オープニング本文


 3月3日は雛祭りという女の子の祭りだ。
 京都市では昨年より再会された『ひなふぇすた』という祭りで盛り上がるのである。
 今年は市比売神社の『ひいな祭り』を引き継いだ祭りを行う運びとなっていた。
『Redio−Hopeよりと皆様へお知らせです』
 ライディ・王がラジオに乗せてお知らせ原稿を読み上げる。
『来る3月3日の京都市特設会場にて、ひなふぇすた2009が開催されます。今年はペアによるお雛様コンテストという形をとったものとのことです』
 京都市の磨理那からの広告であり、協賛としてアイベックス・エンタテイメントが加わっているためライディが宣伝をおこなっているのだ。
『ペアは男女に限らず参加は可能です。希望者は番組までお知らせください』
 和風のBGMを流しながらの宣伝をライディは伝える。
『それではまた次回の放送までSee You Again』
 この日の放送はここで終わった。
 
●意外な参加者
「やっほーライディちゃん。お久しぶり〜放送聞いたわよ。はい、うちの肉まんよ〜」
 翌日、スタジオに手土産と共にやってきたのはリスナーでありラストホープの中華飯店凛々亭のオーナーである凛華・フェルディオだった。
 チャイナドレスに身を包む細身の人物ではあるが、性別は男である。
「あ、お久しぶりです。肉まんありがとうございます」
 ライディが恐縮しつつも肉まんを受け取ると、一枚の紙が渡された。
「こっちが本命。私も参加するわよー。相方はライディちゃんで」
「え”‥‥」
「な〜に嬉しそうな顔をしてるのよ、もうやだぁっ♪」
 思わず肉まんを落としたライディの頬へバシンとビンタが飛ぶ。
(「え、えーと‥‥この場合俺はどっちをやらされるんだろう」)
 どっちにしても何か困ることになりそうな気配を感じるライディであった。

●参加者一覧

神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
沢辺 麗奈(ga4489
21歳・♀・GP
Innocence(ga8305
20歳・♀・ER
GIN(gb1904
19歳・♂・DG
黒羽・ベルナール(gb2862
15歳・♂・DG
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
月城 芽依(gb5356
17歳・♀・SN

●リプレイ本文

●人生諦めが肝心
「ライディはんはめっちゃ久しぶりやね、改めてよろしゅ〜なんや〜」
「いたっ!? 本当にお久しぶりです。米田さんも心配していましたよ?」
 ライディ・王(gz0023)の背中をバシンと沢辺 麗奈(ga4489)は叩きながら挨拶をする。
「堪忍したってな。チャンスがあればウチもがんばるさかい米田はんにもよろしゅーいっといてな?」
 IMPとして最初期メンバーである麗奈があまり表に出てこないため米田は心配していたとライディは伝えた。
「凛華も久しぶりだな。汝がここまでくるとは思わなかったぞ? 雛祭りというのは初めてだが己も皆も楽しめればいいな」
「女の子のお祭りと聞いたらでないわけにはいかないじゃないのよ♪」
 リュイン・カミーユ(ga3871)は久しぶりに出会う友人の元気そうな姿に顔を綻ばせる。
 なお、凛華・フェルディオは男である。年齢は乙女の秘密ということで公に知る者はいなかった。
「それでライディ。汝にはこれを着てもらうぞ」
 再会の喜びを各自が分かち合ったあと、リュインがライディへパレード用の衣装を渡す。
 手渡されたのは漢服と呼ばれる古代中国に伝わる着物のような襟を合わせる服だった。
「あの‥‥これ、女ものなんですけど」
「がんばれよ、ライディ」
 リュインが有無を言わさない笑顔でライディの肩を叩く。
「女装は‥‥うん、諦めが肝心だと思いますよ。お化粧の方はまだ自信ないので誰かやってもらえませんかね?」
 最近女装する機会が増えたなと思いながらも仕事と割り切って着替えの用意をしている風雪 時雨(gb3678)は周囲をグルット眺めて声をかけた。
「お化粧ならアタシに任せて頂戴。ライディちゃん共々綺麗に仕上げてあ・げ・る♪」
 ノリノリの凛華を前に二人は気圧される。
「こういう行事は楽しんだ者勝ち! もっと気楽にやっちゃおうよ♪」
 黒羽・ベルナール(gb2862)が無責任なことをいってライディを落とし込んだ。
 当人に悪気はない‥‥と思う。
「あ、そうそう先に言っておきたいんだが二段変化という形でいいか? 流れはこの栞に書いてある」
 凛華と会い方を組むこととなった神無月 翡翠(ga0238)は化粧などを行う前に演出の手順を記した手帳を渡した。
「ライディちゃんがペアでなかったのが残念だけれど、あなたもいい男だから許しちゃう♪」
「そんなことで許されましても‥‥」
 波乱のひなふぇすたが始まろうとしていた。
 
●伝えるべきもの
 麗奈のアイディアによりくじ引きでパレードの順番が決まり、一番手となったのはGIN(gb1904)とInnocence(ga8305)のペアである。
「あの小さな色とりどりな鞠、花や鳥とかな飾り物を‥‥今、戦火をなっている九州の文化をここの皆さんに見せたいですね」
 GINの故郷である九州の「さげもん」と呼ばれる鞠や人形飾りを使った小道具を二人はこの日のために用意していた。
「わたくしの着付けはどうですかしら?」
 純粋、無垢といった普段の姿からは想像できない華美ないでたちに紅や白粉を塗った姿のInnocenceがちょこんと首をかしげてGINを見る。
「あ、ああ‥‥すごく綺麗ですよ」
「嬉しいですの♪」
 心底見惚れるほどに着飾った相方をGINは顔を赤くしながら褒めると、咳払い一つ傘を掲げて寄り添う。
 ぴょんぴょんと飛び跳ねていたかと思うときゅっと抱きついてくるInnocenceの行動は『名は体を現す』という格言が事実であることをGINに思わせた。
「歩きましょうか‥‥」
 二人で一つの傘を掲げ、手をつないで歩く姿は仲睦まじい光景に見える。
 GINの格好はInnocenceにあわせ文官装束であり、等身大のお内裏様とお雛様といえた。
 ギャラリーの溢れる道を進むとInnocenceの頭に飾られた鈴がしゃなりしゃなりとなり、独特の風情をかもし出す。
「皆様、私達をみてらっしゃいますね」
 写真を撮る子供達や、IMPとしてのInnocenceのファンらしい青年達の声援にこたえるよう手を振っていたInnocenceはGINを儚げに見る。
 GINの心臓がドクンとなり、体温が上昇していった。
 天使のGINと悪魔のGINが脳内で『やめてもうGINの抵抗力は0よ!』『綺麗なもの程汚したくなるよな、真っ白な子を俺色に染めるとかどうよ?』などと言い合っている。
 無論、Innocenceはそんなこと気づくわけでもなく、またGINもフリーズしかけていたため曲がり角で躓き二人は抱き合うようにしてこけた。
「すみませんの、大丈夫ですの?」
「ダイジョウブ、男の子だからYes I Can」
 顔の距離が数センチでキスをしてしまうかのように近づいている。
 GINはアクシデントがおきながらも、心のどこかでこの気持ちを伝えようと決心していた。
 
●逆転につぐ逆転?
 正統派のGIN達に続くのは何故か女雛だけのペア『お雛様漫才』である。
「よいではないか、よいではないか〜」
 薄手の着物を12セット着こんだ麗奈が相方を時代劇の悪代官のように帯を引っ張って回転させた。
 しゅるしゅると着物が脱げると男雛衣装を着こんだ姿で相方の少女はでてくる。
「ウチも動いて熱いわ〜。ちょっとだけやで?」
 麗奈も相方を脱がす(?)と自らもシナを作りながら12枚重ね着をしている着物を一枚一枚脱ぎだした。
 薄手ではあるが12枚も重ね着をし丸々と太っていた麗奈の姿が少しずつ細くなり、またその下に隠されていたモデル顔負けの均整の取れた肢体が姿を見せだす。
 男性客の視線をガッチリゲットしていた。
 進むごとに脱いでいき、残り1枚になったところでコンテスト会場のステージまで辿りつく。
「なんで12枚着ているかて? 十二単衣っちゅうもんやさかい、ちゃんと『12枚』気合い入れて着てきたんやがなぁ」
 突然、麗奈はクルリと周り、後ろでに手を組んだ。
 鼻の下を伸ばしている男性の一人を見て麗奈が可愛らしく首を傾げる。
 ポカーンとした顔で男性は麗奈を見返した。
 十二単とは正式名称『五衣唐衣裳』といい決して12枚着るわけではない。
「あらま、違うのん? ほな、さいなら〜」
 最後の一枚まで脱ぎ終えた麗奈はそんなことを言いつつステージを後にした。
 祭りらしい楽しい雰囲気をだした『お雛様漫才』の次は翡翠と凛華のペア『月光花』が続く。
 ゆったりした着物姿にアミ笠を被り、薄布付きで顔を隠した人物が杖を付いて街中を進んだ。
 平安時代の旅人といった女性の手を引くのは従者といった姿の男性である。
 こちらもアミ笠を被っているため顔は見えなかった。
「声援ありがとう」
 女性がアミ笠を上にあげると翡翠がにっこりと微笑みを浮かべる。
 やるからにはトコトン楽しもうと覚醒して愛想よく振舞っていた。
 相方である凛華のほうは普段のチャイナドレスで女性らしさを出している分、今回の男装は別人に見えるほど凛々しくなっている。
 街中を旅して歩く恋人のような二人に女性陣からは憧れの吐息が漏れ出した。
 二人はそのままひなふぇすた会場中央に作られたコンテストステージへ上ると着物を脱ぎ捨て、男女が入れ替わる。
「いきますよ、凛華さん」
 翡翠がステージに用意されていた琴の前にすわり演奏を始める。
 古都京都にマッチした和風の調べが会場に広がり、それにあわせて薄い着物姿の凛華が誘惑するように翡翠の周りを舞った。
 切り替えの多い演出にステージを見に来た観客からも大きな拍手が贈られた。
 
●エンブ
「似合う! 本当の女の子みたいっ」
 時雨の簡略化した十二単を身にまとい、紅などの化粧を施された時雨の姿に黒羽はひとしきり笑う。
「次は自分達ですよ。楽しんでもらえるようにがんばりましょう」
 笑いこける黒羽を不安げに見ながら順番が来ることを時雨は伝えた。
「わかってるよ‥‥すぅ‥‥はぁ、よし。気合はいった」
 常にへらっと笑って能天気な少年らしい黒羽の表情がきりっとした男の顔になる。
 二人は街中へでるとゆったりとした舞を踊った。
 黒羽は刀による『演武』であり、時雨は扇による『演舞』である。
 他の参加者にも多く見られる和の衣装でもあるが、刀をもった黒羽のしなやかな舞は男女共に好評のようだ。
 しかし、派手さのない演技は前の二組に比べると若干見劣りしてしまう。
「応援よろしくね」
 ギャラリーの女性陣に向かい軽く声をかけながら黒羽は微笑んだ。
「そろそろ、派手にいきましょうか」
 アピールをしながら街中を進み、中盤へ差し掛かると顔をさっと隠した時雨が覚醒をしながら扇を宙へと投げる。
 時雨の黒髪が雪のような白へと変わり、右目が藍、左目が紅のオッドアイへと変化した。
 静かな舞が一転し、妖艶な雰囲気を伴う舞いとなる。
 袖で口元を隠しては流し目をするなど演技にもこだわりを見せた。
 黒羽も金髪を黒に、瞳をダークグレーへと染め上げて舞う。
 能力者らしい派手でありながらも一挙一動を決めた演武に惜しみない拍手が捧げられる。
 時折二人は背中を合わせ、また離れたりしながら道幅を大きく使った演技をしながらコンテスト会場のステージへと向かう。
「よく似合うじゃないか。汝の恋人も惚れ直すのではないか?」
「こんな惚れ直され方は嫌です‥‥それに‥‥なんか、知り合いの姿をちらちら見るんですけど‥‥」
 控えテントで着替えを終えたライディとリュインは出発の合図をスタッフから待っていた。
 外を覗けばギャラリーが何処と無しに増えたようにも見える。
 ライディの姿は紅を基調に刺繍が施された、女物の華やかな宮廷用の漢服を着こなしたロングヘアの美女となっていた。
 何処から取り寄せたのか偽乳までも付いている。
「そんなに硬くなっていてはいかんぞ、笑顔笑顔」
 一方のリュインは蒼を基調に刺繍が施された、男物の華やかな漢服着用で髪は纏め、黒の中華古典帽子を被っている。
 腰には中華風太刀を帯剣し、ライディの両頬をつかむとムニムニと揉みだした。
 スタッフの方からGOサインがでる。
「では、参ろうか。我と汝による『Change』と『Chinese』‥‥『C/C』の演技をみせにな」
「うぅ‥‥覚悟決めます」
 心の中で涙をダバダバと流し終えたライディがリュインの後に続く。
 中華扇をもって、動きなれた太極拳のゆっくりとした殺陣を披露しながら道を進んだ。
 丁度前の時雨達のペアとも被ってはいたためギャラリーの反応はまちまちである。
「出し物が被ったのはくじゆえ仕方なしか。だが、我らは我らなりに楽しむまでよ。な、ライディ?」
「は、話しかけないでくださいよ。集中して今の姿を忘れようとしていたんですから‥‥あ」
 静のライディと動のリュインともいえる対照的な動きをしながらリュインがライディに声をかけるとライディの視線が一点を向いて固まった。
 どうしたとリュインが聞く前にライディは真っ赤になって顔を中華扇で隠して照れた。
 アクシデントなのだが、その姿にかわいーと野太い声援が聞こえる。
「何と無くわかったぞ。仕方ない、我が人肌脱いでやろう」
 リュインは予定より早く太刀を腰の鞘に収めると照れて動けなくなったライディをひょいとお姫様抱っこした。
「うわゎ!? リュインさん!? これすごく恥ずかしいですよっ!」
「笑顔笑顔、照れてもいいから笑顔でな。しばらく走り抜けたら降ろすのでそれまでは我慢するのだぞ」
 長身ながらも小柄なライディは覚醒をしていないリュインに軽々と持ち上げられる。
 驚いて首に両手を回ししがみつく姿は男らしくなかった。
 嬌声を上げるライディをどこか楽しそうにお姫様抱っこをしつつ、リュインは街中を走る。
 そんな二人には拍手の代わりにデジタルカメラのシャッターを押す音が贈られたのだった。
 
●結果発表
「ほら、ライディ笑顔で撮影に応じなければならんぞ?」
「し、死にたいです‥‥」
 お姫様抱っこダッシュや、前日から京都の雪山へ遊びににきていた能力者達の心を込めた投票の結果『C/C』が優勝を勝ち取った。
 時点では月光花が追い上げていたが惜しくも2位という結果で収まる。
「リュインちゃんもライディちゃんも素敵だったわよん。おめでとう♪」
 ハグと共に凛華から祝福を二人は受ける‥‥なお、ライディは着替えることを許されてはいなかった。
「あ〜疲れた。慣れない服になれないことをして疲れたぜ。ライディはまだ着替えないのか?」
「これから地元新聞の取材があるらしくて‥‥着替えられないんです」
 撮影がひと段落したあとやってきた翡翠がライディの女装姿に複雑な顔で聞き出す。
「そないなこといって、実は女装が気に入ったんやないの? もう、それならそうといってくれればウチの服かしたるのにっ!」
 私服に着替え終えた麗奈がライディの姿をカメラでばっちり納めつつニヤニヤと笑って突っ込みを入れた。
「そんなこと‥‥ないです‥‥もう、許してください」
 女装のまま、ついにライディはうなだれ沈む。
「えっと‥‥その、がんばってくださいね」
 着替え終わり、買出しに出かけようとした時雨がライディのあまりの姿に優しく声をかけた。
 しかし、その優しさが痛い事もある。
「ほな、ウチはナンパしにいってくるやね?」
「いってら〜、ライディー。新聞記者が着てるよー。がんばってこいよ〜」
 いたたまれなくなった麗奈がさっと離れていくと、黒羽が追い討ちをかけてきた。
 何をどうがんばれというのかライディにはわからない。
 晴れた空が、涙で曇って見えた。