●リプレイ本文
●1Fロビー〜17:00〜
「ふふ、和服以外もいいものでしょう?」
「着慣れぬのぅ‥‥妙な感じじゃ」
エイジアプリンスホテルの1Fロビーでナレイン・フェルド(
ga0506)がパーティ用の薔薇模様のチャイナドレスで待っていると柄の同じ子供用チャイナ服をきた平良・磨理那が姿をみせる。
お団子頭にもして、おてんばっぽさが強くでていた。
ナレインの方も三つ編みした髪をお団子状に結わえているためおそろいだ。
「可愛いわよ〜はぐしちゃう」
「ええいっ、勝手に触るでない〜」
思わず抱き締め出すナレインの腕の中で磨理那はもがいて、離れる。
「あ、ナレインさんに磨理那さんはこんばんわ。これから打ち合わせがありますので失礼しますね」
丁度そのとき、ライディ・王がナレインの横を通り過ぎエレベーターに乗り込んだ。
「待ちやがるです」
「あ、まってください〜」
ちょうどそのとき、駆けてきたシーヴ・フェルセン(
ga5638)とソフィリア・エクセル(
gb4220)が上に向かうエレベーターへすべりこむ。
「見苦しいところをお見せしました。ソフィリア・エクセルと申しますわ」
ソフィリアは丁寧な挨拶と共に上品にお辞儀をした。
「どうも、IMP専属マネージャーのライディ・王です」
この日はアイベックス・エンタテイメントと仕事できているためスーツ姿のライディは名刺を取り出し、ソフィリアに渡す。
「知っていますわ。そのライディさんだからこそ、お願いがありますの。ソフィリアに歌わせてください!」
ライディの両手をひしっと握り締めてソフィリアが訴えだすと、シーヴが険しい表情になった。
「上にいくなら扉閉めるです」
ツンとした表情のシーヴはスイッチを押してエレベーターの扉を締め出す。
「そ〜れ、捕まえたっ♪」
「しまった!? しゅらばに見惚れていてたいみんぐを逃してしまったのじゃ」
ボーっと様子を眺めていた磨理那をナレインは後ろから抱きしめて捕まえた。
ホテルで見かける平和な光景。
これが後の惨劇の始まりだということに誰も気づいていなかった。
●7F屋内庭園〜17:30〜
「レオノーラさんもこちらに来ていたんですね」
「なんとなく風に当たってみたくなってね」
ホテルの中というのは不思議な見晴らしのいい庭園にいたレオノーラ・ハンビー(gz0067)にクラーク・エアハルト(
ga4961)は声をかけた。
長い髪を靡かせ目を細めながれレオノーラは答えた。
クラークがその姿に一瞬見惚れ、そして意を決して手に持った包みを渡そうとしたとき静かな空気が崩れる。
「病欠者がでたんだから、今日はエスコート頼むわよ‥‥もぅ」
「まあ、この借りは高いと思いたまえよね、くっくっくっ‥‥おやおや、お邪魔だったようだ」
ふくれっ面の百地・悠季(
ga8270)が邪笑を浮かべる錦織・長郎(
ga8268)と共にやってきたのだ。
「本当ね‥‥。今ここにいれば私だって‥‥」
「僻みは見苦しいとは思わないかね‥‥くっくっくっ。場所を変えるとしよう。ここで馬にけられるわけにもいかないからね」
長郎が悠季をなだめつつエレベーターへと引き返していった。
「ここにいると勘違いされそうね。私たちも戻るとしましょう」
「そう‥‥ですね」
タイミングを逃したクラークは苦笑をしてレオノーラと共に長郎のあとを追う。
「広くて、綺麗なところですわ」
丁度、エレベーターが到着したとき中からソフィリアが駆け出してきた。
「きゃっ!」
「あら? ごめんなさい、うっかりしてましたわ」
ソフィリアにぶつかり、バランスを崩したレオノーラをクラークが支える。
「大丈夫ですか?」
「ええ、私は‥‥貴方は大丈夫?」
「私も大丈夫ですわ。そちらもお怪我はありませんか?」
3人が互いを気遣いやり取りを行うなか、悠季と長郎だけがいるエレベーターのドアが閉まった。
「アレはなかなかいい手だね」
「一体何の話よ」
眼鏡を光らせて呟く長郎に悠季は膨れたままに尋ねる。
「パーティでは悠季、君のヤンデレッぷりで驚かしてくれたまえ。そうすれば私が美女に手を差し伸べて介抱ができる」
「そんなことには協力しないわよ。本当にしっかりやって頂戴」
悠季はため息を吐きつ長郎と共に下の階へと移動した。
●大型パーティ会場〜19:00〜
「思花さんとライライは二人きりで打ち合わせって何をやってたんだロー」
ラウル・カミーユ(
ga7242)はチョコフォンデュパーティに甘党として参加しながら主賓の琳 思花(gz0087)を目で追っている。
連れのシーヴはライディに何か瓶を手渡しているが、きっと栄養ドリンクなんだろうと納得した。
(「手作りだったら、ライライお腹壊すのかな?」)
不謹慎な事を考えながらも、バナナを解けたチョコレートにたっぷり浸してラウルは食べる。
隣ではルーイ(
gb4716)がナレインと共にパーティ会場のデザインセンスや花の飾り方についてああでもない、こうでもないと語り合っていた。
『それでは、皆様グラスをお持ちください‥‥よろしいですね?』
二人の会話に気をとられていると、ライディが司会者として乾杯の用意を促がしてくる。
「さすがに合わせないとネ。ほら、シーちゃんもこれを持って」
戻ってきたシーヴにジュースを渡してラウルはグラスを持った。
「ふむ? どうも殺気も感じますね? これは、楽しい現場となりそうです。クスクス」
どこからきたのか、神無月 紫翠(
ga0243)がラウルの隣に立って不気味に笑っている。
『乾杯』
ステージの上で恰幅のいい男がグラスを高らかに掲げると、ライディが突如、血を吐き出して倒れた。
そして、十分も立たないうちに鬼瓦陽平と名乗る刑事が入ってくる。
「な、何事!? え、しかも警察? さすがにできすぎてナイ?」
突然の出来事に騒然となる会場。
右往左往する間もなく鬼瓦刑事の指示により身体検査が行われることとなった。
「こんな瓶しらないわよ‥‥」
身体検査をされるレオノーラのスカートのポケットから毒物が入っていたらしい瓶が出てきたりと怪しい雰囲気が濃くなる。
「ちょっとちょっとその虫眼鏡とか返してよっ。美少女探偵ろまんちゃんを知らないの?」
知るわけないよという突込みが飛びそうなことをいいつつ騒いでいるのは潮彩 ろまん(
ga3425)だ。
自称ではあるが、探偵らしい。
「もう、少年少女のステイタス雷電28号もあるし、ボクのじっちゃんは海軍の名将といわれてるんだよ。じっちゃんの何かけてこの事件はボクが解決するよ」
まだ発展途上の胸を張るろまんに警察官は困った様子で虫眼鏡などを返した。
「犯行声明を聞きましたが果たしてそれだけで人を殺せるものでしょうか? ラストホープの外まで騒動を大きくするとは僕には思えませんね?」
同じく身体検査を終えた美環 響(
gb2863)が腕を組み、しなやかな指で顎をなぞって考え込む。
「いや、毒を盛られたのに能力者だとわかったのは知り合いだったからだよ。きっと犯行声明文がブラフで本当の目的は別にあるんだ」
ぐっと拳を握りろまんはダイイングメッセージの書かれた紙を虫眼鏡を近づけたり離したりして語りだした。
「探偵を気取るのは勝ってだが、現場を保存するために速やかにここから立ち退いてくれ」
鬼瓦刑事に言われ、二人はしぶしぶとその場を離れる。
「すいません、ちょっと、毒物の種類を確かめさせてもらってもいいですか?」
ろまんと響がパーティ会場をあとにすると、ふぁん(
gb5174)が鬼瓦刑事に名刺のようなものを出して話かけた。
「ラウルも早くいくです。捜査の邪魔です」
恋人が血を吐いて倒れたというのに冷静すぎるシーヴに手を引っ張られ、ラウルもそのままパーティ会場から出て行く。
じっと見ていたライディの死体がピクリと動いたような気がした。
●1Fロビー〜20:00〜
「厄介なことに巻き込まれたようだな?」
「丈一郎さんまで来ていたなんて意外よね。甘いものって苦手だったわよね?」
「ま‥‥いろいろとな‥‥」
黒川丈一朗(
ga0776)は歯切れの悪そうにナレインの疑問仁答え、頭を掻く。
ボクサーであったためカロリーコントロールには常日頃からうるさい丈一朗なため、チョコレート試食会にいるのは不思議だった。
「レオノーラさんも悠季さんも巻き込まれて大変でしたね?」
「本当よ‥‥誰が犯人なのかしら?」
「レオノーラが持ってた毒が原因じゃないの?」
クラークの質問に疲れた様子で答えるレオノーラに対して、悠季はレオノーラを怪しむ。
「まだレオノーラさんが犯人と決まったわけじゃないですから‥‥」
クラークはあくまでもレオノーラの肩を持った。
「毒物の解析結果が終わりました。とはいってもただの溶液でしたけれど‥‥」
ふぁんが小瓶とワインを片手にロビーにおいてある熱帯魚の泳ぐ水槽へと近づく。
「鑑識では死因は毒物によるものという結果が‥‥」
鬼瓦刑事が怪しみの視線をふぁんに向けて問いかけた。
「いえ、これだけでは毒物にならないんですよ」
ふぁんが溶液と水槽へと垂らすが熱帯魚は何ともない。
「しかし、この成分がアルコールと混ざると化学反応を起こして毒物となる」
そのまま別の手に持ったワインを注ぎ込むと熱帯魚がもがいて底に沈んだ。
「つまり、毒を飲ませたものとワインを飲ませたもの二人の犯人がいる可能性もあるということか?」
鬼瓦刑事はそう呟くと視線を思花のほうへ向ける。
「確か貴方は主賓席で被害者の王氏とワインを飲んでいたという目撃情報があります」
「そうだとしても‥‥毒については‥‥知らない」
思花は鬼瓦刑事の目を強く見返して無実を示した。
「よーし、私が事件解決に向けてがんばるわ。あら、そういえば磨理那ちゃんは?」
気合を入れたナレインだったが、パーティのときまで一緒にいた磨理那の姿が見えない。
「容疑者が乱立してきましたね‥‥でも、きっとこの事件は序章にしか過ぎませんわ」
不安がるナレインの耳にソフィリアは不吉なことを囁いた。
●10F和室宴会場〜21:00〜
「おや、君も探検かい?」
10階で出会った赤い髪の少女にルーイは声をかける。
彼は殺人犯がいるかもしれないという状況でも暇だからということホテルの探検をしていた。
少女は驚いた様子だったが、特に何もいわない。
「そういえば、小さい女の子‥‥磨理那ちゃんっていったかな? その子を探しているみたいだけど知らないかな?」
シャイなのかなと思ったルーイは話題を変えた。
すると、少女は目を開き、視線が漂いだす。
「何か知っているの?」
少女は首を振るが『事件のことで話がしたい』とはじめて口をきいた。
「それでは一緒にいこうか」
ルーイは少女の肩に手を乗せて自分の部屋へと案内しだす。
30分後、入浴を済ませて髪を手入れし終わったソフィリアが招待客を訪ねると共に宴会場へと顔をだした。
「どなたかいらっしゃいま‥‥ま、磨理那さん!」
襖を開けた先では磨理那が首をくくりぷらぷらと揺れている。
大きな声だったのか、上の階にいた人が降りてきた。
「おやおや、第二の殺人か‥‥可愛いお嬢さんを殺して更に『犯人は妾より可愛い』ときている。痴情の縺れと見る先が濃厚か?」
降りてきた一人、紫翠は磨理那の懐に入っていた紙を取り出して読み上げる。
「マリナちゃんより可愛いというのは、可愛いんだろうなぁ‥‥きっと顔見られたから口封じなんだよ。あ、可愛いからってボクじゃないからね!」
紫翠の後ろからひょっこりと顔をだしてダイイングメッセージらしい紙を読んで聞いてもいないのに否定を始めた。
「二人目の犠牲者ですか‥‥こうも同じような形でメッセージを残される殺人があるものでしょうか? 僕の第六感が何か違和感を訴えていますね‥‥おや?」
騒ぎを聞きつけてきた響が宴会場へくると、磨理那の足元に落ちている髪飾りを拾い上げる。
「それはシーちゃんの髪飾りだよ。何でこんなところに? それに磨理那ちゃんに赤い髪の毛まで付いてるし」
ラウルもまた宴会場にやってきて驚いた。
パーティ会場での行動といい、恋人の死に対する冷ややかな態度といい怪しい雰囲気が強すぎる。
「これほど探偵が、揃うのも珍しい事で、たどりつけますかね? 真実まで‥‥」
推理ショーが行われる中ラウルはもう一人の怪しい人物である紫翠を見た。
「探偵ではないけど、ちょっと気になるから動いてみるカナ」
ラウルは騒ぎの中をそっと抜け出す。
怪しい事件に怪しい人物果たして、何がおきているのだろうか‥‥。
●B1Fボイラー室〜22:00〜
騒動もあったため予定より早くパーティの片付けが行われ、それを手伝っていた長郎はこそこそと地下へと向かっていた。
「逢引の場所にしては実に殺風景なところだね」
丸文字で可愛らしく『お話がありますボイラー室まで来てください』とかかれた手紙を片手に長郎は扉をあける。
プシューと圧力によって噴出す蒸気の音が聞こえる奇妙な部屋だ。
「ロマンチックに屋内庭園とかあるのに‥‥まぁ、人目を気にするシャイな子ならば仕方ないか」
勝手に対象について妄想を長郎がめぐらせていると、背後の扉がバタンと閉まる。
「何っ!?」
驚いて振り向こうとしたとき、長郎の背中に激痛が走った。
一瞬では気づかなかったが、生暖かいものが背中を伝っていくことで刺されたのだと気づく。
『役立たず‥‥』
くらい部屋の中で、静かな女性の声が長郎の耳に入った。
「くっ‥‥こんなやり方は聞いていな‥‥」
どしゃっと長郎は床に倒れこむ。
キィと扉があき、赤い髪が出て行く姿をみた。
長郎は背中を伝い床に広がりだす血で文字を書く。
『犯人は女性の声がし十こ 』
最後で力尽き、奇妙な字になった。
●5F大型パーティ会場〜22:05〜
「どうしてこんな事に‥‥私が付いてたのに、ごめんね‥‥苦しかったでしょうに」
下ろされた磨理那が警察に運ばれるとき、ちょっとだけとナレインはとめて磨理那の髪を撫でる。
眠るように横たわる磨理那はとても死んでいるとは思えなかった。
「犯人を必ず見つけて見せるわね‥‥丈一郎さんもそうでしょ?」
くるりとナレインは振り向く。
しかし、さっきまで一緒にいたと思っていた丈一郎の姿はそこになかった。
ナレインの背筋に悪寒が走る。
「丈一郎さん!」
「あら、彼なら11Fの客室を見回っていたわよ?」
ヒステリックな叫びを上げるナレインに下の階より上がってきた悠季が声をかけた。
「悠季ちゃんありがとう!」
お礼を軽く述べてナレインは急いでエレベーターホールへと向かう。
しかし、なかなか到着しないエレベーターに痺れを切らして階段で上った。
11Fの廊下にでると、黒川が呆然と立ち尽くすのが見える。
「丈一郎さん! 良かった無事だったのね」
ナレインは急いで駆け寄る無事であったことを喜び、目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。
「待ってくれ! 俺じゃない!」
黒川の第一声はそれだった。
「一体何の話なの? そのワインボトルは‥‥」
「違う、これは落ちていただけなんだ!」
ただ、なぜ持っていたのかを聞きたかったナレインだったが、黒川は過剰に反応してワインボトルを背中に隠す。
「もう、どうしたっていうのよ」
黒川の反応が可笑しくてつい苦笑するナレインだったが、シャーと部屋の中から聞こえるシャワー音に気づき中へと入った。
シャワールームへと足が進んでいく。
「いくな! ナレイン!」
黒川が大きな声で制止をしたが、ナレインの好奇心をとめることはできなかった。
「お邪魔しまーす。ル、ルーイちゃん!?」
シャワーの流れるバスタブには後頭部から血を流し、薔薇の浮かんだ湯船に沈むルーイの姿がある。
股間が薔薇の花びらで隠れ、『散り際も美しい』という言葉が当てはまった。
「俺が来たときにはすでに死んでいたんだ。本当だ、信じてくれ」
恐る恐るついてきた黒川はナレインに真剣な目で訴える。
「信じるわよ。あなたは犯人なはずはないの。ほら、ルーイちゃんのメッセージがあるわ『犯人は髪がながい』って」
ナレインは赤い血のようなもので掻かれた文字を見せて、軽く抱きしめた。
「ああ‥‥俺の方こそすまない。取り乱しすぎた」
メッセージと抱擁の二つによって黒川はいつもの落ち着きを取り戻す。
(「でも、気になるのはもう一つ。バスタブに残った赤い髪‥‥これって、シーヴちゃんってことなのかしら? でも、何でこんなことを‥‥」)
黒川に抱擁を続けながらも、ナレインは密かに見つけたもう一つの証拠に思いをはせるのだった。
●30F被害者ライディの部屋〜22:30〜
「お邪魔しまーす。やっぱりいないのカナ?」
『隠密潜行』をわざわざ使ってまでラウルは関係者以外立ち入り禁止であるエグゼティヴフロアにまで来ている。
事件を推理するつもりはなく、単純な興味と妹分の不自然な態度と恋人未満の相手への信頼からだ。
「幾らIMPにヤキモチ妬いても、殺人はありえないヨネ‥‥というのは女心がわかってナイのだろーか」
暗い部屋の明かりをつけると背後からスーツに帽子、サングラスまでつけた男がラウルに襲いかかってきた。
「このっ、僕の後ろを取るなんてやっちゃいけないんだぞ」
覚醒をしているラウルは手加減をしつつ相手を組みふす。
「まさか‥‥そーいうーことだったのか!」
帽子とサングラスを取った後の姿にラウルは全てを悟った。
●1Fラウンジ〜23:00〜
宿泊している能力者達は一同にラウンジに呼び出され、鬼瓦刑事から説明を受けていた。
「すでに4人の犠牲者がでてしまいました。しかし、このホテルが貸切であること、また能力者が貴方達だけということを加味しますとこの中に犯人がいることになります」
鬼瓦刑事の言葉を一同は静かに聞いている。
「死体の残したメッセージ。『能力者』『髪が長い』『可愛い』『女性の声』‥‥その全てが該当する人物は重要参考人として警察と共にこちらに残ってください」
「ちょっと待って! そんなことをしなくても犯人を特定しちゃおうよ。このまま一晩済ますなんて気分悪いしね」
ろまんが鬼瓦刑事の前にでて解散を引き止めた。
「まったくですね。このまま返してしまっては犯人が証拠を消してしまう場合もあります」
響も賛同し、手元でシャッフルしていたタロットの束から一枚カードを抜いて投げる。
「今、審判を下すべきでしょう」
『審判』のカードがラウンジのテーブルに刺さった。
「あの‥‥私、信じたくはないけれど心当たりがあるの」
控えめに手を上げたナレインが前にでて能力者たちをぐるっとみまわす。
そして、視線がシーヴで止まった。
しかし、それから先の言葉がでない。
「出番とっちゃだめだよ。ボクの推理を聞かせるよ。前の二つはライディ君たちにかなり親しい人物の反抗だね。こっちが主題で、ルーイさん、長郎さんは突発的な事故の処理だよ。この二人と会ったりしたりしたところを見られた人物はただ一人‥‥」
ろまんがナレインを押しのけて、芝居がかった様子で語りだした。
最後に指をさして、宣言をする。
「異議あり! ‥‥じゃなかった、シーヴさん貴方だ! 以上キューピーさん証明終わりだよ」
ろまんは発展途上の胸を張って決めた。
しかしながら、キューピーではなく『QED=Quod Erat Demonstrandum(かく示された)』が正解である。
「自分も‥‥シーヴさんの対応の冷たさに違和感を感じていました。犯人は貴方しかいません」
クラークもろまんと同じようにシーヴが犯人という推理にたどりついた。
「シーヴは犯人じゃないです‥‥ライディをシーヴだけのものにしたいからってこんなことしないです」
警察や能力者の目がシーヴに集中するなか、離れようとする人物を紫翠がとめる。
『自殺? 逮捕? ふふ、せいぜい楽しませて下さいよ』
その人物は紫翠の言葉に耳を貸さずに逃げようとした。
「犯人はやはりシーヴさんなのですね!」
ソフィリアも推理に詰まって便乗するようにシーヴを犯人に仕立て上げだす。
「だから、シーヴは違うです」
フルフルと首を振っていると、ロビーにある大きな時計が12時を指した。
ボーンボーンという音と共にからくり時計が一つ動き、何か垂れ幕をだす。
『Vt殺人事件 ドッキリ お芝居 大 成 功!』
「お、お芝居?」
ナレインが気の抜けた声をだした。
「楽しんでいただけましたかな。深夜12時に魔法の解けるショータイム」
鬼瓦刑事が役者のようなスマイルを浮かべてナレインにウィンクを飛ばす。
「本当の犯人はあちらの百地嬢さ」
ラウンジの裏まで回ってきた悠季はツインテールのウィグをつけた姿で能力者たちの前に姿を表した。
「待ち人が来なくてついカッとなってやってしまったの。本当に反省しているわ」
あまり反省しているとは思えない口ぶりで悠季は両手を後ろでに組んで謝る。
「お芝居だったの? もう、びっくりしちゃったわ」
「死体の役というのもいい経験だったよ」
ナレインが驚いていると、頭に包帯を巻いたルーイが後ろから声をかけてきた。
「頭を撫でられたときはばれるのではないかとひやひやしたのじゃ」
ルーイの背中からひょっこりと磨理那も顔をだす。
「磨理那ちゃんも無事だったのね」
思わず涙ぐんでナレインは磨理那を抱きしめた。
「こ、これ泣くでない。そちは男じゃろう!」
抱きしめられ、困った磨理那は腕の中でもがく。
日付変更まで続いた事件はこれにて終幕を迎えるのだった。
●2Fバイキングレストラン〜7:30〜
「おっはよー思花さん」
モーニングバイキングで目玉焼きを食べていた思花にラウルはフルーツのたっぷりはいったシリアルをもって挨拶をする。
「おはよう‥‥よく眠れた?」
「僕には挨拶ないの?」
「ごめん、ライライもいたんだね。昨日の怪我大丈夫?」
思花の隣にいたライディは頬にシップを貼った姿でラウルに存在を抗議した。
昨夜ラウルを取り押さえようとして返り討ちにあったのである。
ラウルが加減をしていなければ、これだけではすまなかっただろう。
「皆してシーヴが犯人だっていってたです。作戦大成功でやがるです」
ライディの向かいにはシーヴが座り食後の紅茶を楽しんでいた。
「シーちゃんがヤンデレになったら怖いからライライも気をつけなきゃだめだよ?」
「シーちゃん‥‥私はヤンデレにならないよ」
シーヴをあだ名で呼ぶと思花のほうが素なのかワザとなのかラウルの目を見て否定ををする。
「思花さんは思花さんダヨ。そのままの君でいてクダサイ」
ラウルは苦笑しつつ答えるのだった。
●5F大型パーティ会場〜9:00〜
「昨日の今日でパーティというのも何かありそうな気がしますわ」
準備を手伝っているソフィリアは何かあるのではないかと緊張している。
髪の毛などの証拠がなければ自分が犯人にされそうになったのでだから仕方ないといえんばない。
「ソフィリアも歌いたいですわ〜」
「ほー、興味があるんだがね? ええよええよ、バックコーラスで歌ったたってな」
はふぅとため息と共に出た呟きに、同じく準備に出払っていた米田時雄が笑顔で答える。
午後はIMPのミニライヴがあるためにパーティついでにその準備も兼ねていた。
米田は壁にポスターを張り出している。
「このポスターはコンビニとかにあるものとは違うようだね」
死体役で体を張った長郎は今日も準備と称して女性陣を手伝いお近づきになっていこうと働いていた。
米田の張っているポスターは傭兵たちが写ってはいるが、惜しくもスポンサー評価で正式採用にならなかったものである。
「うちの新人アイドルも写ってるでよ。その宣伝もかねてだがね。ファンとして贔屓にしてくれりゃあ嬉しいがや」
ちゃっかりと米田は宣伝をしつつ、壁にポスターを張りつづけるのだった。
●エイジアプリンスホテル前〜15:00〜
まだ日の沈まないうちに宴は終わりを告げる。
「誰かさんが病欠さえしなければ、もう少し楽しめたかもしれないわね」
適度に翌日のパーティを楽しんだ悠季はラストホープがあるであろう方角をみて思いをはせた。
お土産にと渡されたチョコレートケーキを大切に持つ。
帰ったら一緒に食べようとそんなことを思っていた。
「レオノーラさんも一泊二日お疲れ様でした」
各自が帰っていく中、クラークはレオノーラを呼び止める。
「お疲れ様。無実と信じてくれてありがとう」
昨日の屋内庭園であったときのようにレオノーラは笑顔で答えた。
「あの‥‥意識しだしたのは前回のV1GPからですが‥‥よろしければ、お付き合いいただけませんか?」
クラークは少し視線をそらしながら、トリュフチョコをレオノーラに差し出す。
レオノーラは目をぱちくりとさせたあと一度閉じる。
そして、深呼吸をした後に再び目を開けてクラークの顔を見た。
「これは受け取れないわ」
トリュフをクラークへと押し返す。
「そう‥‥ですか‥‥やっぱり、だめですかね」
元々ダメなことを承知の告白ではあったクラークだが、表情は重かった。
「けど、勘違いはしないでね。別に嫌いとか付き合うつもりがないって訳じゃないのよ。気持ちだけもらっておくわ。答えは‥‥そうね、次のV1でね?」
表情の重いクラークの頬へそっと唇をつけてレオノーラは微笑む。
柔らかい肉が押し付けられ、焼印でも去れたかのように熱くなった。
「わかりました‥‥それでは、次回のV1で会いましょう」
頬を掻いたあとクラークはレオノーラと握手をする。
聖バレンタインデー‥‥それは恋人たちの始まりの日なのだ。