●リプレイ本文
●チョコレートとアスレード
『‥‥シェイドだって?』
キョーコ・クルック(
ga4770)の唖然とした声がオープン回線でカカオ農園に響く。
『おい、てめぇら! そのカカオは俺様のものだ! おいていきやがれ!』
アスレード(gz0165)の声がバグアの戦闘機、シェイドから流れ出した。
「いや、チョコが食べたいなら店に並べばいいでしょう!?」
『チョコが好きとは、えらく人間臭い嗜好を残しているのだな』
思わず突っ込みをいれた国谷 真彼(
ga2331)の耳に時任 絃也(
ga0983)の呆れにも近い呟きが入ってくる。
『大人しく全て渡すなら命をとったりはしねぇ。だが、持ち逃げしようとするなら徹底的においかけてやるぜぇ』
真彼の突っ込みにアスレードは意を返さずにシェイドを変形させ、瞳を赤く光らせた。
『アスレード氏もチョコレートを貰うアテがないんですね。それでこんなことを‥‥』
『原料からチョコを作るつもりか? 本当の意味での手作りチョコだな』
佐渡川 歩(
gb4026)とヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)はアスレードに対してどこか敬意を表しだす。
「頭が痛い‥‥ただでさえLHでは妙なお祭り騒ぎがあるというのに」
頭痛を訴える頭を抑え、真彼はウーフーの発進シークエンスに入った。
『くう、カカオ運搬用の装備でしかない〜‥‥仕方ない今日のところは情報収集だ! 索敵レーダー、全開!』
「ウーフーの中和領域内までぐらいでしかレーダーはまともに動きませんから、ドクターは気をつけてください」
所属するウェスト研究所の所長たるドクター・ウェスト(
ga0241)に注意を呼びかけて真彼はペアの夏目 リョウ(
gb2267)の準備をまった。
『まさか、カカオの輸送任務任務に就いていてシェイドに遭遇するとはな。 だが、任さされた以上、きちんと任務を全うするしかないだろうな』
『捨てるなんて飛んでもないからね、しっかり運ぶよ』
榊兵衛(
ga0388)と時枝・悠(
ga8810)ペアとなり先に飛び立つ。
アスレードはそれらを追わず、まだ離陸していない真彼の方を向いた。
『俺様の俺様による俺様のためのチョコレートのために命を捧げる気にでもなったか?』
「いいえ、貴方にプレゼントを渡すだけですよ。夏目君いきましょう」
真彼は離陸しつつ、落下傘の付いたコンテナを一つ投下する。
すぐさまブーストをかけて最大速度で離れた。
『ん‥‥素直じゃねぇか‥‥ククク、さぁ残りも全部もらうぜぇ』
シェイドから細いワイヤーが何本も飛び出すとコンテナを掴んで回収をする。
「狙いは本当にカカオだけのようですね、皆さんいざとなったらコンテナを離してください。命が最優先ですよ」
『簡単な依頼で空を楽しむはずが、シェイドとチェイスなんて。いつもトラブルに巻き込まれてる気がする‥‥』
真彼の指示にラウラ・ブレイク(
gb1395)のため息交じりの返事が返ってきた。
●羅武レター
「‥‥ラシェル、君はあんな奴のせいで。なんだか、つくづく戦いが虚しくなったよ。でも、だからこそ、これ以上あいつに傷つけられる人々を出さないよう、俺は戦い続けるから」
リョウは胸元に入れたドミニカ共和国にて散った強化人間少女の髪の毛を入れたお守りを握る。
背後からはアスレードがシィエドという力を持って追いかけてきた。
『夏目君、コンテナを落としてくれ』
国谷の指示に従い、リョウはコンテナを一つ破棄する。
落下傘によってゆっくりと降下しだした。
『そのコンテナ、もらったぁぁっ!』
シェイドが加速をしてコンテナへ近づくと、国谷機も反転した上で加速して近づき、煙幕装置を作動させる。
コンテナを煙が包み、視界が著しく低下した。
シェイドのワイヤーも煙の中からコンテナを見つけることに苦心しているようである。
『作戦は成功、このまま反転して‥‥』
しかし、言葉はここで途切れた。
「国谷さん!」
リョウが振り向くと、煙の先を抜け、コンテナを回収し終えたシェイドがウーフーをワイヤーで縛り付けている。
ギリギリとワイヤーで締め付けられた機体が火花を散らし、コンテナを抜き取られるとぼろ雑巾のように捨てられた。
『手間駆けやがって‥‥さぁ、次はてめぇだぁ!』
「そんなに欲しいなら、持ってけ泥棒!」
いらだった様子のアスレードがリョウを追いかけ、リョウはコンテナを破棄すると共に『幻霧発生装置』を作動させて追撃を撹乱する。
『ちっ、ざけたマネを‥‥だが、この程度で逃げ切れると思うんじゃねぇ!』
一瞬、追撃を遅らせたが加速度に大きく差がでた。
続けて放った煙幕すらも付きぬけ、シェイドがリョウの翔幻をワイヤーで補足する。
「くそっ、捕まった!?」
『ククク‥‥てめぇはパペットマスターを殺したやつじゃねぇか』
「彼女を! ラシェルを殺したのはお前だろう!」
人型に変形したシェイドの紅い瞳がコックピットのリョウを見つめた。
『てめぇが手を伸ばさなきゃ、あいつは駒としてもっと長生きできたんだぜぇ? それでも、てめぇは殺してないとでもいうかぁ!』
リョウがアスレードへ返事をする間もなく、機体が軋み機能を停止させられる。
空中へ投げ出された機体と共に二枚の手紙が風に揺られて飛んだ。
●喧嘩上等
「なんだ、シェイドに乗っていてもキョータロー君ではないのか〜」
十字架をしまったポケットをドクターは軽く触り、データ計測をしているとき国谷機の消失と共にレーダーが真っ黒になる。
「むむ‥‥! 国谷君が囮になったのはまずかったか。ジャミングが酷すぎてまったくデータが取れぬ!」
国谷のいうようにウーフーによるジャミング中和装置のおかげであったのだ。
「ええい、こうなれば目視しかあるまい!」
切っていた回線をオープンにし、ドクターは大きな声でアスレードを挑発することを決める。
「アスレード君はカカオを手に入れたら、すぐにチョコレートができると思っているのかね〜? チョコレートを狙ったほうが手間がかからないよ〜」
パキッと板チョコをほおばる音まで入った。
「これでこちらに‥‥ひきつけ‥‥なにぅ!?」
ドクターは今の状況が理解できないでいる。
チョコを齧って、眼鏡のズレを直した。
それだけのはずなのに、今、目の前にはシェイドがいる。
『嘘‥‥目視できる距離にいなかったはずよ!?』
『あんたの得物はこっちだよ〜』
ラウラの驚きの声が聞こえ、キョーコがカカオコンテナを放り出したことを告げた。
先ほどまでコンテナをとる事に執着していたアスレードだったが、ワイバーンの前から動こうとしない。
そして、シェイドからワイヤーが数十本のびてワイバーンを狙った。
「‥‥ここで何もせずに死ぬわけにはいかないのだよ〜」
二人の声に我にかえったドクターは照明弾や煙幕を撃ち出そうとする。
マイクロブーストも発動させ、少しでも生存率を高めようとした。
だが、抵抗空しくワイヤーが全てを切り裂き、コックピットへ直接食らいついてきた。
『ドクター!』
『なぁ、カカオよりチョコの方がはやいよなぁ、ええ、おい? てめぇの食っているものをいただくぜ』
アスレードの邪笑とラウラの悲痛な叫びが聞こえてきたかと思うと、ドクターウェストの意識は真っ赤な飛沫と共に沈んだ。
●縦横無尽
「ちっ、あいつワイバーンのコックピットだけ壊しやがった!」
キョーコはワイバーンのコックピットに爪をたてワイバーンを掴んでくるシェイドを見た。
狙いは明らかにキョーコのいる方だ。
そうキョーコが思っていると地面にワイバーンを投げ捨て、落下中のコンテナを掴み、飛翔する。
「律儀なんだか、直情なのかはっきりしなっ!」
二兎を追い、二兎もしとめたシェイドにキョーコは動揺が隠せなかった。
10kmという距離すらもシェイドの対応可能範囲らしい。
キョーコは機体を左右に振りながら、ロックオンをはずそうと動いた。
だが、シェイドは射撃をすることなくキョーコへ音速の巨体をぶつけに来る。
「無茶をしてくるっ! 空戦スタビライザー、ブーストオン! それと、これもついでだよ!」
キョーコはカカオコンテナを破棄すると共に煙幕を張って撹乱させた。
『待ってくださいよー』
キョーコの後ろをペアである歩機がおいかけてくる。
ブーストを使ってはいるが、キョーコ機にはあと一歩足らなかった。
煙幕の中から、コンテナを回収しきったアスレードが現れて飛んでくる。
『気持ちはわかりますが、こんなやり方は間違っています! ここは一旦引いて貰えませんか?』
歩がオープン回線で迫り来るシェイドに交渉を持ちかけた。
『現在、ラストホープでバレンタインの中止を賭けてチョコレートの争奪戦を行っています。そこで改めて勝負しましょう。大丈夫、きっと中止派の方々は貴方を受け入れてくれますから』
冗談としか思えない内容が流れ、キョーコは緊張した面持ちで様子を見る。
シェイドがゆっくりと歩機へと近づいた。
『‥‥てめぇらの事情なんざ知るかよっ!』
アスレードの叫び声と共にシェイドは加速し、歩機をソードウィングにて一刀両断。
空中に散ったコンテナをワイヤーを射出して回収していった。
「歩‥‥ごめんよ」
撃墜された歩機を見送ると、キョーコは更に加速してシェイドを振り切ろうと飛翔した。
だが、絶対的な加速度の差が距離の差を縮める。
『さっさと、全部おいていけ。そうすりゃぁ、あいつみたいに落ちることはねぇぜ?』
野卑た笑みを浮かべているだろう声がシェイドから響いてきた。
その優位に立った様子を聞いて、キョーコは軽口を叩く。
『アスレード、ここは一つ取引と行かないか? こんどあたしが手作りチョコをプレゼントしてあげるからこのカカオは見逃すってのはどうだい?』
操縦に専念しつつ、キョーコはシェイドの様子を見た。
『どいつもこいつも‥‥てめぇらに教えてやる。俺はなぁ‥‥命乞いをする奴ぁ大っ嫌いなんだよぉぉっ!』
シェイドの周りにに『何か』がまとわり付く。
キョーコはそれが何かを確かめるまもなく、シェイドから伸びたワイヤーでアンジェリカはミキサーにかけられた野菜のように斬り刻まれた。
コンテナすらも刻んだため空中に散らばるカカオ豆だったが、それも余すことなくシェイドは取り込む。
『‥‥そんなに欲しいならあげるわ、下に落ちたら食べられないわよ』
アスレードがカカオ豆を回収し終わった頃、ラウラ機がコンテナをひとつ破棄し、誘うように飛んだ。
●絶対防衛
「爆発音が5つ聞こえたということは‥‥少なくとも40個のうち半分近くは失ったということか」
絃也は真っ暗なレーダーを見つめて、息をつく。
操縦桿を握るグローブが汗でべっとりしているのがわかった。
『4時の方向からお客さんがきたよ! 距離を大分稼いでいたおかげでそう簡単には追いつけないはず』
僚機のヴァレスからそんな言葉が聴かされる。
「だが、こっちはブーストがあと一回が限界だ。追いつかれる可能性は高い」
二回ほどブーストを使って稼いだ時間も縦横無尽に駆け抜けるシェイドにとっては焼け石に水かもしれないが、やらないよりはましだ。
『もう少し、あとに使いたかったけど‥‥追いつかれそうになったら一発とばそうか』
「そうだな‥‥ちっ、もう、来たか」
シェイドの飛行音が大きくなってくる。
二機のKVはブーストをかけてシェイドを引き離そうとするも、シェイドはじわじわと追い詰めてきた。
「コンテナを破棄する」
『煙幕を使おうか?』
「いらん、ヴァレスの方がまだ一回ブーストが使えるんだ。先に逃げろ」
援護を断り、絃也はコンテナを破棄しつつアスレードの接近をやり過ごしていく。
最後の一個を投下したあと、絃也は機体を反転させて攻撃にでた。
「ここで、少しでも時間を稼ぐ!」
バルカンが火を噴き、回収しようとしていたシェイドを狙う。
咄嗟に回避をするが、そのためアスレードはコンテナを手放してしまった。
『くそがっ! 死にたいらしな、てめぇはよぉっ!』
シェイドが変形をしてエネルギーをチャージしだす。
「俺がもうコンテナを持っていないとは限らんぞ、回収に来て自ら空の藻屑にするつもりか」
『ククク、てめぇからはカカオの匂いがしねぇんだよ。んな手に俺が引っかかると思ったかぁっ!』
賭けに近い挑発を絃也がすると、アスレードの嘲笑が返ってきた。
アスレードがプロトン砲を発射しようとした瞬間、ヴァレス機がソードウィングで割り込んでくる。
『こちらも少しは見てもらおう』
「ヴァレス! なぜ戻ってきた!」
絃也の叫びに、ヴァレスが答えるまもなくシェイドがワイヤーでシュテルンを縛りつけ砕いた。
「くそっ‥‥」
大破したシュテルンが墜落していく姿をみて、絃也は舌打ちをしつつも最後の抵抗を試みる。
『雑魚は黙ってろ‥‥』
シェイドからプロトン砲が放たれた。
●輸送失敗
「ジャミングが回復した? シェイドの追撃から逃げれたということ?」
悠が計器の回復をみつつ呟く。
ブーストを使いながら一直線に逃げていた兵衛と悠は特に何事もなく無事輸送できたことを感じていた。
『だめだ、他の奴らと交信を試みているが反応がない』
『こちらラウラ、応答願います』
「時枝・悠だ。無事だったのか?」
『カカオコンテナ全部捨ててしまったけどね』
『ということは、全部で9個か‥‥最低数量に若干届かなかったな』
兵衛の落胆した声が聞こえてくる。
残りが今、反応ないのならば撃墜されてしまったという先が濃厚だろう。
「撃墜された味方の回収連絡を軍にしてLHへ向かうか」
『ワイバーンだけはどうやら鹵獲されてしまったようね。コックピットだけ潰されて残りをゴーレムとかが持っていくのを見たわ』
「ドクターは無事なのか?」
『わからないけど、簡単に死ぬような人じゃないわ』
ラウラの報告を受けた悠は動揺したが、今は信じるしかないと考え直した。
『アスレードの動きにあわせて進路変更をしていたら、成功したのかもしれないな‥‥戦いで”かもしか”は厳禁だが』
兵衛の言葉に見通しの甘さを悠は感じる。
「シェイドと遭遇して無事だっただけでもよかったのかもしれないな‥‥とにかく急いで届けよう」
カカオを輸送し終わるまでが任務と自分に言い聞かせ、悠はブーストを使ってラストホープを目指して飛び立った。