●リプレイ本文
●事前練習
「おーう、みんなそろとるだがね〜?」
京都という場所には似合わない砕けた名古屋弁と共にスタジオに米田時雄が顔をだしてくる。
「はじめまして、椎野 のぞみ(
ga8736)です。IMPの方とは何回かお仕事をしましたが存在感の大きさに感動しました。ボクもあんな存在になれたらと思い参加しました」
決意を述べてのぞみはぺこりと頭を下げた。
「私もIMP募集の告知がありましたので参加させてもらいました! がんばります!」
田中 アヤ(
gb3437)は今回の参加者の中では最も立派なものをぷるんと揺らしてガッツポーズをする。
偶然にも両手で寄せているように米田には見えていたが、あえていわない。
「うんうん、やる気がある娘は俺も好きだでよ。今回のイベントをばっちり決めてくりゃぁて」
「そちが米田かや、前見たときよりも軽薄そうじゃな?」
米田がアヤとのぞみにサムズアップをしていると依頼主である平良・磨理那(gz0056)がスタジオの方へとやってきた。
アイドルオーディションをかねているとはいえ、京都市の神事である。
気になって様子を見に来たというわけだ。
もっとも、勉強がいやで逃げ出してきたのが本当の理由だが、そんなことここにいる人は知らない。
「初めまして、風雪時雨です。今回はよろしくお願いします」
ちょこちょことやってきた磨理那に視線を合わせ、風雪 時雨(
gb3678)が笑顔で挨拶をした。
「うむ、頼むのじゃ。面子がたりぬようじゃな‥‥あと、あのまねーじゃーも来ておらんの」
「そういえば、ランディさんを見ませんね?」
「米田社長、ランディさんは今日いないのですか?」
磨理那に続き、時雨とのぞみが姿がいないことを確認し、米田へと視線を向ける。
「ああ、今日は本格的オーディンションになるがや、俺が直接みることになっとるでよ」
米田は心の中で『ライディ』にがんばれ応援した。
せずにはいられなかった。
「それに臨時のマネージャーがでてきてくれたでよ。今回は彼女に任せてみるがや」
「はい、美少女一名ついかですよ」
米田が衣装部屋の方へ顔をむけると、二条 更紗(
gb1862)が凛々しい美少女巫女を連れ出してくる。
「うんうん、女の子が多いのはええことだがね」
「俺は‥‥俺は男なんだってば‥‥」
満足そうに頷く米田に対して、嵐 一人(
gb1968)は弱弱しく突っ込むことしかできない。
そして、一人(カズト)もとい『カズコ』ちゃんは本番に向けて練習に励むのであった。
●舞えよ鬼
2月3日。
節分ともいえるこの日、廬山寺で追難式鬼法楽が今年も始まった。
「何で私はここにいるんでしょうね。いや、請けたからには完遂しますけども」
叢雲(
ga2494)は神事に興味があるからと依頼を受けていたのだが、アイドルオーディションといわれ少し困惑する。
しかし、彼は断らずに赤い鬼の面に濃い赤の外套を身にまとって舞台へと踊りでた。
「たのしいこと好きだから、冥華がんばる」
普段は無口な舞 冥華(
gb4521)だが、客席から聞こえる声援と流れる雅楽の曲調に背中を押されるように口から言葉をあふれ出させる。
叢雲に続いて舞台へとあがり、自分の背丈ほどもあるシーサーペントアクスを振るってダイナミックに舞った。
青い外套が舞い、飾りとしてつけた鈴が鳴る。
「鬼踊り‥‥一通りの知識はありますけど‥‥見るのではなくやるほうになるとは思いませんでした」
目の前で踊る二人を見ながら、水無月 春奈(
gb4000)は腰に日本刀を携え、ゆったりめの黒い外套を来た上で作り物の槌を持った。
リズムに合わせて体を動かし、タイミングを見て鬼の面を被って舞台へと上がる。
3匹の鬼がそろうと、盛り上がりも大きくなった。
太鼓の音にあわせ、黒鬼が槌をおろす動きと共に舞台を踏み大きな音を出せば、両刃の剣と松明を持つ赤鬼が火の粉を散らして舞う。
青鬼が飾りの鈴を大きく鳴らして膝をつくと、曲の拍子が変わった。
普段どおりではない、アレンジされた鬼踊りが始まる。
3匹の鬼が外套と面を脱ぎ捨てると、3人の美女が生み出された。
空には紙で作られた雪が舞い降りだす。
本堂の屋根の上から磨理那がばら撒いているのだ。
「ふふ、私の踊りを楽しんで頂戴ね」
何故かおねぇ言葉を使い、化粧を施し美女としかいえない姿の叢雲が銀色になった髪をなびかせ、着物の端々から白い肌を覗かせ妖艶に舞う。
「わるいこにはいねーかー」
冥華は別の地方の鬼の台詞をいいながら、左頬にユルのルーン文字を浮かばせ宙がえりをしだした。
裾の短い着物姿で空を元気良く回ると、シャラランと鈴の音がいっそう響き渡る。
「うふふふふ‥‥」
一方の春奈は面などを脱ぎ捨てると共に日本刀を抜刀して外套を切断する技を見せ、その刃の血を舐めるような動きで客席をにらんだ。
大人しそうな彼女とは思えない迫真の演技である。
一通りもパフォーマンスを終えると、紙吹雪の中を3人の鬼女は本堂の中へと移動していった。
●浄化の歌
「くそ、人で遊ぶだけ遊んでぐっすりかよ‥‥」
凛々しい美少女巫女のカズコちゃんは髪をアップにし、タイトのミニスカートで決めていながらも爆睡している更紗をジト目で眺める。
「練習のとき、いろいろ頑張っていたようですから疲れているんですよ」
苦笑しつつも時雨がフォローを入れる。
ただ、時雨の方もしっかりと化粧をほどこされ美少女といっても過言ではなかった。
(「‥‥上手く行くかな‥‥頑張らなくちゃ‥‥」)
上が白で袴が赤のオーソドックスな巫女服を着たアヤは気合をいれる。
そして、鬼達が本堂に入るのを見届けると、舞台へと上がっていった。
本来ならば本堂内で行われる払いの儀式を見やすい舞台で行うのである。
雅楽器の調べに乗せて4人の巫女達は広がった。
「赤い星よりまいりし鬼たちよ、去りなさい!」
舞台の北の隅に動いたのぞみは、凛と響く声をだし弓を上空に向けて射る。
それと共に雪に見立てた紙が桃色の桜吹雪に代わって空を舞った。
のぞみは京都に伝わるとある子守唄を歌いだす。
バラードや賛美歌を好む彼女らしくない選曲かもしれないが、安心して眠れる世界を作りたいという想いを込めていた。
メドレーのように歌はアヤへと続いた。
♪〜〜
儚きモノに代わりて 我討とう 邪なるモノ
力無きモノに代わりて 我打とう 強きモノ
この小さき身に 風花纏いて
我撃とう 魔を破る矢を
〜〜♪
舞い散る桃色の紙ふぶきがアヤの覚醒効果によって吹く風に煽られアヤの周囲に幻想的な空間を生み出す。
「誰もが持っている望みをなくさないで穏やかに日々を過ごしてもらいたいという願いをこめて歌います。聞いてください、『むげん歌』」
アヤの次は時雨の番となり静かで、暖かい旋律が舞台の周囲を包み込んだ。
姿だけでなく、地声も高い時雨は男性ではなく女性そのものとして観客の目に映っただろう。
時雨の歌を歌って人々に願いを届け勇気を与えたいという思いはとある人からの影響だった。
「もう、開き直っていくぜ‥‥」
トリは西に立つカズコ‥‥いや、一人である。
涙を流しけなげに弓を持つ姿は観客の拍手を誘った。
男を中心とした歓声をなるべく聞かないよう弓をギターのごとく鳴らす。
気持ちを落ち着かせたあと、目を開き一人は歌いだした。
♪〜〜
昨日を見つめてため息ついて
そんな今日は楽しいか?
明日も辛いと顔伏せて
空しい今で満足か?
「何も出来ない」「無駄なこと」
そんな自分(オマエ)を誰が決めた
「人は無力」「奇跡は起きない」
そんな証明 誰もしてない!
顔を上げて拳を握り つまらない現実(いま)笑い飛ばせ!
どんな苦難も乗り越えてやれ 出来ないワケがあってたまるか
掴みたい明日に手を伸ばせ
諦め捨てたら 鬼も福に変わるのさ
〜〜♪
前半は落ち着いたバラード調、後半は激しいロック調と一人が得意とする曲で観客に「負けるな!」という思いを伝えた。
鬼にもバグアにも、自分にも負けずに挑み続けろと一人は歌った。
それは女装させられてもめげるなと言い聞かせるかのように寝起きの更紗には聞こえている。
曲が全て終わり、舞台に静寂が戻った。
●鬼は外! 福は内!
「‥‥やっぱり歌は盛り上がりますね」
歌い終わった巫女達に拍手と歓声が贈られているのを眺め、春奈は自分のことのように喜ぶ。
「さて、もうひとがんばりしましょう。終わるまでがお仕事よ」
「うん、冥華がんばる」
なぜかおねぇ言葉のままノリノリの叢雲が着物を着崩し、走りやすいように整えながら春奈と冥華へウィンクを飛ばした。
本堂から舞台の方へ3人の鬼女は逃げていく。
赤は憎憎しげに。
青は飾りを落としながら。
黒はよろめき、うろたえ、泣きながら。
そして舞台の真ん中を突っ切り、客席の間の道をそのまま駆け抜けていった。
「無事、邪気を払えましたね。それでは皆さん締めの豆まきを行いたいと思います」
司会者として更紗が舞台の上にマイクを持ってたち舞台の上の巫女達は用意されていた福豆と福餅をもつ。
「福は内! 鬼は外! 今年も元気にいきましょうね! ほら、次はそっち側いきますよー! 福は内ー!!」
アヤが元気いっぱいに豆を舞台の上から客席に向かって撒いた。
「鬼は外! 福は内!」
のぞみもアヤに習って福餅を投げだす。
多くの福豆と、福餅が撒かれそれを人々が拾い始めた。
「おみゃあさん方もお疲れだがね」
遠くよりその光景を眺めている米田の下へ逃げてきた3人が到着する。
「盛り上がっている声が背中に聞こえてきてましたね」
「すごく楽しかった」
「ふぅ、これで終わりですか。思ったより短かい感じです」
三者三様に感想を述べていると、米田が叢雲の肩を叩いた。
「おっと、君にゃあ最後の仕事がのこっとるでよ。しっかり頼むだらぁ」
米田の手には明るい色合いの巫女装束が握られている。
「最後の厄払いもですか‥‥ええ、やらせていただきましょう」
叢雲は妖しく微笑みながら、その衣装を受け取った。
●全てが終わり
「皆のもの、お疲れじゃったな。今年は例年以上に盛り上がり、妾も満足しているのじゃ」
扇子を広げ、笑顔で磨理那は能力者達を労う。
厄払いまで無事終えた一同はそのまま磨理那の屋敷へと客人として迎えられていた。
「人前で歌のは初めてだったから、少し緊張したけど、たのしかったー! これ手作りの蒸し饅頭です。皆さん食べてください」
のぞみが満足といった笑顔で差し入れを配り始める。
「‥‥そういえば、アイドルオーディションも兼ねているんでしたっけ? 希望される方がみんなアイドルになれるとよろしいのですけど‥‥」
「嵐様も希望されていましたよね?」
「冥華はこういう楽しいことがいっぱいできるならアイドルになりたいな」
普段着に着替え終わった春奈や冥華、更紗も座布団に座り、蒸し饅頭に手を付け出した。
一人や時雨も含め、カンパネラ学園生同士はやはり気になるものらしい。
「周囲が結構もりがっているからな、ALPだかIMPだかどっちになるかわからないが、なれるならなってみたいぜ」
お茶を飲み、一人は答えた。
「あいどるというものを選ぶ基準がどうなのか妾にはわからぬが、一ついえることはそち達はこの京の民に元気を与えたのじゃ。きっと、そういう素質があるということなのじゃろう」
ずずとお茶を飲み、磨理那が話に入る。
「歌で人を元気づけれていければ、本当にいいですよね。自分もそうあり続けたいと思います」
蒸し饅頭を頬張り、時雨は磨理那の頭を撫でた。
「ええいっ! 妾に触るでないっ!」
気恥ずかしさか磨理那は顔を赤くしながら手を払いのける。
「ふふ、そういえば一人さんは米田さんに『カズコちゃん』のままで覚えてもらっていませんでしたっけ?」
微笑ましい光景の中、春奈の一言が場の空気を換えた。
この場に米田はいない。
「おい、俺のアイドルって‥‥いや、まさか‥‥」
一人の背筋に冷たいものが走った。
「デビューしたらファン一号になりますからね、安心してください。どんな嵐様でもそれは嵐様ですよ」
更紗がフォローしているのかしていないのかわからない台詞と共に笑顔を向ける。
「ははは、諦めた方がいいとおもいますよ。人生諦めが肝心といいますから」
叢雲の言葉がトドメをさした。
「俺は‥‥女装デビューだけはいやだぁぁぁぁっ!」
京都の冬空に一人の声が大きく響く。
しかし、ちゃんとオーディションの合格通知には男性アイドルとして登録がされていた。