●リプレイ本文
●黒の巨人
プエルト・プラタ。
かつて、新大陸の発見の足がかりとしてスペイン人が降り立った地。
今、その地に鋼の巨人が空から舞い降りた。
「そこの機体‥‥誰か乗っているなら答えろ」
軍事警察の戦車隊を踏み潰している黒いゴーレムに対して、漸 王零(
ga2930)は立ちはだかるように機体を割り込ませた。
黒いゴーレムは返事の代わりに目を光らせた、戦車隊から王零の雷電へと目標を変えて左手でパンチを繰り出す。
「街中で暴れることがバグアの意志でないというなら場所を郊外に移して戦え」
拳を受け止め、王零は威圧するような低い声をだした。
すると、ゴーレムは肩のドリルを地面へと射出し、地中へともぐる。
『王零殿、きゃつは北の高台に移動しているようじゃ。アースクウェイクと違いレーダーで確認できる程度でなによりじゃ』
上空からはバディとなっている藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)からの声が聞こえてきた。
「連中が何を考えているのかわからんが‥‥あのまま放っておくわけにもいかないか」
王零は独りごちるとレーダーに映る機影を追いかけだす。
その足元で一つの影が動いたことに彼は気づかなかった。
●島国の現状(いま)
「地図もらうよ。なんか、街が騒がしいね?」
月森 花(
ga0053)がインディースを売店に横付けし、地図を買う。
「あそこに見える基地からUPCが撤退してから、軍事警察がでばるようになってね。まぁ、もう慣れちまったよ」
店のおばさんは歴史ある要塞跡地の方を指差し、ため息交じりに答えた。
「最近、人の出入りってあるのですか? 怪しい人を見たとかありませんか?」
花と共にインディースから降りた金城 エンタ(
ga4154)がおばさんに聞き込みを始める。
「まだ、完全に制圧されたってわけでもないからね。軍人さんがメインだけど行き来はしているよ。バグアの方もUPCの基地を大きく壊した以外は特に何もしてこないからねぇ。お陰でこうして店をひらけているわけさ」
「微妙な状況なのですね‥‥」
話を聞くとエンタは不思議に思った。
なぜ、大きく侵略をしないのかと‥‥このドミニカ共和国という場所に何があるというのか‥‥。
「ああ、あとはあれだ。隣のハイチとは国交ができなくなっているね。元々仲がいいってわけでもなかったけれど‥‥余計にね」
「エンタ君、ルートを絞ったからいってみよう?」
「はい。ご協力ありがとうございました」
地図とにらめっこしていた花が、目ぼしいルートを絞り終えるとインディースへと乗り込む。
「あ、そうそう。そういえば最近日本のサラリーマンみたいな人が来ていたよ。名前は宇佐木さんといったわね」
エンタも花に続いて乗り込むときにおばさんから一つの名前を聞かされた。
「サラリーマンの宇佐木‥‥」
探している親バグア派かどうかわからないが、一つのヒントを二人は得る。
「おばさんも気をつけてね? それじゃあ、また来るね」
花はおばさんに再会を約束すると、インディースを勢い良く走らせた。
●魚座の男
UPC北中央軍の基地は完全にバグアに制圧されているため、KVを置くことは無理だった。
そのため、最低限の生身での行動できる装備を整えて美空(
gb1906)とセラ・インフィールド(
ga1889)は降り立つ。
「ズバッと参上、ズバッと解決できれば誰も苦労しないでありますよ」
「それは何なの?」
「大昔の特撮DVDで言っていたのであります」
ボロボロになった軍事警察の戦車や負傷者達のいる中を二人がバイク形態のミカエルにタンデムをして走り去る。
話を聞けばゴーレムが地下を通って現れ、地下を通って移動しているとのことだ。
「過ぎ去った跡地は盲点となるのですから、きっと動きがあるですよ」
何処から湧いてくるのかわからない自信を持って美空はゴーレムとKVの戦っている丘の方へと突き進む。
「そうだといいので‥‥美空さん、後ろっ!」
セラが偶然後ろを向いたとき何かに気づき、大きな声を上げた。
ミカエルは脊椎反射でもするかのようにキキィと音を立てて傾く。
ごおぅという音が美空とセラの頭上を通り過ぎた。
音の正体が衝撃波だと気づいたのは通り過ぎた先の家屋が砕けてからである。
「ちっ‥‥運のいい奴らだ」
衝撃波を放ったであろう本人が姿を現した。
軍服のような茶色のズボンに上着を腰で縛っている金髪の男。
「アスレードであります! 無線で連絡を‥‥」
「通じるわけねぇだろ? 馬鹿かてめぇら」
アスレードがクククと笑いながら二人に近づく。
その言葉通り、無線機からはノイズしか聞こえてこなかった。
「ここでやるつもりですか?」
「暴れるつもりはねぇ。俺様ぁ、優しいからな‥‥。大人しくLHに帰れ。そうすりゃあ命を無駄にしねぇだろうよ」
剣と盾を構えたセラにアスレードは含み笑いを続けて見下げる。
「一体、この国で何をしようというのでありますか!」
ミカエルを着込んだ美空がアスレードに向かって指をつきつけた。
「てめぇらが知る必要はねぇ‥‥おっと、時間だな。今日の俺様は機嫌がいい‥‥見逃してやるから、せいぜい命を大事にすることだなぁ?」
美空のことなど眼中にないのか、アスレードは腕時計を眺めると、北へ体を向けた。
そして、軽く一歩踏み出すような動きのあと、ドォゥと大きな風を起こして姿を消す。
「何だったのでしょうか‥‥」
「わからないですが、誰かと合流してこの情報を伝えるのが先であります」
ミカエルを再びバイク形態へと戻すと、タンデムをしなおして二人は街の中心に向かって走りだした。
●我、遭遇せり
『敵は一人。そして長と一緒に動いているというのであれば‥‥亡命する可能性が高い。隣国のハイチはUPC領だとすれば港周辺の方がありえる』
アンジェリナ(
ga6940)はその考えの下、セレスタ・レネンティア(
gb1731)と共に犯罪者を追っていると称して港の周辺を車で回る。
「‥‥バグアも色々と手を回してきますね‥‥」
「だが、こういう状況を食い止めなければイタチごっこは終わらない。解放しても競合地域が敵に回っていてはな」
ジーザリオを運転するセレスタにアンジェリナは外を眺めながらぼやく。
そのときだ、目の前をサラリーマン風の男がランドクラウンのような車で通り過ぎた。
「セレスタ、とめてくれ‥‥今、私達の向かっている方が街の中心だったな?」
「そうですが、どうかしましたか?」
「今の車が気になる‥‥あのサイズの車だトランクに人が入っていても不思議じゃない」
車を止め、疑問に思うセレスタへアンジェリナが順を追って考えを話していく。
「今の車を追おう。このまま真っ直ぐ行くように見せかけ、裏道に入っていけば気づかれにくいはずだ」
「了解です」
地図を持って指示をだすアンジェリナのセレスタは従いジーザリオを走らせた。
バックミラーに先ほどの車の姿が見えなくなったことを確認すると裏道へ曲がり、ブーストを使って一気に加速する。
「こちらはC班だ。今、怪しい車を見かけたので追いかけている。近くにいたら協力を頼む」
無線機に向かって話すアンジェリナだったが、返事はノイズでしか返ってこない。
「ジャミングが強すぎるか‥‥定期合流ポイントを作っておくべきだったか」
予想以上のジャミングの強さにアンジェリナは苦虫を噛む思いだった。
●決着
「ええい、この‥‥よし、王零殿! 押し出すのじゃ!」
黒いゴーレムのボディに藍紗のアンジェリカが放つスパークワイヤーが巻きつく。
人工知能のゴーレムらしく、歴戦の傭兵二人の攻撃に対処しきれず翻弄されていた。
掘削機のようになっている右腕もはじめにもがれ、満身創痍である。
『零距離‥‥殺ったぞ! Karma・Wear・Breaker‥‥‥‥遠慮はいらん全弾持ってけ!』
戦闘の最中、王零機が懐へともぐりこみ、機杭「エグツ・タルディ」を構えた。
炸薬が弾け、黒いゴーレムのどてっぱらに三発の杭が立て続けに撃ち込まれる。
穴の開いたゴーレムはよろめきながら倒れ、爆破した。
「わりとあっけなかったのぅ?」
『次が来るかもしれない‥‥このまま警備体制をとるとしよう』
手ごたえのなさを不思議に感じる藍紗だが、王零のいうようにこのまま警戒行動に移る。
倒した敵の残骸からも何かわかるかもしれないのだ。
『おーい、ゴーレム倒せたんだね?』
ゴーレムの残骸を回収しようとした藍紗機の足元にミカエルが止まり、美空とセラが手を振る。
「おお、美空殿にセラ殿か。そちらの調査はどうったのじゃ?」
『街中を探してみたけれど見つからなかったですが、来るときにアスレードに会いました』
「アスレードはやはりここに着ておるのか‥‥目的はなんじゃろうか‥‥」
コックピットの中で話をききつつ、藍紗は首を傾げた。
戦略的拠点のための襲撃というには先ほどのゴーレムはあまりにも力量不足である。
『そういえば、アスレードは時計を見て時間がどうのいっていたのであります』
『まさか、長を国外へ連れていくとかでしょうか‥‥』
「人の心は移ろいやすい‥‥何とか、引き戻せればよいのじゃが」
セラの言葉に思うことがあるのか、藍紗は一人呟く。
そのためにも、プエルト・プラタの長を確実に”UPC(こちら)”側に確保しなければならないと藍紗は思うのだった。
●交渉人
「そこまでです。大人しくご老人をこちらに引き渡してください」
寂れた港の一角、ランドクラウンのような外車のトランクから老人を出したスーツ姿の男に向かって、セレスタはサブマシンガンを構えた。
「こちらに気づかれていたか‥‥Black−Gを囮にして行方をくらませたはずだが、頭の回るものがUPCにもいるようだな」
スーツ姿の男は老人を下ろし、サングラスをかけたままでセレスタの方を向く。
「抵抗さえしなければ、傷つけるつもりはありません」
「お前達はいつもそうだ。建前ばかりを立てて、本音をひた隠す」
セレスタは男に銃を向けながら、目配せをした。
すると、物陰に隠れていたアンジェリナが飛び出し長を保護する。
あっさりと奪い返されたが、男はアンジェリナを一瞥しただけで、セレスタへ視線を戻した。
「たとえ、今ここで当人を捕まえたとしても‥‥その男が市民の安全のために町を売ろうとしたことは変えられない事実だ。そして、UPC北中央軍やドミニカ共和国軍事警察のいざござに疲れているのが本当の一般人の姿ということをお前達傭兵はもっと知るべきだ」
男は真っ直ぐにセレスタを見て、凛とした声で語りだす。
「大人しく返すつもりだというのか? お前の目的はなんだ」
アンジェリナが氷雨を抜くと、男はシュンという音と共に30mほど間合いを取った。
「名乗っておこうか。私は”ネゴシエイター”宇佐木・澄元だ。この地の平和的な制圧を我が主、アスレード様より受けている」
「あなたは体もバグアに売ってしまったようですね‥‥」
セレスタは頬を汗がたれるのを感じながらもサブマシンガンの銃口を宇佐木に向け続ける。
「それが私の交渉だ。人間だけの世界に見捨てられた家族のために、私は己の全てを捧げたのだ」
宇佐木が力強く吼えると、上空から別の影が姿を現した。
「しゃべりすぎだ、てめぇは‥‥だが、そのお陰でいろいろ役に立ってもらっているからなぁ」
金髪で軍服を着崩している若い男‥‥アスレードである。
「帰るぞ、ネゴシエイター。パーティの準備が整ったようだからなぁ」
アンジェリナとセレスタに興味がないのか宇佐木に対してだけ、アスレードは話しかけていた。
「また会えた‥‥ねぇ、ボクのバレンタイン受取ってよ。今度はペイントじゃなく‥‥鉛の弾をさっ!」
刹那、宇佐木が乗ってきた車の影から花が二丁の拳銃を抜き出しアスレードに向かって引き金をひく。
ダダダンと銃弾がリロードする間もなく叩き込まれた。
「俺様は機嫌がいい‥‥てめぇらと遊ぶのはまた今度にしてやるぜ‥‥それとも、この場でこの長を殺してやろうか? ククク」
飛んでくる弾丸を全て拳で掴むようにして受け止め、アスレードは鮫のように笑う。
「こっちこそ‥‥見逃してあげるよ」
笑うアスレードに怒りを感じながらも花は銃を下げて、長を連れたアンジェリナたちと共にその場から離れるのだった。
●国のことを考えて
「長への確認の結果‥‥長が、男から聞いた現在の戦局は‥‥多少誇大気味ですが、概ね間違いないものです‥‥」
エンタが依頼の結果を依頼主であるUPC北中央軍の仕官に向けて話している。
長の保護は無事に終わり、当人にはバグアに加担しないよう話したあとだった。
「なるほど‥‥つまり、やはり個人的判断にて裏切りを図っていたのは事実だったのだな?」
報告書に目を通していた仕官はエンタを見る。
「確かに、住民意思の確認をしていなかった事は、叱責に値しますね。下手をすれば、大量虐殺の憂き目に遭っていましたから‥‥」
目をそらさず、エンタはそのまま仕官へと説明を続けた。
「彼にこのまま責任ある立場をやってもらうわけにもいかないな。最低でも解任をして後任を選んでもらわなければなるまい」
「ですが、軍も絶対の安全を保障できない状況下で‥‥住民の生存権の確保を優先して出した判断として、著しく間違ったものではないのですし、荒立てるのは良くないと、僕は思います」
「我々としても一時的な撤退を余儀なくされたのは事実だからな‥‥ドミニカ共和国の軍事警察の方に治安維持を仕切られているほどだ。UPCの庇護というより独立運動への機運が高まることも我々の懸念材料なのだ」
仕官は愚痴に近いものをこぼす。
「おっと、今のは聞き流してくれたまえ。長の処罰は保留としよう。あと、報告書にある宇佐木・澄元という男の身元についても調べておく」
「わかりました。これで報告を終わります」
形式的な敬礼を行い、エンタは部屋をあとにする。
バミューダトライアングルに近い島国はいろいろな思惑が混ざりあり、混沌の様相を見せていた。