タイトル:【El改革】夢の翼マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/30 20:43

●オープニング本文


「あ、あのっ! エルドラドに診療所を作るために一緒に航空ショーをやってください!」
 大きな看板を持った少年がUPC本部で声をだしていた。
 栗色の髪をし、レシプロ機にのるパイロットのような格好の上、華奢な体が看板に引っ張られるようにゆれる。
 少年の名前はパットリオ・クルース。
 ダンデライオン財団の発足者であるロイド・クルースの親類という話だ。
「上手くいかない‥‥でも、がんばらなきゃ‥‥」
 道行く傭兵はパットリオの前を通り過ぎる。
「少し、休憩‥‥しよう」
 なれない勧誘作業をして、疲れたためパットリオは看板を下ろした。
 看板に書かれている報酬額は0である。
 診療所を一つ立てるためには膨大なお金が必要なため、無料奉仕で呼び込みたかったのだ。
 ここ数ヶ月をエルドラドでは断続的な医療支援より、長期的に診療する場所が必要だとパットリオは感じている。
(「あの国をもっと良くしたい‥‥どうして、同じ人間なのに助けあえないんだろう‥‥」)
 一息ついたあと、パットリオは看板を掲げなおし再び声を出して呼びかけをした。

●UPC大西洋空軍基地
「ここで航空ショーか。俺達はやらなくていいんですか?」
 執務室で書類を眺めていたジェイド・ホークアイ大尉はジェイコブ・マッケイン軍曹に聞いた。
「エルドラドへの支援策だぞ? おおっぴらにできるもんかよ」
 安いタバコの煙を大きく吐き出したマッケイン軍曹はサングラスを光らせた。
「昔は一緒に飛んだもんですね‥‥バグアが来る前までは空をただ飛ぶだけでも嬉しかった」
 懐かしむような目でジェイドは窓から外をみる。
「昔か‥‥あのころからまともに空を飛んでいるやつは片手で数えれるくらいになっちまった‥‥」
 普段の厳しさはなく、落ち着いた口調でマッケイン軍曹もジェイドに習って外をみた。
 まぶしい太陽が光っている。
「一つだけいえるんだが‥‥命令違反は昔からなくなりゃしねぇんだ‥‥」
 マッケイン軍曹はサングラスの奥にある瞳を細くした。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
常夜ケイ(ga4803
20歳・♀・BM
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
オブライエン(ga9542
55歳・♂・SN
ティル・エーメスト(gb0476
15歳・♂・ST

●リプレイ本文

●訓練
「経緯は兎も角、あの場所に希望を求めて集まった連中には罪は無いしな。それに、愚直なまでに青臭い理念も嫌いじゃない‥‥ま、とりあえずはしっかり成功させますかね」
 ゲック・W・カーン(ga0078)はイビルアイズのコックピット内で呟くと地上の基地へと降り立つ。
 北米にあるUPC軍大西洋空軍基地は空の勇士イーグルドライバーたちの巣だ。
「この基地の責任者であるジェイコブ=マッケイン軍曹だ。航空ショーの準備には手を貸すが実作業はおこなわんぞ」
「準備ですか‥‥それでは墜落しないように訓練をしてもらうのも準備のうちですよね? あいにくと航空ショーでKVを扱うのははじめてですから」
 綾野 断真(ga6621)が敬礼をしながら、ジェイコブの言葉にある隙をつく。
「若造がっ‥‥では、アクロバット訓練を『特別』に行ってやろう。ホークアイ大尉、ミタライ少尉、貴様たちが指導してやれ」
 ジェイコブの言葉に二人の軍人がサーイェッサーと敬礼をして答えた。
「軍曹さんよ、いつも航空ショーを行っている場所とか見学ラインとかその辺教えてもらえるかい? あと実況したいんで見渡せる場所もな」
 Loland=Urga(ga4688)がツナギ姿で崩し気味の敬礼をしつつ問う。
「傭兵は上官に対する教育が行き届いてないようだな。今回は教習に来ているわけではないので大目に見てやる。だが、この基地で問題が起きた場合は徹底的に性根をたたきなおしてやるから覚悟しろっ! ‥‥ついてこい」
 一喝したジェイコブはエプロンと呼ばれる駐機場へと案内をしにいった。
「なんか今日は丸くないか?」
「微妙な年頃なんだよ。あの人も‥‥さて、雑談はこの辺にして一応、そちらで考えてきた飛行プランを見せてもらおうか」
 軍曹の態度に違和感を感じたゲックにジェイド・ホークアイ大尉は答える。
「あ、あのこれです」
 パットリオが傭兵たちから預かっていた書類を大尉へと手渡した。
「大体はいいんだが、この募集した絵はやめておいたほうがいい」
「い〜じゃないっすか、減るものでもないんですし」
 常夜ケイ(ga4803)が馴れ馴れしく大尉に詰め寄ると、キヨシ=ミタライ少尉がケイを宥める。
「突発で絵を描こうとすると編成が大変ですから。誰がどの線を描くか決めるのもその場ではだれてしまいますから」
「その代わり、言葉の書き方を教えよう。大文字アルファベットなら縦3人横3人で大体描ける」
「絵だとうまい下手も出ますが、言葉ならシンプルに良し悪しきめれそうですね」
 大尉の意見に断真はなるほどと頷いた。
「おーい、エプロンに予備機下ろしていくから、滑走路をあけてくれ」
 遠くから叫ぶLolandに答えるよう一同は離陸準備に取り掛かる。
 通常一依頼一機だけの貸し出し権を何とか増やしてもらっての航空ショーだ、失敗はできない。

●選手紹介
 翌日の天候は晴れ。
 透き通るような日差しにエプロンに配備された予備KVたちがさらされていた。
 そして、演技を行う滑走路に航空ショーを行うティル・エーメスト(gb0476)が人型のウーフーで入ってくる。
『ティル・エーメストです。これでも小隊長を務めております。僕の乗る機体はウーフーと言う名の戦いながら、皆様を勇気付けることのできる電子戦機です』
 ティルの声が手を振りながら歩く機体から聞こえ、その後ろからはオブライエン(ga9542)の重厚なKVが続いた。
『わしはオブライエン。そしてこいつは雷電。見てのとおり頑丈に作られておる。戦場では仲間の盾として常に共に戦って来た』
 銀河重工製の高級機を前に観客は大きな声をあげる。
 中々見られない機体のため、写真を取り出す人も多かった。
「彼と戦闘以外でも一緒に飛べるなんて、これほど嬉しいことはないです♪」
 オブライエンに続いたのは御崎緋音(ga8646)である。
 恋人であり婚約者となったレイアーティ(ga7618)との参加だ。
 緋音の桃色カラーの雷電とレイの白一色に塗装されたディアブロがそろって出てくるとエプロンにいる観客は大いに沸く。
『KVレッドマントをつけてきて正解でしたね』
 歓声を聞いた恋人からの優しい声が緋音の耳に届いた。
「はい、エプロンのKV達にも喜んでいるようで嬉しいです」
 断真の持ってきたテンタクルスや、オブライエンのリッジウェイ、レイアーティのS−01Hに緋音のバイパーと多様なKVが並んでいる。
 許可を取れてよかったと心から思う。
『レディース&ジェントルメン! ボーイズ&ガールズ! さあ、航空ショーの始まりだぜ!』
 ダウンジャケットにブレザースーツ、ヘッドセットマイクまでつけたLolandがエプロンに用意されたタラップの一番上で声高らかに開始を宣言した。
 拍手がおこると、8機の集まったKV達が走輪装甲で滑走路を走り出す。
『まずは、シングルとペアによるアクロバットショーだ。目を閉じると見逃すぜ!』
 Lolandの紹介と共に鋼鉄の騎士は鷹となり青い空へと羽ばたいた。

●空を舞う
 ソロであるゲック機とオブライエン機が残りの機体に先駆けて急上昇をする。
 銀色の雷電と金色のイビルアイズが日光を浴びて目映く光った。
 雷電が途中で反転し、急降下をしていく。
『おおぉっと、トラブル発生か!』
 観客の緊張をあおるようなLolandのアナウンスが響くとどよめきが起きた。
 滑走路にぶつかるかと思ったときに雷電は機首をぐっとあげて四連バーニアを大きく吹かして飛び上がり、バレルロールなどのマニューバを行う。
 イビルアイズは雷電よりも上空で自由に空を飛びまわっていた。
「こちらも負けていられませんね。大丈夫、昨日練習した通りに動けば成功しますよ」
 断真はペアであるパットリオを励ましつつ大きく会場の周りを飛行し続けて慣らしを行う。
『は、はい‥‥やさしくしてくれて‥‥。あ、ありがとうございます』
 緊張しているのかぎこちない返事が返ってきた。
「そろそろソロの二人が終わりのようですし、出番ですよ」
 イビルアイズが自由落下をしつつ人型へと変形し殺陣のような動きをしているのをみて断真はペア演技をする全員に声をかける。
『りょ‥‥了解です』
 幾分か落ち着いたパットリオの声を聞いて断真が安心していると、眼下で雷電が人型に変形し、Vサインをしていた。

●空で踊る
「よーし、いきますよ!」
『テイクオフ、レッツダンス♪』
 ケイのウーフーがティルのウーフーの後ろに付きつつ共にクルクルと横に回転しながら螺旋状に飛ぶバレルロール。
 さらに、180度ループから180度ロールをつないで旋回するインメンマルターン。
 そして、三次元的に二機が交差するスラロームを描くローリングシザースと大きく飛びながらマニューバを続けた。
「いい感じにできましたね。機体が一緒だとあわせやすいです」
 青い空の下思いっきり飛べたことにティルは興奮を覚える。
 視線の先ではレイアーティ機と緋音機が異なる機体だが、息のあったダンスを踊っていた。
 レイアーティ機が緋音機を追いかけていたかと思えば緋音機がくるりと回転しレイ機の後ろにぴったりとつく。
「あちらはあちらですごい技術ですね」
『良いものですね、戦いの無い空というのは。たとえ今だけだとしても‥‥』
 飛び終え、着陸前のレイアーティが感慨深げに呟いてきた。
『もうレイさんの足手まといにはなりませんから、これからもずっと一緒に飛びましょうね』
「とってもご馳走さまです」
 ティルはそういい着陸に向けてのロールを行う。
『にゃにゃ、待ってにゃ〜』
 その後をケイ機があわてて追いかけ、プログラムの一つが終了した。
 
●スナップ回収○×クイズ
『よい子の皆ー! かっこいいKVの写真が欲しいかー!』
「「おー」」
 Lolandの司会で次のプログラムである○×クイズが始まりだす。
 優勝者にスナップ写真を渡すという予定だったが、問題を考えた軍曹にどうせなら一問一枚で配れといわれその方向になった。
 また、全機で飛ばずにゲックがLolandのS−01で飛ぶ。
 激しいマニューバを行っている分、不具合が出ないように適切なメンテナンスが必要なのだ。
「やぁ、パットリオさん。お疲れ様」
 断真がコミュニケーションがてらにパットリオへドリンクを持ってきた。
「あ‥‥ありがとう‥‥ございます。皆さ、んすごいです。いろんな空を飛んで経験豊富で‥‥ボクなんか全然ですよ」
 パットリオはドリンクを受け取るとチューチューとストローで飲みだす。
「そう硬くなる必要は無い。わし等もおるんじゃからな?」
「ひゃぁ!?」
 オブライエンがパットリオの肩を揉むと、甲高い声を出してパットリオは驚いた。
「緊張しすぎていたかの? もっと心穏やかにするのじゃぞ。焦って高みを目指してもいかん。戦場に急ぐのもいかんぞ?」
 あまりの驚きぶりに逆に驚いたといわんばかりのオブライエンがパットリオを見ながら静かに語る。
「エルドラドを支援したいという話でしたが、どういった理由で?」
「ボクは‥‥ダンデライオン財団のエルドラド支援隊にいました。でも、時折配給したりとかだけで、ずっと、いれるわけじゃなかったから‥‥」
『一問目の答えは○だー! 正解した子達には今、金色の新型イビルアイズの写真をあげよう』
 パットリオがぽつぽつと話すなか、○×クイズで観客は盛り上がっていた。
「変わろうとしていますからね‥‥今回の募金でよりよい方向に向かって欲しいと思います」
 断真が微笑むとパットリオもはにかむように微笑む。
「ボクは‥‥皆さんと出会えてよかった、です。エルドラドのことを考えてくれる人が協力してくれて‥‥」
「うん、一緒にがんばりましょう。募金集めもありますからね」
 ティルがパットリオの両手を掴んで立ち上がらせた。
「これが慈善という日本の風習なのですよ。さぁ、パット君も一緒に集めに行くにゃ」
『二問目の答えも○だー! ○で次は×と思った人は残念っ! マントを翻すディアブロのスナップは正解した人へのプレゼントだ』
 Lolandが司会を行う人ごみにケイはパットリオと鍋をひっぱって向かう。
 冬だというのに暖かな風が吹いた。
 
●KV馬とび&スモークイリュージョン
『KVで馬とびをするなんて面白いこと考えますね‥‥速さを一定に保ちながら飛んでください。座標の確認だけは確実に』
「気をつけていきますが、そちらでも変化をみていてください」
 レイアーティは前日に教習を受けたミタライ少尉からの指示をうけつつバレルロールで前方の機体の鼻先につく。
 シザースの応用といえばそれまでだが、ギリギリませ狭めてやるのは危険度が高かった。
 大きな円を描くように馬とびをでKV達が進みだす。
『KVによる馬とび。本来の馬とびとは違うが、雰囲気は味わえたかな? 楽しめた奴は拍手!』
 わーという歓声と共に拍手の音がLolandのヘッドセットからレイアーティのコックピットへ流れこんできた。
『レイさん、いきますよ♪』
「次の技ですか‥‥二人で平和のハートを描くとしましょう」
 緋音の呼びかけに答え、二人は桃色のスモークを放ち弧を描くように上昇する。
 観客から見やすいように低高度での演技だ。
 互いの速度をあわせハートの欠片を綺麗に描く。
 半円を描いたところで交差し、スモークを切ると共に飛びぬけば大きなピンク色のハートが青空へと浮かび上がった。
『俺達は六芒星を描くぞ』
 イビルアイズに乗り換えたゲックがトップを走り、残りの5機が一度円状に広がる。
 そして、スプリットSとインメンマルターンと共にスモークを放ち、互いにぶつからないよう調整した絵が上空に描かれた。
『ハートと六芒星が綺麗に決まったぁー! 彼らに惜しみない拍手をしてくれ!』
 Lolandの声と共に大きな拍手が空を飛ぶ能力者達に捧げられる。
『よし、これでラストだ』
 ゲックが一人、集団から外れるように飛び出す。
 向かう先は南米のブラジル方面‥‥つまり、エルドラドの方向だ。
 黄色い筋が一直線に伸び、緋音とレイアーティの作ったハートの真ん中を射抜く。
 エルドラドへ向けたゲックなりのメッセージだった。

●最後の言葉
『さぁ、ラストは皆から募集した好きな言葉のうちの一つを空に書くぞ。注目していてくれよ』
 LolandのMCと共にパットリオとケイを覗いた6機が空を飛んで文字を書き出す。
 BGMにはケイがソニックフォンブラスターを使ってウーフーから歌を流した。
 
 ♪〜〜
 
夢の翼は風に揺られて
 虹と太陽、乱舞のひと時
 歌声高く、沸く雲に、翔けろ若い魂よ
 あふれるパワー、飛び出せスピード

 ここは空飛ぶ黄金渓
 雲の谷間はエルドラド

 白煙散らして、踊ろうよ
 きっと素敵な何かに出会えるよ

 だってだって緑と青空、エルドラド
 見上げる心に翼が生える
 雲をつかむ夢もかなうよ、きっと

 大きな星をつかもう

 〜〜♪

 歌が終わると共に空に一つの言葉が完成した。
『Dreams Come True』
 夢はきっと叶う。
 平和になって欲しいという夢。
 空で飛び続けたいという夢。
 エルドラドを良くしたいという夢。
 いくつもの意味が込められている言葉になった。
「今の言葉を考えてくれた子はこっちに来てくれ、俺から素敵なプレゼントがあるぜ」
 Lolandが子供の視線に合わせるようにかがみ、持っていたパンダのぬいぐるみを手渡す。
 拍手が受け取った子供に対して捧げられ、航空ショーの盛り上がりは最高潮となった。

●集計結果

 航空ショーによる募金は200万Cという大きな額となった。

 ボク一人だけではできなかった大金で、ボク自身驚いた。
 
 立派な診療所とまではいかなくても少しは目処がついたかもしれない。
 
 一緒に空を飛んでくれた人たちにありがとう。
 
 パットリオ・クルース