●リプレイ本文
●仕事の幅を広げるため
「えっと‥‥米田さん? 凛、色んな事にチャレンジしたくて、今回は宜しくおねがいします」
勇姫 凛(
ga5063)マネージャーのとってきた仕事の依頼人に向けて頭を下げる。
「誰かと思ったらヒメちゃんでなーか。怪獣映画俺もみたでよ〜」
畏まって挨拶をする凛に米田のほうは気さくに答えた。
「今日はよ、よろしくお願いしますっ! 学園アイドルからと思いましたがチャンスをものにしたくて参加させてもらいます」
「私は‥‥自分の可能性に賭けてみたいのです。よろしくお願いします」
カンパネラ学園生であり、『闇の生徒会』という組織に属する天戸 るみ(
gb2004)と鬼道・麗那(
gb1939)はそろって礼をする。
「かわいい子が多くて俺もうれしいがね〜。フレッシュにIMPを盛り上げてほしいだら」
「今回はモデルだけど‥‥皆に励まされた私だから、今度は誰かを励ませるような歌を歌いたい」
祈良(
gb1597)はぶっきらぼうな言い方だが、やる気のある強い目を米田に向けた。
「うんうん、やる気があるのはええがね」
「すみませーん、スタジオの準備できましたので撮影できる人はこちらに来てください」
IMPマネージャーのライディ・王(gz0023)が集まってきた能力者たちに声をかけだす。
「自分では力不足も知れませんが‥‥がんばります!」
米田に何かいいたそうだったファーリア・黒金(
gb4059)が体操服にブルマ姿でスタジオのほうへ走った。
「あ、ライディさん。ちょっとだけいいたいことがあるんやけど」
「何でしょうか?」
スタジオにあえて向かわず篠原 悠(
ga1826)がライディを呼び止める。
「ポスターの採用、不採用に関わらず、うちの事を全部見ておいて欲しいです。それがうちの意気込み。特別な事は何もしないのですよ」
悠は珍しく落ち着いた口調でライディに決意をしめした。
● バレンタインへの思いイロイロ
(「去年、チョコを贈ってなかったら‥‥今のシーヴは無いです‥‥」)
左小指に赤い毛糸を結びつけたシーヴ・フェルセン(
ga5638)が白のシンプルなオフショルダーロングワンピース姿で何枚も写真を撮る。
バレンタインがひとつの転機であったため、このポスターを見て勇気をもらってほしいとシーヴは思っていた。
小箱を手にとり、もう二枚程撮影する。
一方、隣では‥‥。
「熱い! ちょ! 熱いよ!」
白い下着姿の上にべっとりとした『ホット・チョコカフェ』を垂らして火絵 楓(
gb0095)が写真をとっていた。
「動かないで、自分が指定したことだろう」
カメラマンから強く言われたため、頬を染めて楓は熱さに耐える。
「エロオイシソウ」というテーマの背徳的な光景にフラッシュが賞賛を与えた。
また、こちらは男性陣側。
ダウンジャケットを着込んで片手に製品の箱、口には煙草を吸う様にチョコを咥えて、衝立に背中を預けながら、愁いを帯びた視線をカメラへと向けるドニー・レイド(
gb4089)がいた。
衝立はブルーで、煉瓦壁を合成する流れとなる。
27歳という渋さを漂わす一枚はモデルに十分な素材だ。
キャッチは『身を焦がす苦味と、心燃やす味わいを』である。
「そちらは冬らしく渋くですか。こちらは健康的な若さで勝負です」
琥金(
gb4314)はドニーに対抗意識をもやして羽織っていたコートを脱ぎだした。
ヘソ出しルックでピッタリとしたシャツが鍛えられた肉体を浮き立たせる。
冬でも心は熱くといわんばかりのズボンもぎりぎりまでずらした写真を撮った。
●コスプレパーティ?
「いいねぇ。胸をもっと挟んで」
「え、こ、こうかな?」
黒金の両手の脇からはみ出ている胸が更に強調されるポーズをとらされることで膨らむ。
合成するためにブルーの衝立の前で相手にチョコを渡すポーズを取った。
しかし、黒金の持っているのは『果糖ちょこら』と呼ばれる激甘チョコレートである。
その後、エプロンをつけキッチンのようになったセットの前で別のポーズと写真を黒金は撮り出した。
次は汚れたシンクをバックに絆創膏を指につけ、チョコを頬などにつけて一枚撮る。
背中に隠すようにしつつもひょこり覗くウェスタンパッケージが憎かった。
隣では祈良が自前のワンピースに鈴の髪飾りで可愛らしく着飾っている。
顔を赤らめ、目を伏せ気味にして可愛らしさを強調。
手書きの”大好き”と書かれたメッセージカードと共にチョコを持っていくつもの角度やポーズで写真を撮ってもらった。
「次、着替えてくる」
もう一枚は白の【Steishia】ワンピースやコサージュなどに着替えてのチャレンジである。
バレンタインの主役は女の子であるが、男の子からのアピールがないとなびかないよというメッセージ性を持たせたいという祈良にカメラマン達は感心するのだった。
●ちょっと変ったこだわりを
「べ、別に凛はこういう可愛いのが好みとかじゃないんだからね」
ツンデレな文句をいいつつも果糖ちょこらを持ち、凛は頬を赤くして写真を撮る。
黒を基調とした大人びた衣装に対し、手荷物動物の形をしたカラフルなチョコレートの対比は目立った。
「ほうほう、さすがプロだねー」
撮影風景を覗きに来た楓も凛のスタッフ対応の仕方に感心する。
隣のスタジオは今は誰もいなかった。
「あれ、悠ちゃんは?」
「自宅で写真とりたいらしくて、今カメラマンさんを連れていきましたよ?」
パタパタと駆けていたライディを楓が呼び止めて聞くとそんな答えが返ってくる。
「自宅にカメラマン連れ込んで‥‥ぐふふ、それは私もいかなければ」
「不謹慎なこと考えないでくださいよ」
涎を拭う動作をする楓にライディが突っ込みを入れた。
「そうだった、私も人ごみで撮りたいのがあるからいってきてもいい?」
「カメラマンさんと相談してきます」
ライディが楓と共に離れると、着替えてきた和服姿の凛が襖と畳のあるセットの上に正座をして準備をする。
目の前に置かれた立てたお茶と『苺一チョコ』のうち、チョコを手に取り食べた。
食べ方や表情をいくつも変えて何枚もとる。
「スタジオあいているようなら使わせてもらっていいでしょうか?」
順番待ちだったるみがライディのほうに近づき声をかけて来た。
「いいですよ、こちらに来てください」
屋内ではあるが、冬らしさを演出するため自前のマフラーに用意してもらったコートに毛糸の手袋と重装備なるみにライディは案内をする。
合成加工用の青い衝立の前に立ち、ホット・チョコカフェを両手で胸元まで持っていった。
カメラも近づき、アップでるみを捉える。
パシャパシャとシャッターを切る音が何度も鳴った。
「次は私ですね。カンパネラ学園生らしく、制服で男心を征服しますわ」
「さみぃでやがるです。シーヴもああいう服にあうですかね? ライディは‥‥ものすげぇ似合ってたです」
るみが撮影を終えて離れると麗那と自分のポスターを編集をしていたシーヴがやってくる。
「似合っていると言われても‥‥」
ライディは苦笑を返して麗那を案内した。
カンパネラ学園制服といっても麗那の着ている物は『闇の生徒会』仕様と呼ばれる黒いものである。
「勘違いしないで! ぜーったい義理だから!」
ブルーの衝立の前に立ち、怒ったような照れたような顔をした麗那はウェスタンパッケージに似合わない赤いリボンを巻いたチョコを突き出した。
台詞はそのままキャッチコピーとなるようだが、義理といいつつもリボンとパッケージに挟まれたメッセージカードがいいアクセントとなっている。
「すごいでやがるです‥‥」
麗那の細かいこだわりにシーヴは無表情ながらに驚いていた。
●コラボレーション
「二人で二タイプ撮るのでよろしくお願いします」
「お願いします。むしゃむしゃ‥‥この苦味はまりそう」
ぷるんと胸を揺らす黒金とチョコを食べる琥金がそろってカメラマンに一礼をする。
「まずは、白と黒からだね」
ぺろっと手に付いたビター・ザ・キットを舐めた琥金がカメラの前に立った。
琥金は白いスーツのような姿で、黒金は黒いレザーのライダースーツに身を包んで背中合わせになる。
スパイ映画のポスターのような構図で、タバコをくわえるかのようにチョコをかんだ姿でシャッターが押された。
「お二人が着替えている間に私達をお願いします」
「よろしくお願いしますわ」
るみと麗那が二人に入れ替わってくる。
麗那はカンパネラ学園制服をそのままに、るみは先ほどの冬服からカンパネラ学園制服に着なおしての撮影だ。
「ただいまー。まだ、やっとるんやね?」
丁度、自宅での撮影をすませてきた悠がスタジオに顔をだす。
「背景を変えたいので一枚一枚でお願いしますわ」
麗那が悠を見かけ軽く会釈をし、ソロで撮ったときのようなツンとすました顔で撮影した。
一方、るみは麗那と入れ替わり同じ位置に立って、胸に『苺一ちょこ』のパッケージを大事そうに抱える。
麗那が渡すときに対して、るみは渡す前にこだわりを入れたかったのだ。
「対照的な二人が一枚のポスターになるんやね。どうなるかうちも楽しみや」
自前のジャンボたこ焼きをハフハフ食べて悠は撮影の様子を眺めている。
「「ありがとうございました」」
撮影を済ませた麗那とるみはそろった声でお辞儀をすると金金コンビこと黒金と琥金ペアと入れ替わった。
黒金は体操服にブルマのままだが、琥金はセクシーな格好からカンパネラ学園制服に着替えている。
衝立をバックにした二人のうち、琥金の方がビター・ザ・キットの箱を突き出した。
それに驚く黒金という構図で写真が撮られる。
男の子から女の子へのチョコ渡しという女の子の日とされるバレンタインというイメージにこだわらない一枚ができあがった。
「最後になったか‥‥ま、おかげでいいものをイロイロ見せてもらえたが」
スーツにロングコートの格好で悠の用意したジャンボたこ焼きを食べていたドニーはよいよ出番かとばかりにカメラの前に移動する。
「遅れてすみません。変ではないでしょうか?」
衣装さんに用意してもらったゴシックロリータ服をきた麗那がうつむきがちにドニーの元に近づいてきた。
「‥‥これは驚いた‥‥」
思わずドニーの口から吐息の混じった声が漏れる。
お嬢様風の麗那らしい魅力をひきだした姿にドニーは魅了されていた。
「驚いたのはいい方でしょうか? 悪い方でしょうか?」
「安心してくれ、いい方だ」
ドニーは笑って答えると暖炉のある部屋としてレイアウトされた場所で二人はチョコの受け渡しを行う。
これを二枚一組に手の部分で分割して組み合わせるというストーリー性重視をした。
演技とはいえ、かわいらしい麗那からチョコを受け取るドニーの顔は照れた笑みを浮かべている。
本当なのか演技なのかすらもわからないほどの素敵な一枚が仕上がった。
●採用発表
数日後、ポスターが完成したとのことで採用発表を伝えに能力者達はライディに呼び出される。
「聞きたいようなー聞きたくないよーなー」
呼び出されたが、黒金は部屋の隅でガタガタと振るえだした。
「そんなに気にしなくても大丈夫です。申し訳ありませんが、採用された人のみこちらでポスターとして張り出します。皆さんの作られたイメージはそのままチラシという形で返しますのでご了承ください」
スーツ姿の米田がそういうと、ライディが苦笑し会議室の壁にポスターを張り出す。
一枚目は悠のもので、柔らかい日差しの差し込む窓際、小洒落た白い小さなテーブルに座る悠の姿。
手前の方には椅子の背もたれだけが映っていた。
普段の笑顔とは違う最高に幸せそうな悠がそこにいる。
『あらためて伝えたい。等身大の、この気持ち』というキャッチがつき、下に小さく『幸せで、暖かい気持ち、伝えませんか? ホット・チョコカフェ 新発売』と続いていた。
「いい写真だと思います。ポスターとしては採用できませんでしたがCM撮影を担当してもらうことになりました。がんばってください」
「う、うちがCM? あ、ありがとございますっ!」
悠が慌てふためきながら礼をする。
「ポスターとしては2枚を使いたいとのことでしたので一枚ずつ。まずは天戸るみさんの『ホットな想い、抱いていますか?』もうひとつが祈良さんの『お姫様を捕まえて』です」
その言葉の通りに天戸の雪を背景に合成させたるみのポスターと「Happy Valentine!!」という文字と帯に商品が並ぶ祈良のポスターが張り出された。
「ラストホープのコンビニエンスストアを中心に貼られると思いますので、見かけても取らないようお願いします」
ふふと微笑み米田は釘を刺す。
るみと祈良は採用された驚きで声も出ない様子だった。
「惜しくも採用まではいきませんでしたが、私のほうで事務所に仕事のサンプルで預かりたいものとして、ヒメちゃ‥‥ではなく、凛さんの『気づけなかった、想いに気づく、その一瞬‥‥心を溶かす、甘い魔法が染み渡る』とシーヴさんの『小指の先のアナタへ 届けたい ”夢見る想い(チョコレート)”』の2点を使わせてもらいます」
モデルとしてきりっと決まった凛の一枚と桜色の背景に赤い毛糸が小指に結ばれているアップの写真と小箱を持ったアップが上下に入るこった一枚となったシーヴのポスターが張り出される。
「こうしてみると恥ずかしいです」
「うん‥‥形になるのって、やっぱり照れる」
シーヴと凛は特別な採用と聞いて恥ずかしそうにしていた。
自分たちが考えたものが形となるのは嬉しいことである。
「採用といえば、やっぱりこの場でアイドル審査の話はしてもらえませんよね?」
「後日通知を送りますのでお待ちください」
るみのささやかな誘導は笑顔の米田にスルーされるのだった。
●あらためて伝えたい
どこにでもあるような一室が映し出される。
目立つのは小洒落た白い小さなテーブルだ。
白い椅子に座るのはニットワンピースを着た悠。
離れていたカメラが悠に近づくとカーテンが揺れて風が吹き、テーブルの上にあるマグカップから立つ湯気が揺れた。
『お待たせ、あたしの気持ち暖かいでしょ?』
カメラの前に渡すよう湯気立つホット・チョコカフェを悠が差し出してくる。
そこで、暗転しテロップが表示された。
『幸せで、暖かい気持ち、伝えませんか? ホット・チョコカフェ 新発売』
ラストホープに流れる等身大の想い。
今いるすべての恋人達に捧げられた。