●リプレイ本文
●一年の始まり
「意外な特技持ってるもんよね‥‥イルが着付けできるとは、おねーさん思ってもみなかったわぁ‥‥」
レンタルした淡い朱色の下地に白い寒桜の晴れ着を身に着けた鷹代 由稀(
ga1601)はほぅと息をはく。
除夜の鐘がまだ鳴り響く京都の夜に【鷹代様御一行】はいた。
「喜んでもらえて、私も嬉しいです」
紺を貴重とした晴れ着姿のイリアス・ニーベルング(
ga6358)は嬉しそうに微笑む。
「うん、イルもアンジェリナちゃんも良く似合っているわよ」
「いや、私は‥‥そんなことはない。早く初詣をすまそう、この格好は落ち着かない」
否定するアンジェリナ(
ga6940)だが、着ている晴れ着のように一夜に咲く花として輝いていた。
「アンジェリナちゃんのいうように早く済ませましょっか。冷え込むしね」
三人姉妹の長女もみえる由稀が二人の手を引いて境内をすすむ。
「おい、あれってIMPの由稀さんじゃないか?」
「え、本当? あ、あのファンなので写メとかお願いできますか!」
人ごみの中で誰かが由稀に反応し、ざわめきが強くなった。
有名になることはメリットだけではない。
混乱が見え出す中、下の方では【ナレイン様御一行】がぎゅうぎゅう詰めの中を進んでいた。
「『一年の計は元旦にあり』ですねぇ、皆考えることがいっしょですか」
ヨネモトタケシ(
gb0843)は大きな体をいかし、人ごみから後ろの一団をまもっている。
「うふふ、タケシちゃんってあったかぁーい」
「すごい‥‥人ごみ‥‥」
タケシの両手には二人の華。
ナレイン・フェルド(
ga0506)とイスル・イェーガー(
gb0925)がくっついていた。
どちらも男性ではあるが、晴れ着姿に可愛らしいメイクを施しているため誰がみてもタケシがモテモテに見える。
「いやはや、わかってはいても照れるものです」
顔を赤くしたタケシはそれでも二人を守るようにして進む。
「るなさんもシュブニグラスさんもとても綺麗ですよ」
「そうそう、綺麗だぜ、イスル『ちゃん』とかさ」
一緒に歩く女性陣を美環 響(
gb2863)と平野 等(
gb4090)は褒めた。
「なんか‥‥もう‥‥慣れた」
「俺は動きにくくて変な感じだぜ」
イスルは諦めたように、エミル・アティット(
gb3948)は押さえきれない胸を晴れ着から覗かせ呟く。
「グラスちゃん、どうかしましたか?」
菫色の晴れ着を着た神無月 るな(
ga9580)が後ろを気にしているシュブニグラス(
ga9903)へ声をかけた。
「ううん、ちょっとね‥‥富士原さんは上手くやってくれているかなと」
シュブニグラスの返事にるなは首をかしげる。
「ほーら、皆おいていくわよ〜」
先頭を進むナレインの声を受けて一行は参拝に動き出した。
●イベント梯子
年末に行われたV1グランプリといわれるレースが終わり、大阪から京都まで急いできた篠原 悠(
ga1826)は大切な人の下へとたどり着く。
「レティさんお待たせ! さぁ、行こう! すぐ行こう!」
「急いでかけてきてくれたのは嬉しいが、息がきれているぞ? それに着替えもまだ終わっていない」
レティ・クリムゾン(
ga8679)は平良屋敷の前で二人分の晴れ着を用意してまっていた。
「着替え大丈夫? 慣れていないならウチが手伝うよ」
「そうしてくれると助かる」
二人は髪をアップして着飾り、そろいの晴れ着で下鴨神社へとでかける。
少し前、境内で混雑があったようだが今は規則正しく行列が並んでいた。
周囲から見れば二人は姉妹に見えるかもしれないが、そんなことを二人は気にせずに参拝した。
(「大切なもの全て、そして、大切な人を守れますように」)
(「傭兵皆が無事1年を過ごせますように‥‥」)
二人はそう願うとお守りを買いに足を運ぶ。
「お守りの交換をしておこ、レティさん」
「そうだな」
悠はこっそりとお守りに何かを仕込んだ後、レティとお守りを交換をした。
その一部始終をUNKNOWN(
ga4276)はカメラに収める。
気配をわざわざけし、レンズも望遠のものを使うこだわり様だ。
「年明けの二人に乾杯かな?」
微笑ましく二人を見ながら、UNKNOWNは甘酒を一口飲んだ。
●日も昇るころ
アルヴァイム(
ga5051)と百地・悠季(
ga8270)は松尾大社から嵐山・渡月橋を巡り経て下鴨神社まで来ている。
二人は手をつなぎ、一つのマフラーを二人をつなぐように巻いて限りある時間を楽しんでいた。
椿の柄をあしらった振袖と帯、白・桃色・赤の三色花が枝葉と共に描かれた借り物の晴れ着姿の百地は賽銭を投げる。
(「どんな障害に出会うとも共に歩んで行ける様に」)
百地は両手を合わせて真剣に願った。
危険な依頼ばかりにいく彼だからこそ、自分がその宿木としてありたい。
「悠季は何を願った?」
少し高い目線のアルヴァイムが悠季の方を向いた。
「秘密。アルは?」
「『希望と笑顔を、明日へ』とな‥‥一人二人が対象ではないが、やれることはやっておきたい」
「そう‥‥」
悠季の顔が少しだけ曇る。
「一般人が余計な被災を被るのを一番嫌っているだろう? 突き詰めれば悠季のことでもある」
曇った顔を気にしたのかアルヴァイムが悠季の手を少しだけ強く握った。
「も、もう‥‥あ、絵馬を買いに付き合ってくれる?」
曇った顔をすぐ赤い照れ顔にした悠季は上目遣いでアルヴァイムを見る。
そんな二人から離れた場所では国谷 真彼(
ga2331)と柚井 ソラ(
ga0187)が人ごみにもまれながら鈴の前にたどり着いた。
「全くすごい人出だね。皆、希望を失っていない」
「本当です、ここに来ただけでつかれきっちゃいますよ」
「大きくなれるようにお願いしたらどうかな?」
「もっと別のお願いがあるから嫌です」
悪戯っぽく笑う真彼にソラは頬を膨らまして反発した。
願い事はもう決まっているのだから‥‥。
●一人旅
「時々はこうして一人になりたくなるのは、多分、贅沢な性分なのでしょうね」
普段着のまま、不知火真琴(
ga7201)は人ごみの中で一人呟いた。
ブランド物のファーマフラーの暖かさがどこか心地よい。
人波の中で、鳴神 伊織(
ga0421)を見つけて会釈をすると、向こうも会釈を返した。
真琴の順番が回ってくると財布から15円とりだし、チャリンと投げ込んだ。
ひゅっと頭の上を何かが通ったかと思い振り返れば乙(
ga8272)のうさ耳が飛び出しているのが見える。
「上手くいかないものですね」
知り合いを見かける状況に苦笑しつつも真琴は手を合わして祈った。
『知り合いみんな、ちゃんと戦場から戻ってきます様に』
傭兵であるからこそ、戦うなとはいえない。
世界の状況がそうさせてもくれないだろう。
だからこそ、願わずにはいられなかった。
●知り合いとともに
「冥姫の和服姿が見れただけで、今回の目的の半分は達成できたな」
恋人の振袖姿を見て、袴姿のカララク(
gb1394)は乏しい感情を最大限に顔に表している。
「ん‥‥」
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(
ga4859)はカララクからそっぽを向いて足を速めた。
だが、強く手を握り合っていたため、カララクがそれに引っ張られる形になる。
「もう、二人ともラブラブだね〜」
「見ているほうが妬ける‥‥なの」
知り合いである二人を蒼河 拓人(
gb2873)とロジーナ=シュルツ(
gb3044)は後ろから見ながらついていった。
「あれ‥‥ニホンの神様って‥‥どうお祈りすればいいの?」
「え、えっとねー‥‥人のをみればいいと思うよ」
ふと視線を向ければやたらめったに鈴をならしている>鳳 つばき(
ga7830)がいる。
「お金が溜まりますように、あの人との仲が進展しますように、今年一年みんなが無事でありますように」
一生懸命さが溢れ出しながら、つばきは祈りをささげていた。
「つばきちゃん、でてるでてるっ!」
隣で祈っていた九条院つばめ(
ga6530)が恥ずかしそうにつばきを引っ張って下げる。
「お賽銭は5円玉で、一つの願い事に一枚なんだって」
「うん、わかったの‥‥」
ズレっ放しのまま二人は初詣を楽しんだ。
●京都着付け教室
「磨理那さんあけましておめでとうございます。これはお裾分けのがとーしょこらです♪」
着付を教えてもらう変わりにとレーゲン・シュナイダー(
ga4458)は箱をだす。
「よい心がけじゃな。今着替えているものが終わったら着替えるとよいのじゃ」
洋菓子を受け取った平良・磨理那(gz0067)は侍女に着替えさせている隣の部屋を見た。
丁度、着替え終えたクラリッサ・メディスン(
ga0853)とシャーリィ・アッシュ(
gb1884)がでてくる。
「よく似合っている。クラリッサは美人だから、本当に何を着ても似合う。新年早々眼福だな」
「綺麗‥‥ですよ。初めて着たなんてとても思えません」
二人の恋人である榊兵衛(
ga0388)と鹿嶋 悠(
gb1333)がそれぞれに褒めた。
「あ‥‥レグさんと一緒に私もお願いします」
朧 幸乃(
ga3078)も二人同時ならと磨理那にいい、クラリッサ達と入れ替わる。
「ちょっとばかり遅れたな。あけましておめでとう、磨理那さん。今日は妹を連れてきたんだ」
「はじめまして、鬼非鬼家の当主をしてる、ふーよ。兄妹共々、よろしくお願いするわ」
鬼非鬼 つー(
gb0847)に紹介された鬼非鬼 ふー(
gb3760)はスカートをつまんでお辞儀をするも視線は磨理那を値踏みするようにみていた。
「な、なんじゃ!」
「なんでもないので着付をたのむわ、平良の」
磨理那からの突っ込みを流すとふーは銃の隠し方を検討しだす。
「銃は髪にいれるしかないか」
「物騒なものはもっていくでない!」
ふーの頭からスッパァーンといい音が鳴り響いた。
●願い事
「さっきの願い事はなんていいました?」
「うんとね‥‥『いつも無事に戻ってきますように』‥‥て」
赤く俯きながら篠森 あすか(
ga0126)はそっと呟く。
「俺は『強くなれますように』‥‥篠森さんを守りたいから」
愛輝(
ga3159)は離れないようにつないでいた手の力を少し強めた。
クリスマスの夜に近づいた二人の距離は日をまして狭くなる。
そのため、あすかは願い事の前に愛輝と出会えたことを感謝していた。
「もう一度いいますけど‥‥晴れ着姿、綺麗ですよ」
「も、もう‥‥そんなこといわないでっ‥‥って、はわっ!?」
褒められて照れ隠しに叩こうとしたあすかだが、慣れない晴れ着に下駄姿のためこけそうになる。
「大丈夫ですか?」
愛輝があすかを支えるように手を引っ張って抱きとめた。
触れた手から感じる温もりがあすかには恥ずかしくも、心地よい。
表情は硬いままだがあすかを見る愛輝の眼には優しさが浮かんでいた。
二人の前ではすでに賢木に絵馬を飾っている織部 ジェット(
gb3834)とそれをみる水無月 春奈(
gb4000)の姿がある。
「あら、織部さんの意中の人はどなたかしら?」
興味ありげに覗く春奈だったが、名前は見えなかった。
「さぁてね、恋とバグアはどっちが強いのか‥‥そんなところだよ」
ジェットの方はさらりと春奈の追及をかわす。
「遅れてしまったすみません、行列が酷いから先に絵馬なんて‥‥」
「春奈の着物姿が見れたから待ったかいがあったよ」
「ありがとう、ございます‥‥」
さらりといわれた言葉に春奈は顔を赤くして俯いた。
ジェットと春奈の間に暖かな空気が流れ出したころ、愛輝とあすかも連名で書いた絵馬を吊るす。
『
ずっと傍で守っていられますように 愛輝
ずっと笑顔でいてくれますように あすか
』
「二人の名前が並ぶとくすぐったいね?」
「そう‥‥ですね」
あすかが照れながら愛輝の方をみると、今年一番の笑顔がそこに輝いていた。
●天災は忘れたころにやってくる
磨理那が屋敷を出たのが10時ごろ、吾平の用意した車に乗って下鴨神社へと向かう。
「着付をみていたら、大分遅くなったのじゃ」
「それも〜仕方ありませんねー」
「急いでもしかたねぇだろ?」
「それに遅く行った方がすいてるかもよ?」
ラルス・フェルセン(
ga5133)、玖堂 暁恒(
ga6985)、大神 直人(
gb1865)がのんびりとした様子で磨理那にいう。
「お気楽じゃのぅ」
「のんびりもいいと思いますよ」
背が高いが晴れ着を着用し、女性に見間違うようなハート(
gb4509)が磨理那を撫でた。
「妾を勝手になでるでないっ!」
スパァンと磨理那のハリセンがうなったとき、目の前をファミラーゼがものすごい速度で横切る。
キキキィーガシャーンと盛大にクラッシュして、中から鳥の着ぐるみを着た火絵 楓(
gb0095)がでてきた。
「ゲホ! ゲホ! ‥‥あ‥‥あ‥‥あけおめ〜〜!」
咳き込んでいた楓だったが、周囲の視線に気づくと笑顔で両手の羽を広げて挨拶をする。
「‥‥まだ、大分かかりそうじゃのぅ」
ざわめく道路で立ち往生した磨理那は窓から下鴨神社の方を見てため息交じりに呟いた。
●寿司食いねぇ!
「ラストホープでも美味いモノはあるが、やはり現地でその土地のモノを味わうのが一番だな。もちろん俺にはクラリッサが作ってくれる料理が一番だけどな」
「まぁ、ヒョウエったら‥‥でも、普段はこうしたモノを頂く機会はありませんけれど、旅先ではその土地のものを頂くのが良いですわね」
兵衛とクラリッサが仲むつまじく寿司を食べていると晴れ着姿のレオノーラ・ハンビー(gz0067)が入ってくる。
「はぁい、皆あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「お久しぶりね、レオノーラさん。こっちの席に来てお話しましょう」
寿司を食べていたシュブニグラスがレオノーラを隣に誘った。
「このご時世こったものを食べれることに感謝ですよね」
シュブニグラスの隣ではタケシが一口一口かみ締めながら食べ、更にタケシの隣では等がいくつもの皿を重ねて食べている。
「京都って言えば鯖寿司だよねぇ。絶品だぜぃ☆」
「皆たくさん食べているわね」
見ているだけでおなか一杯と言いたげにレオノーラは席についてお茶を飲む。
向かいの席ではロジーナと拓人が黙々と寿司を食べていた。
「これ、結構おいしいの‥‥おじさん、作り方教えてほしいの」
料亭の人からの説明をロジーナは真剣に聞き入る。
「京都のこういった場所で食べる食事というのもいいものよね?」
「本当、食べる姿が可愛いわ」
鯖寿司を食べだしたレオノーラがシュブニグラスに声をかけるが、シュブニグラスの視線は美味しそうに寿司を食べる磨理那に釘付けだった。
頬にご飯粒がちょこんと付いている姿が愛らしい。
「可愛いというより、たくましいと思うけれど‥‥」
レオノーラが見ていたのは磨理那の隣で海鮮類をもしゃもしゃと食べる真琴の方だった。
●真剣勝負
食事も終わり、平良屋敷へ戻ってきた一同は各々夕方のお風呂時間までの時間を潰しだす。
庭では正月らしい羽根突き大会が開かれていた。
「ふふふ、とろいと思ったら、大間違いだぜ?」
神無月 翡翠(
ga0238)は動きやすいGジャン、ジーンズ姿で羽根突きを行う。
『乙ーがんばってー』
「うるさいの‥‥気が散るの」
癸からの応援を受けて(?)乙は翡翠の羽を返した。
サイエンティストでもある翡翠だが、器用に乙と渡り合う。
スピードをつけて返す羽に乙は翻弄され、ついに打ち返せず落としてしまった。
「逃げるが‥‥勝ちなの」
墨を塗られまいと逃げようとする乙だったが、背の高い翡翠がその手元から癸をひょいと持ち上げる。
「おとなしくするから、癸を返して欲しいの」
頭のウサ耳をぺこんと垂らして乙は謝る。
『ごめんね乙。ボクが逃げ遅れたから』
美しい友情劇が繰り広げられるも、翡翠の筆が乙の顔にバッテンを描いた。
「わーい、大吉ぱわーですよ〜♪」
「うう、姉の威厳を見せるつもりが‥‥不覚、です‥‥」
初詣帰りの御神籤で大吉を引いたつばきがつばめを打ち倒した。
もちろん、それだけでなくちゃんと左右を打ち分け、相手の疲労を蓄積させる手をつばきは使っている。
「さぁ、姉さんお化粧の時間ですよ〜」
眼鏡をくいっとあげて、にこやかな笑みでつばきがつばめの口元に墨で円を書いた。
「へっへ〜ん、好きなこと書いちゃうもんね」
悠とレティも振袖姿で羽根突きをしていたが、勝敗は悠に上がる。
楽しそうに筆をとると『大好き(はーと)』と頬に書いた。
「悠、何を書いたんだ?」
「それは秘密。顔を洗うときにしっかりみてね♪」
「ならば、悠にも同じような気持ちを味あわせないとな」
レティの瞳が闘志に燃え上がる。
激しい打ち合いがここでも始まった。
「さぁ、こちらはいつでもいいですよ!」
「あの、シャーリィさん‥‥なんで、羽子板を両手でもっているんですか?」
着物姿でびしっと決めるシャーリィに鹿嶋は苦笑しながら突っ込みを入れる。
「いえ、ですが‥‥あちらの方が普通の武器のように使うものだと」
シャーリィが困ったように視線を向けると、そこではアンジェリナが羽子板二刀流で由稀とイリアスの二人と打ち合いをしていた。
両者とも真剣であり、何度も勝負をしているのか顔は墨の落書きだらけである。
「あれは‥‥違いますから、マネをしてはいけませんよ」
さらりと酷いことを鹿嶋がいうと、3人の勝負が付いた。
「そんな、私が負けるなんて‥‥」
思いのほかショックなのか、負けたイリアスはへたり込んで項垂れる。
「ぜぇ、はぁ‥‥体力がやっぱきついわ‥‥でも、イルの分はあたしに描きなさい!」
「由稀さん‥‥」
「その心意気はよし、だが容赦はしない‥‥」
ドラマか映画のような雰囲気を3人は出し始めた。
「よっし、顔に墨というのもありきたりだから賭けをしようか。ふーが負けたら酒屋で一番高い酒を買って来い」
「いいわよ、但しお兄様が負けたら嫁を一人見つけてきなさい」
双方が納得した後、羽子歌を歌いながら鬼非鬼兄妹は羽根突きをしだす。
「「一ごに二ご、三わたし四めご、五つ来ても六かし、七んの八くし、九のまへで十よ」」
11打目でふーが力任せの一撃を返した。
だが、つーはそれを予測し『疾風脚』を使ってまでも打ち返す。
「往生際が悪いわよ」
返された羽を手首のスナップを利かせてふーはフェイントをかけた打ち返しを行った。
つーは返せず負けが決まる。
「仕方ない‥‥未来の嫁だ」
負けたというのにどこか楽しそうに笑うつーは磨理那を抱き上げてふーに見せた。
「はぁ‥‥今すぐ結婚できる年齢の子にして欲しいんだけど‥‥」
「嘘は言ってないぞ」
「紫の前に葵を、と言ってるのよ!」
「この不埒者っ!」
ふーにスネを蹴られ、磨理那からハリセンを受けたつーはその場に沈む。
「レオノーラさん、お相手できませんか?」
「磨理那様も羽根突き勝負しようぜ」
響と直人がレオノーラと磨理那を羽根突きに誘い出した。
「ふむ、妾に喧嘩を売るとはいい度胸じゃ。羽根突きで妾に勝てると思うてか」
専用の羽子板を持ち出し、不適に笑う。
「実は私も羽根突きは得意なのよ‥‥その顔をかっこよくデッサンしてあげるわ」
「こちらこそ、可愛いくして差し上げますよ」
響も微笑で返すと打ち込みだした。
カコーンカコーンと気持ちのいい音が響き、二つの羽が交差するように飛び交う。
「そちも中々やるではないか」
「手加減しちゃあ、姫様に失礼ってもんでしょう」
足元などぎりぎりに落ちるように飛ばしてくる直人の攻撃に磨理那は果敢に立ち向かって返すも追い込まれていった。
「私を可愛くしてくれるのではなかったのかしら?」
「なんの‥‥まだですよ」
レオノーラの打ち返しに、響は余裕を見せようとする。
しかし、汗が頬を伝い顔に疲労が見え出していた。
「響君、がんばって」
るなからの応援を受け、響の動きが変る。
手の届くギリギリに返された羽をレオノーラの足元へと華麗に打ち返した。
「あら‥‥恋心に負けてしまったわ」
「るなさんとは友人ですよ‥‥さぁ、約束どおりお化粧しましょうね」
レオノーラと響の勝負に決着が付くと同時に磨理那と直人の方も決着がつく。
「くぅ、もういっぺんじゃ!」
「その前にちゃんと墨塗りしましょうね〜」
直人は子供をあやすようにいいながら、ぷにぷにとやわらかい頬に筆を走らせた。
むず痒そうにしていた磨理那が一息つくと、瞼に目と頬に『魔法少女 磨理那降臨』と描かれている。
「その顔は‥‥ぷくくく」
磨理那の顔を見たレオノーラが笑いをこらえた。
「これで完成ですね‥‥できましたよ」
「そちの顔は可愛らしいのじゃ」
磨理那がぷいっと顔を背けながら言い捨てる。
レオノーラの顔には猫の髭がピンと生えていた。
●疑わしきは罰せリ
「はぁ‥‥育たない胸が恨めしいです」
レグは自分の慎ましい胸を湯船の中でさわり、ため息をつく。
神に願うことでもないため、神社では自分が傭兵として強くなることを願った。
(「彼が帰ってきても心配かけたくないですし」)
初詣の帰りに買った紫紺の水守、身体健全、桃と淡青の縁結びのお守りを思い浮かべる。
家族みんなで健康にずっと暮らせるようにがんばらなければと顔をばしゃばしゃと洗った。
ガサリと物音がする。
「覗きか?」
アンジェリナの目がギラリと光った。
「え、風か何かかもしれませんし‥‥」
レグは女性である自分から見てもスタイルのいいアンジェリナの裸にテレながら止めにはいる。
そのレグの横を風がかすめ、髪の毛が数本湯船に落ちた。
「本当に風のようですね‥‥それにしてもいい湯です」
何事もなかったかのように湯船につかりなおすイリアスだったが、レグは彼女が覚醒して真音獣斬を飛ばしたことを知っている。
知っているだけに何もいえなかった。
「ふふ、おねーさんにすべてを任せなさーい」
安心したのもつかの間、怪しげな声は物音とは別の方から流れた。
むにゅんと楓の手がアンジェリカの胸を鷲づかみする。
「キサマァ!」
遠慮のない肘鉄が楓の後頭部にめり込んだ。
(「私、強くなります‥‥」)
ぐっと拳を握りレグは心に決める。
物音が少しずつ離れていったことに騒いでいる人達は気づかなかった。
●一日の終わりを感じて
ノンビリと東の空に見えだした月を眺め、防水処理した哲学書を片手に熱燗をゆっくりと飲む。
普段から黒い格好をしているUNKNOWNだが、今は肌の色の方が強かった。
日ごろの疲れや、去年あったいろいろな出来事を湯船の中に染み出させる。
走馬灯のように頭の中をめぐり、今日取ってきた写真と笑顔にたどり着いた。
「――今年もいろいろあるのだろうか、ね」
わずかに口元に笑みを浮かべ、UNKNOWNは呟く。
目は外の月をずっと見ていた。
●男湯にて
「まさか、あんなことを書かれるとは」
カララクは念のためにもう一度顔を洗う。
羽根突きで落書きされた『冥姫』と『命』という文字はもうないが、気になって仕方なかった。
恋人同士であっても、言葉にして恥ずかしいものは恥ずかしい。
カララクが顔を洗っていると、山戸沖那が入ってきた。
「おい‥‥山戸‥‥その傷どうした」
「な、何でもねぇ‥‥道に迷っていて奇襲を受けただけだ」
腕に深い切傷を得ていた沖那は湯船に入らずかけ湯だけしている。
暁恒の質問には答えなかった。
「お久しぶりですね〜お背中流して差し上げますよ〜。育ち盛りですから傷よりもお肉つけなきゃいけませんよ〜?」
ラルスが沖那の背中をにこにこと洗いだし、背中を触る。
「ア”ァ〜生き返る〜。沖那は姫さんとこにいなかったけどどうしたんだ?」
湯船の中で親父くさく息をついた直人が沖那に聞いてきた。
「今、ちょっとな‥‥隣の丹後で調べ物してる。お嬢にあっていくつもりはねぇな。さすがにこの傷をみせると何いわれるかわかんねぇし」
「風呂上りにちょいと超機械で直してやろうか?」
羽根つきの汗を流した翡翠が湯船の中から声をかける。
「だとしても、やっぱりお嬢には会えないな‥‥」
「てめぇが決めたことだ‥‥貫けよ。おっと、あけましておめでとうだ」
くくっと笑った暁恒が沖那の傷の浮かぶ腕を叩いた。
「てめっ! 何すんだよ!」
沖那が痛みに食って掛かろうとすると、ガラガラっと戸が開きハートが胸までバスタオルを巻いてはいってくる。
「男湯はこちらでよかったですよね?」
女顔であり、すらりとした体型をしたハートの姿は女性に見間違えてもしかたなかった。
「ぐふっ!?」
興奮したのか、沖那の鼻から血があふれ、腕の傷も広がる。
「おい、山戸‥‥。男相手に‥‥何やってんだよ」
浴場で欲情‥‥しゃれにならない出来事だった。
●騒がしきかな混浴
「はぁ、なんか夢のような一日だぜ‥‥」
体を洗って湯船に体を沈めると全身の力が抜け出す。
生きるのに精一杯だった等にとってのんびりと過ごした今日は充実していた。
「いやぁ、お邪魔するよ」
等がのんびりしているとジェットが入ってきて体を洗うと濡れタオルを顔に被って湯船に入る。
べっとりと顔の形にタオルが変形し、息がしづらそうだった。
「脂ぎった顔もこれでサッパリだ! 空気も読めてるし、いい策だろ?」
「息がつづけばね〜」
等がお気楽に呟いていると、春奈と朧と伊織の3人が入ってくる。
春奈は胸にタオルを巻いているが、伊織は惜しげもなくその体をさらしていた。
「お、おー。これはすごい」
等が興奮した声を上げると、春奈から桶を投げつけられる。
カッコーンといい音がした。
「お風呂はお湯を楽しむものでしょう? 目の保養はよそでやってくださいね」
「見られても困らないものでしたら‥‥別にいいと思いますけど」
朧は桶に当たって仰向けに浮かぶ等を見て、目をそらす。
「見られても仕方ありませんからね」
伊織も苦笑をもらして何事もなく体を洗い出した。
「あ、あの伊織さん‥‥化粧品の使い方とか教えてもらえますか? 出店で買ったはいいのですが、使う自信がなくて」
朧も伊織に続いて話題をそらして体を洗う。
「も、もう隠してくださいっ!」
春奈のその言葉でようやく気づいたジェットが自分のタオルと等の下半身にかぶせた。
●まったり一座
「レティさん、背中ながしっこしよう♪」
「それじゃあ、お言葉に甘えようか」
悠からの提案に乗ってレティが背中を洗ってもらう。
楓と入れ替わりで入ってきた二人は騒動があったことを知らなかった。
「いやー、本当にいいですねぇ。お酒が美味しいです」
湯船では真琴が日本酒を桶に浮かべて月見ではなく夕日酒を堪能している。
酒のせいか、温泉のせいか、はたまた両方か真琴の顔は太陽のように赤かった。
「温泉で酒とはいいものなのか?」
包帯に巻かれた腕をビニール袋で包んでいる冥姫が真琴に不思議そうな目を向ける。
「いいものですよ、大人になればわかります」
真琴はにへらとしか形容できない笑みを浮かべて答えた。
「ふむ、しかし‥‥いい夕日だ」
「はい、お酒のおつまみに最適です」
「ふむ‥‥元日や上々吉の浅黄空。とはよく言ったものだな。今は茜、か」
沈み行く赤い太陽を目を細めて冥姫は眺める。
「えへへへ、にゃーんっ! レティさん大好きー♪」
「こ、こらっ! 悠!」
酔ったようにふらふらになった悠が突然レティに抱きつき出した。
酒の香りか、雰囲気か。
それとも愛しき人の濡れ姿か‥‥理由はわからないが悠はとても幸せそうだった。
●水入らず?
「ん〜癒されるわぁ」
仲良し【ナレイン様御一行】で背中の流しあいをしたあと、ナレインは湯船にゆっくりつかる。
「背中の流しあいっこ‥‥家族みたいだった‥‥」
イスルは嬉しそうに笑った。
「羽根突きの疲れも一気に取れそうですな」
タケシがナレインらから目をそらし、窓から覗く月を眺めて大きく息をつく。
「過去の経験からすると、このような騒ぎには必ず不埒な輩がいるのですよ」
るなが周囲を警戒しながら湯船に入ってきた。
「おっと、すみません」
響と肩がぶつかり、軽く頭を下げる響の首筋は真っ赤である。
「響君どうかされましたか?」
「何でもありませんよ、ええ、なんでも」
笑顔で響が返したとき、外から悲鳴が聞こえてきた。
『どしぇー! な、なんじゃこりゃー』
「あの声は楓だぜぃ? なんで、外から声が聞こえてきたんだぜぇ?」
「トラップに引っかかったようですね。エミルちゃんはもう少し友人を選ばれた方がよろしいですよ?」
「な、なんでだぜい?」
るなに注意されるも意味がわからないエミルはただ首をかしげるだけである。
「もうすぐ終わるわね。富士原さんはちゃんとやってくれているのかしら?」
心ここにあらずといった様子でシュブニグラスは言葉を漏らした。
●対照的な二人
「極楽、極ら‥‥いたたた」
「国谷さん‥‥」
湯船につかり痛がる真彼をソラは息を呑んで見ている。
平気そうにしているサイエンティストの彼だが、治しても治しきれないほど傷は深く多かった。
先の大規模作戦でも撃墜、重傷を、重体をおった真彼の体はボロボロといっても過言ではない。
「どうかしましたか?」
「大丈夫です、しっかりあったまらなきゃですね」
真彼に悟られまいとソラは努めて微笑んだ。
湯面に反射して映る自分の姿は白くて華奢でもろく見える。
姿も心もソラは真彼に並べていないような気がした。
(「もう、傷ついて欲しくない‥‥神様、国谷さんを守って‥‥俺を一緒にいさせて‥‥」)
初詣のときに願い、絵馬に懸けた想いをソラは今一度、空を見上げて念じる。
空は赤から黒へと移り変わろうとしていた。
●檜の香りと共に流れる時間
「‥‥こうしてゆっくりとした時間を過ごすのは贅沢だな。クラリッサが一緒だから少々のぼせそうだが」
すでに肌を許しあっている間柄だが、やはり照れくさいモノは照れくさい。
そう思いながらも、こういう機会は滅多にないと兵衛は恋人の裸を気にしないようにしながら、ゆっくりと湯に浸かった。
「こういう具合に二人して肌を寄せ合って居るというのもいいものですわね」
クラリッサの方も褥(しとね)の上ではない場所で肌をさらすことに照れくささを感じながらも兵衛と背中を合わせる。
二人が出て行き、しばらくして入ってきたのは悠季とアルヴァイムだった。
「すごい傷ね‥‥」
普段の黒子衣装からでは想像できない傷付き方に思わず悠季は涙組みながら抱きつく。
塩気の強い液体がアルヴァイムの背中を流れ、傷にしみこんだ。
「世界を守ってきた傷だ‥‥それはこれからも変らない」
「そうね‥‥でも、無事帰ってきて」
背中から顔を離した悠季は涙を拭うとそっと背中を洗い始める。
アルヴァイムと悠季があがると、つばめとつばきが檜風呂に入ってきた。
「こんな風に二人っきりでお話しするのって初めてかも‥‥」
「そうですね〜。ちゃんと顔を洗わなきゃだめですよ。つばめ姉さん」
名前が似ていて年も近いこともあり、すっかり姉妹が板についてきた二人は仲良く背中を洗いあう。
「えっとね、駄目な姉ですけど‥‥今年もよろしくね、つばきちゃん」
つばきの背中を洗いながら、つばめは感謝の言葉を述べた。
「こちらこそよろしくお願いします。ってなんか照れますね」
つばきは照れ笑いを浮かべると、くるりと向き直ってつばめの方を向く。
「さ、今度は私が洗うばんですよ。『姉さん』」
二羽の小鳥はさえずりをしながら互いを洗いあった。
最後に入れ替わってきたのはロジーナと拓人の二人である。
「約束だから‥‥一緒にはいるの」
「あっ、ロジーナちゃん背中流してあげるよー」
二人っきりであることに照れるロジーナとは対照的に拓人は恥じらいもなく駆け寄ってきた。
「もっと、雰囲気を大事にして欲しいの」
最もな意見を言い出すロジーナ。
「雰囲気? ロジーナちゃんと二人っきりで自分は嬉しいよ?」
ずるいなと思いつつも、拓人のそんなところが好きなロジーナだった。
●宴会
「お疲れ様でした。乾杯」
「はい、乾杯です」
檜風呂で恥ずかしながらもゆっくり過ごした鹿嶋とシャーリィは宴席を楽しむ。
「よーし、それじゃあ一番! 鷹代由稀! 歌います。本場のアイドルの実力を見せてあげようじゃないの」
由稀がアンジェリナとイリアスを呼び出して、アイドルでの相棒が作った曲『Walkers〜旅人〜』を歌いだした。
リードを由稀して、二人が続く形だ。
「今日は素敵な催しに招いてくれてせんくすだ」
カラオケで盛り上がっているときにつーが磨理那の杯に甘酒を注ぐ。
「うむ、楽しんでもらえれば何よりじゃ。そちは何か芸をせぬのか?」
「芸ではないが『はかりなき千尋の底の海松ぶさの生ひゆく末は我のみぞ見む』と詠みたいところだが、な」
源氏物語に出る和歌を読んだつーは磨理那の頭を撫でた。
「『年月をまつにひかれてふる人に今日うぐひすの初音聞かせよ』と、私は詠みたいわ」
兄の態度に呆れつつ酌をしに着たふーが別の歌を読む。
「勝手に撫でるでないわっ! 『身を投げむ淵もまことの淵ならで かけじやさらにこりずまの波』と、かえすのじゃ」
「まりなしゃんしゅてきです〜」
歌の読み合いが行われていると、ぐでんぐでんに酔っ払ったレグが磨理那に張り付きだした。
抱擁とキスの雨を磨理那に送る。
「さ、酒臭いのじゃ! 離れるのじゃぁぁ!」
磨理那がもがいているうちに舞妓による舞が披露されだした。
その中には一緒に覚えようとする春奈もいる。
「筋はいいからゆくゆくは今日の舞妓さんになれるかも知れないぜ?」
ジェットがぎこちなく踊る春奈を褒めた。
「それじゃあ、今度は俺のリフティング芸を披露しようか」
舞が終わって拍手が送られるとジェットがサッカーボールを片手に真ん中に立ってボールを蹴りだす。
「座敷でリフティングなんて、すごくミスマッチね」
シュブニグラスが驚きつつ見ていると、襖が少しだけあけられ富士原・吾平が顔をだす。
「頼まれていた磨理那様の写真を焼き増ししておきました。どうぞお納めくだされませ」
『磨理那あるばむ』と称されたそれを受け取り、シュブニグラスは拳をぐっと握りしめて小さくガッツポーズをした。
「くれぐれも御内密にお願いいたしますのじゃ」
「ええ、約束は守るわ、ありがとう」
今日一番の笑顔をシュブニグラスは吾平に向ける。
「しばし、夢幻の時間をお楽しみください」
響がるなを呼び出してのイリュージョンショーがはじまると湯豆腐が並びだした。
そして、アルヴァイムが熱々の湯豆腐を額にぶつけだす。
「ちょっと、食べ物を粗末にしないでよ」
「人類の守護者にちょっと言われたからな‥‥何かあるならそちらに言ってくれ」
唇を尖らして額を小突く悠季に、涼しい顔したアルヴァイムは言い返した。
●旅立ち
「体にはー、気をつけて下さいね〜」
宴会が行われている中、ラルスは沖那に水守を手渡す。
「そっちもな、お嬢には何も言わずに頼むぜ」
受け取った沖那は両手を合わして頼み込むと、そのまま走り出した。
夜も更ければ能力者たちも京都を去るだろう。
一年の初めをこうして迎えられたことをラルスは嬉しく思った。
「今年もよろしくお願いしますね、沖那君」
小さくなっていく背中に向ける思いは言葉が届かなくても通じただろう。
そう願ったあと、宴席の方へラルスは戻っていくのだった。