タイトル:第5回V1グランプリマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 20 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/12 17:58

●オープニング本文


●エイジア学園都市〜ドリーム・パレス本店〜
『レディースアーンドジェントルメン! 記念すべき一周年となるV1グランプリがこの”フォーゲルマイスター”を使ったイベントとして、ドリームパレス本店に帰ってくるわ!』
 本店のイベントアナウンス用ディスプレイにはCGで作られたアニメキャラクターのような青髪の女性である『みゅう』が告知を行った。
 エイジア学園都市とはドローム社が資金を提供し作り上げた再開発学園としであり、正式名は『OSAKA文化学術研究ミレニアム』である。
 ここドリーム・パレスはドローム社直営のアミューズメント施設だ。
 そして、フォーゲルマイスターとはそこで稼動しているKVのデータをとりあつかった筐体型ゲームである。
『傭兵との再戦もあるわ。再び戦おうって猛者は受付をすませてね?』
 みゅうがくるりと回るとテロップと共に受付方法が流れた。
 
 ――第五回V1グランプリ〜ダンジョン・コンペティション〜開幕――

●”疾風”現る
「受付を頼む。シルフィードだ」
 スポーツサングラスをつけた金髪の美丈夫がドリーム・パレスの本店に現れる。
 レーサーが着込むスーツを身にまとう姿は様になっていて、何か強い力のようなものを放っていた。
「あら、あなたが噂のシルフィード? お会いできて光栄ね」
「お前は‥‥誰だ?」
 美丈夫は受付を済ませくるりと背後に顔を向ける。
「私はレオノーラ・ハンビー(gz0067)。何処にでもいる普通の傭兵よ」
 ゆっくりと微笑みプロテクターを着けたレオノーラも受付の前に立った。
「こういう場所に来る人とは思わなかったわ、シルフィード」
「約束を果たすためにな‥‥風が変化を運んでくれた‥‥。今一度このV1で俺の吹くべき先を見定めたい」
 スポーツサングラスの奥にある目が細くなる。
「そう、当日はよろしく頼むわね。シルフィード」
「‥‥遠慮はしない」
 レオノーラから差し出された手を少し迷いながらシルフィードは握った。
「決着‥‥つけたいね」
「うん」
 二人の能力者を双子の少女が眺める。
 胸には猟犬を模したバッチがついていた。

●参加者一覧

/ 花=シルエイト(ga0053) / 須佐 武流(ga1461) / 角田 彩弥子(ga1774) / 如月・由梨(ga1805) / 篠原 悠(ga1826) / 終夜・無月(ga3084) / 木場・純平(ga3277) / 霧島 亜夜(ga3511) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / 高坂聖(ga4517) / 比留間・イド(ga4664) / キョーコ・クルック(ga4770) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 智久 百合歌(ga4980) / 月神陽子(ga5549) / ヒューイ・焔(ga8434) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / イスル・イェーガー(gb0925) / 美環 響(gb2863) / エミル・アティット(gb3948

●リプレイ本文

●Exchange Greetings
「あれ、なぱーむバニーはいないのね‥‥ちゃーんす」
 メイド服姿でドリームパレス本店に訪れた月森 花(ga0053)はにやりんと笑った。
「皆、応援よろしくね♪」
 スカートを両手でつまんで可愛く挨拶。
 V1のアイドルを虎視眈々と狙っているようだ。
「いいぞー‥‥あ、ヤクトハウンドの二人だぜ。ゴスロリで気合いれてるぜ」
「マジかよ、激レアじゃん」
 ひゅーひゅーとメイド姿の花をギャラリーは盛り上げていたが、赤と青のゴシック衣装の双子少女に向かう。
「強敵‥‥V1アイドルはボクのものだよ」
「花さん、覚醒してます?」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)が黒いオーラをほのかに漂わせる恋人を心配していると双子少女がやってきた。
「TACを名乗っていなかった‥‥私はブラウ。妹はツィノーバ」
 人形のような少女は冷めた瞳で手を差出し、宗太郎も握手に応じる。
「決着をつけましょう」
「ええ‥‥」
 ブラウの冷めた瞳が微笑んだ。
『V1準備会よりお知らせします。選手の方は準備をお願いします』
「時間か‥‥」
 ヘルメットを小脇に抱えたシルフィードがアナウンスに従い、宗太郎の脇を通って出て行こうとする。
「シルフィードさん‥‥」
 宗太郎は手をさしだすがシルフィードはタッチだけをして向かう。
 その手は手袋をしてはいなかった。
『なお、参加予定でした霧島・亜夜さんにつきましては欠席、キョーコ・クルック(ga4770)さんはメイド・ゴールドさんが代理となりましたご了承ください』
「その通り、諸君らとレースに参加させてもらうメイド・ゴールドだ。観客のみなさんに楽しんでもらえるよう死力を尽くそうじゃないか」
 アナウンスの終了と共に2F席からメイド服にマントという、ナイトゴールドマスクまでつけた女性が登場する。
 いつものメイド服に髪型すら変えていないため誰が見てもキョーコだと分かった。
 しかし、そんな派手な登場をしているキョーコを無視し、角田 彩弥子(ga1774)はシルフィードに近づく。
「一年ぶりだな。今度は実力で勝たせてもらうぜ?」
「ふっ‥‥追いつけるものならば追いついてこい」
 軽く微笑み返し、シルフィードは角田から離れていった。


●Fanfare
 各自がアクセスし、スタート位置に立つとダンジョンのようなコースが消えて、暗闇の中スポットライトが当たる。
 ライトの中央には智久 百合歌(ga4980)が黒のドレス姿で立っていた。
 百合歌は一礼すると、ヴァイオリン「Janus」で演奏をはじめる。
 疾走感を感じさせるヴァイオリンの早弾き。
 それは参加者を闇へといざなう音色だった。
 弾き終わるとスポットライトから百合歌が消え、紫の瞳に髪を下したメイド服の女性がスポットライトの下に現れる。
「まったく、誰かしらね。こんな演出をしてくるのは」
 レオノーラ・ハンビー(gz0067)は呆れながらコックピットで呟いた。
『私ではありませんよ?』
 その呟きに反応し、月神陽子(ga5549)が言葉を返す。
「あら、そう? でも重傷で参加するのも十分無茶しているわよ」
『私はアルカネットこの世界に消えたご主人様を探しています‥‥』
 メイド服の女性はそういって巨大化し、紫のウーフーとなった。
『二回目のV1参加ですが、自分の岩龍では勝率ほぼ0%だなぁ』
 高坂聖(ga4517)は苦笑し、傭兵ないで行った賭け主である亜夜不在もあって踏んだり蹴ったりだと感じる。
 すると暗闇がはれ、再びダンジョンのようなコースとシグナルが表示された。
『このバラのように僕も輝きましょうか』
 レインボーローズを片手に美環 響(gb2863)が匂いを嗅ぐとレッドから、イエローへとシグナルが変る。
『いと高き、月の加護があらんことを』
 祈るような終夜・無月(ga3084)の呟きが終わると、シグナルはブルーへとなった。

●1st Section
『他人の妨害なんて考えずに、潔く突っ走らせてもらうぜ、ハッハー!』
『機先はもらえたか、ならば稼ぐまで』
 スタートから加速したのは比留間・イド(ga4664)と木場・純平(ga3277)の二者だ。
 純平にいたってはリッジウェイ改でありながら、装備を軽くした軽量仕様であっというまにストレートを駆け抜ける。
 その後ろを百合歌のワイバーンとシルフィードのスカイスクレイパー改が追いかけた。
『盛大な花火から参りましょう?』
 如月・由梨(ga1805)はレース開始直後でありながら帯電粒子砲を構え、須佐 武流(ga1461)と篠原 悠(ga1826)を狙い撃った。
 アグレッシヴ・フォースを込めた二連射は二人の機体に直撃する。
『ちっ、しょっぱなから仕掛けてくるのかよ』
 須佐は舌打ちをしながらも体勢を整え、駆け抜けた。
 その後ろを無月のミカガミが走輪走行で追いかける。
『さて、開催一年を記念して派手にいきましょうか?』
 クラーク・エアハルト(ga4961)がブーストをかけ、宗太郎機に向かいスラスターライフルを撃ち込むと共に離れた。
『その攻撃を食らうわけには行かないぜ! 俺には目指す風が目の前にいるんだ!』
 『回避オプション』を使い、宗太郎のスカイスクレイパーは銃弾の雨を避けきる。
『おおこわ、なんてレースだよ。安全に煙幕ださせてもらうぜ』
 初参加のヒューイ・焔(ga8434)はレースだというのに目の前で繰り広げらる乱戦にたじろいだ。
 そして、煙幕を放ち後方の撹乱と自己の安全を確保した後に走り出す。
『ちょっと出遅れたど、すぐに追いついたるで〜』
『うん、追いつく‥‥』
 悠に合わせて隣にいた赤いワイバーンも走りだした。

●2nd Section
『出遅れ‥‥ちゃってるなぁ‥‥』
『スイッチ確保したぜぃ』
 イスル・イェーガー(gb0925)が前方の集団を見送っていると地上に降りているエミル・アティット(gb3948)から報告を受ける。
『勝つことも重要だけれど、ボク達が小隊行動の経験をいかしきれるかの方が大事だよ』
 イスル、エミルと共にチームを組んでいる柿原ミズキ(ga9347)の言葉にイスルは「うん」という返事で答えた。
『ごめん遊ばせ』
 エミルがスイッチを押すのを見計らっていたのか、陽子の夜叉姫がブースト全開で床を駆け抜け、出口直前で煙幕を放つ。
 扉が煙で隠れ、開閉タイミングが分からなくなった。
 後続には飛行して追いかけてくる聖機の姿も見える。
『おう、俺達もがんばるぜ!』
『目指せ、完走‥‥だね』
 ミズキとイスル、エミルのチーム『スター☆ライズ』は飛翔しながら煙に隠されている扉に突っ込んだ。

●3rd Section
 緩やかなL字の壁をシルフィードのスカイスクレイパーが滑るようにトップで走り抜る。
 次に百合歌がシルフィードを追いかけた。
『いいねぇ、純粋な速さを競う! これでこそレースってやつさ!』
 イドも楽しそうに追随する。
『はじめッからすっ飛ばしてちゃ勝てるものも勝てない‥‥ちっ!』
 トップに追随する須佐がを曲がろうとしたとき、足が縺れた。
 壁に衝突し、MSIバルカンRが壊れる。
『ほら、ぼーっとしとると蹴散らすで〜!』
 壁を走る悠機が須佐機を飛び越えて走った。
『まだまだ、抜かれるかよ』
 悠機をぎりぎりで追い抜き、須佐機は次のコースへと向かう。
『今のところ安定して走れているが、これからどうなるかだな』
 リッジウェイでありながらアウトインアウトのコース取りを行い、純平は安定した走りを”魅せて”いた。
『ブースト準備‥‥。次のプール前で‥‥離陸を狙います』
 無月機は壁を走りながら途中から変形離陸体勢に入る。
『その隙を逃すわけには行かないよ』
 後ろから追いかけてきたメイド・ゴールド機が無月機に向かいウェイフアクスを振り上げた。
『そうはさせません』
 ブーストで加速した由梨機が一気に追い上げ、メイド・ゴールド機にナックルフットコートβで殴りかかった。
 メイド・ゴールド機は由梨機の攻撃をライト・ディフェンダーで受け止めようとするが直撃を受ける。
『中々やるじゃないか』
 そんな激しいやり取りをしている後ろに紫のウーフーが突撃した。
『はわわ〜、ミラーフレームが壊れちゃいましたぁ!?』
 どうやらドジっ子メイドらしい。
 アルカネットはいろんな意味で混乱を巻き起こす存在であることがこのとき確定した。

●4th Section
『水面を見上げて波乗りってのも悪くねえな!』
 角田は天井を走りつつ頭上に広がるプールを眺める。
 ブーストを使い、ダウンフォースで機体を押し付けて走った。
 その後ろをシルフィードが追いかける。
『この区画は俺様の勝ちだな!』
『勝負は総合で決まる。油断をしないことだ』
 シルフィードのスカイスクレイパーは移動力を強化しているのかブーストもなく天井に張り付いていた。
『そこのお二人さん避けたほうがいいぜ、後ろの方のお嬢さんが気合いれてる』
 ヒューイがブーストを発動させて二人の頭上を通り過ぎると、レオノーラ機からG放電装置の攻撃が飛ぶ。
『チャンスといえばチャンスだよね‥‥でも、ボクは落ちないよ』
 近くを飛んでいる花機がラージフレアを放ち、電撃の軌道をそらせた。
 水面(みなも)の上で繰り広げられる攻防。
 それを避けるように壁を走る一団もいた。
『みんな、今の攻撃の被害はない?』
 ミズキ機が仲間の安全を確認する。
『問題ないぜ〜』
『大丈夫‥‥』
 出遅れているのが幸いしているのか、攻撃の対象にならないチーム『スター☆ライズ』は安全に突き進んだ。
『なかなか、順位をあげれませんね。そろそろブーストをかけていきますか』
 響機は後列についていきながら呟く。
『やっぱり、厳しいですねぇ‥‥』
 更に後方ではのんびりと聖機が飛んでいた。

●1st Information
『中間報告を行います』
 各自のモニターにMC『みゅう』の姿が映りだす。
『現在のトップは角田さん、続いてシルフィードさん。百合歌さんが続いています』
 上位3位以降はずらずらとランキングで表示されていった。
「ぎりぎりトップ5かよ‥‥こっから逆転していかないとな」
 須佐は順位を見ながら、これからの作戦を立てる。
 逆転できなくはない順位ではあるがワイバーンやスカイスクレイパーでは移動力で負けていた。
「だが‥‥単純なレースじゃないなら勝機は十分だぜ」
 気合を入れなおす須佐。
『ええ、今は出遅れていますが逆転しますよ。須佐さん』
『さぁ、どうなるか分からないからこういうレースは面白いんじゃない?』
 状況を楽しむようにクラークとレオノーラまで回線に乱入してきた。
『そうですね。出発前の賭けとは別枠で一つ賭けをしましょうか』
『のったわ』
 レオノーラが乱入してくるとクラークがそのまま須佐のコックピットごしに会話を持ちかける。
『自分が勝ったらお茶に付き合ってもらえますか?』
『最高のお茶を用意してくれないと嫌よ?』
「お前ら、人のコックピットでデートの約束しているんじゃねぇ!」
 回線をすべて閉じて須佐は機体を走らせた。

●5th Section
 下り螺旋のコースを各機が各々の動きで抜け出す。
 プールエリアの天井をブーストダッシュで駆け抜けた悠はそのまま走った。
 螺旋状になったコースをとにかく抜け出そうと動いたが、ブレーキングにブレがでる。
「もうちょっと。そりゃ、ここで足止めやっ!」
 出口に差し掛かろうとしたところ、悠のワイバーンからチェーンファングが飛び出して出口を十字に塞いだ。
「更にもいっちょ!」
 煙幕を射出し、確実に塞いで逃げ出す。
「どうや!」
『予想内‥‥』
 逃げ切ったとおもった悠だが煙を抜けた赤いワイバーンが悠に張り付いていた。
 高さの低い、スカイスクレイパーらは隙間を縫って抜け切るが飛行していたり、人型の機体は大きく足止めを受ける。
『ははははは、これくらいで止められはしないよ』
 ウェイフアクスを振りかざすメイド・ゴールド機はチェーンファングを砕いた。
『派手にやってきますね‥‥しかし、あまりにも美しくない』
 メイドゴールドの後ろをこっそりと付いて行きながら響は一息つく。

●6th Section
『多少の足止めを受けましたが‥‥ここはトップで抜きます』
 機先を制した無月機が一気に狭いストレートを走り抜こうとする。
「考えることは皆同じですか、ですが単純にやらせるわけにもいきません」
 クラークが無月機に向かってスラスターライフルを叩き込みながら追いかけた。
 無月機はそれを避けて逃げ切る。
『ようやく宗太郎君と並べたよ』
『長居は無用! 逃げ切るぞ!』
 花機、宗太郎機とそれに続いた。
『無月さんはトップ‥‥ここで強敵を減らすのが私の役目』
 高出力ブースターと弾の切れた帯電粒子砲とスラスターライフルまで捨てて身軽になった由梨機が悠機へと向かっていく。
『相手はうちか! 2コース目といい、今といい恨みでもあるんかいな!』
『うらみはありません。ただ、邪魔なのです』
 さらりと言い返した由梨は雪村を抜き放ち、悠機に斬りかかった。
『そっちがその気なら、こっちだって返すで!』
 ソードウィングを展開していた悠が由梨機を斬りつける。
 実剣と光剣の二本が交差し、互いを貫きあった。
『その人、倒させない』
 赤いワイバーンにのったツィノーバが雪村を抜いて由梨機へと攻撃に移る。
『あなたも邪魔をするのでしたら、倒すまでです』
 由梨機の肩へ雪村を差し込んだツィノーバ機を由梨は雪村を今一度保持し、貫き返した。
『それじゃあ、こいつも受け取りな! あんたみたいなのにウロチョロされると困るんでな!』
 ツィノーバ機に攻撃をしている由梨機に須佐が雪村で斬りつけた。
 その間に悠機は離脱する。
『待ちなさい‥‥あ』
 由梨は追いかけようとするも、エネルギー残量も機体耐久力もないことに気がついた。
『お姉ちゃん、交代』
 ツィノーバも破壊寸前のところで消え、青いワイバーンであるブラウ機と交代する。
『おっと、猟犬さん。そのチャンスは逃さないわよ』
 百合歌が交代して行動待ちをしているブラウ機へヘビーガドリングを叩きこんだ。
 間を抜けようとする純平機にまでその銃弾は容赦なく撃ち込まれる。
『くっ‥‥穏便に抜けたかったが気づかれたか』
 それでも純平は百合歌を追いかけた。
『問題ない、レースを続行する』
 純平に続き、ブラウも後を追う。
『煙幕使うタイミング逃しましたわね』
 第3グループの陽子や、ヒューイがブーストを使って追い上げをはかった。

●7th Section
 レースも大詰めとなってきて、各自の順位が大分固定されだす。
「さすがに逆転も望めないとなると気楽になりますね‥‥」
 岩龍にてブースターも使わず、さらに壁走りなどもせずにひたすら地道に聖は進んでいた。
『はわー!? あー、サブアイシステムが壊れましたぁ!?』
 聖の目の前を紫のウーフーが通り過ぎて盛大にクラッシュを起こす。
 謎のメイド、アルカネットだ。
 もっとも、クラッシュの原因は彼女がドジなわけではなく、難易度の高いL字である上にヒューイが置き土産とした煙幕が立ち込めて視界を遮断していることも大きかった。
「これは大変ですね‥‥大丈夫ですか? うわぁぁっと!」
 アルカネットを心配していた聖もまたスピンをする。
 すでに、第一グループも第二グループもうまく立ち回り現在は聖達第三グループだけが走っている。
『煙幕で視界が途切れているけれど、上手く抜けるよ。次は飛行形態になるから離陸準備』
『‥‥了解』
『わかったぜ』
 同じように地味に走ってはいるも、お互いにカバーしあいチーム『スター☆ライズ』はL字へと挑んでいた。
 人型形態からそろって離陸体勢に入る姿は統率されて実に美しい。
「楽しみ方はそれぞれですね」
 聖はV1を楽しんでる3機を微笑ましく見守った。
 しかし、離陸時にイスル機がバランスを崩し一度地面にぶつかりながらも機体を起こして飛び上がる。
(「今ので何か異常が出ていなければいいのですが‥‥」)
『ほら、遊んでいないで走りきるわよ』
 聖に合わせていたのかそれとも遅れて走ることを楽しんでいるのか、レオノーラのシュテルンが聖に声をかけてから抜いていった。
「確かに、リタイアよりかは完走できたほうが何倍もいいですね」
 納得した聖はレオノーラを追いかけるように走り出し、煙を抜けていく。
 勝者確定まであと3コース。

●8th Section
 8番目のコースは電撃が時折飛び出す『サンダーランス』と呼ばれるコースだった。
 VMというゲームらしい演出でもある。
 その中を第一グループであるシルフィード機、百合歌機、イド機、悠機、無月機の順で駆け抜ける。
 悠機と百合歌機は『マイクロブースト』を使い、互いの距離を詰めてシルフィードを追いかけだした。
「ミカガミ‥‥移動力では追いつけません‥‥か」
 前コースの勢いを残して走る無月だったが、やや遅れだし第一グループから離れだす。
『どけどけー!』
『まだ、終わらん!』
 第二グループでもある須佐機、純平機がブーストで加速しながら無月機を追い抜いていった。サンダーランスの迸る壁をあえて走り運良く突き抜けた。
 その後ろから、花機が試作スラスターライフルで弾幕をはりながら駆けた。
『無茶してくれるぜ、こいつをくらいな!』
 自分の横を通り過ぎようとした花機にヒューイがソードウィングをガツンとあてにでる。
 カウンター気味に食らわされたソードウィングで花機はスピンする。
『花!』
 宗太郎がスピンしたを花機を心配するも、ゴールに向かった。
 目標である風は遥か先を走っている。
『中々情熱的な仕掛けだね』
『この程度では私を止めるとこはできませんわ』
 第三グループではサンダーランスの洗礼をメイド・ゴールド機と陽子機が受けていた。
 陽子機は装甲を貫通する攻撃を受けながらもブーストを使って強引に突破を図る。
『俺様をこんなものでとめられると思うなよ!』
 角田機がブーストを使っておいあげ、その後ろをチーム『スター☆ライズ』が編隊飛行でサンダーランスのあたらない中央を飛行した。
『皆、大丈夫だね? ラスト2コースもがんばっていくよ』
 ミヅキの指示の従い、イスルもエミルも息を合わせて続いていく。
『美しい連携だね。さて、そろそろ僕も本気をだすとしましょうか』
 レインボーローズの香りをコックピットで嗅ぐと響は駆け出した。

●9th Section
 ストレート直前の緩やかなL字‥‥駆け引きをする場所としてはラストチャンスである。
「ブースト! 空戦スタビライザー発動!」
 静かに時を待っていたかのように響が動きを見せる。
 バイパーの十八番である『空戦スタビライザー』を発動させた響機が一気に追い上げを図った。
 煙幕を後続に放ち、足止めを試みる。
『煙など‥‥疾風の前には足止めにもならない』
 シルフィードがレーサーとしての感を発揮させ、突破してきた。
「簡単に来ることも予想の範疇ですよ」
 響が抜けてきたシルフィード機にむかって照明銃を放つ。
 サングラス越しではあるが、強い光を受けてシルフィードの動きが鈍った。
『ちゃーんす!』
『このまま抜かせてもらうわ』
『まだ、終わらない‥‥』
 シルフィード機を飛び越すように3機のワイバーンが壁を駆けて煙を抜る。
 自分を信じて、ただ走るものの動きだった。
『正面突破、それだけですね』
 クラークは呟き、温存していたブーストを発動させる。
 多くのものが壁をブーストを使って走り、煙を突き抜けて最後のストレートを目指した。
『面白い、皆してこうして走らなければ楽しくはない』
 メイド・ゴールドのアンジェリカが空戦スタビライザーを使い、追い上げにかかる。
『‥‥ちっ、重傷がこんなに響くなんてな』
『え、亜夜?』
 ふと聞こえた出場していない恋人の声を聞き、キョーコは周囲を見た。
 隣を走るの紫のウーフーであるアルカネット機。
『あんた‥‥まさか‥‥』
『私はアルカネット、皆様とは初めてお会いいたしますわ』
 素のままでキョーコはアルカネットを問いただすも、少女の声でさらりと返されてしまった。

●Last Section
 最後のストレートに差し掛かり、勝負の行く末はここで決まることを誰もが感じる。
『小細工無用、最後のブーストいっけぇぇ!』
『負けません‥‥』
 須佐が最後の加速に入った、それを追いかけるように無月が戦闘機形態に変形し、ブースト離陸をおこなった。
『ここが勝負や! 一歩も前にはすすまさせへんで!』
 『マイクロブースト』にブーストを発動させた悠がそれらを追い抜いて走る。
『そうはさせない』
 悠機と同じように並走してきるブラウ機が横から体当たりをしかけた。
『すみません、やらせてもらいます』
 体当たりで揺らいだ悠機に向かってクラークのスラスターライフルが叩き込まれる。
 ワイバーンの超加速力は脅威なのだ。
『く、それくらいで‥‥あかん、今までの戦闘でのダメージがきつ過ぎるわ』
 由梨に狙われていて、ダメージをかなり追ったグレイハウンドはその場で伏せをするかのように倒れこむ。
『抜かせてもらうわ』
 百合歌がブーストをかけて最大出力で飛びぬけた。
『しまった! させませんよ!』
 その後ろをクラークがブーストで追いかける。
『宗太郎君は先にいって!』
 追いつけないと悟った花機が宗太郎機への援護とばかりにスライスターライフルを走りぬけようとする第一グループに向かって撃ち込みだした。
『助かった! ここで勝負を駆けるぜ、シルフィード!』
『そうだな‥‥』
 先のL字で出遅れたシルフィードが宗太郎と共に並走し、一歩も引かない様子を見せる。
『最高速度、皆! ブースト全開でゴールしよう!』
『了解だぜ』
『うん‥‥』
 チーム『スター☆ライズ』は誰一人駆けることなく突き進み、飛行形態で加速をした。
 20機前後のKVが一本の道をこぞって進む。
 殆どの機体がブーストを発動させてバーニアを吹かし、後方に光の尾をつけていた。
 一本の矢のように見える一団の先頭が今、ゴールしようとする。
『『『うぉぉぉぉ!』』』
 すべての能力者が最後の叫びを上げて勝負に出た。
 そして、一機のワイバーンがゴールラインを飛び越える。

『Winner Is Yurika T Kikuchi』
 
 システム音声で勝者が告げられ、レースは終わった。
 次々とゴールしていくなか、最後尾では青いワイバーンが白×水色のワイバーンを背負いながらゴールを決める。
 
 
 第5回V1グランプリ 結果
 
1位:智久 百合歌
 2位:比留間 イド
 3位:シルフィード
 4位:須佐・武流
 5位:木場 純平

●A Reward
「‥‥ひ、人待たせてるから行くねっ じゃっ!」
 筐体から出てきた悠は頬を染めながら携帯を握り締め、そそくさと会場をあとにする。
 結果を吹き飛ばすようないいことがあったようだ。
「応援ありがとう」
 V1優勝者として筐体からでてギャラリーの歓声を受け、手を振る百合歌に陽子が近づく。
「優勝おめでとうございます。これは私からのお祝いですわ」
「え‥‥? こんなの受け取れないわ」
 陽子から手渡されたのはお年玉袋であり、中身には10万Cがはいっていた。
「わたくしは楽しめればそれでよかったのですよ」
「それじゃあ、ありがたくいただいておくわ」
 笑顔を向ける陽子に百合歌も笑顔で返して、握手を求める。
 陽子が握りかえすと大きな拍手が起きた。
「イマイチ順位がのびませんでしたね‥‥」
 優勝を狙っていた響は少し残念そうに筐体から出る。
「お前はまだ機体のポテンシャルを生かしきれていない。本当に勝つ気があるのなら、無策で走るのをやめることだ、どのような状況でも常に最善を尽くすことが勝利へとつながる」
 響がその声に気づいて見上げるとサングラスをかけた元F1レーサーが立っていた。
「ありがとうございます。次は貴方にも勝ちますよ」
 握手を求めた響の手を手袋をつけたままでシルフィードは握りかえす。
「また負けてしまいましたが‥‥いいレースをありがとうございました」
 シルフィードを見かけた宗太郎が近づき深くお辞儀をした。
「こちらこそ、な‥‥今後の風は決まりそうだ」
「どうされるのです?」
「空も極める‥‥陸が走れなければ空を目指せばいい。俺は下ばかりみていた」
 シルフィードの気持ちを初めて聞いた宗太郎は心底嬉しそうに微笑む。
「何かあれば私も協力します。また、どこか‥‥」
「風の吹くところで‥‥」
 シルフィードはそれだけ言い残して、ドリームパレスから静かにでていった。

●A Promise
「無月さんを優勝に導けなかったのが残念です」
 電光掲示板に表示される順位を眺め、如月はふぅと息をつく。
「霧島さんがいなかったから4万Cの払い戻しですか」
「ええ、今回の賭けは皆負けかしらね? 勝者がいない分、いい勝負だったともいえるかしら」
 閉会式も終わったあと、フードコートではこっそり行われていた傭兵の賭けを清算していた。
 聖は返してもらった4万Cを複雑な気持ちで懐にもどす。
「レオノーラさん、レース中の約束覚えていますか?」
「お茶の話ね? いいわよ、何処に連れて行ってくれるのかしら」
 賭け金をそのまま受け取り、クラークはレオノーラに声をかけた。
「お口に合うか判りませんが、僕が直接いれたものです」
 『シャスール・ド・リス』という所属小隊用の白い軍服を着込んだクラークがそっと手を差し出す。
「礼服で誘われたなら断るのも失礼ね。こちらの賭けは貴方の勝ちだもの。でも、せめて着替えさせてはくれるわよね?」
「ええ、もちろん」
 銀色の髪を掻きあげて艶笑を浮かべるレオノーラにクラークも笑顔で答えた。
「ちょっと、取り込み中すまないんだが、新藤雪邑っていう第1回V1にでていたやつはエルドラドで死んだのは本当なのか?」
 いい雰囲気になっている二人に角田が禁煙パイポを加えながら顔を入れる。
 微笑んでいたレオノーラの表情が険しくなり、ゆっくりと答えた。
「ええ、あちらに寝返って廃人寸前になるまで戦って死んでいったわ」
「あの野郎‥‥死んだら、指導できねえじゃねぇかよ‥‥くそっ」
 レオノーラから話を聞いた角田は震える拳を握り締め、テーブルを思い切り叩く。
 一周年を迎えたV1で、レースに負けたことよりも悔しい思いを角田は味わっていた。