タイトル:ゴキメラバスターズ弐マスター:橘真斗

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/27 03:22

●オープニング本文


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 2007年12月に四国に再び現れたゴキメラ。
 それらを退治にするために能力者を要請し、戦闘をした。
 そこで、信じられない報告を受ける。
 ゴキメラは死体に卵を産み付けて増殖する能力を持っているというのだ。
 倒すこともままならず、また殺されればゴキメラの餌となる。
 この四国はどうなってしまうのか‥‥。
 そう思っていた矢先に、UPCのある研究機関からゴキメラの捕獲任務が言い渡されたのだった。
 彼らの存在を私達も始めて知ることになる。
 UPCという組織はどれほど深いのか、私には想像できなかった。


                             UPC四国分隊513小隊・隊長、坂本正臣

●北米のとある研究所

「ゴキメラ‥‥ね」
 戦闘記録を眺めていたロシア人の少年は面白いとばかりに口をゆがめた。
 その表情は年齢にそぐわないものだが、その他の研究員は何もいわない。
 それだけの権限を少年はもっていた。
「触覚だけなのはもったいないね‥‥コレの回収を要請しようか。卵を産み付けるなんて稀に見るサンプルだよ」
 少年は書類を書き上げ、研究員に渡す。
 若干13歳でありながら、遺伝子工学で博士号を取得したロシア人少年の興味はキメラにだけ向けられていた。


●UPC四国分隊前線基地
 2008年1月。
 ゴキメラの存在はその四国戦線の兵士達を恐怖で支配していく。
「まともに戦っていてはジリ貧だ。かといって、ほうっておいても増えるばかりか」
 坂本はUPC松山基地に設置された対策本部で状況を見て唸っていた。
 ここ二週間でゴキメラの発見報告件数は増えている。
 ヤツラの本格的な進行が始まったことを意味していた。
「数は増える一方か‥‥幼生体のうちに処理できるだけしているが、追いつけない状況だな」
「死体処理もできうる限りやっていますが、死体であれば動物でも、キメラ自身でも可能な模様です」
 部下からの報告に坂本は寒気を感じた。
 動物の生存本能の恐ろしさをここまで引き出した存在など、認めたくない。
「なりふりかまわずか‥‥」
 坂本はため息をついた。
「それと‥‥報告です。北米のUPC関連研究所からゴキメラを捕獲、そして輸送せよとの任務が下っています」
 部下はそんな坂本の気持ちを知っていても、任務をしなければならないと指令を届ける。
 彼自身、この任務が以下に無茶なことかわかった。
「また、能力者に頼るしかないな‥‥頑丈な檻と、催涙ガスなどを用意してくれ。北米までの輸送機もな」
「了解しました。しかし、彼らは何者なのでしょうか?」
 坂本の要請に部下はこたえるも、この依頼に対して疑問をぶつけてしまう。
「意見があるときは、先に進言許可を求めることだ。若いお前にはなれないだろうがな?」
「申し訳ありません!」
 坂本の苦笑しながらの訂正に部下あわてて頭を下げた。
「確かなことは、頭でしか考えない学者や上の人間に現場の苦しさなど通じないということだ」
 基地のまどから森を眺めつつ、坂本は忌々しそうに呟いた。

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
クリストフ・ミュンツァ(ga2636
13歳・♂・SN
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN
ラマー=ガルガンチュア(ga3641
34歳・♂・FT
ランドルフ・カーター(ga3888
57歳・♂・JG
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM

●リプレイ本文

●ままならない現状
「用意できるものはこれらが限界でおざりまするか‥‥」
 ヴァルター・ネヴァン(ga2634)はため息をつく。
 冷蔵装置は1m台のものを詰め込むものを用意できなかった。
 もともと冷蔵用のトレーラーでもあればよかったが、時間がかかりすぎるとのことで却下される。
「すまないがそういうことだ。上は自分の身の回りで精一杯のようでもあるし、何よりこの依頼主がさっさともってこいとの指示ときている」
 坂本正臣少尉は指示書を能力者に見せた。
 書面の調印は上の階級なため、坂本少尉が従わざるを得ないのが理解できる。
「学者でありながら、権限だけは上‥‥どんな人物かあってみたいものですね」
 クリストフ・ミュンツァ(ga2636)どこか楽しげに笑った。
「それと君達の作戦プランを聞かせてもらったが、ゴキメラを落とすつもりなんだな?」
「ええ、そうですが‥‥」
 ラマー=ガルガンチュア(ga3641)は疑問そうな顔を向ける。
「1m以上のゴキメラを落とす穴を掘り、そこにトリモチをしかける作戦なのはいいのだが、引き上げる手段が問題だ。手足を切り取るにしても落とし穴に入らなければならない」
「確かに、その辺まで頭が回ってなかったな‥‥」
 九条・運(ga4694)は額を叩いた。
 落とし穴を掘ってトリモチを埋める。
 しかし、1mを越えるゴキメラをおさえ、また再び離陸させないだけのせまく、強力なトリモチからゴキメラを引き上げる手が無い。
 手足を切断するために穴に入るとトリモチに足などをとられてゴキメラの攻撃を受け続ける可能性も捨てられなかった。
「では、こちらのプランでお願いいたしまする」
 ヴァルターはもう一つ、熊捕獲のための罠案を提出する。
「檻は事前準備していたからいけるだろう、あと催涙弾も貸し出そう。効くかどうかは分からんが、無いよりはマシだろう」
 坂本はそういって締めくくり、能力者たちは現場に向かう事となったのである。
 
●G捕獲大作戦
「仕事とは言えアレの捕獲をしろとは、何処の阿呆か知らんが、顔を拝みたいものだな」
 時任 絃也(ga0983)はいつもの冷静さとは違う苛立ちを含んだ言葉を吐いた。
「成体のほうは1体解体してもよろしいでしょうか? 私自身興味がありまして‥‥」
 ランドルフ・カーター(ga3888)は囮に向かう3人に向かって、そう声をかけた。
「ええと、ほどほどにお願いいたしますわ」
 前回酷い目にあった如月・由梨(ga1805)はカーターの言葉に戦慄と悪寒を感じながらも、努めて平静に答えた。
(「捕獲が終わりましたら、見張るほうこうにいたしましょう‥‥」)
「戦場で小さいのは見慣れているとはいえ、巨大版は勘弁願いたいねぇ‥‥」
 噂に聞くゴキメラとの戦いを前に醐醍 与一(ga2916)はトリモチを塗布したシールド片手にため息をついた。
「まずは行くぞ」
 絃也の声掛け声と共に与一と由梨はゴキメラの多く目撃されている森へ入っていった。
 うっそうと茂った森は死臭が漂う。
「酷い匂いです‥‥」
 口もとを袖で抑えて由梨たちは森を歩いた。
 食い散らかされ、『新鮮な』死体がそこら中に転がっている。
 人、獣、キメラ。
 そのいずれにも等しく、死と腐敗が訪れていた。
「ここはまさに戦場だな‥‥」
 与一が呟き、足を踏み出す。
 ばりっと枯れ葉を砕く音が静寂な森に響き、木霊のようにバリバリと踏み砕く音が返って来た。
「来たな。ゆっくり下がるぞ」
 絃也は覚醒し、ゆっくりと檻を設置した方へ下がり、音が返ってきた方向を探った。
 30mほど先、茂みに隠れてはいる黒い影を絃也はとらえる。
「前回は不覚を取ってしまいましたが、今回は負けません」
 由梨は甦ってくる恐怖を赤き瞳でにらみ振り払った。
 ガサガサッともの音が続き、茂みからゴキメラがでてきた。
 そして、ハネを広げ羽ばたきだす。
「そうら、逃げるぞ!」
 ゆっくりと下がっていたが、与一の掛け声と共に飛び出そうとするゴキメラから3人は一斉に逃げ出した。
 ぶぅぅんという羽音と共に1mを越えるゴキメラが飛来してくる。
 罠が仕掛けてあるケージまでまだ距離がある。
「あのでかさの上に結構すばやいとなると、面倒だ。とっとと終わらせよう」
 与一がシエルクラインで弾幕を張ってゴキメラの位置を檻のポジションまで引き寄せる。
 覚醒をせずに、あくまでも陽動のための攻撃だ。
「檻までもう少しだ!」
 絃也が声をあげて駆ける。
 視線の先ではヴァルターとラマーが檻の扉をあけて待っていた。
 一歩。
 また一歩と進むたびに檻が大きくなっていく。
 そして、ゴキメラもまた大きな顎を開き絃也達を追ってきていた。
「いまです!」
 檻へ自分達が飛び込もうとするところで、3人は扉の両側へ転がるように飛んだ。
 引き寄せられていたゴキメラは檻の中へ突っ込む。
 ガシャァァンッと扉が閉められ、ゴキメラが檻の奥にぶつかったあと、床にあるトリモチにその身をとらわれた。
「あんまり暴れないでおくれよ、手加減ができないからね」
 ラマーがバトルアクスでトリモチの上でもがくゴキメラの足や羽を檻の柱の間から手を入れて切り落とした。
「まずは成体一体‥‥あとは、幼生体だなぁ」
「いえ、もう一体来ています‥‥」
 与一は一息つくが、由梨がそれを否定する。
 ブゥゥゥンという羽音と共に近づいてきたゴキメラに対して、由梨は容赦なく月詠を振るった。
 飛んでくるゴキメラに対して、跳躍しての斬撃。
 流れるような太刀筋がゴキメラの羽を切り落とす。
「溜まった鬱憤、晴らさせてもらうっ!」
 そして、落ちてきたゴキメラを絃也が捕らえ感情の赴くままにゴキメラをファングで屠った。
 一撃、二撃と当てるたびに甲殻がひしゃげ、粘液が飛び出る。
「これで、ラストだ!」
 ボロボロになり、トドメを指そうとした絃也をカーターが止める。
「すみません、この『検体』は私に預からせていただけませんか?」
 カーターの口から出た言葉は予想外の単語だった。
 
●ゴキメラ解体ショー
 ボロボロになったゴキメラをカーターは幼生体探しをしているメンバーからはずれて一人ゴキメラを解体していた。
 SES搭載のアーミーナイフで外郭をはぎ、内部を丁寧に切り分けていく。
 じゅるじゅると染み出る緑色の液体がゴム手袋にへばりついた。
「なんと‥‥筋力組織が発達している以外は普通のものと変わらないとは‥‥いったいキメラはどうやってフォースフィールドを発生させているのでしょう」
 カーターは自分の予想外の構造に驚きを隠せなかった。
 目の前にあるのは、本当に大きい油虫そのもの。
 関節のつくり、内臓や卵巣にいたるまでそのままと言い切れる。
 しかし、崩れた肉は普通のナイフでも切れるが、甲殻に覆われた部分を普通のナイフで突こうとするとフォースフィールドに阻まれた。
 カーターの知識を遥かに越えた未知の技術であることは確かだった。
「一応、研究所にもっていくとしましょう」
 自前でもってきたクーラーボックスに解体したゴキメラの一部をしまうと、カーターは満足そうに頷いた。

●逆襲のとき、来る
「有史以来‥‥われわれは幾度となくGと交戦し、勝利をつかんできた。だが、いつも何かが足りない‥‥」
「ぶつぶついってないで、卵をあさるの手伝え〜」
 真剣な表情で現実逃避を少ししていた運は与一に引き戻された。
「いや、新鮮っていってもさ‥‥ほら」
 横たわっている動物の死体をあさる与一をみて、運も覚悟を決めてあさり出した。
 死体のぬくもり、内臓の柔らかさが手に伝わってきた。
 その中に少し丸まった異質なものを運は見つける。
「お、これは‥‥」
 ネットをかぶして幼生体を警戒していた運の手が丸まった『もの』を手にした。
 運は食いつかれたときのことを思い出し、唸る。
 ゆっくりと引き出すと、それはラグビーボールのような卵だった。
「孵化はしないようだが、どうする?」
 警戒していた与一は前回戦った運の判断を仰ぐ。
「ま、その辺もこいつを学者に渡せばわかるし、5割の確率で対ゴキメラ兵器が完成するさ!」
 運は先ほどまでの悩んだ様子を吹き飛ばして笑顔で親指を突きたてた。
「どこから、そんな自信がでてくるんだ? わしにはようわからん」
 与一はため息をつきつつ、卵を親のゴキメラとは別の檻に放り込んだ。
「それは‥‥王道ってものだからさ!」
 運はすばらしい笑顔で与一に答える。
「王道ねぇ‥‥わしにはますますわからんよ」
 ただ苦笑するしか与一にはできなかった。
 
●輸送時の襲撃
 ゴキメラを積み込まれた輸送機は北米へと飛び立つ。
 光の苦手なゴキメラの幼生体は特にその方向にあるのか、捜索してもなかなか発見できなかった。
 そのため、切り上げて輸送機で四国から西海岸へ向かっている最中である。
「静かにしていますね」
 竹刀を片手に由梨はゴキメラの様子を見ていた。
「まぁ、後は無事に届ければ完了‥‥ですが、嫌な予感がしますね」
 クリストフはアサルトライフルに弾を込めつつ、窓の外を見た。
 外は雨が降りそうな雲が広がり、薄暗かった。
「クリストフ様には私がついておざります。ご安心を」
 ペアを組むお目付け役のヴァルターがうやうやしく頭を垂れる。
「レーダーに何か映っていないか?」
 絃也はパイロットのそばまでいき、レーダーを見る。
 目だった反応は見られなかった。
「救急セットが不要なのは嬉しいけれど、何か上手く行き過ぎてこわいね」
 ハーネスなどで足場を用意していたラマーは苦笑した。
 ゴキメラとは一度しか戦っていないが、どこか不安感がぬぐえない。
「折角の長旅になるからね、甘いものでもどうだい?」
 ラマーは自前のリュックからケーキバーを出して配りだす。
「なんか、遠足気分になってくるなぁ」
 もしゃもしゃとケーキバーを運が食べだしたとき、けたたましいアラート音が輸送機内に鳴り響いた。
「敵襲ですか?」
「前方に黒い塊‥‥いや、キメラアントの群れだ! ぶつかりにくるぞ、迎撃するヤツは体勢だ」
 絃也はポジションを取り出した。
 黒い雲が輸送機に近づいてくる。
 左右のドアをあけ、射撃体勢をクリストフちと与一は取り出す。
 スナイパーの本領発揮といった場面だ。
「まずは露払い、落とせるだけ落としましょう」
 瞳を赤くしたクリストフがアサルトライフルをしっかり支え、遠くの黒い群れに狙いを定めた。
 強い風が頬をはたき、飛ばされそうになるのをヴァルターが支える。
「アサルトライフルだから少々射程が不安ですが、何とかなるでしょう」
 狙撃眼により、一匹一匹がはっきり見えてくる。
 そのときを狙って、クリストフのアサルトライフルが火を噴いた。
 タタタタンッと鉛弾が小さなキメラアントを撃ちおとしていく。
「急所を狙っても数が多いですね」
 リロードして攻めるも中々つぶれない。
 反対側では与一も射撃していくが半分ほど削るまでにとどまった。
「ぶつかりますね、皆さん踏ん張って!」
 ラマーが声をあげ、カーターは自分が確保したクーラーボックスを抱えた。
 カンカンカカカンと外装に群れが体当たりし、機体が大きく揺れた。
「きゃぁあっ!」
「おっと、大丈夫か! 由梨ちゃん!」
 バランスを崩した由梨を運が抱きかかえる。
「中に入ってきますよ、上がとかされています‥‥私は虫に嫌われているようですね」
「ゴキメラの檻も遠ざけなきゃな」
 ラマーがバトルアックスを構え、運が檻を墨の方へ押す。
 ジュルジュルと上が解かされ穴が開き、風が上へと流れだした。
 その小さな穴からキメラアントが一匹、また一匹と侵入してくる。
「変身っ! ゴキメラで返せなかった恨みをここで晴らしてやるぜ!」
 運が金色の龍人へと覚醒を遂げ、キメラアントに蛍火で切りかかった。
 運の一撃が口火となって、キメラアントを全員で叩き潰す。
 戦いが終わりを告げたとき、日が太平洋に沈んでいくのが見えた。

●戦いの転機
「お待ちしていました、UPCのものです」
 何とか西海岸の空港にたどり着いた能力者たちを出迎えたのはサングラスをかけた軍人だった。
 ロビーではなく、空港内で受け渡しの作業は行われる。
「あんたが、今回の依頼主か?」
 絃也は疲労の残る顔でたずねる。
「いえ、依頼主に頼まれて着ました。学者は多忙なので」
「これが荷物ですよ」
 ラマーが布をかぶせた檻を見せる。
 軍人は近づき、確認したが表情が曇る。
「予定ではゴキメラの成体と幼生体のはずでしたが?」
「ああ、かわりに卵が‥‥あれ?」
 檻に入れたはずの卵はどろどろとした液体となっていた。
 孵化するには、相応の条件が必要そうである。
「どうやら輸送中に砕けてしまったようですね‥‥残骸でも回収させていただきます」
 事務的に言葉を述べると、軍人は部下に指示をだしてゴキメラの成体と卵の残骸を回収していった。
「あなた方は何者なのでしょうか? そして、これを元に何を行うつもりなので?」
 カーターが作家としての興味か、軍人に対して聞きだす。
「It is not necessary to know it(知る必要はない)」
 軍人は鋭い目でカーターをにらむと、それだけ言い残し立ち去っていった。