●リプレイ本文
●鯉の川上り
「何というか‥‥夢に出てきそうだな。アレ」
「来年の初夢はコレだったりしてネ」
『隠密潜行』によりひっそりと進み、九十九 嵐導(
ga0051)とラウル・カミーユ(
ga7242)は川を上ってくる鯉を観察‥‥いや、偵察をしていた。
鎧を着て手足の生えた鯉はラウルたちに気づかない様子で朝靄の中でこそこそと動いている。
「手足が生えて不気味だけれど、鎧を着込んでいるあたり空気呼んでいるヨネ。バグアのセンスってイマイチわかんナイ」
「報告だけは済ませておこう。このまま横っ面狙われるわけにもいかないからな」
こちらの本陣から相手本陣までに通じる川だ。
敵に気づかれないように二人は静かに下がっていく。
●本陣準備
「え、えっと救急箱‥‥お握りもつくりたい、です」
「なんじゃ、ちょろちょろと落ち着きがないのぅ。一日越える戦いじゃ、握り飯は妾も作るとするかの」
落ち着きなく本陣を動き回る雨衣・エダムザ・池丸(
gb2095)に平良・磨理那(gz0056)はじとーっとした目で眺めている。
朝食もまだなことを思い出し、準備をはじめた。
「はじめまして、こういうものです」
「む、『えろほんや』?」
エ口本屋(
gb1954)から差し出された名刺を磨理那は読み違える。
「コウグチ・モトヤです」
「なんと紛らわしい‥‥引っ掛けじゃな!」
「本名ですので、なんとも‥‥指揮官は磨理那さんということで傭兵の方で立てた作戦の確認をと思いまして」
手に持っていた筒を空いた机の上に本屋が広げると、そこには戦場と各部隊の動きが大まかではあるが描かれていた。
「ふむ、なるほどのぉ‥‥」
本屋の名前に文句をつけていた磨理那だが、作戦地図が広げられたのを見るとひょいと台座に立って全景を確認しだす。
「報告します〜双眼鏡で見た限りー、騎兵隊みたいなのがーいるようですねー。真ん中にぃ陣取っています〜」
ラルス・フェルセン(
ga5133)が体に包帯を巻いた姿で双眼鏡を持ち、磨理那のところへ姿を現した。
「ら、らるす! そちは何という姿‥‥おとなしく寝ておるのじゃ!」
「何をいうのですかー、京都を守るために〜きたんですよー?」
にへらとラルスは笑う。
「ええい、勝手にするのじゃっ。じゃが、命散らして戦うことは許さぬからな!」
穏やかながらも強い意志を感じさせる言葉に磨理那はため息と共にラルスの参加を許した。
「平良さんを撫で‥‥いや、愛でるまでは命を散らしたりはしないわよ。私の方も偵察してきたけれど、騎兵隊のようなのがもうひとついたわ。場所は一番東ね」
偵察から戻ってきたシュブニグラス(
ga9903)が扇子にて地図の一点を叩く。
「全体としては橋を潰して私たちを川におびきこむような布陣に見えましたね。警戒は必要でしょう‥‥挨拶が遅れて申し訳ありません、鳴神 伊織(
ga0421)と申します」
伊織やラウル、九十九も戻ってきて敵の全景や戦場の情報をまとめた。
「ふむ、皆感謝するのじゃ。『敵を知り、己をしれば百戦危うからず』情報は有効じゃの」
「そうね。こっちに攻撃する気があるなら、私もバリケードの設営を手伝ってきましょう」
シュブニグラスは満足そうに微笑む磨理那を見たのち、本陣から外へと出て行く。
「もうすぐで朝ごはんの用意ができますから、その連絡もしてきてください〜」
寸胴に味噌汁を用意してきたリノン・オルタネート(
gb4150)が手を振ってシュブニグラスを見送った。
●傭兵朝飯前柵
シーヴ・フェルセン(
ga5638)の提案により川沿いに足を引っ掛けるためのトラップと本陣手前の川にバリケードを張ることになった。
「鯉☆姫だったら、敵はメスばかりなの‥‥」
『いやぁ、きっとボスはオスだよ。オカマもいるかも知れないけどさー』
作業の途中で乙(
ga8272)はふと思い出したように手に持ったテディベアの癸と話をしだす。
「ほら、ちゃんとお仕事をしなきゃだめでしょう?」
「ごめんなさいなの‥‥」
しかし、保護者である楠・甲(
ga8276)に注意をされ、癸を背負うとバリケード作りを再開した。
「廃材の方が来ましたよ。丈夫そうな木もありますから多少はもつでしょう」
鹿嶋 悠(
gb1333)と木場・純平(
ga3277)が本陣の方から磨理那に頼んで集めてもらった材料を追加する。
漁網と廃材などで即席のバリケードが組上げられていた。
「このトラップで多少の時間稼ぎができればいいのですが‥‥」
木の杭を打ち込み、針金を引っ掛けながら、ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)は戦闘になったときの動きをシミュレートする。
「キメラだから単純だとは思うです。鰹のときもそうでやがったです」
ハインと共に針金を巻いていたシーヴが遠い目をした。
「結構できているじゃない。皆、もうすぐ朝ごはんができるからそれを済ませたらよいよ合戦らしいわよ」
遠い目をしているシーヴの視界にシュブニグラスが現れる。
「ここまできたなら全部仕上げてから朝食としよう。後一踏ん張りいくぞ」
「「おー!」」
純平の声に作業していた能力者は高らかと手を上げて答え、作業を続けるのだった。
●開戦!
ぶぉぉぉぉ〜! ぶぉぉぉぉ〜!
法螺貝から独特のメロディが紡がれ、川を挟んだ戦場に響く。
開戦の合図だ。
「深呼吸3回‥‥突撃!」
リノンの合図と共に、本屋、雨衣が覚醒と共に【突撃】をしかける。
パリンと雨衣からガラスの割れる音が響き、川を一気に突っ走った。
「隠れているのはお見通しですよ!」
パンダ姿の本屋がヴァジュラを片手に九十九とラウルから報告のあった【奇襲】部隊を叩く。
「え、えーいっ!」
雨衣の持つ、双斧「花狐貂」がグシャグシャと鯉キメラを斬り刻んだ。
『ねめーっ!』
奇妙な断末魔が響き、戦闘は続く。
「鎧着やがった手足付鯉‥‥なめてやがるですか?」
味方の【突撃】部隊により浮き上がってきた【奇襲】部隊にシーヴは冷たい視線を送りながらコンユンクシオの腹で鯉キメラの頭を叩いた。
気絶したのを確認するとシーヴはそのままコンユンクシオを振るい頭を落とす。
「ありがとうございます。皆さん、このまま突撃しますよー!」
「あっ、ちょっとまってー!」
パンダ姿の本屋とAU―KVを着込んだ雨衣をリノンが追いかける。
鎧をきた鯉キメラとイイ勝負な光景だった。
●迎撃体勢
「ラウル君、このサブマシンガンを使ってください」
「らー兄ぃは無理しちゃだめだからね? んじゃ、いってきまーす」
ラルスからサブマシンガンを受け取り、ラウルはハイン、九十九と共に移動を始める。
それにあわせるかのように鯉キメラたちが【突撃】をしかけ、橋を制圧しようと鯉キメラ達は2部隊ほど動き出した。
「ちょうどいいところにきていますね。橋は僕たちの射程内です」
「食堂のおばちゃんのためにもここは気張るかね‥‥狙撃野郎Bチームってな!」
ハインと九十九はライフルを構え、橋まで動いてきた鯉キメラを狙い撃つ。
『ねめっめえっ!』
槍を構えて、勢いよく突撃してきた鯉キメラは銃弾の雨に次々倒れていった。
「刺身にはできそうにないけど、ミンチにはなりそうだヨネ」
「どっちにしろ、姿のわからない形で食べたいところだな」
弾丸をリロードしながら九十九がため息混じりに呟く。
「今は食事よりも削ることを先に考えましょう」
ハインも弾を込め、射程内に見える敵へ九十九やラウルと揃えて撃ち続けた。
●一時終結
「周辺に敵はきませんか。合流して戦力強化をしましょうか」
鹿嶋は一番敵に会わないポジションだったため、シーヴと合流するために動き出していた。
「とはいっても騎兵隊の進軍ルートは橋からはずれていますから、うまく誘いこめれば‥‥」
橋で迎撃されているのとは別の【突撃】部隊が進軍を始めている。
双方とも橋に戦力を固めているため、鹿嶋が一人迎撃に向かった。
「助太刀をしよう」
純平が味方の射線をくぐり、鹿嶋と共に【突撃】部隊にぶつかっていく。
「助かります」
鹿嶋は零式装甲剥離鋏を構えて突撃してくる鯉キメラ群を受け止めた。
「くっ! 純平さん、今です!」
足に力をいれ、はじかれない様に抑える。
「鯉は鯉らしく生きるんだな!」
純平は横からキメラに掴み掛かって投げだした。
二本足でたっている鯉なのだから、倒れてから起き上がるにしても時間がかかるのは計算できる。
その間に射撃部隊に倒してもらえれば楽だ。
「ここで何としても足止めを!」
戦車の装甲さえも斬る大きな鋏をきらめかせ、鹿嶋は鯉を捌きだす。
『ねめねめー!』
ばらばらになっていく味方を見て、鯉キメラたちが逃げ出そうとした。
「逃がしは‥‥」
純平が追いかけようとしたとき、ぶぉぉぉ〜と磨理那の法螺貝がなる。
撤退の合図だ。
「しかたありませんね、体勢を整えて次で勝負を決めましょう」
できれば潰したかったと思いながらも鹿嶋と純平は本陣へと戻っていく‥‥。
頭上には太陽がさんさんと輝いていた。
●押し返せ!
ぶおぉぉぉ〜!
法螺貝の合図と共に二戦目が始まる。
多少の負傷をみなしているが、しのぎきらなければならないという思いが先にでていた。
「聞いた限りで半漁人と思いましたが‥‥見てみると不気味なことこの上ないですね」
伊織が戦線を進め、橋に陣取り乙や甲と共に攻まりくる敵を倒していく。
「キメラは食べた事が無いのですが、美味しいのでしょうか?」
ふとした疑問を甲は乙に投げかけた。
「鰹キメラはおいしかったの。きっと鯉もおいしいの」
『でも、手足は不評だったよー。だから、集めるのやめようよー』
円らな瞳で癸は抗議をするが、乙は無視してイアリスで鯉キメラのエラを中心に突く。
「エラがいいんですね。えいっ!」
魚人(?)キメラとの戦闘経験の豊富な乙の立ち回りを見つつ甲は刹那の爪で鯉キメラの頭を斬り落とした。
胴は鎧で覆われているが、首までは覆うことができていなったため、容易に戦える。
「ほら、回復させてあげるからがんばって」
「ありがとうございます、そろそろ進みましょうか」
丁度巡回してきたシュブニグラスから練成治癒を受け、伊織たちは倒した鯉キメラを後に先に進んだ。
そのときだ、シュブニグラスの無線機からラルスの声が聞こえる。
『7時の方向から矢を持った鯉キメラがそちらを狙っていますよ。早く逃げるか防御体勢を取ってください』
通信が終わったあとすぐさまラルスのいる方角からエネルギーガンによる支援砲火が飛んできた。
「ちょ、ちょっと!?」
数十本の矢がシュブニグラスの方へ向かって弧を描いて向かってくる。
「ここは私が受けます。乙さんと甲さんは敵の方へ、シュブニグラスさんは下がってください」
伊織が鬼蛍を抜いて矢をはじいていった。
「いわれなくても判っているわよ‥‥でも、一発は返してやらないと気がすまないわ」
超機械αを作動させ、シュブニグラスは矢を射る鯉キメラ達に向かって電磁波を撃ち込む。
「手足、大量なの‥‥」
「き、乙ちゃん、何を集めてるんですか!?」
激しい戦闘をしながらも、乙は『ごーいんぐまいウェイ』をひたすら進んでいた。
●突撃
「なぎ払いますよー!」
パンダ姿の本屋と雨衣、リノンは【突撃】を慣行し、敵の本陣へと仕掛けた。
「邪魔をするものははじくぞ」
純平もパイルスピアに獲物を切り替え、【突撃】として本屋達とは別に橋を中心に固まっている鯉キメラを狙って動く。
本陣に通すまいと固まっていた鯉キメラ達をまるでボーリングのピンのように純平ははじき飛ばした。
「ボ、ボスはど、どこですかー?」
屈強なアーマーをまとっているも、内心びくびくなのか雨衣が震える声で周囲を見回す。
『ココォーイコイコイッ!』
見回しているとどこかありがちな高笑いが聞こえてきた。
「うわぁ、悪趣味だー」
思わずリノンが突っ込みを入れる。
高笑いの主は巨大な鯉で、大きな槍と堅そうな鎧に身を包み、なぜか「恋」という字を前立てにあしらった兜をつけていた。
動揺をしているなか、鯉キメラの親玉(以下鯉王)が槍をぶんぶんと振り回して本屋達をなぎ払ってくる。
「力を合わせればやれます!」
パンダ姿の本屋はきりりと気合をいれた。
だが、鯉王の周りに鯉キメラたちがわらわらと集まりだす。
「た、多勢に無勢なんて卑怯です」
『ねめーっ!』
『こここーいっ!』
雨衣の叫びも空しく鯉王と鯉キメラがどっと押し寄せてきた。
「ここでも一気に突っ切りますよ。狙いは鯉王一つです!」
『ハーイ、注目。援護に来たヨ。やっぱり、ボスに一発かましたいよね』
気合を入れる本屋の無線機にラウルの明るい声が流れ出す。
そして弾丸の雨が横撃ちに振り、鯉王を囲んでいた鯉キメラたちをミンチにしだした。
鯉王は銃弾を鎧で防ぎきり、本屋達へ槍を大振りにふった。
ひゅんと頭上を掠めた槍が地面に当たると地面が大きくえぐれる。
「マトモに当たりたくはありませんね‥‥」
本屋の頬を冷たいものが流れ落ちた。
●全軍抜刀
「ここは一気に攻めるでやがるです」
本陣に近づく鯉キメラを潰し終え、シーヴは進軍を決めた。
「今、ボスとやりあっているようですからね。援護に間に合えば幸いですが、食材の回収も放っておくわけにもいきません」
シーヴと合流した鹿嶋は周囲に散らばるキメラの残骸を見てため息をつく。
「それもそうでやがるです」
日は大分傾きだし、風も冷たくなった。
生物の具合が心配になるもの当然である。
『これー、ちゃんと鯉をもってくるのじゃぞ。屍をこのままさらすのも京が汚れるのじゃ!』
『ああ、磨理那様。勝手に無線機をいじってはいけません』
釘をさすかのように磨理那がラルスの無線機を奪って通信をしてきた。
「だそうですよ‥‥でも、援軍されるのも邪魔ですね」
鹿嶋が周囲をみれば弱った鯉キメラたちが鯉王の方へと集まっていく。
「全部はくえねぇですし、食べるやつもいねぇです。今から倒したのだけ回収ということでいくです」
「了解、行きましょう」
鹿嶋とシーヴが鯉王のほうへ進みだした。
伊織とも合流し、鯉王を守ろうと集まってきた鯉キメラを蹴散らしだす。
「面倒ですので‥‥これで断たせてもらいます」
「シーヴの邪魔をするなです」
伊織がスマッシュを放ち、シーヴもソニックブームで鎧ごと鯉キメラを裂いていった。
背後から開きになるようなものや、ある程度食材になるようにきざまれる。
「女性二人に負けるわけにはいきませんね。いざ、参る!」
黄昏時の戦闘は終焉を迎えようと動き出した。
●片付けまでが戦です
「お疲れお疲れ‥‥さぁ、飯とオセチを回収しないとな」
九十九は警戒を解くと鯉キメラの死体から使えそうなものを選別しだす。
鯉王は純平と本屋達【突撃A】で挟み撃ちをしつつ更に九十九達【迎撃B】に攻撃されてボロボロになった。
『恋』と書かれた前立てもひしゃげて『変』にみえる。
「もう、乙は十分集めてるの‥‥」
『手足ばかりじゃないか〜、チャント食べれる部分もとってこようよ〜』
磨理那から貸し出されたリアカーに鯉キメラの手足ばかり乗せた乙が九十九の横を通りすぎていった。
「アレを食べるのか? ただでさえ夢に出そうな外見してるってのによ‥‥」
「ご、ごめんなさいっ、乙ちゃんにはちゃんと言い聞かせますから」
さすがの光景に九十九は口をぽかんと開けてリアカーを見送る。
その後ろを甲がついていき、ぺこぺこと頭を下げていた。
「大将の首をもらうのが戦国乱世では常識だったようだが、俺は鯉の生首はさすがにいらないな。まとめて焼却処分にしたいからその辺のミンチをこれに乗せてくれないか?」
「‥‥おおっと、悪い悪い」
ぼーっとしていた九十九に今度は必要でないものを集めている純平から声がかかる。
すぐに九十九は自分たちが銃弾を撃ち込んだことによりミンチとなった鯉キメラの死骸をリアカーに乗せていった。
「仕掛けた罠の回収は終わりました。多少荒れた感じはしますが、大きく変化していなくてなによりですね」
別のリアカーにバリケードや足を引っ掛けるために埋めていた杭などを引いてきたハインが戦場を見回し穏やかになった土地を確認する。
「そうだな。戦場をそのままにしていたら気分も悪いからな」
次、訪れるときは戦いのない時にと思いつつ九十九は死体の回収を進めていった。
●ドキッ! 鯉キメラだらけのフルコース
「シーちゃん。そのおにぎりは‥‥いや、何でもないヨ」
「見てないでラウルも少しは手伝うです」
夜、平良屋敷に戻ったメンバーはわいわいがやがやと夕食の準備を整えだす。
「磨理那さん、鯉コクの出汁はこのくらいですかね?」
「うむ、このくらいがよいかの。濃い味は妾はこのまないのじゃ」
エプロンをつけた本屋が割烹着を着た磨理那に味見を求めた。
磨理那もこのたびの勝利を労いたいと自分から台所に立ったのである。
「戦装束よりもそういう格好の方が磨理那は似合っているです」
思わずシーヴが磨理那の頭を撫でると磨理那は顔を真っ赤にして手を払いのけた。
「ぶ、ぶれいものっ! 許可なく妾を撫でてはならぬのじゃ!」
「磨理那さまもー、落ち着きましょ〜ね? 今は料理を〜作るときですよー」
妹であるシーヴと磨理那の戯れ(?)をほほえましく見ながらラルスは欧州の鯉料理を作っていく。
どうやらメスの鯉キメラもいたらしく鯉の卵をつかったフライなどが出来上がっていた。
「ひとつもらいますよ。ふむ、卵がこうなるなら唐揚げとかもいけるかもしれませんね」
本屋がラルスの作ったフライを食べてみて身の方を使って創作料理をしようと考え出す。
「よく考えたら、料理作っているのは殆ど男です‥‥磨理那にもお握り負けてやがるんで、シーヴへこんできたです」
「し、シーちゃん! だ、大丈夫だよ。練習すれば上手になるよ!」
「それじゃあ、お握りが終わりましたらアライをやってみますか? いわゆるお刺身です」
急に項垂れだしたシーヴをラウルと本屋が助け舟をだす。
シーヴ は アライ を 覚えた。
●のめやうたえ
「あのキメラがこんなおいしそうな料理になるなんて、皆さんすごいです」
『やっぱり手足はないね』
「ちょっと残念なの‥‥」
「そち達、楽しんでおるかや?」
宴がはじまるなか、渡した鯉キメラの手足が料理に並ばなかったこと乙が残念がっていると磨理那が見回りにきた。
「挨拶が遅れてすみません。あなたが磨理那さんですか? いつも乙ちゃんがお世話になっています」
乙の隣に座っていた甲が磨理那に向かい微笑みながら礼をする。
「ええ、私も楽しませてもらっています。しかし、お節がゲテモノずくしになっているような気がします」
甲と反対側にいた伊織が磨理那に微笑みを返しつつ、今まででていたお節依頼を思い返し苦笑した。
世界各地から食材が集められているがその方法は千差万別であり、どのようなお節になるか予想がつかない。
「そうなのかや? 妾は詳しく聞いておらぬからの‥‥そちの戦いぶりはすさまじかったのじゃ。さぞ鍛えてきたのじゃろ?」
「依頼は数多くこなしています。戦闘機キメラと戦ったり、強化人間と呼ばれるバグア側の精鋭とも刃を交えてきましたね」
話のネタがなくてどうしようとも思っていた伊織だったが、磨理那は目を輝かせて聞いていた。
「おや、依頼の話か? 他人の経験談なんて聞く機会はあまりないからな。少し俺もご一緒させてもらっていいか?」
純平がお茶を片手に輪に入る。
「京の地酒は口に合わぬのか?」
「ただ、車だから飲まないだけさ」
もてなしがたらなかったのかと少し不安になった磨理那が純平に問うと普通の答えが返ってきた。
「なるほどの。夜道は気をつけるのじゃぞ? それで伊織よ、詳しく話を聞かせるのじゃ」
満足そうに磨理那はうなづくと、伊織に話を促す。
「そうですね。最近受けた依頼の話をしましょうか‥‥」
箸をおき、お茶を飲むと伊織は話を切り出した。
●ここからが本番?
「ねぇ、平良さん。今回の勝利を感謝しているのよね?」
「うむ」
「労いが宴だけというのも寂しくないかしら?」
「ふむ?」
「ひとつだけ、お願い聞いてほしいのだけれどいい?」
「妾にできることであれば、聞いてやるのじゃ」
「じゃあ、この服に着替えて頂戴ね」
「な、なんじゃとぉ!?」
シュブニグラスとそんなやり取りのあと、宴の席から外れた磨理那は一部の能力者にかこまれていじられていた。
ゴシックロリータワンピースに、フリルヘッドドレス、フリルシャツ、フリルパンプスなど日本人形のような姿だった磨理那はいまやフランス人形と化している。
「す、すごいかわいいです。な、なでぎゅー!」
雨衣が感極まって抱きしめて撫でだす。
磨理那は恥ずかしいのか身じろぎすらせずに顔を真っ赤にしてたっていた。
「フリルへッドドレスの変わりにネコミミバンドとかどうかな?」
リノンが交換してみると、シュブニグラスが鼻を押さえるようにして倒れ掛かる。
「素敵よ。平良さん‥‥私たちだけの秘密ね。だから、雨衣さんも私と変って頂戴?」
「え、え、あ、あと5分〜」
何かどこかにいった目をしてシュブニグラスは磨理那に詰め寄り雨衣に交代を願ったが、寝起きのような返事を雨衣は返した。
「い、い、いい加減にするのじゃぁぁぁっっ!」
シュパパパーンと夜の京都にハリセンの音が鳴り響く。
戦のあとに訪れた小さな平和を皆楽しんだのだった。