●リプレイ本文
●再会の準備
「あいつが、人斬り? こいつは、また面倒な事になっているんだな?」
UPC本部より申請していた携帯を受け取りながら、神無月 翡翠(
ga0238)は大きくため息をつく。
「沖那君からは京都市を出たと連絡を受けてます。急に居なくなると心配かけるから‥‥って事でしたね。二週間前でした」
フォル=アヴィン(
ga6258)は携帯のメールアドレスなどを登録しつつ呟いた。
突然の手紙であり、驚いたが『迷惑をかけたくないので探さないでくれ』と書いてあっては逆に気になる。
そして、今、京都から依頼が出され、フォルはここにいた。
「随分‥‥間の悪い話、だな‥‥‥‥『あの時』を思い出すぜ」
話を聞いていた玖堂 暁恒(
ga6985)は沖那が一度、人を殺めて逃げ出したときのことを思い返す。
それを悔いて能力者であることを選んだ彼は過ちを繰り返さないと信じてもいた。
「よし行くか。できる限りはやめに保護に至れる様に努力しよう」
麻宮 光(
ga9696)の言葉に誰もが頷き、高速移動艇へと乗り込んだ。
●狗の知る事実
「磨理那様、急ぎ過ぎてもー、見えなくなってしまうものも、ありますよ〜?」
京都市内を歩き回る平良・磨理那(gz0067)に追いついたラルス・フェルセン(
ga5133)はハンカチで汗を拭く。
「おお、『らるす』かや。事情は聞いておるな? 沖那かもしれない人斬りがでたらしいのじゃ。違うと妾は信じておるのじゃが、近畿UPC軍はそうでもないのじゃ」
「だからといって、磨理那さんみたいな人がひょいひょい現場にいくのは感心できないな」
鬼非鬼 つー(
gb0847)がどこからともなく磨理那の前に現われ、頭を撫でつつ微笑んだ。
「か、勝手に撫でるでないっ! 戯けっ! それに妾は沖那の保護者じゃから当然なのじゃ」
顔を真っ赤にしてつーの膝を蹴り、磨理那はそっぽを向く。
「確かに沖那も心配だが私達は磨理那さんも心配なんだ。わかってくれるかい?」
背をかがめ、磨理那と目を合わせてつーは説得をすると、立ち上がった。
視線は同行している八洲・狛のほうを向いている。
「京都は俺やお嬢の方が慣れている。現場へも案内するから着いて来い」
つーの視線を受け、顔を背けるようにして狛は先に進んだ。
(「彼は‥‥何か隠していますね。おそらく、沖那君に関する何かを‥‥」)
ラルスは狛の態度を見て内心呟く。
そして、目配せをつーへと送ると狛をすぐに追いかけた。
つーが磨理那を引きとめ、距離をわざとあける。
「磨理那様が、貴方の事も気になさっていましたよ。何か隠しており、思い悩んでいるように感じるとの事でしたが‥‥沖那君の事、でしょうか?」
小さい声だが、間延びしていない口調からラルスが真剣であることを狛に示した。
「ふぅ‥‥読まれていたか。当たりだ‥‥俺は‥‥山戸の、いや‥‥今回の被害者の太刀筋を見たことがある。昔使えていた丹後の領主、富士原・猛(ふじわら・たける)様のものだ」
「では、どうして沖那君だけが犯人と‥‥」
静かに話し出す狛にラルスは湧き上がる怒りを抑える。
「富士原・猛様は過去の大規模作戦に出兵し、亡くなられている。能力者であられたからな‥‥ゆえに、あの太刀筋はそうそう見られるものではない」
「フジワラ・『タケル』‥‥ですか」
ラルスはある名前にひっかかり狛を追わずに立ち止まった。
偶然の一致か、それとも‥‥。
●キョウキの行方
「さて、一丁バグアを倒しにいくか」
「聞いた話だと骨董屋付近らしいから‥‥まずは調査かな?」
翡焔・東雲(
gb2615)と堺・清四郎(
gb3564)は京都の町に降り立つと事件現場付近を探しだす。
まず立ち寄ったのは模造刀を扱う見た目の古い店だ。
「なぁ、最近こういうやつ来なかったか? 二週間くらい前だけどさ」
東雲は埃っぽい店内を見渡しながら、店主らしき男に沖那の写真を見せる。
「その少年かい? たしかに見に来ていたね。能力者だったけど、どうかしたのかい?」
「事件については聞かされてないようだな‥‥」
店主の様子から悟った堺は安心するとともに飾ってある骨董品を見た。
その中にある一振りの刀を堺は手に取る。
「これは『夕凪』に近いな‥‥」
「傭兵さんの武器と違って何も斬れないさ。それに古くて鞘から抜けないから飾り用だよ、その刀の元になっているのは人斬りの妖刀といわれているけどね」
長さの近いものをとるが確かに抜けない。
重さは普通の刀といえるような重さだ。
「‥‥そうだな、普通の刀ではないようだ。店主、世話になったな。また来る」
堺は刀を置くと店を後にする。
「次の店に行こうか? それとも刀剣マニアにでもあたる?」
「任せる」
東雲が次の予定について相談するも堺の目は骨董屋のいわくつきの刀を見ていた。
●少年の意志
「出雲までは遠いな」
旅費を温存するために徒歩で京都市から出てきた山戸・沖那はコンビ二で買ったおにぎりを食べながら木陰で休んでいた。
地図を見ればまだ京都府内、丹後である。
「広いな‥‥今まで俺は小さいところで生きてきたんだなぁ」
歩いて見てわかった世界の広さ、無知であったことを沖那は痛感していた。
プップーとクラクションをならされ、沖那が顔を上げるとジーザリオに乗ったフォルと光が見える。
「フォル‥‥それに、あんたは光?」
「紫陽花祭り以来でも覚えていてもらえてうれしいよ」
「お、俺は別にうれしくも何ともないけどよ‥‥」
「迷惑をかけたくないと行き先を告げずに京都を離れるなんて水臭いじゃないですか。そういわれるほうが迷惑なんですよ?」
「今日はここにこれなかったがお前に会いたいって心配している人もいるんだぜ?」
ジーザリオを降りてきた二人は沖那の隣に座り、話をはじめた。
「でも、俺自身のことは俺でカタをつけたいんだ。でないと、ずっと頼りっぱなしで一人では何もできなくなる気がして‥‥嫌なんだ」
はぁと息をついて、沖那は項垂れる。
いつまでたっても一人前になれない自分が嫌になっているような様子だ。
「支えることが逆にプレッシャーになるってこともあるか。でもな、迷惑はかけない代わりに心配させていいという理由にはならないだろ?」
「それはそうだけど‥‥さ‥‥」
「出雲にいくのは出生のことですよね?」
ますます沈みだす沖那にフォルが少し話題を変えだす。
「ああ‥‥本当の両親とか俺のエミタについてとか。知らないことが多すぎるから‥‥それを知りたい。俺が『山戸・沖那』として自信がもてるように」
「それなら、ヒントになるかどうかわかりませんが狛さんに聞いてみるといいかもしれませんよ」
「何で狛が?」
「ちょっと沖那を探すついでに聞き込みをしていたら、この丹後にいたらしい」
「そして、狛さんの仕えていた人が沖那君と同じような剣術を使っていたそうですよ」
「ちょっと、待てよ。俺は誰からも剣術は習って‥‥あ」
「つまり、元のエミタの主かも知れないということですよ。詳しい話を聞きに一度戻りませんか?」
「わかったよ、戻ればいいんだろ」
ふふふと笑うフォルに騙されたと思いつつも沖那は首を縦に振った。
●合流
夕方頃、京都市内に散らばっていた能力者たちは一度平良屋敷へ集まり情報を交換する。
「おう‥‥被害者のほう‥‥を見てきたが、確かに‥‥山戸が斬った‥‥キメラとかと‥‥傷つき方が似ていたぜ」
「警察のほうでは沖那を犯人という方向でみているようだ。前科があって疑われる要素なのが痛いな。不審人物はみられていないから余計になんだろうな」
暁恒と翡翠が警察の方で調べていたことを話した。
「何事もおきなければ沖那も古傷を探られることはなかっただろうにの。あやつの居場所をここで崩すわけにはいかんのじゃ」
磨理那は暁恒からの報告を受け、扇子で手のひらを二度叩いた。
「だからと言って磨理那さん見たいな人がホイホイ現場にでていくのは関心しないな。ここから先はおとなしくして欲しいね」
意気込む磨理那を危なく感じたのかつーが説得にでる。
「最後まで見とどけるのじゃ。犯人に対して一言いってやらねば気がすまん!」
「これはすべてが終わった後に説教だな」
憤る磨理那を見て、つーが苦笑しつつもらした。
「事件現場付近の店には人斬りの刀がレプリカで置いてあったんだ。抜けないようだったが、細工してあってその下が真剣である可能性も捨てきれない」
「そうなるとその刀が凶器という可能性が高そうだ。警察の方でも凶器を捜していたが見つからないという話だったな」
一方、堺の話に翡翠が情報を統合させてポイントを絞る。
ここにはいないフォルと光からも沖那を丹後で見つけたと連絡があり、沖那が犯人でないことは確かだ。
でも、次の被害を出させないためにも犯人をここで押さえたい。
「もうすぐ‥‥時間だ‥‥状況を合わせて‥‥いくぞ」
暁恒は立ち上がり、夕闇の広がる街へと向かった。
●宵闇に煌く刃
「姫様達が遭遇しても頼りになる護衛がいるし、京の通りは碁盤の目状だから、すぐに隣の通りに抜けられる。どちらにひっかかっても連絡があればすぐに駆けつけられるだろう」
囮として行動している堺の後ろを警戒しながらついて行き、東雲は一人つぶやく。
手には連絡用の照明銃が握られていた。
比較的無防備を装い、堺は静かな通りをぶらつく。
夜遅いというほどでもないが、骨董店は閉まっていて通りそのものが眠っているようだった。
ザッザッというアスファルトを踏む靴音だけが響き渡る。
骨董店の前を堺が通り過ぎようとしたとき、音と光が生まれた。
「来たか! 貴様は誰だ!」
カキィンと蛍火で光を受け止めた堺が覚醒と共に叫ぶ。
答えは返ってこない‥‥。
相手は昼間、堺が手に取った刀そのものだった。
「何!? 刀そのものだと‥‥」
白髪となった堺に一瞬動揺が走る。
刀はひゅんと宙を舞い、月光に己をきらつかせ堺の手を斬った。
「ちっ!‥‥」
覚醒により太くなった二の腕で斬撃を受け止め、堺は反撃にでる。
『流し斬り』で斬りかかるも刀はそれを受け止めた。
そのとき、闇を晴らす光が打ちあがる。
足音が響き、翡翠が姿を現した。
「人だと思ったら、物ですか? 暁恒より先に来ていますがそちらを援護しますよ」
翡翠は覚醒と共に超機械を動かし、練成弱化を刀にかける。
「抜けられないうちにここで仕留めるよ!」
東雲も覚醒をし、刀に向かって二刀小太刀「疾風迅雷」で斬りかかる。
刀身部に二発の斬撃が加えられ、火花が散った。
不利と思ったのか、刀はふわりと浮きながら逃げようと動く。
だが、予想の範囲内であったため『流し斬り』で逃げ道をふさぐように動いた東雲の攻撃で刀はパリンと砕け散った。
「なんだ‥‥終わっちまったのかよ‥‥くだらねぇな」
ちょうど倒し終えたとき、暁恒が顔を出す。
「わかんないよ。これ以外にもいるかもしれないしね‥‥少しパトロールしておく? 刀のキメラなんて他にいて欲しくもないけれど」
小太刀を鞘に収めた東雲ははぁと息をついて頭をかいた。
「どうだろうな‥‥なんか、嫌な予感がするぜ」
覚醒をといた翡翠が砕けた刀キメラの残骸を持ち上げて零す。
「ま、あの姫さんを‥‥呼ぶとするか‥‥」
無精ひげを一撫ですると、暁恒はラルスへと電話をかけだした。
●これから進むべき道
「狛! あんた俺に太刀筋のことを何で黙っていたんだよっ!」
磨理那の屋敷に着いた沖那は八洲を見かけるといきなり掴み掛かる。
「自信がなかったというのもある‥‥それに俺も信じられないことなんだ」
沖那の怒りを受け止めるように八洲は抵抗しなかった。
「八洲さんも〜悩まれていたようですからー沖那君もその辺にしてあげなきゃだめですよ?」
「まったくじゃ、沖那も沖那じゃ。心配かけおってからに‥‥傭兵にだけ京都市から出ることを告げて妾に伝えぬとは何事じゃ。それほど信用ならぬのかや?」
「それは磨理那さんもだよ。磨理那さんは傭兵じゃないんだから、現場に出向く無茶はやめて欲しい。磨理那さんは磨理那さんにしかできないことがあるはずだよ」
沖那をラルスと磨理那が諭し、さらに磨理那に対してつーが説教をする。
互いが互いを気にかけえているが故の光景だ。
「とりあえず〜。沖那君は丹後にいってー、富士原・猛さんについて調べてみてはどーでしょうか? 磨理那さんにはその辺の許可というか〜そういうものをー出してもらえればーいいと〜思うのですが?」
落ち着いたところでラルスがぱんと手を叩いて今後の提案をだす。
「狛、あんたにもついてきてもらうぞ。詳しく富士原・猛について聞きたい」
「判った。お嬢、しばらくこの屋敷を離れることになるかもしれないが許可を願いたい」
沖那はラルスの提案に乗り、八洲のほうを睨んだ。
八洲も肩をすくめながらも了承し、元主の方へと帰ることを決める。
「許可をするのじゃ‥‥はやく、帰ってくるのじゃぞ。これ以上‥‥妾に心配かけさせるでない」
ぷるぷると震える手で二人に命を出す磨理那の目には涙がたまっていた。
「心配かけさせているのが判っただろ? ケジメをつけるならキチンとしないとな」
そんな磨理那の様子をみて微笑みながら光が沖那の肩を叩く。
「俺たちは仲間です。一人で抱え込まないでください‥‥って、いうとプレッシャーかな?」
フォルが頬をかきつつ沖那にかける言葉に悩んだ。
「いや、大丈夫だよ‥‥まぁ、ありがとう‥‥な」
沖那は照れて頬をかきつつフォルに礼をいう。
「皆さん〜仲良くーですね。遅いですけど、夜食でも食べてかえりましょーか。沖那君の壮行会です〜」
「うむ、良い考えじゃの。盛大に送ってやるのじゃ」
ラルスの提案に涙を袖で拭いた磨理那が扇子を振って乗っかった。
旅立ち前のひと時の時間はこうして過ぎてゆく。
沖那は自らを知るために一歩、大きく踏み出した。