タイトル:Merry Fairyマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/11 14:14

●オープニング本文


「なるほど。アドバイスが欲しいと」
「そうなのっ。客層がずいぶん違うから不安なんだよーっ」
 カンパネラ学園近郊の商店街にある喫茶店。
 学園の研究員である羽住秋桜理(はずみしおり)は、久々に会う友人に呼び出され、相談を受けていた。
 友人──梢木芹乃は、徳島県某市内で猫喫茶を営んでいる。
 丁度一年くらい前に彼女は、能力者相手に無料キャンペーンを行っており、その宣伝効果もあってかお店は繁盛。
 そしてこの度、カンパネラ学園商店街支店を出す運びとなったのだ。
「猫喫茶って、猫がいればいいわけじゃないのね」
「そうだねー。やっぱ客層によって猫の種類とか性格も考慮したいし、飲食物のメニューとかもねー」
「本店の方はどんな客層だったの?」
「徳島のはビジネス街が近かったから、サラリーマンが多かった!」
「なるほど。そりゃこっちとは大分違うわね」
「最初の支店だし、開店休業状態は避けたいのっ」
「わかったわ。心当たりあるから、任せて」
「ありがとー!」
 テーブル越しに抱きつかれた秋桜理は、ちょっと驚きながらも友人の背中を軽く叩いて上げた。

「──と、いうわけ」
 所変わって、カンパネラ学園の学生食堂。
 紅茶片手に経緯を説明した秋桜理に、野宮 音子(gz0303)は何故か鷹揚に頷いて見せた。
「なるほど。そのアドバイスを、この頼れる私にして欲しいってわけね? 任せ──」
「んなわけないでしょ」
「あぇ?」
 薄い胸をとんと叩いて意気揚々としていた音子だったが、即座に否定されて間の抜けた表情を浮かべる。
「アドバイスしてくれる人を集めて欲しいのよ」
「あぁそう‥‥って、なんで私が?」
「暇そうじゃない」
「ちょっ、やめてよね!? そういう言い方!」
「はいはい。それじゃお願いしたからね」
「うー‥‥わかったわよ‥‥」
 意気消沈しながらも引き受ける辺りが、二人の力関係を物語っているようだ。

 そんなこんなで、大任を背負った音子は、学園の掲示板に張り紙をするのであった。
『急募!! 猫喫茶の新規オープンに協力してくれる方!! 詳しくは野宮 音子まで』

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
如月(ga4636
20歳・♂・GP
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER

●リプレイ本文

 お昼を少し回った時刻。 
 カンパネラ学園近くの商店街に、依頼主のお店はある。
 硝子戸を木枠で仕切った扉に『カプリシャス・フェアリーズ』と書かれた木製のプレートが掛けられており、中では丁度、能力者達が店長と簡単な挨拶を交わしている最中だった。

「今日はお集まり頂きありがとうございますー!」
 梢木芹乃は集まってくれた一同に、深々とお辞儀をした。
「任せて下さい! 空の知恵で、千客万来間違いなしです!」
 自信たっぷりに胸を張ったのは、キュートな猫耳メイド姿の最上 空(gb3976)だ。
「ねこー、今回も宜しくねー」
 柔らかな声と共に、百地・悠季(ga8270)が野宮 音子(gz0303)を軽くハグする。
 音子もハグし返すのだが、その表情がでれっでれだった。
「ネコさんは相変わらずですね」
 苦笑を浮かべて、如月(ga4636)が呆れ半分に言う。
「べ、別にただの挨拶ですよっ?」
 音子は慌てて取り繕うものの、傍で見ていた石動 小夜子(ga0121)と新条 拓那(ga1294)は、おかしそうに笑い声を零していた。
 空に至っては、芝居がかったジェスチャーで『やれやれ』と表現してるほどだ。
 流石に形勢の不利を悟り、
「み、美雲ちゃん遅いねっ」
 と話を逸らす音子。
 そう、諌山美雲(gb5758)の姿がまだなかった。
 時間に遅れるような性格ではないのだが‥‥と皆が少しばかり心配した矢先、
「すいませーん、ちょっと遅くなりましたっ」
 入り口の扉を身体で開けて、当人が現れた。
 手を使わなかったのは、紙の束を抱えていたからだ。
 そして次の瞬間、美雲は何もない所で躓いて、紙の束をぶちまけていた。
 誰も咄嗟に反応することもできない、見事な早業。
 ビターン、という擬音がぴったりの、熟練の技を感じさせる転びっぷりだった。
「大丈夫ですか?」
 近くにいた如月が手を貸し、拓那が床に散らばった紙を手早く拾い集める。
「あはは‥‥すいません」
「これはチラシ?」
 照れ笑いを浮かべる美雲に、拓那が訊ねた。
「はい。事前に店長さんと相談して、発注しておいたんです」
 チラシは割引クーポン付きで、猫の写真やイラストが効果的に使われ、重要な情報も解り易く書かれている。
「素敵ですね」
 回されてきたチラシを見て、小夜子が口元を綻ばせた。
「えへへ、ありがとうございます」
 率直な賞賛に、美雲は嬉しそうに笑う。
「それでですね、女の子がターゲットですし、やっぱりビラ撒きはイケメンさんの仕事だと思うんですっ」
「確かにそうね」
 美雲の言葉に、悠季が頷いた。
「というわけで、お願いします!」
 そう言って美雲は、如月と拓那の前にドン、とチラシの束を置いた。
 きょとん、とする男性二人。
「‥‥え? あ、いや、ビラ配りは別にいいけど‥‥」
「今、『イケメンさん』と仰いましたよね? 新条さんはそうですが、自分は‥‥」
「いやいや、それを言うなら如月さんこそイケメンだよ」
「いやいやそんな」
「だぁーまらっしゃい!」
 不毛なやり取りをする二人を、美雲がぴしゃりと叱りつけた。
 思わず背筋を正す男性ズ。
「ふふ。拓那さんも如月さんも、素敵ですよ」
 小夜子の絶妙のフォローに、二人は顔を見合わせた。
「まぁ‥‥そういうことなら‥‥」
「了解です、かね」
 多少の歯切れの悪さはあるものの、承諾。
 途端、空が意気揚々と立ち上がった。
「空の出番ですね! 効果的な宣伝のお手伝いをさせて貰いましょう!」
「えっ」
「えっ」
「ちなみに音子も宣伝に強制参加です!」
「えっ!?」
「さあ着替えますよ! あ、店長さん、事務所お借りしますね!」
「どうぞー」
 有無を言わさずに大人三人を連れて、店の奥へと消えていく空。
「どんな格好になるか、楽しみね」
 四人の背中を愉快そうに見送り、悠季は悪戯っぽく微笑むのだった。

 拓那と如月と音子が空のオモチャにされているのを、ただ待つのも勿体無い。
 芹乃は残った三人と相談を進めておくことにした。
「まずはどんな猫がいいか、意見を貰えますか?」
「四匹なのですよね‥‥? 私の希望は、ロシアンブルー、スコティッシュフォールド、アメリカンショートヘア、マンチカン、でしょうか」
 小夜子の提案に、芹乃は頷きながらペンを走らせる。
「他の皆さんはどうですか?」
「いいと思うわよ。可愛くて人気のある子だしね」
「私も特に異論はないですね」
 賛同する悠季と美雲の言葉を受けて、「じゃあ採用」と芹乃は赤ペンで線を引いた。
「次。どんな性格の子を揃えたら良さそうだと思います?」
「そうですね‥‥人懐っこい子、活発な子、おとなしい子、マイペースな子と揃えれば、お客様も満足かも、です」
「ふむふむ。猫好きなら老若男女はあまり違わないのかなー?」
 小夜子の発言を書き込みながら、独白気味に呟く芹乃。
「あと何か、こんなのどうだろう、みたいなのあります?」
「余裕があればですけど、子猫との触れ合いイベントとかどうですか?」
 美雲の提案に、芹乃はポン、と手を打った。
「なるほど。それいいですね!」
「他には、猫と遊ぶ為の小物の充実も必須よね」と、これは悠季。
「あ、そっか。若い女の子向けなら、もっと用意した方がいいかもですね‥‥ありがとです!」
 キュキュキュッと、小気味良くペンが動く。
「えっと他には──」
 と言いかけた所で、事務所の扉が開く音がした。
 四人が振り向いた先には、燕尾服姿に猫耳、猫尻尾をつけてメガネをかけた猫執事の拓那、タキシード姿に猫耳とメガネを装着した如月、メイド服姿に猫耳と首輪をつけた音子が立っていた。
「あら、思ったよりも普通ね」
「もっとすごい格好させると思ってた」
 意外そうに言う悠季と美雲に対し、
「空だって空気くらい読みますよ!」
 空は腕を組んで胸を張る。
 そんな彼女に、
「とんでもない水着、着せようとしたくせに‥‥」
 音子は責めるような視線を送った。
「だから首輪だけで勘弁してあげたじゃないですか」
「充分恥ずかしいんだけど‥‥」
「それで、話はどの辺まで進みました?」
 十以上も年下の少女に軽々と流されて、悲しそうに顔を覆う音子だった。
 見兼ねた悠季が、苦笑交じりに頭を撫でてやる。
 芹乃から話の流れを聞き、拓那はなるほど、と顎に手を当てた。
「マンチカン、俺もいいと思います。胴長短足でもこもこな所とか、すっごいプリティですよね。ま、猫なら何だって可愛いんですけど」
「ふふ、そうですよね。私もマンチカンが特に可愛いと思います。もちろん、拓那さんの仰る通り、猫はみんな可愛いですけれど‥‥」
 拓那の同意を得られて、小夜子は嬉しそうにはにかんだ。
 拓那の方は、猫の事を語る時の幸せそうな小夜子の表情をこそ、可愛いと思ったりなんかしたりして。
 見つめ合って微笑んだりしちゃってラブラブであるこのやろう。

 改めて全員が揃った所で、内装の相談へと話題は移った。
 芹乃自身にも本店でのノウハウがあるが、若い女の子向けとなると少々自信がない。
 悠季は店内を改めて見回した。
 基本は木目調の落ち着いた内装だ。
「壁周りはパステルカラーの縦ストライプ模様が良いかな。あまり暗いトーンや単一柄よりも、程度を弁えた華やかさがあるじゃないかと」
「なるほど‥‥確かにそうですね」
 イメージしてみたのだろう。
 芹乃が目を閉じたまま頷いた。
 続いて小夜子もアイディアを出す。
「窓際にキャットウォークやキャットタワーを置いておくと、外から猫の動く所を見られて良い、でしょうか」
「あ、いいですね」
「キャットタワーは店の真ん中にも欲しいよね。あとは猫が休めるねこつぐらとかも。っと、どうせだから、実際に動かしながらやってみません?」
 拓那の提案に一同は同意し、早速試してみることにした。
 それに併せて、拓那が事前に調達してきた猫グッズなども各所へ配置する。
「ネコ姉ぇ、こんな感じで良い?」
「うん、ばっちり!」
 キャットウォークを取り付け終わった美雲に、音子はウィンクを飛ばした。
 悠季と如月は、大小複数あるキャットタワーやお客さん用の小振りなソファなどを、店内のバランスを考えながら配置。
 そうして一通りセッティングし終えると、全員でチェックし合いながら、更に微調整を行う。
「うん、なんか凄く良い感じになってきましたねっ♪」
 パン、と手を合わせて、美雲が笑顔で声を弾ませた。
「空の手にかかればざっとこんなものですよ!」
「はい! 皆さんのお陰で、ずっと素敵になりました! 壁紙は、後日業者さんにお願いさせて貰いますねっ」
 芹乃はご満悦な表情で店内を見回している。
「それじゃちょっと休憩にしましょうか。お茶とお菓子用意しますねー」
 一同には「座って待っていて下さい」と言い、事務所へと引っ込む芹乃。
 程なくして戻ってきた芹乃は、湯気立つ緑茶の注がれた湯呑みと芋羊羹の乗った小皿を、それぞれに配って回った。
 和の心を噛みしめつつ、ほっと一息。
 しかし休憩とは言いつつ自然と、メニューをどうするかが話題に上がった。
 持ち寄ったアイディアを出し合い、それを如月が芹乃と相談しながらまとめていく。
「これは面白いと思いますよ」
 書き留めたメモを見て、如月が興味深そうに頷いている。
「厨房を使わせて貰えるのなら試作してみたいのですが、どうでしょう?」
「ぜひお願いします!」
「じゃあ材料の買い出しが必要ですね」
「買い物は私たちがするから、その間にビラ配りを済ませたら?」
「あ、それもそうですね」
 悠季の言葉に、思い出したように如月は頷いた。
 必要と思われる材料をざっと書き記し、そのメモを悠季に預ける。
「それじゃあビラ配りに行きましょうか」
「おっけ」
 チラシの束を三等分し、拓那はその内のひとつを抱えた。
「うー‥‥この格好で配るのかー‥‥」
 浮かない顔で渋る音子に、
「ネコさん、いつぞや言っていたキャリアウーマンっぷりは、いつ見せてもらえるんですかね?」
 如月が悪戯っぽい口調で言った。
「み、見せるし! 今見せるし!!」
 動揺も露にチラシの束を引っ掴み、音子は慌ただしく店を出て行く。
「いまいち頼りにならなそうですね‥‥」
 空の呟きに、思わず同意の頷きを返す一同であった。

「近日オープンの猫喫茶『カプリシャス・フェアリーズ』ですニャー。おじょーちゃんもおねーちゃんもおかーさんもみんなみんないらっしゃいだにゃー!」
「そこのお姉さん方! 猫喫茶、オープンするんでよろしければ、友人も誘って来てくださいな。サービスしますよ?」
「近々オープンの猫喫茶『カプリシャス・フェアリーズ』でーす! 可愛い猫に癒されませんかー?」
 日も暮れ始めた時刻、徐々に人通りの増えた商店街に、三者三様の声が響く。
 本人たちは謙遜したが、傍目には充分見目麗しい男性二人である。
 お店のターゲットとなる若い女性の目を、ばっちりと引きつけていた。
「フリーなんで個人的なお誘いも待ってますよ〜」
「ちょっ! 如月さん!」
 綺麗な女性を見るやナンパしだす如月を、音子が咎めるように呼んだ。
「そういうことする人だったんですか?」
「やだなぁ、冗談ですよ。あ、でも音子さんからのお誘いは本当に待ってますよ?」
 思わぬことを言われ、面食らった表情で音子は如月の背中をバチンと叩いた。
「何言ってんですか!」
 顔を赤くする音子を、如月は面白そうに眺めている。
「おーい、いちゃいちゃしてないで、真面目にやんないと終わんないぞー」
「新条さんには言われたくないですよ?」
「拓那さんには言われなくないなぁ」
「うぉっ!?」
 予想外の反撃をくらい、怯む拓那。
 なにをしてるんだ君らは、というツッコミが入りそうなやり取りだ。
 ともあれ、以降はビラ配りに集中して、三人は美雲が用意してくれた大量のチラシを順調に捌いていった。

 食欲を刺激する甘い香りと芳ばしい匂いが、店内を漂っていた。
 如月たちがビラ配りを終えて戻ってきた頃には丁度夕食に良い時間帯だったので、試作品を作るついでに試食会も兼ねてしまおうという運びとなったのだ。
 材料も多めに買っており、抜かりはなかった。
 厨房ではコックコートを着た如月が、見事な手際で試作品を次々と作り上げている。
 程なくして一通りの試作品が出揃い、早速試食会が始まった。
 用意されたのは、以下の品々。
 トースト部分に猫の顔や肉球の焼き目が入ったクロックムッシュ風の『猫トースト』。
 マタタビの親戚であるキウィの果汁を使った『マタタビジュース』。
 小ぶりで丸い苺のババロアを並べた『猫のにくきゅうババロア』。
 同系統で、プリンやゼリー、ムースなどを肉球状に配置した『猫の手アラモード』。
 猫の顔型に焼いたパンケーキに、チョコソースで顔を描き、口の部分に苺のジャムソースをあてた『猫のパンケーキ』。
 アイスや果物を猫の顔っぽく配置し、天辺に猫耳型にカットしたチョコをつけ、ポッキーで髭を再現した『猫パフェ』。
 そして。
 如月の巧みな技術によりリゾット風にアレンジはされたものの、それでもやはり異彩を放つ『ねこまんま』。
 以上の七品である。
『いただきまーす!』
 声と手を合わせて、いざ実食。
 途端に上がる歓声と絶賛の声。
「ん、美味しいわね」
「空の狙い通り、抜群の味わいですね!」
「拓那さんも一口いかがですか?」
「あ、もらおうかな」
「うぎぎ‥‥!」
「羨ましいの? ねこ。私がやってあげようか?」
「いいんですかっ!?」
「ネコ姉ぇ、私もやってあげよっか」
「いいの!?」
「ネコさん、自分もやってあげましょうか」
「ぜひ!」
「む、ならば空もご奉仕してあげましょう!」
「これなんてハーレム!? 私今日死ぬの!?」
「お味はどうですか? 拓那さん」
「ん。美味しいね。小夜子もこっち食べてみなよ。ほら、あーん」
「あ、はい‥‥あーん‥‥」
 とこのような感じである。
 味へのコメントが少ないのは気のせいだろう。
「やーすごい! すごいです! 全部使わせて貰います!」
 流石に店長たる芹乃はしっかりとしていた。
 細かいポイントなどを如月から教えて貰い、逐一メモしておく。
 全て書き終えた所で、ぱたん、と手帳を閉じると椅子から立ち上がり、びしっと頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました! とっても助かりました!」
「手が足りない時はいつでも読んでくださいな。暇なんで 」
 さらっと言っちゃう辺りが格好いい如月だが、
「店長さんのこと狙ってます‥‥?」
「ネコさん、何を藪から棒に‥‥」
「あ、ごめんなさい、私、恋人いるんです」
「あれ!? 告白してもいないのにフラれた感じに!?」
「ドンマイですよ、如月さん‥‥」
 憐れみ一杯の表情で、如月の肩に手を置く美雲。
「誤解ですってばー!」
 懸命に訴える如月を、申し訳ないと思いつつ、皆つい笑いを零してしまった。

 こうして、猫喫茶をプロデュースは明るい(?)笑い声の中、無事に終了したのだった。