●リプレイ本文
●無人島生活『一日目』
「騙されたー! 全身全霊騙されたー!」
置き去りにされた無人島の港で、春夏秋冬 立花(
gc3009)が悔しそうに地面をどんどんと叩き、叫んでいた。
「え? あら? バカンスじゃないの? サンダル履いて来ちゃったじゃない」
マリンチェ・ピアソラ(
gc6303)はまだ少し事情が飲み込めていなかったようで、サンダルを気にしつつすっとぼける。
「‥‥いい度胸だ」
熾火(
gc4748)が騙された事に不機嫌そうに、ロープ留めの係留柱を蹴りあげる。
「やれやれ‥‥予測してなかったわけではないが実際やられると腹が立つな‥‥」
去り行く船。堺・清四郎(
gb3564)が水平線の彼方に消え行くそれを見送り言えば、
「‥‥何か嫌な予感がしてましたが、美味しい話には裏が有るということですか」
その言葉にソウマ(
gc0505)が続いて、
「‥‥うん、何かイヤな予感はしたんだよ」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が肩を落とす。
「まぁ冬山よりはマシですよ‥‥」
和泉 恭也(
gc3978)が自らの冬山での遭難経験をもとにしみじみと言った。
「お、おい! 待てよ!? 冗談だろ!?」
諦め悪く有村 海月(gz0361)は去り行く船に向かって口角を飛ばすさまに、
「渇! 傭兵になった以上グダグダ言うな!」
清四郎が一喝すれば、海月もぐぬぬ、と黙りこむ。
「お迎えは三日後‥‥やれやれ、とんだリゾートだね」
旭(
ga6764)が溜め息をつく。後に残された傭兵達は、残されたメモに目を通し倦怠ムードに包まれていた。
そんな中、弓亜 石榴(
ga0468)がおもむろに立ち上がった。
「んー‥‥オッケー了解!」
にこやかにサムズアップ。白い歯を見せて笑う。何が了解なのか、と訝る視線が集まる中――、
「――つまりこの企画は『バカンスに見せかけて実はサバイバルという名目のセクハラ映像てんこ盛り』って事だね♪」
最後にひとつ、彼女の願望を付け加えてまとめ、じゅるりと垂れそうになる口元の涎を拭う。
「そうと判れば‥‥」
きらんと、目を光らせて見つめる先には海月の姿。海月はぞくりと悪寒(彼的にはイイ予感なのかもしれない)を感じ振り向く。
「とりあえず海月君はメイド服とスク水ね」
「えぁっ!?」
石榴がどこからか取り出したメイド服とスク水を手渡す。
「こ、この場で着替えるんですか?」
とりあえず、着ないという選択肢は彼の中に無い様だ。実に変た――じゃなくてドMである。
「まさか無人島とは‥‥。うん、面白いじゃないか♪ 折角だし俺達だけの秘密のリゾートにするってのもアリじゃない?」
新条 拓那(
ga1294)が隣に並ぶ石動 小夜子(
ga0121)に向いてほんわかと笑う。
「‥‥まぁ、そんな所ですよね‥‥。とりあえず、状況確認、と‥‥」
朧 幸乃(
ga3078)は言いつつ周辺を見渡す。
船着き場の袂、左右には綺麗な砂浜が広がっており、袂の先には、古ぼけた粗末な小屋が三つ。その更に向こうに森が広がっている。
「‥‥こうなった以上ここで過ごすしかないのですね。幸い、雨は凌げるようだから手分けして生活圏の確保をしましょう」
神棟星嵐(
gc1022)が小屋を見つめてから、森の方へ目を移す。
「無人島‥‥材料あるかな‥‥」
小屋の先、島の向こうにまで目をやりながら、矢神小雪(
gb3650)は驚きや動揺もなく、BBQ用の食材の心配をしていた。背に負う荷物の中にはBBQ用の道具が詰め込んである。
まずは、船着き場から小屋の方へと皆は歩き出す。
「わぁ、綺麗なビーチですね〜」
途中、船着き場の袂から左右に広がる砂浜を見て、諌山美雲(
gb5758)は能天気に明るい声を上げる。と、同時、その声を掻き消す様に、
「あああああああ!!」
森の方、レアキメラの課題も知らずに守剣 京助(
gc0920)が走り去っていった方角から、怒声混じりの咆哮が聞こえてきた。
「バカンスが‥‥。はっはー! ふはははははー! なバカンスがああああああああああああああ!!!」
アロハシャツのまま八つ当たりに護身用に持ってきた大剣を手に暴れ回る京助。不運にもその行く先に居た猿やら蛭やらのキメラ達が、彼の憤りのままに薙ぎ払われていった。
船着き場から小屋の前に移動した傭兵達。
「うわぁ、凄いことになってるな」
旭が小屋の中を覗くと、内側は酷い事になっていた。おそらくは前回の訓練者達が残していったであろうゴミや、それらを漁りに来た猿の糞。もちろん、クモの巣は張り回っているし、猿が侵入の際に入口を開けていった為にか、雨ざらしにもなっていた。
「まずは掃除から行ってみようかっ!」
腕まくりをして小屋に乗り込んで行く旭。その手には、辺りにある物で作った即席の箒が握られている。
「珠洲もお掃除をお手伝いしますね」
旭の後に続いて、メイド姿の福山 珠洲(
gc4526)も小屋の中に入っていく。
小屋の方は二人に任せ、
「手が空いている方は手伝っていただけませんか」
荷物置きの予備用テントを設営し終えたエシック・ランカスター(
gc4778)が周りの人間に声をかける。まずは飲料水の確保。水を探しに行くつもりだった。
「なら、俺も手伝ってもいいな」」
声をかけられたゼクス=マキナ(
gc5121)も同様に水の確保に行くつもりだったようで、誘いに賛同する。
これに、スク水を下着にセーラー服を上着に着た海月も同行し、また、他にも食料を探しに森へと分け入る者達と合わせて、食料・水調達班として小屋を出発した。
まず、食料・水調達班は、島の中、高台を目指した。上から見下ろす事で、島の全体像と、それから目的の一つである水源を調べる為だ。
「ふむ」
高台になっている場所の頂上でUNKNOWN(
ga4276)が口に手を当て島を見下ろす。
探査の眼とGoodLuckを使い、そこからぐるりと島を見回すと、島の全貌を把握し、おおまかに水源から地形、植生、各場所を地図に描き、手帳に記録していく。
それを、エシックもまた双眼鏡で確認し、各場所の細かな状況を把握し付け加えたものを全体図として皆で共有できる地図を作り上げる。
「場所の確認はこれでいいか、ね」
マッピングはそれでほぼ完了した。後は、水源の確保だ。一行は水を探して高台を降りて行き、発見した川へと向かう。
「果物とかあったら持って帰ろう♪」
サンダル履きで足元には気をつけながら、マリンチェは皆と並んで歩いていく。
それぞれに探索は続けながら、談笑を交わしたり、島の中をマッピングしたり、陽気な日のピクニックと変わりない様子で、楽しげに和気あいあいとしている。
そうやって、川に向かう途中、岩場の陰に拓那が湧き出る清水を見つけた。微かに湯気の様な物が立ち昇っている。隣に並ぶ小夜子が触れてみれば、地面と水が温かい。
「温泉‥‥でしょうか?」
水の流れる先を目で追ってみれば、森の中、立ち昇る湯気が続いていっている。
「きゃっ」
温泉に気を取られたマリンチェが濡れた岩場の苔で足を滑らせ、咄嗟にソウマが手を伸ばした。
「大丈夫ですか?」
抱きかかえる様に回した腕は、もう少しで胸に届いたが、――惜しい。あとちょっと。
内心をドキドキさせながら、クールに気取ってると、海月みたいにヘタレちゃうぞ?
それから、湯気の続く先に皆で行ってみると、小川になっている所との合流する手前、川辺の天然温泉となっている所があった。
周辺の植生は、鬱陶しくなくある程度整ったものになっている。人の手が入っている様なのは、ここが既に何度か訓練で使われた後だからだろう。
過去の訓練者達も、この温泉を満喫したに違いない。
ただ、人の手が入っていても付近に動物が見当たらない。たぶんそれは、ここが無人島であることと、訓練用にキメラが放し飼いになっているからかもしれない。
「これは椅子を作るのに良さそうだね」
周辺の植生を確かめながら、皆が迷わない様に木に印をつけていたUNKNOWNが、ひとつ枝を手に取る。
「これは丈夫で使えそうですね」
恭也もまた縄の代わりの蔦や蔓を確保しておく。
「さすがに果物類は豊富だな‥‥」
清四郎が近くの木から果実をもぎ取る。
「これは食べれるのかな‥‥?」
火を起こす為に、乾燥した材料や小さな木片、木の枝などを道中で拾い集めていたゼクスも、同じ物をもぎ取り、恐る恐る覚醒して齧る。
「これはデータで見たことがありますよ。甘くて美味しい果実だと記載されていました」
同じ様にソウマもそれをもぎ取りつつ言う。
と、ふと、その果物の木の樹上、一匹の猿がいた。一行と目が合う。
「猿‥‥キメラ?」
ゼクスが呟く。牙を剥き出しに一行を威嚇する猿。
ひとまずは撃退する為に、それぞれが持っていた武器を手に構える。
「まったく‥‥すまないな幸乃、一緒でも大丈夫か?」
熾火が苦笑しながら幸乃に訊く。櫻庭 亮(
gb6863)、守部 結衣(
gb9490)、レイード・ブラウニング(
gb8965)、熾火、それから、結衣に拉致される様に連れて来られた幸乃は、皆から離れた川辺にキャンプ用テントを設置していた。
「こういう、見慣れない場所なら、情報は大事なのです!」
力仕事は男性に任せ、その間にも結衣が付近の地図を作成する。これには更に、情報を集めて、危険個所やキメラとの遭遇場所なども書き加えていくつもりだった。
設置し終えたテントの中に荷物を運びこみ、整理している中で、レイードの目に熾火の荷物の中身が目に留まった。
「熾火、またその包丁か。いや、今回の俺は人の事を言えないかね‥‥」
レイードが自分の荷物からまな板を取り出して構えて見せる。
「まな板、か。私のいい相棒だな」
熾火が笑みを浮かべて見せる。
テントに全員が荷物を運んだ後、まずは地形把握の為に島を全周しようと、レイードがAU−KVのバイクに跨る。すると、その後ろ、後部座席に熾火が飛び乗った。
「ここは私の場所、だろう?」
振り向くレイードに熾火は自信満々の笑みを返す。苦笑を浮かべながら、レイードは予備のヘルメットを後ろ手に寄こす。
「いつも指定席を御利用頂き、真に有難う御座いますってな。‥‥では、行くか」
熾火がヘルメットを被るのを確認して前方に向き直り、レイードはスロットルを開ける。二人を乗せてバイクは加速していった。
テントの周辺で、幸乃は一人乾いた枝を拾い集める。その腕の中には、結構な量の枝がある。
「あ‥‥」
さらに一本見つけて、拾い上げた。
「もう少しだけ‥‥」
夜は一人で火の番をするつもりだった。できれば日中のうちに少し仮眠を取っておきたい。
「何はともあれ、現代っ子にお風呂とトイレは必須です! 食べ物よりも!」
その呼びかけに答え、風呂作りには美雲と石榴が名乗りを上げた。
「りっちゃんは、トイレ作るの? こういう時、男の人って手軽にできて良いよね〜」
美雲がトイレを作る立花に話しかける。
「ですね。美雲さんはお風呂作ってくれるんですね。頑張ってください」
互いにエールを交わすのを神棟星嵐(
gc1022)が見守り、
「では、人が入れて頑丈そうな物‥‥ドラム缶等を探してきます。」
そう宣言し、樹・籐子(
gc0214)と共に小屋を出発する。
二人を見送り、美雲や石榴とも別れ、立花は小屋の近く、人目にあまりつかない所に深い穴を掘り始めた。
美雲から要請されたお風呂を作る為のドラム缶を探しつつ、星嵐と籐子は浜辺に沿って一周していく。ドラム缶の様な人工物が落ちている事が多いのは、波打ち際と籐子がアタリをつけてのことだ。
「あら、何かいるわね」
籐子が言う。浜辺を探る最中、波の打ち寄せる岩礁の辺りに、蟹の姿が見え隠れした。おそらく、蟹キメラだとにらみ、その生息場所を覚えておく。
それからまだ歩いて、島の浜辺をぐるりと回れば、案の定打ち上げられてドラム缶が幾つか見つかった。
それを籐子がひとつ、星嵐がふたつ担ぎあげ、小屋にまで回収していく。
「え? 温泉が見つかったんですか!?」
美雲が驚きの声を上げた。小屋の補修用の資材と幾つかの果物を持って先に帰ってきたマリンチェや小夜子らと分かれ、拓那が美雲と石榴の下を訪れて温泉発見の報告を告げたのだ。
「うん。だから、俺も衝立とか必要な物の製作を手伝うよ」
「なるほど。温泉の周りに囲いを作れば良いですねっ! 私、頑張りますっ!」
「一緒にガンバろーね、諌山さん」
石榴が言いつつ、手を伸ばし、美雲のお腹周りを揉む。ひぁう、と、ちょっとえっちな声を上げる美雲。それにも構わず、石榴は揉み続け、
「ふむふむ、出産後のせいかふくよかな――」
そこまで言った所で、美雲の鉄拳制裁が振り下ろされた。
「もう‥‥石榴さんは、デリカシーというものがですね‥‥っ」
頬を紅潮させて石榴を叱る。そこへ、
「お待たせ。はい。お望みのドラム缶よ」
ドラム缶を持って星嵐と籐子が帰ってきた。
美雲は少し申し訳なさそうにドラム缶を運んできた二人を見る。
「‥‥あら? どうしたのかしら?」
訝る星嵐と籐子に美雲が事情を告げる。
「――なるほど。それでしたらお手伝いしましょう」
星嵐と籐子は事情をすぐに飲み込み、時をおかずに五人は衝立等を作る為、温泉へと向かう。
一方、マリンチェ達が補修用の資材を届けた小屋の方では、
「うん、こんな感じかな」
掃除を終えた旭が、小枝や細かい葉っぱを大量に拾って来て、とある物を作っていた。
「旭さん。それ、なんですか?」
掃除の終わった小屋に皆の荷物を運びこんでいた珠洲が、足元に荷物を下ろしつつ尋ねる。
「ベッド作ってみたんだ。ふかふかだよ」
小枝や細かい葉っぱの上に大きな葉っぱを乗せ、その葉っぱのベッドは作られていた。
同様に作られた枕もセットになっている。
ほらほら、と旭に促されるまま、珠洲がベッドの感触を確かめてみれば、思った以上にふかふかだ。
珠洲がちょっと感心していると、ひょっこりと小屋の中に恭也が顔を出す。
「こっちも設置終わりました」
彼は持ち帰った蔓と木切れで鳴子を作り、全ての小屋の周りに設置してきていた。
一応、良識ある傭兵達ではあると思うのだが――、
「まぁ、念には念をということで」
恭也が苦笑をする様に笑む。
補修用の資材を小屋に届けた小夜子とマリンチェは、小雪と零次が食材を集めに森に入るのについて、森の中を歩いていた。
「あ‥‥。ありました」
小夜子が落ち葉の下に、落葉茸を見つける。イグチの仲間の茸だ。
「これは食べれるかな?」
零次もまた、キノコを発見し、採取していく。
「このキノコは食べられて‥‥このキノコは駄目だな‥‥おっ山菜発見」
小雪も一緒になって、更に辺りを探してみれば、まだまだ茸や山菜が見つかる。
「こちらには‥‥ウドもありますね」
またしても小夜子。土に隠れたウドの新芽を見つけた。酢味噌で和えれば美味しそうだと、小雪が料理のレパートリーを考える。
「あ、あのでっかい蕨みたいなヤシの芽、食べられるかな?」
マリンチェが見つけたのは大きなヤシの芽。ヤシの芽は、缶詰や瓶詰にされて売られる事もある立派な食材だ。もちろん、確保。
それにしても、この無人島、南の島なのに、不思議と山菜がある。おそらくは、UPCが新人のサバイバル訓練用にわざわざ栽培している物なのかもしれない。
「ふふ、オオズミなどもあるのですね‥‥」
渋い果実だが、これは果実酒に向く。持って帰る事ができれば、美味い酒が作れるだろう。拓那さんに飲んで貰えたら嬉しいですね、とそれも採取する。
「ふう‥‥」
海から上がってきたユーリが、水陸両用槍の穂先に刺し捕えた魚を即席の魚籠に放り込む。
「食料はこれでいいとして‥‥魚キメラは一人では無理かな」
魚を獲る傍ら、水中の景色を堪能していた時、一際大きな魚を見かけた。おそらくは、あれが魚キメラだろう。
「明日、誰かに手伝ってもらうかな」
日もそろそろ暮れる。今日の漁はここまでにして、ユーリは小屋の方へと戻っていった。
小雪はユーリの獲ってきた魚を調理していく。結構な量が獲れていて、一人一匹としても余る。
「残った魚は燻製にして朝食だな‥‥」
幸いにして、温泉が見つかった為、空のドラム缶が余っていた。旭に相談して少し加工してもらっておこう、と暫く後を仲間に任せて、小雪は旭に声をかけにいく。
「これでも主婦ですからね。料理くらいお手の物ですよっ♪」
美雲がその腕前を見せるべく、張り切って料理に挑んで行く。
「‥‥このまな板を持ってきて良かったな、本当に」
まな板をの上、食材が並び、熾火が黒鷹をブゥンと振り翳す。レイードはその振り上げ方に、やや不安を覚えながら、
「安心しろ、包丁と言うのは万能だ」
力強く振り下ろす熾火を見守る。手に入れてきた食材をそうやって、次々と叩き切っていった。熾火の切った食材を、下ごしらえと味付けを主体にレイードが手伝う。
その横、幸乃が手際良く料理を進めていく。
「幸乃が居てくれて助かる」
その様子を眺め、熾火は素直に感心する。
「バーベキュー、バーベキュー‥‥v」
結衣はじゅるりと涎を垂らしながら、切られた食材を串に刺していっていた。
BBQ用の火種はゼクスが作り起こしている。これを火口として、あとあとも使い回せるだろう。
「――注意する事項はこれで終わりですね。以上のことを気をつければ、なかなか居心地が良い無人島ライフになるかもしれませんね」
ソウマが片目を瞑って、微笑を浮かべる。そして、丁度その報告を終えた時に、
「ご飯できたよ〜」
小雪の声が聞こえた。
「どうぞ〜、召し上がれ〜♪」
料理を運ぶ給仕をするのは珠洲だ。
小雪が作り、立花が手伝った料理が皿代わりの大きな葉っぱの上に盛られ、並べられる。
島で取れた食材を使った料理だったが、予想よりも豪奢なものになった。
初日はキメラを使った料理は無い。
「私は‥‥小食なので、どうぞ‥‥」
幸乃は自分の分を少なめに器によそい、皆には多めに回す。
熾火は無表情のまま、自らの料理を男性陣の口に容赦なく突っ込んで行く。
「‥‥美味いな。普通に食わせてくれれば尚良しだが」
驚きつつもレイードは素直に食べる。
「ふむ、中々だろう。ほら、結衣‥‥一口どうだ?」
レイードの感想を聞きつつ、結衣にはふわりと微笑み口の前にそっと運ぶ。
「こっちも焼けたよー」
旭の手元には、串に刺さった焼けた肉。BBQに用意された、その肉の串を持って、旭は立花の所に赴く。だが、
「何のお肉?」
立花は思いっきり怪しんだ。
「えーと‥‥動物性たんぱく質、かな?」
「何その不安を煽る言い回し!」
指をびしぃっと突きつけ、立花は旭に指摘する。
「大丈夫大丈夫、深刻なことにはならないから。たぶん。」
「何でいきなり安全性の主張を始めた!? 命にかかわる何かが起こる予感!」
すっかり警戒し、口をつけない立花。
ただの魚なんだけど、と旭は自らその肉を口にし、大丈夫だよ、と示す事にした。
即席の温泉は、周りを衝立で囲まれ、また、男湯と女湯も衝立で分けられている。
入口には、暖簾代わりの葉っぱのカーテンが掛けてあり、覗けない様に作ってあるし、中には、幾つかの桶も置いてある。
籐子と星嵐が周辺から材料となる木を集め、美雲や石榴が協力し、作った衝立や桶だ。
周辺にある蔦を利用して、ロープを作り、それで衝立の囲いを倒れないように縛ってある。葉っぱのカーテンは、美雲達が余った葉で作ったものだ。
温泉はそれなりに広かったが、皆一緒に入るにはさすがに狭く、男女ごとに5人ほどのグループで何班かに分かれて入る事になった。
最初の方の班では何事も無く、美雲、石榴、小夜子、立花、小雪の班の番に回ってくる。
「ん〜〜っ、気持ちいいですね〜。大自然に囲まれて何だか開放感に満たされる思いです」
美雲が温泉の中、大きく背を反り身体を伸ばす。
「こういう旅もありですね〜」
ほくほく顔の美雲に、温泉に入る石榴は、小夜子や美雲の背後に回り込み、下から胸を掬いあげる様にして揉み上げる。
「おおお‥‥」
石榴はその感触を十分楽しんだはいいが、もちろん、美雲による再度の鉄拳制裁。こっぴどく叱られた。
「大きいお風呂は気持ちいいですねー」
立花は小雪と一緒にきゃっきゃうふふな光景を繰り広げる。悶々とする衝立の向こうの一部男子。と、その時、きゃっきゃしていた立花が衝立にぶつかり、ぐらっとよろめく衝立。
ばたーん。
男湯の方に開かれるように倒れ、ばらばらに壊れてしまう。
「しまったぁぁ!」
その桃の花園を湯気の先にしっかりと見たのは、ソウマ。頬を赤らめつつも、紳士な態度でそっと目を逸らす。
だが、立花は足元の河原の石を拾い上げると、力いっぱいソウマに投げつけた。すこーん、と良い音がして、ソウマは倒れ湯の中に沈んでいった‥‥。
最後に、亮、結衣、レイード、熾火、幸乃の五人が先の立花達の班と交代で温泉に向かう。不運なことに、そこでひとつの連絡ミスがあった。――衝立は壊れたままだという連絡ミス。
その事実を知らず、五人は温泉に向かう。脱衣所は設置しなかった為に、森の中、木陰に隠れてそれぞれに衣服を脱ぐ。男性陣の脱衣は早く、温泉へと先に入っていく。
「ガールズトークするのですよ!」
むっふぅーと鼻息を荒くし、結衣を先頭に、後から温泉へと入っていく女性陣。
だが、その先、衝立が無くなりひとつとなった温泉。結衣の声に振り向く男性陣。亮は見た。視界を埋めるのは、一糸纏わぬ生まれたままの姿の結衣。湯気と、それから真白いタオルが、辛うじて秘所を包み隠しているのみ。――亮は鼻血を吹き出しD・O・W・N☆
温泉が亮の鼻血で真っ赤に染まる。仰向けに湯船に浮かんだ亮を、結衣は顔を真っ赤にしながら成敗。
追い打ちをかけて、記憶が無くなる様に仕向けた後、結衣は温泉の端に引き上げてジト目で睨みながら介抱を始めた。
湯船の中にはレイードがまだ残っていたが、こちらを熾火は気にしない。タオル一枚を持って堂々と入っていく。
「ちょっと寒いです‥‥」
テントの中、結衣が言いつつ、亮の腕をそっと引っ張る。
「くっついていたら寒くないだろ?」
目を逸らして亮が結衣を抱き寄せた。結衣は亮に抱きついたまま眠る。
(守りたい‥‥この大事な女性(ひと)を‥‥この温もりを。もっと強くなろうずっと、傍に居れる様に‥‥)
二人は抱き合い、そのままに微睡み、眠りに落ちる。
「おやすみなさい‥‥」
眠る亮と結衣を起こさないように幸乃は外に出た。テントにはそっと香炉を置いて、幸乃は火の番へ。
火は二つ。亮達のグループのテントは、皆から離れた川辺にあった為に、火の明かりが届きにくい。その為、亮達は別に火を焚く必要があった。
見張りは二班交代。亮と結衣、熾火とレイードの2ペアで、今は熾火とレイードが火の番をしていた。
小屋の方では外で毛布に包まり、拓那と零次が彼らと同じ様に見張りをしている。幸乃はそちらの応援に回る。
熾火とレイードの二人が、火の番に残される。枯れ枝を、ひとつ火の中にくべた。
「散々な旅行になってしまったな、だが‥‥貴様らと一緒であれば悪くはないと思ったよ」
熾火がレイードに語りかける。レイードが熾火に顔を向けた。焚火の火が二人の顔を赤々と照らす。
「そう言って貰えるのは光栄だな」
笑み、手の中で弄んでいた枯れ枝を折り、また火にくべる。
「‥‥ああ、この面子ならば、どこに行ったって大丈夫さ」
●無人島生活『二日目』
朝、日が昇る頃。小鳥の鳴き声に混じり、透き通る音色が辺りに響き渡る。
幸乃の奏でるフルートの音色だ。時刻が分かる様にと、朝、正午、日暮れ前の日に三度吹く事にしている。
それを起床の合図に、小屋の中から寝ぼけまなこを擦りつつ傭兵達が起き出してくる。
だが、残念なことに立花はそれで起きなかった。いや、正確には、誰からも起こされなかったのだ。
「おはよ〜ございま〜す」
立花の寝姿を見つつ、小声で挨拶をするも立花は起きない。葉っぱで出来たベッドの上、無防備にぐっすり寝ていた。
にぱっと笑うと、自らの服の第一ボタンに手をかけ
(いただきまーーーーーーーーす)
一瞬で脱衣を完了。裸エプロンになって飛び上がり小雪へと平泳ぎの様な恰好でダイブしていった。
「ごふぅ! 敵襲か! ある意味敵襲だった!? 誰か助けてー!」
立花の叫びが二人きりの小屋の中響く。
一方、テントの方でも、嬉し恥ずかしな展開が繰り広げられていた。
「‥‥レオタードはダメですか、亮くん‥‥」
結衣が弱い声音で哀しそうに亮を見つめる。お洒落の為に毎日着替える服の中に紛れたレオタード。
それを手に、結衣はうるうると亮を見つめ続ける。
「‥‥似合うと思うが、それはやめておこう、な?」
ひや汗をかいて狼狽する亮。渋々、結衣がそれ諦めれば、ほっと胸を撫で下ろす。
あの姿で二人っきりになれば‥‥自分の理性が持つかどうか、亮は分からなかったのだ。
朝食には、昨日小雪が燻製にしていた魚が並び、たっぷりとした量があった。
皆は、朝食を食べ終えるとそれぞれの仕事に散っていく。そんな中、
「素潜り漁をされるのですか。是非お手伝いさせてください」
星嵐が、ユーリに手伝いを申し出た。ユーリの方としても、一人では魚キメラに対して、挑む事が難しかった所である。
「じゃあ、頼んでもいいかな?」
ユーリの了承を得て、星嵐はビキニパンツへと着替えに小屋に戻る。
旭は一日目に続き、小屋の付近で鼻歌交じりに日曜大工に精を出している。
テーブルに椅子、果ては物干し台なども作ろうとしていた。
それを手伝っていたのは、ソウマと拓那だった。
「芸は身を助けるといいますが、色んな依頼を受けたおかげでホント助かってますね」
豪力発現での力仕事や、今までの依頼を解決してきた際に身につけた経験を活かし、テキパキと旭を助ける。
「んー、あるもの利用するだけでも結構なんとかなるもんだね。これなら家の一軒ぐらい建てられるかも? なんてね」
出来上がったテーブルなどを見つつ、拓那が笑いつつ感想を述べる。
二日目には、清四郎による新人講習が開かれていた。
「怖いということは決して悪い事じゃない、むしろ恐れを知らない奴の方が足を引っ張る事が多いんだ」
清四郎が、講釈をしながら海月の後ろに回っていく。
「英雄的行動なんてのは自分一人の命で責任取れるならいいが実際は周りに迷惑をかける。くれぐれも自重したほうがいい」
海月はおやつに飴を舐めながら、清四郎の話を聞いている。
「あと生理的に受け付けないものにも慣れておいたほうがいいぞ? ‥‥ほれ」
清四郎が海月の背中、服の中に無毒な蛇を落とした。
「〜〜っ!?」
喜んでいる様な声にならない叫びを上げる海月。
その新人講習がようやく終わって、海月が小屋の周辺を歩いていると、恭也に声をかけられた。
「海月さーん。良ければ島を見て周りませんか?」
「わかりました! 行きましょう!」
先程学んだ教えを存分に発揮できるチャンスだ、と張り切って、海月は恭也と一緒に出かける。向かうは森、極彩色の光景が彼らを出迎える。
「いやはやこれだけ色彩豊かだと心が躍りますね。白一色だと心が折れそうになりますよ」
バイクで島を回る中、猿の群れを発見し、戦闘になった熾火とレイード。熾火をバイクから下ろし、レイードはAU−KVを装着。逃げる猿達を追いかけて走る。
走る森の中、ぼとりぼとりと頭上から蛭も落ちてくる。
「猿と蛭は不要だ。焼き尽くすぞ」
食える事のない蛭を全力で倒し、逃げる猿を更に追い立てていく。途中、猿を追い立てた先に、海月と恭也が居た。
熾火と海月、目と目が合う。熾火が笑みを浮かべた。
「もちろん貴様は、以前の小人との戦闘より成長はしているのだろうな」
「もう一度、心からの感謝をしない程度には!」
言い、うおおお、とマンガじみた雄叫びを上げて猿に向かっていく。――もう一度それをされても困る、と熾火が内心、嘆息する。
(せめてレイードぐらいに使える男になっているといいのだがな)
心の中で思い、溜め息をつく。
「まるで、教官と生徒だな」
二人のやり取りにレイードが肩を竦める。
危なそうであれば手助けするべく、熾火とレイードはしばし、海月を見守る事にした。
「なかなか快適な島だね」
ビーチパラソルの下、昨日自作した椅子に腰かけ、UNKNOWNは海に釣り糸を垂らしている。
手元には、昨日のうちに海底に沈めておいたワインを引き上げた物。
旅行に持ってきた専門書のページを捲りながら、ワインを飲む。
「無人島に連れて来られたけど、冷静に考えればここでもバカンス気分は味わえるか。はっはー!」
一日目は、怒りのままに暴れ回った京助だったが、今日になって落ち着いた。
昨日見つけておいた果物の場所などを朝早くから回って食料をある程度調達してから、水着に着替え、海で遊ぶ事にしたのだ。
「若いっていいわねぇ」
浜辺に走っていく京助を追う様に籐子も浜辺に歩いて行く。泳ごうと考えていた浜辺には、食料調達に来ていた小夜子や石榴の姿がある。
若く健康な彼女らの肢体を堪能しつつ、籐子は浜辺に降りて行く。
「よい、しょ‥‥」
小夜子が浜辺を歩いて拾ったわかめを海水で洗っている。
一緒に浜辺を回っていた拓那がそれを手伝う。脇では、石榴も拾った貝や海草を抱え持っている。
小夜子がワカメを海水で洗う間、石榴の視線は海へ注がれていた。
その視線の先に居るのは、星嵐とユーリである。軽いボディタッチとかがある度に、石榴はくすりと笑う。
そんな視線が注がれているとも知らず、二人は、魚キメラを捕まえる為に素潜り漁に臨むところだった。
一日目はユーリ一人で無理だった。だが、二人なら‥‥。
ユーリと星嵐は頷き合い海へと潜っていく。
昨日記憶した位置には同じ様に魚キメラの群れ。マンボウの様な巨体を悠々と泳がせている。
群れをよくよく観察すると、マンボウの中に明らかに風格の異なる七色に光る魚キメラが居る。
海中、ユーリと星嵐は目配せでそれを確認した後、二人は狙いを小物ではなく、その海の主に定める。
だが、海の主を狙う彼らを横から、周りの魚キメラが襲った。その間に、海の主は遠くへ去っていく。
結果、‥‥一度目の捕獲には失敗した。
●無人島生活『三日目』
朝、奏でられたフルートの音色に、立花は今度こそきっちり目を覚ます。起き上ろうと脇に手をついてみれば、何やら柔らかい感触。ふと、目を移せば、そこには小雪が添い寝していた。
「‥‥『この程度ならまともか』って思った自分に危機感を覚えますね」
「ん〜立花たん‥‥いいにほい‥‥」
腕に絡み付きながら、頬を擦り寄せつつ匂いを嗅ぐ小雪を振り解きつつ、立花は起き上る。
最後の一日。今日は皆でレアキメラ狩りに赴く。
まずは、浜辺近くの岩場。蟹を狙う班だ。
拓那は瞬天速で蟹に肉薄し、高速機動を併用。足を払い上げ、蟹を裏返す。
すかさず零次にナイフで蟹の鋏を切ってもらい、足を頑丈に編み上げた蔦で縛る。
「よっしゃぁ! 蟹キメラとったどー!」
大きく手を振り上げ、雄叫びを上げる。
「すごいな‥‥、流石先輩」
零次が感嘆の声を洩らす。拓那は、その声に我に返り、一つ咳払いをする。
「‥‥ごめん、言いたかっただけ」
ぼそりと恥ずかしそうにいった。
「まぁ、これだけ大きければ食べ甲斐もありそうだ♪」
二日目は獲る事が出来なかった海の主――おそらくはレアキメラのそれに、ユーリと星嵐が再挑戦を臨むべく、浜辺に立っていた。
昨日は、海の主を直接狙う事は諦め、海の主の周辺に居た魚キメラを何匹か獲り、今度は邪魔をされる事はないはずだ。
今度こそはと、二人が海に潜れば、七色の魚キメラが見えてくる。
ユーリが慎重に後ろへ回り込む。
タイミングを見計らい、前後から挟み撃ちに勢いよく近づく。七色の魚キメラが後方へ翻り逃げようとする。だが、その反転の瞬間を狙い、ユーリが槍で七色の魚キメラの胴を貫き、見事仕留めた。
「「とったどーっ!!」」
海上に出た星嵐とユーリが雄叫びを上げ、、捕まえた海の主を高く掲げる。
そのまま、七色の魚キメラを掲げて、浜辺へと持って上がる。
一息ついてから、星嵐はそのキメラをしげしげと見つめる。
「どういった変化を以ってこんな珍しいキメラになるのか不思議ですね」
ふっと、頬を綻ばせる。だが、なんにせよ。これでレアキメラは一匹確保したのだ。
一方の森の方では、小夜子が猿を戦い易い場所まで誘き寄せていた。
小夜子は戦いに不慣れな人を補佐する様に、先頭を飛び回りくる猿を横合いからフライパンから殴って動きを止める。
これで、後方に続く群れ全体の動きが止まった。そこへ、
「いきますよ〜♪」
珠洲が愉快な笑い声と共に、閃光手榴弾を投げつける。猿の目が眩み、ききぃききぃ、とその場で暴れ回る。
「これで、せめて動きを止めれれば‥‥どうかな?」
マリンチェが蔦を編み作った網を投げつける。
目を潰された猿にSES搭載の武器を持ち合わせていない珠洲は、豪力発現を発動。笑顔のまま素手で殴りかかる。
そして、キャットファイトならぬ、モンキーファイトの様相を呈していった。
同じく森の中、猿達の住処より、やや奥。
「買って初めてこの笛が役にたつな‥‥」
清四郎が横笛の忍刀を抜き放ち、蛭を突き刺す。
「怖いのは悪い事じゃない、大事なのは肝心な時に踏ん張れるかだ!」
近くに控えた海月に清四郎は教示する。
「押忍!」
何かの弟子の様に、メイド服とスク水を着た海月は応える。
彼の言葉を聞いていたのかいないのか、海月はうおおおお、と蛭に素手で向かって行った。
もちろん、蛭の吐いた酸にやられて、うぎゃあああ、とすぐに転がり戻ってくる。
「救援に来ましたよ!」
美雲が自らにレイ・エンチャントと電波増強の重ね掛けをする。そして、海月に蛭の追撃が加えられる前に、美雲は持っていたペンタイプの小型超機械を突き立てる様にして電磁波を発射。蛭はぼとりと地面に落ちた。
最後の夜。今まで取ってきた食材が余すことなく料理に回され、実に豊富な料理が食卓に並んだ。
その中には、魚キメラの蒸し焼きとまたそのアラで取った出汁で作った蟹キメラの磯鍋。それらは、キメラを食べたくないという人もいるという事で、横に寄り分けられている。
食事中、不意に、美雲は胸に痛みを感じる。
「痛ったた‥‥、ちょっと胸が張ってきちゃった」
産後の為に、胸の張りが不安定になっていた。そんな台詞が聞こえた周りの男性陣が、少し色めき立つ。
だが、美雲は彼らに聖母の様な笑顔を見せ、
「覗きにきたらぶっ殺しますからね?」
一言言い残して、人気のない所へと消えていった。
晩餐の後片付けも終わり、夜も更けて、月の綺麗な頃。
「拓那さん‥‥」
小夜子は小屋から抜け出して、野宿をする拓那の下に赴いていた。
「女子の方もきついかい?」
拓那が苦笑し、小夜子はこくりと頷いた。
「じゃあ、こっち来なよ」
拓那が包まる毛布の端を開けて小夜子を誘う。その誘いに、小夜子はもう一度、けれど、今度は頬を赤らめて、こくりと深く頷いた。
共に火の番をしていた幸乃は、こっそりとその場を離れていく。
元々、夜に少し散策しようと思ってランタンやライターを持ってきていたのだ。月明りも十二分。火の明かりは二人の所に残し、幸乃は最後の日、月夜の散歩に出かける。
零次もまた立ち上がると、
「星が綺麗だな‥‥」
そんな事を呟きながら夜の散歩に出かけていった。
後に残された拓那と小夜子を、物陰からこっそり眺める人影がひとつ。石榴である。
二人を狙って、色々画策していたのだが、する必要も無かったようだ。
だが、まあ‥‥それはそれとして、絶好のシチュエーション覗くべきか否か、非常に悩ましい問題が石榴の前に降りかかった。
そんな事は露と知らず、拓那と小夜子は星空を一緒に眺める。ひとつ、大きな流れ星が満天の星空を南に駆け抜けていった。
いよいよ、明日の正午に向かえの船がやってくる。
●無人島生活『四日目』
「よし、撮るぞ」
無人島生活最終日。ユーリは記念に、と小屋の前、皆を並ばせ、持ってきていたカメラを構える。
結局、レアキメラは、魚キメラの一種のみ。だが、皆の連帯感は高まった。
皆の笑顔をそのフレームに収め、撮影を行う。
パシャリ。
去り行く船の上、零次は、ふぅ、と息を吐く。
「色々大変だったけど、楽しかったな」
浮かんだ笑顔は、疲れはあれど、充実したものだ。
「はあ‥‥お姉ちゃん。十分に英気を養えたわ‥‥」
籐子が船の上、うっとりと去り行く島を眺める。
「長かった‥‥長かったぞー!! さよならだ、無人島ー!!」
海月が去り行く島に向かって叫ぶ。
「まぁ訓練とは言いがたかったですが、戦友を知ること、これも戦場では命に関わりますしね」
それぞれに別れを告げる仲間達を眺めつつ、
「そんなことを考えないで遊べるように、まぁ今しばらくは頑張りましょうか」
そう言って、恭也は心を戦場へと引き戻す。
明日からは、訓練ではない毎日に戻るのだ。いつか、こんな楽しい日々が日常に変わる日を求めて。
(代筆:草之 佑人)