タイトル:Survive Driveマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/16 13:35

●オープニング本文


 寒風吹き荒ぶ極北の地──グリーンランド。
 UPCの基地に近いエリアなら、ライフラインの整備が成されているからまだ救いがあるものの、それも届かぬ遠い村々は完全に自給自足だ。
 加えて、いつ襲い来るとも知れぬバグアの脅威に晒されている。
 人間とは不思議なもので、生きて行くのに不適切な環境であっても、生まれた土地を離れたがらない性質がある。
 因果なものだ。

 かと言って、軍としては体面上は見捨てる訳にもいかぬし、当人たちも死にたいわけではない。
 故に、軍と村人の両方の要請により、傭兵たちが遣わされることがある。
 多くの場合は何事も無く数日間の滞在が過ぎ、最終日にはささやかな宴が開かれるのが通例だ。
 しかし中には、見事にキメラの襲撃に遭遇する場合もある。
 村人に取っては不幸中の幸いと言う他、ないだろう。
 そして今回の派遣任務が、正にその珍しい例となってしまった。

   ※   ※   ※   ※   ※

 普段は遠出を許されない子供たちも、傭兵たちが滞在中は、彼等の庇護の元、村から離れた場所で遊ぶことを許される。
 好奇心旺盛な年齢である彼等に、村の中の生活だけでは世界が狭すぎて息が詰まるというものだ。
 滅多に無い解放感を満喫して、伸び伸びと遊びまわる子供たちの姿は、それを見守る傭兵たちの心を和ませた。
 いつか未来を担うことになる存在を守る。
 その為に戦っている。
 そんな充足感を得る者もいることだろう。

 昼過ぎに差し掛かり、ようやく気温が氷点下から脱したところで、少し遅めの昼食会を開いた。
 石を組んで竈を作り、持参した炭にて火を熾す。
 川で釣ったばかりの、内臓を抜いた魚に串を通し、火の近くに立てて焼き上がるのを待つ。
 待ってる間には、子供たちの親が持たせてくれたお弁当を、子供たちは傭兵たちと一緒に食べるのだ。
 しばらくすれば、食欲を誘う匂いが漂い始める。
 今更ながらに腹の虫が鳴く子もおり、温かな笑いが辺りには満ちていた。

 そんな時に、邪魔は入る。

 いや、もしかすると、香ばしい匂いにこそ、誘われてきたのかもしれない。
 川岸の向こうの林から、何の前触れもなくキメラが現れた。
 姿を見せるその瞬間まで、敵意も殺気も発しておらず、まるで水飲みに来ただけのような自然さだった。
 しかし、対岸に人間の姿を認めた瞬間、キメラは当然のごとく猛烈に殺気立つ。

 和やかだった空気は霧散して、川辺は一瞬にして戦場へと変貌した──

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER
熾火(gc4748
24歳・♀・DF

●リプレイ本文

 対岸に狼型のキメラが現れた時、既に傭兵達は反応していた。
「なんてタイミングで出やがんだ‥‥!」
 悪態を吐きながらも覚醒する植松・カルマ(ga8288)。
 眼球が赤く染まり、鈍色に変わった肌には幾何学模様の線が走る。
 キメラの出現に、子供達は動揺はしても混乱はしてなかった。
 辰巳 空(ga4698)や熾火(gc4748)が事前に説明していたお陰だ。
 ──もし危険が迫った時は、皆を纏めるのを、頼めるか?
 熾火の言葉を思い出し、年長の少年は年下の子供達をすぐに集めた。
 そして空に言われた通り、彼の後ろに隠れる。
「私達が絶対に守りますからね」
 穏やかな空の声。
 不安そうだった子供達は、安心したように表情を緩めた。
 加えて、
「何かあったら空お兄さんに聞けよ! 俺より頼りになるからよ!」
 篠崎 宗也(gb3875)の言葉に、口元を綻ばせる。
 怒鳴ってしまうかもしれないからという本人なりの配慮なのだが、自分を頼れと言わない所に笑いを誘われたようだ。

「クソッ! ツイてねぇ‥‥テメェらはイツも、イツも‥‥ッ!」
 赤槻 空也(gc2336)は怒りを露にしながら、額に弟の形見の鉢巻を巻く。
 朱に染まる髪、金色に輝く瞳。
 その色彩の強さが、彼の怒りの大きさを物語る。
「‥‥アイツらにゃ指一本触れさせやしねェ‥‥行くぜエッ!」
 キメラに対する憎悪、子供達を護る使命感。
 ふたつの感情を胸に、彼はキメラに猛然と突っ込む。
「やれやれ。これから食事だって時に‥‥」
 小柄で愛らしい見た目にそぐわない、大人びた口調。
 ニコラス・福山(gc4423)は焼き魚をひとつ手に取った。
 頭に一本、ぴょこんと毛を立たせながら、半身を振り返らえらせてさらっと告げる。
「ちびっこは安全な所まで離れてな」
 台詞はかっこいい。
 だがしかし、子供達の誰もが思った。
「お前が言うな」
 と。
 ──あ。熾火が口に出していた。
 が、ニコラスは華麗にスルーするのであった。

 綿貫 衛司(ga0056)とムーグ・リード(gc0402)は水際まで走ると、各々の銃を構えて弾幕を張った。
「子供達の所へは行かせません」
「‥‥此処で、ハ、互い、ニ…等シク、狩り、ノ、対象、DEATH‥‥」
 無数の銃弾が、キメラの注意を一気に引きつけた。
 一際体格の良いキメラが一声吠えると、他の五体は一斉に散開した。
 その動きは俊敏かつ流麗。
 無駄がなく、油断ならないのがひと目で判る。
 衛司、ムーグ、空也は手下と思しき五体に、カルマとニコラスはリーダーと思われる大型の狼キメラへ。
 子供達のささやかな安らぎの時間を奪った愚か物共を、片付ける為に。

 空也は疾風脚を使い、素早く踏み込んだ。
「トロトロしてらんねェ! 一気にブッ潰すッ!」
 繰り出したアフェンドラが、キメラの前肢と交差して、カウンター気味に炸裂する。
 鋭利な爪は空也の頬と髪の毛を掠めた程度。
 強烈な拳はキメラの顎を激しく殴打。
 キメラは低く呻いて仰け反る。
 空也はその隙を逃すまいと、連続で拳を叩き込んだ。
「オラオラオラァッ!」
 勢いに乗る空也だが、そこへ別のキメラが弾幕を掻い潜り、空也へと牙を向いた。
 不意打ちに近い攻撃はしかし、ムーグの咄嗟の射撃が命中し、跳びかかる勢いを殺した。
 空也は身体を捻って躱すと、勢いもそのままに裏拳をお見舞いさせる。
 巨体が揺らぎ、空也は追い討ちの構えを見せた。
 その背中に、最初に空也に拳を打ち込まれたキメラが襲いかかった。
 人間であれば「隙あり」とでも思った所だろう。
 がら空きの背中に必殺の勢いで振り下ろされた爪は、肉を引き裂き血と臓物を飛び散らせ──ることなく、空を切った。
 隙は、空也が敢えて見せたのだ。
「本命は──テメェだッ!」
 全力で繰り出した攻撃を躱されたキメラは、真横に回りこんだ空也から身を守る術を持たなかった。
 渾身の一撃は、確かな手応えと共に、キメラの胸部に食い込んだ。

「さて、あのデカぶつを片付けるとするか」
「軽く捻ってやるッスよぉ!」
 ニコラスの練成強化を受けて、カルマのブラッディローズが淡く光る。
 カルマはまずキメラの機動力を削ぐ為に、脚を狙って散弾銃をぶっ放した。
 飛散する凶悪な銃弾を、しかしキメラは素早いフットワークで躱し、カルマとの間合いを詰める。
 飛び退くカルマ。
 一瞬前までカルマが居た空間を、キメラの爪が引き裂いた。
 その攻撃後の隙を狙い、カルマは引き金を引く。
 数発の弾丸がキメラの脚を捉えた。
 破裂するように体毛と血肉が飛び散る──が、キメラは怯むことなく、更にカルマとの間合いを詰めてきた。
「タフな野郎ッスねぇ!」
 強引に身体を捻り、横薙ぎに払われた前肢の攻撃を紙一重で避けるカルマ。
 回避と同時に銃のカートリッジを交換し、狙いもそこそこに至近距離から再度ぶっ放す。
 と同時に、キメラは頭上に跳躍していた。
「んな!?」
 ──躱せるか?
 その疑問は杞憂に終わる。
「ふぁっふぁふふぁふぇふふぉ(くたばれ動物風情が)」
 焼き魚を加えたニコラスのケイティディッドが発生させた電磁波が、空中のキメラを捉えた。
 耳障りな悲鳴を上げて、キメラは姿勢を崩す。
「もらったッス!」
 半歩だけ下がるカルマ。
 着地で精一杯のキメラ。
 零距離──発砲──全弾命中。
「────!!」
 声にならない苦悶の絶叫。
 右の前肢をボロボロにされたキメラは、残る脚で大きく飛び退いた。
 最初の激突は、傭兵側に軍配が上がったようだ。
「うん美味いぞ、この魚」
 ニコラスは魚を平らげ、満足そうに口の端を吊り上げた。

 空也のクリティカルヒットを受けて尚、キメラは倒れずに耐えた。
 動きこそ鈍くなったが、他の四体が補うように連携の行動を変化させる。
「‥‥綿貫、サン‥‥アイツラ、ヲ、アツメ、ラレ、マスカ‥‥」
「──了解です」
 ムーグの意図する所を察し、衛司は金色の瞳を鋭く光らせてキメラを見据えた。
 二人の放つ銃弾が空也をサポートし、且つ、キメラの動きを巧みに誘導する。
 直接弾を当てるだけが、攻撃ではない。
 衛司の銃弾が、水飛沫を上げる。
 キメラは銃撃を避けたつもりで横に跳んでいたが、その先にいたのは仲間のキメラだった。
 そのキメラもまた、ムーグの攻撃により横に跳んでいたのだ。
「赤槻さん、下がって!」
 衛司の声を受け、空也は即座に飛び退く。
 次の瞬間、
「‥‥連携、上等、デス、ガ‥‥私、ニハ‥‥、関係、アリマセン‥‥」
 ブリットストーム──弾丸の嵐が吹き荒れた。
 射程範囲内に誘い込まれたキメラ共に、鉄の雨が降り注ぐ。
 飛び散る体毛と血飛沫もまた、嵐のように。
 この好機を逃すまいと、衛司もSMGの弾雨をお見舞いする。
 ムーグの弾が切れ、キメラに取って地獄のような数秒間が終えた。
 と同時、凶悪な暴風を二度と食らうまいと、キメラ共は傷ついた身体で必死に散開した。
「それで逃げたつもりかよッ!」
 その内の一体を、空也は瞬天速で追撃する。
 裂帛の気合と共に振り抜いた拳は、キメラの顎を砕いた。

  戦況を見て、キメラのリーダーは明らかな劣勢を悟った。
  感情と呼べるほどの精神構造を持たないキメラ。
  内に在るのは、破壊と殺戮の衝動だ。
  目の前の相手でそれが叶わぬのならば──標的を変えるまで。
 

「植松さんが閃光手榴弾を使います」
 無線で連絡を受けた空が、熾火と宗也に告げる。
 仲間達がキメラの相手をしている間に、彼らは戦場から距離を取っていた。
 離れたとは言え、カルマの姿は充分に見える。
 閃光手榴弾を投げる瞬間を見落とす心配はないだろう。
「私が合図したら、眼を閉じて耳を塞ぐんですよ?」
 空の言葉に、子供達はしっかりと頷いた。
 最年少の女の子が、耳をちっちゃな手で押さえてぎゅっと目を瞑る。
 その様子を見て、熾火は微笑みながら女の子の頭を撫でた。
 子供特有の絹ような手触りの髪の毛が心地良い。
 見上げてくる女の子に、「あのお兄ちゃんが合図してからでいいんだぞ」と優しい声で教えてから、彼女は前方を鋭く見据えた。

 先程から、キメラの動きが明らかに変わっていた。
 標的が目の前の傭兵から、こちらに移ったことは明白だ。
 一心不乱に突破を図ろうとするキメラ共を抑えるのに、仲間たちは苦心している。
 負傷の度合いで言えば圧倒的にこちらが優勢だが、傷ついて尚、俊敏に動き回るキメラ共の突破を阻むのは限界があった。
 閃光手榴弾が、キメラの気勢を削ぐ呼び水になれば良いが──

「ちっ、来やがったか!」
 蒼く輝く目で前方を睨む宗也。
 一体のキメラが、防衛線を掻い潜ってきた。
 僅かに遅れて、カルマが閃光手榴弾を投げる。
「塞いで!」
 空の合図。
 子供達と共に、傭兵達も防御姿勢を取る。
 炸裂する閃光と爆音は、キメラ共を怯ませた。
 人間より遥かに鋭敏な感覚が、タフネスさを上回る衝撃を与えたようだ。
 既にこちらに向かっているキメラには多少効果が薄かったが、新たに突破するキメラを出すことは阻止できた。
 朦朧とするキメラに、前線の傭兵達は一気に攻勢を仕掛ける。
 宗也は前に進み出て、
「俺が相手になってやるぜ! 熾火、空! ガキ達は頼んだぜ!」
 コンユンクシオを構えた。
 朦朧から立ち直ったキメラは、宗也に向かって猛然と突き進んでくる。
 しかしそれは飽く迄も方向であって、奴の狙いは子供達だ。
 視線がそれを物語っている。
「熾火さん。貴女もキメラを」
 空の言葉に、熾火は一瞬の間を空けて頷いた。
「解った」
 後ろを預け、前に進み出る。
「──貴様の相手は、私達だ‥‥!」

 キメラが万全の状態だったなら、宗也と熾火には少々荷が重かっただろう。
 だがムーグ達によって削られているのと、空という鉄壁が子供達を守っている安心感が、二人を後押しする。

 宗也が放ったソニックブームを、キメラは斜めに跳んで躱す。
 目前に迫るキメラ。
 好都合とばかりに、宗也は流し斬りをお見舞いした。
 体毛が些か斬撃の勢いを軽減したが、切っ先は腹部を抉る。
 熾火も両手の拳銃を連射し、吐き出された銃弾がキメラの身体を穿った。
 血肉をまき散らすキメラ。
 けれどキメラは、二人の攻撃に怯む様子は見せずに熾火達──否、子供に肉迫する。
 振り下ろし、薙ぎ払われる爪。
 柔らかな肢体を引き裂かんと迫る牙。
 その悉くを、熾火は身体を張って受け止めた。
 柔肌が切り裂かれ、血飛沫が舞う。
 後ろを空が守っているとは言え、みすみす子供を危険に晒す必要などない。
「お姉ちゃん!」
 悲鳴を上げる女の子に、熾火は、
「わざわざ見る必要はない。目を瞑っていろ。私は大丈夫だ」
 痛みなど微塵も感じさせない笑顔を浮かべた。
(とは言え、流石にきついな‥‥)
 すぐに視線をキメラに戻しながら、活性化を使う。
「俺らを無視とは、いい度胸じゃねぇか‥‥!!」
 大剣を振るう宗也からキメラは飛び退くが、再び弾丸のような俊敏さで突撃してくる。
 それは捨て身の一撃だった。
 なにがなんでも人間を道連れに。
 その気迫を、傭兵達は察した。
 突破させてはならない。
 渾身の力で宗也は斬撃を叩き込んだが、止まらない。
 熾火はこれでもかと引き金を引いたが、止まらない。
「「空!」」
 二人に言われるまでもなく、空はキメラの前に立ちはだかる。
「──子供達には、傷ひとつ付けさせませんよ」
 淡く紅い瞳で、決然と睨みつける。
 『獣の皮膚』により獣人化し、『ボディガード』で、子供を引き裂かんとしたキメラの爪を、真正面から受け止めた。
 貫く激痛に歯を食いしばり、そして、食らいついてきたその牙を、空は両手でがっちりと掴む。
 身動きの取れなくなったキメラは、困惑の唸り声を漏らす。
 そのこめかみに、銃を突きつける熾火。
「最初に言ったはずだ。貴様の相手は私だと」
「全くだぜ。無視してくれちゃってよ」
 大剣を大上段に振りかぶる宗也。
「眠れ。永遠に」
「じゃあな」
 熾火の銃弾が頭部を貫き、宗也の刃が首を、切り落とした。


 満身創痍のリーダーキメラは、まともに動かない前肢で踏ん張りながら、口を開けた。
 喉の奥、普通の獣にはない穴から、毒霧を吐こうとしているのだが──
「汚ェモン吐くんじゃねェ!」
 既に見切っているカルマは、その口に散弾銃を突っ込み、容赦なく引き金を引いた。
 体毛は銃弾を弾くほどだが、体内はそうはいかない。
 二十四発の銃弾に体内を蹂躙されたキメラは、ゆっくりと地面に倒れた。
 数度痙攣した後、キメラは完全に沈黙した。

 リーダーの死を知り、手下のキメラ達の行動が更に変化する。
 それは熾火達が相手にしたキメラと同様の、一人でも道連れにという、決死の突撃だった。
「お見通しですよ」
 脇をすり抜けようとするキメラに、衛司は冷静に告げた。
 猛撃を使い、スマッシュでククリナイフをキメラの腹に突き立てる。
 食い込んだ切っ先は、キメラ自身の突破の速度と相まって、勢い良く腹を裂いた。
 相手の力をも利用した、無駄のない攻撃。
 着地すら叶わず、内臓をまき散らしてキメラは沈んだ。

「行かせるかよッ!」
 雄叫ぶと同時、空也は瞬天速で追いすがり、拳を叩き込む。
 幾度となく耐えてきたキメラだったが、完全に無防備な状態で凌げるほど、空也の拳は軽くない。
 口から血と唾液を吐き出し、地面に転がる。
「これで終わりだぜ!」
 跳躍する空也。
 落下速度と体重を乗せた拳が、キメラの胸部へと炸裂した。
 肋骨を粉砕し、その拳は、心の臓を打ち破った。

 こちらを完全に無視し、子供達へと向かうキメラ。
「‥‥ヤラセ、ハ、シナイ‥‥!」
 ムーグは瞬天速で即座に追いつき、銃を連射。
 無数の穴を穿たれながら、しかしキメラは止まらなかった。
「‥‥止まラ、ナイ、ナラ──」
 相手は一体だが、容赦する気など無い。
 守りたいものを守れなかった過去。
 ただ逃げるしかできず、後悔さえできなかった。
 だが、今は違う。
「──轢き潰ス、マデ‥‥、DEATH」
 荒れ狂う弾雨を浴びて、キメラはまるで踊っているかのようだった。
 そしてムーグの弾が尽きると同時、糸の切れた操り人形のように、静かに地面に倒れ伏した。


 夕刻前。
 風は一層の冷気を帯びていたが、寒空の下、子供達のはしゃぐ声が響いていた。

 傭兵達がしっかりと無事に守り切ったお陰で、心身に傷ひとつなく元気一杯の子供達は、
 衛司と一緒に石竈を作り直したり、
 空に悩み相談をしてみたり、
 カルマが「俺の活躍見てたッスか!」と訊いてきてもスルーしたり、
 宗也と一緒に新しく魚を釣ったり、
 のっぽのムーグにぶらさがって遊んだり、
 温かなミルクコーヒーを振舞ってくれた空也にじゃれ付いたり、
 ニコラスを子供扱いして叱られたり、
 熾火が飯ごうを使って用意してくれた料理を味わったりして、

 残された時間を目一杯使って、仕切り直しした遠足を思い切り楽しんだのだった──