タイトル:【共鳴】fieramenteマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/07 13:59

●オープニング本文


 ぱちんと、暖炉の火が小さく爆ぜる。
 グリーンランド北部。バグアの支配地域に飲み込まれ、とっくの昔に滅びた廃村。
 その中に唯一、生活感を残した家屋がある。
 居住者は、少女と少年──だった。
 今、少女の姿はなく、代わりに別の少年が訪れていた。

「ヘラの居場所はわからないみたい」
 褐色の肌の少年が、ソファに身を沈める銀髪の少年へ、申し訳なさそうに告げた。
「そうか‥‥」
 落胆の吐息を漏らす、銀髪の少年──シア。
 気を落ち着かせる為か、褐色の肌の少年──ウィルカが入れてくれた紅茶に口をつける。
 嚥下する琥珀色の熱い液体が、食道を通り胃に到達するまでを感じ取りながら、目を瞑る。
「──Agとノアの居場所も、わからなかったのか?」
「そっちはわかったんだけど‥‥カンパネラにいるらしいんだ」
 シアは無言で首を小さく横に振った。
 カンパネラ‥‥彼らハーモニウムに取っては、ライバルとして『刷り込まれている』存在だ。
 だが、その所在地までも知っているわけではない。
 LHに付随するその学園が、座標の特定困難な移動都市であることは、彼らとて承知していた。
「フィディの怪我の具合は?」
 気を紛らわせるように、シアは思いついた言葉を口にする。
「大丈夫だってさ。随分と優しくされてるみたい。‥‥きっと、ヘラも無事だよ」
 ウィルカの気遣いに、シアは曖昧に頷いてみせた。
 心此処に在らず。そんな表情だ。

 能力者たちに捕らえられた双子の妹──ヘラ。
 人間の軍隊に拘束されていることまではわかったが、その現在位置がわからない。
 何か打つ手はないか。
 打開策を求めたシアが頼ったのは、フィディエルとウィルカだった。
 しかし、二人とも頭脳労働が得意なわけではない。
 こういう時に頼りたいのはQなのだが、彼とは連絡がつかなくなって久しい。
 どうすれば──
 袋小路に突き当たる思考。
 それを突き破ったのは、フィディエルだった。

『私が行くわ。人間の中に。捕まった振りをして、調べてくる』

 ウィルカは猛反対した。
 当然だ。自殺行為に等しい。
 けれどフィディエルは折れなかった。曲げなかった。
 彼女とて、仲間がこれ以上失われるのは嫌なのだ。
 無力な自分を憎んですらいた。
 故に、自棄になっていた部分も少なからずあったのだろう。
 しかし、直接探る以外に方法がないのも、また事実だった。
 洗脳した人間を使っても、重要な情報までは辿り着けたことがなかったのだから。
 ならば自分が行くと主張したウィルカだったが、その時点での彼の体調は万全からは程遠かった。
 傭兵との交戦で、死の半歩手前まで力を酷使したのが原因だ。
 治療は間に合ったが、回復には時間がかかっていた。
 のんびり待っている猶予はない。
 ウィルカはフィディエルの決定に従うしかなかった。

 だが、これは途轍もなく分の悪い賭けだ。
 策というには稚拙が過ぎる。
 この期に及んで人間の甘さを期待し、利用するのか?
 それが可能なのか?
 殺されない保証は全くない。
 だから最悪の場合に備えて、彼ら二人は待機していた。
 フィディエルが──殺されずに捕まるまでを──遠くに身を隠し──静観していた。
 彼女が殺されそうになるならば、ウィルカは身を呈して庇う覚悟で。シアは、傭兵を止める構えで。

 そして、最初の賭けには、辛うじて勝ったのだ。

「けど、期待したような成果は得られず、か‥‥」
 シアの呟きが、空気を重く沈殿させる。
「そうだね‥‥残念だけど、次に打つ手は、最悪を想定した場合のものになりそうだ」
 ウィルカは、無表情に、虚空を見つめていた──

  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 フィディエルのその言葉は、様々な人間たちを震撼させた。
「私達の基地に案内するわ。そこに、ハーモニウムの秘密があるから。だから、ノアたちに会わせて。そして彼らを、生き延びさせて」

 基地が何処か。
 秘密とは何か。
 その点については、彼女は頑として口を割らなかった。
 ノアたちと会わせることが先だと。
 だがカンパネラから連れ出すのも、フィディエルをカンパネラに運び込むのも安易な問題ではない。
 故に人間からの提案は、基地と、秘密とやらの確認ができたら会わせる──というものだった。
 長い長い、長い長い押し問答の末に、フィディエルは、その提案を、呑んだ。

 当然、罠の可能性も考慮された。
 百人近い人間を殺戮してきた、残虐極まりない敵なのだ。
 けれど、ゴットホープに連れてこられてからの彼女は、別人のように大人しかった。
 報告されていた残忍さや人格の変化もなく、ただただ静かに時を過ごしていた。
 酷く屈辱的な検査を嫌がる素振りもなく、唯々諾々として従う少女の姿に、抵抗の意思は欠片も感じられなかった。
 人間との会話も普通に成立する。
 時折、花の咲くような儚い笑みを浮かべる。
 鈴の音のような声を転がす。
 肩口から脇腹へと斜めに交差するように走る刀傷が、人間の目にはあまりに痛々しく映る。
 それは同情心すら誘った。
 浮世離れした見た目の美しさ、従順さと淑やかさ。
 これらが加われば、周囲の認識も次第に変化していく。

 ──ハーモニウムとは解り合えるのではないか?

 そう考える者がちらほらと出始める。
 そこまでいかなくとも、抵抗の意思なし。懐柔に成功──と判断する者なら、もっと多かった。
 加えて、彼らの仲間想いが本物らしいことは、これまでの報告でわかっている。
 ならば、ノアたちを生き延びさせる為の手段を講じるのは自然なことではないか、とも。

 以上の点を踏まえた結果、軍人3名と傭兵16名の派遣隊が組織された。
 万が一の場合に人質にする為、フィディエルも同行させる。
 ハーモニウム程度の力では千切ることのできない、メトロニウム合金の鎖で手足を繋いでもいる。

 態勢は万全──のはずだった。

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
ロジーナ=シュルツ(gb3044
14歳・♀・DG
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 夜明け前まであと数十分。
 そんな時に、奇襲を報せる呼笛の音が響いた。
 鳴らしたのは黒瀬 レオ(gb9668)だ。

 静寂を引き裂く銃声、怒号、叫び、剣戟。
 暗闇を切り裂く銃火、光線、閃光、火花。

 辺りは暗く、敵味方が判然としない。
 襲撃者は仲間の傭兵だから尚更だ。
「そういうことだったのね‥‥」
 迫る刃を機械爪で受け流し、百地・悠季(ga8270)がぼやく。
 恐らくは洗脳。行程や野営地の選定、見張りの計画などに抱いた違和感の正体。
 警戒し、罠を考慮したのが功を奏した。
 野営地と周辺を偵察し、休息、駐車、歩哨等の適地を見定めた綿貫 衛司(ga0056)。
 杜撰な見張りの見直しを強く求めた時枝・悠(ga8810)とレオ。
 彼らの行動と、全員の弛まぬ意識が、不測の奇襲を不完全な形に留めた。
 今必要なのは、敵味方をきっちりと把握すること。
(でもこう暗くちゃ厳しいわね‥‥)
 胸中で呟いた直後。
 打ち上げ花火にも似た音が聞こえ、頭上に現れた光球が闇を力強く押し退けた。

 照明銃を下ろし、風代 律子(ga7966)は周囲に視線を走らせる。
 襲われているのは、顔馴染みの傭兵達。
 襲っているのは、初見の傭兵達。
(解りやすい構図ね)
 内心で軽く呆れる。
 程なくして、『まとも』な傭兵達が明かりの下に集った。
 奇襲が不完全だったのが幸いし、皆負傷しているが程度は軽い。
 迫り来る敵を牽制しながら、端的に打ち合わせる。
「敵は八人か?」
「多分ウィルカもいると思う」
 SMGの弾をばら撒きながらウラキ(gb4922)が問い、レオが答える。
「フィディエルは?」
「車の荷台にいるわ」
 FTに向けて、豪力発現を使った衛司が苦無を投げつけながら問い、律子が答えた。
 フィディエルには麻宮 光(ga9696)とロジーナ=シュルツ(gb3044)の二人が見張りについている。
「あいつらはどうする?」
「洗脳ならキュアで解けるかもしれない。試そう」
 デヴァスターで弾幕を張る悠季の問いに、悠が答える。
「では私とウラキ君で、車両の確保に向かいます」
「了解。そっちは綿貫さん達に任せます。俺は軍人さんを探しますね」
「気をつけて、黒瀬さん。私と百地は、あいつらをなんとかする」
 方針は定まった。
 背中合わせに円陣を組んでいた一同は、呼吸を合わせ──
 行動を開始した。

「綿貫さん、援護する」
 ウラキから絶妙な援護射撃を受け、衛司は驟雨を手に切り込んだ。
 銃弾によって気を逸らされたDGが、衛司の一太刀を受けて態勢を崩す。
 そこへウラキは制圧射撃を浴びせ、隙を広げた。
 衛司は綻びたその一点を貫かんと、多少の被弾は無視し、
「行きます──!」
 包囲の網を、突き破った。
 勢いもそのままに走る。
 駆けつけたそこには、光、ロジーナ、フィディエルの姿。
 そして、
「ハーモニウム‥‥!」
 ウラキのSMGに取り付けられたウェポンライトが、ウィルカとシアの姿を浮かび上がらせた。

「いい加減に目を──覚ませ!」
 苛立を含んだ悠の声。
 傷だらけになりながら押さえ込んだSTに、何度目かのキュアを発動する。
 赤い光に包まれて、相手は正気を取り戻す──はずだった。
「──放しやがれ!」
 僅かな間の後に暴れる。
 悠に向かって、男は激しい敵意を向けてきた。
「こいつもダメか‥‥赦せ」
 組み伏せたまま、殴打を叩き込む。
 気絶した男を、仲間が守る車の方向へ力任せに投げながら悠は、
「厄介な洗脳をしてくれたものだ‥‥」
 重苦しい心情をこぼした。
 悠季もまた、悠と同じ状況だった。
 相手の得物を機械爪で絡め取り、滑り込むようにして懐に入り、キュアを使う。
 迸る赤光。
 一瞬だけ相手の動きが止まる──がしかし、すぐに飛び退かれる。
「無駄ではないみたいだけど‥‥」
 暗澹たる気持ちが脳裏を掠めた。
 その間にも敵は絶え間なく襲いかかってくる。
 攻撃を凌ぎ、隙を見てはキュアを試すも、無為に終わる。
「うざったいんだよ!」
 FCは二刀を振るい、悠季に斬りつけてきた。
 捨て身に近い猛攻は悠季を切り裂くが、それが深手に至ることはない。
「そろそろ大人しく──しなさい!」
 浅く切らせる代わりに、機械爪で刀を絡めてへし折る。
 驚愕するFCに当身を食らわせ、倒れた所に鳩尾への一撃を叩き込んだ。
「あと、何人‥‥?」
 捨て置いて自分達だけ逃げるのならば、簡単な話だろう。
 だが彼女らはそれを是とはしなかった。
 可能な限り、全員無事で。
 ふっと鋭く短く息を吐き、襲いくるGPに向かって、悠季はラサータを構え直した。

 視界に飛び込んできた光景に、レオは一瞬我が目を疑った。
「何を‥‥してるんだっ!」
 込み上げる怒りに、声を荒げた。
 一人の軍人が、銃を手に、二人の軍人を見下ろしていた。
 軍人たちが倒れる地面には、黒い染みが広がっている。
「ちっ、見つかったか」
 悪態を吐きながら軍人は銃を撃ったが、レオは首を傾げるだけで銃弾を避ける。
 覚醒で銀に染まった髪の毛先を、ほんの僅かに掠った程度だ。
 真正面から撃って、能力者に当たるはずもない。
 相手も解っていたようで、撃つと同時に踵を返して逃げ出していた。
「逃がさない‥‥!」
 一瞬で追いつき、憤りを込めて殴りつける。
 軍人は苦悶の呻きを上げて倒れたが、それには目もくれず、レオは倒れている二人に駆け寄った。
「──よかった、まだ生きてる‥‥」
 応急処置だけでもしたかったが、暗すぎる。
 簡単な止血だけを施し、昏倒させた軍人も加えた三人をなんとか担いだレオは、仲間が確保する車の元へと急いだ。
 だがその途中、ELに進路を阻まれた。
「相手してる余裕なんかないのに!」
 満足に武器も使えないのでは戦いにもならない。
 必死に攻撃を躱し、身を呈して庇いながらも、気取られぬように閃光手榴弾のピンを抜く。
 懸命に耐えること二十八秒。
 投げることができないレオは、足元に落とした閃光手榴弾を、EL目掛けて蹴り上げた。
 意表を突かれ、目を見開くEL。
 そこに閃光と爆音が炸裂した。
 悶絶するELを背に、レオは再び車の方へと走った。


 奇襲の直後、フィディエルらの車の所へは、ハーモニウムの二人が現れていた。
「フィディエル!」
 ウィルカの呼び声。
「ウィルカ!」
 答えたフィディエルは、しかし、光に抱え上げられていた。
 加えて、間にはロジーナが立ちはだかっている。
「うぇ‥‥ハーモニウム‥‥」
 エネルギーガンを構えるものの、アスタロトの下の表情は怯えて泣きべそをかいていた。
「あっちは俺が相手をする。ウィルカはフィディを」
「頼んだ」
 頷いたシアは長大な槍を構えると、大した予備動作もなく、ロジーナに向けて素早い突きを繰り出した。
「──!?」
 身構えていたにも関わらず、その突きはロジーナの胸部装甲を捉えた。
 衝撃に耐えてエネガンで反撃するが──当たらない。
「うぅ‥‥逃げたい、逃げたい、怖いよ‥‥」
 震えるように呟きながら、けれど彼女は、シアを睨んだ。
「でも‥‥ボク、逃げない‥‥!」
 自分の力と仲間を信じ、ロジーナは可憐な唇を噛み締めた。

 ロジーナとシアが激しい攻防を繰り広げる横で、ウィルカは怒りを滾らせていた。
「気安くフィディエルに触りやがって‥‥今すぐ放せ」
「断る」
「ウィルカ、このヒカルって人間には、何を言っても無駄よ」
「‥‥なら、力ずくだ!」
 フィディエルが人間の名を呼んだことに、ウィルカは一瞬だけ動揺した。
 それを振り払い、両手に小振りの剣を構え、光へ猛然と斬りかかる。
 鋭い斬撃ではあるが、普段の光の実力なら躱せる。
 しかし今はフィディエルを抱えているせいで、反撃どころか、決定打を避けるのが精一杯だ。
 攻防とすら言えない一方的な状況。
 その最中に、照明弾の輝きが届いた。
 仲間の無事を知り、光は安堵する。
 駆けつけたい所だが、この状態でウィルカから逃げるのは難しい。
 耐え凌ぎ、加勢を待つのが得策だろう。
 その胸中を察したフィディエルは、光の気を逸らそうと声かけた。
「何故そこまで私に拘るの?」
 無視をすれば済むことだが、光は答えると確信していた。
「‥‥解り合えると信じてるからだ」
 ウィルカの刃が、光の肩口を大きく切り裂いた。
「本当に理解したいなら、ウィルカたちの所へ帰して」
「それは出来ない」
「このままじゃ死ぬのよ?」
「戻れば、また人間を殺すだろう? そうなれば、今度こそ倒さなきゃならない」
「戻っても処分されるのがオチじゃない」
「処分なんて絶対にさせない。だから、何があっても俺は、君を連れて帰る道を選ぶ」
「‥‥まさか、まだ私を信じてるとか言うじゃないでしょうね‥‥」
「当然だ。どんなことがあっても、俺は君を信じることをやめない」
「呆れた‥‥ウィルカ並の馬鹿ね‥‥」
 光は、果たして気付いただろうか。
 この一瞬、彼女は確かに、ウィルカと光を同列に考えたのだ。
「フィディエル!」
 ウィルカは気付いていた。
 だから焦った。
 焦りが生んだのは激情だ。
 秘められた力を発動させ、ウィルカは超高速の動きで光に斬りかかった。
 一直線に向かってくる褐色の肌の少年。
 本来ならば目視も叶わぬ速度。
 だが万全ではない体調故に、望んだ速度は出なかった。
 腕を切り落とすはずだったウィルカの刃は、半ばを斬り裂くのみで終わる。
 それでも、フィディエルを手放させる効果はあった。
 光は無事な右手でフィディエルを捕まえようとしたが、しなやかに振り上げられた足に顎を蹴り上げられた。
 刹那の脳震盪。
 その隙にフィディエルはウィルカの元へ駆け寄ろうとして、

「ハーモニウム‥‥!」

 ウラキの声と共に、銃声が重奏を鳴り響かせた。
 ウラキと衛司のSMGが、二人を合流させまいと、同時に火を吹いたのだ。
 ハーモニウムの間を、銃弾のカーテンが遮る。
「この──人間風情が!」
 顔を怒気に歪め、ウィルカは矛先を衛司たちに向けた。
 素早い踏み込みで間合いを詰め、衛司を切り裂かんと刃を振るう。
 驟雨を手に衛司は斬撃を弾き、受け流しながらも、その手数の多さに押され気味になる。
 それを傍観するウラキではない。
 目まぐるしく刃を打ち交し合う様を、鋭く見据える。
 そして一瞬の隙を見逃さず、援護射撃。
 十数合と渡り合い、完全に衛司に意識を集中していたウィルカは弾丸をまともに受けた。
 左肩から血が飛び散り、腕が力なく垂れ下がる。
「くそ‥‥! 傭兵共は何をしてるんだ‥‥!」
 奇襲に加え、数でも優っていたはずなのに、加勢に来る姿はない。
「彼らは、私の仲間が無力化していますよ」
 飛び退いて距離を取ったウィルカに、衛司は落ち着いた声で話す。
「使えない連中だ‥‥」
「‥‥強化人間であるあんた達が‥‥『洗脳』を使うとは、皮肉だな‥‥」
 ウラキが冷めた目で睨む。
「‥‥そう、思わないか?」
「そんなこと‥‥言われなくたって解ってるんだよッ!」
 痛い所を突かれた自覚があるのか、激昂したウィルカはウラキへと一直線に突進した。
 迎撃の銃弾を放つウラキ。
 ウィルカはぎりぎりの所で躱し、ウラキへ迫った。
 阻むように突き出された衛司の刀は、右腕の剣で弾く。
 そして剣を握るだけで垂れ下げられていた左腕を、鞭のようにしならせてウラキへと繰り出した。

 ──と、そのウィルカの背中に、強烈な銃弾が炸裂した。

 背を穿ち、腹へと抜けた弾丸は、地面を抉って尚、深くめり込んだ。
「な‥‥にが‥‥」
 ウィルカの背後には、やや離れた位置に、朽ちた家屋の壁があるのみ。
 射撃手はいない。
 否。
 撃ったのは、ウラキだ。
 彼の『跳弾』が、ウィルカを背後から貫いたのである。
「く‥‥そ‥‥がぁ‥‥!!」
 怒りがウィルカの理性のたがを外そうとしていた。
 重傷にも関わらず、超高速を発動させようとする。
「ウィルカ!」
 それを止めたのは、シアの声だった。
 ロジーナを振り切り、長大な槍を振り回して衛司たちを強引に退かせる。
 傭兵とウィルカの間に立ち塞がるシア。
「動けるか?」
「なんとか‥‥」
 ふらつく足で、ウィルカは立ち上がる。
「退こう。失敗だ」
「駄目だ。フィディエルを、取り戻すんだ‥‥」
 光に腕を掴まれている彼女に、悲壮な決意の漂う瞳を向ける。
「‥‥ウィルカ」
 呟き、フィディエルは、意を決した表情で、
「ヒカル」
 その名を呼び、

 振り向く彼の頬に、唇を触れさせた。

 目にした全員が驚愕した。
 ほんの一瞬だが、確かに生じたその隙に、フィディエルは光の腕を振り払い、走った。
「ウィルカ! 犬! 駄犬!」
 茫然自失のウィルカも、その声で我に返る。
「フィディ──
 しかし彼は、その名を最後まで呼ぶことができなかった。
 フィディエルの背後、闇の中から、突如現れた人影。
 瞬時に接近した律子は、フィディエルの喉元にナイフを突き付け、盾にし、銃をウィルカに向けた。
「──久しぶりね、ウィルカ君」
「卑怯な‥‥!」
 ウィルカはきつく歯噛みする。
「何とでも言いなさい。貴方達にこれ以上の業を重ねさせない為なら、何だってするわ」
「またその話?」
「貴女は少し黙ってて」
 うんざりした口調のフィディエルに、律子はぴしゃりと言い捨てる。
「貴方達をメンテしている場所を教えなさい。ノアちゃんやヘラちゃんを助けたければね」
「言えるはずがないだろ!」
「助けようとする者と、捨て駒にしようとする者。どちらが貴方達の事を想っているか解らない?」
「捨て駒‥‥? 違う!」
「よく考えなさい。答えは出てるんじゃないの?」
 律子の言葉が、ウィルカの胸に棘となって突き刺さった。
 これまでに感じていた疑問や不満が、ぐるぐると渦巻く。
 突き刺さった棘は、深く深く沈んだ。
「仲間を助けたければ変わりなさい。取り返しのつかなくなる前に」
 ウィルカは動けなくなっていた。
 膠着する状況。
 その間に、仲間たちが次々と集まる。
 レオは荷台に軍人を運びこむと、すぐに治療を始めた。
 彼自身も浅からぬ傷を負っているが、気にも留めていない。
 心配するロジーナに、
「僕は大丈夫」
 微笑む気丈さすらみせた。
 気絶させた傭兵たちを荷台に適当に放り込んだ悠季は、
「シア。ヘラと白玲は無事よ」
 穏やかな眼差しで少年を見つめ、告げた。
 シアはそれに答えず、静かな瞳で視線を返す。
「──ウィルカ。どうする」
 問うシアに、ウィルカは答えられない。
「これ以上は失うだけだよ、お互いに」
 諭すような、悠の声。
 少し前までの騒がしさが嘘のように、辺りは静まり返っていた。

 長い沈黙。

 その末に、
 ウィルカは、
 答えを出した。

「フィディエルは‥‥一旦、預ける‥‥」
 搾り出すような声だった。
「確かめてくる、全部。それから、決める」
 顔を上げ、ウィルカは光を睨みつけた。
 様々の感情の混在した視線。
「約束しろ、人間。フィディエルを絶対に傷つけないと」
「──あぁ、約束する。信じろ、俺達を」