タイトル:unleash Jellyfishマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/08 07:52

●オープニング本文


「海パンだけは勘弁してやるぜ! ほら、さっさと帰りな!」
 乱暴な口調の台詞と共に尻を蹴っ飛ばされ、海パン一丁の青年が一人、建物の外に転がり出てきた。
「痛てて‥‥ちくしょう‥‥またやっちゃったよ‥‥」
 リアルに『orz』な姿勢で、激しく落ち込む青年が一人。
 青年の名前は有村 海月(gz0361)。
 『みつき』と読むとちょっとオシャレだが、正しくは『くらげ』と読む。
 生みの親の品性を疑うところだ。ひねくれ者と言う他ないだろう。
 見た目が品の良さそうな美青年なだけに、勿体無いことこの上ない。

 それはさておき。

 彼が何故海パン一丁で外に放り出されたかと言うと──
 周囲を見れば一目瞭然だった。
 ここは賭博街。
 彼はついさっきまで、カジノで遊んでいたのだ。
 そこで負けに負けて素寒貧にされ、身ぐるみ剥がされてしまったのである。
 ちなみに何故海パンなのかは、聞かないであげて欲しい。

「あんちゃん、大丈夫かい? シャツの一枚くらいくれてやろうか?」
「あぁ、いえいえ、大丈夫ですよ。お気持ちだけ、ありがたく受け取っておきます」
 通りすがりのおじさんに心配され、照れ笑いを浮かべながら、海月は優しい微笑を返す。
「おぉ‥‥あんちゃんキレ−な顔してんじゃねぇか‥‥どうだおいちゃんと──
「失礼します!」
 脱兎の如くとは正にこのこと。
 逃げて!
 海月君、逃げてー!

「はぁ‥‥大体あいつらが悪いんだよ‥‥酔った勢いでノせるから‥‥」
 賭博街は遥か後方。
 ネオンの光を背に、グチグチと零しながらトボトボと真夜中の帰路につく海月。
 無論徒歩だ。
 自室のある兵舎まではあと3時間ほど歩くことになるだろうか。

 事の発端は数日前。
 飲み仲間との口約束だった。
『おめぇチキンじゃねぇかよ。カジノ行ってもちびちび賭けんだろ?』
『なんだと!? じゃあ今月と来月の生活費賭けて勝負してきてやるぁ!』
 振り返っただけで頭痛が蘇る。
「馬鹿だ俺は‥‥」
 彼はテンションが上がると、その場の勢いで暴走することが非常に多い。
 酒の席で口車に乗せられた過去は数えきれないほどだ。
 失敗から学べない彼は、ちょっと残念な子なのかもしれない。

「貯金に手をつけるわけにはいかないし‥‥どうにかしないと‥‥」
 どうにかと言ったって、本業は傭兵なのだ。
 やることは決まっている。
 依頼だ。仕事だ。キメラ退治だ!
「よし! 明日早速本部に行くか!」
 ぐっと拳を握り、気合を入れる海月。
 とそこに、
「あー、そこの君、ちょっといい?」
「はい?」
「こんな時間にそんな格好で何してるの? 身分証明証ある?」
「え、いや、俺は、その」
「ちょっと派出所まで行こうか? 車乗って」
「いや、ちょ、待って──」
 合掌。

  ──翌日 UPC本部──

 依頼受け付けフロアには、仕事を求める傭兵たちが今日もわんさかと訪れていた。
 人が多ければ、割の良い仕事はすぐに埋まってしまう。
 遅れるわけにはいかないと、海月も早速ディスプレイの前に足を運んだ。
 昨日の夜のことには触れないであげてください。

「簡単そうで実入りの良い依頼が空いてるといいんだけどなぁ」
 そんな仕事が都合よくあるわけないのだが──
「お? これ、良さそう‥‥?」
 今表示されたばかりの依頼に、目を凝らす海月。
 ざっと見た感じでは、簡単そうな割には報酬が高めだった。
「タイミング良かったなー。見つけるのが遅れてたらすぐ埋まっちゃっただろうな。受けとこっと」
 手早く手続きを済ませ、無事に依頼への参加を取り付けた海月。

 だがやはり、世の中は甘くはない。
 美味しい話には裏がある。
 それが人の世の理なのだ。

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
南桐 由(gb8174
19歳・♀・FC
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
熾火(gc4748
24歳・♀・DF

●リプレイ本文

■高速移動艇乗り場
「はじめまして、よろしくお願いします!」
 集まったメンバーに、和泉譜琶(gc1967)は元気よくお辞儀をした。
 有村 海月の姿がまだなかったが、一同は自己紹介を済ませることに。
 名乗りが順番に回り、
「私の名は熾火(gc4748)、よろしく頼む」
「緋本 かざね(gc4670)です。よろしくお願いします」
 豊潤な色気の熾火と、清純な魅力のかざね。
 対照的な二人が挨拶を終えた所で、足音が近づいてきた。
「──すみません!」
 息を切らせて頭を下げる黒髪の青年、海月。
 そんな彼に、
「おお。お前さんがちょっぴり噂の海パン傭兵さんかぃ?」
「おや、賭博街のパンツマンは、依頼では海パン姿じゃないので?」
 そう呼びかけたのは、ゼンラー(gb8572)と翠の肥満(ga2348)。
「なんでそれを!?」
「やー、僕もあの夜、カジノで酷い目に遭いましてねえ‥‥まぁ、あーた程じゃありませんでしたがね」
 翠の肥満は意地悪く笑いながら説明した。
「そんな‥‥」
「まぁまぁ、こうして出会ったのも何か(全裸の神様)の縁だねぃ! 宜しく頼むよぅ!」
 海月を励ますように、ゼンラーは彼の手を力強く握る。
 伝わってくる熱情に、海月はあっさりと感化されて顔を輝かせた。
「そうですね、こちらこそよろしくです!」
 手を取り合って見つめ合う二人。
 いや、他意はないが。
 その様子を、他意ある視線で見つめる南桐 由(gb8174)。
 彼女は静かな足取りで海月に近寄り、声を掛けた。
「はじめまして‥‥フェンサーの由‥‥よろしくね」
 そしてぼそりと、いい男(BL素材的に)と呟く。
「あ、はじめまして。って、何か言いました?」
「なにも‥‥」
 小さくを首を振って否定。
 背筋に寒いものを感じながらも、海月は追求は止めておいた。
 そこへ今度は、ラウル・カミーユ(ga7242)が声をかける。
「くらぴょん、海パン一丁の噂はホントだったんだネ!」
「くらぴょん?」
「今回はどぞよろしくー。頑張ってがっぽり稼ごうネ」
「は、はい」
「僕、結婚資金貯めてる最中なんだヨ。あ、彼女の話聞きたい? あのね、年上だけど可愛くてネ、照れ屋サンでー」
 捲くし立てるラウルに気圧される海月。
 瞳をキラキラさせながら延々と続く話を遮ることもできず、海月は聞き役に徹するしかなかった。
 一同はイマイチ情けないその姿に不安を覚えつつ、
「来たよ。乗ろうか」
 促す蒼河 拓人(gb2873)の後に続き、高速移動艇へと乗り込んでいった。
 ちなみに拓人の格好はどう見てもコックさんなのだが、誰も指摘しなかった。
 流石能力者である。

■森の妖精?
 森はなんだか、少し不気味に見えた。
 海月は人一倍不安らしく、微妙に腰が引けている。
 気づいた熾火が、
「よもや敵前逃亡などと女々しい事をするわけがないな?」
 と釘を刺す。
「も、もちろんですよ!」
「ならば期待しているぞ」
「任せて下さい!」
 簡単に乗せられて、自分を追い込む青年であった。

「さあて、小人ちゃん‥‥しーっかり稼がせて貰っちゃうよ」
 森を目の前に、翠の肥満は愛用の戦闘用エアマスクを装着しながら不敵に呟く。
「小人さんキメラ、童話みたいな感じでしょうか〜」
「どうだろうねぃ。森に隠れる知恵もあるし、賢いキメラかもねぃ」
 譜琶の言葉に、ゼンラーが応えた。
 森の中は死角だらけだ。
 相手が小柄なことも留意する必要があるだろう。
 
「さぁ、行こうか」
 先頭で森の中へ入る拓人。
 続く熾火が、拓人の得物を見て興味深そうだった。
「ふ‥‥随分と珍しい得物だ。私も使ってみたいな」
「だろう? こいつで、キメラをパパッと料理してあげるよ」
 コック姿の彼が言うと、本当に『料理』として出されそうで怖い。

 枝葉が日光を遮るせいで、森の中は薄暗い。
「うーん‥‥何か隠れるとこイッパイだねー。奇襲に注意しないと」
 油断なく周囲を警戒するラウル。
 A班とB班、そしてゼンラー単独のC班が、互いの死角を消しながら森の奥へと足を進める。
 やがて草木の繁りが濃くなってきた辺りで、ゼンラーが周囲の変化にいち早く気づいた。
 仲間に無言で目配せをしてソニックヴォイス・ブラスターを構えると、不自然に葉擦れのする一角に向けて、
「喝ーーーーッ!」
 と特大の音波攻撃兼大喝を叩きつけた。
 強烈な音波を浴びせられ、緑色の三角帽子とローブ姿の小人が耳を押さえながら転がり出てきた。
 続けて、慌てた動作で、樹上や木陰からわらわらと仲間が現れる。
 総勢六匹。
 全員が同じ背格好に同じ髭面のおっさんだった。
「‥‥可愛くないっ!」
 メルヘンな想像をしていただけに、ショックを受ける譜琶。
「なんだか‥‥揃いも揃ってすっごく痛いキメラですね‥‥」
 かざねの表情にも、嫌悪感が浮き出ている。
「何とゆーか、メタボなおじサン? 某テーマパークにいそうな──」
 おっとラウル君、そこまでだ。

『HIHOー!!』

 突然、キメラが声を揃えて叫んだ。
 怒っているらしい。
 しかしその声も、かざねにはツボだったようで、
「ひ‥‥ひほっ‥‥」
 と笑いを噛み殺していた。
 とは言え、敵は敵。
 緊張感を削がれはしたが、傭兵たちは改めて気を引き締めた。

「聞けぇぃ‥‥ッ!! 拙僧の名はゼンラー、通称大僧正!! ‥‥すまんが、ここまでだよぅ!」
 SVBを使った攻撃が、再びキメラを襲う。
 見えている敵は六匹。
 だが情報では七匹。
 残りの一匹をあぶり出す為に、彼は敢えて目立つ行動を選んだ。
 六匹の注意を引けたが、隠れているはずのもう一匹は出てこない。
「慎重だねぃ」
 唸るゼンラーだが、実は違った。
 隠れているキメラは臆病で、彼に怖気付いて出られなくなっただけなのだ。

 戦端が開かれると同時に、傭兵たちは打ち合わせていた通りに動いた。
 遮蔽物が多い場所では、身を隠しやすいキメラが優位だ。
 そこで傭兵たちは、巧みにキメラを誘導した。
 開けた場所で戦う為だ。
 ラウルが事前に情報を集めていたお陰で、場所の見当はついている。
 狙いを気取られないように注意しつつおびき出し、木々の間を抜けると、日光が降り注ぐ広場に出た。
「HIHOっ?」
 気づいたキメラはすぐに引き返そうとしたが、翠の肥満のガトリングシールドが火を噴いて阻止する。
 その間にA班の四人──ラウル、譜琶、由、かざねが退路を塞ぐ形で包囲し、キメラを広場へと押し出した。

 さあ、ここからが本番だ。

「ほぅれ! 全裸の神様のとっておきのご加護だよぅ!!」
 悪魔のような形相で、嫌なセリフと共に発動する、ゼンラーの『援助の手』。
 対象のかざねと熾火の攻撃力が上昇したが、二人の表情は複雑だ。
 けれどゼンラーはとっても楽しそうだった。
「私が斬りこみます! 援護は任せました!」
 気を取り直したかざねが、蛍火を手に大きく踏み込んだ。
 金糸の髪が柔らかに舞い、全身を包む淡い光が残像を残す。
 譜琶がサポートに回る。
 銃撃により行動を阻まれたキメラCは、かざねの斬撃を避け損なった。
 確かな手応え。
 追い打ちを掛けようとするかざねに、しかし、横合いから邪魔が入った。
 別のキメラが突進してきたのだ。
 そちらを警戒した隙に、キメラCが後退してしまう。
 下がったキメラCはローブの内側から注射器を取り出すと、自らの腕に突き刺した。
 すると、かざねによって付けられた傷が見る間に癒えていく。
 と同時に、ただでさえロクでもない顔が、より危険さを増した表情になった。
 焦点が定まらず、口元をだらしなく歪めて笑っている。
 正直、正視に耐えかねる。
 表情の変化は別として、回復効果は捨ておけない。
 それと譜琶は、キメラAが他のキメラに指示を出すところも見ていた。
 恐らくはそいつがリーダー。
 キメラは決して強くはなかったが、密な連携が厄介だった。
 見た目が同じなので、標的を定めることができないからだ。
 だがこれで的が絞れる。
 譜琶は銃にペイント弾を込めると、AとCに向けて立て続けに引き金を引いた。
 着弾と同時に、パステルカラーの塗料がキメラを染める。
「せめて色だけでも可愛くならないですかねー‥‥まぁ結局はオジサンなんですけれど‥‥」
 譜琶の願いは叶わなかった。
 元々が薄汚れた緑色であるため、淡い塗料を上塗りしてもどぎつくなるだけだった。
 目立たせるという役割には充分だったが。

「ほらほら、走れ走れ、パンツマンさん」
 キレのない動きをする海月に、翠の肥満が発破をかける。
 射撃で援護をし、前に出やすい状況を作ってやる。
 支援に背中を押された海月は、刀を手にキメラDへと斬りかかった。
 悪くない太刀筋だが躱されて、逆にキメラからの反撃を浴びてしまった。
 キメラは大きく口を開け、不穏な紫色の気体を吐き出した。
 その霧を、海月は避け切れずに微量に吸い込む。
 途端、ぐらりと身体が揺れた。
 強烈な眠気が彼の意識を明滅させる。
 キメラから吐き出された霧は、薄まりながらも周囲へ広がった。
「紫の霧、吸い込まないようにね!」
 気づいていない仲間へ注意を飛ばすと、彼自身は一気に力を爆発させた。
 『限界突破』を使用し、『瞬天速』でキメラDとの間を一瞬で詰める。
 驚くキメラが霧を吐こうと開けた口に、彼は銃口を突っ込んだ。
「普通は外見で攻撃を躊躇しそうだけんど、お高い報酬に釣られた僕にゃ通用しないもんね」
 フヒヒと笑い、彼は実に容易く、引き金を引いた。

 ラウルのダークグレーの視線が、仲間に指示を出すキメラAを射抜く。
「厄介なのは、先に潰しちゃわないとネ!」
 陽気に言い放ちながら、『即射』を発動。
 射線上に誰もいなくなった瞬間を狙い、息つく間もなく矢を連射した。
 正確な狙いと驚異的な連射は、キメラAをめった刺しにする。
「HIHOー!」
 と悲鳴を上げて逃げ惑うキメラだが、ラウルも負けじと、
「ハイホー!」
 と声を上げ、「はい、くらげっちも一緒に!」と誘う余裕っぷりを見せながら、トドメの一撃を放った。
 一直線に空中を駆けた矢は、キメラの喉を貫く。
 ウニのように全身から矢を生やしたキメラAは、最期に口を「HIHO」の形に動かして、ゆっくりと地面に伏した。
 しかしキメラを倒した当人は、
「いい調子じゃんくらっぺ! そのまま突撃だっ!」
 済んだことなど眼中になく、ひーひー言いながら敵と戦う海月を応援しているのだった。

 リーダーが倒された途端、キメラの連携は瓦解した。
 余裕ぶっていた態度と陽気さが消え、凶暴性を剥き出しにしてきた。
 特にキメラBの豹変が顕著で、一対一で相手していた拓人は、突然の猛攻に僅かだが押された。
 鋭く不潔なキメラの爪が、拓人のコックコートを浅く切り裂く。
 大事な戦闘服を傷つけられ、拓人は不快そうにキメラを睨む。
「ちょっとお痛が過ぎたな。そろそろ眠ってもらうぞ」
 告げるが早いか、拓人は怒涛の攻勢に出た。
 アルティメット調理器具各種を余すことなく駆使し、次々と打撃をお見舞いする。
 そして最後に持ち替えた包丁を腰溜めから繰り出し、
「これが、コックの真の実力だ!」
 抉り込むようにして、キメラの土手っ腹へと突き刺した。

 一方、酔拳のような足取りのキメラGを相手する由は、
「‥‥ふらふらして‥‥なんだかムカつく」
 繰り出す攻撃をするりぬるりと躱され続け、苛立っていた。
 やがて当たらない攻撃に痺れを切らした由は、
「‥‥もう怒った‥‥」
 そう呟くと、一旦距離を取り、盾を朱鳳に持ち替えた。
 そして──『迅雷』
 全身が仄かに光り、一瞬後にはキメラの眼前へ。
 振り下ろした朱鳳の斬撃がキメラを捉える。
 しかしそれに喜ぶことなく、由は即座に『刹那』を使うと、ランスでキメラの胴体を串刺しにし、地面に縫いつけた。
 続けて『抜刀・瞬』を使って朱鳳を拳銃『黒猫』に持ち替え、滅多撃ち。
 正に目にも留まらぬ一瞬の出来事だった。
「‥‥由を‥‥怒らせると‥‥怖いんだから」
 キメラもあの世で思い知ったことだろう。

 仲間の援護を受けつつも、海月はキメラCを倒せずにいた。
 攻撃を当てても注射器で回復されるのと、ドーピングで更に強くなっているのが原因だ。
 見るに見兼ねた熾火が、『流し斬り』を用いて直接のサポートに入る。
「貴方に心からの感謝を」
「いいから、目の前の敵に集中しろ」
 変な礼をする海月に、熾火は厳しい声で叱りつける。
 なんて頼りない。
 そう思いながらサポートを続けていると、ふと視線を感じた。
 その方向に素早く視線を向けると、草むらが不自然に動いた。
 駆けつけたかざねと交代し、彼女は迂回して草むらへ。
 茂みの中に、こそこそと忍んでいるキメラを見つけた。
「何だ、かくれんぼか?」
 音もなく真後ろまで接近し、声をかける。
 驚き振り返るキメラEの足に、熾火は躊躇なく月下美人の刃を突き立てた。
 ヒホヒホと悲鳴を上げるだけで反撃もしてこないキメラを、熾火は退屈そうに見下す。
「つまらん。もっと楽しませて貰いたいものだな」
 嘆息混じりの言葉と共に、刃を突き出した。
 額を貫かれたキメラEは、結局何もすることなく命を散らした。

 そして、ただえさえ臆病だったキメラEを完全に腑抜けにした張本人であるゼンラーはと言えば、
「ふぅぬわぁァァ!!! そんな魂の籠っていない衝撃波などぉ‥‥!」
 音波衝撃波を繰り出す敵と、真っ向から張り合っていた。
「拙僧の‥‥! 経を‥‥! 聞けェェェェッ! 南無妙全裸──」
 SVBを介し、『電波増幅』で強化されたゼンラーのお経が、周囲の草木を震わせるほどに空気を轟かせた。
 渡り合おうとしたキメラFはしかし、まるで規模の違う音の波に、あっさりと飲み込まれてしまった。
 声量もさることながら、込められた『魂』の熱さの桁が違うのだ。
 やがて耐え切れなくなり、キメラFは耳を押さえて絶叫したまま、崩れ落ちた。

「さっさと、くたばれーーーっ!」
 気合一閃。
 かざねの渾身の斬撃が、キメラCを深く切り裂いた。
 しぶとく立ち回っていた最後のキメラも、それで遂に力尽きた。
「ふぅ‥‥なんとか終わりましたね」
 動かなくなったキメラを見て、かざねは覚醒を解いて一息つく。
 と同時に、海月は刀を放り出して地面に大の字に寝転がった。
「疲れたー‥‥!」
 散々援護を受けてもらいながら、なんとも情けない姿である。
「おーわりっ、アハハ‥‥くらげさん、お疲れ様でした〜」
 額の汗を拭いながら、譜琶が爽やかに笑う。
 疲れも吹き飛ぶキュートな笑顔だ。
 だというのに、そこでゼンラーがとんでもない行動に出た。
 黙祷。
 いや、それは良い。
 キメラと言えど命。
 その考えは自由だ。
 だが、
 何故脱ぐ。
「‥‥熱く、力が足りないねぃ」
 命を奪うしかない己の不甲斐なさを恥じるような言葉に、しかし、
「貴様には恥じらいが足りん」
 背後から熾火の蹴りが入るのだった。