●リプレイ本文
■高速移動艇乗り場
「はじめまして、よろしくお願いします!」
集まったメンバーに、和泉譜琶(
gc1967)は元気よくお辞儀をした。
有村 海月の姿がまだなかったが、一同は自己紹介を済ませることに。
名乗りが順番に回り、
「私の名は熾火(
gc4748)、よろしく頼む」
「緋本 かざね(
gc4670)です。よろしくお願いします」
豊潤な色気の熾火と、清純な魅力のかざね。
対照的な二人が挨拶を終えた所で、足音が近づいてきた。
「──すみません!」
息を切らせて頭を下げる黒髪の青年、海月。
そんな彼に、
「おお。お前さんがちょっぴり噂の海パン傭兵さんかぃ?」
「おや、賭博街のパンツマンは、依頼では海パン姿じゃないので?」
そう呼びかけたのは、ゼンラー(
gb8572)と翠の肥満(
ga2348)。
「なんでそれを!?」
「やー、僕もあの夜、カジノで酷い目に遭いましてねえ‥‥まぁ、あーた程じゃありませんでしたがね」
翠の肥満は意地悪く笑いながら説明した。
「そんな‥‥」
「まぁまぁ、こうして出会ったのも何か(全裸の神様)の縁だねぃ! 宜しく頼むよぅ!」
海月を励ますように、ゼンラーは彼の手を力強く握る。
伝わってくる熱情に、海月はあっさりと感化されて顔を輝かせた。
「そうですね、こちらこそよろしくです!」
手を取り合って見つめ合う二人。
いや、他意はないが。
その様子を、他意ある視線で見つめる南桐 由(
gb8174)。
彼女は静かな足取りで海月に近寄り、声を掛けた。
「はじめまして‥‥フェンサーの由‥‥よろしくね」
そしてぼそりと、いい男(BL素材的に)と呟く。
「あ、はじめまして。って、何か言いました?」
「なにも‥‥」
小さくを首を振って否定。
背筋に寒いものを感じながらも、海月は追求は止めておいた。
そこへ今度は、ラウル・カミーユ(
ga7242)が声をかける。
「くらぴょん、海パン一丁の噂はホントだったんだネ!」
「くらぴょん?」
「今回はどぞよろしくー。頑張ってがっぽり稼ごうネ」
「は、はい」
「僕、結婚資金貯めてる最中なんだヨ。あ、彼女の話聞きたい? あのね、年上だけど可愛くてネ、照れ屋サンでー」
捲くし立てるラウルに気圧される海月。
瞳をキラキラさせながら延々と続く話を遮ることもできず、海月は聞き役に徹するしかなかった。
一同はイマイチ情けないその姿に不安を覚えつつ、
「来たよ。乗ろうか」
促す蒼河 拓人(
gb2873)の後に続き、高速移動艇へと乗り込んでいった。
ちなみに拓人の格好はどう見てもコックさんなのだが、誰も指摘しなかった。
流石能力者である。
■森の妖精?
森はなんだか、少し不気味に見えた。
海月は人一倍不安らしく、微妙に腰が引けている。
気づいた熾火が、
「よもや敵前逃亡などと女々しい事をするわけがないな?」
と釘を刺す。
「も、もちろんですよ!」
「ならば期待しているぞ」
「任せて下さい!」
簡単に乗せられて、自分を追い込む青年であった。
「さあて、小人ちゃん‥‥しーっかり稼がせて貰っちゃうよ」
森を目の前に、翠の肥満は愛用の戦闘用エアマスクを装着しながら不敵に呟く。
「小人さんキメラ、童話みたいな感じでしょうか〜」
「どうだろうねぃ。森に隠れる知恵もあるし、賢いキメラかもねぃ」
譜琶の言葉に、ゼンラーが応えた。
森の中は死角だらけだ。
相手が小柄なことも留意する必要があるだろう。
「さぁ、行こうか」
先頭で森の中へ入る拓人。
続く熾火が、拓人の得物を見て興味深そうだった。
「ふ‥‥随分と珍しい得物だ。私も使ってみたいな」
「だろう? こいつで、キメラをパパッと料理してあげるよ」
コック姿の彼が言うと、本当に『料理』として出されそうで怖い。
枝葉が日光を遮るせいで、森の中は薄暗い。
「うーん‥‥何か隠れるとこイッパイだねー。奇襲に注意しないと」
油断なく周囲を警戒するラウル。
A班とB班、そしてゼンラー単独のC班が、互いの死角を消しながら森の奥へと足を進める。
やがて草木の繁りが濃くなってきた辺りで、ゼンラーが周囲の変化にいち早く気づいた。
仲間に無言で目配せをしてソニックヴォイス・ブラスターを構えると、不自然に葉擦れのする一角に向けて、
「喝ーーーーッ!」
と特大の音波攻撃兼大喝を叩きつけた。
強烈な音波を浴びせられ、緑色の三角帽子とローブ姿の小人が耳を押さえながら転がり出てきた。
続けて、慌てた動作で、樹上や木陰からわらわらと仲間が現れる。
総勢六匹。
全員が同じ背格好に同じ髭面のおっさんだった。
「‥‥可愛くないっ!」
メルヘンな想像をしていただけに、ショックを受ける譜琶。
「なんだか‥‥揃いも揃ってすっごく痛いキメラですね‥‥」
かざねの表情にも、嫌悪感が浮き出ている。
「何とゆーか、メタボなおじサン? 某テーマパークにいそうな──」
おっとラウル君、そこまでだ。
『HIHOー!!』
突然、キメラが声を揃えて叫んだ。
怒っているらしい。
しかしその声も、かざねにはツボだったようで、
「ひ‥‥ひほっ‥‥」
と笑いを噛み殺していた。
とは言え、敵は敵。
緊張感を削がれはしたが、傭兵たちは改めて気を引き締めた。
「聞けぇぃ‥‥ッ!! 拙僧の名はゼンラー、通称大僧正!! ‥‥すまんが、ここまでだよぅ!」
SVBを使った攻撃が、再びキメラを襲う。
見えている敵は六匹。
だが情報では七匹。
残りの一匹をあぶり出す為に、彼は敢えて目立つ行動を選んだ。
六匹の注意を引けたが、隠れているはずのもう一匹は出てこない。
「慎重だねぃ」
唸るゼンラーだが、実は違った。
隠れているキメラは臆病で、彼に怖気付いて出られなくなっただけなのだ。
戦端が開かれると同時に、傭兵たちは打ち合わせていた通りに動いた。
遮蔽物が多い場所では、身を隠しやすいキメラが優位だ。
そこで傭兵たちは、巧みにキメラを誘導した。
開けた場所で戦う為だ。
ラウルが事前に情報を集めていたお陰で、場所の見当はついている。
狙いを気取られないように注意しつつおびき出し、木々の間を抜けると、日光が降り注ぐ広場に出た。
「HIHOっ?」
気づいたキメラはすぐに引き返そうとしたが、翠の肥満のガトリングシールドが火を噴いて阻止する。
その間にA班の四人──ラウル、譜琶、由、かざねが退路を塞ぐ形で包囲し、キメラを広場へと押し出した。
さあ、ここからが本番だ。
「ほぅれ! 全裸の神様のとっておきのご加護だよぅ!!」
悪魔のような形相で、嫌なセリフと共に発動する、ゼンラーの『援助の手』。
対象のかざねと熾火の攻撃力が上昇したが、二人の表情は複雑だ。
けれどゼンラーはとっても楽しそうだった。
「私が斬りこみます! 援護は任せました!」
気を取り直したかざねが、蛍火を手に大きく踏み込んだ。
金糸の髪が柔らかに舞い、全身を包む淡い光が残像を残す。
譜琶がサポートに回る。
銃撃により行動を阻まれたキメラCは、かざねの斬撃を避け損なった。
確かな手応え。
追い打ちを掛けようとするかざねに、しかし、横合いから邪魔が入った。
別のキメラが突進してきたのだ。
そちらを警戒した隙に、キメラCが後退してしまう。
下がったキメラCはローブの内側から注射器を取り出すと、自らの腕に突き刺した。
すると、かざねによって付けられた傷が見る間に癒えていく。
と同時に、ただでさえロクでもない顔が、より危険さを増した表情になった。
焦点が定まらず、口元をだらしなく歪めて笑っている。
正直、正視に耐えかねる。
表情の変化は別として、回復効果は捨ておけない。
それと譜琶は、キメラAが他のキメラに指示を出すところも見ていた。
恐らくはそいつがリーダー。
キメラは決して強くはなかったが、密な連携が厄介だった。
見た目が同じなので、標的を定めることができないからだ。
だがこれで的が絞れる。
譜琶は銃にペイント弾を込めると、AとCに向けて立て続けに引き金を引いた。
着弾と同時に、パステルカラーの塗料がキメラを染める。
「せめて色だけでも可愛くならないですかねー‥‥まぁ結局はオジサンなんですけれど‥‥」
譜琶の願いは叶わなかった。
元々が薄汚れた緑色であるため、淡い塗料を上塗りしてもどぎつくなるだけだった。
目立たせるという役割には充分だったが。
「ほらほら、走れ走れ、パンツマンさん」
キレのない動きをする海月に、翠の肥満が発破をかける。
射撃で援護をし、前に出やすい状況を作ってやる。
支援に背中を押された海月は、刀を手にキメラDへと斬りかかった。
悪くない太刀筋だが躱されて、逆にキメラからの反撃を浴びてしまった。
キメラは大きく口を開け、不穏な紫色の気体を吐き出した。
その霧を、海月は避け切れずに微量に吸い込む。
途端、ぐらりと身体が揺れた。
強烈な眠気が彼の意識を明滅させる。
キメラから吐き出された霧は、薄まりながらも周囲へ広がった。
「紫の霧、吸い込まないようにね!」
気づいていない仲間へ注意を飛ばすと、彼自身は一気に力を爆発させた。
『限界突破』を使用し、『瞬天速』でキメラDとの間を一瞬で詰める。
驚くキメラが霧を吐こうと開けた口に、彼は銃口を突っ込んだ。
「普通は外見で攻撃を躊躇しそうだけんど、お高い報酬に釣られた僕にゃ通用しないもんね」
フヒヒと笑い、彼は実に容易く、引き金を引いた。
ラウルのダークグレーの視線が、仲間に指示を出すキメラAを射抜く。
「厄介なのは、先に潰しちゃわないとネ!」
陽気に言い放ちながら、『即射』を発動。
射線上に誰もいなくなった瞬間を狙い、息つく間もなく矢を連射した。
正確な狙いと驚異的な連射は、キメラAをめった刺しにする。
「HIHOー!」
と悲鳴を上げて逃げ惑うキメラだが、ラウルも負けじと、
「ハイホー!」
と声を上げ、「はい、くらげっちも一緒に!」と誘う余裕っぷりを見せながら、トドメの一撃を放った。
一直線に空中を駆けた矢は、キメラの喉を貫く。
ウニのように全身から矢を生やしたキメラAは、最期に口を「HIHO」の形に動かして、ゆっくりと地面に伏した。
しかしキメラを倒した当人は、
「いい調子じゃんくらっぺ! そのまま突撃だっ!」
済んだことなど眼中になく、ひーひー言いながら敵と戦う海月を応援しているのだった。
リーダーが倒された途端、キメラの連携は瓦解した。
余裕ぶっていた態度と陽気さが消え、凶暴性を剥き出しにしてきた。
特にキメラBの豹変が顕著で、一対一で相手していた拓人は、突然の猛攻に僅かだが押された。
鋭く不潔なキメラの爪が、拓人のコックコートを浅く切り裂く。
大事な戦闘服を傷つけられ、拓人は不快そうにキメラを睨む。
「ちょっとお痛が過ぎたな。そろそろ眠ってもらうぞ」
告げるが早いか、拓人は怒涛の攻勢に出た。
アルティメット調理器具各種を余すことなく駆使し、次々と打撃をお見舞いする。
そして最後に持ち替えた包丁を腰溜めから繰り出し、
「これが、コックの真の実力だ!」
抉り込むようにして、キメラの土手っ腹へと突き刺した。
一方、酔拳のような足取りのキメラGを相手する由は、
「‥‥ふらふらして‥‥なんだかムカつく」
繰り出す攻撃をするりぬるりと躱され続け、苛立っていた。
やがて当たらない攻撃に痺れを切らした由は、
「‥‥もう怒った‥‥」
そう呟くと、一旦距離を取り、盾を朱鳳に持ち替えた。
そして──『迅雷』
全身が仄かに光り、一瞬後にはキメラの眼前へ。
振り下ろした朱鳳の斬撃がキメラを捉える。
しかしそれに喜ぶことなく、由は即座に『刹那』を使うと、ランスでキメラの胴体を串刺しにし、地面に縫いつけた。
続けて『抜刀・瞬』を使って朱鳳を拳銃『黒猫』に持ち替え、滅多撃ち。
正に目にも留まらぬ一瞬の出来事だった。
「‥‥由を‥‥怒らせると‥‥怖いんだから」
キメラもあの世で思い知ったことだろう。
仲間の援護を受けつつも、海月はキメラCを倒せずにいた。
攻撃を当てても注射器で回復されるのと、ドーピングで更に強くなっているのが原因だ。
見るに見兼ねた熾火が、『流し斬り』を用いて直接のサポートに入る。
「貴方に心からの感謝を」
「いいから、目の前の敵に集中しろ」
変な礼をする海月に、熾火は厳しい声で叱りつける。
なんて頼りない。
そう思いながらサポートを続けていると、ふと視線を感じた。
その方向に素早く視線を向けると、草むらが不自然に動いた。
駆けつけたかざねと交代し、彼女は迂回して草むらへ。
茂みの中に、こそこそと忍んでいるキメラを見つけた。
「何だ、かくれんぼか?」
音もなく真後ろまで接近し、声をかける。
驚き振り返るキメラEの足に、熾火は躊躇なく月下美人の刃を突き立てた。
ヒホヒホと悲鳴を上げるだけで反撃もしてこないキメラを、熾火は退屈そうに見下す。
「つまらん。もっと楽しませて貰いたいものだな」
嘆息混じりの言葉と共に、刃を突き出した。
額を貫かれたキメラEは、結局何もすることなく命を散らした。
そして、ただえさえ臆病だったキメラEを完全に腑抜けにした張本人であるゼンラーはと言えば、
「ふぅぬわぁァァ!!! そんな魂の籠っていない衝撃波などぉ‥‥!」
音波衝撃波を繰り出す敵と、真っ向から張り合っていた。
「拙僧の‥‥! 経を‥‥! 聞けェェェェッ! 南無妙全裸──」
SVBを介し、『電波増幅』で強化されたゼンラーのお経が、周囲の草木を震わせるほどに空気を轟かせた。
渡り合おうとしたキメラFはしかし、まるで規模の違う音の波に、あっさりと飲み込まれてしまった。
声量もさることながら、込められた『魂』の熱さの桁が違うのだ。
やがて耐え切れなくなり、キメラFは耳を押さえて絶叫したまま、崩れ落ちた。
「さっさと、くたばれーーーっ!」
気合一閃。
かざねの渾身の斬撃が、キメラCを深く切り裂いた。
しぶとく立ち回っていた最後のキメラも、それで遂に力尽きた。
「ふぅ‥‥なんとか終わりましたね」
動かなくなったキメラを見て、かざねは覚醒を解いて一息つく。
と同時に、海月は刀を放り出して地面に大の字に寝転がった。
「疲れたー‥‥!」
散々援護を受けてもらいながら、なんとも情けない姿である。
「おーわりっ、アハハ‥‥くらげさん、お疲れ様でした〜」
額の汗を拭いながら、譜琶が爽やかに笑う。
疲れも吹き飛ぶキュートな笑顔だ。
だというのに、そこでゼンラーがとんでもない行動に出た。
黙祷。
いや、それは良い。
キメラと言えど命。
その考えは自由だ。
だが、
何故脱ぐ。
「‥‥熱く、力が足りないねぃ」
命を奪うしかない己の不甲斐なさを恥じるような言葉に、しかし、
「貴様には恥じらいが足りん」
背後から熾火の蹴りが入るのだった。