タイトル:Daisy Rosyマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/05 18:12

●オープニング本文


 久しぶりに独りになった自室で、野宮 音子(gz0303)はただただぼーっとしていた。
 楽しくも目まぐるしい夏が過ぎ去って、季節は秋。
 憂愁などを感じ易い時期に入ると同時に、慌ただしかった日常が終りを告げて、なんだか気が抜けてしまったようだ。
 もっとも、元気がない理由はそれだけではないのだが。
「はぁー‥‥寂しいよぉー‥‥」
 今日になって何度目の溜息とぼやきだろうか。
 まだお昼も過ぎたばかりだと言うのに、両手両足の指を使っても数え切れないくらい吐いている。
 肝試しやお泊り会で共に過ごした時間が、甘い痛みとなって彼女の心をチクチクと刺していた。
 そんな精神状態では当然家事をする気も起きず、かと言って依頼を見に行く気にもなれず、ソファに寝転がって部屋の中を訳も無く眺めていたわけだ。
 そしてなんとなく、カンパネラに来てからの日々を振り返る。

 戦場での命の遣り取りに疲れ、逃げ込むように訪れた場所だった。
 活気に充ち溢れた空気に、最初は戸惑いもしたものだ。
 戦時中であることを忘れそうなくらいに、ここは明るくて賑やかだった。
 様々な人々との出会いを経て、再び戦場に立てるようになった。
 誰かに支えなければ前に歩けない自分の弱さと、誰かと共にならば強くなれる自分を知った。
 大切な人も沢山できた。
 驚くほどに魅力的な人たちばかりで、自分の中の新しい一面も発見してしまった。
 そしてそれが今、彼女にひとつの葛藤を生んでいることも。

「どうしよっかなぁ‥‥」
 呟きは、誰に届くこともなく空気に溶けて消える。
 様々な感情と思考が頭の中で渦巻き、混濁し、沈殿していく。
 答えはシンプルだ。
 それは確かに自分の中に出ている。
 しかし、そこに手を伸ばして掴み取って良いのかどうかの決断が、彼女には出来なかった。
 モラル、エゴ、ルール。
 欲求と遠慮。願望と自制。保身と自重。
「だめだ‥‥頭こんがらがってきた‥‥」
 散々迷った挙句、ガラステーブル上の携帯電話に手を伸ばす。
 こういう時は、親友に頼るに限る。
 カコカコとメールを打ち、送信。
 待つ。
 ──着信。
「はやっ」
 まだ一分も経っていなかった。
「えーっと‥‥『行動してから考えろ』って‥‥あのね‥‥」
 それが出来てたら苦労しないわけだが、と考えて、いやでも、と思い直す。
 確かにここでうだうだと悩んでいても何も進展しない。
 状況は良くも悪くもならない。
 いやむしろ、貴重な時間が過ぎていく分だけ、悪くなる一方とも言える。
 ならばこそ、親友のくれた一言は正しく金言である。
「よし!」
 弾みをつけて起き上がり、音子は勇ましく拳を手の平に打ち付けた。
「やるだけやってみよう!」
 思い立ったら即行動。
 彼女はアドレス帳にある友人たちへ一斉にメールを送った。
 内容は、
『土曜日の午後七時からご飯食べに行きましょう! 今回は私が奢っちゃうので、ぜひ参加してねっ』
 送信確認後、頭の中でいくつかのパターンとプランを想定しながら、音子はその日を待つのだった。

●参加者一覧

弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
新井田 銀菜(gb1376
22歳・♀・ST
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER

●リプレイ本文

「かんぱーい!」
 野宮 音子(gz0303)が音頭を取り、九つのグラスが掲げられた。
 小気味良く打ち合わせる音と共に、皆が乾杯を交し合う。
 そわそわと挙動不審だった音子も、ようやく腰を落ち着けて笑うようになった。
 音子のそんな態度を、皆が訝しく感じていた。
 そもそも、これだけの人数に対して奢りで飲み会を開くというのも、変な話だ。
 早速料理を平らげ始める最上 憐(gb0002)を見て、リヴァル・クロウ(gb2337)が、
(まさか最上氏が居る事を解って奢る‥‥などと述べたのか)
 と内心で驚愕するのも頷ける。

 部屋は和風の個室で、周囲の視線を気にする必要がなく、皆が思い思いに寛いでいる。
 テーブルに並べられた様々な料理をつまみながら、和やかに談笑。
 そんな中、
「音子さん! お誘いありがとう〜!」
 椎野 のぞみ(ga8736)が、後ろから音子に抱きついた。
 座る音子と膝立ちののぞみ。元々の身長差もあり、包みこむようなハグだ。
 音子はだらしなく頬を緩めて、嬉しそうに笑う。
「こちらこそ、来てくれてありがとねっ」
 とそこに、
「‥‥ん。音子。コレ美味しいよ。あーん。して」
 何故かウサギの着ぐるみ姿の憐が、一口餃子を音子に差し出した。
「えっ? どうしたの? 自分で食べていいんだよ?」
 あの憐が食べ物を勧めるなんて──と、音子は目を丸くしている。
「‥‥ん。今日は。音子を。接待する。ウサ。サービス。ウサ」
 音子の胸の中で『きゅん』と音がした。
「んにゃぁ〜かわいいなぁもぅ!」
 思わずぎゅっと抱き締め、頬擦り。
 憐は顔色ひとつ変えずにされるがままだ。
 ひとしきり堪能した後で音子は、憐が改めて差し出した餃子を嬉々として頬張った。
 味わった後に「うん、美味しいねっ」と憐に言い、次いで、お猪口の日本酒をくいっと飲み干す。
 するとすかさず、隣に座る諌山美雲(gb5758)が徳利からお酒を注ぎ足した。
「え、え、いいのに、自分でやるのに〜」
 戸惑う音子に美雲は、
「いいんだよ、ネコ姉ぇ。それより、今日は誘ってくれてありがとうね♪」
 と微笑む。
「そんな、美雲ちゃんこそ、大変な時期にごめんね」
 見れば彼女のお腹は、服でも隠せないくらいに大きくなっていた。
「性別はわかったの?」
「女の子だろうって」
「そうなんだっ。名前は?」
「鈴の音、って書いて『すずね』にしようと思ってるの♪」
「素敵な名前だねっ。予定はいつ頃なんだっけ」
「11月中旬だよ♪ 産まれたら、抱っこしにお見舞いに来てね?」
「行く行く!」
「ありがと♪ あ、お腹、触ってみる? 今、起きてるみたいだから蹴るかもよ?」
「え、いいの? わー‥‥なんかちょっと緊張するかも‥‥」
 そーっと、遠慮がちに手を伸ばす音子。
 音子の背中から離れたのぞみも、興味深そうに見つめている。
「もしもーし‥‥‥‥ぅわっ、なんか動いたっ」
 感動するのは結構だが、なんかとは失礼である。

 そんなやりとりの一方で、

「お料理はこっちで大丈夫ですかー?」
 届けられた料理の皿を手に、新井田 銀菜(gb1376)が皆に声を掛けている。
「食べたい物とかあったら言って下さいねっ。まとめて注文しちゃいますから!」
 本来の幹事は音子だが、あの有様なので、銀菜が代わりにまとめ役を買って出ていた。
「では日本酒を頼む。冷やで」
 静かに頼むリヴァル。
 そんな彼とは正反対に、
「これ、頼んでみてもいいですかっ?」
 はじめての居酒屋に、橘川 海(gb4179)は大はしゃぎだ。
 見慣れない目新しい料理を、きゃっきゃと選ぶ。
「あ、これもお願いしますっ!」
「はいっ。ひとつでいいです?」
「ふたっつ!」
 訊ねる銀菜に、海は元気よくVサインを突き出した。
 見ている方の口元も綻ぶほどに、楽しげな様子だ。
 その横では、鹿島 綾(gb4549)がゆっくりと梅酒のロックを嗜んでいた。
 多種多様な料理を味わいつつ、合間に一口、二口。
「あら、美味しい、これ‥‥」
 何気なく食べてみたサラダの予想外な味に、思わず感嘆を漏らす。
「へぇー、どれどれ?」
 綾の反応を見たた弓亜 石榴(ga0468)が、ひょいっと箸でつまんで一口。
「あ、ほんとだ、美味しい」
「でしょう? ──ところで、あんまり人前でスカートなんて捲ったりしたらダメですよ?」 
「音子さん隙だらけだからさー、ついね」
 綾に嗜められて、石榴は悪戯っぽい表情を浮かべる。
 石榴は今回も、音子の下着チェック(上下)を達成していた。
 音子もいい加減、石榴に対して警戒心を持つべきだろう。
 ちなみにのぞみも巻き添えになっていた。
 自分の下着を露にされたことより、のぞみの下着を見れたことに喜ぶ辺り、音子はもうダメかもしれない。

(さて、そろそろか)
 開始から一時間が過ぎて、場も程よく落ち着いてきたのを見計らい、リヴァルは店員にさり気無く合図を送った。
 ややあってから、店員がホールサイズのケーキを持って来て、リヴァルに渡す。
「音子」
 リヴァルの呼び掛けに振り返った音子の目に映る、大きなケーキ。
 彼女はきょとん、と首を傾げた。
 ケーキにはロウソクが立てられており、それはさながら──
「つい先日はお前の誕生日であったと記憶している。──誕生日おめでとう」
 そう、バースデーケーキ。
 リヴァルが事前に店側へ話をして、用意してもらっておいたのだ。
 皆が一斉に、拍手とお祝いの言葉を音子に贈る。
 ぽかんと呆ける音子。
 徐々に状況を把握していく様が、ゆっくりと変わる表情から伝わってきた。
「あ‥‥ありがとぉ‥‥」
 涙を溢れさせ、音子は顔をぐしゃぐしゃにして喜んだ。
 どうやら誕生日のことなど完全に頭になかったらしい。
 しゃくりを上げる音子の背を、銀菜と美雲が優しく撫でていた。

 ケーキだけでは終わらない。
 次に音子を待っていたのは、プレゼント攻撃である。
 石榴からは、
「これ、音子さん本人を対象にしても良いから♪ 大事に使ってね♪」
 彼女お手製の『ステキな指向性地雷券』。
 のぞみからは、
「家事限定だからね?」
 『好きな日に家事限定メイドになる券』。
 憐からは、
「‥‥ん。この券を。使えば。音子の。嫌いな食べ物を。私が。食べて。助けたり出来るよ?」
 『何でも言う事を聞いてあげるかもしれない券』。但し、言う事を聞くかはその時の気分次第。
 美雲からは、
「あまり、えっちぃのは困るからね‥‥?」
 『何でも言う事を聞く券(当日のみ有効/回数無制限)』。
 海からは、
「はい、ねこさん! プレゼントですっ!」
 優しい色合いの天然石のビーズで紡がれた、彼女の手作りアクセサリー。
 綾からは、
「誕生日おめでとう。似合うといいのだけど」
 美しく繊細な意匠の施された【Steishia】ゴールドブレス。
 銀菜は、
「今日は私も言う事を聞いてあげちゃいますっ。あ、でも、あんまり恥ずかしいのは嫌ですよー!?」
 にっこりと微笑み、そう言った。
 実は彼女は既に、音子の誕生日に渾身の贈り物を渡している。
 プレゼントの価値はそれに籠める気持ち、と考える彼女は、数を重ねるようなことはしたくなかった。
 だから音子も、ここでまた何か貰えるとは思ってので、まさかの申し出に頬を紅潮させていた。

 皆から最高のプレゼントを受け取り、音子は感極まってまたも泣いた。
 ありがとうと繰り返す言葉が掠れ、言葉を詰まらせている。
「もぉ‥‥どんな風にお礼したらいいかわからないよ‥‥」
「いいんですよ、そんなの。みんな、ネコちゃんが好きで、ただお祝いしたいだけなんですから」
 銀菜の柔らかな声に、音子は「うー‥‥」と唸って、喜びに胸を締め付けられるのだった。

 サプライズバースデーパーティが終わった後は、再び元の飲み会へ。
 と言いたいところだが、憐と綾が切っ掛けで、途中からちょっと様相が変わってきていた。
「‥‥ん。ウサを。脱皮。第二形態は。メイド。音子‥‥じゃなくて。ご主人様に。奉仕するよ」
 その言葉通り、憐自身は愛らしいメイド姿に着替え、音子にマッサージを施している。
 これだけならば微笑ましい話なのだが──
 綾は梅酒が6杯目を越えた辺りから柔和な態度が消え、飲酒量が加速するのと併せて様変わりしていった。
 ふにゃんとした笑みが絶えなくなり、常に陽気。
 周りに積極的に絡むようになり、スキンシップの具合が妖しい感じを漂わせていた。
 挙句、
「えへへ‥‥鹿島、ぬぎまーす♪」
 などと言い出して、本当に脱ぎ始めたから大変だった。主に音子の状態が。
 加えて、脱ぎだす綾に憐が目をつけた。
「‥‥ん。丁度。ココに。偶然。衣装がある。音子の為に。生け贄になって貰おうかな?」
 そう言って取り出したるは、ずらりと並ぶ多種多様な衣装の数々。
 細かいことを気にしてはいけない。
 アリス服とかはまだコスプレとして有りだろうが、ブルマとかは色んな意味で危険だ。
 主に音子的な意味で。
 そしてそこを見過ごす音子ではない。
 『言う事を聞く』状態の美雲と銀菜に、早速お願いをする。
 かくして、体操服にブルマ姿の綾と、アリス服の美雲に、セーラー服の銀菜という楽園が築かれた。
 音子のテンションはメーターを振り切って、酔いの勢いもあって綾に襲いかかり、抵抗されないのを良いことに調子に乗ろうとして、銀菜に叱られてしょぼんとする──そんな賑やかな光景が繰り広げられるのだった。

 海が船を漕ぎ始めた午後九時半頃。
 未成年もいることだし、そろそろ締めに入ろうかという雰囲気に。
 とそこで音子は、はっと何かを思い出した表情を浮かべ、にわかに挙動不審になった。
「‥‥ん。音子。トイレなら。あそこだよ。一緒に。行こうか?」
 普段の音子なら猛然と首を縦に振るところだ。
 ──いや待て、それは不味い。
 まあ、さておき。
 音子は「それは大丈夫」と微笑みながら答えた。
 しかし、当初から音子の様子がいつもと違うことは、皆が一様に感じ取っていたことではある。
「音子さん‥‥何か抱えてない?」
 のぞみが、そっと優しい声で訊ねた。
「何かあるなら、ボクじゃ役不足だろうけど、皆には話したほうが良いと思うよ」
「ネコ姉ぇ、悩みがあるなら聞くよ?」
 美雲は音子の手に、自分の手を重ね合わせた。
 それはどこか、母親としての愛情さえ感じさせる仕草だ。
「そうだよ〜言っちゃえ〜」
 音子にしな垂れかかっている綾が、頬をぷにぷにつつきながら蕩けた声で促す。
「不安や迷いがあるなら、一緒に考えれば良い。そうだろう?」
 リヴァルの言葉に、音子は迷いながらも頷いた。
「どんなことでも、ネコちゃんのことならみんなちゃんと聞きますよっ」
 銀菜の笑顔には、見る人を明るく元気にする力がある。
 皆の言葉とその笑顔に力をもらった音子は、
「‥‥わかった。みんなありがとう。じゃあ‥‥言うね」
 深呼吸を、ひとつ、ふたつ。
 何を言うのかと、皆も真剣な面持ちで待つ。
 ごくりと緊張で喉を鳴らし、音子は目を瞑り、恐る恐る口を開いた。
「実は‥‥こ、告白、しようと思ってるのっ。お、女の子に‥‥! で、でも私って『こんな』だし、それに同性だし、言ったら相手に迷惑かなとか、気まずくなっちゃったらイヤだなとかって──あれ‥‥?」
 一気に捲し立てかけて、音子は場の雰囲気が微妙な感じになってることに気づいた。
 各々の胸中は計り知れないが、多分、以下のような感想が渦巻いていることだろう。

 誰に?
 女の子に?
 一人に絞るとか無理だろう。
 何を悩んでるかと思えば。

 全く以てその通り。
 それでも、茶化す人などいない。
「──そうか。ふらふらしないと決めたのなら、良いことだ。相手が誰だろうと、俺は応援する」
 生真面目に、真正面から音子を見据えて、リヴァルは告げる。
「ありがとうございますっ。でも、ダメだったらと思うとやっぱり怖くて‥‥」
 不安な気持ちは当然だが、言い出せばキリがない。
「言わないで後悔するより、言って悔やんだ方が絶対に良いよー」
 いつになく真剣に、石榴が助言をする。
「きっとね、自分が『やりたい』って思った事は、どんなに苦しくても不安でも、やりきらなきゃいけないんだよ」
 自身の経験から紡がれる言葉には、確かな説得力が込められていた。
「ボクもそう思う。誰かを好きな気持ちは、ちゃんと本人に伝えなきゃだめだよ!」
 のぞみも、過去に生半可ではなく辛い体験をしている。
 伝えたい気持ちを言えなくなってからでは、遅いのだ。
「好きって難しいですよね」
 静かに聞いていた海も──ちょっと眠かったからなのだが──目を閉じて想いを口にした。
「私の中の大きな誰かに取って、私は点景なのかも知れません。それでも、私は負けませんよっ? 応援してくれる仲間がいるからっ。だからねこさんのこと、応援しますっ!」
「そうそう。みんなの言うとぉり」
 酔いが回ってる綾も、ちょっとふらふらしながら言葉を続ける。
「やりたいと思うことならなぁ、まずはやればいいと思うの。失敗したら、明日の糧に。成功したら御の字。そういうものでしょ?」
 皆からの励ましを、音子は自身の心に刻みこむようにして受け取った。
 確認するように胸に手を当てて、目を閉じて頷く。
「‥‥ありがとう。今度、気持ち、伝えてみるね」
 一言ずつ、噛み締めるように、紡ぎ出した。
 みんなからの優しさを、ひとつずつ、確かめるように。
「──ごめんね、変な話しちゃって! 気を取り直して、最後にあとちょっと、ぱっと楽しもう!」
 海の電池が切れかかっているので、丁度潮時だ。
 ラストオーダーとして飲み物と雑炊を頼んで、彼らは締め括りまでの時間を堪能した。

 ちなみに会計だが、音子が伝票に手を伸ばした瞬間、リヴァルが素早く強奪。
 瞬天速を使ってまで先行し、手早く全額を支払った。
 今日の憐は驚く位に加減して食べていたので、金額は思ったよりは大分低かった。
 きっと、音子の財布の中身を慮ったのであろう。
 それはそうと、支払いの件で詰め寄る音子に彼は、
「今日は俺が出そう。誕生日と、新しい門出の祝いだ。お前のしっかりした姿が見れれば、奢りはその時に受ける」
 そうまで言われたら、厚意を無碍にできるはずがない。
 恐縮する気持ちもあったが、音子は素直に甘んじた。
 こうして、音子主催で奢る予定だった飲み会は、リヴァルの粋な計らいで幕を閉じた──





 ──帰り道。
「今日はとっても楽しかったですねっ」
「そうだね。みんなのおかげだよ〜」
 銀菜と、音子。
「ネコちゃんと会うの、なんだかとっても久しぶりな感じでしたよねー」
「この間まで、長いこと泊まってもらってたからかも」
「きっとそうですねっ」
 そして分かれ道。
「──銀菜ちゃん。また今度、連絡するね。近い内に」
「はい。楽しみに、待ってますよ?」
 いつもと変わらず、彼女は笑う。
 花のように。太陽のように。
 それを見て、音子も笑う。
 淡く微かに、月のように。