タイトル:TRASH CRASHマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/15 07:05

●オープニング本文


「よーし、今日の演習はここまでだー」
 教官の指示が下り、模擬戦闘を行っていたKVたちは動きを止めた。
 待機場所まで移動し、傭兵たちは皆、疲れた顔でKVから降りていく。
 辺りは既に日が暮れそうな頃合いだ。
 模擬戦が昼過ぎから始まったことを考えれば、時折休憩を挟んでいたとは言え、皆がクタクタで空腹なのも当然だろう。

 ここは四国某県某所。
 都市部からは離れ、周囲には平野が広がっている。
 KVを思い切り動かすには、なかなか適した場所だ。
 ただし一箇所、ぽつんと朽ちかけた建物が残っている。
 それは、とっくの昔に廃墟になった病院だった。

 実はこの廃病院、最近ちょっと話題になったことがあった。
 夏の風物詩ということで若者たちが肝試しを行ったのだが、その際に撮影した映像に大量の幽霊が映っていたのである。
 投稿されたその映像を採用したテレビの心霊番組で映像解析を行ない、加工の形跡が確認できなかった為に本物認定された為、巷では大騒ぎになった。
 都市部から離れた場所にも関わらず、廃病院は妙な賑わいを見せたのだが、それと平行して事件や事故も多発した。
 自己責任ではあるものの、場所が場所なのでキメラによる被害まで加わっては堪らないと自治体や軍に判断され、結果、建物の取り壊しが決まった次第だ。

 そして、取り壊しを担当することになったのが、演習に訪れた能力者達のKVである。
 どうせなら課外授業のついでに解体してほしい、というわけだ。

「飯食い終わったら解体作業だぞー」
「うぇーい」
 指示するだけの教官は気楽なものだ。
 だるそうに返事をし、傭兵たちはのろのろと立ち上がった。

「しっかし、幽霊が出るような建物を壊して、祟られないかね?」
 モニター越しの廃病院を気味悪そうに見つめながら、とある傭兵が不安そうに零す。
「幽霊とか信じてるのかよ」
「だってテレビで本物だって言ってたんだろ?」
「テレビの言うことなんて鵜呑みにするなよー」
「そらそうだけど‥‥なんか不気味だしさ」
 ごくり、と唾を飲み込む。
 周囲には薄闇が立ち込め、夜の気配が刻一刻と増している。
 ライトに照らされる廃病院は、確かに得体のしれない雰囲気を漂わせていた。
「大丈夫だって。それよりさっさと壊して、とっとと帰りてーよ」
「まぁ‥‥そうだな‥‥」

 手にした近接武器を振り下ろすと、老朽化していた建物は容易く崩れた。
 砂山でも切り崩すような感覚で、皆ざっこざっこと武器を叩き込む。
 上層は壊し終わり、瓦礫をどけて下層の部分を壊す作業に移行。
 単純作業を繰り返すのにも飽きてきた頃、砲撃しねぇ? と誰かが言い出した。
 破片は飛び散るが、確かにその方が手っ取り早いだろう。
 退屈な作業にうんざりしていた一同は、概ね賛同を示した。

「うーし。じゃあ撃つぜー」
 皆それなりに建物から距離を取る。
 KVに射撃武器を構えさせた傭兵は、軽く標準を合わせて、トリガーを引──こうとした瞬間、地面が唐突に揺れた。
 それも軽い揺れではなく、KVでも多少よろめく程の震動だ。
 加えて、新たな衝撃が発生。
 地面が揺れた際に、ずれた標準のままトリガーを引いてしまい、砲撃が地面に着弾したのだ。
「ばかー!」
 と叫んだのは誰だったのか。
 しかもその一発は、予想だにしない事態を引き起こした。

 砲撃により地面に穴が空き、崩れ始める。
 そう、『地面が』崩れ始めたのだ。
 地表にひび割れが走り、傭兵たちは慌ててKVを飛び退かせた。
 地響き、地鳴りと共に崩壊は続き、ついには廃病院ごと陥没してしまった。

 後には、ぽっかりと巨大な穴が広がっている。

「ど、どうなってんだ‥‥?」
 呆然とする傭兵たち。
 泡を食った教官が駆け寄ってくる。
「何をしでかしたんだお前ら!」
「俺らのせいじゃないっすよ!」
 確かに砲撃一発で引き起こされる状況ではない。
 なにより、先に地震のような揺れがあったのが気がかりだった。

 喧々囂々とする教官と傭兵たち。
 そこへ、更に状況の混迷を加速させる存在が登場した。

「‥‥ちょ、あれ‥‥」
「ゴーレム!?」

 穴の中へ向けたライトの中に浮かび上がるのは、確かにゴーレムで間違いなかった。
 しかもゴーレムだけでなく、タートルワーム、レックスキャノンの姿も確認できる。
 落盤した土砂で大分埋れているが、なんらかの機器の存在も見て取れた。

「まさか‥‥バグアの地下基地!?」
 瓢箪から駒とは、正にこのことだろう。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
L3・ヴァサーゴ(ga7281
12歳・♀・FT
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
カイト(gc2342
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

「キモチがダイジ」
 小さく呟いて、骸龍に乗る夢守 ルキア(gb9436)は『GooDLuck』を静かに発動させた。
 そう。気持ちはとても、大切だ。
 ルキアは深呼吸をすると、コックピットの中に視線を巡らせた。
(管制能力、全部全部『イクシオン』がいないと出来ない。イクシオンだけでも出来ない)
 さらり、とコンソールを撫でる。
「ユイイツ、だから。たまには初心に返らないと、ね」
 ふっ、と短く息を吐き、ルキアは気持ちを引き締めると、偵察用カメラと特殊電子波長装置γを用いて、敵のおおまかな位置情報を探った。
「──各機、データリンク開始、管制はこっちでやるよ」
 得られた情報は、仲間たちの元へ素早く送信。
「レックスキャノン4、タートルワーム2、ゴーレム3、か。古い建物の取り壊しのはずが、どうしてこうなった‥‥」
 ルキアから受け取ったデータを見ながら、リッジウェイの中でゲシュペンスト(ga5579)が眉間を揉む。
「偶然とは言え、ここで敵の戦力を削っておくに越したことはないだろう。速やかに片付けて、うまい晩飯にありつこうじゃないか」
 鈍い光りを放つ銀髪を撫でつけ、榊 兵衛(ga0388)が雷電の中で不敵に言った。
「でもまさか、こんな所に基地があるとは思わないよね〜。どこに繋がってるんだろう?」
 リヴァイアサンの中で、オルカ・スパイホップ(gc1882)が不思議そうに首を傾げた。
「片付けた後に調べればわかることさ」
 ディアブロに乗るカイト(gc2342)は、気合いの入った表情で穴を見つめている。
 ゴーレムが上がってきたら、即座に攻撃を仕掛けてやろうという姿勢だ。
「万敵‥‥殲滅‥‥」
 L3・ヴァサーゴ(ga7281)は、いつ敵が浮上してきてもいいようにペインブラッドに重機関砲を構えさせている。
「‥‥ん。まずは。ゴーレムが。釣れるまで。待機。ゴーレム釣り」
 ナイチンゲールの中では、最上 憐(gb0002)が普段と変わらぬ調子で呟いていた。
「釣れれば御の字。釣れなければ強襲降下か」
 兵衛の口調は、どちらでも構わないと言いたげだ。
 雷電の本領を発揮させられる意味では、強襲降下も望むところだ。
「‥‥ん。出て来たら。叩く。モグラ叩き」
「面白い表現だな」
 憐の言葉に、オウガの中でアリステア・ラムゼイ(gb6304)が笑みを零した。
 とそこで、
「──ゴーレム、来るよ」
 ルキアの鋭い声が飛んだ。
 束の間の猶予は過ぎ去り、演習ではない、実戦が始まる。

 慣性制御を行って擬似飛行で浮上してくるゴーレムに、まずはルキアのイクシオンが煙幕弾をお見舞いした。
「挨拶代わりだよっ」
 勢い良く広がる灰色のヴェールに、ゴーレムがすっぽりと包み込まれる。
 続いて、ゲシュペンストの『グスタフ』がグレネードランチャーを発射。
 一発はゴーレムへ、一発は穴底の敵へ向けて。
「悪く思うなよ?」
 砲弾が炸裂し、ど派手な音が地面と空気を揺るがした。
 その振動を引き裂くように、アリステアが『インフィニティア−SG』のバルカンで追撃を加える。
「削れる内に削らせてもらう!」
 浮上の際に身を隠せないゴーレムに取っては、自ら死地に飛び込むようなものだ。
 反撃にプロトン砲を撃つも、距離がある上に傭兵たちはあらかじめ警戒している。
 容易く当たるものではなかった。
 短絡的で直線的な行動から推察するに、ほぼ確実に無人機だろう。
 ならば傭兵たちに取っては格好の経験値だ。
 とは言えタフさだけは褒められたもので、ゴーレム共は損傷を負いながらも、煙幕と弾雨を突き抜けてきた。
 だが、攻勢に転じる余裕など与えない。

 最初に上がってきたゴーレムに狙いを定め、カイトは『鋼鉄の子狼』を向かわせようとする──よりも一瞬だけ早く、オルカの『レプンカムイ』がブースト使用で突撃していた。
「一番槍、も〜らい!」
 明るい声を響かせて、オルカはレブンカムイでゴーレムに体当たり。
 盛大な衝突音と共に、大きくよろめくゴーレム。
 そこへ『リビティナ』の妖しい光が襲いかかった。
「もらったぁ〜!」
 大鎌の形に射出された緑色の超圧縮レーザーが、ゴーレムの装甲を大きく切り裂く。
 強烈な一振りだったが、仕留めるまでには少々足りなかったようだ。
 オルカの追撃から逃げようとして、ゴーレムは後方へ飛び退いた。
 だがそこには、ルキアのイクシオンがブーストを使って回り込んでいた。
「さよならだね」
 背後から、ゼロ距離のピアッシングキャノンの砲撃。
 無防備な背中に致命的な一撃を受け、ゴーレムは再びオルカの方へと強制的に弾き飛ばされた。
「とっどめぇ〜!」
 既にゴーレムの機能の多くは停止していたが、オルカの斬撃によって体幹まで切り込まれると、今度こそ完全に沈黙したのだった。

 オルカに先を越されたカイトも負けてはいない。
 二番目に飛び出してきたゴーレムとの距離を、ブーストで一気に詰める。
「踏み込みの一撃なら、負けん!!」
 アグレッシブ・フォースのスキルを発動させて叩き込む、機杭『ヴィカラーラ』の一撃。
「打ち砕くのみ!!」
 高速射出されたメトロニウム製の杭が、轟音を伴ってゴーレムの装甲を貫いた。
 と同時に、ディアブロはゴーレムを足蹴にし、その反動を利用して後退。
 反撃の隙など与えはしない。
 それでも追い縋ろうとするゴーレムに、横合いから、ヴァサーゴの『黄泉戸喫』の重機関砲が火を噴いた。
 四百発の弾雨が一点に降り注ぎ、ゴーレムの装甲を穿つ。
「大人しく‥‥沈みなさい‥‥」
 強烈な衝撃を不意に受けたゴーレムは、崩れた体勢を制御しきれずに転倒した。
 当然、すぐさま立ち上がろうとするのだが、上体を起こすより先に、新たな衝撃がゴーレムを襲う。
 ゴーレムを覆い被さるように組み伏せた、紅の機体。
 カイトはゴーレムの頭部にヴィカラーラを押し付け、一言。
「眠れ。永遠に」
 重厚な破砕音と、震動。
 撃ち出された機杭は頭部を粉々に破壊し、勢い余って地面をも貫いていた。

 浮上してきた三体目のゴーレムには、憐の乗る『オホソラ』のファランクス・アテナイが、まず火を噴いた。
 防御と回避に気を取られるゴーレム。
 着地制御が疎かになるのを、憐は見逃さない。
「‥‥ん。着地の。瞬間が。無防備。隙を狙う」
 ブーストされた機動力で一直線にゴーレムへ肉薄。
 真ツインブレイドを盾代わりに正面に構えて接近すると、ゴーレムの脚部へ強烈な斬撃をお見舞いした。
 鈍い破砕音と共に、ゴーレムの脚部が切断される。
 愛嬌のある兎耳アンテナや、「カレーは飲み物」という気の抜けるようなペイントからは想像もつかない破壊力だ。
 しかし無人機である以上、戦意喪失などとは無関係で、ゴーレムは往生際悪く反撃を試みる。
 脚部を失いながらも慣性制御による擬似飛行で憐から離れ、プロトン砲と収束フェザー砲を闇雲にぶっ放してきた。
「‥‥ん。ちょっと。鬱陶しい」
 慣性制御機能が正常に働いていないため、ゴーレムの動きも砲撃の軌道も滅茶苦茶だったが、それ故に煩わしかった。
 接近して砲撃を止めさせよう。
 そう思った憐だが、次の瞬間にその必要はなくなった。
 空気を切り裂く三十発のライフル弾。
 スラスターライフルにより高速速射された弾丸は、ゴーレムの胸部に風穴を開けた。
「無駄な悪足掻きを。──と言っても無人機ならば、むべなるかな、か」
 血涙を流す深紅の瞳に皮肉げな光を湛え、兵衛の雷電は動かなくなったゴーレムからライフルの銃口を逸らした。

「‥‥ん。撃破。完了。周辺の警戒を。行う」
 三体のゴーレムが全て沈黙したのを確認し、憐は周囲の情報を集め始める。
「基地がある以上、気付いたら数が増えてる‥‥なんてこともありそうだもんな」
 言いながら、アリステアはぐるりと辺りを見回してみる。
 今のところ、その気配はなさそうだった。
「‥‥ん。ウサ耳の。出番。増援の気配を。探る」
 オホソラの頭部で、赤いウサ耳アンテナが愛嬌のある動きを見せた。
 穴底の基地にいる敵勢力の掃討は、二班に分かれて担当することになっている。
 先発して降下するA班の五人が穴の付近に移動し、B班は周囲の警戒と降下支援に当たるのだ。

「行くよ」
 告げて、ルキアが残りの煙幕発生装置二発を射出。
 穴の底に視界を埋める煙幕が立ち込める。
 次いで、兵衛がグレネードランチャーを。
 同時にヴァサーゴも、最も多くの敵を効果範囲に収められる位置から、『ブラックハーツ』により攻撃出力を高めた『フォトニック・クラスター』を連続で照射した。
 爆発と爆風。高熱量のフラッシュとが、地底にて傭兵たちの降下を待ち構えていたワームを焼く。
 ド派手な洗礼だった。
「先行します」
 宣言した時には、アリステアのオウガは既に穴に飛び込んでいた。
 ゲシュペンスト、ルキア、カイト、兵衛らのKVもすかさず続く。
 間髪入れずに速攻を仕掛ければ、流れは傭兵たちのままで戦闘を展開できる。
 初撃は非常に重要だ。
「ツインブースト起動! 一撃で‥‥仕留める!!」
 視界が利くようになると、アリステアは即座に『ツインブースト・OGRE/B』を発動させ、皮膚の色が赤いレックスに猛然と肉薄。
 両肩のクレイモアランチャーから合計二百発ものベアリング弾を叩き込み、近接距離に入ると同時、真ツインブレイドで全力で斬りつけた。
 回転させた刃が苛烈に敵を切り裂く。
 抗う間すらなく、レックスは体液を撒き散らして地底に伏した。
 正に、一撃必殺の連撃であった。

 一歩遅れた四人も、地底に着くと同時に攻勢に出る。
「ゲシュペンスト機に近いタートルワームが一番負傷してる、優先的に叩いて」
 ルキアの指示が飛び、三人は撃破に向かった。
 地上からも、オルカのレブンカムイがファランクス・ソウルとクァルテットガン『マルコキアス』による、スコールのような弾幕で猛烈な支援をしていた。
「今の内にやっちゃって〜!」
 オルカの援護に、まずはゲシュペンストが応えた。
 銃弾のスコールが途切れると同時に接近し、
「くらえ! 究極のグスタフキィィィィック!!!!」
 高らかに雄叫ぶと、タートルワームの砲身へと『グスタフ』はレッグドリルの蹴りをブチ込んだ。
 盛大な音を立ててひしゃげる砲身。
 大胆にもほどがある攻撃方法だが、見事に主砲は沈黙。
 後は甲羅から生えるブレードにさえ気をつければ良い。
 そしてそのブレードも、カイトのガトリング砲で次々に無力化されていく。
「甲羅に物騒なモノを生やさないでもらいたいな」
 最後に残るのは本体。
 距離を詰めた兵衛の『忠勝』が、機槍『千鳥十文字』を構える。
「これで、終いだ‥‥!」
 兵衛は外装の隙間を狙い澄まして、機槍を突き出した。
 『超伝導アクチュエータ』によって上昇した操作精度により、切っ先は装甲に弾かれることなく、生身部分を貫いた。
 深々と突き刺さる機槍が、ワームの中枢を抉る。
 引き抜くと同時に体液が飛び散った後、数度の痙攣をして、タートルワームは沈黙した。

 能力も上、先制攻撃も決め、作戦にも隙がなく、連携も良好。
 それに加えて数まで上回ったとなれば、あとは正真正銘の掃討戦だ。
 しかしそこで手を抜くようでは、二流の謗りを免れないだろう。
 無論、彼らにそんな奢りはない。
 増援の心配なし、と判断したB班も降下し、全力で敵戦力の排除に当たることにした。
 カイトの機杭がレックスの顎を貫き、ヴァサーゴのプラズマリボルバーがトドメを刺す。
 ゲシュペンストが再びタートルワームの砲身を蹴り潰せば、踏み込んだ憐とオルカが左右から斬りつけて息の根を止める。
 ルキアがピアッシングキャノンでレックスの注意を引いたところに、砲門の向かない背後から接近した兵衛が渾身の斬撃で斬り伏せる。
 憐とアリステアは呼吸を合わせた攻撃で、レックスに対してヒット&アウェイを繰り返し、一方的に翻弄し続けたまま仕留める。
 それで、全ての敵が片付いた。
 正に鎧袖一触。
 この程度のワームでは、慢心のない傭兵たちの敵ではなかった、ということだ。

 さて。
 彼らの次の役目は、基地の破壊だ。
 だがその前に。
 何か得られるものがあるかもしれない、そう考えたヴァサーゴは、戦闘や落盤の被害を免れた設備を調べて回った。
「‥‥特に‥‥何も無い、かな‥‥」
 目新しい物もなく、情報を引き出せそうな機械も見当たらなかった。
 無人ワームしかいないような基地では、仕方のないことか。
 それとは別に、オルカが見つけたトンネルについての話し合いが教官との間で交わされていた。
 結論は、
「演習で来ている以上、深入りはできん」
 ということに落ち着いた。
「まぁ、それもそうだよね〜。調査は、また日を改めて‥‥かな?」
 教官の言葉に、オルカは素直に頷く。 
 軍には連絡済みなので、見張りを引き継ぎ次第、彼らは帰還することになる。
 要請があれば、再びこの地に出向くこともあるだろう。
「じゃあ基地は壊しちゃっていいんだよね〜?」
「あぁ、構わん。地面が崩れて生き埋めにならん程度に、思い切りやれ」
 教官の許可が改めて下りたところで、傭兵たちは早速破壊に取り掛かった。
 スラスターライフルで薙ぎ払うようにして設備を潰していく兵衛。
「元々取り壊しのために来たんだから遠慮はなしだ」
 そう言って、気のせいか楽しそうに機材を蹴り散らかすゲシュペンスト。
 ゴーレムやタートルワームなんかを一捻りしてしまう者たちだ。
 ものの数分で、バグアの地下基地だったものはただの廃墟に成り果てた。
「任務完了、かな」
 アリステアは翡翠の瞳を周囲に巡らせて、壊し残しがないかを確認。
「なさそうだね〜。これで安心♪ 万事解決♪」
 弾む声で、オルカが告げた。
「なかなかいい実戦経験になったな」
 コックピットの中でぐぐぐっと、伸びをして、地底から上空を見上げながらカイトが言った。
 ぽっかりと開いた穴から丁度、夜空に浮かぶ月が見える。
 恐らくそれが何か食べ物を連想させたのだろう。
「‥‥ん。お腹。空いた。何か。ガッツリと。食べたい」
 カイトに釣られて上を見上げていた憐が、ぽつりと呟いた。
「はは。そうだな。運動もしたし、晩飯といこうじゃないか」
 楽しげに笑い、兵衛は忠勝の手をオホソラの肩に置いた。
 搭乗者的には頭でも撫でたいところだが、KVだと大きさが似たようなものなので肩になったようだ。
「ご飯もいいけど、シャワーに入りたいよ」
「我(わたし)も‥‥」
 少々辟易した口調のルキアに、ヴァサーゴも同調した。
 移動も含めれば、文字通りに朝から晩まで動き回っていたことになる。
 べたつく肌の不快感はそれなりのものだろう。
「なんにせよ、皆、お疲れ様だ」
 締めくくるようにゲシュペンストが言葉を結ぶ。
 そう。
 やるべきことはあらかた片付けた。
 あとはゆっくり過ごせばいいのだ。
 戦士たちの束の間の休息を。