タイトル:Lily Anomalyマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/28 07:04

●オープニング本文


「あ゛っづい゛ぃぃ〜‥‥」
 死にかけた蝉のような呻き声。
 時刻は深夜に差し掛かった頃。
 場所は、カンパネラ学園の地下研究所に勤務する研究室主任、羽住秋桜理の自室。
 声の主は、半裸に近い状態で床のフローリング部分に寝転がる野宮音子だ。
 だらしがないにも程がある友人を一瞥し、羽住秋桜理(はずみしおり)が発した言葉は一言、
「そうね」
 言葉の上では同意している秋桜理だったが、その割には随分と涼しげな表情をしている。
 キャミソールとショートパンツを身につけているので、音子に比べて体感温度は高いはずなのだが‥‥
「ねぇー、なんでクーラー点けないのー?」
「必要ないから」
 床をゴロゴロと転がりながら秋桜理に接近した音子は、さらっと言い切られて軽く目を見開いた。
「‥‥正気?」
「──なんか言った?」
「なんでもないです‥‥」
 冷たい眼差しで射抜かれて、即座に白旗を上げる音子だった。
 パラリ、と科学雑誌のページを捲り、秋桜理は麦茶を静かに口に運ぶ。
 その隣では、音子がうだうだしながら右に左にと転がっていた。
 過ぎること五分。
 友人のあまりの鬱陶しさに我慢がならなくなったのか、秋桜理は眉間に皺を寄せながら雑誌を閉じて、音子の頭を叩いた。
「ぁいたっ」
「暑いのが嫌なら自分の部屋に帰りなさい」
「‥‥一人じゃ退屈なんだもん」
 音子はむすっと拗ねたように口を尖らせる。
 しかしそれは、どこか芝居がかっている感じがした。
「‥‥そういやあんた、この間肝試しに行ったそうね」
「へ!? あぁうんまぁね〜」
 答える口調はどこかぎこちない。
「楽しかった?」
「うん! すごく楽しかったよー? 秋桜理も来れば良かったのになーホント!」
「あんたと違って忙しいのよ」
「別に私だって暇なわけじゃないもん」
「はいはい」
 秋桜理はあしらうように肩を竦め、そして不意に、
「──あ、あんたの肩に」
「ぅひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「──髪の毛ついてるわよ?」
 ニヤリと笑った。
「‥‥なによ。なによなによそのイヤぁな笑顔は!」
「別に?」
 とぼける秋桜理。
 悲鳴を上げた際に部屋の隅にまで転がって逃げていた音子は、勢いよく身体を起こした。
「ゆ、幽霊が怖くて夜に一人で家に居られないとかじゃないんだからね!?」
 お世辞にも鋭いとは言えない目で秋桜理を睨みつけておきながら、墓穴を掘る。
「誰に説明してるのよ」
 思いっきり嘆息。
「ホントだってば!」
「はいはい」
 四つん這いで迫ってきた上にしがみついてくる友人を、秋桜理は鬱陶しそうに押し退ける。
「なら別に退屈ぐらい我慢すればいいでしょ? 暑いのよりはマシなんじゃないの?」
 どこまでも突き放した調子の秋桜理に、音子は言葉を詰まらせた。
 彼女の中で意地と本音が鬩ぎ合う。
 鬩ぎ合ったのだが、決着はすぐについた。
「うぅっ‥‥‥‥嘘です怖くて寝られないんです泊まっていってもいいですか!?」
「全くもう」
 意地を捨ててまで懇願されたらなら、流石に突っ撥ねることはできなかった。
 ぽんぽん、と頭を優しく叩き、
「今日だけよ?」
 この日、初めて浮かべる微かな笑顔。
 貴重で綺麗で、普通であれば思わず見惚れてしまうほどだ。
 しかし返ってきたのは、
「鬼っ」
「ちょっとなんでよ!」
 予想外の言い草に、秋桜理と言えども鼻白んだ。
「悪魔!」
「今すぐ出てってもらうわよ!?」
「バグア!!」
「いい度胸ねあんた‥‥」
「親友なら夏が終わるまで泊めてよ!」
「居候かっ!」
「だってぇぇぇぇぇぇ」
 もはや完全に駄々っ子だ。
 座っている秋桜理の腰に抱きついて、彼女の腹に泣きながら顔を擦り付ける。
「とにかく今日だけ。明日は、あんたのお友達にでも泊まりに来てもらえばいいでしょ?」
 ぴたりと動きを止める音子。
 騒がしかった室内が一転して無音になる。
 そして音子はいきなりがばりと起き上がると、
「──ソレダ!」
 と物凄く目を輝かせた。

 翌日。
 まさかULTに依頼を出すわけにもいかないので、音子はカンパネラ学園内の掲示板に勝手に張り紙をしていた。
 内容は至ってシンプル。
『うち来る!? というか泊まりに来て!! お願い!!
                お問い合わせはこちらまで → ○×▼−■□●×−△△◎□
                                                   野宮 音子
 あ、但し女の子か男の娘だけでお願いね?                               』

●参加者一覧

弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
新井田 銀菜(gb1376
22歳・♀・ST
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA

●リプレイ本文

 今夜の野宮 音子(gz0303)の部屋は、随分と明るい雰囲気だった。
 部屋の中央に大きなテーブルを、七人の乙女が囲んでいる。
 テーブルには彩り豊かな料理が並び、皆の笑顔を引き出していた。

「美味しい! さすがネコちゃん、尊敬ですっ」
 頬に手を当てながら、新井田 銀菜(gb1376)は感心していた。
「銀菜ちゃん褒めすぎっ。そんな大したことないってば〜」
 表向きは謙遜しているが、表情はデレッデレだ。
「いえ、すごいですよっ。私はお手伝いくらいしかできなくて‥‥」
 しょんぼりする銀菜に、音子は慌てて「そんなことない!」とフォローする。
「はい。銀菜の助力は必須です。宙を舞うお皿を受け止めたシーン、お見事でした!」
 ぐっと拳を握り、最上 空(gb3976)が興奮気味に語った。
 途端、諌山美雲(gb5758)が申し訳なさそうに目を伏せる。

 食事の準備を始めた際、美雲は嬉々として手伝いを申し出た。
 無論、周りは危機を感じたが、純粋な厚意と「主婦ですから!」という自信満々な態度には屈するしかない。
 料理の温め直しと、器への盛り付けまでは順調。
 ハイパードジっ子タイムが発動したのは、運ぶ時だ。
 何を運んで貰うか迷う音子に、銀菜がこそっとアドバイスしたのは水と、汁気のない料理だった。
 その配慮は功を奏した。
 案の定躓いた美雲だったが、音子が身体を抱きとめ、放り出された皿と料理は銀菜が空中キャッチした。
 被害は最小限。
 赤槻 空也(gc2336)が水を浴びるだけで済んだのだから。

 十数分前の事を思い出し、空也は悲しげに笑った。
「いつもこうなんだ俺は‥‥」
「ごめんなさい!」
 謝る美雲に、
「気にしねぇでくれ。あんたにゃ世話になったしな」
 力なく笑う空也。
 冒頭で『七人の乙女達』と表現したが、正確には空也は男だ。
 知人との罰ゲームで参加させられた彼は、素のままでは女性に見えない為、美雲が女装メイクを施したのだ。
 セーラー服にウィッグに眼鏡。
 お陰で、表面上は美人に見える。
 しかし中身は普通の男なので、『侵入』の為にはもう一工夫が必要だった。
 その一工夫をしたのが椎野 のぞみ(ga8736)だ。
「あんたにも助けられたな」
 頭を下げる空也。
「気にしないでいいですよっ」
 のぞみは快活に笑う。
 ちなみに彼女は、カンパネラ学園の男子の制服を着ている。
 実はアイドルとしても活躍している彼女。
 男装は仕事帰りだからと寮長に説明し、空也への注意を自分に向けたのだ。
 中々の策士である。

 そんな風に和気藹々と食事が進む中、弓亜 石榴(ga0468)は怪しく目を光らせていた。
(ククク‥‥私に隙を見せるとは、音子さんも甘いことで)
 にやりと笑った石榴は、そっと彼女の背後に回った。
(チュニックブラウスとデニムショートパンツかぁ)
 残念ながら『下』のチェックは難しそうだ。
 ならば──
 石榴は音子のブラウスの中に、するっと手を潜り込ませた。
「ひぃぁうっ」
 音子が声を上げた時には既に、石榴の両手が下着の上から音子の胸を掴んでいた。
「音子さーん、ダメじゃない下着なんか着けてちゃー」
 いきなり人の胸を揉んでおきながら、不満そうな石榴。
「着けないわけないでしょっ!?」
 石榴の魔手を振り解き、音子は真っ赤な顔で部屋の隅に逃げた。
 防御を固める様を見て、ふむ、と息を吐く石榴。
 その視線が美雲、のぞみ、銀菜に向けられた。
 空はあれだ。色々とまずい。
 身構える三人に、石榴は不敵に笑った。
「安心して。何もしないから♪」
 明るく言った後、誰にも聞こえない小声で「今は」と付け足す。
「ボク、無事に朝を迎えられるのかな‥‥」
 得体の知れぬ悪寒に、のぞみを含む三人は身を震わせるのだった。

 石榴が大人しく食事に戻り、平穏が戻ってから少し経った頃、
「ネコちゃん、お先にお風呂借りてもいいですか?」
 一足先に食べ終えた銀菜が言った。
「えっ? いいけど、えっと、一緒に‥‥」
「ネコちゃん。えっちなのはいけないと思います」
 唇に人差し指を添えて、可愛らしくウィンク。
 その仕草に、音子は完膚なきまでに叩きのめされた。
 しかしそれとは別問題で、銀菜とのお風呂タイムを心底楽しみしていた音子は、風呂場の方を未練がましく見つめている。
 ただの危ない人だ。
 とは言え落ち込む主催者を放置もできないので、空が行動に出た。
「まったくしょうがない大人ですね」
 取り出したのは一冊のアルバム。
「これを見て元気になるのです!」
 ばっ、と目の前でアルバムを開かれた音子は、不思議そうな顔をした後、猛然と食いついた。
「空ちゃん、この写真はっ!?」
「この間の肝試しで撮ったやつです」
 得意げな空と、大興奮の音子。
 音子が喜ぶような写真など、いわずもがなである。
 可愛い女の子たちのあられもない姿に、すっかり釘付けの音子であった。

 そうしている内に、銀菜がお風呂から上がった。
 湯上りで更に魅力の増した彼女に、テンションが上がる一方の音子。
 この人はいつか犯罪に手を染めそうで怖い。
 さておき、次は誰が入ろうかというところで、美雲がおずおずと音子の元へ。
「ネコ姉ぇ、あのね、ちょっとお願いがあるんだけど‥‥」
「うん?」
「実は、お腹が大きくなっちゃって髪の毛洗うのが大変なの‥‥ネコ姉ぇ、洗ってもらえるかな‥‥?」
 赤面しながら、ボソボソと言う美雲。
 ここで音子の頭のネジが飛んだのは言うまでもない。
「よしきた任せて! というか全員で入ろっ。──あ、空也君はごめんね?」
「わかってるよ!」
「銀菜ちゃんも入る!?」
「六人も入れませんよっ」
 五人でも多すぎるくらいだ。
「私も一緒でいいの?」
 敢えて胸を強調するポーズの石榴に、音子はほんの数秒だけ逡巡した。
「大歓迎です!」
 あの豊満な胸を生で拝める機会を逃すなど、あってはならない。
 例え自らの『何か』を犠牲にしても!
「あのー‥‥」
 雰囲気に気圧されながら、のぞみが控え目に挙手する。
「できるだけ一人で入りたいなー‥‥」
「却下!」
「ですよねー‥‥」
(うぅ、音子さんの視線が怖いっ)
 のぞみが貞操の危機を感じるのも無理はない。

 さて、肝心のお風呂シーンだが。
 書けるわけがない。
 音子と石榴が一緒なだけでもアウトなのに、美雲が加わっては手に負えない。。
 とは言え、可能な限り挑戦しよう。

 まずは、身体の洗いっこを提案した石榴が無双状態に。
 後ろから手を伸ばしてのぞみの胸を揉んだりとか、わざと石鹸をアレな場所に落として取ったりだとか。
 音子は音子で美雲の髪を洗ってる最中に鼻血を出したり、恥ずかしそうにしている姿にハアハアしたり。
 平穏だったのは空だ。
 色んな乳が揉み揉まれしている間に身体を洗い、一足先に湯船に浸かって若人たちのはしゃぎっぷりを観察していた。
 しばらくしてしゃぎ疲れた頃、湯船の交代になる。
 だがその前に空は、入浴剤とウナギをこっそりお湯の中に入れていた。
 有り得ない?
 空が実行したのだから、事実なのだ。
 そして重要なのは、皆の反応だ。
「あれ、入浴剤入れてくれたんだ?」
 白濁したお湯を見て訊ねる石榴に、
「はい、私からの贈り物です」
 空はにっこりと微笑む。
 石榴に言われるがまま、一緒に湯船に入る音子。
 お湯が不透明だと何をされるか、と音子が警戒した直後に、足にぬるりとした感触。
「石榴さんっ!」
「えっ? 私まだひゃぁ!?」
 石榴の太腿の付け根をぬるりと這う何か。
「なに!?」
「そこ、だめっ」
「ネコ姉ぇ?」
「美雲さん、前隠して下さいっ! 音子さんがまた鼻血出してますっ!」
 ある意味これも阿鼻叫喚と言うのだろう。
 混乱の坩堝と化した風呂場を尻目に、空は満ち足りた表情をしていた。
「ふぅ‥‥我ながら、今日もいい仕事をしましたね」

 ちなみに、
「ハァ、疲れた‥‥」
 女性陣が入り終えた後で、ようやく順番が回ってきた空也。
 あの面子が入ったお湯に入るなど、色んな意味で言語道断な気もするが。
 さて、色々と振り回され、風呂時くらいは休めるかと期待していた空也だったが、
「これ何の真似だァァ!」
 いまだに湯船の中にいたウナギの感触に、絶叫していた。
 その叫びを聞き、足音が風呂場に近付いてくる。
「どうかした?」
 音子の声は、ウナギのことなどすっかり忘れている様子だ。
「うわっ、待てっ、入んな!」
 曇り硝子越しに影が見えたので、空也は慌てた。
「入らないよー。それよりどうかした?」
「い、いや、なんでもねぇ‥‥」
「そう? ならいいんだけど」
 首を傾げる動きをして、影は去って行く。
 空也はウナギを湯船の外に放り出し、心底疲れたように溜め息を吐いた。
「‥‥いっそ殺してくれ‥‥」

 風呂上りのアイスも食べ終えて一息ついたところで、王様ゲームをやろうという提案がされた。
 シチュエーション的には空也一人が役得の状況だが、クセモノ揃いにこの常識は当て嵌まらない。
 最も気合が入っていたのは石榴だ。
 何が何でも勝ってるやろうという気概が、誰の目にも明らかだった。
 その意気込みが引き寄せたのか、はたまた仕込みでもあったのか、ゲームは石榴が王様三昧。
 音子がいかがわしい衣装を隠し持っているのを見抜いた上で、彼女は「新井田さんがナース服」「椎野さんバニー」「諌山さんの危ない水着」「私が音子さんを陵辱」「赤槻さんのストリップショー」といった命令の数々を下した。
 全部書けないのがこんなに悔しいことはない。
 一部抜粋するしかない報告官の未熟さを赦して欲しい。
 まずはストリップを命じられた空也。
「ねェェえよッ! 誰も得しねーよッ!」
「私が得する♪」
 カメラを構える石榴に、空也は重ねて抗議する。
「おかしーだろ普通に犯罪だろッ!?」
 しかし周りの誰もが静かに首を振るだけだった。
 諦めろ、と。
 ──撮影後、
「一生の汚点‥‥一生の汚名‥‥一生の‥‥」
 と壁に向かって呟く空也の姿が痛々しかった。

 もう一つ過激だったのが、空と石榴が共謀した命令だ。
 きらっと目配せする二人。
「1番が4番の顔にジャムを塗りたくり、舐め取る!」
 一同に衝撃走る。
 1番は空。
 4番はのぞみ。
「ふっふっふ‥‥覚悟して下さいのぞみ!」
「ボクアイドルなのにぃ〜!」
「だからこそ良いのです!」
 スプーンなどまどろっこしい物は使わず、瓶から指で救い上げてのぞみの頬に塗りつける。
 そして見せ付けるかのように舌を這わせる空。
 ノリノリである、この子。
「イイ! いいよっ! よし、じゃあ新井田ちゃんたちもやっちゃおう!」
「えっ? 私たちもですか!?」
「やりましょう銀菜さんっ」
 驚く銀菜に、何故か乗り気の美雲。
 音子? 鼻息が荒いですが何か?
「あ、下着は脱いでね?」
「それはおかしい!」
 流石に即座に抗議する音子。
 が、次の瞬間、石榴の姿が視界から消える同時、風が吹き抜けた。
「にゃぁ!?」
 ぺたんと座り込む音子。
 石榴の指先にはくるんと丸まった薄いピンクのショーツ。
「はわっ」
 顔を赤らめる銀菜。
 そこへ隙ありとばかりに、美雲がジャムを塗りつけた。
「いただきます♪」
 この子までノリノリである。
 明らかに収拾のつかない状況に発展しているが、そんなことはおかまいなしに、石榴は記念撮影をしまくるのだった。

 王様ゲームの騒動も終わり、そろそろ落ち着こうという話になった。
 となれば次は火照った身体を怪談で冷やそう、という流れになるのだが‥‥
 音子が全力で怖がった為に中止となった。
 場を盛り下げるようなことをして申し訳なさそうな音子だったが、やはりそこは無理なのだろう。
 ピンクの凄く太くて大きい蝋燭と数々の心霊写真を用意していた空は、折角の用意が活かせなく残念そうだ。
「ごめんね、空ちゃん。今度甘味ツアーに連れてったげるから、許して?」
「いいでしょう!」
 ならばよし、と満足そうに頷く空だった。

 一通りの催しを終えた所で、夜もいい時間になっていた。
「皆さん、寝不足は身体に悪いですっ。ちゃちゃっと寝ちゃいましょうっ」
 と妙に力説するのは銀菜。
 言ってることは事実だし、騒ぎ疲れてもいた。
 なので皆、取り合えずは素直に床につく。
 明かりも消し、穏やかな静寂。
 しばらくして周囲から寝息が聞こえ始めると、銀菜はむくりと起き上がった。
 そして音子に囁きかける。
「‥‥ネコちゃん、そろそろいいかとっ‥‥」
「‥‥ん。あ、そうだね‥‥」
 半ば寝かかっていた音子は、目を擦りながら起き上がった。
 足音を忍ばせて寝室を出る。
 リビングに敷かれた布団を見ると、そこには空しか寝ていなかった。
 視線を移せば、ベランダに空也とのぞみがいる。
 目的はお喋りではないので、声はかけずにキッチンへ向かった。
 鍋でお湯を沸かし、徳利を入れる。
 そう、熱燗だ。
「ふふ、かんぱーい」
「はい、乾杯ですっ」
 キッチンの明かりの下、二人だけの密かな酒盛りだった。
 柔らかで穏やか、優しく温かな時間が、ゆっくりと流れる。

 一方、ベランダの二人も、静かな夜を過ごしていた。
「‥‥あー、マジで死ぬかと思った‥‥」
「大変だったよね」
 空也は、寝る前に石榴にがっつりと縛られていたのだ。
 やむを得ない処置とも言えるが、流石に可哀想なのでのぞみが解いて上げたのである。
「‥‥月が綺麗だねー‥‥」
「ほんといー月だな。‥‥てか、あんたは寝ねぇの?」
「ボク軽いインソムニアでね」
 小さく笑いながら、手にしたジュースを一口飲む。
「そっか。じゃあしばらく話すか」
「お相手よろしく」
 のぞみから貰ったジュースを手に、空也は乾杯の仕草をした。
 夜空に浮かぶ月が、皓々と地上を照らしていた。

 翌朝。
 美雲が【OR】コーギーの抱き枕を手に寝室を出ると、キッチンに立つのぞみの姿が目に映った。
「あ、おはようございます! 朝御飯、もう少しで用意できます〜」
「うわ、ありがとございます。いい匂いですね」
「ちょっと得意なんですよ」
 リズミカルな包丁の音が心地良く響く。
「その抱き枕かわいいですね」
「えへっ♪ 私、これが無いと寝れないんです」
 照れ笑いを浮かべる美雲。
 持って出てきたのは寝ぼけてた故だが、可愛いのでOKだ。

 皆が起き出して来た所で、朝食会。
 いただきまーす、と声を揃えて合掌。
「いやー、楽しかったね。これは毎晩でもイイかも」
 味噌汁に口をつけながら、石榴が艶々の頬を緩ませる。
「え、う、うん、まあ‥‥」
 音子の内心は複雑そうだ。
 とそこで、銀菜がぽつりと呟いた。
「ネコちゃんさえ良ければ、暫く泊めて貰っちゃいましょうか〜‥‥」
「ホントに!? い、いいよ! ぜひ!!」
 銀菜の手を取り、詰め寄る音子。
「じゃあ私もいいよね♪」
「う‥‥うん! 石榴さんもお願い!」
 何かを天秤にかけた結果の決断らしい。
 音子の表情は、若干覚悟を決めたものだった。
 どうやら、楽しい夜は今日も続く──?