タイトル:sweet suiteマスター:間宮邦彦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/08 15:21

●オープニング本文


「写真を撮らせてくれ?」
「うん。ダメ?」

 カンパネラ学園の食堂で、二人の若い女性がテーブル越しに向い合って座っている。
 白衣を着た背の低い方は、カンパネラ学園地下研究所の第三キメラ研究室主任、羽住秋桜理(はずみしおり)。
 可愛らしい服装の方は、傭兵稼業を営みながら聴講生として学生気分も満喫中の、野宮音子(のみやおとこ)。
 友人である二人が食後の雑談に花を咲かせていたところ、音子の方が不意に切り出した話題が、被写体になってほしい、というものだった。

「ダメっていうか、意味がわからない」
「私がかわいいもの好きなのは知ってるでしょ?」
「そりゃあね」
「物なら買えば手に入るけど、人はそうもいかないじゃない?」
「まぁね」
「だから、写真」
 そう言って音子は、隣の椅子に置いてあったバッグからデジタル一眼レフのカメラを取り出す。
「今日は何を持ってるのかと思えば‥‥っていうかかなり本気じゃないのさ」
「できるだけ綺麗に撮りたいしね」
「撮って、その写真どうする気よ」
「え? 別に普通に見るだけだよ?」
 さらっと答えた音子だが、疑わしげな秋桜理の視線が突き刺さる。
「なによその目は‥‥ほんとに変なつもりないってば」
「まぁあんたの性癖はおいとくとしても、私は遠慮しとくわ。写真撮られるの好きじゃないし」
「えー。秋桜理の好きなお菓子作ってあげるから」
「どんだけ安いのよ、私は‥‥」
 秋桜理は席を立ち、空の食器が乗ったトレイを持ち上げる。
 そのまま立ち去るつもりだった秋桜理だが、あからさまにしょげている友人を見て、困り顔で吐息を漏らした。
「私はご免だけど、学園の掲示板に張り紙でもさせてもらえば? 依頼っぽくすれば、誰か来てくれるでしょ」
 気休めに差し出した助け舟だったが、音子は満面の笑顔で食いついてきた。
「それだ!」

●参加者一覧

植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
新井田 銀菜(gb1376
22歳・♀・ST
ミカエル・ラーセン(gb2126
17歳・♂・DG
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
井上冬樹(gb5526
17歳・♀・SN
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF
シンフォニア・ノアール(gc1032
17歳・♀・FT

●リプレイ本文

●顔合わせ
「あ、ネコちゃんお久しぶりですっ!」
 音子に手を振りながら駆け寄っていく新井田 銀菜(gb1376)の後ろから、おずおずと姿を現したのは井上冬樹(gb5526)だ。
「今回は‥‥宜しく、お願い‥‥致します‥‥」
 その後、ゆっくりと歩いてくるのは冴木氷狩(gb6236)だ。
「正月ぶりやんか。今日もよろしゅうね」
 そう言った後に、どこからともなく茶封筒を取り出し、音子へと差し出した。
 中身を確認した音子が、目を輝かせながら冴木へとお礼を告げると、彼は人差し指を口に当ててポーズを取る。
「後でタップリ堪能したってね」
 最上の笑みの冴木が渡したのは‥‥彼の妹の『萌え萌え隠し撮り写真』達だったりするが、これは音子と冴木だけの秘密だ。
「聞いてないっ! 私はここに集まるようにって言われたから来ただけですよ!?」
 集合場所に来て、今回の目的である撮影会の趣旨を聞いたシンフォニア・ノアール(gc1032)は、顔を真っ赤にして言い放つ。
「でも、折角ここまで来たんですし、ね。ネコちゃんの腕は保障しますから、一緒に写りましょう。ね?」
「あ、もう皆さん集まってたんですね‥‥って、どうかしたんですか?」
 そこに現れたミカエル・ラーセン(gb2126)は、説得している銀菜とそれを受けているシンフォニアを交互に見やって首を傾げた。
「そうそう。せっかく可愛い子を撮ってくれるって言ってるんだし」
 ミカエルと一緒にやって来たのか、橘川 海(gb4179)が彼の背中からひょい、と顔を出して笑ってみせる。
「音子っ! 貴方がお探しの美幼女・空が全力で撮られに来てあげましたよ!」
 とたたたっ、と走って音子へと駆け寄った最上 空(gb3976)が、勢いをつけて音子へと飛びついた。
「違いますよ。えぇ、決して手作りお菓子に釣られたわけではないのですよ! あくまで音子の為です! 人助けの為です!」
「んじゃ、菓子はいらねえっスねぇ?」
 音子の後ろから最上を見下ろしたのは植松・カルマ(ga8288)だ。
 植松の言葉にぐっと唸って、最上は音子を見上げる。
「く、くれるなら貰いますよ」
「大丈夫ですって。全員分用意してますからねー」
 これで役者は揃った。
 早速撮影開始である。

●井上の撮影会
「冬樹、面白い服持って来てるなぁ。ね、着ちゃえばいいじゃん! 俺、こっち着ようかなー」
 井上の持参していた服装の中でミカエルがチョイスしたのは『お雛様』と『お内裏様』のコスチュームだった。
「え‥‥? い‥‥え、あの、私が‥‥着るのは‥‥あの‥‥」
「一緒に着るからさ! ね?」
「それじゃ、撮りますねー。はい、2人とももうちょっと寄って寄って! はい、チーズっ!」
 まずは1枚。
 お内裏様のミカエルと、その横で顔を赤らめるお雛様の井上が綺麗にフレームに納まった。
「このワンピースはお気に入りなんです。普段からよく着てます」
「うんうん。似合ってるよー」
 普段着のゴシック系ワンピース姿に着替えた井上の写真もパシャパシャと撮りながら、音子はにっこりご満悦の様子。
「後持ってきたのは、桜柄の着物なんですけど‥‥」
「着物もいいですよねー! ぜひ!」
「えっと、それじゃあ着替えてきます」
 そして着物姿の井上もパシャリ。
「もうちょっと視線こっちに。うん。そんな感じでお願いしますー」
「こう、ですか?」
「バッチリです!」
 一人目だというのに、音子は既にテンションが上がりまくっていた。

●最上の撮影会
「美幼女参上です! ふっふっふ。音子のハートを頂きに来ましたよ!」
 最上が選んだ撮影ポイントは学園の広場だった。
「普段から美幼女で何を着ても、萌え萌えの空ですが、今回はこのスタイルで!」
「おおー!」
「メイド服にネコ耳。プラス! ネコ手、ネコ足で萌え度アップですよっ!」
 音子以外のギャラリーからも歓声が上がった。
「純真無垢で穢れを知らない清純派美幼女の空の魅力で、音子ごとギャラリーをメロメロにしてやります!」
 にゃーん。
 そんな声が聞こえてきそうなポーズを取る最上に、音子はブラボーと叫びながらシャッターを押し続ける。
「やはり、ネコらしさを演出するには語尾に、にゃんとかつける方がいいですよね」
 頷いて、カメラを見てポーズを取りながら。
「ご主人様♪ 似合うかにゃん? ‥‥流石にコレはアダルティーで空のキャラではありませんね」
「ご主人様抜いて、にゃんだけでもいいと思いますよっ!」
 最早何の為の撮影会なのか分からない。
 それでも最上も音子もハイテンションでギャラリーを巻き込みながら楽しい撮影を続けるのだった。

●シンフォニアの撮影会
「し、仕方ありません。依頼を受けたのは私ですから。‥‥別に、音子の為ではないんですからね!」
 漆黒のホットパンツに同じ色と純白が組み合わされた儀礼服。そしてホットパンツが隠れるか隠れないかという長さのジャケット。
 純白のロングブーツという、太ももが素敵な服装のシンフォニアが、腰に手を当てて睨みつけるようにカメラを見ていた。
「こ、これでいいですか」
 音子が次にこれを着て欲しい、ともってきた物を見てもう一度声を上げた。
「なっ‥‥何ですか、これは!?」
 それは、とても布面積の小さな服。
 ――所謂、ビキニと呼ばれる、水着だった。
「これを着て写真‥‥!? そんな事出来る訳ないじゃないですか!」
 桧皮色のそれは、僅かにシンフォニアには小さいサイズ。
「ねっ! 着てくれたら、これ、大奮発してあげますから!」
 悩んだ挙句、これもお仕事なのだと着る事を選んだシンフォニアだったが。
「ひ、人前!? この格好で、人前でポーズを取って写真‥‥!?」
 次の音子の要求は、表に出てポーズを取って欲しい、という事だった。
「お菓子‥‥」
「うぅ‥‥ず、ズルイですよ‥‥」
 ビキニ姿のシンフォニアを見て、ギャラリーから歓声が上がる。
 それに顔を林檎の様に真っ赤にさせながら、遂にシンフォニアの堪忍袋の緒が切れた。
「あーもう! キャーキャー言ってる暇があったら、勉強でもしたらどうなのよっ!」
「うーん‥‥怒った表情はもう撮らせてもらいましたし、今度はこう、セクシーにお願いしますよ」
 お菓子を人質にしてそう言う音子に、シンフォニアは結局上手く丸め込まれてしまった。
「お菓子を齧りながら‥‥左腕は腰に当てて‥‥腰を、くねらせる‥‥」
 怒り出したい気持ちは大きかったが、お菓子は美味しかった。
 頑張ってポーズを取ったシンフォニアに向けて、パシャパシャとフラッシュが焚かれるのだった。

●冴木の撮影会?
 キャスケットにニットワンピース。そしてロングブーツ。
 服装とその綺麗な顔立ちからは、想像出来ないかもしれないが。
 冴木は、れっきとした男性だ。
 一通り音子の注文通りにポーズを取った冴木は、他のメンバーとは少し違った事をしていた。
「ネコちゃんとも撮らせて欲しいんやけど、まさかカメラマンに徹するつもりとちゃうよね?」
「なら、俺が撮るッスよ! 丁度、銀菜サンも音子サンとツーショット撮るからカメラマンしてくれ、ってお願いされてたッスからね」
 臨時カメラマンとして植松が挙手をして、冴木と音子のツーショット撮影が始まる。
「ネコちゃんのご要望通りのポーズにしよか。どんなでもウチはやるから」
「じゃあ‥‥休日、っていうテーマで。腕を組んで、空いた方の手はカメラに向かってピースとか」
 ポーズを取った2人を見て、思わずカメラマン植松はごくりと唾を飲んだ。
「あー‥‥いいッスねぇ。これで、氷狩サンがほんとに女の子だったら、天国ッスよねぇ」
「植松さん?」
「‥‥了解っス」
 カシャリとシャッターが下ろされて、満面の笑みの音子とふんわり微笑む冴木がフレームに納まった。
 ツーショットが終わった後。
「さぁ、次はネコちゃんが被写体になる番やね」
「え!?」
 ツーショットだけかと思っていた音子が驚くのも無理はないだろう。
「ぜぇ〜んぶ、ウチに任せとき。目茶目茶べっぴんさんに撮ったるさかい」
 褒めて、煽てて、結果音子はカメラマン冴木に色々なポーズを取らされる事となった。
「うん、めっちゃええよ!」
「そ、そうですか?」
「うんうん。ネコちゃんカワイイわぁ。‥‥そう、そのままやで?」
 結果数枚。音子単体の写真がフレームに納まる事になったのだった。

●ミカエルの撮影会
 ミカエルの希望のポーズにはバイク形態のAU‐KVが必要だった為、完全屋外となった。
 カンパネラ学園の制服を身に纏い、バイクに跨っている姿はとても様になっている。
「俺と同じ名前だったから、このミカエルにしたんだよ。海ちゃんほどの拘りはないけどね」
 爽やかに笑うミカエルをパシャリと撮りながら、ふと音子は思い出していた。
 冬樹とのツーショット写真を撮った時の彼は、やっぱり笑顔ではあったけれど、爽やかというよりは、何か悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
 制服とバイクのショットを撮った後は、屋内で普段着撮影に移る。
 ダメージ加工のTシャツと、リベットの打たれたボンテージパンツ。
 上下とも黒で統一されているが、Tシャツにはアクセントとして赤いペイントが入れられている。
「所謂パンク系、っていう服装ですね」
 そういいながら、備え付けのソファに寝転がってカメラを見上げるミカエルは、まるでアイドルの様だ。
「‥‥伊達ワルに対抗してるわけじゃないですよっ」
「そんな言い訳な瞬間のミカエル君も、激写っ♪」
 そんな撮影風景を見ていた井上を見つけたミカエルは、にっこりと笑った。
「冬樹、こっち来て? 一緒に撮って貰おうよ」
「え、あ‥‥はい。構いませんけど‥‥」
 近寄ってきた井上の肩に腕を回して、ぐっと体と顔を寄せるミカエルは悪戯が成功した、といわんばかりの笑顔だ。
「‥‥‥‥え‥‥‥‥え‥‥!?」
「はいカメラあっちね。音子さん、宜しくお願いしまーす」
「はーい。お2人さん、チーズっ♪」
 真っ赤な顔をしてこれ以上となく混乱している井上と、悪戯成功、と笑うミカエルがフレームに納まった。

●植松の撮影会
「まず目指すは『伊達ワル』ッスよ」
 オールバックのままスタイリッシュグラスをかけ、竜や色々なデザインがプリントされた黒のTシャツに同じく黒のレザージャケット。
 ダメージジーンズにシルバーアクセをジャラジャラとつけて、黒いブーツを履く。
「チョリーッス! 俺即ちイケメンのご登場! さぁ惚れてくれて構わないッスよ!!」
 両手はボトムのポケットに突っ込み、気だるそうに立つも、表情は自信に満ちたものだ。
「目指せ全身から滲み出る伊達ワルオーラ!」
「私、かわいい子を撮りたい、ってお願いした気がするんだけど‥‥」
 ポツリと呟かれた音子の言葉は、幸い聞こえなかった様子。
 服装をチェンジして、次のコンセプトは『インテリ』だ。
 髪を下ろし、知的な眼鏡をかけて、服装はカンパネラ学園の制服。
「たったこれだけであら不思議。インテリタイプのイケメンの出来上がりッスよ」
 すちゃっと眼鏡を上げるような仕草をして、フッ、とクールに微笑む。
「どうッスか。どなたか美女の方! 俺とポッキーゲームやろうぜポッキーゲーム!」
「インテリ目指してるのにその台詞で台無しになりますよっ! 黙って笑ってて下さい!」
 音子の言葉以外にも、ギャラリーからガンガンと文句が飛んできてしまう始末。
「‥‥え? うるさい黙れ? ハイ、マジすんません‥‥」
 しょぼん、と肩を落としたその姿はアンニュイに見えて、一番インテリに近かったというのは、内緒だ。

●橘川の撮影会
 音子が呼ばれたのは何故か整備場だった。
「待ってましたよねこさんっ! さぁ! かわいいこの子をじゃんじゃん撮ってあげて下さいねっ!」
「‥‥これ、AU‐KV、ですよね?」
 困惑する音子と、不思議そうに首を傾げた橘川で、どうやら見解の相違があったらしい。
「うー、かわいいとかいうから、つい‥‥バイクの事かと思ってました‥‥」
「らしい、んですけど。私はかわいい人間の子を撮りたかったんです〜」
「かわいいこの子達を撮ってもらおうと、徹夜したんです‥‥」
 眠そうなのはそれが原因だった様だ。
「何枚かは撮りますから。そんなしょんぼりしないで下さい」
「ありがとうねこさん‥‥」
「でも、海さんの写真も撮らせてもらいますからねっ! 勿論!」
 言われて橘川は自分の服装を見る。
 徹夜で整備していたおかげで、制服のブラウスに作業用のサロペット。
「‥‥ねこさん。ねこさんのお部屋で写真撮ってもらう、でもいいですか?」
「いいですよー」
「カーディガンか何か、貸して貰えると嬉しいんですけど」
 橘川のお願いに、音子は笑って頷いた。
 音子の部屋で、話をしながら写真を撮る事になった橘川は、申請通りにカーディガンを借りて羽織っていた。
「いつか上手に整備が出来て、あのコたちの力を十分に引き出してあげたいなあって」
 目を閉じて、両手を胸の前で組んだ姿で夢を語る橘川を、音子はファインダー越しに微笑みながら見つめる。
 無意識だろうけど、素敵なポーズと表情だ。
 カシャリ、とシャッターが下ろされたのだった。

●新井田はお手伝い
 1人で写るつもりのなかった新井田は、実は他のメンバーの撮影会時に音子の助手として手伝いをしていた。
「でも、1枚も撮らないなんて、可愛いのに‥‥」
「なら、音子さん一緒に写真を撮らせて頂いてもいいでしょうか?」
「再び臨時カメラマン植松登場! さ、美人さん方寄った寄った!」
 立候補したのは、音子と冴木のツーショットの時にもカメラマンを務めた植松である。
 音子の希望通り、腕を組んで顔を寄せて、カメラに向かって笑顔でピースする新井田と音子を見て。
「美人2人が顔寄せ合うとかマジ眼福っしょ‥‥やべ。ちゃんと写真撮らねーと」
 ついつい見入ってしまいそうになる自分を叱咤する植松の事等露知らず。
「はい、音子さん、ピース!」
「うわっ! 銀菜さん顔すっごく近いですよ〜」
 照れる音子と、にっこり笑顔の新井田が、フレームに納まった。
 ちなみに。
 照れた音子が可愛かったから、と新井田は他にも色々なポーズでツーショットを満喫したのだが。
 それは2人とカメラマンだけの秘密だ。

●記念撮影
「最後に集合写真を撮りましょうよ! 確か、タイマー撮影とかありましたよね?」
「いいッスね! 楽しそうッス!」
「ええ考えやぁ思うよ」
「冬樹、俺の隣に立たない?」
「え‥‥あ、はい」
「センターは空が頂きます!」
「ちょっと、モタモタしてたらタイマーの時間が‥‥」
「もうちょっと、もうちょっと眠いの我慢しなくっちゃ‥‥」
「時間ですよー」

 パシャリ、とフラッシュが焚かれたカメラの最後のフィルムには。
 少しドタバタとしながらも、皆が笑顔で楽しそうにしている1枚が写されたのだった。



(代筆:風亜智疾)