タイトル:【SV】Catch the すいかマスター:牧いをり

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/27 19:49

●オープニング本文


『Vacation』
 南半球だったら冬真っ盛りのこの時期であるが、大平洋上を運行する人工島ラスト・ホープには四季らしい四季がないが、地球の人の住める陸地の大半が北半球に存在する為か、この時期に相応しい長期休暇と言うと夏休みと言う言葉かも知れない。

「夏休みと言えばリゾートですよね」
「海水浴かなぁ‥‥花火大会もいいですよね」
「‥‥夏休みと言えば、実家で墓参りだ」
「田舎で食った井戸で冷やしたトマトは最高だった」
「ウチの田舎は、町内会で肝試しとかありましたねぇ」
「夏休みと言えば自由研究を思い出す」
「今年こそはショッピング三昧に100万Cの夜景でディナーよ」
「クルージングも楽しいですよ♪」

 夏休みと言う言葉に連想されるイメージは様々である。

 そんな夏の1日。
 あなたは何を体験するのだろう。

*****

 夏の強い日差しが降り注ぐ、九州某県某市のビーチ。キラキラと水を跳ねて、人々は海水浴に興じていた。

 ヒロシはサークル仲間と一緒に夏のひと時を楽しく過ごしていた。
 彼のお目当ては白の水着姿もまぶしい、ひとつ後輩のヨーコである。
 波打ち際でビーチボールで遊び、そろそろ休憩、と気をきかせたのか友人たちがヒロシとヨーコを残してシートのほうへ戻っていった。
 ヒロシが心中で拳を握り締めたところ、急にヨーコが「あ」と頓狂な声を上げ、出鼻をくじかれる。

「どしたの、ヨーコちゃん」
「先輩、あんな所にスイカが」

 こう書くと実に事務的な口調のようだが、実際は、センパアァイ、あんなところにぃ、スイカがぁン、というふうなしゃべり方である。

「スイカ?」

 ヨーコが指さす先‥‥海の方向には、確かに緑色に黒いシマの入ったスイカらしきものがぷかぷかと浮かんでいる。

「ビーチボールじゃないの?」
「そうかもしれないけどぉ、だれも取りに行かないのかなぁ?」
「流されたのかもね」
「あ、先輩、あっちにも」
「え?」
 そちらのほうでは、同じような緑に黒シマの丸っこい物がかなりのスピードで海を横切るように移動している。
「なんだ、ありゃ」
「あ、せんぱーい、あっちも」
 そちらのほうでは、やはり同じような物が大きく浮いたり沈んだりしながら少しずつ移動していた。

「なんでしょうね、あれ」
「さあ‥‥」
 2人はしばし首を傾げたが、ヨーコがさもいいことを思いついた、というように胸の前でぱん、と手を打った。
「先輩、あれ、取ってきてくださいよぉ。スイカだったら、みんなで食べましょうよぉ」
「えーっ、食べんの? つか、ビーチボールだって。スイカが浮いてるわけないじゃん」

 とかなんとか言いながら、ヨーコに擦り寄られて悪い気はしない。
 いちばん近い、浮いているだけのスイカはちょっと泳げば行きつける距離だ。
 水泳部で鍛えたウツクシイ水泳フォームを見せる機会にはなるだろう。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
 と言い置いて、さて海に入ろうとしたとき、
「あ、せんぱい、やっぱり、あの流れてくのがいいな! だって、元気そうだもん!」
「おいおい」
 ヒロシは苦笑しながらも、海をずいーっと横切っていくスイカのほうへ泳ぎだした。

 ところが、このスイカがかなりのスピードで移動している。
 ヒロシもがんばって泳ぐのだが、なかなか追いつかない。
 いや、もうすぐ追いつく、と思ったところでスイカは逃げるようにぐっとスピードを上げるのだ。

(「なんだこりゃ?」)

 へろへろになってきたころ、急にスイカがぴたりと止まった。

「お、とうとう観念したか」

 近づいてみて、その丸い物の表面が、ビニールの質感とは明らかに違うことに気づく。

(「マジでスイカなの?」)

 ヒロシは手を伸ばして、それに触れた。

 ぺちり。

 紛れもないスイカの感触。

「せんぱーい、どおですかー?」

 遠くからのヨーコの声。

 答えようと砂浜のほうを振り返ろうとしたとき、いきなりスイカがぐるりと‥‥まるで「見ぃたぁなあ〜」と昔話のお化けか幽霊みたいに、あるいは「待ってたわ」と浮気のバレたフタマタ彼氏を待ち受けていた彼女のように、ぐるりと首をめぐらせた。

「ぎぃええええええええ」


*****


 猛スピードで海を泳いでいたすいかんはまだ泳いでいた。

 自分より泳ぎのうまい者はいないものだろうか。

 人語に訳すとそんなかんじのことを考えていた。


 どぼんどぼん浮き沈みしているすいかんは、必死で犬かきしていた。

 自分の生きる場所は海ではないかもしれん。

 人語に訳すとそんなかんじのことを考えていた。


 そんなわけで、一方は泳ぎ続け、もう一方は海水浴場封鎖のために誰もいなくなった浜辺に上がった。

 陸に上がったすいかんは、嬉しくなってくねくねへこへこ踊りだす。
 海のすいかんは泳ぎ続ける。挑戦者を待ちながら。


 最後の「スイカらしき物」は、ただぷかぷか海に浮かんでいた。
 こちらは本物のスイカだったので、別段思考は行っていなかった。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
蓮沼朱莉(ga8328
23歳・♀・DF
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
桜塚杜 菊花(ga8970
26歳・♀・EL
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
綾瀬欄華(gb2145
18歳・♀・SN

●リプレイ本文

●登場
 青い海、白い砂。絵に描いたような夏のビーチ。
 だがそこに、波間に遊び、砂上で肌を焼く人々の姿はない。砂浜で夏を満喫しているのは、あろうことか2匹のスイカ人間キメラ。

 そこへ夏の平和を取り戻すべく、水着姿の能力者たちが降り立った!

「本当に踊ってますね! なんという面白いすいかんさん‥‥!」
 豊満な胸を揺らしつつ、お気に入りのピンクと黒のゼブラ柄水着姿で蓮沼朱莉(ga8328)が現れた。

 続いて現れた桜塚杜 菊花(ga8970)は顔をしかめていた。青地のビキニの左胸と右腰には大輪の花。その胸の辺りがちょっと苦しい。
「ん‥‥まさか‥‥また胸育ったかも?」

 さらに、婚約者のレイアーティ(ga7618)に伴われ、ピンクのビキニの御崎緋音(ga8646)。ブラのフリルが本人の雰囲気にぴったりで可憐である。
「早く終わらせて、たくさん遊べるといいですね」
 緋音はにっこり笑いかけ、レイアーティは「そうですね」と返す。そんな彼、実は緋音の水着姿について感想を述べたいのだが、照れているのかやや無口。

 後からおずおずと歩いてくる綾瀬欄華(gb2145)の、水色の花柄ビキニはパレオつき。
 自分のスタイルにあまり自信のない欄華は恥ずかしげに頬を染め、胸の辺りを手で隠しながらビーチに出る。逆に目立ってたりして?

 ひとり大曽根櫻(ga0005)がセーラー服姿で現れる。忘れたわけではなく、スクール水着を持参したのだが‥‥。
 胸の辺りがものっそいキツそうなスク水姿の彼女を見た女性陣が、「それは、いろいろヤバい」との意見で一致し、「なぜでしょう?」と首を傾げる櫻に「男は狼よ、云々」と誰が言ったか言わないか、ともかく海の家が再開したら別の水着を探すことになった。

 少し離れて、入念に準備体操をしているカルマ・シュタット(ga6302)。
 我が物顔で海を泳ぎまくるすいかんを見て、水泳部であった学生時代のころの血が騒ぎ出し、勝負水着‥‥もとい、競泳水着に着替えて現れた。両サイドについた赤い炎のデザインは、暑苦‥‥じゃなかった、熱く燃え上がる漢の闘争心だ。

 監視台に陣取る紅月・焔(gb1386)は、武器は脇に置いて、望遠鏡の向こうに広がるなんかもういろいろたわわに実っちゃってる風景にもう夢中。
(「ぐぐぐ‥‥実にケシカラン眺めだ! 女性陣を監視せよ!」)
 ステキなお役目。

●すうぃむ
 泳ぐすいかんの担当であるカルマ、レイアーティ、緋音、欄華の4人はゴムボートを引っ張りながら波打ち際に向かう。
 カルマとレイアーティは先に水泳勝負のために海に入り、緋音と欄華はボートでその後を追った‥‥のだが、しばらくすると、レイアーティがボートのほうに戻ってきた。
「どうしたんですか?」
 心配そうに尋ねる緋音に、レイアーティは、
「シュタット君が、ぜひ自分に勝負させてほしいと言うので。それに私も‥‥できる限り緋音君のそばにいたいし」
「レイさん‥‥」
(「あ、あはは‥‥仲いいなぁ、この2人」)
 欄華はなぜか一人照れていた。

 そんな中、カルマとすいかんの水泳勝負が始まりつつあった。

「そこのキメラ! 俺が相手になってやる!」
 カルマが近づいていくと、はたはた泳いでいたすいかんの動きが止まり、きょろりとカルマのほうを見た。
「いいか、あのブイまで行って、ターンする。向こうに見えるボートがゴールだ。いいな?」
 キメラは人語を解さないが、カルマがブイを指さし、ぐいん、とUの字を描いてその指を背後のボートのほうへ向けると、なんとなくはわかったのかすいかんはカクン、とうなずいた(ように見えたが、眠かっただけかもしれない)。

 ともかく、「よーい、ぱんっ」でカルマがクロールで泳ぎ出すと、その勢いに釣られるようにすいかんも泳ぎ始めた。

 すいかん、やや出遅れたか、カルマは快調にとばしている。ダイナミックなフォームだ。呼吸のリズムもいいぞ。すいかん、どういうフォームなのかよくわからないがぴたりとカルマを追っている。不気味ですね、途中でカルマ君を沈めたりしなければいいのですが。そうこうしているうちにもうターンだ。ブイを回って‥‥おっと、ここでカルマ少し流れた! プールとは勝手が違ったか? ここですいかんが並んだ! 両者ともものすごい勢いだ。どちらも譲らないぞ、行けカルマ、ラストホープの最後の希望(あ、ダブった)。あっ、カルマ君、出ましたよ! 頭ひとつリード、来い、カルマ、ずずいと抜けて来い! いいぞ、あとひとかきだ‥‥今ゴオォォル、やった、やりました! やったああ! カルマ・シュタット、見事な泳ぎを見せつけましたあぁぁ‥‥!!


〜カルマ・シュタットの「こう泳げ!」〜
 水泳というのは感覚が重要なスポーツなんだ。手の平で水を掴む感覚、足を動かすリズム‥‥いろいろある。
 クロールの場合、手をかいても体は常にまっすぐ、芯が通っているかのように左右にぶれないことが重要だ。
 それから、スポーツマンシップも忘れずにな。になにな‥‥(エコー)。


「ふう‥‥なんとか勝ちました」
「すごく速かったです!」
「シュタット君、お見事」
「まあ、それほどでも」
 声援に答えると、後ろに浮かんでいるすいかんを振り返る。
「上には上がいるってことだ」
 すいかんはじいっとカルマを見ていたが、すい、と寄ってきた。
 競技の後は仲よくしましょうのスポーツマンシップにのっとり、カルマは無言で手を差し出す。
「わっ!」
 キメラがいきなり噛みつこうとしてきたので、カルマは慌てて手を引っ込めた。
「やはり、キメラはキメラか‥‥」
 競争に負けて失意を覚えたのか、すいかんは沖に向かって泳ぎ出した。

「逃がしませんよ!」
 欄華は「ショートボウ」をきりきりと引き絞って矢を放つ。
 ひょおん、と潮風を切って飛んだ矢は、すいかんの頭にぷすりと突き立った。ヘコっと首を傾けながらも、すいかんは頭に矢を生やしたまま泳いでいく。
 ついで、ボートに上がっていたレイアーティの得物が火を噴き、すいかんの肩の辺りに当たって何か赤いものがぱっと海に散る。
「次は私ですよっ。え〜いっ!」
 どこか楽しげに、緋音がしぱぱぱ、と「スコーピオン」で撃つと、スイカがぼぼんと爆ぜ、哀れを催す姿と成り果ててぷかりと海に浮かんだ。
「‥‥やったぁ♪ 当たったよぉっ♪」

 まずは一体。

●だんす
 朱莉と菊花はバトルを挑むべく、やたらと体をくねらせていた浜辺のすいかんの前に立った。櫻は少し離れたところで刀を構え警戒している。

「私も負けませんよ!」
 朱莉も負けじと見事にくびれた腰を左右に振って、セクスィベリーダンスを披露する!
 すいかんはスイカのつるが柔らかく力強く伸びるように体をくねらせるが、ぴょろんくるんにょろんと関節を無視したような動きのようにも見えてくる。
 そのデタラメな動きを見ているうちに、朱莉は調子が狂ってしまった。
「あれえ? なんだか違うところが‥‥」
 ぷるんぷるん、ぽいぃん。
「いやああん」


〜監視台の焔君〜
 うおっ、すげっ! 行けっ、朱莉さん、もっと振れ! すげっ、おいっ、どーすんだよ俺! とりあえず目視で測るのダ。いえっさ!


「ああん、くねくね対決は私の負けかもですが、次は負けません!」
 と、いきなり朱莉はぱぱんがぱんと盆ダンスを踊り始めた。
「あ、それ。よいしょ」
 昼間の砂浜、水着美女の盆踊りをどう見たのか、すいかんははたと動きを止めた。
 それからくいーっと首を大きくかしげ、体全体で「?」を表現しているような体勢だったが、そのまま重い頭に引っ張られるように体が大きく傾き、しまいにはぼすん、とスイカが砂浜にめり込んだ。
「あ、あら? 大丈夫ですか?」
 朱莉はびっくりしたが、すいかんはにょっと脚を上げて倒立し、腕で勢いをつけると頭を支点にぎゅるぎゅる回転し始めた。
「いったあぁい」
 砂粒が飛んできて、悲鳴を上げながら朱莉は避難する。


〜監視台の焔君〜
 あ、こりゃ、アレだ。きっとスイカにとって盆踊りはプロポーズなんだな。そんであのすいかん、照れてやがるんだ。「オーノー、能力者の女性は積極的デ〜ス! しかし、ぼくとあなたは敵同士‥‥所詮は結ばれない運命。それに、ぼくにはもうスイ子という将来を誓い合ったスイカが‥‥地面に穴掘ってお詫びしますだ。ぼんじゅーる、じゅてーむ、あでぃおーす」ってこのヤロー、スイカのくせに生意気ナ! ユルセン‥‥。


 一方、菊花は目隠しをして手に釘バットを構え、精神を集中させていた。


〜菊花さんの「楽しいダンスバトル」〜
第5章 VSスイカ
 踊り手はハチマキ等で目隠しをしましょう。
 踊り手は手に凶器を持つ。禍々しいほどよし。
 ぐるぐるとその場で何回かターンし、ゆらゆらと優雅にスイカに近づいて‥‥凶器を振り下ろす! メリハリをつけるのがポイントね♪


 やおら釘バットをヌンチャクのようにびゅんびゅんと振り回すと、びしりとポーズを決める。華麗にターンを繰り返し、ゆらりと艶めかしい足取りで、思い定めた方向に数歩進む。ビーチサンダルのつま先まで美しく。鳥が翼を広げる優雅さで頭上に釘バットを振りかぶる。
「天誅っ!」


〜監視台の焔君〜
 菊花御姉様‥‥その動き、素人じゃないね‥‥俺、どこまでもついていきます。「いいよ、焔。あたしの胸に飛び込んでおいで!」おねーたまー! むぎゅう。


 がすっ

「あれ?」
 歩き出す前に回りすぎたのか、菊花は外れたところを耕してしまった。
 
 SES搭載の武器でないと割れないんだよね、一応キメラだし‥‥と寂しく思ったのかどうか知らないが、すいかんは回るのをやめ、砂にめり込んでいた頭を引き抜き、再び両の足で浜に立った。が、回りすぎて疲れたのか棒立ちである。

「では、次は私が。よろしくお願いいたします」
 ぺこりと一礼して、櫻が「蛍火」を携え進み出る。
「それっ」
 すぱりと一閃、キメラの体から飛び散った黄色い液体が浜にぽとぽと落ちた。
「私も!」
 朱莉も「バスタードソード」を思い切り振り抜く。覚醒すると胸が減るので、さりげなく胸元を隠しつつ。スイカは一刀のもとに真半分になり、ずるりと砂上に滑り落ちた。
「‥‥黄色いスイカですね」
 櫻がつぶやくと、すいかんの体は前のめりにどうと倒れた。
「きれいに切れちゃったわね」
 菊花は残念そうに釘バットを見つめた。


「ふう‥‥今日も一日よく働いた」
 額の汗をぬぐって、焔は武器を拾い上げた。
 望遠鏡を押し付けすぎたせいで目の周りに丸く跡のついた顔が、妙に清々しかった。

●戦い終わって
 すいかんの始末が済むとビーチの封鎖は解け、能力者たちも夏のビーチを満喫すべくさっさと武器をしまいこむ。

 カルマ、朱莉、菊花の3人は海の家で腹ごしらえ。焼きそば、フランクフルト、とうもろこし、ラーメン‥‥片端からオーダーする。
「焼きそばおかわりおねがいしまーす!」
 元気な声が響き、海の家はてんてこまい。
 大食い選手権のような嵐を巻き起こし、腹がくちくなった3人は砂浜に戻った。


 その間、櫻は水着を探していた。
 迷っていると、店のおばちゃんが「これなんてどう?」と勧めてきた。
「え、でも、ずいぶん‥‥」
 布地が少ない。
「若いんだから、これぐらいで丁度よ」
「はあ‥‥」
 勧められるまま、「なんとなく隠している」といった程度のビキニを入手してさっそく着替え、櫻もビーチに戻った。


「お願いしてもいい?」
 緋音は小さく首をかしげ、日焼け止めクリームと、焼くためのオイルの両方をレイアーティに手渡した。
「美白肌か、健康的な小麦色か‥‥今のお気持ちはどっち?」
 レイアーティはしばらく真顔で悩んでいたが、クリームを取って緋音の背に塗り始めた。
「‥‥緋音君、その水着‥‥似合ってますよ」
 真顔を保とうとしたが、どうしても赤面してしまう。
「え?」
 わずかに横顔を見せた緋音も、ぽっと頬を染めた。

●ビーチバレー
 誰からともなくビーチバレーをしようとの声が上がり、能力者たちは、戦闘の際に海に出た者と浜に残った者の2チームに分かれてコートに立った。
 負けチームは砂浜に埋められ、勝利チームはその目前でかき氷を食すという罰ゲームつきだ。

 試合はビーチでのお遊びと言うには激しく、足を止めて勝負の行方を見守る人もあるほどだ。
 汗を飛び散らせ、砂まみれになりながら、互角の勝負が続く。
 合間合間に、コートの別なく怪しい行動を取っている煩悩男が約一名。そのせいもあってか、海チームのほうにマッチポイントが訪れた。

 海チームからサービスされてきたボールを、朱莉が絶妙の位置にセットする。
「菊花さん!」
 走りこんだ菊花が、
「今! 必殺の! 爆裂稲妻アターーーーック!!!」
 と打ち抜こうとしたとき、突如「隙あり!」と向かってくる怪しい影。
「何っ!?」
 反射的にその影に向かってアタックをかましてしまった。

 ばぎいっ
「へぶっ」

 ボールはネットを越えることなく、影の正体――焔の上でひとつ跳ねて砂上に転がった。

「ほ〜む〜ら〜」
「か、体が勝手に‥‥」

 決着はついたが、負けたほうはおさまらない。

 朱莉はぎっと焔を振り返った。
「焔さん、出番です!」
「はい?」
「監視台でヒマだっただろうから、活躍の場をあげようじゃないの」
 菊花はこめかみをひくつかせつつ、微笑を浮かべて言った。
「はへ?」
「皆さん、それでいいですか?」
「異議なーし」

 というわけで、負けチームの代表として焔は砂浜に埋められることになった。

「え? ちょっと、深く掘りすぎなんじゃ? ね? あの‥‥」
「大丈夫、大丈夫」
 思い切り砂をかける女性陣の目にはどこか大丈夫でない光があった。
「大丈夫ですよ。置いて帰ったりしませんから」
 無表情のレイアーティ。
「紅月さん、試練です。俺もつらいです」
 言いながら、カルマの唇の端は笑いをこらえて引きつっている。

 能力者たちはかき氷を買ってくると、砂に埋まっている焔の前でおいしそうに食べ始めた。
 豪快に食べるカルマの横で、緋音とレイアーティが仲よく、「はいっ、あ〜ん♪」と楽しそう。
「みんなと楽しみながら食べるのっておいしいね!」
 欄華が笑顔で言うと、皆は賛成の声を上げた。

 かき氷が終わってずいぶんしてから、ようやく焔は砂から出してもらえた。
 それからは、思い思いに海を楽しむ能力者たち。

 朱莉は浮き輪で海をたゆたい、「やっぱり海、大好きです♪」とご満悦。
 櫻ものんびりと波間に遊んだ後、少し寒さと空腹を覚えたので海の家で海の幸を満喫した。
 緋音とレイアーティは、波打ち際で水を掛け合って遊んでいる。
 菊花は、長い髪をくるりとアップにまとめ、焔に背中にオイルを塗ってもらっていた。
「焔〜、背中の紐はずしていいからムラ無く塗ってね〜」
「喜んでー!」
 大役をおおせつかった焔は、丁寧に、えらい丁寧にオイルを塗ってあげたのでした。

(おしまい)