タイトル:人魚の足跡マスター:牧いをり

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/05 17:57

●オープニング本文


 日本海側にある某漁村でのこと。

「あんたがた、今から海へ行くんか?」
 浜へ向かおうとしている男女の二人連れとすれ違い、老婆は思わず声をかけた。

 太陽はとうに沈んでおり、小さな漁村はすでに夜の静けさに包まれている。
 電灯はぽつぽつとしか立っていないが、月のおかげで意外に明るい。
 それでも、夜に浜へと向かう人を呼び止めずにはおれない事情が、この漁村にはあったのである。

「ええ、そうっすけど」
 片手には花火の袋を提げ、片手には棒のような物を持った長髪の男は、「聞かれたから一応答えた」というような気のない声で答えた。
「あんたがた、どこから来たかしらんが、ここらには化け物が出る。夜になると海から出てきて、浜をうろつくんじゃ。花火はよそでせえ」

 そもそも浜辺での花火は禁止だが、老婆はただ脅かすために化け物の話を持ち出してきたわけではない。
 この夏になって、漁師は何度も4〜5匹の群れをなして海を泳ぐ黒い影を目撃している。それが出ると、投じた網をくいちぎられたり、船底からガリガリかじっているような音がしたり、ひどいときには漁船をひっくり返りされそうになったりするため、おちおち漁もしていられない状態なのだ。

 その上、夜になると砂浜を徘徊するらしく、月のきれいな晩の翌朝には、明らかに人間のものではない足跡がぺたりぺたりと砂の上に残っている。
 もともと観光地ではないため、観光客の被害は出ていない。漁村の若い者のうちには、好奇心にかられてこっそり見に行った者もあるようだが、夜うなされるようになったりひどいときには発熱したりで、見に行って得をしたものは一人もいなかった。

 だが、よそから来た若い男女は老婆の話を恐れる風もなく、逆ににんまりと笑った。
「俺たちね、その噂を聞いてここまで来たの」
「そうそう。人魚が出たってコトなんでしょ!」
「何が人魚なものか」
 老婆は呆れ果てたが、カップルははしゃいだ声を上げている。
「おばあちゃんも知ってるだろ? 人魚の肉を食うと、不老不死になれるんだってハナシ。
 俺がばっちり退治してやるから。そしたら、おばあちゃんにも分けてやろうか?」
 男は手にしていた棒――よく見るとそれはモリのようだ――をわざとらしく構えて見せた。

「あんた、不老不死になりたいのかね」
「俺は遠慮。でも、絶対なりたいヤツはいるよ。そういう金持ちに高く売りつけて、俺は金をもうける。需要と供給ってやつ?」
「それにね、最低でも画像はとるからさ、けっこーお金になるハズなんだ。まだ、テレビ局とか来てないんでしょ?」
 女のほうは撮影係なのか、ビデオカメラを手にしている。

 老婆は半ば諦めながらも最後の警告を発した。
「悪いことは言わん。はよう帰れ」
 だがやはり、2人は耳を貸そうともしなかった。
「じゃあねえ、おばあちゃん!」と場違いに明るい挨拶とともに、浜辺へと消えていった。

*****

 数十分後。
「たすけて‥‥誰か‥‥」
 肩口から胸元を真っ赤に染めた男を半ば引きずるようにして、泣き喚く女が道を引き返してくる。

 老婆に頼まれて様子を見に行っていた漁師たちが2人を保護し、男は意識不明、女は錯乱状態のまま隣町の病院まで運ばれた。
 映像どころでなかったらしく、写真も画像も何一つ残っていない。

*****

「言わんこっちゃない」
 翌朝、真っ二つに折れて砂浜に落ちていたモリを見つけ、老婆はぽつりとつぶやいた。
 周りには、化け物を待つ間にでも火をつけたのだろう、花火をしたあとが残っていたが、ほとんどゴミは残っていない。
「はて?」
 首をひねる老婆の背後から、元気のいい声がした。
「おばあちゃん、おはようございます!」
 老婆が振り向くと、そこには十代半ばぐらいの少年がにこにこして立っている。
「ああ、おはよう‥‥」
 挨拶しながらも、老婆は少年の顔に見覚えがなかった。
「花火、ダメ。ぼく拾っておいた」
「それはありがたいねえ」
 老婆が目を細めると、少年は得意げにうなずく。
 そして、その笑顔を崩さないまま、何気ない調子で老婆に尋ねた。
「昨日の夜、人魚、出たね?」
「あんたも人魚が目当てかね? 馬鹿なことは考えんほうがええよ」
「ぼくなら大丈夫。‥‥でも、このままじゃ、みんな困る。
 ぼく、傭兵のお兄さんお姉さん呼んであげる。大丈夫、お金ぼく出す。ね?」

 ぽん、と胸を叩いて、少年は人懐こい笑みを浮かべた。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
猫瞳(ga8888
14歳・♂・BM
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
キムム君(gb0512
23歳・♂・FC
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

●漁村にて
 静かな海沿いの村に到着した能力者たちを磯の香りが出迎える。
 少し行くと、「熱烈歓迎!」と声がかかり、少年が民家の影からひょこっと顔を出す。
「貴方が依頼人ですね。今回はどうぞ宜しくお願いいたします」
 ナナヤ・オスター(ga8771)が丁寧に挨拶すると、少年もぺこりとお辞儀をした。
「ぼく、張小虎(チャン・シャオフゥ)といいます。こちらこそよろしくお願いします。
 ‥‥人魚出た、こっち」
 小虎と名乗った少年は、8人を早速浜辺へ案内しようと歩き出した。

(「ふむ‥‥。依頼人はこの少年であるか。慈善事業でもあるまいし‥‥何か目的があってのことであろうか?」)
 御巫 雫(ga8942)は妙に人懐こい少年にやや疑問を抱いた。村人が困っているのならばキメラを退治しなければならないことは変わりはないが‥‥。
 一方、瓜生 巴(ga5119)は、遠くからこちらの様子をうかがっている村人たちの顔をさりげなく観察していた。が、特にその外貌に変わったところはない。魚人の村というわけではなさそうだ、と確認してほっと小さく息を逃す。

「お兄さん、バイクかっこいい!」
 道すがら、小虎は嵐 一人(gb1968)のリンドヴルムに目を留め、はしゃいだ声を上げた。
「だろ? おまえもあと5年もすれば乗れるよ。ま、こいつに乗るには適性が必要だけどな」
「5年もいらない。ぼく、もうすぐ15歳」
 少年はぷうと頬をふくらませた。体も小さく顔もあどけないので、年齢どおりに見えないのが彼の悩みだ。

「人魚って言うけど、半魚人キメラの間違いじゃないのか?」
 猫瞳(ga8888)が目をくるりとさせて言うと、少年はうなずいた。
「多分キメラ。花火のお兄さん、噛まれて大怪我」
「童話の人魚のようにはいかなさそうですね」
 少し残念、というふうにセレスタ・レネンティア(gb1731)は小さく肩をすくめる。
「え、違うの? 俺、人魚が見たかったのに」
 キムム君(gb0512)は目を丸くする。
「人と魚の間、これ、人魚。無問題」
 少年はニコニコして応じる。
「人魚はともかく、漁師にとっては漁に出られないのはいちばん悲しいこと。ボクも漁師の娘だから、わかります。‥‥絶対倒しましょう!」
 椎野 のぞみ(ga8736)の力のこもった言葉に、能力者たちはうなずいたのだった。

●浜辺
「人魚だ! ファンタジーだ!」
 浜に着いた瞬間キムム君は海に向かって叫んだが、ちょうどそのとき急に強い潮風が吹いたので、最後のほうは皆の耳に届かなかった。

「人魚、この辺りに出た。ぼく、足跡数えた。多分、4匹か5匹」
 砂浜はそれほど広くはないが、うまく引きつけられれば回り込むのには十分だろう。右手には岩場もある。

「さて、夜までに装備の点検をしておきましょうか」
 セレスタの提案で、能力者たちは各々装備を確かめることにした。

 この時間を利用して、雫は抱えていた疑問をぶつけた。少年は見たところ一般人だが、念のためだ。
「理由がどうであれキメラは討伐するが‥‥なぜこの依頼を? この村の者ではないのであろう?」
 問われると、小虎は鼻の頭をちょっと掻いた。
「じいちゃんに頼まれた。じいちゃん、漢方薬屋さん。いろんな研究してる。その材料、ぼく集める。大丈夫、依頼のお金、じいちゃん払う」
「何の研究だ?」
 雫が突っ込んで尋ねると、小虎はやや声を落として答えた。
「‥‥不老不死。これ、内緒」
「不老不死?‥‥眉唾ものの代表格じゃないか」
 一人は呆れたような声を出した。
「興味無いな。朽ちない造花に趣はあるか?‥‥花は散るから美しい」
 雫の言葉に小虎は少し残念そうな顔をしたが、言い返せないらしく黙ったままだった。
 猫瞳もきろりと小虎を見て、
「キメラなんか食べても不老不死なんて効果はないはずだ。バグアに不老不死が使えるのなら、とっくに不死のキメラで地球を占領しきってるはずだもんな」
「うん。でも、じいちゃんの研究、特別。それに、研究うまくいかなかったら、コレクターに売る。無問題」
「え‥‥キメラを集めてる人、いるの?」
 のぞみは思わず小虎を見たが、小虎は「いろんな人いるよ」と笑顔で答えた。

「人魚と不老不死‥‥はて、日本ではそれに関したシスターの話があったような」
 ナナヤが記憶をたどっていると、黙々と装備の点検を続けていた巴が口を開いた。
「シスターって尼僧のこと? それなら、八百比丘尼のことね。人魚の肉を食べて、不老不死になったというけど。
 ‥‥でも、真っ当な科学者なら考えないことね。不老はまだしも不死は」
「だけど、たくさん伝説あるよ。この村にもあるって、村のおばあちゃん、言ってた」
「ただの伝説よ」
「伝説、ときどき、本当のこと混じってる」
「‥‥まあ、不老不死の研究をするのにバグアを参考にするのはありだと思うけど。
 彼らの科学が『優れている』というより、出発点からして違うかもしれないから。生命の発生形態が異なれば、生死の概念や取り扱い方が違って当然だものね」
「お姉さん、賢いね」
 小虎は感心したように言った。

●十六夜の海
 満月を少しばかり過ぎた月は浜辺を照らし、穏やかに寄せては返す波をきらめかせていた。

 能力者たちは作戦通り、二班に分かれて敵を待った。
 囮班は猫瞳、キムム君、セレスタ、一人。小虎もこちらで、敵が見えたら勝手に逃げる、とのこと。
 包囲班は巴、のぞみ、ナナヤ、雫の4人。こちらは岩場の影に身を潜めて浜の様子をうかがう。

「上手く掛かってくれるといいですが‥‥」
 つぶやきながら、セレスタは懐中電灯の光を様々なところに向ける。
 一人もリンドヴルムをバイクの状態にしたまま、ライトを点灯させておいた。
「初の実戦だろ? 緊張するか?」
 キムム君が話しかけると、一人は「別に」と素っ気なく答えた。
「兵舎で散々弄られた鬱憤を、早くキメラにぶつけてやりたいぜ」
「その意気なら、大丈夫そうですね」
 クスリとセレスタが笑う。

 しばらく波音だけが響いていたが、猫瞳がいち早く磯の香りとは異なる「におい」をかぎとった。
「‥‥来る」

 そして、そのにおいは少し遅れてはっきりと浜辺の能力者たちに届いた。



 岩場の4人も顔をしかめていた。
「なんだか生臭い‥‥」
 魚臭さが苦手な巴がまず気づいた。
「でもこれ‥‥魚にしてはにおいが強すぎます。腐ってるみたい」
 のぞみも眉をひそめる。
「来たようだな」
 雫の声に、包囲班は手にした武器を握りなおす。
「数は‥‥4匹か」
「うーん‥‥人魚、というか、これは‥‥子供の夢を壊しそうな姿のキメラだ」
 キメラの姿を月光の下に垣間見て、ナナヤは思わず苦笑した。



「く‥‥くさい!」
 キムム君は思わず叫んだ。
 強烈な異臭が海から砂浜へと迫ってくる。
「来ました!」
 セレスタが懐中電灯で照らす先で、不自然に波が動いた。
 最初の一匹に続き、次々と鱗のある頭が現れ、計4匹の半魚人型キメラが浜に上がってくる。
 海水を滑らかな表皮からしたたらせながら、鱗に覆われたキメラが二足で歩いてくる。指には鋭い爪があり、口内には小さく尖った歯が並んでいる。両目は魚類のものに近かったが、囮班の能力者たちをしっかりととらえているのは明らかで、ゆっくりと近づいてくる。陸上の運動は苦手なのか、それとも警戒しているのか、歩みは遅い。
 ともかく、お世辞にも美しいキメラではなかった。
 十分に引きつけ、キメラの背後を包囲班の影が退路をふさぐようにさっと走ったのを見ると、囮班も攻撃を開始する。

「人魚の生き胆に興味はないが‥‥度肝抜かせてやる!」
 一人は素早くリンドヴルムをアーマーに変型装着し、アサルトライフルを構えて突進した。
「うおおおー!」
 雄たけびを上げ、目的に接近してライフルを思い切りぶっ放す。
 まともに銃弾を喰らった戦闘の一匹は奇声を上げながらも、鋭い爪の一撃を放ってきた。一人は反射的に銃身でキメラの爪を受け止める。同時に脚部装輪を逆回転させ、砂を巻き上げ敵をひるませると体を離す。キメラを突き放すと、早くもキメラは逃亡を始めた。
「おっと、帰るなら土産を忘れるなよ。銃弾をたっぷりサービスするぜ!!」
『竜の爪』を発動させ、銃口を押し付けて弾丸を発射すると、キメラは砂上に伏して動かなくなった。
「ふう‥‥少しはすっきりしたな」

「喰らえ、化け魚!」
 躍り出た猫瞳が、きらりと目を金色に光らせ、2匹目のキメラに超機械空手の電磁正拳突きをお見舞いする。
「さあ来い‥‥クモに絡め取られた蝶よ」
 続いてキムム君が、構えたツーハンドソードで斬りかかった。
「蝶にたとえるほどのものでもないけどな!」
 キメラの爪を避けながら、猫瞳はまた拳を叩き込む。
「乾坤一擲の一撃ッ、豪破斬撃!」
 間髪入れず、キムム君は止めの一撃を振り下ろした。
「一丁あがり!」

 しゃがんだ姿勢でアサルトライフルを構えていたセレスタも、包囲が完了すると同時に、横から回り込むように展開してきた3匹目のキメラを狙い撃つ。3匹目は体液を飛び散らせながら砂の上に倒れたが、それは力尽きたからではなかった。セレスタを見据えて意外なスピードで這い寄ってくると、腰を落としたままのセレスタの腕に牙を立てる。
「くっ!」
 セレスタは痛みに耐えながら冷静に銃の柄でキメラを殴りつけて引き離し、素早く体勢を立て直す。すかさずキメラに銃口を向け、引き金を引いた。
 瀕死の状態ながらキメラはぎいぎいと苦しげな声を発し、海へ逃れていこうとしていたが、やがて力尽きた。
 沈黙を確かめた後、セレスタがはっと顔を上げると、いちばん後ろにいた4匹目の無傷のキメラが海へと引き返していくのが見えた。
「包囲班、お願いします!」



 包囲班は包囲を終えると、それぞれに迎撃体勢を整えていた。
 巴はカプロイアM2007にペイント弾を込め、最後尾にいるキメラに狙いをつけておいた。
 セレスタの声が上がるのを聞いた瞬間、こちらに最初に向かってくる半魚人にペイント弾を射ち込む。夜光塗料が散って、的がくっきりと浮かび上がった。
 ナナヤはライフルを構え、『鋭角狙撃』を使ってキメラの足を正確に撃ち抜く。ぐらりと体がかしぎ、キメラはひざをついた。
 雫がライトとデヴァステイターをハリス・テクニックで構え、キメラを狙撃した。
「‥‥逃げる相手を撃つのは趣味ではないがな。これも仕事だ。許せ」
 被弾したキメラの絶叫とともに、体液がほとばしって砂浜に散る。
「漁師にとって一番悔しいのは不漁でもしけでもない、あんたたちみたいな存在が漁の邪魔をして漁に出れないことよ!」
 のぞみは青い瞳でキメラをにらみつけ、『強弾撃』、『影撃ち』、『GooDLuck』のスキルを同時に発動する。ショートボウから勢いよく放たれた矢はキメラの喉元に深々と突き立った。
 まだ前進しようとするキメラに、追いついてきた猫瞳が『布斬逆刃』と『急所突き』を同時発動した空手の二本抜きを繰り出す。
「喰らえ! 電磁物理攻撃急所指突『猫瞳スティンガー!!』」
 4体全てが動かなくなったところで、皆がほっと息をつこうとしたとき、警戒を緩めずにいたセレスタの声が上がった。
「後ろです!」
 ざばん、と波の割れる音がして、巴の背後の闇から最後の半魚人が姿を現す。
「!」
 振り返る間もなく、キメラが振り回した腕に弾き飛ばされて、巴は砂の上に転んだ。
「まだいたか!」
 雫とナナヤが再び銃撃を加え、ついでバスタードソードに持ち替えたのぞみが、次の攻撃を放とうとしていたキメラの腕をなぎ払う。
 最後は、体勢を立て直した巴がエネルギーガンで止めを刺した。
「最低ね、まったく」
 覚醒のために両手表面に走っていた亀裂が、痛みを残して急速に光を失っていった。

●食べる?
「もういない?」
 どこへ隠れていたのか、小虎が近づいてきて尋ねた。
 セレスタはもう一度辺りを見回し、何もないことを確認した。
「どうやら片付いたようです‥‥」
「依頼完了。ありがとうございました」
 小虎は一同に頭を下げて礼を言うと、キメラの死骸のところで何やらごそごそ集め始めた。一体丸ごと持って帰るわけではなく、ヒレやら爪やら、その他諸々の「部分」を持って帰るつもりのようだ。

 作業を続ける小虎の隣に、キムム君もかがみこんだ。
「俺、ちょっと興味あるんだけど」
「食べる?」
 うなずいて、キムム君はキメラの肉を少し切り取ってみた。
 身の色は赤っぽく魚に似ているが、においがある。さすがにナマでは‥‥と思い、火をおこして炙ってみることにした。

「食べるんですか? ボク、あんまり‥‥」
 言いさして、のぞみは鼻を押さえた。
「俺も、やめといた方がいいと思うな。危険の臭いが微妙にする。
 だってさ、今回の人魚騒ぎは誰かが退治された人魚の肉を食べる事まで計算したバグアのねちっこい攻撃かもしれないぜ〜?
 変な特殊効果のある薬品が魚人の肉仕込まれていたりしてな」
 猫瞳がじいっと「人魚」の肉を見つめながら言う。
 さすがにキムム君も躊躇した。それに、この肉はあまりにも臭い。火で炙ってもにおいはますます強くなる。
「うう‥‥このにおいでは、不老不死を諦めざるをえない。君子危うきに近寄らず‥‥」
「本当に不老不死になりたいの? もしなったら、一生檻に入れられて実験台ですよ」
 巴の言葉に、キムム君は檻の中にいる自分を想像した。
「それに、不老不死になれば、様々な別れと立ち向かわないといけませんしね」
 ナナヤはいつもの困ったような笑顔で話す。
「‥‥死は終わりではない。肉体は新しい命の礎となり、精神は次の世代に引き継がれる。限りある命は、種を残し、多くの命の糧となる。
 不老不死とは生命の輪から外れ、孤独になることだ。私は‥‥それは悲しいことだと思う」
 雫の声は、静かだが凛と澄んでいた。

「これでおしまい。お兄さんお姉さん、どうもありがとう」
 カバンにキメラを詰め込んで、小虎は立ち上がった。
「不老不死、ぼくはなりたいかどうかわからない。でも、なりたい人もいる。いろんな伝説ある。それ、面白い」
 屈託なく笑う小虎に、キムム君が提案した。
「じゃあさ、明日この村で人魚の本を探してみないか?」
「行く!」
「私も興味がありますね」
 セレスタも応じ、翌日3人は人魚に関する伝説を探ることにした。

「俺はその辺りをひとっ走りして来るか。LHの道は面白みがないからな」
 リンドヴルムをぽんと叩く一人の言葉に、小虎が勢いよく手を挙げた。
「行く!」
「リアに乗るか?」
「ぼくより、きれいなお姉さんがいいか?」
「なっ‥‥馬鹿なこと言ってると、途中で振り落とすぞ!」

●翌朝
 翌早朝、漁師に混じって手伝いをするのぞみの姿があった。
「お嬢ちゃん、手伝ってくれるんかね」
「ボク、漁師の娘です。お手伝いしますよ〜!」
 海へ出る漁船を見送りながら、故郷を思い出し、そっと右肩の傷に手を添えた。