タイトル:【VD】ラヴァーズマスター:牧いをり

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/16 00:40

●オープニング本文


●無題
「もう好きじゃないかも〜」

 きみの言葉は 青天のヘキレキ

 昨日買ってたチョコレート
 俺のじゃなかったのかよ〜
 おうおう

 割れちまえ、ハートオゥォォ
 出でよ、ニィキビィィィ

<セリフ>
「いいよ、別に
 俺、チョコレート嫌いだし」

 一生食わねえもん
 食ってやるかよ 馬鹿野郎

 滝涙よ
 風に散れーーーよおおおぉぉぉ

(作詞・作曲:シュウ・ドウメキ)

●ラヴァーズ
 広場を見下ろせるビルの屋上。
 シュウは調子っぱずれの鼻歌をはなずさみ‥‥いや、口ずさみながらアルバイトにいそしんでいた。
 展望台とまではいかないまでも、見晴らしは確かによく、町はもちろんのこと、緑もあれば遠くのほうには海も見える。
 だから、ここでデートをするカップルがいるのも理解はできるのだが、誰が始めたものか、いつのころからか屋上のフェンスの一角は、恋人たちが掛けていった南京錠でいっぱいになっていた。
 シュウが今行っているのは、その南京錠の取り外しなのである。
 バレンタインデイにはまたカップルが押しかけるだろう、ということで、事前に取り外しておく必要があるのだそうだ。
 依頼の合間にちょっとしたアルバイトのつもりで引き受けたのだが、意外に骨の折れる仕事である。

 おもに精神的に。

「『いつまでもいっしょ!』 ね。はいはい、あんたらのお願い、オレがしっかり聞いといたからな」

 ようやく最後の錠を外し終えると、シュウは何気なく広場を見下ろしてみた。

「ん?」

 広場がなにやら騒がしい。
 何か楽しいイベントでもあるのかと思ったが、それにしては何か切羽詰った空気がある。
 事情がよくわからないままとりあえず降りてみると、カフェのほうから逃げてくるカップルと早速遭遇。
「何かありましたか?」
 話しかけたくないが聞いてみる。
「キメラが出たんですぅ!」
「キメラ!?」
「なんつの、こう、像みたいなのが。男と女のさ」
「そうそう、『Lovers』みたいな」
 彼女が言う「Lovers」というのは、広場にある恋人たちのブロンズ像のことで、仲むつまじく寄り添う男女のラブラブっぷりを現したもの。
 それを模したキメラが出たということらしい。

「ま、この時期、ある意味確かに『恐怖の対象』だよな‥‥」
 シュウは妙に納得してつぶやいたのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
キャル・キャニオン(ga4952
23歳・♀・BM
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN

●リプレイ本文

●到着
 能力者たちが到着して目の当たりにしたのは、カップルたちがお花畑で追いかけっこしているような避難風景。
 出口のほうでは、「あんまりべたべたしないでねー、ムカつ‥‥いや、転びますよー」と、カップルたちを棒読みで誘導する声がしている。

 気を取り直し、能力者たちはキメラと相対した。

 ブロンズ像風の2体のキメラは実に親しげだった。親しげ、という言葉では控えめすぎるかもしれない。
 無論キメラに恋愛感情などはないから、あくまでも「そう見える」というだけのことだが、一部の者にとっては喧嘩を売っているようにしか思えない仕様であることも、また確か。

「あまり見ていたい手合いでもない。速やかに片付けるとしよう」
 御山・アキラ(ga0532)の言葉を、傭兵たちはそれぞれの境遇に応じて解釈し、各々納得してうなずいた。

 能力者たちは、各個撃破を狙って行動に出た。

「聖人に代わってお仕置きします!」
 凄まじい迫力でキメラに挑戦を叩きつけると、キャル・キャニオン(ga4952)は『先手必勝』のスキルを使い、女型キメラに向かってばんばん発砲。
 しかし、女キメラをかばうように、男キメラが進み出た。
 キメラのくせに生意気な!
 キャルは口元を引きつらせる。
 ナレイン・フェルド(ga0506)は、キメラを見てほうっとひとつため息。キメラとはいえ生命体。積極的に命を奪うのは彼(女)の本意ではない。
 だが、ナレインは迷いを振り切るように顔を上げると、2体の間を狙って弾丸を撃ち込んでいった。
「相変わらず、時期特有のが出てきますね」
 こちらもため息で、ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)も、『狙撃眼』と『強弾撃』を発動、後衛から敵の足元を狙う。

 徐々に2体の間に距離が生まれてくると、アキラは距離を取ったところからエネルギーガンで男キメラを攻撃。
 とうとうキメラはいちゃつくのをやめて攻撃態勢に入った。
「‥‥よりによって男性型キメラとは‥‥」
 ぶつくさ言いながら、男キメラに向かってクルメタルP−38の引き鉄をひくガスマスクは紅月・焔(gb1386)。
「‥‥まあ良い‥‥無機物にはセクハラも出来んしな!」
 けっこう大きな声だったが、傭兵仲間は誰も気にしていないというか相手にしていない。
 キメラは瞳のないぎらりと目を光らせ、重そうに剣を振り上げ力任せに振り下ろした。
 切っ先というほど鋭くない武器の先端が焔の腕をかすめ、ばぎっと広場の灰色のタイルが砕け散る。
「触んねーっつってんだろっ! あ、もしかして触ってほしいんすかぁ? あ?」
 キメラをおちょくりつついったん距離を取る焔。
「あ? バレンタイン? 何それ? 花火の事ですか? 何英語使ってんすか? 霊長類なめてんすか?」
 エスカレートしている。
「ふ〜む、あんまり動きのよろしくないキメラのようだね。ヒト型でも、ヒトベースとは限らないからね〜」
 後衛でしばしの観察の後、ドクター・ウェスト(ga0241)は『練成強化』を発動し、前衛をサポートする。
 サポートを受けて、ナレインはさらにキメラを狙撃、自ら囮となってメンバーに近づかせないよう気をそらせる。
 別方向からは、アキラがエネルギーガンを一点集中、徐々に腕の機能を奪ってゆき、ハインの矢がそれに追い討ちをかける。
 焔はぱんぱんと適当に撃ってみて、「このブロンズの硬度‥‥まさか! セロリの胸と同じ硬さでは!」と適当なことを言ってみた。
 キメラの攻撃をかわしつつ、ナレインは蹴撃に移ろうとタイミングを計る。
 後衛からドクター・ウェストは『電波増幅』でさらに知覚を強化、エネルギーガンで攻撃。
 衝撃にふらつく敵に、ナレインは『瞬天速』で回り込み『瞬即撃』でキメラの背中に蹴りを叩き込む。
 そこへ、ミラージュブレイドを構えたアキラが『急所突き』と『瞬即撃』で一気にたたみかける。
 倒れたキメラは、何か求めるように腕を伸ばしたが、そのままそこで息絶えた。

「こんな所で暴れるから‥‥私たちはあなたを見逃す訳にはいかないから」
 鮮やかな戦いぶりとは対照的に、ナレインの顔は悲しげだった。

 一方、女性型キメラをにらみつける乙女たちは、というと‥‥。

「一万回と二千回伝えたあ・い・し・てる〜♪ 八千回過ぎたころから反応されなくなーった♪ ‥‥チキショォォ!!」
 地獄の底より深い想いを抱え、100tハンマーを手にした芹架・セロリ(ga8801)は目に涙をにじませる。
「宇宙人が培養したモンスターの分際で、男連れ‥‥。そう、ボクよりワンランク上に居るのですね。うふふ、うふふふふ‥‥」
 がんばれセロリ、あと一億と二千回伝えればなんとかなるかもしれない。
 ともかく、幼き乙女は巨大ハンマーをゆら〜りと振り上げた。
 彼女と肩を並べ、真田 音夢(ga8265)もキメラを前にクスリとちょっと怖い微笑。
「‥‥独りで逝くのは寂しいでしょう。ふふ、ご安心を‥‥すぐにお相手も一緒に送って差し上げます‥‥」
 ほっそりした手指で、「ギリアム」と名づけたワイズマンクロックを愛しげにするりと撫でる。
「あなたたちとは気が合いそう‥‥」
 さらに、キャルの構えるS−01の銀色のボディがぎらりと光る。

 そのとき、キメラが「きゃああ」と声を上げた。
 キメラにしてみれば威嚇のために上げた声なのだが、いかにも乙女らしい悲鳴のようにも聞こえた。

「‥‥今、何か聞こえた?」
「さぁ‥‥」
「『早く地獄に行きたぁい』って言ったんじゃない?」

 ウフフフフフ‥‥。

 叶えてあげようじゃないの。

「可愛く叫べばヒーローが来る時代は終わったのです!」
 キャルはキメラの動きを封じるように銃撃、接近しつつ敵の注意をひきつける。
 その間に、セロリは『瞬天速』で一気にキメラの死角へ回り込み、さらに『急所突き』を発動、両足を踏ん張ってハンマーを水平にフルスイング!
「コレが俺の生き様‥‥だ! ちょいさぁーーー!!!」
 ごいーん、と鐘をついたような音を残し、キメラは見事にぶっ飛ばされる。
 すでにボロボロのキメラに、音夢が飛ばした「ギリアム」の機雷が炸裂。
 さらにキャルは『瞬速縮地』で、よろけつつ立ち上がろうとするキメラの背後に回りこみ、
「あの世でお幸せに!」
 イアリスの『急所突き』でめった斬り。
「まだまだです」
 音夢は『両断剣』を発動して、さらなる一撃をキメラに加える。
「さーて、楽しくなってきたー!」

 いや、あの、もう動いてないのですが‥‥。

「恨むなら、男連れ設定にしたバグアを恨めや!」
「寂しくないですよ、寂しくなんて」
「花かご抱えて男追っかけてても、借金は減らないのよっ!」

 ばぎぃっ、どぉん、ドゴオオォォッ

 というわけで、後衛の援護射撃を受けるまでもなくキメラは木っ端微塵になってしまった。
 合掌。

「ふぅ、これでまた一歩、平和に近づいたよねっ♪」
 にっこりして、セロリはハンマーをなでなで。
「は‥‥私、いったい‥‥」
 キメラを倒すたびに手を合わせてきた博愛主義の音夢だったが、我に返りキメラの残骸を目にして呆然。
 恋はときに劇的に人を変える‥‥らしい。

 こうして、一部広場のタイルに損害が出はしたが、キメラは無事に退治された。
 回収班が来るより早く、ウェストは「ほう、外骨格のようだね。となると元は昆虫かね?」などとつぶやきながら、手際よく細胞サンプルの採取を済ませた。

●カフェ
 戦闘後、能力者たちはカフェに入ることにしたが、入り際キャルは妙な歌を口ずさみながら歩いていく男に気づいた。イベント前にフラれたけどチョコレートなんか嫌いだから別にいいんだとかなんかそんな歌だ。
 それを耳にして、キャルは思わず声をかけた。
「あの」
「はあ」
「いい歌ですね」
 まじっすか。
「よかったら、お茶にしませんか? チョコ嫌いなら煎餅など如何? それとも羊羹食べます?」
 言って、おもむろにエマージェンジーキットからアルコールストーブを取り出す。
「お茶、いれましょう。喫茶店じゃカップルの目線が辛いでしょ?」
「はあ‥‥ど、どうも。でも、多分喫茶店でも大丈夫だと思うけど‥‥キメラが出たせいで今、ほとんど誰もいないし」
「それもそうか。じゃあ、ケーキでも食べる?」
 美人お嬢様の不思議な行動に、シュウは呆気に取られっぱなし。
(「ひょっとして、オレ、モテてる?」)
 ‥‥夢なら醒めないでほしい。
「お友達になりませんか?」
 さっくりと言って微笑するキャル。
「あの、そ、それは、『一生ただのお友達でいましょう』って意味、デスカ?」
 シュウ、必死すぎ。

 一方、カフェに入った能力者たちはお茶やコーヒーでほっと一息。
 遅れて入ってきたキャルとシュウもそれに加わる。
 傭兵談義がひとしきり終わると、話題はおのずとバレンタインのことに。
「能力者がバレンタインデーを祝っても構わないが、『能力者』の意味をちゃんと理解してほしいね」
 中立派のウェストはカップをソーサーに戻しながら言った。
「どういうこと?」
「特殊な能力を持った者が他者に優先順位をつけたとき、普通の人間はどう思うか考えたことはあるのかね?」
「‥‥難しいこと考えてるんだな」
 シュウは目をぱちくり。
「でもさ、能力者ったってロボットじゃないし‥‥。能力者は恋愛禁止ってワケにもいかないんじゃないか?」
 ウェストはそれ以上は答えず、席を立った。
「我輩はそろそろ失礼するよ。早く調査に入りたいからね」
「おう。研究、がんばってくれよなー」
 お疲れさまの声に送られて、ウェストはカフェを後にした。
 その後も議論はさらに続いた。
「企業の思惑が出会いを奪ってるんです。歪んだ行事は中止にすべきです」
 キャルはバン、とテーブルを叩いた。
「いいですか? 欧米では、男女問わずお互いに贈り物をするんです。女性から男性にチョコレートなんてナンセンスの極み!」
 彼女の実家は海外菓子業者。バレンタインという行事に目をつけたのはよかったが、ジャパニーズスタイルを知らずに市場に参入、惨憺たる結果に終わりいまや家計は火の車。
 モテないわけじゃない、恋をしているヒマがないのよ、とそこだけ取り出すとワリとどこでも聞く論調だが、それはともかく聞くも涙語るも涙。
「若いのに苦労してるんだな‥‥」
 シュウも涙目。
「というわけで、絶対中止!」
 シュウは必死の形相で言ったが、近頃恋人ができたせいもあって推進派のアキラが止めの一撃。
「バレンタインを中止しても、その分クリスマスイヴがお盛んになるのではなかろうか」

 ちーん。

「ま、まあまあ。どちらにしても、楽しく過ごしましょう」
 ナレインはうまく議論を切り上げ、メイクやスキンケアについていろいろとアドバイス。
「バレンタインだからって訳じゃなくて、女性としていつもキレイでいたいのは当然の事、だからね♪」
 ヘアケアだとかお気に入りの香水だとか、キレイの追求は続く。
「‥‥ところで、ナレインさんは誰かにチョコあげるの? あんたみたいな美人にもらえる男は幸せだよなぁ」
 シュウが言うと、ナレインはにっこり。
「私、こう見えても男です♪」

「‥‥オレ、もう誰も信じない‥‥」

●相談
「あの」
 それまで黙然としていた音夢が、そっとシュウに話しかけた。
「?」
 音夢はシュウの袖を引いて、楽しく会話をかわしているテーブルから少し離れた席に移った。
「なんか悩み事?」
「‥‥はい」
 音夢はふぅ、とひとつ息をつき、ぽつぽつと話し始めた。
 このごろ、好きな人の傍らに、ある女性をよく見かける。彼に尋ねると、「よく遊んでくれている友達」と答えたのだが‥‥。
「でも、一緒にいるとき、二人はとても楽しそうで」
 うつむく音夢。
「私は彼女と違って無愛想で、人と話すのも得意じゃなくて‥‥。可愛くもありません」
 初めて、音夢の無表情が崩れた。
「私みたいに不器用な人間には、恋なんて辛いだけ」
 シュウは必死でアドバイス。
「意外とみんな、器用に恋してるわけじゃないんだぜ。
 ま、その子と自分を比べても仕方ないし、君は君らしく、自信持てよ、な?」
「‥‥話したら、少しだけスッキリしました。‥‥これ、よかったら」
「オレにくれんの?」
「どうぞ」
 包みを開けると、チョコレートには人がファットブルームと呼ぶ白い模様が浮かんでいたが、シュウは全然気にせず食べた。
「このごろじゃあ親類もくれねえもんなぁ」
 またも涙目のシュウに、音夢はクスリと微笑。
「‥‥それ、去年のですけどね」

●イケニエ
「ところで、この近くでしたよね。南京錠をフェンスにかけると願いが叶う‥‥でしたっけ」
 ゆっくりと紅茶を楽しんでいたハインは、ふと思い出して言った。
「ふーん」
 セロリの目がキラリと光る。
「せろり、きょうみあるかも。いってみようよ〜、ほむらくーん」

 そしてビルの屋上。
「変なキメラが現れませんように‥‥と」
 ハインは南京錠にそう書いて、フェンスに引っかけた。
 案内がてら道具を回収しに来たシュウは、それを見て感動。
「こういうのだったら、外さずに置いておきたいって思うよな」
「こんなことしかできませんが、これで平和になれば‥‥」
 ハインは穏やかに笑んだ。

 セロリはガスマスクの上着の裾をくいくいっと可愛いらしく引いた。
 はにかんだような上目遣いに甘い声で、
「ほむらくんは、せろりのしんゆうだよね? せろりのためなら‥‥いのちおしくないよね?」
「え。つか、以前何処かであったことがある程の仲よしだよね?」
 焔は要するに他人だと言いたいらしい。
「うれしい、ほむらくん! せろりのためにありがとう〜♪」
 セロリはチェーンで焔をフェンスに縛りつけて南京錠を下ろした。
「え? ちょっと??」
「えへへ、いけにえ〜♪ これでせろりのおもい‥‥とどくかな? カナ!?」
 愛の神への生贄にされた焔。
「こりゃいくらなんでもかわいそうだろ」
 苦笑いのシュウ。
「うふふ〜」
 セロリは意味ありげに微笑んで、焔のガスマスクをすぽんと外した。
「!」
 シュウの顔から表情が消える。
「いいか、よく聞け。オレはなぁ、『仮面の下は美青年』なんてお約束、守ってもらってもひとっっつも嬉しくないんだよ!」
 マジックペンで焔の額に「煩悩」と書こうとしたが、漢字がわからず「ぼんのー」と書いた。
 そして焔にガスマスクを後ろ前にかぶせ、フェンスを引っつかみ広場に向かって「くたばれ、バレンタイン!!」と叫ぶと、涙をこらえて走り去った。

「じゃ、ボクも帰ろっと」
「お、置いてかないでー」
「焔くん、よろしくね〜♪」
 メトロニウム製にしなかっただけ感謝してほしいくらいだ、とセロリは悠々と帰っていった。


 こうして広場には平和が戻った。

 その後、広場の所々に残されたヒビにカップルのどちらかがけつまずくと別れるとか、ビルの屋上のフェンスにガスマスクをぶらさげると片思いの恋が実るとか、そんな噂がこっそりと辺りに流れたという。