●リプレイ本文
●SOS
(「はぁ。武装関係は覚悟してたけど、まさか服装までチェック掛かるなんて」)
ネルことエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)は、メイド姿で給仕のお手伝いをしていた。
リボンのついたヘッドドレスに伊達眼鏡をかけて、どこからどう見ても萌えメイドの彼女が実はそのスカートの下にSES搭載武器を忍ばせているとは誰も思うまい。
そして、キメラよりもどうやらメイドが気になるらしい狼男が一人。
男は皆オオカミなのですと開き直りつつ、依頼参加の理由に個人的な事情が混じっていることにいささかの後ろめたさを覚えるトリストラム(
gb0815)は、犬耳と尻尾をぴこぴこさせている。真面目な自分に疲れたのだろうか‥‥?
「わぁ! すず可愛い!! 似合ってるよーっ!」
皆城 乙姫(
gb0047) は、篠ノ頭 すず(
gb0337) に抱きつき、思わず生足をなでなで。
「く、くすぐったい」
短いスカートのフリルがふわふわと揺れ、首と足とをつないでいる鎖がしゃらりと音を立てる。背中には一対の黒い翼を生やし、堕天使の装いをしたすずは、どこか恥ずかしげにも見えた。手にしたパイルスピアはレプリカで通すにはすごみがあるが、問われれば「仮装のうち」と答えるつもり。
「乙姫も可愛い!」
すずの声に笑顔を見せる乙姫のほうは、ジャック・オ・ランタンを模して丸く膨らんだスカートに、白とパープルのオーバーニー。ストラップには小さなコウモリが飛んでいるデザインだ。カボチャスカートの、ジャック・オ・ランタンの目や口に当たる部分には大きく穴が開いていて、そこからはやや不自然な物体‥‥超機械がちらりほらりとのぞいている。でも、気にしたらダメなんだからねっ。
「あのね、今日キメラ退治出来たら‥‥一緒に踊ってくれますか?」
返事は待つまでもないのだけれど‥‥でも、乙姫がにっこりと笑ってうなずくのを見て、すずもちょっぴりほっとした気分で笑顔を返した。
そこへ‥‥。
えす、おー、えす
パーティー会場に潜入していた能力者たちは、「キメラ出現の疑いあり」の黒猫ダンスを目にした。
袴姿の女学生を装う神無月 紫翠(
ga0243)は、サインを見て薄化粧をほどこした顔をひきしめた。
紫翠はれっきとした男性なのだが、線が細く優しい顔をしているために違和感はない。それどころか髪をひとつに束ねたその女装姿は、大正浪漫を漂わせている。
「あーあ、出たみたいね」
肩をすくめる執事は、桜塚杜 菊花(
ga8970)。
こちらは男装、長い黒髪を銀色のリボンでひとつにまとめ、でしゃばらないながらも上品でシックな装い。
客たちを「いらっしゃいませ、当パーティーへようこそ」と完璧な微笑とお辞儀で出迎えていたが、キメラが出たらしいとあってはうかうかしていられない。
「楽しいパ−ティに‥‥紛れ込んだ‥‥邪魔ものですか。‥‥気付かれる前に‥‥なんとか‥‥しないといけませんね?」
つぶやく紫翠は、どう見ても仮装から浮いている巨大ハリセンを握る拳に力を込めた。
●ハリセン&ピコハン作戦
戸口にゆらりとたたずんでいるのは、吸血鬼姿の辰巳 空(
ga4698)。
サインを受けて薄く化粧をして青白く生気のない顔に、覚醒の印である真紅の目がかっと輝く。周りにいたパーティー客には、驚いて思わず声を上げた者もあったが、演出だと思ったのか大した騒ぎにはならなかったが、ある種異質な空気が入り口に流れはじめ、何も言わぬ先から客たちはそこから離れていく。キメラを逃さないために戸口に立つ空にとっては、好都合だった。
トレンチコートを着、伊達眼鏡を押し上げる名探偵――福居 昭貴(
gb0461)は手にした懐中時計のふたをカチリと閉じ、ディアストーカー・ハットをかぶりなおす。
メイド、狼男、ジャック・オ・ランタンに堕天使、執事に大正女学生、ヴァンパイア‥‥どの仮装も見事で、昭貴は心中で(「お似合いですよ」)の気持ちも送りつつ、作戦開始のタイミングをはかるべく仲間たちに目顔で合図する。
主催者には「余興としてキメラ退治ショーをする」と連絡し、一応OKをもらうことができた。司会者にも話は通っているはずだが、「キメラ」と聞いただけで恐怖してしまい、どこまでフォローしてもらえるかは未知数。乙姫は、能力者が客たちにオレンジ・ジャックの居場所を教えてもらえるように、ゲームっぽく司会をしてくれるように頼んでみたが、主催者側は「急なことだし、大騒ぎになるのではないか」との懸念から難色を示した。
なるべく本物のキメラと客に気づかれずにキメラの始末をしてほしい。傭兵に仮装をお願いしたのはそのためである、というわけだ。
確認されているカボチャは4体。
すべてがオレンジ・ジャックとは限らないため、とりあえずハリセンやぴこぴこハンマーなど攻撃力の低い武器で叩いてフォースフィールドの発現を確かめることから始まった。
まずは、ハリセンメイドとぴこハン狼がそれぞれ「すぱーん」「ぴこっ」とカボチャ頭をどついた。
「いってえええぇぇぇえぇ!」
びしり、とカボチャにヒビが走り、大きな悲鳴が上がる。一般のお客だったようだ。
「あ、すみません」
スカートをまくりあげて武器を取ろうとしていたネル。ナイフを隠してあったほうの足がすっかり露わになっている状態で謝ると、相手は「大丈夫です‥‥メイドさん」となんか変な声で許してくれた。メイドフリーパス。ビバ、メイド。
探偵昭貴も巨大ハリセンを携えて第三のカボチャ頭のほうへ歩き出していた。
そしてやおら、
「えいやっ」
とオレンジ色の頭にハリセンで過激なツッコミ。
(「キメラだ!」)
緊張を押し隠し、「楽しいショーです」というアピールのために笑顔のまま、アーミーナイフを抜く。
「ハロウィンの夜です。今宵こそはと南瓜も動き出したわけですね」
周りが納得しているのかどうか確かめるヒマはなかった。暴れだす寸前のキメラにナイフを突き立てると、キメラは昭貴に体当たりを食らわせた。頭にナイフを突き立てたカボチャに体当たりされて転ぶ探偵を、客はぽかんとして眺めた。
そこへトリストラムが加勢にかけつけ、
「甘く見る心算はありませんが、招かれざる客には早々にご退場願います」
と『レイ・エンチャント』を乗せた試作型機械刀の一閃ですっぱりカボチャを真っ二つ。一瞬後には機械刀の刀身を作るレーザーは消えており、客には「どつき漫才かと思ったら、実はちょっとばかり冗談の過ぎる手品だった」というふうに見えた。
「お化け南瓜を成敗しましたよ」
昭貴が言うと、トリストラムが強引に拍手。それを追うようにパラパラと拍手が起こった。
拍手に送られて、探偵と狼男と半分になったカボチャは退場。
なんともカオスなハロウィンではある。
乙姫とすずも作戦開始。
カボチャ頭を見つけるや、
「とりあえず‥‥ていっ」
ぴこっ
すずはぴこぴこハンマーで叩いてみた。
それと同時に、すずもすぱん、とハリセンをお見舞い。
だがカボチャは無反応。
「‥‥フォースフィールドは出てない、かも?」
「打撃が弱すぎたかな?」
すずはぐーで殴ってカボチャをぶち壊すべく拳を握り締めたが、
「あれ、目が動いた気がするけど‥‥?」
乙姫がすずの腕を止めたところで、カボチャはぐるんと白目をむき、後ろにどーんとひっくり返った。
「あーあ‥‥」
「え、えと‥‥天使の奇跡〜。なんちゃって‥‥? ご、ごめんなさいっ!」
すずは謝りながら救急セットで手当てし、乙姫もそれを手伝った。
一般客から見ると、けっこううらやましいカボチャだったに違いない。
カボチャが息を吹き返すと、
「ふふ、トリックオアトリート‥‥悪戯しちゃった」
堕天使はとびきりの笑顔でごまかしておいて、その場を逃げ出した。
「紳士淑女の皆様、これから能力者によるイベントが始まります。危険ですのでカボチャからは離れてご歓談ください」
微笑を絶やさぬまま宣言しておいて、菊花は近くでイェイイェイと調子っぱずれのダンスを踊っていたカボチャ頭をいきなり、
すぱーん
とハリセンでぶっ叩いた。
カボチャ頭は衝撃を受けた様子もないのに、ハリセンは目の覚めるような音を立てて硬い物にはじかれる。
「出たっ」
いきなりの大当たり。
と同時に覚醒、黒髪・黒目が一瞬にして白髪紅眼に変わり、小太刀「夏落」の琥珀色の刀身が閃いたかと思ったときにはまた鞘に収まっている。
おおっとどよめく声。
「エクセレンターたるもの常に周りに目を配りながらの攻撃なんてお手の物ですよ」
だが、人目を気にしての一閃は致命傷を与えるにはいたらず、オレンジ・ジャックの目になにやら凶暴な色がともった。
「‥‥生意気じゃないのさ」
あくまで笑みを絶やさないが、執事よりは女王様に見えなくもなくなってきた菊花を援護するために紫翠が小銃「ブラッディローズ」を抜くと、さすがにそのものものしさにお客たちは動揺する。
「ハロウィンのイベントですので、離れて見ていて下さい」
と声を上げて説明するが、その間にキメラは憤懣やるかたなしといった様子で地団太を踏み、辺りの人々を突き飛ばしたり蹴飛ばしたりし始めた。無論散弾銃をぶっ放せる状況ではない。
「ちょこまかしないでいただけますか? 後が支えておりますので」
執事菊花がもう一度「夏落」で斬りつけると、ひるんだキメラは人波を掻き分けて部屋の出口へと走り出した。
出入り口で待ち構えていた吸血鬼・空は、悲鳴がウェーブのようにこちらに近づいてくるのに気がついた。
通りかかるカボチャには優しくデコピンしてフォースフィールドを確かめようという予定だったが、出入り口へ突進してくるカボチャとあってはそんな余裕は全くなかった。
だが、カボチャの後ろから「空、逃がすな!」との声がかかり、空は迷いを捨てる。
吸血鬼はマントの下から機械剣を取り出し、ぎりぎりまでチャンスを待つ。
キメラとの距離がほぼなくなったところで、柄を強く握り締めレーザーブレードを射出、布斬逆刃と急所突きを発動して先制の一撃を叩き込む。キメラの攻撃を獣の皮膚で受け、衝撃に耐えつつ次の一閃。キメラは倒れて動かなくなった。
動かなくなったキメラは、猫と魔女が「飲みすぎだぞ。しょうがないなぁ、もう〜」と白々しく担ぎ上げてどこへやらと運んでいった。
●戦い終わって
騒ぎがなんとか一段落すると、能力者たちは残りのパーティーの時間を楽しむことにした。
その彼らの元へ、小さなカボチャがちょこちょこと走りよってくる。
まだいたのか、と一瞬げっそりとなるも、小カボチャは「トリックオアトリート」とちゃんと人語を話した。
能力者たちがお菓子やらコインやら、手に持っていたものをやると、小カボチャは手にしていたカボチャの頭をぱかりと開けて、くじを引かせてくれた。
しばらくして、ゆったりとしたダンスナンバーがかかり、ダンスタイムが始まった。
「一曲、お相手願えますか? ネル」
トリストラムはネルをダンスに誘った。
「リードは任せたわよ? トリス」
ネルは手を伸べて承諾の意を示した。
(「今日くらいは、世界情勢等の嫌な事を忘れて夜会を楽しんでも、バチは当たらないでしょう?」)
目顔で問いかけるトリストラムに、ネルはそっと身を寄せて答えとした。
乙姫とすずは料理を楽しんでいた。
「あーん、して?」
すずが乙姫に料理を食べさせてやると、乙姫は嬉しそうに応じてもぐもぐと食べたが、
「我の料理と‥‥どっちが美味しい? なんて‥‥」
その言葉に一気に現実に引き戻された。
実は篠ノ頭すず、殺人的な料理師なのである。
「え、えー‥‥すずの料理は別格だよ?」
目を見て言おうとするも視線はややもすれば泳ぎがち、額にはじっとりと嫌な汗をかいているようにも見えたが、すずは「よかった!」と明るい顔になる。
そこへ、ダンスナンバーがかかり、
「我と、踊ってくれる?」
「よろこんでお相手させて頂きます、お姫様」
微笑みあってダンスホールへ。
ぴったり寄り添って踊ると、カボチャスカートのデザイン的にダンスに集中できたとかできなかったとか。
紫翠と菊花もダンスを楽しむことにした。
「精一杯リードさせていただきます♪」
誘う菊花に、
「自分で‥‥良いんですか? ‥‥こちらこそ‥‥よろしくお願いします」
紫翠は応じた。
ゆっくりと踊りながら、
「あたしのわがままに付き合ってくれて有難うv」
執事にリードされて踊る女学生。
「この後‥‥時間ありますか?」
「んー、あるといえば‥‥あるけど?」
不敵に答える菊花に、紫翠はにっこりして、
「‥‥フフフ‥‥夜はまだ長いですよ」
なぞめいた言葉をつぶやくのであった。
空と昭貴は、ダンスには参加せずにテーブルで杯を傾けていた‥‥といっても、吸血鬼の飲み物はトマトジュースで、未成年の探偵のグラスもノンアルコール。
「折角の機会です、皆で楽しみましょう」
キメラを処理して戻ってきた猫と魔女も含め、4人はゆっくりとハロウィンの夜を楽しんだ。
くじ引きでは、ネルにカボチャ頭‥‥もとい、ハロウィン・ハットが当たったが、爬虫類好きのネルとしては、カボチャより別の形のかぶり物のほうがよかったかもしれない。
ハロウィンパーティーは少々の混乱はあったものの盛況のうちに幕を閉じた。
●ウワサ
パーティー終了後、夜の街に消えていった紫翠と菊花について、しばらく巷ではそれっぽいウワサが流れた。
Vさん(傭兵)の証言
「いや、俺は自分で見たわけじゃないからなんとも‥‥ただ、某店の奥からびしばしとかぐちゃぐちゃとかべらべらとかいろんなラップ音が聞こえたって話を聞いた。あと、髪振り乱した執事が真っ赤な目で高笑いしながら歩いていて‥‥その道の両側には無数の男たちがひれ伏していたとか‥‥聞いただけだぞ。俺は知らないからな」
Sさん(傭兵)の証言
「あー、なんか、古風な女学生と執事が連れ立って、片端からバーを閉店に追い込んでったって話は聞いたけど。証拠? 知らないわよ。そこまでヒマじゃないんだから。ああ、それから女学生に笑いかけられて石になったやつがいるとか、そんな噂もあるけど‥‥だから、本当かどうかなんて知らないから。自分で確かめたら?」
※プライバシー保護のため、音声は変えてあります。