タイトル:【AC】払暁の防衛戦マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/18 23:12

●オープニング本文


「おーいマンテル准尉ー、さっさと帰ろうよー」
 飛行するロジーナ機内で、スルト少尉は僚機に呼びかけた。返ってきたのは叱責である。
『何言ってるんですか少尉! 我々の任務は要塞周辺の哨戒。基地の電探が観測できなかった敵を我々がいち早く発見せねばならないんですよ!?』
「や、そりゃ分かってますけどねー」
『少尉はもっと自覚を持つべきです! 我々がサボればそれだけ欧州の人々に危害が及ぶ、日常生活の一挙手一投足にまで気を配るべきです!』
「‥‥」
 スルトはがみがみと煩いバディからの通信を無視して、景色に目を向けた。
 海岸線から少し地中海に飛び出した形で飛ぶ2機。東からは次第に太陽が昇りつつあり、もしも今ここで風防を開けたら目が灼けそうとすら思えるほど。その強烈な朝の日射しを海面が反射し、地中海全体が煌いていた。一方で南に目を向けると、遠く地平線が波打って見える。
 生の波と、死の波。両方を同時に眺められるというのは何とも不思議な感覚だと、哨戒するたびに感じるスルトである。
「あー、マンテル准尉。今朝のお散歩コースはあとどんなもんだったかな?」
『あと30分程この‥‥って、だから散歩とか言ってないでちゃんとですね‥‥!』
 雲はなし。風は優しく頬を撫でるくらいで南西から北東へ。良い散歩日和だ。
 スルトが「今度准尉に人生の楽しみ方でも教えてやろうか」などと思った、次の瞬間。
 海と陸の境目。まさにその線の超低空を、何かが駆け抜けるのが見えた。それは一瞬で2機の遥か下を通過すると、目にも留まらぬ速さで一気に突き抜けていった。
「マンテル准尉ー」
『だから何ですか!?』
「きみは肝心なところで抜けてるね。――敵編隊だよ」
『ッ!?』
 言い終わらぬうちにスルトがペダルを踏んで操縦桿を倒し、素早く180度ターン。無線で急造の前線基地に呼びかけながらブーストした。が、なかなか無線が繋がらない。
 少し遅れて追従してくる僚機。敵に追いつける気配はないが、ともかく追わねば。
「准尉は後方警戒。第2陣なんて来たら困るからね」
『了解』
 翼端に水蒸気を引いて飛翔する2機のロジーナ。少しずつ高度を下げて速度を稼ぎ、何とか敵編隊の構成くらいは確かめようとする。追加ブースト。倍増するGが身体をシートに押し付ける。視界が狭く、暗くなった。と、その時。
 追いつけそうになかった敵が突然遥か前方に現れた。認識するや、操縦桿を右に倒すスルト。直後、一条の紅色光が機体下部を削っていく。
「准尉、前線に呼びかけろ! こっちもやってるが全く通じん!」
 返事はないが、僚機を確認する余裕もない。衝撃に耐えながらスルトが何度も基地に呼びかける。敵編隊が超低空、真正面から交錯するように突っ込んできた。無線がようやく繋がる。間髪入れずにスルトが現在地と敵情報を報告した。そして――。

 ◆◆◆◆◆

 時ならぬ報告を受け取った防衛線の簡易基地は、2つの理由でごった返していた。
 折り悪く滑走路の1本で、着陸しようとした早期警戒管制機が失敗して炎上。そして消火の為に多少人数を割いていたところに飛び込んできた、敵編隊発見の報。それも基地から意外と近い、というより目と鼻の先だ。こうしている間にも敵は上空に到達するかもしれなかった。
 払暁に、少数・超低空で防衛線とレーダーの網を縫うようにして突撃してきた敵。さらには若干の混乱のせいで平常時よりは離陸に時間がかかってしまうという状況。
「対空ミサイルが用意できなけりゃ高射砲でも自走砲でもいい、とにかく何でも用意して迎撃するんだ!」
「了か‥‥ッ、敵編隊、見えました!」
「うむ‥‥!」
 敵編隊は、高速仕様の小型HW6に腹を膨らませた小型HW4、そしてビッグフィッシュ(BF)が1。
 1分1秒が状況を分けそうな、そんな予感がした。

●参加者一覧

幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

 警報がけたたましい音を立てる。赤光が格納庫の緊迫感をいや増す。
 滑走路の火災を横目にエリアノーラ・カーゾン(ga9802)は機内で嘆息した。
 ――やーもー、朝っぱらから襲撃とか勘弁してほしいわ、ホント。
 大体払暁戦は定石とはいえ、バグアはそんな事気にしないでほしい。そうすれば健全に仕事できるって訳で。
「あっちにも仕事中毒者っているのかしら」
「それは判りかねますが」ヨハン・クルーゲ(gc3635)機オウガが並びつつ「アチラに運がいい人がいるのは確かですね」
 あるいはコチラの運が悪いのか、とヨハン。エリアノーラは黒煙を噴くAWACSを一瞥し、欠伸を噛み殺した。
「んーぅ、やるしかないかー」
「えぇ、態勢が整うまで私達で支えるしかありません」
 ヨハンが計器を撫でる。エリアノーラは深呼吸し、数秒前と打って変った声で報告した。
「さてっと。エリアノーラ機剣山号、離陸するわ。焼かれないように離れときなさい!」

「爆撃機を抑えてくれ。残りはこちらが何とかする」
『子持ちシシャモね。了解』
 颯爽と飛び立っていく2機を見上げ、月影・透夜(ga1806)は操縦桿を握り締める。離着陸の事故は仕方ないとはいえ、このタイミングは痛かった。透夜は焦れる感情を抑え、幸臼・小鳥(ga0067)機破暁と共にじっと離陸準備完了を待ち続ける。
 一方で愛機を走らせ低空へ砲口を向けるのが美具・ザム・ツバイ(gc0857)とジリオン・L・C(gc1321)だ。
「美具は足が遅い爆装機を狙うのじゃ。戦闘機の方は頼むぞ、BFが到達する前に何としても時を稼げ!」
「ハァーハッハ! 俺様がいるこの地に来るとは何と不安もとい不運な! 任せるがいい!!」
 ジリオン機ガネット、超! 魁! 未来勇者号! が止まって腕部砲口を空へ。超! 魁(略)は誰よりも早く引鉄を引いた。当然まだ射程外である。
「何をしておる、馬鹿者」
「‥‥くはは! 俺様の真の力を出さねばならんようだな!」
 個性溢れる対空班だ。
 小鳥は喧騒を意識から遮断し、機内で胸の御守りを握り締めた。
「基地へは‥‥一歩たりとも入れないように‥‥しないとですねぇー」

「朝も早いというのに皆元気なものですね‥‥」
 耳を塞ぎつつ高射砲に乗り込むBEATRICE(gc6758)。同乗する兵に目礼して位置につくと、照準を覗き込む。敵は高速型が前、BFが最後尾の紡錘形となって突撃してくるようだ。距離既に80m弱!
「ミリオンさん‥‥合せて弾幕形成を‥‥」
「は、はいっ」
 もう1輌の高射砲を担当するユーリー・ミリオン(gc6691)が角度調整。BEATRICEの淡々としたカウントを聞き、引鉄に指をかけた。そして、
「――Feuer」
 轟音を上げ2つの連装機関砲が火を噴いた。

●対空砲の明暗
 エリアノーラ機シュテルンがバーニアを噴かせて急発進する。正対するはHWの群。右後ろにヨハン機オウガBlaue Visionがつけ、虎視眈々とその時を狙う。と、前衛のHWが徐に砲口を光らせ、2条の光線を迸らせた。
「ブラオ、いきますよ!」
 エリアノーラが左、ヨハンが右へ滑ってロール。主翼を掠める光線。挟み込むように敵前衛へ機首を向けるや、エリアノーラは瞬時に計器と目測で標的を峻別した。
「PRM作動、一気にやるわ!」
「了解」
 剣山号がK‐02を解き放つ。無数の白煙を曳き爆撃型へ迫る弾頭。迎撃弾幕が僅かに狙いをずらす。着弾。爆煙が視界を覆う。同時にヨハンはHW群を越える形で交錯しつつ小型弾頭を乱射した。
「基地に爆撃されたら敵いませんからね。早急に墜ちてもらいますよ」
 翻って機首を群へ差し向けるヨハン。が、その時にはHWは爆煙を飛び出して超加速していた。
「んーぅ、私もナメられたもの‥‥だわ!」
 至近距離ですれ違う敵群。エリアノーラは群に溶け込むように旋回し、再度K‐02を放った。内部から食い破る勢いでHWを襲ったそれは、爆撃型を庇った高速型1機を地獄へ叩き落す。が。
 1機が爆散する間に、HW群はヨハン達を嘲笑うが如く基地へ突っ込む‥‥!

「こんな時に来るとは。バグアめ‥‥」
 美具機天、スカラムーシュオメガは滑走路外縁から空を睨む。やや後方にジリオン機が位置し、2機が個別に狙う態勢だった。
 その間に空では一旦はK‐02に惑わされたHW群が強引に突破してくる。美具機が残っていた装甲をパージ、52mm対空砲を両腕で固定した。
「第2装甲パージ、モードオメガレッド。Feuer!」
「勇者! アーイズ&フラーッシュ!」
 美具が砲弾を撃ち上げる一方、機内でびかーんと目を光らせ探査の眼とGooDLuckを使うジリオン。幸運は確かに必要かもしれないが、前者は特に意味はない。ともあれ美具に遅れてジリオンの対空砲も火を噴くが、2機の砲撃は超低空から肉薄してくるHW後方で破裂した。
 破片を受けるも敵は構わず直進。美具は敵影を追って砲身を起し、2射目を放つ。やはり敵後方で炸裂。ジリオンが敵進行方向を決め打ちしてほぼ真上に発砲、過たず爆撃型を撃ち抜く!
「ハァーハッハ! 見たか俺様のビュリホー砲撃! ノロい、ノロすぎるぞバグアェ‥‥」
 計画通りと言わんばかりに口角を歪めて笑う勇者。その声が聞こえたのか、爆弾倉の前を抉られたHWは急停止、2機を爆撃してきた。
 弾けるように退避する美具機。ジリオンは高笑いに集中しすぎて反応が遅れる。敵爆弾がジリオン機に直撃し、爆ぜた。
 白い閃光が瞼を灼く。無音となった世界で美具機は灼熱の爆風に薙ぎ倒される。
「う‥‥美具に土をつけさせるなど‥‥!」
 首を振って意識を保ち、視界を上げる。空には通過する敵編隊とそれを追う2機の友軍。美具が砲で狙いつつ基地中心へ駆け出した時、爆煙の中でジリオンが吼えた。
「ク‥‥未来の勇者に何をするだァー!!」
 見るとジリオン機は直撃に拘らず仁王立ちのまま(ぼろぼろ)。美具がジト目で呟いた。
「ばかは元気じゃの‥‥」

「――Feuer」
 2輌の高射砲は同時に鉛を吐き出す。狙いは強引に抜けてきた敵進行方向。
 敵は急襲。ならば回り道などしない筈。基地中心と敵現在地を結んだ直線の途中、一定空間に弾をばら撒くBEATRICE。その狙いが、当った。
「敵が夜討ち朝駆けの基本なら‥‥こちらは地対空戦の基本です‥‥」
 無策に弾幕へ飛び込む高速型。2機が小破するも突破。その真後ろを駆っていた爆撃型3機も弾幕へ突っ込んだ。ユーリーが引鉄を引きつつ警告する。
「射線に気をつけて下さい!」
『了解。回り込んで爆撃型を撃破します』
 勢いを失った敵編隊に、空のヨハン機とエリアノーラ機が左右から襲い掛かる。が、十字砲火が突き刺さる直前、HW3機は狙いもつけず爆弾を投下した。
「チィ‥‥!」
 それまで微動だにせず即応態勢でいた透夜機ディアブロ、月洸弐型が瞬く間に射撃体勢に入る。重力に引かれる3つの塊を見据え、スラスター銃を撃つ撃つ!
 基地中心からは外れた場所に吸い込まれゆく爆弾。その1つに命中。直後、爆発。それによって残る2つも誘爆を起すが、如何せん高度が低すぎた。
 圧倒的な光が少し離れた空――とも呼べぬ高度15mで破裂し、奔流となって皆に降り注いだ。小鳥機が透夜機を押し倒し、高射砲が辛うじて耐える。
 そして何秒経ったか。光が収まって目を開けた4人の前には、爆風で半壊した格納庫の無残な姿があった。

●拮抗
 格納庫近辺が爆撃され黒煙を上げる光景を、美具は忸怩たる思いで見ていた。安全性を考えて外縁で迎撃したが、あるいは博打で中央に集中していた方がよかったか。どちらも一理あるからこそ難しい選択だった。
 ともあれ先に次の行動に移ったのは、
「ふ‥‥ふはは、舞台は整ったという訳だ! 俺様の勇者街道がな! 行くぞ勇者パーリィ、出撃だ!!」
 ジリオン機超(略)が変形、ブーストを噴かせて基地側へ加速するや、事故機の真横で飛翔した。金の軌跡を残して上昇し、無闇にロールして敵機へ突っ込むジリオン機。美具は対空砲の引鉄を引き、嘆息した。

 基地外縁より60m向こう。確実に忍び寄るBFを意識し、小鳥は全機に警告する。
「BFが来るまでに‥‥混戦を脱しましょぅー」
「解っては‥‥いますが‥‥」
 BEATRICEがリズムよく撃ち上げる40mmはユーリーと共に弾幕を形成し、一定空間を封鎖する。ヨハン機ブラオが弾幕へ敵を突っ込ませるようにAAM発射。HWが小爆発を起して高度を下げる。エリアノーラ機が予測したが如く肉薄し、剣翼を煌かせた。爆撃型1機撃墜。とはいえ、
「んーぅ、爆撃された後じゃ素早いのの機銃の方が痛いかも?」
 剣山号は翻って高速型を狙い――射線を、爆撃型が塞いだ。自身の最大攻撃手段がなくなったら身を挺して味方を守るとは、職務に忠実な奴だ。エリアノーラが愚痴りつつ機関銃を撃つ。
 同時に地上から放たれた弾雨が爆撃型を傾がせ、高速型の下部を叩いた。小爆発。ヨハンの銃弾が同じ場所を穿つ!
「残るHWは高速型5に爆撃型2、ですか」
 汚い花火を睥睨し、ヨハン。HWは半数が機銃掃射で基地を撃ち下し、半数が乱れて空対応。ここらで何かが欲しいと思った直後。
 それは、来た。

「とーぅ! 俺様は、ジリオン! ラヴ! クラフトゥ‥‥未来の勇者だァ――!!」
 外部出力、近所の奥様にも届く大音量エコー付で。だが敵の優先順位はあくまで基地。当然無視だ。その空気を一瞬で感じたジリオンは腹立ち紛れにK‐02をばら撒いた。
 金ピカのガネットは螺旋の如く上昇し、小型弾頭がHWへ吸い込まれる。ここまでされれば敵も流石に無視していられない。計3度のK‐02で中破を越えるHW5機が一斉にジリオンへ殺到した。
「フハハ! やはり俺様のカリスマの成せる業か! ゆくぞ、勇者ァ! 幻んん霧ゥウゥ!!」
 誰よりも高高度で旋回したジリオン機が煙幕を撒き散らす。それを包囲する形でHWが陣取るや、幾条ものフェザー砲が集中した。「ぬお!?」などと四苦八苦するジリオンの声をBGMにエリアノーラは地上掃射をやめぬHW2機へ機首を向け、
「BFは、と」
 基地外縁へ到達。至近距離、だがこれなら何とかなる!
 戦況把握と同時に引鉄を引いた。

●その崩壊
 滑走路の隅では急ピッチで排除された事故機の残骸が黒煙を燻らせていた。
 その脇を3機のKVが駆ける。破暁、ディアブロ、天が急加速、可能速度に達した直後機首を持ち上げた。
「破暁‥‥離陸するのですぅ!」
「小鳥、初っ端からぶちかませ!」
「射程‥‥くりあー‥‥大きいのいきますから‥‥射線あけて下さいねぇー!」
 フラップ操作と同時に旋回、HWに目もくれずBFへ向かう。小鳥は砲口に集まる粒子を確認しM‐12を一気に解き放った!
 光の濁流が断末魔の如き轟音を上げBFを直撃。黒煙と粒子の残滓がBFを覆う。戦果を確認するより早く透夜機月洸が集積砲を発射する!
「その腹の中が何かは判らんが、基地に下ろす訳にはいかないんでな。早々に墜ちてもらう!」
 力の奔流が大気を突き抜ける。一瞬の間、そしてBFの爆発。重い2連射を喰らったBFは黒煙を噴き上げ高度を落す。破暁と月洸がトドメとばかり肉薄する。
「基地に墜ちて被害が増えても困る。押し込むぞ」
「タイミングを合せて‥‥同時にいきましょぅー!」
 2機のスラスター銃が猛烈にBFを撃ちまくる。その物理的圧力は中破したBFを少しずつ押し戻し、そして、
「終りだ」
 シザーズの如く小鳥機と透夜機がBFを基点に交錯し、各々の剣翼を煌かせる。BFの上下を翔け抜けた2機が機首を基地側に戻した時、敵は盛大に爆散した。

 一方で小鳥達と共に空へ上がった美具機は、HW群へ機首を向けていた。周辺確認、標的選定、座標固定。淡々と、一分の無駄もない動作で発射段階に至った美具は、
「アーマゲドンスプラッシュ」
 いっそ慈悲すら覚える確実性で、勇者幻霧を包囲していた5機に小型弾頭をお見舞いした。着弾、そして爆発。
 4度目のK‐02とあって、いくら迎撃弾幕で損害をずらしても意味は薄い。白煙と黒煙が混じる中、3機が破片を散らして墜ちた。しかし2機は辛うじて残ったばかりか、自身の帰還など考えないように煙幕内に紅色光を連続して放つ!
「ぬあぁッ!? ク、この俺様がそれ程恐ろしいか、ザコがァァ!」
 無線から爆発音が響く。遂に避けきれず直撃したらしい。最後の紫色光が放たれた直後、大爆発が煙幕を吹き飛ばした。そこで美具達が見たのは。
「き、今日はこれくらいに‥‥しておいてやろうーッ!」
 ばばんと背景に「俺様の未来はこれからだ!」なんて読めなくもないオーラを浮かべたガネットが墜ちる場面だった。
「‥‥幸せそうな被撃墜ですね」
 ヨハンが秘かにツッこみつつ、散開するHWを追った。

 ユーリー機グリフォン、ストラディヴァリが腕部砲口を空へ向け、2、3と撃つ。それは機銃掃射を続けるHW2機を狙うが、やはり単独では命中し難い。BEATRICEが高射砲から彼女の愛機ロングボウ、ミサイルキャリアに乗り換えるまでの間隙。高射砲2輌は正規兵が各自判断で発砲しているが、いきなり息を合すのは難しかった。
「生身、陸戦、空戦と‥‥ややっこしくても頑張らないといけません、が‥‥」
 ユーリーの砲弾がHW右翼を掠めた。エリアノーラ機剣山号が敵と交錯するも浅い。敵は立て直して応射。剣山号がロールして躱す。
 残る敵はHW4機。
 そして、漸く。人のいなくなった滑走路をBEATRICE機が駆ける!

●仕上げ
 倍増するG。狭まる視界。胃が持ち上がる浮遊感。待ち望んだ離陸にBEATRICEは深い満足感を覚えていた。
 ――成程‥‥これがストライクフェアリー‥‥。
 エミタ特性をSFへと変質させて初めての実戦だけに少し心が躍る。とはいえ今は敵だ。
 満を持してといった状況で空へ上がったBEATRICE機とユーリー機。敵は地を這う2機と算を乱した2機。ユーリーは後者2機を上から抑えるべく、ヨハン機と呼応して上昇した。
「敵を集めましょう」「了解」
 螺旋の如く2人は敵をけしかける。誘導弾が敵後方で炸裂。敵は白煙から逃れんと高度を上げ――ユーリーとヨハン、2機に頭を抑えられた。慣性を無視して急降下する。
 そこを、彼女は狙った。
「お待たせしました‥‥ミサイルキャリア‥‥」
 誘導装置起動、照準投射装置起動。BEATRICEは慣れた動作で全てを確認し、何の澱みもなくそれを押した。
 瞬く間に放たれた小型弾頭の嵐がHW4機を呑み込む。止まぬ轟音。戦場を覆う白煙。壮観なその景色の中で彼女は主兵装を誤射するも、大勢に影響はなかった。BEATRICEは煙が次第に黒に変るのを眺め、淡々と報告した。
「状況終了‥‥」

<了>

「2人とも‥‥無事だといいのですがぁ‥‥」
 敵の全滅を確認後、ついでとばかり第一発見者たるロジーナを探しに出た小鳥と透夜。信号の途絶えた海上近辺を旋回していると、
「‥‥1名、か。残念だ」
 眼下、救命胴衣を着て頼りなげに海を漂う1人を捕捉した。
 たった1人。仮に自己満足と言われようと、死にゆく仲間を救ったのは紛れもない事実。その事実に満足し、透夜は瞳を閉じて息を吐いた。