●リプレイ本文
●隠密、しかし
「デカブツ破壊とかマジ俺向きミッションだし。俺がやらねば誰がやる的な?」
植松・カルマ(
ga8288)が胸を張ると、なにおうと翠の肥満(
ga2348)が対抗した。
「いやはやご冗談を。最も似合うのは僕でしょう」
「な‥‥いや確かに。俺の場合この溢れ出るイケメンオーラを隠す必要がある」
「いえいえそれを加味すると僕はさらに不利に」
「いやいやいやい」「いい加減になさいな?」
泥沼の様相を呈してきた2人を止めたのは智久 百合歌(
ga4980)だ。満面の笑みが非常に怖い。里見・さやか(
ga0153)が苦笑した。
「お2人とも似合いますので、先へ進みましょう」
勝負(?)は引き分け、前進が再開される。翠がヘルムに装着した小型カメラで街の様子を撮影していく。
全体的に漂う砂か埃の幕。首都とはいえアフリカ的近代都市といった景色が続く。外縁と打って変って中心部は静寂に包まれていた。が。
「停止」
十字路手前で止まる4人。
百合歌が刀を抜く。翠が狙撃銃、カルマが洋弓を構えた。さやかが角から左右確認し、左から来る敵を視認する。
耳の巨大な猫だった。1m大の猫の顔だけが歩いていたが。
さやかが始まりの杖に意識を集中し翠に祝福を与える。各々が体に力を込めた。
無音の攻撃が解き放たれる。連続する銃弾が脳天を貫いた。鬼蛍から迸る衝撃波が敵を薙ぐ。魔の矢が右目に突き立った直後百合歌が地を縮めて跳び、勢いのままに口腔を突き刺した。
断末魔もなく果てる敵。刃を抜き、血を払う。
「行きましょ」
女神のように微笑んだ。
大泰司 慈海(
ga0173)の思惑は初手から躓いた。
無線で四方の戦況を知ろうとしたのだが、雑音激しく詳細を聞けない。戦闘が多少沈静化しない限り状況は変わりそうになかった。
「このままやるしかない、かな」
「ここまで来たら邁進するのみよ」
ロッテ・ヴァステル(
ga0066)が砂で汚した短剣を手に持ち、空を見上げる。薄く灰の雲が漂っており、日差し良好とは言えない。それでも幸臼・小鳥(
ga0067)の篭手が光を反射したのを、ロッテは見逃さなかった。
歩く小鳥を屈ませ、その背を押す。どべし、と頭から突っ込んだ。
「あぅぅ‥‥何するん‥‥ですかぁー」
「あら。手間が省けてよかったじゃない」
汚れた篭手を指すロッテ。口を尖らせる小鳥の頭を撫で、ロッテは道の左端を進む。
「戦友が頑張っている分、私達もやらないと」
「どさまぎで潜入できっかね。ったく面倒な任務選んじまったなぁ」
並び歩く龍深城・我斬(
ga8283)。だが。
「まさか後悔してるの?」
「ハ、誰が。あれがアニヒレーターならほっとけねえだろ」
先に見える高層ビルを見据え、獰猛に笑った。
●潜入、もとい
裏道を抜けるロッテ達と、少数の敵を隠密裏に殺し、あるいはやり過ごして進むさやか達。2班は慎重に街を踏破し、僅かに位置をずらした南から目標に接近した。しかし。
「敵」
異口同音に漏れる言葉。そして8人の視線の先では、キメラ・ワーム群がビルを防備していた。
「陽動が失敗したのか?」
「東や南は今も戦闘中。なら」
「北、西から戻ってきた奴らか!」
2班で同様の会話がなされる。どうするか。いや。進まねばならないのは決定事項。後は覚悟と手段だけ。
2班が微かにビル正面の道に姿を晒し、互いの姿を確認する。視線を交わした。
「突っ込むわよ」
ロッテと百合歌が声を出す。どうせ裏口も敵で溢れているだろう。ならば一気に正面入口に雪崩れ込むしかない。
目を瞑り、カウントダウン。
極彩色が翠を包む。ロッテ、百合歌、我斬が腰を落とした。
「GO!」
8人が爆ぜる!
矢が飛ぶ。銃弾が突き抜ける。超出力が敵を吹っ飛ばすや、2班が別々に正面を目指す。
「おおぉおらぁああ退けやお前らぁあああ!!」
「がーくんかっこいい!」
「でも叫びすぎると他所からも来るわよ」
「来ねぇ! 多分!」
迅雷の如く群へ突っ込んだ我斬が5指の爪をぶん回す。飛び散る血潮。敵が我斬に殺到する。敵の腕を、爪を、灼熱を受けるに任せ。薙ぎ、振り上げ、戦車の如く突進する。
我斬の後ろから短剣を投げるロッテ。突進の勢いから漏れた敵に確実に蹴りを打ち込む。我斬の抉じ開けた穴を拡げ、維持するロッテ。駱駝の巨体を真っ向から蹴り飛ばす。小鳥が矢を番えて射る。それでも敵群は厚い。我斬の勢いが落ち、毒々しい爪を腹に受けた時、ロッテが並び立った。2人が前線を走る!
「ここで止まったら仕舞いよ!」
「後40mか!?」
もはや体のどこかしらが常に敵と接している状態。慈海が次々練成治療していくがそれすら追いつかない。小鳥が弓を構えた瞬間、空から急襲してくる影を偶然捉えた。
「上‥‥ですぅ!」
「了解!」
我斬、ロッテの短剣投擲。全てミス。小鳥、慈海が攻撃しまくる。空の敵は翼を、瞳を抉られながらもこちらを狙う。ロッテが至近のヒョウを足場に跳ぶや、宙で体を捻って鞭の如く脚を振る!
「墜ちなさい!」
衝撃。怪鳥が叩きつけられる。墜ちた場所、その空白を、我斬がいち早く確保した。
「行くぜ!!」
ロッテが着地。4人が駆ける!
百合歌、カルマは前衛として一気に群へ突っ込んだ。続くさやかと翠。この班で完全な後衛型はさやか1人。つまり。
「てめェらうぜェんだよゴルァ!」
「こりゃ報酬弾んでもらわにゃ割に合わん!」
カルマが膂力に任せた圧倒的破壊力を叩きつける。翠が低姿勢から青海の剣を振り上げ、下ろす。そして出来た道を百合歌が抉じ開け前進する。その隙を衝きかけた巨大蠍にさやかが杖を向け「てー!」と超機械で狙う。3人の連携とさやかの支援。密集戦闘においてバランスの取れた戦力。だが。
「ちょ待、カマドウマ来たッスよぉ!?」
「陸戦ワーム!」
体長約10m。それがキメラを潰しながら裏から回ってきた。先回りされる。その足元目指して百合歌が加速した!
「植松さん、自慢の力で節から切断できるわよね?」
「ハ!? もももモチ決まってんじゃねェかクソ野郎!」
「きゃー植松さんかっこいー」
「翠さん、棒読みすぎます‥‥」
ヤケ気味に突っ込むカルマ。魔剣が輝く。眼前の敵をさやか、百合歌、翠が蹴散らす。カルマがワームに踏み込んだ!
「去ねや下っ端ァ!!」
重量級の一閃。直後、ワームの脚が1本吹っ飛んだ。敵が傾ぐ。その隙に下を潜り抜ける。
「建物に入りましょ。後の事は後で考えればいいの!」
百合歌が再度加速する!
●静寂、そして
重い扉が荘厳な音を立て閉じられる。途端に外の喧騒と正反対の静寂が場を支配した。
「アー死ぬかと思ったわ」
「いえ現在進行形で死んでますっ」
慌ててさやかがカルマに治療を施す。いつ喰らったか、カルマの首からは血が噴出していた。そこで8人は小休止を取る。が、時間はかけられない。傷は塞いだものの、血が確実に足りない。
「またさっきの突破するだけで体力尽きそうだよね〜」
「考えたく‥‥ないですぅー」
笑う慈海に、震える小鳥。ロッテが小鳥の頭に手を置く。
「ここが本物で、これを破壊すれば。友軍が回収してくれるわ」
翠が同意し、見回す。
外見はビルでも内部は近代建築とは似ても似つかない。だだっ広い1Fと、その上に伸びる金属的な砲身(?)。
「でっけー。折角だから撮っとくか。ニセモンだろうとこんなゆっくりバグア建築お目にかかるのは少ないかんね」
小型ビデオを回す翠。とはいえ少なくとも目で見て判る不思議技術はなさそうだった。
「砲口にミラーはありますか?」
「ズームしても見えません。でも砲身全体が光線反射できそうですな」
手帳型モニタに映像を出す。それを全員が覗くが、専門家でもない人間が生身で判る事はなさそうだった。
「予定通り制御側を壊しましょ。そっちなら構造的に地下にありそう」
百合歌を先頭に1階を探索し、階段を発見する。転送装置があれば面白かったのにと翠が嘆いた。
「守りがいないな‥‥外れか?」
「制御室に詰めてるかもっ」
慈海が我斬に言った時、何やら多脚の機械が1体、正面を通過しかけた。
敵が振り向く。同時に慈海が力を解き放つ。周辺に浮かぶ紋章。慈海が敵を僅かに足止めした隙に、ロッテと百合歌が秒殺した。
B3F。薄暗い通路。低く響く稼動音が緊張感をいや増す。
細い通路を2度曲がり、歩いた先に、両開きの扉があった。
「待ち伏せ、というか敵はいるわね」
「見つかってます‥‥よねぇ‥‥」
ロッテと小鳥。
得物を構える。唾を嚥下する音が妙に大きい。前衛が壁に張り付く。翠が扉に手をかけた。見回し、首肯。そして。
一気に開け放つ!
雪崩れ込む前衛。部屋入口で4人が構える。
「‥‥」
右の壁一面がモニタになっていた。奥の方に制御盤らしき物が見える。
「?」
後衛4人も部屋へ入った。直後。無数の影が、殺到した‥‥。
●罠、それは
誰もが道中に注意を払い、部屋への突入を詰めていなかった。だからこそ。
「チィ!」
我斬が両腕を広げて進み出る。多くの影が絡みついた。暴れる我斬。影が入り乱れた。脚に、腹に、顔に刺激が走る。咆哮を上げ我斬が部屋中央へ駆けた。
それを追う敵群。残りが7人を襲う。
「随分隠れるのが得意みたいね!」
物陰や天井、床下等から染み出るように現れたのだが、それを視認する暇もない。ロッテと百合歌が鼠と黒いアレを引き裂く。が、その時、上階から地響きが聞こえた。
「入口破られたってか?」カルマが制御室から出て扉を閉める。「ソレぶっ壊すのは任せた。俺ァこっちで遊んでるわ」
扉の前に仁王立ちし、カルマは舌を出して嗤った。
「ハ。イケメン紳士の独壇場じゃねェかよ!」
我斬が暴れる。ロッテが吹っ飛ばす。百合歌が両断すれば、さやか、慈海が超出力を迸らせる。さらに小鳥が最後尾で隠れつつ弾頭矢を番えて制御盤を見た。
「今がチャンス‥‥っ!」
言い差した刹那。どこかに隠れていたか、こちらが狼狽しすぎていたか。
いつの間にか敵群に紛れて接近していた少女が、手にしたツノガエルのパペットでロッテの腹を抉り、その肉を掴んだまま慈海の胸を貫いた。
「っ、みん‥‥逃げ‥‥!」
気力を振り絞って言う慈海。至近からエネガンを撃ちまくる。それをたどたどしい足取りで躱し、少女が2度蛙を振った。紅の花が地下に咲く。倒れ伏した慈海を一瞥して少女はさらに動く。
「‥‥っ、撃てェ!」
「あ‥‥」
さやかの電磁波を防御すべく腕を掲げると、蛙パペットが焼け落ちた。悲しげに懐からぬいぐるみを出すや、少女がさやかにふらっと寄りかかる。
「外に出たいなぁ。どうして早く来てくれなかったの?」
「っ」
痛みで視界が消失する。さやかが少女に抱きつき練成弱体をかけた。ぬいぐるみ――オオサンショウウオの口から飛び出した細剣が幾度もさやかを貫く。さやかの体が床に落ち、同時に百合歌が背後から刀を振り下ろした。
「どうしてもアレを壊したいの、邪魔はさせない」
「百合歌、こっち連れてこい! 邪魔するってんならこっちが貴様らを邪魔してやらぁ!」
百合歌が自身を囮に中央へ少女を誘い込み、我斬と2人で敵群諸共対応する。その間にロッテ、小鳥、翠が制御盤へ走った。
「悪いわね。付き合ってられないわ」
「壊した瞬間爆発っちゅー可能性は考えん方向で!」
翠が剣を大上段から振り下ろす。ロッテが渾身のミドルを放った。小鳥の弾頭矢が突き立つ!
間隙、そして。
弾頭矢の小爆発のみが、起きた。漏電も何もない。つまり。
「ダミー確定、脱出しますぜ!」
間髪入れず切り替える翠。3人が百合歌、我斬に声をかけて戻り、慈海とさやかを担いで扉を開ける!
●脱出、その手順
我斬が爪を振るう。百合歌が斬り上げ。それをわたわたと躱した少女がぬいぐるみの目を百合歌へ向ける。同時に百合歌が懐からS‐01を取り出し発砲した。左肩に受ける少女。下手な舞でも踊るように少女が後退り、ぬいぐるみを2人の間に投げた。少女が扉側に後退した直後、ソレが爆発する。爆煙が充満した。
「クソ、俺らも逃げるぞ!」
「了解」
少し前から握っていた閃光弾を入口側へ投げつける我斬。音と光が部屋を包んだ。敵群が離れる。2人が入口へ突き進む。
まだダミー発覚から10秒強しか経っていない。少女がどう動いたかは爆煙で見えない。一刻も速く脱出せねば。その意識が2人を支配していた。それ故に。
「ッ、て、め‥‥!?」
扉直前。突如眼前に立ちはだかった少女の一撃を躱す事はできなかった。
「血に染まるのは嫌い。空が離れていきそうだもの」
「龍深城さん‥‥!」
よく判らない鳥のようなぬいぐるみから何かが噴射され、我斬の顔面を襲う。灼けそうな刺激に我斬が仰け反った瞬間、少女が覚束ないステップを踏んだ。爪が我斬の胸を抉り、右へ1歩動いてターン。躓いて我斬に寄りかかり、少女は胸の傷口を押し拡げた。不思議そうに首を傾げ肺を掴む。血が噴出した。百合歌が刀を一閃する。少女のワンピ裾が裂け、腿に朱が引かれる。少女が腕を振ったのを百合歌は屈んで避け、我斬を引っ張りながら跳んだ!
「脱出するわ!」
返事はない。ショック状態か。百合歌が肩に我斬を担いで部屋を出る。キメラの屍が通路の至る所にある。カルマの戦果に違いない。
その時思ったより近くに仲間の姿を見つける。最後尾はロッテと小鳥。百合歌が少女を連れるように仲間に追いついてしまった。
「殿軍を決めておけばよかったわね‥‥!」
ロッテが短剣を投擲するも少女は袖で払う。少女がぬいぐるみを掲げるや再度何かを噴射した。百合歌、ロッテが跳ぶも小鳥が受けてしまう。ロッテが手を伸ばす。小鳥が転んだ。その背に凶爪が突き刺さる。黒い血を吐き床に伏す小鳥。ロッテの回し蹴りが少女を吹っ飛ばす!
「小鳥!」
「‥‥って、さん‥‥」
敵を追撃するか否か。ロッテが逡巡した時、起き上がった少女は嘆息して天井を見上げた。
「帰りたいなぁ」
「何?」
言うや、少女は彼女らを追い越してどこかへ去っていった。
「‥‥何故」
「ともかく全員で1Fへ行きましょ」
ロッテと百合歌は先を走る翠、カルマの許へ急いだ。
1F。
少数のキメラが入り込んでいたが、無事な4人は重体者を背負って器用に戦う。
「応答願います。こちら‥‥」
『――う解。これよ――急――』
『待――を離れ――!』
『――俺らを頼――!』
百合歌が無線報告を辛うじて成功させる。ついでに救援要請をしてみると何やら向こうで口論が巻き起こったらしい。が、その5分後、ビル内部で粘っていた一行の目に、1機のシラヌイが急降下してくるのが見えた。その機がビル周辺にロケランをばら撒き、翻って機銃掃射してくれる。
その隙に外へ飛び出す一行。直後そのKVが黒煙を噴き上げた。高度を下げ、視界から消える。
「無事だといいスけど」
「彼に報いる為にも僕らは脱出せにゃならんですな」
任務は辛うじて成功とはいえ被害甚大。
翠は瀕死のさやかを背負ったまま、灰色の空を見上げた‥‥。
<了>