タイトル:【RAL】デザート・ボムマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/04 00:58

●オープニング本文


 アフリカ北岸。
 サルデーニャ島からほぼ南に地中海を渡った先のとある都市を巡る戦闘が終結したのは、つい先日の事だった。
 アルジェリアはアンバーナ。
 多くの傭兵達と軍とが共闘し、彼らは見事この都市を解放した。
 チュニジア領内から西にたかだか100km。しかし、暗黒大陸を再進攻していく上で重要な、最初の1歩。その1歩が無事踏み出せた事で、次の作戦を開始する事ができるのである。
 そして。
 そんな動きを前にして、じっとしていられる彼女では、なかった。

 ◆◆◆◆◆

「あっち、行ってみるから」
 リィカ・トローレ(gz0201)――ヒメが唐突にそう告げた。老執事は先日傭兵を雇って荒稼ぎした純利益を数え、再び部屋に置いた金庫に入れながら嘆息する。
「お嬢様、お金をお稼ぎになられるのでは?」
「近い将来を見据えるのも確かに重要よ。けれどその為に今現在から目を背けるような人間に、その『近い将来』で何かができるとは思えない」
「二兎を追う者は‥‥」
「私の性格、知っているでしょう?」
 席を立ち、部屋着を脱ぐヒメ。老執事は諦めたように車のキーを手に取り、改めてため息をつく。
「その御心は大変宜しいとは思いますが、お嬢様。渦中に加わる事なく静観する事もまた必要かと」
 その老執事の言葉をヒメは無視し、普段着を手に取った。

 装甲兵員輸送車数輌が土煙を上げてひた走る。本来は舗装されていたと思われる道。途切れがちなその道を、荒涼とした大地を左右に見ながら輸送車は進む。砂漠というわけではなく、かといって草原と言うには程遠い。そんな、細々と生きながらえている大地といった様子の風景は、果てしなく変化がなかった。
 ‥‥その、瞬間までは。
『――■■!!』
 衝撃が輸送車を襲う。運転手が辛うじてハンドルを切って立て直すや、速度を上げて離脱にかかった。それを追って爆発が迫る。轟音、轟音、轟音。何だ、光線も何もない。にも拘らず突然地面で何かが爆発するのだ。爆弾でも投げているのか、と運転手が思考する。
 その間に爆発物(?)を投擲したと思われる敵が左手の木陰から姿を現した。ゴーレム1体だ。
「それなら逃げ切れる‥‥いや、後ろの奴ら下ろせば倒す事だって‥‥!?」
 運転手が僅かに逡巡する。そして後者――敵の打倒を考え、急停車せんとした、その時。
『――■■!!』
 どこかから獣の咆哮のような音がした。同時に浮遊感。下から何かが突き上げる衝撃が先頭車を襲い、先頭は僅か数秒にして兵員ごと塵と化した。
 沈黙。直後、他数輌が急発進して散開する。朦々と立ち込める土煙。せめて1輌でも、1人でも脱出せねば。でなければここに敵が待ち構えていると、後続に報せる事すらできない。ハンドルを切る。爆発が連続する。ブレーキとアクセルで巧みに躱した。しかし。
『――■■!!』
 切実な思いも虚しく、土中の敵は全てを呑み込んだ。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

「暇、じゃなあ。里見さんや、しりとりでもしましょか」
 唐突に言い出したのはディアブロ――GJr3を駆る翠の肥満(ga2348)である。バディの里見・さやか(ga0153)が機内で苦笑する。
「競合地域ですから、警戒しませんか?」
「か、か、仮面ラ」「‥‥言わない方が身の為かと‥‥」
 淡々と奏歌 アルブレヒト(gb9003)に遮られた。翠がGJr3ごと地に手をついた。舞 冥華(gb4521)が翠達より前方で自機後方を捉え、翠を見る。
「ん、そこに何かあるー?」
「翠サンは世間の荒波に打ちひしがれてたんスよ」
「? 何もないとこでそんなかっこーでへんたーい?」
「ひぎぃ! 翠サン、俺ァ味方ッス!」
 植松・カルマ(ga8288)機ディアブロ昇天盛りカスタムが項垂れる翠機の肩に手を置いた。
「orz」な翠機とそれを慰める純白の昇天盛り。後者の装甲には「白馬号」とデカデカ書かれており、非常にアレな光景だ。
「何をやっているの。早く行きなさい」
 ヒメが無情なツッコミで空気を戻す。
「事態は動き出しているかもしれない。迅速に行動して」
「事態ッスか」
「アンナーバを解放した。なら余勢を駆ってさらに先へ進攻しておかしくないでしょ」
 カブト虫の中から無線で吼えるヒメ。比企岩十郎(ga4886)は声を殺して笑う。
「変わらんな。今日も元気に無茶をする気のようだ」
「煩い」
「貴女らしいけど‥‥生き急いでるみたいよ‥‥」
 冥華と同じく先行偵察で前にいるロッテ・ヴァステル(ga0066)が、無線越しに呆れる。続く幸臼・小鳥(ga0067)。
「ヒメさん‥‥気が多い人だったん‥‥ですねぇー」
「その言い回しやめて‥‥頭の緩い人間みたいだから」
「スよ! 気が多い? ハ、ヒメさんは偶然が必然を呼んだ運命の出逢いを既に掴んでんスよ! そう、それは俺! さぁ惚れていいのよきゃも〜ん!」
「だから早く到着して軍の動向を見たいの。ヴァステルさん」
「了解。警戒を怠らず、且つ迅速にね‥‥」
 暗黒大陸の砂を含んだ風が機体を揺さぶった。

●奇襲
 大地は続く。広大な、枯れた大地。砂漠1歩手前の風景は漫然と見ていたら逆に100m先との違いも判り辛い光景だった。だから先行偵察が見逃しても仕方なかったかもしれない。
 冥華が地殻変化計測器を設置しては調べ、引き抜き再び前進する。ロッテと小鳥は互いに死角をなくし「襲撃に備える」。
 3機の150m後方を他5機とカブト虫が進む。途切れがちな道を辛うじて辿る一行。初めにそれに気付いたのは、本隊の一員たるさやかだった。
「あれ、何でしょうか?」
 道を外れた荒地。なだらかな凹凸が続くここで、真新しそうな5mにも満たない隆起を発見した。よく見るとその周りに風の影響か何かでできたらしき僅かな窪みもある。1度発見してしまえば不自然の塊。それを見逃したのはやはり残骸という明確な物がなかったからに他ならない。
「‥‥戦闘の跡?」
 さやか機ロジーナ――Rustamがそれに近付いた次の刹那。
『――■■』
 僅かな隆起に埋伏していたゴーレムが、腕を伸ばして何かを投擲する!

 爆発音。
 それを拾った瞬間、ロッテは忸怩たる思いで振り返った。ブーストせんとするロッテ機スカイセイバー――ダム・シュヴァリエ。小鳥機リンクスと冥華機も続き、同時に冥華の計器が異常を示した。
「つちのなか‥‥っ」
 警告しかけた冥華機を真下からの衝撃が襲う。僅かな時間差の間に冥華が操縦桿を左に倒す。直後獰猛な牙が土を食い破った。
「冥華!」「加速砲‥‥いきますぅ!」
 冥華機を掠める土の獣。SWの牙が左腕を砕き、圧倒的な体躯が冥華機を弾き飛ばす。小鳥機から地表スレスレに放たれる粒子の奔流。伸び上がった敵を横から穿つ!
「冥華、起きなさい!」
 震える敵へ肉薄するロッテ機。輝く大剣で払って味方の退避する時を稼ぐ。敵が体躯を捩らせ反撃。その間に一時的な脳震盪から回復した冥華は、早くも損傷甚大なゼカリアを動かし本隊へ向かう。
 が、その前に。
「うー、せんしゃーはちじょーさいきょー」
 身をくねらせ地中に戻る敵へ弾幕を叩き込んだ。

 小規模な爆発が周囲に巻き起こる。何が破裂しているのか、それに気を取られた隙に、爆煙に紛れて影が迫る!
 剣戟。さやか機Rustamが銃把で受け、弾いて後ろへ跳び退る。敵2体が重なるよう微調整、弾幕を張って敵を縫い止める。同時に翠機GJr3がその影を軽く払い、奥の投擲した敵へ肉薄する。
「里見さんナイス! そこへすかさず僕、突撃ィッ!」
「まだ3人が合流できていません。暫くは‥‥」
 さやかが言う間もなく翠機が奥の敵へレッグドリル付の蹴りをぶちかます!
 破片を撒き散らし吹っ飛ぶゴーレム。間髪入れずGJr3が狙撃銃を構えると、感覚で斜めの敵へ引鉄を引いた。躱す敵。しかしそれで敵2体がさやかと翠に釘付けとなる。
 Rustamが弾幕を張る。翠機が真後ろからの一閃をまともに喰らうが耐えた。
 ひとまず奇襲は凌げた。そう思った矢先だ。
 90m程南西の起伏から新たなゴーレムが現れたのが、さやかの視界端に映った。声が高くなる。
「護衛班、至急東へ離脱して下さい!」

「植松、車抱えていけ! ブーストはするなよ」
「言われずともこのイケメンに抜かりはねーッス」
 さやかと岩十郎が警告するのに前後してカルマはカブト虫の車体を持ち上げた。機体が軋む。関節の至る所から潤滑油が散り、腰部が異音を立てた。
 積載重量95%越え。過重負担だ。しかしここで機体を優先する訳にいかない。これは『ヤル』時だ。
「掴まってるッスよぉ?」
『だ、大丈夫なの?!』
「ハ、だァら惚れんじゃねーって‥‥!」
 両腕と胴で包んで優しく、それでいて車が荒地を走るより速くカルマ機は進む。
 それを奏歌機Schwalbeが後方から護衛する。岩十郎機が東に200m先行して計測器を設置。異常、おそらく無し。岩十郎が盾をつき立てた。
「ひとまずあれらの敵ならこの辺でよかろう。情報管制に入る。おっさん声だが我慢せい」
「‥‥問題ありません‥‥内容が重要です‥‥」
 奏歌が天然か故意か普通に応答する。岩十郎が微妙に凹むうちカブト虫も辿り着くと、3機は戦闘班の方を振り返る。見れば最後に現れたゴーレムが2機を突破、こちらへ来つつある。
 奏歌と岩十郎2機が銃を構える。カルマ機はヒメの車の前で仁王立ちだ。
「岩龍とてこれぐらい‥‥」
 岩十郎がD‐03で狙いをつけんとした、直後。
 あの計器が、嫌な数値を拾った。
「ッ植松、奏歌! 車抱えて跳‥‥!?」
 自らが回避するより先に警告したが故の反応の遅れ。
 即座に跳躍したカルマと奏歌の眼下で、獰猛な顎が岩龍を半ば以上呑み込んだ‥‥!

●爆弾
「グレートミラクルスーパーハイパーコスモ以下略キィイィィイイック!」
 機内で叫んでゴーレムにラ●ダーキックを放つ翠機GJr3。敵胸部にドリルがめり込み敵を串刺しにする。即座に翠が操縦桿を倒しペダルを踏み、腰の捻りで敵を蹴り飛ばす。
「どう‥‥!?」
「翠さん、新たな1体に完全に抜かれました、あちらをお願いします!」
 さやかの言葉に従おうとする翠。が、護衛班へ向かった1体に向きかけた彼を突如衝撃が襲う。例の爆発物だ。無視して翠が銃口を護衛班側へ定めた時、
『あっちは‥‥任せて下さぃー』
 護衛班と逆側。戻ってきた3機のうち獣人の如き小鳥機が腰を落して銃を構える。予測解析。一気に引鉄を引き絞る!
 銃声銃声銃声。翠とさやかの間を抜ける弾雨。それが過たず背を向けた敵機へ叩き込まれた。後を追ってロッテ機と冥華機が駆け抜ける。
 翠が口笛を吹き投擲した敵へ向き直る。同時に敵から再び放たれる『何か』。敵とソレの両方に意識をやり、翠が操縦桿を倒す。至近で破裂するソレ。爆煙に包まれたその中で、翠はソレを見逃さなかった。
「いやはや。僕もそんな献身的な嫁が欲しいね。自爆されちゃ堪らんけど!」
 爆発物――こちらに近付いた時に自爆する、スライムの姿を。
「でもま、砲がなけりゃ弾も無駄だぜぃ!」
 爆煙を掻い潜って敵機へ迫るGJr3。跳躍する敵。それを追って跳ぶや、漏電激しい敵胸部へ再び速度充分なミドルを叩き込んだ!
 墜落する敵。そして爆発。黒煙溢れる脇へ着地し、翠は独りごちた。
「僕のおりむん愛を邪魔できる奴ぁおらん」

 剣戟が続く。辛うじて受け、時に胴を削られるさやか機Rustam。完全に翠の支援役の予定だった為、本格的な近接装備はない。しかし、翠が優先目標を押しているのだから邪魔させる訳にいかないのだ。
「っ、私、でも、この程度‥‥」
 ガギ、と銃把で真っ向から大剣を受けてしまう。半ばめり込む敵刃。それが逆に功を奏した。振り払って0距離から撃ちまくる!
 破片が舞い潤滑油が散る。敵が後退して左腕を振り上げた。その腕から伸びる煌く何か。さやかが操縦桿を傾けるが銃身にそれが絡まる。咄嗟に銃を放し、90mm火砲を抜くや発砲。着弾と同時に放した銃が電撃に包まれた。
 ――スパークワイヤーのような物! ですが。
「大剣が主な筈の機体が近接戦を手放して勝てる道理はありませんっ」
 距離を保ったままさやかがリボルバーを撃つ撃つ。頭部、胸部と正確に中心線を穿つ銃弾。敵が接近しかけたのを軸を外してさやかが往なす。が、ワイヤーに左腕を取られた。電撃が機内まで届き、苦痛が脳を支配する。それでもさやかは引鉄を引く!
「普段後方支援だからとて逃げる訳にはいかないんです!」
 次第に鈍くなる敵の動きと自身の感覚。我慢勝負の如きその対峙は1発の銃弾が勝負を決めた。偶然を伴った1発が胸部損傷箇所へ飛び込み、直後敵が爆散したのだ。
 爆発の衝撃でRustamが吹っ飛ぶ。横たわった機内でさやかは咳込む。脇に置いていた通信教範が視界に入り、息を吐いた。

●綱渡り
 岩十郎機が粉々に砕かれていく。同時にカルマの迎撃システムが火を噴いた。迸る弾幕が僅かにSWの勢いを止めた。
「‥‥破壊‥‥します‥‥」
「イケメンランパート! 訳してイケメン城壁!」
 カルマ機が関節を十二分に曲げて着地、慎重に車を下ろすとその前に立ち塞がる。奏歌機Schwalbeは両肩の収束砲を交互に放って着地、敵を見据える。
「てか無事スか!?」
「――ぁ、――自身、は何とか――」
 辛うじてといった岩十郎。だが救助する暇はない。敵が獲物を見定めるように2機と車を睥睨する。
 車に付きっ切りで護衛するカルマ機と本来中衛の奏歌機。カルマが打って出られればいいのだが護衛も重要。難しい局面だった。が。
「‥‥再度潜る前に‥‥撃破します‥‥」
 奏歌が操縦桿を倒す。漆黒の毛先が視界で跳ねた。右へ動き1.25inの砲口を敵へ差し向ける。引鉄を引く奏歌。3点バーストの光条が敵を貫く。敵が触手を伸ばしてくる。右肩の砲を絡め取られた。触手を中途から光が灼き切る。10m離れた敵に奏歌が小跳躍、口腔へ撃ちまくる!
『――■■!』
「‥‥このまま‥‥押し切り‥‥」
 言い差した時、遂に敵が地中へ潜る。カルマが左右へ目を走らせた。
 心臓が早鐘を打つ。遅く、あるいは早く時が過ぎる。
 ――そういえば接近してたゴーレムはどうなったんスかね。
 カルマがふとそんな事を思った、次の瞬間。計器が異常を示すや圧倒的な気配が――!?

 ロッテ機ダム・シュヴァリエと冥華機ぜかりあが走る。小鳥の加速砲に縫い止められたゴーレムへ一直線に照準を合せた。
「冥華は掩護を。小鳥も追いついたらお願い」
「ん、冥華のせんしゃーのしんの力みせるー」
 ロッテ機が跳ぶ。冥華機が戦車形態へ移行、420mmの引鉄を引く!
 轟音が戦場を支配する。同時に敵胴体へ着弾する大口径。あまりの質量に敵が転倒した。そのまま接近するロッテ機に銃口を向ける敵。直後、冥華の2射目が偶然その銃ごと左腕を破壊した。スラスター全開、ロッテが突撃する。
「どんな兵装なのか知らないけど‥‥試し斬り、させてもらうわよ!」
 一気に肉薄する蒼。機体各部から蒸気の如きエネルギーが迸る。Gが体を蝕む。表情を変える事なくロッテが操縦桿を傾ける。機体ごと1本の槍となったかの如き力が神槍の先端に集中する!
 激突‥‥!
「これからよ!」
 敵機に突っ込んだロッテ機が敵を突き上げる。刺突、刺突刺突。止めとばかり大剣の柄で殴り、大上段から振り下ろす!
 漏電、そして爆発。敵に何もさせる事なく屠ったロッテが振り返った。そこには近付いてくる小鳥機と冥華機がおり。
 その彼女の眼前で、小鳥機の真下の土が盛り上がった。

「ッ、小鳥!」

 冥華が退避する。小鳥が跳んだ。下から突き出てくる牙。触手が小鳥機を絡め取る。ブースト。噴炎が増大した。抜け出さんとする小鳥機の脚部を噛み砕く敵。体勢を崩した。冥華が至近から徹甲散弾を解き放つ。悲鳴を上げる敵。その隙に小鳥が翠達側へ逃れた。地に胴で着地するや伏臥状態で姿勢固定、弾幕を張る。
「大‥‥丈夫ですぅ‥‥やっちゃって‥‥下さぃー!」
「小鳥をやってくれた罪は重いわよ‥‥!!」
 先程も使った全力攻撃を、ロッテは迷う事なく解放する。
 神速の跳び込みから目にも留まらぬ刺突の3連続。SWが唸りを上げて振動する。触手が四方へ放たれた。受けるに任せ、ロッテが大剣で薙ぐ。体液がそこらに降り注ぐ。冥華が射線をずらして420mmを撃つ!
「ん、やっぱりさいきょー」
 敵体躯が突如弛緩して地に倒れ伏すのを見、冥華が満足げに頷いた。

 その時の位置関係が、偶然にも最良の結果を齎した。
 絶命したSWの左右にロッテと冥華。前に翠達と小鳥で後ろが護衛班。つまり伏臥してSWを撃った小鳥の視界に丁度映ったのだ。
 横たわるSWの向こう。護衛班、カルマ機傍に出現するもう1体のSWの姿が。
「後ろ‥‥ですぅ!」
 間髪入れず小鳥機リンクスの狙撃が火を噴く‥‥!

 異変を感じた瞬間、カルマは機体を倒しながら車を腕で押し出した。急激にバックする車。直後、カルマ機が腹を食い破られる。衝撃が視界を揺らした。しかし衝撃はそこで僅かに停止する。カルマ機が跳び上がった!
「ッヒメさんに何しやがんだよクソ!」
「‥‥この場合‥‥植松自身が心配される立場ですが‥‥」
 奏歌の光線が敵を削る。カルマが棘付鉄球をぶん回した。遠く小鳥の狙撃が敵触手を次々弾く。そして正確に1点を穿ち続けた奏歌の光線が。
「‥‥状況終了‥‥」
 遂に敵胴体を貫いた。

●【RAL】
 アンナーバは雑多な賑わいを見せていた。失った何かを、隠すように。
「これから、どう進むか」
 ヒメが車外に降り、独りごちる。夕焼けが視界を赤く染めた。
「確かに輜重の準備もありますね」
「うむ」
 応急処置を施された岩十郎が車内で緑茶を口に含む。後に引く怪我でないのが幸いだ。
「そのかぶとむし、みんなでかっこよく改造したーい。だめ?」
「前進か死かって話をしているのに何故立ち止まって改造‥‥」
「俺もついてくッスよヒメさん!」
 冥華に呆れかけたヒメを遮り、カルマが笑う。ヒメは彼を睥睨し、嘆息した。
「何言ってるの。当然でしょ」