タイトル:貴族娘の展望マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/05 00:05

●オープニング本文


「お金、稼ご」
 その言葉は、老執事の思考をたっぷり30秒間吹き飛ばした。ごくりと唾を嚥下し、執事が震える声で訊き返す。
「お、お、お嬢様、今なんと‥‥?」
「お金、稼ぐから」
「はぁあっ‥‥あなおいたわしや! やはり砂漠などという過酷な地へお連れするのではなかった! あぁ、亡きご主人様になんとご報告申し上げればよいのか‥‥いや、いやいやいや! まだ望みを捨ててはならぬ! この私めがなんとしても、なんとしてでもお嬢様をお救いせねば!! ささ、お嬢様、軍医の指示を仰」
「台詞長い!」
 一蹴だった。

 暫くして落ち着いた老執事に、ヒメ――リィカ・トローレ(gz0201)は椅子に座ったまま説明する。
 先日、このアフリカ前線基地『ピエトロ・バリウス』に来て早々遭遇した敵にロケランを使いすぎた事。その際、車――カブト虫の修理費も多少かさんだ事。そしてここや南米をはじめ、今、世界中で大きなうねりが見え始めている事。
「ロケランなんて探せば捨て値で型落ちくらい買えるけれど、それでも節約するに越した事はないでしょ」
「しかし何故今そのように焦っておいでで?」
「‥‥これから先、軍人でもない一般人がこの戦争に入り込む余地は多分もっとなくなる。でもお金があれば押し通せる事もきっとある筈。なら、今から少しずつでも溜めておいた方がいいに決まってる」
「成程。いやはやお嬢様の慧眼にはいつもながら感服致しますな」
 そういうの、いらない。と辛辣に言い捨て、ヒメは腕を組んで思案する。控えめにフリルのあしらわれたパフスリーブの部屋着がくしゃっと崩れ、それを見た老執事が僅かに眉を寄せた。
 基地内で宛がわれた小さな部屋にはヒメと老執事のみ。1000時。アナログ時計がカチコチと音を立てる。
「して、どうやって稼ぐおつもりで?」
「それが分かっていたら、今頃部屋になんていると思う?」
「菓子でも売っては? なんといっても我々は『従軍菓子商』ですからな」
「貴方、作れるの?」
「デザートの方は、少々畑違いと言いますか」
 確かにその名目でこの基地にまで渡ってはきた。が、そこまで大量の菓子を持ってきているわけもなく、さらには2人とも菓子を作れない。
 今さらながら無謀な嘘をついたものである。
「こ、こういう時こそお金で解決すればいいのよ!」
「おお! 稼ぐ為の手段をお金で解決するとは斬新なアイディアですな!」
「うるさい。目標は1日1000万C。何をしてでも巻き上げるから!」
 かくして『ピエトロ・バリウス』の軍人を相手に、慰安という名の金儲けが始まったのである‥‥。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
ホキュウ・カーン(gc1547
22歳・♀・DF

●リプレイ本文

「冥華のいうことはまちがいない。冥華、あいどるさんだから」
「そう」
「だから、こしをくりんって。くりんって」
「‥‥そう」
 照りつける太陽。遠く吹き荒れる砂嵐。砂色の景色に彩りを与える水辺。
 そんな炎天下、舞 冥華(gb4521)がヒメに命令した。ヒメは渋々従いクビレを作り、帽子に手をやって営業微笑を浮かべる。
 ぴろーん。撮影機器が音を立てた。
「終り。次は貴女達よ」
「っひょおぉおおおヒメさんマジパネェ俺がエ」
「来るな、と言わなかったかしら?」
「ずぼあッ‥‥サーセン‥‥」
 暴走しかけた植松・カルマ(ga8288)を裏拳で弾き、ロッテ・ヴァステル(ga0066)が服を脱ぐ。すると健康的な競泳水着が露わとなり、そこから突き出た白い肢体が日差し‥‥。
 ん、とりあえず。
 アフリカ真っ盛り!

●何事も準備は大事
「えっと。目指せ1000万、と。お菓子は作れないけど、絵なら私も‥‥」
 クラリア・レスタント(gb4258)は色紙の山を前に両手を握る。訓練場近くの部屋を借りた喫茶店の一角に陣取り、準備は万端だ。部屋の天井や壁に暗めの布を緩く垂らし、多少雰囲気を変えている。落ち着いた空気がクラリアに似合いだった。
「ぁ、あと」
 値段表と見本を並べる。見本は風景やヒメの横顔、水着姿に加え、さり気なく愛しのあの人の全身ラフも置いてみた。偶然持ってたという風でついでの如く並べるのがポイントだ。
「‥‥、‥‥」
 彼女は息を吐くと、我知らず目を細めていた。

『‥‥ルジェ‥‥? うちも‥‥輜‥‥余裕無‥‥』
 ホキュウ・カーン(gc1547)が基地の補給担当を訪ねた時、彼は誰かと話していた。終るのを待ち、カーンが話しかける。
「失礼します。私‥‥」
「ああ、菓子商の。何かするみたいですね」
「ええ、簡単なものです。それでいて士気高揚に役立つ事請け合いですよ! こんな地獄で戦う皆さんを少しでも慰労したいと。ここはかの名将ピエトロ閣下の名を冠するいわば墓碑。仇を討つ為ならば英気を養うべきかと!」
「ある程度なら構いませんよ。話は上に通しておきます」
 場所や会社によっては要望など却下されて当然な所もあるだけに、カーンとしても拍子抜けだ。が、嬉しい誤算ではある。
「久々に、やりますか」
 元経理の血が、ざわめいた。

●ブロマイドの顛末
「他でもないヒメの頼みだからね‥‥一肌脱ぐわよ」
 姐御的な気風の良さでビキニ、バニーさんと衣装を変えていくロッテ。遂には幸臼・小鳥(ga0067)の体操着にまで手を出した。色んな所がぱっつんぱっつんおへそちらりで下は食い込みヤバ気のせいです。
「皆も撮るのよ‥‥?」
 ぴろーん。

 当の小鳥は普段着、すく水、猫耳猫手袋猫ブーツなにゃんこ、ブルマと可愛い系アピールだ。が。
「うー、こういうので‥‥いいですかねぇ‥‥」
 近場の水を汲み、すく水の上から被る。水の滴る小さな体躯は妙に庇護欲と加虐心を煽られ、自信無さげなわりに危険だ。
「小鳥、だいたん」
「ち、ちがい‥‥ますぅ!?」

 そしてIMPとして慣れている冥華はまさにソレっぽく仕上げてくる。シャッターを切る度ポーズを変え、まさにプロだと思わされた。
 のだが。
「おすすめ。これでみんなもふぇいるのーとになれるー」
 お勧めがA‐0アーマーなのが唯一にして最大の弱点である。
「ん。れあーれあー」
 バッテリーを繋げた機器から出力された写真を取り、数枚に手早くサインする。そして最後の1枚を前に唇にリップを塗ると、んちゅ、と軽く口付けた。まるでそこに渡す人がいる様子で営業微笑して直筆。
『だいすきなおにーちゃんへ』
「おーい、m」「まだよ」
 ロッテの裏拳が龍深城・我斬(ga8283)に炸裂した。

 女性陣がハケた後。男3人は寂しく寄り添い写真を撮る。我斬は海賊衣装を勢いよく脱ぎ捨て赤褌一丁の裸体を晒す!
「はっは。お前らもこんくらいやっちまえ!」
「ここはもう少し」
「あ、成程。もうちょっと斜め上から谷間をぎりぎり見えるかどうか‥‥ってこれ女の写真用アドバイスじゃねえか!」
 1人ツッコミな我斬は置いといてウラキ(gb4922)が木陰でシャツやウェイター服でオトナをウリに撮ると、すぐに基地へ。
「喫茶店の準備もある。先に戻るよ」
「ちょま、俺の勇姿は!? ナマで撮影風景見れるッスよ!?」
 カルマの叫びも虚しく、我斬と2人になった。
 ともあれ水着やら銃士やらを着崩し、カルマは腰に手を当て猫背で写真を撮る。
「気をつけな、ココは伊達ワルウェスタンだぜ? と」
 書き殴った文字が非常にメンズ何とかクサイ。
「後は俺の仕事、か」
「頼んだッス。我斬サンマジ男ッス!」
「当然だ」
 顔を突合せた2人が秘かに口角を上げた。

●営業は宣伝と真心
「これをざっくり混ぜる。了解」
「お願い‥‥しますぅ」
 喫茶店奥。コンロ等の野戦装備で簡易厨房を作った小鳥は、クッキーやマドレーヌの下地をヒメにやらせてみた。そして珈琲はウラキに任せ、自らは紅茶とパスタ辺りの準備に入る。
 開店早々といえ珈琲は結構出ているようだ。が。
「けほ」
「お嬢様、ざっくりですぞ。それはばっさりです」
「?」
 老執事の声を聞き、目を向ける。そこには「中身が飛び出んばかりにずばっと切ってみた」的な光景が広がっていた。粉が朦々と上がる。
「ヒメさんは‥‥外回りですぅー」
 猫耳エプロンな小鳥が笑顔で戦力外通告した。

「いらっしゃい。良い香り、だろう? 気が向けば他の物もどうぞ」
 ウラキが簡易カウンターの中から言う。その間にも安価なブレンド珈琲を淹れ、次々カップに注ぐ。それを客が自ら取り、窓際へ向かう。物珍しさもあり客の入りは上々。やはり珈琲の香りは強烈なのだ。
 その時、奥からヒメが戻ってきてそのまま退店した。憮然とした表情でなんとなく解ったが、声をかける間もなく小鳥がクッキーを持ってくる。ウラキは加工出力したばかりのブロマイドと共に、客へ渡す。颯爽と歩くウェイター姿が様になっていた。
「この高いの、キリマンジャロか?」
「そうだね。今は、希少だよ。淹れようか?」
 試すようなウラキの視線を正面から受け、軍人はにやりと笑った。
「俺達がそこまで取り戻してやるよ。その時は100Cで淹れてくれ」
「考えておこう」
 ウラキは微笑を引っ込め、その豆を挽き始めた。

 珈琲香る店内片隅。クラリアは黙々と筆を動かす。折角ならカラーを、という客が相次いでおり、嬉しい悲鳴だ。
「‥‥‥‥♪」
 クラリアがじーと相手を見つめ、色紙に目を落す。見つめられた方は微妙に頬を赤くするが、それにクラリアが気付くより早くカウンターからの視線が客を硬直させた。
「?」
「な、何でもねえ!」
 愛の力凄い。
 そんな客の葛藤はお構いなしにクラリアは鼻歌交じりに描く。客が水彩希望だった為、窓からの光を取り入れ印象派的な塗りでざっくり塗る。
「そこに置いてんのも売ってんのかい?」
 客の要望に、クラリアは静かながら通る声で答えた。
「基本は3000Cですけどウラ‥‥この男性の絵は10万Cです」

「今日限りの喫茶店やってるよー。こんな美女の写真も貰えるかも!?」
 我斬が基地を練り歩きながら、大声で宣伝する。共に歩くロッテは猫スーツ着用で、そのくせ周囲に目を光らせているだけに近寄った方がいいのか近寄らない方がいいのか判らない。
「‥‥やり過ぎかしら、これ」
「や、いんじゃね? なぁ」
「ええ、私に強制しない限り素敵よ」
 厨房を追い出されたヒメが同意する。その時を見計らい、我斬は陰でシャッターを押した。
 ぴr‥‥スピーカー部を指でガード!
 口角を歪めて我斬が笑う。
 ――何かに懸命に打ち込む女子にぐっとくる奴は多い。自然体の為なら俺は悪魔に魂を売り渡す!
 何やら炎を滾らせる我斬を2人の女子は怪訝そうに見た。その姿を撮られているとは知らずに。

●力自慢と歌自慢の狂想曲
『今日ここに! アームレスリングのレジェンドが爆誕するッ! 諸君らはその立会人であり候補者でもあるッ!』
 !?
 中庭で突如始まった突貫工事、垂れ幕とテーブル。何が始まるかと眺めていた人間は多いだけに客は多い。
『我はと思う猛者よ、今こそ集え! OPファイトはこのカード、新任少尉と古参軍曹だぁ!』
 カーン、と鳴った、と思う間もなく軍曹が卓に少尉の甲を叩きつける!
 痛そうな音が響き渡る。僅かな沈黙を狙ってカルマが実況する。
『決ィまったぁあ! 新参は消えろと言わんばかりの迫力! 配当は1.3倍です。え、配当って何? ハハ、お遊びですよ、お小遣い程度ネ』
「どうぞー、胴元総取りは(多分)ないですよー!」
 ノせるカルマ。経理を担当するカーンが次々客の『お遊び』を捌き、宣伝途中に寄った我斬が軽く整列させる。が、皆軍人だけに列に関しては問題無さそうだ。
『さくさく行くッスよー。10連勝したら麗しのブロマイドもつけちゃう!?』
「現役アイドルのサインもあるかも!? それがたったの10人抜きで手に入ります!」
 カルマの仕切りとカーンの合いの手で大会は進む。腕自慢が壇上で誇りを賭け、客は『お小遣い』を賭けて盛り上がる。
 そのうち、高かった空は次第に肌寒い橙へ変化していった。

 1855時。
 喫茶店は地道に売上を伸ばす。腕相撲会場が簡単な照明に照らされた頃、無味乾燥な筈の格納庫では。
「Mayのステージだ、俺らが作った舞台で歌うんだ。てめぇら、解ってんな!」「応!」
「照明!」「当然」
「音響!」「失敗などしない」
「演出!」「了解!」
「キッカケ!」「任せろ」
 気合充分な裏を、冥華は舞台衣装でゆっくり歩く。大階段から登場すべく、裏を上った。
 客のざわめきが冥華の心を落ち着かせる。暗くなった。深呼吸。舞台には既に喫茶店で当選した人が所定位置にいる筈。思い描く。きっと大丈夫。
 イントロが鳴った。飛び出す!

『冥華のうたをきけー!』

 ばーんと照明が舞台を照らす。冥華が大階段を跳ねるように下りるや当選者2人と合流、冥華センターで基本ステップを踏んだ。
『でぃーばで、幸福な日。今日はふたりはいないけど、おにーちゃんが手伝ってくれるって。みんなもたのしんでほしー』
「世界一っかわいいよー!」
『Σ(・ω・ノ)ノ』
「うおおおぉおおおぉぉぉおおおおお」
 謎の掛け合いと共に歌が始まる。

♪おはよーの‥‥

 冥華の幸せは人を幸せにさせる。それは、きっと――。

●とある顛末と2つの香り
 喫茶店。クラリアの筆の音が静かに響き、キリマンジャロの香りが各々の祖国を思い出させる。
 2100時。冥華のライブが終り、カルマの腕相撲大会は最終戦を迎えようとした頃。ロッテとカーンは水筒に淹れた珈琲とクッキーを宅配に出、我斬が雑用から戻ってきていた。
 小鳥が厨房から顔を出し、猫耳エプロンのまま客席に炒飯を運ぶ。瞬間、
「っひぁあっ!?」
「っと」
 驚異的な反射神経で我斬が小鳥の腹に左腕を回して支え、盆を右手で掴んだ。小鳥が礼を言いかけ、顔を真っ赤にして盆を引っ手繰った。「どどどどーぞぉー」と客に届け、急いで厨房に戻る。
「‥‥や、うん。少し傷つく」
「慣れてないんだろう」
 ウラキが苦笑してカップを磨いていると、新たな客が入ってくる。マンデリンを注文され、挽いていた豆に手を伸ばす。
 基地周辺は人類地域といえ、警戒体制は30%〜50%である事も多い。夜だからとて珈琲や軽食の需要がない訳ではないのだ。
「西‥‥作戦‥‥、近々‥‥」
「ん?」
 珈琲片手に我斬が隣の話に意識を向ける。
 この時は誰も知らなかった。これが、今回の我斬にとって最後の安らぎだった事を。

 それは腕相撲会場から始まった。
『さあこれが最終戦! カードはお前らの要望に応えた。中佐殿、そして兵卒代表ジャン! 勝った方に残ったブロマイド全部やる!』
「おおぉおおおおおぉぉお!」
 ちょっとした街頭ビジョン的画面に残った写真が表示される。水着や褌、コスプレ衣装な男女の写真、そして猫スーツなロッテの写真が映った。我斬にとって不運だったのは、宅配帰りのロッテがそれを目撃した事だ。
「!?」
「あんなのまで撮ったんですか? 大胆ですね」
「‥‥撮った、覚えは、ないわ‥‥」
 合流していたカーンに、ロッテが頬をひくつかせて答える。
 あの衣装は宣伝時。そしてあの場には己とヒメ、我斬しかいなかった。犯人は明白である。
『クソ偉そうなエリートなんざ叩き潰せ! ファイ!』
 カルマが煽ると同時に壇上の2人が死力を尽す。暫く均衡していた両者だが、今現在前線で戦う者の粘りか、兵卒の方が遂には中佐を押し込んだ。歓声が上がる。
 普段なら少しは興味を持ちそうなロッテだが、彼女は一顧だにせず喫茶店へ戻る。
「わわ私は何も見なかかか‥‥」
 がくがくとカーンが後を追う。

「ああああ■あぁぁ■■ああぁぁ■■■■――!!」
 数分後、基地のどこかで悲鳴が木霊した。

●彼女の行方
 0500時。
 仮眠を取った『7人』は、再び喫茶店に灯りを点した。入口には首から『私は悪い事をしました』の札を提げ正座した我斬が鎮座しており、
「俺の力は‥‥こんなもんじゃねえ」
 無駄に格好良い。
「我斬サン、俺も画策しようとしたのに黙って‥‥」
「バーロー、同志を売る訳ねえだろ!」
「くぅっ」
 窓から微かに朝日が差し込む。光に照らされ我斬とカルマが抱き合う姿は何故か神々しかった。クラリアがついスケッチを始める。
「これが噂の男性同士の‥‥」
「目が腐るわよ」
 ヒメが過激にツッこんだ。
「ともかく、珈琲でも淹れよう」
 ウラキがカウンター奥へ向かう。芳醇な香りが部屋に広がってくる。『開店中』の札を開け放した扉にかけ、一同は客席に座った。
「Oh HARAKIRI!」
「ちげーよ」
 客の注文をこなし、傭兵達に珈琲を持ってくるウラキ。クラリアが秘かに手伝うところが微笑ましい。ロッテが小鳥に請われ、我斬も卓回りに来る事を許可してやった。
「何だかんだ言って楽しかったッスね。へへ、ガラにもねえかもッスけど」
「確かにね。いつまでここで笑える日が続くか、判らないけど‥‥」
 カルマにロッテが言う。珈琲を受け取り、口に含む。仄かな苦味と酸味が広がった。
「どうぞお嬢様、と‥‥」
 目礼してヒメがウラキからカップを貰う。ブラックのまま一口。ミルクのみ投入し、飲む。そして一言。
「なんか、荒い」
「荒い‥‥!? 挽き方レベルのダメ出し‥‥!?」
 そんなウラキとヒメに、クラリアが横から遠慮がちに何かを差し出した。それはいつ描いたのか、それぞれの今回の姿を描いたラフ。淡い光に満ち満ちていた。
「友達が『人を描くのも面白い』って‥‥だから」
「そういう気持ち、表れてる」
 言葉は必要ないと言うようにヒメが微笑する。
 一息つき、カーンが徐に席を立った。数字だらけの表に目を通し「計算してみましたが」と切り出す。唾を飲む一同を前に、カーンが公開した。

「今回の戦果――361万Cです!」