●リプレイ本文
前方甲板から一条の光が迸る。正面から迫るHWの軌跡を貫いた。止まらぬHW。敵紫色光が艦右舷を掠めて海面を穿つ。海の爆発。降り注ぐ海水の中で艦が蛇行する。
「敵のお出ましか‥‥まぁ、適当にやらせて貰うとするか」
「ここで沈められては困っちゃいますしねっ」
御影・朔夜(
ga0240)機破暁――夜天が前なら夕凪 春花(
ga3152)機ペインブラッドは後方甲板。百鬼夜行と名付けられた機体から対空機関砲がばら撒かれHWを叩く。左右に分かれるHW。その後ろからタロスがプロトン砲を放つ。
『ッ作業班急げ! 我々は‥‥全面的に傭兵の援護に徹する‥‥!』
左舷、喫水線上に小爆発。艦長の苦渋の決断を聞き4機は飛び出した。
着水。飛沫が煌く。水の幕に覆われた4機はしかし2つの結末を見せた。潜行する2機と浮遊する2機。ある種幻想的な光景を龍深城・我斬(
ga8283)が現実へ引き戻す。
「艦長、砲撃はタロスに集中で。その間に俺達で他を片付ける」
『う、む』
「この方面にソナーブイはありますか? あれば嬉しいんですけど」
『‥‥本隊にはあるかもしれんが我々にはない』
佐渡川 歩(
gb4026)に無念を滲ませる艦長。海に沈むビーストソウルの中で我斬は嘆息した。
――代りに俺達を利用してやる位の狡猾さを持てっての。
一変した世界。柔らかな光の届く海中で2機が潜航型へ変形する一方、海面に留まる2機――グリフォンは虎視眈々と機を窺う。
「ソナーはなくとも私達はおりますわ。空に海にと厄介な敵が揃っていますから、協力して速やかに排除しませんとね」
「はい。‥‥負けられませんから」
誰にも。何にも。
クラリッサ・メディスン(
ga0853)機ムルムスと如月・由梨(
ga1805)機。古代から蘇ったかの如き2機が海面を滑る。
紅色光飛来。艦に合せ2人も仰角50度で引鉄を引いてみるが、タロスの挙動に追いつけない。春花が先読みした空間に撃ちまくり、敵がそれに突っ込んだ瞬間、夜天の88mmが敵肩部を貫いた。
「御膳立ては充分だろう。早く上がるといい」
「了解。じゃ、行ってくるぜ」
「新しくなった‥‥シュテルンの力を見せる時‥‥ですぅ!」
バーニアから猛烈な力が解き放たれると、セージ(
ga3997)機BBと幸臼・小鳥(
ga0067)機が垂直に舞い上がり――直後、フェザー砲に包まれた。
「だから敵前発艦ってのァ‥‥!」
光の中で噴かすセージ。光線が細くなるや2機が飛び出した。同時に引鉄を引く!
「HWは私達に‥‥任せて下さいですぅ!」
空に2機と海に2機。艦上には朔夜と春花が鎮座し、海上では魔獣が双眸を輝かせる。
高次元に整えられた複合戦力が、そこにはあった。
●空を仰ぐ
「私を‥‥守って下さいねぇ‥‥っ」
HW2機を視界に捉え、左に機首を向ける小鳥。胸に提げた手作りのお守りに数秒触れ、敵がこちらを標的に定めるのに合せ引鉄を引く。伸びる光線。回避行動に入った敵左翼にぶち当たる。敵から実弾がばら撒かれた。ロールして横滑り、翻ってHWと交錯する。
「私だって‥‥ひとりでできるもん、ですぅ!」
「どうした。この程度着いて来れなきゃ話にならないぜ?」
斬!
小鳥とセージ、2機が各々の相手に翼を煌かせる。
艦右舷へ回り込まんとしたHWと交錯したセージ機BBは群青の軌跡を辿るように上方ターン、逆さで敵の『僅か左に』撃ちまくる。右へ動く敵。刹那、いっそ落胆の表情をセージは浮かべ。
「直接弾当てるだけが攻撃だと思うなよ」
螺旋弾頭を解き放った。垂直上昇するHWの腹に螺旋が直撃する。爆発。合せてBBが弧を描く。が、その時。
左の小鳥と右のセージ。その間を影が抜ける‥‥!
主砲が轟く。機関砲が唸る。それらを上下して影は往なす。そして影――タロスは艦首やや右から艦へ肉薄した。
「空への狙撃――難易度は高いがこなせぬ様ではな‥‥」
「艦長さん、もう少し狙えませんかっ?」
朔夜と春花が微調整して引鉄を引くがなかなか命中しない。敵左腕を砲弾が掠めるも、空中制動、お返しとばかりプロトン砲が前方甲板を貫いた。激しい振動と共に百鬼夜行が跳ぶ。艦橋を守るべく位置取った。夜天の88mmが空を穿つ。
『点で狙うには限界がある。我々が弾幕を張った特定空間に追い込めないか?』
「突然要求されてもな。だが、まぁ」朔夜の瞳が剣呑に輝く。「コード『フラフナグズ』――墜ちろ」
夜天の装甲が生物の如く蠢き、蒸気が自らを覆う。直後、閃光が蒸気を切り裂いた。1、左に躱す敵。2、その左脚を掠め敵を崩す。3射、傾いだ敵胸部を貫く!
だが。それでも尚攻撃態勢に入る敵。砲口に凶悪な光が集まり、それが放たれる――
「させません!」
寸前。内部動力を瞬かせた百鬼夜行が、光波を放射した‥‥!
●海を掴む
光が艦を、空を照らす。その攻防を横目に彼女達はじっと耐える。
「海を滑走するというのも気持ち良いものですね」
独特の浮遊感。胸のロケットを左手で包み、由梨。瞼を閉じ、開けた時には敵の姿を探っていた。
空はHW2機と巴戦。抜けてきたタロスを対空砲で食い止めている。そしてメガロを観測した筈の海は。
『敵捕捉。正確な情報を送ります。10秒後、深度52、方位――』
考えた途端、海中の歩から届けられる情報。由梨が我知らず胸を躍らせたと同時にクラリッサ機ムルムスが滑る。
「戦場を選ばぬこの子の恐ろしさ、存分に刻み込んで差し上げますわ」
コンソールを叩きその鍵を押す。直後。
ずぷ、と。浮力を失ったが如き挙動で前脚、頭、翼と海へ突入した。
「私も早く‥‥」
同じく由梨機が潜る。空の流れ弾が海面を叩いた。その振動を静謐な世界で感じながら、2人は遥か下の標的を見据えた。
「歩、1機ずつ抑えるぞ。抜かせるなよ!」
「はい、も、もう僕を標的にするくらいの勢いで! 怖いですけど。怖いですけど!」
「や、ならすんなよ」
我斬のツッコミはあえなく無視され、歩機から音波が放たれる。
前方、暗い海中。頭上で幾つもの船底が見え隠れするだけの世界。視界に捉え切れない敵圧力を肌で感じつつ、2機は艦の移動に合せ操縦桿を操る。
5秒。10秒。海中特有の閉塞感を機内で覚えた頃、僅かに差し込んだ光を敵体表が反射した。
「いくぞ!」
視認から1秒未満。2人は同時にスイッチを押した。
敵は前後2体。前に水中用弾頭が向かい、後ろをセドナが狙う。敵が上下に散開し2機へ迫る。が、それを阻む魚雷。着弾、爆発。海が揺れ、泡が敵を覆い尽す。盛大な水柱が立ち上り、120m先が白に隠された。
「っし。歩は上、俺は‥‥」
言い差した我斬を遮るように。
泡から飛び出すメガロ。背ビレで水を裂き肉薄する。我斬機獣魂が槍斧を構えた。歩のガウスガンが唸りを上げる。躱す敵。露骨に歩を敵が狙う。我斬が下から突き上げんとした、瞬間。
空の狩人が、傍若無人に割り込んだ。
放たれるエキドナ。水が爆発する合間を縫って由梨機が迫る。気泡の隙間に敵を捕捉、爪を縦に振るう!
「っと‥‥こりゃ実際見ると恐ろしいな。歩、そっち任せた」獣魂が急激に方向転換、潜って抜けんとした敵に突っ込む!「俺はこいつを止める!」
浮上していく2機を背に、獣魂が刺突を繰り出す。
『――■■!』
「何言ってんのか解んねーよ! KV流メガロ一本釣り、とくと味わいやがれ!」
敵の背から腹に深々と刺さる槍斧。身を捩った敵の勢いすら利用しスクリュー制御、下に回り込んで押し上げた。紅の花が水に咲く。
一方で歩は強襲を受けた敵が体勢を立て直すより早く撃ちまくる。躱す敵。反転して歩機を尾ビレで打ちつける。衝撃に姿勢制御できない歩だが、彼にはそれで充分だった。何故なら。
「如月さん、敵の尾を!」
『獣型は慣れませんが。その程度でしたら造作もありません』
再度潜行してきた2機に合図を送るや逆噴射。敵から歩が離れるのと相前後して凶爪が翻る!
両断される尾と体。さらにそれを焼き尽すように、クラリッサの魚雷と歩の銃弾が叩き込まれた。水柱。爆散。
『私達はこれで。‥‥ご武運を』
「あ、そちらも」
これまで実現する事のなかった海中での仲間との邂逅。
浮上する友軍を惜しむ間もなく、なんとなく満たされた心で歩は我斬の方へ機首を向ける‥‥!
●戦場は流転する
ざぁん、と思いきり海上へ首を出した鷲は息つく暇なく変形する。浮遊と加速、下と後ろの2方向へブースターを噴かせ速度を上げる。波間に描かれる軌跡。白波と共に飛び立った2機が目にしたのは
「たかが1機を仕留め切れないとはな‥‥」
「取り舵でっ! 右舷は私がカバーします!」
艦上空から光線を撃ち下ろすタロスと、辛うじて艦への致命的損害を避ける朔夜に春花。そして中型HWを各々圧倒しつつも一気呵成に攻め切れない小鳥機シュテルンとセージ機BBの姿だった。
「私達が場を変えるしかありませんね」
高度を上げながら狙いを定める由梨。心が騒ぐ。ロケットが揺れた。
大丈夫、大丈夫。それを視界に入れ自らに言い聞かせる。直後。
「参ります」
急激な上下動で小鳥機背後に回り込んだ瞬間のHWへ、特攻した。
迸る放電が敵を縛る。由梨に気付く敵。さらに由梨は敵の逡巡を倍化するが如く鼻先を掠めてAAMを放つ。爆発。敵砲口が完全に由梨に向いた。同時に急降下する由梨機。機体上部を紫色光が削る。ロールして右旋回。尾翼に敵実弾。振動が激しい。敵砲口に紅の光が溜まり、それが解き放たれた。何とか堪える。
「やはり慣れない機体は難しいですね。ただ、私ばかりに構っていると‥‥さて」
どうなるでしょうか、と。由梨の含み笑いを掻き消して。
「一気に‥‥いくのですぅー!」
「魚雷に誘導弾に‥‥流石に忙しいですわね」
小鳥とクラリッサが吶喊する!
左右から乱れ飛ぶ銃砲弾。敵横腹にそれら全てが突き刺さった。黒煙を噴く敵の背後から忍び寄ったシュテルンが翼を煌かせる。斬。漏電、爆発。ムルムスが破片の雨を潜った。
3機はそのままセージと相対するHWへ機首を向けると
「FOX2!」
「了解。トドメは残しといてくれよ?」
ほぼ同時にボタンを押した。
一斉に火を噴く銃砲火。それらの中心をAAMが直進し、確実に敵側面へ向かう。一気に操縦桿を押し倒すセージ。圧倒的なGが体を襲う。血が圧迫される。脳が叫ぶ。薄暗くなる視界で海面を捉えるや、操縦桿を引き戻した。
急上昇して見回せば、散開する3機と中央の黒煙。翼端に雲を引く3機の絵を貫くが如く、BBは黒煙へ突っ込む!
斬‥‥!
下から翔け抜けたBBが黒煙を引き裂く。直後、敵爆散。セージは艦上へ目をやり息を吐いた。
「残るは――」
「いい加減‥‥当たりなさいっ!」
春花機百鬼夜行から猛烈な対空弾幕が張られ、敵を追う。前後左右とタロスが舞うも、おかげで腰を据えて艦を攻撃できないらしい。細かく撃ち込んでくる対地ロケランを百鬼夜行は自ら跳んで受ける。
爆煙を吹き飛ばし朔夜機夜天の88mmが迸った。躱す敵。元が高射砲とはいえ改良しすぎた上に1射ずつでは難しいか。
タロスが焦れたように艦の直上へ入り込み、両腕を広げる。そして腕を振り下ろして何かを操るように大気を押し出した瞬間、拡散された光が両腕から撒き散らされた。
艦隊を襲う流星群。黒煙を噴く艦。反応良く春花が身を挺して艦橋を庇った。艦尾小破、艦首両舷中破。ぱぢゅ、と海が灼ける。蒸気が朦々と立ち込めるその中で
「この一撃、耐えられるなら耐えて見せろ」
機を捉えた朔夜がペダルべた踏みブースト全開、一気に空へ跳び上がる!
10m、30m。人型の域を超えた世界が夜天を、朔夜自身を蝕む。35、50。こちらに気付いた敵が砲口を向けた。夜天が雪村をかざす。60。筒から光が溢れた。狭まる視界。肉薄する敵。下段に構え――80m!
轟‥‥!
斬り上げと零距離砲撃。空で交錯する2つの塊が、互いの機体を削り取った。
「御影さん!」
が。
交錯後、辛うじて方向転換し再度刃を振るわんとする夜天と元より浮遊する敵。次に優位に立つのは当然タロス。の筈だった。
「そう、上手く――」
水柱。クラリッサの魚雷による気泡が頭上で幕を作る。振動が我斬を襲うが、それで敵を貫いた槍斧を手放す男では、ない。
「インベイジョン発動、輝けぇ!」
駆動が唸る。無理矢理機体制御。寒い海中で淡く発光した我斬機獣魂が、その光を左腕に集め眼前のメガロへ振り下ろす!
『――■■!』
「歩! 生きてるか!?」
叫ぶ我斬。敵が暴れる。死に物狂いで槍斧から抜け出た敵が一度浮上するや、位置的優位を伴い我斬に突撃をかけた。敵から放たれる魚雷。咄嗟に受ける。至近爆発。脳を揺さぶられた。合せて敵突撃が獣魂を――
「生きてますよ!」
叩き潰さんとした、横腹を。気泡群を抜け出た歩が撃ちまくる。敵軌道がブレた。それを我斬は両腕で受け止めるや
「終りだ!!」
光の爪を突き刺した‥‥!
「そう、上手くいくと思うなよ?」
その言葉が無線に乗った刹那。
群青のシュテルンが敵側面から撃ちまくる!
弾ける弾着。傾ぐ敵。砲口がずれたのを見た朔夜が雪村を振り下ろす。敵は上体を反らし躱すが、直後完全な空白が生まれた。敵へ肉薄したセージは激突寸前に逆噴射、猛烈な下部噴射に移行する。
「何を‥‥まさかぁ‥‥?!」
小鳥機の銃弾が敵を阻害する。夜天が無事着地した。同時にセージがそれを押すと、機体が変形を始めた。
が。
抵抗が激しい。各部が悲鳴を上げる。やはり余程周辺環境を読み幸運に恵まれない限り直接移行は無理があったか。セージが変形を断念し敵とすれ違う。
一方でその隙に立て直した敵は、交差するBB尾翼に光線を放つ。直撃、装甲が弾ける。さらに鼻先を横切った由梨機の直上へ向かうや、真下に砲弾を撃ち込んだ。小爆発。揺れる機内で舞う黒髪。由梨が微笑した。そして。
黒煙を上げる由梨機に代るが如く。
艦上から跳び上がった春花の光翼が敵を襲った。それすらも躱す敵。しかし春花は止まらない。
「ぅ真っ向唐竹割り!」
初撃を躱したが故の間隙だった。宙に停止した敵へ、百鬼夜行が建御雷を振り下ろす!
斬‥‥!
ブースターを噴かせ甲板へ戻る春花。乾いた金属音が着地を伝えた時、空で灼熱の花火が咲いた。
<了>
海から顔を出す2機。空の4機が翼を振って互いの無事を確認し、甲板の2機はコクピットを開放する。
「‥‥まぁ、こんなところか」
唇に挟んだ清涼剤を燻らせ、朔夜はいつもの既視感に眉を歪めた。8人の耳に艦長の声が届く。
『助かった。改めて、礼を言おう』
「気持ち半分ってトコだな。だろ?」
『‥‥』
指摘する我斬の言葉に同意する由梨。我斬が続ける。
「皆していっつも心から協力しようなんて言わないけどさ。俺はもう誰も死なせたくないんだ‥‥あんた達もだよ、軍人さん」
だからせめて、上手く利用し補い合おう、と。
親と子程に年の離れた彼に言われ唸り声を零す艦長。「貴方は私と同じですね」と月の少女は苦笑した。
『うむ?』
「私も、負けず嫌いですから」